そして彼らは、飛んで“羆(ヒ)”の中――。
◆1
「なんだこりゃ……ヒグマだらけじゃねぇか!」
「どころか、家まで建ってますよ!?」
「培養設備が暴走――いや、そんなレベルではないな……これは一体……」
「戻りましょう。球磨、電探を」
「……了解クマ……!」
キュアハートとの怒涛の戦いを土地崩しの奇策で絶断してから約30分。
土壁の通路を歩き、ほむらたち9名が辿り着いたのは帝国だった。
向こう側の壁が見えないほどに開けた空間。
立ち並ぶ石作りの建物。そしてヒグマ、ヒグマ、ヒグマの姿。
幸いにも高低差のある畑のような場所の近くに出たため即座に発見されることは無かったが、
一瞬の判断でほむら達は道を引き返し、球磨に電探を使用するように求めた。
結果は反応だらけだった。
開けた空間の方に少なくとも数十。引き返してきた方角にもぱらぱらと。
それまで、落ちてきたこの通路が一体何なのかさえ把握していなかったほむら達は、
ここがヒグマの巣……ヒグマ帝国の中だということにようやく気付いたのだった。
「
球磨川禊。貴方は知っていたの?」
『……いや、ぜんぜん。下水管が研究所に繋がってるって話は聞いてたから、
一応下水管がありそうな場所にあの女の子の攻撃を誘導したつもりだったけど――』
まさか地下にヒグマの王国があるだなんて、想像できるわけないじゃないか。
球磨川禊はそう言って呆れ笑いした。その笑みはどこか引きつっているようにも見えた。
実際、9名の軍団はかなりの大所帯。
キュアハートから逃げることが目的の一、ほむらとマミを主催の手から隠すことが目的の二ではあるものの、
本来ならば主催の本拠地に進撃してもいいくらいの人数と戦力がここには揃っている。
――本来ならば。まさか数十、ともすれば数百のヒグマに挑むとなれば、それはあまりにも無謀だ。
「敵戦力の規模を間違えていた、としか言いようがないクマ……ほむら。球磨は撤退を進言するクマ」
「俺もだ。ヒグマは人を匂いで追ってくる。長居するだけ損だぜ、こんなとこ」
「り、凛も同じ考えにゃ。あの女の子は撒けたみたいだし、戻れるなら戻ったほうがいいと・……思う」
「私もそのつもりよ。……とはいえ、急造のチーム、私の独断で決めるわけにはいかないわ」
ほむらは撤退を選択した。
そして、デビルヒグマや球磨川禊たち出会ったばかりのグループ、
および
纏流子のほうを見て、確認を取る。
「どうかしら。貴方たちのほうで、何か異論は――特に、そこのヒグマさんは」
デビルヒグマは、もともと地下に一旦帰るつもりだったという。ここで離脱してもおかしくはない。
だが、ヒグマは少し考え込んだ後、ほむらの提案に頷いた。
「いや……賛成だ。まずはお前たちを上に送り届ける。
このふざけた状況については、その後、俺個人で確認を取ろう」
言いながら、ヒグマがちらりと横目で
巴マミのほうを見たのをほむらは見逃さなかった。
そして、球磨川がそんなデビルヒグマの様子をホッとした顔で見ていたのも。
――どうやら球磨川が地下への道を選択したのには、
こちらの安全確保までデビルヒグマを離脱させない狙いもあったらしい。
飄々とした態度の裏で、嫌な方向にしたたかな男だ。弱みを握るのが上手いというか。
敵に回したくない。が、味方なら心強い。
次いでその球磨川とシンジ、そして流子が続いて賛同した。
球磨川とシンジはほむら達と同じ考え。
流子は、最初に出会った
黒木智子という参加者を探しているらしく、上に戻ることを強く望んでいた。
「巴さん……あなたは?」
「……そう、ね。私も賛成よ、暁美さん」
最後に頷いたのは巴マミだった。少し元気がない。
本人もある程度覚悟はしていたようだが、
やはりほむらの話したことに、彼女は大きくダメージを受けたようだった。
心配だが……ともかく、これで意見の一致は得た。
「じゃあ、決まりね。まずはなるべく見つからないよう、上に戻れる通路を探しましょう」
不安は残るものの、9名の艦隊はこうして、撤退の選択肢のボタンを押した。
――しかし、今思えばこの選択肢は失敗だった。
ヒグマ帝国の恐ろしさがその“数”だけではないことを、彼らはまだ、正しく認識できていなかった。
◆
数分後。彼らは上への通路を発見することに成功していた。
地下水か、下水道水か、天井から水がぽたぽたと滴り、水たまりを作る通路の奥。
十数メートル先に「立入禁止」の看板があり、その先に上への階段があったのだ。
ただし球磨の電探およびマンハッタン・トランスファーは、階段の上に2匹、ヒグマの影を探知している。
「敵影は停止中……何をしてるクマ?」
「なあ。2匹で間違いないんだよな。それくらいなら、突破していけるんじゃねえか?」
「いや……待てクマ。今、動いた。降りてくるみたいだクマ」
逸る流子を球磨が止めた。慌てて全員、奥に隠れる。
ほむらは1秒だけ時を止め、通路から顔を出してヒグマの姿を目に焼き付ける。
階段の奥から、ヘルメットを頭の上に乗せたヒグマが2匹、仲良く並んで降りてきていた。
ヒグマの巨体に人間用のヘルメットは意味を成しておらず、アイコンとしての機能しかなさそうだ。
その他、ヒグマたちは工具入れのようなものを手に持ち、背中にバッグを提げている。
魔法によって常人より良くなっているほむらの目は、ヘルメットに刻まれた「89」と「99」の数字を見つけていた。
「ここも処置終了だね、泊(パク)くん」
