撃っていいのはなんとかかんとか
ニホンザルは群れを形成する種族であり、群れには序列が存在する。
そのなかのトップがボスザルと呼ばれ、奥竹山のボスこそが他ならぬベンだ。
自分よりも強いものに従うのが、ニホンザル社会の掟である。
体長二メートルをゆうに超える体躯に、人間に匹敵する頭脳、その両方を有する彼が群れのトップに立つのは必然と言えた。
対して、ヒグマは群れを形成しない。
生まれたばかりの子どもは母親と行動をともにするが、たかだか数年で親離れを始めてしまう。
ほとんどのヒグマは単独で生活している上に、そのテリトリーは山一つ分ほどもある。
そんな異なる種族である彼らが、殺し合いの場において早々に出会ったのは決してたまたまではない。
お互いに、異臭を放っているのだ。
山には存在しない――人間のにおいを。
ベンが遭遇した相手を見上げた。
そう、数年ぶりに相手を“見上げた”。
彼はヒグマという種を知らなかったが、それが“熊よりも大きい”と称される自分よりもさらに大きいことには気づく。
すでに傷は塞がっているようだが、その本来左目があると思しき箇所は抉られていた。
そして、“におい”はそこから放たれている。
右手の猟銃を向けると、相手はそちらを残った右目で追ってくる。
その視線はやけに暗く、重たく、冷たい。
「……ぎぎぃ」
違和感があった。
人間のにおいや金属に警戒するのは分かるが、ベン自身に見向きもしないというのはおかしい。
警戒するのであれば、両方に気を配るべきである。
そう思いながらも、ひとまずベンは人差し指に軽く力を籠める。
銃声とともに火花が散り、銃口から弾丸が放たれる――その一瞬あとであった。
ヒグマは凄まじい速度で横に跳び、散弾を回避したのである。
そう! ヒグマはただ散漫に銃を見ていたのではない!
注意していたのは二つ! まず銃口の向き! そして人差し指の動き!
その両方を注視していたのである!
「ぎゃぎゃぎゃ……っ?」
ベンが呆気に取られながらも新たな銃弾を装填しようとするが、あまりにも遅い。
銃弾を避けたヒグマはベンの下へと駆け出しており、すでにトップスピードに乗っている。
ヒグマの最高速度は時速50キロ!
人間よりずっと速い!
自転車にだって余裕で勝てる!
旧サイクロン号と比べたら、さすがに八分の一くらい!
ライドロンなんかと比べたら、十五分の一!
ライドロン、すごいよね。
序盤、中盤、終盤、ライダーロワ、隙がないと思うよ。
でもヒグマだって負けないよ。
ライドロンは走ってニホンザル轢き殺したことないけど、ヒグマはいま見事にやってのけたもんね。
ちなみにこのヒグマ、彼が住む山のふもとでは人々に“隻眼”と呼ばれて恐れられている。
その名の由来は、左目の弾痕である。
彼は右目に猟銃を受けても倒れず、山奥へといったん逃げ帰った強者なのだ。
以降、人間のにおいや金属音には熊一番敏感になったのだ!
だからこいつの前で猟銃なんか持ってちゃダメなんだってば、もー。
人間並みの知能があっても、村人の忠告とか聞かなきゃダメだよ、んもー。
んもー。
【ベン@D-LIVE!! 死亡】
【H2森/深夜】
【隻眼1】
状態:久々に猟銃見てイラッときてる
装備:なし
道具:なし
[備考]
隻眼の前で完全武装している! 死人になるぞぉ!!(山のふもとに住む人々より)
最終更新:2014年09月18日 14:10