キラーおなまう 最終話





 いぬいは、順調に首輪を爆発させていた。自分が殺したjr、RSTのもの、最初に死んだ149cmのもの、おわたが殺したゆとまうのもの。

 Jrはなかなかしたたかな奴であった。最初に死んだ149cmの死体のPDAをこっそり抜き取っていた。なかなか隙を見せなかったが、シュークリームを差し出すとホイホイついてきた。

「よかったのか、ホイホイついてきて。俺はノンケだって構わないで食っちまう人間なんだぜ?」

「いいんです、俺、いぬいさんみたいな人好きですから」

 ヤっている間中、小さく、トミー、トミーと叫んでいたのが気に食わなかったので、イかせた後にさっさとPDAを首輪に無理矢理差し込んで、殺した。

 いぬいが爆発させた首輪はこれで4つ。首輪の解除まであと1つである。そんな折に、彼は一人途方にくれている幼女の姿を見つけた。おじさんと名乗った幼女は、こちらが少し優しくしてやると、すぐに心を開いた。

 なかなか上玉じゃないか、この譲ちゃん、といぬいは思った。ヤってから殺しても別に構わないだろうと、彼は無理矢理おじさんの服を剥ぎ取り、自らも全裸となり、彼女の上に覆い被さる。

「……なっ?」

 チクリと、首に何かが刺さった。その直後、体の全ての力が抜けて、彼はころんと床に転がった。何とか瞳だけを動かすと、おじさんが手に注射器を握っているのが見えた。毒は身体中をめぐり、ついには呼吸筋の活動すら奪っていく。

 おじさんが笑顔を見せる。純真無垢な笑みであった。いぬいは、このゲームが始まってから初めて恐怖を感じた。

「いい手でしょ。のまねっていう人も、こうやって誘惑して殺したんだ。あの人の場合は勝手に襲ってきて、勝手に首輪が爆発しちゃっただけなんだけどね。特攻癖が酷いね、本当に」

 更に彼女は、聞いて聞いて、と言葉を続ける。

「今回ね、私GMを殺すこともできたんだよ。あの人も弱かったなあ。私が何度もこのゲームに参加しているのを知ってる癖に、その度にコントロールルームに仕掛けをしていたことに気付かないなんて。自己を過剰に評価しすぎだよね、あの人は」

 後半の台詞のほとんどは、もういぬいの耳には届いていなかった。酸素を求めて喘ぐいぬいの口に、何かが突っ込まれる。

「遠隔操作爆弾だよ。もうすぐ二人ここにくるから、しっかり囮になってね。大好きだよ、いぬいお兄ちゃん」

 いぬいの男性器がおじさんに蹴りつけられる。その後、彼女はジャマーソフトを使いPDAの探査を逃れつつ、その場を後にした。

 全裸のいぬいだけが残された。彼はこの後、自分の男性器どころか、自分の中身までゆにゅん達にさらけ出すことになるのである。




 いぬいの体が轟音とともに爆発した。彼の肉片とともに、爆風が、珊瑚を庇ったゆにゅんを襲う。幸いいぬいの身体を通したため威力は半減していたものの、それでもゆにゅんの服は破れ背中は剥き出しになり、両足にも歩けない程の重傷を負った。

「ゆにゅんさん……!?ゆにゅんさん!ゆにゅんさん!」

「……珊瑚さん……怪我は無い……?」

 その代わり、珊瑚にはほとんどと言って良いほど怪我はなかった。彼女はゆにゅんに肩を貸し、なんとかその場から逃げ出そうとする。

 殺し損ねたと気付いた幼女が二人を追いかけてくる。

「珊瑚さん……」

 僕を置いて逃げて、とは言えなかった。二人で生きて帰ろうと誓ったのだ。もちろん、珊瑚の方も、ゆにゅんを置いていくなどという考えは無かった。

「ゆにゅんさん!もう少しで戦闘禁止エリアがあります!頑張って下さい!」

 幼女が反撃を恐れてさほど距離を詰めてこなかった所為か、何とか二人は戦闘禁止エリアの部屋まで到達する。珊瑚は急いでドアを開く。その折である。

 強く張られた弦が解放される音が全部で3つ。実に単純な罠だった。

「珊瑚さん!?」

 放たれた弓が、珊瑚の右胸部、腹部、腰部に突き刺さる。彼女はごとんと倒れた。

「……ゆ、ゆにゅんさん……」

「珊瑚さん!珊瑚さん!くそっ!くそっ!」

 今度はゆにゅんが珊瑚を引っ張っていく番であった。激痛に耐えながら、珊瑚の身体抱いて戦闘禁止エリアの中を這っていくゆにゅん。何とか、エリアの奥の通路にまで身を隠すことができた。ここなら外から銃撃される心配もなかった。

「珊瑚さん……僕が絶対に守るから……だから頑張って……」

 ぺたぺたと足音がする。徐々にこちらに近づいてきている。大丈夫、ここは戦闘禁止エリア、追い詰められても問題はないはずだ。それがわかっていても、ゆにゅんは息を呑まざるを得なかった。