「うん、君とだと作業が早く進む気がするよ、白(ハク)ちゃん」
「嬉しい。仕事が終わったらご飯でも食べにいこう?」
「うん、いいぜ。楽しみだ。灰熊飯店の料理、おいしいもんな」
仲良さげな雌雄のヒグマは、楽しそうに雑談しながら、ほむら達のいる方と逆の道へと進んでいった。
見えなくなったところで、流子が飛び出る。デビルヒグマ、ジャンが続く。
ほむら、凛、マミ。次いで球磨川。シンジと球磨をしんがりに、9名は階段へ入り、踊り場をターンした。
「よっし、これで……壁?」
真っ先に流子が見上げたその先には、苔むした白い壁があった。
「なんだよ……行き止まりか?」
「いや、ありえねぇ。じゃあさっきまであのヒグマたちは何をしてたんだよ」
「……じゃあ、この壁を塗ってた……ってことか? でも、苔がもう生えてるぞ」
「待って。その苔……怪しいわね」
苔を触ろうとした流子とジャンをほむらが制した。
良く見れば、壁に生えている苔は、豆電球程度にだが、淡く光っている。
そしてほむらはその苔の光から、魔力に似た力の波動を感じたのだ。
「……この先は水道管。そうよね、ヒグマさん」
「デビルヒグマだ。そうだな、俺は特別方向感覚が優れているわけではないが、恐らくは」
「つまり。ここにはついさっきまで水道管に繋がる道あるいは扉があった。
そして津波の影響で管が溢れることを懸念して、あのヒグマたちはここを埋めた……」
埋めた。が、急造の防水壁である。
決壊の可能性がわずかでも残ることは、工事者も指示者も分かっているはずだ。
となれば、この不自然な苔が紡ぐ魔術は……。
ほむらは再度、辺りを見渡す。天井。壁。床の隅。
苔が、生えている。余すところなく。
これらの壁だって、近頃掘られたものである可能性が高いのにだ。
まるで苔を生やすことで、所有地であることを示しているかのようだ。
そう。もう少し踏み込んで……苔によって、掌握している・……とすれば?
「成程。苔で作られた回路網、ね」
『なんだって?』
「結界よ。この、通路や壁に生えている苔がすべて、何者かの力の影響を受けている。
この壁に張られている苔も同様。誰かが、苔を使ってマーキングしたとすれば……。
おそらくそれは、“壁が決壊したときにすぐに反応するため”だと考えられるわ」
電子回路の配線が切れれば、その周りに電気が流れなくなるように。
苔の生えた壁を壊すと、配線が切れたという情報が、苔を操っている者の元へ届く。
一見すればそうと分からぬ苔を使うことで、知られずに異常を把握する……
これは広大な地下を掌握者の手中に収めるための、そういう術式なのではないか?
「それだけじゃなく……この網を使って、結界内で情報伝達をしている可能性もある。
方法までは分からないけれど。苔を破壊したら、すぐにヒグマがやってくると思ったほうがよさそうね」
「おいおい。じゃあ、壁をブチぬいたり、天井をブチ抜いたりしたらまずいってことかよ」
「と、というかさっき凛たち、隠れるのに“壁に手を付いた”にゃ……もしかしてもう手遅れなんじゃ」
凛の顔が青ざめたのを皮切りに、集団内に不安の色が一気に広がった。
――だが実際には、この苔についての暁美ほむらの推理は拡大解釈である。
カーペンターズは優秀だ。防水壁を張った時点で防水工事は充分に完了している。
壁に苔が生えてきているのは、単に苔自身が壁に這うように増殖せよとプログラムされているからにすぎない。
苔によってヒグマ帝国の管理をキングヒグマが行っているのは当たりだが、
現状では苔の機能は情報伝達機構と多少の照明のみ。
壁を壊そうが壁に手を付こうが、いまのところキングヒグマにそれを感知する術は無い。
……未知の存在を必ず正しく解読できるとは限らない。
敵の本拠に入り、そこから撤退しているという、用心深くならざるを得ない状態が、
そして魔法少女の魔力感知能力が、ここでは裏目に出てしまった形となる。
「どのみち、今はこの壁の向こうも水で溢れていて通れぬ可能性のほうが大きいが……」
「と、とにかく、急いで他の道を探そうよ」
「そうするしかなさそうだクマ……ほむら、行くクマ」
「そうね……海食洞への道があるのよね? そこから外を通ってメーヴェを使えば――」
『待って、みんな』
しかし、それだけではない。
こうして足踏みをしている間にも、ヒグマは彼らに、近づいていた。
『水たまりが、消えてる』
「え?」
階段から降りたシンジと球磨の後ろから、球磨川が前方を指差した。
その先の地面。先ほどまでは確かに、天井からぽたぽたと落ちる水が水たまりを作っていた。
でも、今それはない。消えている。水たまりが消えている。
いや――それ以前に。
水漏れを防ぎに来た穴持たずカーペンターズが、
天井から落ちる滴と水たまりに気付かなかったということがあるのだろうか?
『まさか――』
「あ……そのまさかデス……ゲスト様方」
るずるずるず。
と不快な声音を立てながら、天井から水が落ちてきた。
流動する液体はスライムのようにびゅくびゅくと動きながら、ヒグマのような形を取った。
その位置取りは、球磨川禊の背後だった。
「……穴持たずNo.202“ビショップヒグマ”です。……チェックメイトをシに来ました」
大きく口を――いや、身体そのものを食虫植物めいてばくりと開けたそのヒグマスライムは、
呆気にとられた球磨川禊の身体を包み込み、体内に閉じ込めてしまった!
「なっ!?」
『もが……!? もぐ……む!?』
ヒグマ型液体の中へと連れ込まれた球磨川禊は、両手から螺子を出現させつつ、
無理にでも『劣化大嘘憑き』によってこのヒグマの存在を『なかったこと』にしようとするが――できない。
「ああ、悪いのでスけれど……私はナカッタコトには出来ませんよ、球磨川氏」
スライムヒグマの身体は水で構成されており、その身体は空気中の水、
あるいは地面を通って地下水にまで接続されている。
その存在の境界はひどく曖昧であり、どこからどこまでをなかったことにすればいいのか判断がつかない。
『……!』
「私を殺すには……この世から水分をナカッタコトにするしかありません、
が……。もしそんなコトをしたら……。……みんな死んでしまいまスね……?」
「球磨川!」
驚きながらも、真っ先に行動を起こしたのはデビルヒグマだった。
身体から刃を生やし、スライムに向かって切りかからんとする。
しかしその瞬間、スライムヒグマは球磨川の身体をデビルの刃の軌道上に設置する。
「……味方の駒が間に挟まっていマスよ?」
「ぐ……!」
実際はデビルと同様、
球磨川も身体を切断されようと生きてさえいれば復活は可能なのだが、
スライムの下劣なる行動は、デビルの刹那の判断を迷わせた。
「デビル! 2匹目が来るクマ!」
その隙に、横合いからデビルに躍りかかるヒグマの姿があった。
球磨がその存在に気付き、遅れて砲撃――しかし、躊躇する。
狭い地下での砲撃は相手も逃げられないが、巻き込みや落盤の危険のほうが大きい。
なにより爆音が大きすぎる。さっきの工事ヒグマたちまで呼び寄せてしまう。
「く……デビル! 右だクマ!!」
「遅いぜぇ、“老害”!! このNo.203“ナイトヒグマ”の“ヒグマサムネ”の錆と成りなァ!!」」
2匹目のヒグマはデビルと同じくらいに大柄だった。
甲冑じみた装飾の鎧を着こみ、銀のロングソードを両手で振るう。
横面を晒したデビルヒグマは対応できない。ロングソードが、こめかみを、斬り裂き、
「――――させっかよ!」
「ああん!? “乱入”かッ!?」
しかし、さらにその横から影が飛び出てナイトヒグマの甲冑にドロップキックを試みた。
鮮血・疾風にチェンジした纏流子だ。
狭い通路では飛行アドバンテージさえ得られないものの、初撃の瞬発力は高い。
ナイトヒグマ避けきれず。
鋼の鎧に靴が突き刺さるグワンという音。ロングソードは軌道をずらしデビルは無傷。
だがナイトヒグマは意に介さない。むしろ、キックした流子のほうが違和感を感じた。
「なんだ……? しびれ……ッ!?」
「痛って―な……けど、お前はもう“詰み”だ」
飛び離れ、地面に付いた瞬間、
ふら、と視界が歪む。コーヒーにミルクを入れてかき混ぜたときのように空間が混ぜ込まれ、
すべてが一色の暗色になって同時に意識から脚と手の存在がシャットダウンした。
崩れ落ちる倒れる、からだの感覚がない。喰われた?
(……流子!? どうした、流子!)
いやからだはある喰われたのは感覚だ けだ
から だ じゅうの 感 覚電 気信 号が、くる わされ て――。
「あー。残念だったね。ナイト君の鎧に纏わせてた『悪性電波』が、君に移ってしまったみたいだ」
「オイオイ、そうなるように“仕込んだ”んだろうがァ、“ルーク”」
纏流子は地面に頬を付けた。
ロングソードを再度構えながらナイトヒグマは軽口を叩いた。
その相手は、直線の通路、
ナイトヒグマが向かってきた方向から悠然とこちらに歩いてくる、3匹目のヒグマだった。
黄砂色の毛を持つそのヒグマは、身体に電気を纏っているのか、毛が逆立っている。
「それはそうだけどね。っあ、自己紹介しようか。
僕は穴持たずNo.201“ルークヒグマ”。
彼らと同様にこのヒグマ帝国の王であるキングヒグマの側近を任されていた者だよ。
見ての通り、電気を使う。ただし専門は『電波』で、攻撃性能はあまりない。
何かにずっと蓄積させておいた『悪性電波』を喰らわせない限りはちょっとピリっとする程度さ。
安心していい。例えば僕に触れない限りは、僕の能力は君たちに対してひどく無害だ」
「……ぺらぺら喋る熊だクマ」
「ついさっきまで診療所で眠っていてね。おしゃべり不足なのさ」
じり、と一歩壁に向かって下がる球磨を、ねっとりとした視線でルークは見つめた。
球磨は生理的嫌悪感を覚えた。電波ヒグマは舌で唇を舐めてからおしゃべりを続けた。
「油断していたよ、まったく。
あんな可憐な研究員さんに、僕らが意識を落とされるなんて。
まあ、起きてからすぐこうしてまた可愛い人間たちに会えたのだから、そこは幸運かな」
「『電波』使い……球磨の電探を、逆探してきたクマね。
そしてお前は『電波』を使って電探から逃れつつ、そこのスライムでこちらを監視した……」
「正解。いやあ、びっくりしたよ? 落盤があったと聞いて手伝いに向かおうとしたら、
まさか美味しそうな電波をキャッチするなんてさ。本当に驚いたよ。
でもね、これは真実を告げるけれど、捕捉したのが僕らでよかったと思うよ、まだ。
もっと上位のヒグマに捕捉されていたら、君たちはこうして喋ることもできなかっただろうし、
汚名返上を焦る僕たち以外に捕捉されていたら、もう上に報告されている。幸運だね」
「やれ! あいつだ!」
強襲から一拍置いて状況を把握した
碇シンジが、エヴァンゲリオンをデイパックから出した。
カテゴリ:機械兵器であるエヴァは電波使いのヒグマに相対してはならないだろう。
判断し、シンジはデビルヒグマと斬り合っているナイトヒグマを狙う。
しかしその隙間に流れ込むように、ビショップ。球磨川を捕らえたスライムヒグマが滑り込む。
「また……! と、止まれ!」
「オォオオン……」
「……良い判断でス……でも、敵前での行動停止ほど、大きな隙も……ありマセん」
「翻ってェ!!!! ”三日月突き”!!」
「む……ちょこまかと!」
スライムの意地汚い戦法に合わせ、ナイトヒグマが動く。
デビルヒグマとの剣合わせ体勢からシームレスにバク宙し、エヴァンゲリオンへ剣を突いた。
4mはありそうな巨体、さらに重そうな鎧まで纏っておきながら、ナイトヒグマの挙動速は異常だった。
指示するワンアクションの差が仇となり、エヴァはその攻撃に対応できない。
常時展開のATフィールドが可視化するが、ダミーシンクロ状態のそれはヒグマのパワーの前にあっけなく破壊される。
さすがに剣の勢いは落ちた。肩が小破。
しかし、狙うならば生身の碇シンジの方ではないのか?