 幼女の姿が現れた。

「き、君が……」

「こんにちは、お兄ちゃん」

 均整の取れた肢体を持つ、可愛らしい子だった。その子が、全裸で、黒光りする首輪だけをつけて、拳銃をこちらに向けて、そして笑っていた。

 ゆにゅんはこの世のものとは思えないその光景に、心の底から恐怖した。

「こ、ここでそれを撃ったら……君だって死ぬんだぞ……」

 最悪、ゆにゅんは珊瑚を守るため、それをするつもりだった。しかし幼女はそれすらも予期しているのか、拳銃を取り出されてもすぐに壁の向こうに隠れられるような位置にその身を置いていた。

「そんなことわかってるよ、お兄ちゃん。でも、例えばここに爆弾を仕掛けてて、このスイッチ一つで、この部屋ごと爆破できるとしたら、どうかな」

 そう言って、彼女はスイッチをちらつかせた。ゆにゅんの顔が絶望に歪んだ。

「助けが来るなんて思っても無駄だよ。もう一人は進入禁止エリアの向こう側、仮にそこを通ってこれたとしても、ここは戦闘禁止エリア。私を倒す術なんてないよ。

 じゃあね、お兄ちゃん、お姉ちゃん。仲良く死んでね」

 幼女が二人に背を向け、出て行こうとする。その折だった。

「それはどうかな」

 ニ発の銃声。一発目は幼女の手に命中し、爆弾のスイッチを取り落とさせる。そしてニ発目は、幼女の左胸部を貫いていた。

 幼女は血を吐いて倒れた。

「嘘……うへーお兄ちゃん……?……なんで……?」

 戦闘禁止エリアの奥から出てきたのは、うへーであった。その手には未だ煙を立ち上らせている拳銃、そしてその首には、首輪がついていなかった。

 うへーは懐から壊れたPDAを取り出した。ゆにゅんはそれに見覚えがあった。間違いなく、珊瑚が自ら壊したPDAであった。

「その二人をつけていて見つけた。俺の首輪の解除に必要な、JOKER PDAだ。

 おじさん、お前のマークが『9』、皆殺しが条件であることは後から得られた情報から推理できた。お前なら、例え首輪が外れた相手だろうと殺しにくる。だから俺はお前を殺すことにした。

 お前を殺すには正攻法では無理だ。だから俺はその機会が来るまで、首輪を解除せずにいた。お前がその二人と戦闘を開始した瞬間、俺は首輪を解除し、進入禁止エリアを通り、ここに来たという訳だ」

 幼女はそれを聞くと、納得したように頷いて、ゆっくりと目を閉じた。

「すごいね……うへーお兄ちゃん……私に勝つなんて……」

 幼女は最後にそう言い残し、絶命した。うへーがふんと鼻を鳴らした。

「少し喋りすぎたか。おじさん、お前とは別の会い方をしたかった。お前がもう少し大きくなれば、良いパートナーになれたかも知れなかったのにな」

 そう言うと、彼は自らの上着を脱ぎ、全裸の幼女の死体にかけてやった。



 全てが終わった戦闘禁止エリアの中で、ゆにゅんの嗚咽を伴う声が響いていた。

「珊瑚さん……僕達助かったよ。生きているよ。だから頑張ろう、珊瑚さん……」

「ゆにゅんさん……私はもうダメです……」

 彼女の言う通りだった。彼女の身体に刺さった矢はどれも致命傷だった。呼吸が徐々に弱まり、体温が冷たくなっていくのがゆにゅんにもわかった。

「ダメだよ……珊瑚さん……二人で生きて帰ろうって誓ったじゃないか……」

「ごめんなさい……それは……無理みたいです……

 でも……ゆにゅんさん、あなただけは生きて帰れます」

 そう言うと彼女は震える手で、PDAを取り出した。「Q」のPDAだった。

「ごめんなさい……私ずっとみんなを騙してたんです……。みんなが私を信用してくれているのに、私はみんなを信用していなかった……

 あなたに最初に『Q』のマークを見られた時、本当に怖かった。こうやって仲良くしているのは演技で、いつか殺されるんじゃないかって……

 あなたが私を殺す気がないってわかっても、私はJOKERを持っていることを打ち明けることができなかった……。嘘をついていたのがバレて、あなたに嫌われるのが怖かった……

 PDAを壊した時だって、本当は、もし首輪を外すことができなくても、私だけは助かろうと思ってJOKERを壊したんです……」

 ゆにゅんは、そんなことない、そんなことないと呟く。珊瑚は小さく首を振った。

「私は……本当に最低の人間なんです……

 ……でも、最後に、私はあなたのために死ぬことができる……。愛するあなたのために死ぬことができる……。お願い……ゆにゅんさん……私を撃って下さい……」

 撃ってやれ、それが彼女のためだ、とうへーも言う。それでもゆにゅんは、できない、できないと泣くだけだった。

 そんなゆにゅんの手を、珊瑚は優しく握った。

「ゆにゅんさん……あなたは、私を愛してくれていますか?」

「・……もちろんだよ……」

「私を認めてくれていますか……?」

 ゆにゅんは頷く。

「ならお願いです……私を撃って下さい……私の存在を、あなたの中に残して下さい……私の生きた価値を……あなたの中に残し続けるために……生きて下さい……」

「珊瑚さん……珊瑚さん……」

 ゆにゅんは意を決した。泣く泣く拳銃を手に取ると、彼女の心臓に狙いをつける。

「ゆにゅんさん……愛してます……」

「珊瑚さん……僕も愛してる……

 さようなら……」

 彼女は、いいえ、と首を振った。

「ずっと一緒です……」

 銃声が響いた。




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最終更新:2008年09月13日 20:39