思考するより先に、エヴァは受けたダメージよりも明らかに苦しそうなうめき声をあげ始めた。
「オォ……アァ……」
「!!?? ど、どうしたんだ!!」
「……水は、電波を……通シます故」
見れば、ナイトヒグマの鎧とルークヒグマの毛皮を、スライムから伸びる水の触手が繋いでいた。
鎧は剣と直結している。ルークの攻撃がスライム内部を伝搬したのち、
ナイトヒグマの鎧表面から剣へと伝わり、エヴァンゲリオン内部に侵入したのだ。
「『悪性電波』の異常パルスは信号を狂わせる。人間の信号も、機械の信号も。
操れたら最高なんだけど、生憎そこまでレベルは高くなくてね。今はこれが精いっぱいさ」
エヴァンゲリオンは――強制停止した。
「え、エヴァが……」
「逃げろっ、シンジ!!」
「いえ、ま、まだ! ボクにはカードがある!」
「駄目だ! 待て!」
助けに入ろうとしたデビルヒグマの前にルークヒグマが立ちふさがり、
思わず駆け出した球磨の前にはスライムヒグマが立ちはだかる。
シンジは遊戯のカードを取り出し、デュエルディスクにセットする。エルフの剣士。
だが――カードの実体化は、会場にのみ掛けられた術式によるものだということを彼は忘れていた。
ここは地下だ。
「エルフの……実体化……あ。う、あ……うわぁああああ!!」
「……オイオイ、“びびりすぎ”だっつの。あっけねェ」
ナイトヒグマの剣が、少年の鼻先で止められた。
当たる前にシンジは白目を向いて、天井を仰いでいた。
これで戦闘不能は3名と1機。
いや……。
「……ひっ、……あ……」
「ま、マミさん! しっかり!」
「おや? 少々、人数が足らないね」
ゆったりと歩いて、階段の方をルークヒグマが見た。そこには巴マミと、
星空凛が居た。
巴マミはヒグマに殺されたフラッシュバックが起きているのか、腰を抜かして床に座り込んでしまう。
その後ろでなんとか立ってはいるものの、あくまで一般人の凛もヒグマに対する手立てはない。
だが、その2人だけだった。ルークヒグマは首をかしげるポーズを取った。
ビショップに捕らえさせた球磨川。『悪性電波』を喰らわせた流子、シンジ。
背後、巧みにスライムヒグマの伸ばす触手を躱す球磨。
ナイトヒグマと刃を重ねて戦っているデビルヒグマ。
ここまでが階段から通路に飛び出してきていた
侵入者だ。階段にいる2名と合わせて7名。
足りない。
ジャン・キルシュタインと暁美ほむらが、居ない。
(暁美ほむら。魔法少女。
その能力は盾にて制御される時間停止と時間遡行、盾は四次元にも繋がっている。
ジャン・キルシュタイン、調査兵団に所属する軍人。
正体不明の巨人と立体起動装置を用いて戦っており、それを使用した場合の機動力は高い)
ルークヒグマはかつてキングに見せてもらった参加者簡易データを想起する。
スタディ製ゆえに、容姿と名前、それと簡単な情報しか記されていなかったが、
研究所襲撃の際にそれを見る機会があったルークたちは、
『劣化大嘘憑き』を持つ球磨川を最初にスライムヒグマで無力化する最善手を取ることができた。
そして、想起される暁美ほむらとジャン・キルシュタインのデータから予測される彼らの行動は……。
「気付いたクマ? 嘘付きクマさん」
球磨の勝ち誇ったような声が響く。
――どうやら暁美ほむらは、ルークヒグマの想定通りの動きをしてくれたようだ。
「そっちの伝令兵にはもう、ほむらとジャンが追いついてる頃クマ」
「成程。やはり“ポーン”の存在に気付いたんだ。侵入してくるだけはあるね。
でも『時間停止』があるのに機動力のある駒を伴って追いかけるとは、
よっぽど焦っているのかな?
いや、ここに来るまでにパワーリソースを大きく消費していて、長く止められないのかも?」
「な……」
「おや、顔色が変わったね」
「……ほむらの、能力……何で知ってるクマ?」
「こっちは主催側だよ。参加者の能力を把握していないわけがないだろう」
既知だからこそ、強気に出ているのだ。
「目の前の既知への対策を取らずにのこのこ出てくるほど、僕らは馬鹿な動物じゃない。
さて艦むすのお嬢さん、出し抜いたつもりだったかもしれないけど、こうは考えなかったかな?
たしかに僕らが上に報告する気がまったくないっていうのは真っ赤な嘘だけれど、
伝令役をそうと分かる状態で見せびらかしておいたのは、実はね。暁美ほむらを釣るためだ」
ルークヒグマは右腕に残る電気を集め、
先ほどの能力説明では隠ぺいしていたもう1つの技の準備に取り掛かりながら告げる。
「穴持たずNo.200“ポーンヒグマ”。僕らチェスの駒の名を冠すヒグマの始まりであり、
創造主にキングの生産に踏み切らせたほどの傑作ヒグマ。あいつはきっと。彼女の天敵さ」
◆
ヒグマ帝国の恐ろしさは、その“数”だけではない。
レベル3の電気使いを持つヤイコ。蜜を製造する力を持っていたハニー。
デビル同様に骨格を変化させるヤスミン。工法技を持つカーペンターズ。
粘菌通信を構築したキングヒグマ。悪性電波のルークヒグマ。無限再生スライムヒグマ……。
圧倒的なまでの、“未知”を持つヒグマが、ひしめいているという事実。
その底知れぬ“未知”こそが、帝国に刃向かう上でもっとも警戒しなければならないことである。
しかも参加者であれば、主催側には基本情報を把握され、対策されるのは当然だ。
ゆえに、帝国を斃したいのならば、ただヒグマを殺せるだけでは足りない。
過去からの、“進化(アルター)”を。
自分を越えるほどの、未知をも吹き飛ばすほどの、“進化”をしなければ、いけない。
◆2
暁美ほむらに残された時間は、連続使用にして、残り29秒だった。
残り29秒。
スライムヒグマに球磨川禊が取り込まれるその一瞬、
異変を察知したほむらはノータイムで盾を回し世界の時を止めた。
残り28秒。
階段を飛び降りて見たのは、天井から降りてきた液体が球磨川の肩に手を置いている図だった。
ほむらは自分と自分の肌で触れていたものなら時が止まった空間内でも動かせるから、
球磨川がスライムヒグマにわずかでも触れられる前ならば、その手を取って逃がすことが出来た。
だがもう触れられてしまっている。球磨川禊に触れればそれに触れているスライムの時も動いてしまう。
スライムの能力が不明である以上それは危険すぎる選択だ。
残り27秒。
ほむらは球磨川禊の救出を諦め、辺りを見回した。
長い通路の両サイド、まず片側遠方に2匹のヒグマの姿を認めた。
毛並みを逆立てた底知れぬ笑みのヒグマ、ルークヒグマと、
甲冑を着込んでロングソードを持つ大柄のヒグマ、ナイトヒグマだ。
その位置はすでに球磨の電探の範囲内。しかし地下の淀んだ空気で射程を狭めた
マンハッタン・トランスファーにはまだ捕捉され得ない位置。
残り26秒。
天井に潜んでいたスライムは電探に引っ掛からないとして、
他のヒグマは何らかのジャミング能力を備えている可能性が高い。要警戒。
ほむらは短い思考の中でそこまで考えると反対側を向く。
するとそちらにも1匹ヒグマがいた。
見ただけで何かあると分かるルークとナイトに比べ、
反対側で固まっているこのヒグマは何も身体的特徴のないプレーンなヒグマだった。
残り25秒。
そのヒグマは別の通路のほうへと体を向け、歩き出すところだった。
先ほど見た王国へと向かい、侵入者の存在を報告しようとしていると考えられた。
つまり、ここにいる中では最も戦闘向きではない能力か、無能力のヒグマ――。
ならばまず、このヒグマを殺して連絡路を絶つべきだ。
ほむらは翻り、階段を駆け上ってジャン・キルシュタインの手に触れる。
残り24秒。
「行くわよ」
「な、なんだアケミ!?」
「追っ手が来た」「……分かった」
残り22秒。
会話は2秒かかる。
驚いていたジャンは敵襲を告げると戦士の顔になった。
引きつれ、階段を再度降り、ジャンに指差しで倒すべき敵の位置を知らせると、
即座にジャンはフックロープを射出した。立体機動装置。考えうる中では最も速い選択肢だった。
残り21秒。
時間停止を一瞬解除。球磨に向け、テレパシーで連絡をする。
「伝令を追う、少し耐えて」――フックロープが壁に突き刺さったのを確認し、
再度時間停止。ジャンの背中に飛びつき、フックロープを巻き戻してヒグマへ向かう。
さすがにジャンは上手い。ほむらを背負いながらも姿勢制御にブレがなかった。
薄いカッターにも似た刃を、ヒグマの首後ろに向かって綺麗に振るおうとしていた。これなら。
残り20秒。
うなじを狙った攻撃はジャン・キルシュタインが最も得意とする攻撃らしい。
ヒグマの皮膚を斬り裂けるかどうかは不確定だが、これでダメならもう2秒延長して目を狙うだけだ。
ジャンの刃がヒグマの首に触れる直前、時間停止を解除。
「これ、で」「1匹――!!」
抵抗感。背中にしがみついているだけでも感じた、確かな手ごたえ。
ざく、という感触音のあと、曲がったノコギリが戻る時に似た、剣が振り切られる音がした。
成功だろう。立体機動の軌跡がヒグマを通り過ぎた0.4秒の後、
勢いのままにほむらは首を後ろに向けて戦果を確認した。確かに、ヒグマの首から血が噴き出るのが見えた。
だが、それは残像だった。
「……!!??」
残像、だった。
たった今斬ったはずのヒグマの姿の「存在部」と「非存在部」が細いシマシマ模様になって、
遠くからみればおそらく、薄くなったように見えて。
そしてどんどん実が虚に変わり、最後には消えた。
消えて、曲がり角の数メートル先に、新たにヒグマが現れた。
さっき斬ったはずのヒグマだ。
残り19秒。
ほむらは理解しがたい光景に虚を突かれながらも、盾を回して時を止める。
「おいどうしたアケミ!」
「感触は確かに――でも幻想、だった? 一体……」
「うん――情報の通りだね。お姉ちゃんも、わたしと同じで“四つ目の数を操る”んだ」
「な……」
「……!!」
止めた、はず、なのに。
すべてが止まったはずの世界の中で、そのヒグマは、喋った。
ワイヤーを作動させ、空中で停止した暁美ほむらとジャン・キルシュタインに向かって。
ヒグマに似合わぬソプラノの鳴き声で、うやうやしくお辞儀をしながら、彼女は自己紹介をした。
「こんにちは。わたしは穴持たずNo.200“ポーンヒグマ”だよ。よろしくね、お姉ちゃん」
残り15秒。
はにかむその顔に、ほむらはある種の魔女にも似た、邪悪な無邪気さを感じ取った。
呆然とする二人を後目に、ポーンヒグマは暁美ほむらに向かって、ヒグマの爪を振り上げる。
◆
「ほむらを……釣った……?」
「どうしたんだい? 語尾に余裕が無くなって来てるようだけど」
「う、うるせークマ! 別にキャラ付けでやってるわけじゃねークマ!」
と、ルークヒグマの言葉にそう返した後に球磨は、
安い挑発にも乗ってしまうくらい自分の心が乱れていたことに気が付いた。
奥歯に力を入れ、バックステップをしながら強く眼を閉じ、すぐ開く。
切り替えなければいけない。
実際、先ほどまで球磨がいた空間を、スライムの触手が通っていったところだ。
立ち止まっていたら危ないところだった。
(あのおしゃべりなヒグマは、こっちを話術で動揺させるのが狙いだクマ)
胸に言葉を刻む。惑わされるな。
艦だった時代も艦むすとなってからも、敵と喋る機会などまず無かったが、
一般的に戦場で敵と会話するやつの目的はこちらの精神を揺さぶることだ。
目の前の逆毛はぺらぺらと色んな情報を喋っているように見える。
でもそこに虚実が織り交ぜられていることは間違いない。
確かに――戦闘開始1分を過ぎてもほむらが帰ってきていないのは事実。
ほむらの方で何かがあった可能性は非常に高いが、他がすべて真実とは限らない。
例えば、逆毛の使う『悪性電波』。
実際のところ。逆毛が身体に纏っているそれは電波ではないはずだ。
機械であるエヴァはともかく、人に電波を向けて意識を落とすだなんてふざけた効果である。
(こいつが使ったのは、電波じゃなく、自身に蓄えた大量の――静電気。
冬のドアノブの超強力バージョンを、
鎧や水を経由し、電気ショックとして一定量与えて感電させた。
こう考えるのが一番自然クマ。電波を操作する能力と感電の原因は、別物だクマ)
逆毛……ルークヒグマは自身の専門は電波であると、
ゆえに攻撃性能は低いなどと評していたが、それこそ信じるに値しない情報だ。
『悪性電波』などという名を付けた静電気による電気ショックがアリなら、
いつその手から指向性のある放電攻撃をしてくるか分かったものではない。
ただ。それがあるとしたらたぶん、1回、だろうが。
(きっと使えるエネルギーの絶対量が、こいつは少ない。
だから自身に纏わせて盾にしつつ、効果的に、使えるときに引き出すようにして使っている。
実際、弾薬の消費が上手だクマ。残弾の概念があることを、こちらに悟らせない演技も)
球磨はルークヒグマの弱点を、これまでの観測から導き出していた。
恐ろしく底知れぬ『電波使い』を銘打ち、綺麗に演じているが、
本当は体に纏った静電気がすべて無くなれば、その能力は大きく弱体化するのだろう。
でなければ、デビルヒグマも球磨もとうに電気気絶させられているはずだ。
奇襲として鎧に纏わせておいた1回と、機械であるエヴァへの特効として使った1回の他は、
出し惜しみをするかのようにルークヒグマは『悪性電波』を使っていない。
全員に電波を向ければ、一撃で制圧できるのに。それが残弾有限の何よりの証拠。
(それすらも演技だったら、いよいよタチが悪すぎるクマ)
あくまで推測。過信はしないが、この推理をもとに球磨は行動を起こすことにした。
デイパックから紫のサイリウムを取り出し、折って光らせる。
「おや」
ルークが紫の光に気が付く。
「サイリウム……かい? 戦闘用の道具じゃないね。何に使うのかな」
「甘く見ないほうがいいクマ。この道具は我が艦隊の要クマ。
艦隊のチームワークの証でもあり、信頼の証でもある。大事な大事な――武器だクマ!」
球磨はそれに注意をひきつけておいてから、サイリウムを右斜め前へと投擲する。
ルークヒグマが一瞬、サイリウムにつられて眼球を動かす、
その瞬間を狙ってデイパックから、ほむらのゴルフクラブを取り出し、駆ける!
「クマぁああああッ!!」
両手で握り、上段に構えながら進撃する。掛け声にルークの意識は再びこちらに向く。
が、ルークからすればこれは無策の突撃にしか見えぬはずだ。
ゴルフクラブ程度の打撃はヒグマには通じないし、当たった瞬間自身の盾で球磨も倒されるのだから。
それでもかまわず球磨は振り下ろす。狙いは、ヒグマの右眼球。
「何を……な!?」
そして――意識から外れていたサイリウムが、
ゴルフクラブと眼球のスキマへ、差し込まれるようにして現れる。
――マンハッタン・トランスファー。弾道中継のスタンド。
サイリウム同様に
支給品であり、ルークの持ちうる情報には無い存在。
弾薬と魚雷の使えぬ狭い通路での、球磨の打てる最善手だ。
“打ち方”はほむらが一度見せてくれた。
ゴルフクラブを思い切り振り抜き、
球磨はサイリウムを、ルークヒグマの右目へと思い切りシュートする!
「グ……G、YIAAAAA!!!」
「どうだクマ! 良く分からない化学液体を味わうがいいクマ!」
サイリウムはヒグマの眼に突き刺さ――りまではしないものの、眼球を半陥没させながら、
ヒビ割れてその中に入っている化学液体を眼に注入する。
過酸化水素、副生成物のフェノール、色味付けのための化合物などが混じった液体は、生物に有毒なものだ。
ルークヒグマは左手で右目を抑えながら膝をついた。バチ、バチと皮膚から電気が空中に霧散する。
「な、ぜ? ただのサイリウ、ムが」
「空中で反射する指示光棒を見るのは初めてかクマ? お勉強が足りないクマね」
「……グ……GII……」
「なにやられてんだァ、ルーク! “手伝い”に行ってやろうか……ッとォ!!」
「貴様の相手は私だ!!」
ナイトヒグマは軽口を叩いたが余裕はなかった。
先ほどのアクロバティック・ジャンプが警戒され、デビルは攻撃の手数を増やしていた。
一撃一撃が致命を狙うものではないが、対応に貼りつかざるを得なくなっている。
刃と刃のダンス。休符はない。
互いに、これまでありえなかったほどの汗をかいている。
イラつくナイトヒグマは、デビルヒグマを挑発する。
「っ、しつこいぞォ“老害”があッ……大体なんでヒグマが“人間の味方”してやがんだ!」
「人間の味方などではない! ただ、我が信念に準じているだけだ」
「“信念”だァ!? そいつで“メシ”が喰えんのかよ!」
「信念こそが強さを生む! 雑念だけの剣では、私は殺れんぞ!」
返ってきたのは説教だった。煩いそれを聞き流しながらナイトヒグマは、
デビルの肩口に隙が生じたのを捉えていた。
チャンスだ。
無駄な戯言を並べている内に、
灰色熊に鍛えてもらった自慢の“ヒグマサムネ”で、
若く生まれただけでふんぞり返っている初期ナンバーのヒグマに制裁を下してやる。
キン、キン、キン、三回、
軽めのダミー攻撃を弾かせたあと、
自身がナイトヒグマとして得た『アクロバティック・アーツ』の力をもってして、
筋肉の挙動を無視して肩へとロングソードを振り下ろす。
「登りてェ、なんて思ったこたァ、ねェよ! “地上”で“メシ”が食えりゃ……十分だ!」
振り下ろされたロングソードが左肩を切り裂く。
デビルの身体に沈み込む。これで終わり――待て。
待て。沈み込む?
肌を撫でるように切り裂くつもりだったのに、
デビルはいつのまにか一歩、前へと、足を踏み出していた。
「ばっ」
身体を変形させ、硬質化させる能力を持つデビルヒグマに、その一手は悪手だ。
やるのならば心臓か脳を一突き……それがセオリー、それを狙っていたのに。
手数への対処によるミスの誘発とあからさまな隙の誘導罠。
まんまと引っ掛かった。
デビルは、斬った肉を勢いよく癒着させると共に、
肋骨と鎖骨を変形させてヒグマサムネを絡めとる。ギチギチと摩擦音。
「『肉を斬らせて、骨で獲る』。この剣はもう抜けん」
「お、俺の“ヒグマサムネ”がッ!!」
そしてデビルヒグマは、動揺するナイトヒグマの鎧と身体の間に爪を入れる。
甲冑じみて頭部、胸部、腕など、全身を覆うその鎧の首あたりのスキマ。
相手を停止させることでようやくその場所に突きたてられた爪が、勝敗を決した。
「ヒグマンの奴に剣術でも教わってこい。それとナイトを名乗るなら、騎士道精神も学んでおくんだな」
細く伸びた爪と指骨が首に巻きつき、凶悪な力で絞め落とす。
「が」
「……」
「ざけんな……よ。“メシ”よか大事なもんが……あるわけねぇ」
「……」
「ちく……しょ、う」
ぐるんと白目をむいて、ナイトヒグマの全身から力が抜けた。
2秒残心し、ヒグマサムネを身体から抜く。
血を振り払いデビルヒグマはさらにナイトの復活を警戒。
……どうやらなさそうだ。
やはり、鎧は『アクロバティック・アーツ』の取得と引き換えに落ちていた防御力を補うためのものだったようだ。
細く息を吐いたのち、少々ふらついた。
斬られた身体を癒着させるのには変形能力のリソースである体力を大きく消費する。
この一撃で決まらなければ、危ういところがあった。
さて。向こうはどうなったか――デビルはルークヒグマと球磨のほうを横目で見る。
「……なんだと?」
そして、目を見開いた。
「馬鹿――やめろッ!!!!!」
「ぐ……よくぞ。やってくれたね、お嬢さん……」
「おら、痛がる振りもいいかげんにするクマ。次は左目いくぞクマ」
球磨は脅す口調でサイリウムをもう一本取り出す。色は黒。
実際にやるわけではない。あくまで牽制だ。
ヒグマの体力と防御力を前に、現状の球磨に有効手はもうない。
ジャンとほむらが戻ってくるかデビルがナイトヒグマを仕留めるまで場を繋ぐ。
そのための戦略と演技だ。球磨はひたすらに冷静だった。
たとえばスライムヒグマのほうには常に注意を向けている。
スライムがその内部に取り込めるのは球磨川一人で限界らしく、
以降は触手でちょっかいをかけてきているだけ。しかしそれだけとも思えない。
(少し耐えてと言われたからには、耐えて見せるクマ)
安全な距離をとりつつ、慎重にルークヒグマの次の手を見定める。
弱頭の三下なら右目の怒りに我を忘れ、
残る電力リソースを使ってがむしゃらな攻撃をしてくれるところだろうが……。
「この痛みは必ず返すよ……必ず……必ずね」
「だったら早くやってみたらどうクマ? こっちは準備万端だクマ」
「ハァ……そう焦らないでほしいな。こっちにだって、やることがあるんだよ」
「……なんだクマ?」
少し不可解な返答に球磨の眉が動く。
「いやいや。せっかく時間をもらっているのだから、今のうちに報告を、と思ったのさ」
ルークの返答に――球磨は心臓をびくんと跳ねさせた。
見れば、ルークヒグマはサイリウムで負傷した右目を、左手で押さえている。
右目を左手で。分からなくはないが、とっさに押さえるなら右手のほうが自然だ。
では右手は何をしている?
球磨の視線から隠れるように、背後に回されている。
“たしかに僕らが上に報告する気がまったくないっていうのは真っ赤な嘘だけれど”
先の伝令がほむらを釣る囮だということはすでに告げられた。
しかし、つまり伝令をするつもりがないというわけではないとも、その前の段で彼は言った。
球磨はそれを、「ほむらを倒して伝令を帝国に到着させる自信がある」と読んだが……。
「何をして、るクマ!!」
斜め方向に数歩動く。ルークヒグマの右手が、地面をコンコンと叩いていた。
その周りには苔。光りながらもぞもぞと動いている。
ほむらの推測を球磨は思い出す――情報伝達の手段としての、苔。
「……!!」
「戦力、戦法、もろもろ含めてキング様に通信完了。これで本当のチェックメイトだ。
ただ報告しただけじゃ、君たちを抑え込める戦力がどのくらいか把握できないからね。
少し試させてもらったというわけさ。正直、ここまでとは思っていなかったけれど」
もぞもぞ動く苔が壁の苔と接続され、光が苔を伝って壁の向こうへと拡散していく。
ルークヒグマの言葉は半分は虚勢かもしれない。
最初は本当に、4匹でこちらの9名を抑えるつもりだったのかもしれない。
しかし、だったとしても、こうして報告されてしまえば同じことだ。
もっともされてはならないことを、押さえるべきだったことを、最悪のタイミングで行われてしまった。
「く……なら。……そっちも火遊びの代償を受ける覚悟ができたってことでいいクマ?」
歯ぎしりしつつ、切り替える。
14cm単装砲の砲塔をルークヒグマのほうへと向ける。
この近距離。撃てば爆風の影響で球磨も通路もただでは済まないだろうが、
ヒグマは確実に殺せるだろう。連絡が為された以上、爆音も苔も気にすることはない。
しん、と空気が止まる。
少し遠くで、デビルヒグマとナイトヒグマの奏でる刃のダンスの音がしていた。
砲塔に睨まれたルークヒグマは、にやり、と笑った。
「覚悟はできてないな。だって、その前に君たちが倒れるから」
ルークヒグマは右手を動かす。
ゆっくりと、動かす。
――来る。
空雷を予測済みの球磨は、その一撃を避けるために精神を集中させた。
スライムヒグマから触手が飛んできていないのを確認した。
遠くでデビルの絞めが極まり、ナイトヒグマが倒れる音がした。
ゆっくりと。
ゆっくりと、
ルークヒグマは右手を浮かせ、動かす。
球磨もそのゆっくりとした動きにあわせて、ごくりと唾を呑みつつ、足に力を入れた。
るずるずるず。
音がした。
「?」
地面、から。
ルークに向けた砲塔によって、死角になっていた場所から。
水の触手が現れて、球磨の脚を掴もうとしている。
「不味――」
飛んで避ける。音がしなければ危なかった。
ギリギリで、水の触手は球磨の靴をかすめるにとどまる。
しかしこれ以上の回避行動は――。
ルークヒグマが、ゆっくりと手を動かしている。
爪を丸めた状態。
開くことでおそらく、直線放電する。回避は出来ない。
でもまだ大丈夫。放電に合わせて、ほむらのゴルフクラブを投げ、避雷針とする。
難しいがそれであの、文字通りの雷撃の指向性を変えることはできる。
さっき攻撃に使ったことで、相手もこの使い方はまだ予測に入れられていないはず。
やってやる。
なんなら攻撃を喰らってしまっても構わない。
艦むすは人であり機械もある。
その動力は燃料と電力。
空母の方々なんかボーキサイトを直接食べて燃料にできるくらいだ、
全部は無理だろうが、電気くらい喰って、無理やり動力に変換してやる!
「く……来いクマッ!!!」
「君じゃないよ?」
ルークヒグマは、ゆっくりと動かす。
階段のほうへと、右手を。
「!?」
「僕の放雷撃は大事な大事な一撃だ」
「な……」「仕留める人数は、多い方がいいだろう?」
その先にいるのは、星空凛と、巴マミの、「2人」だ。
「痛みを返すのは、君じゃない」
「馬鹿――やめろッ!!!!!」
「なにやってるクマぁああああああああッ!!!!」
デビルが吼え、球磨が叫ぶ。
しかし二者の位置からはすぐ階段へ駆けつけることができない。
爪が開かれる。
ルークヒグマの逆立った毛並みがしなっていくと同時に、
サイリウムよりも高い輝度をもつギザギザの光が手から放たれ、
回転しながら階段の奥へと向かって行った。
そして。
少女の悲鳴が、通路まで聞こえてきた。
◆
たとえ“未知”を正しく解読できたとしても。
そのすべてに正しく対処できるとは、かぎらない。
◆3
停止しても敵が動いている異常事態を前に、ほむらは凍りつきそうになった。
それでも心を奮起させ、一旦時間停止を解除した。
その瞬間は、目の前のプレーンなヒグマは眼前に残っていた。
残った、が――徐々にまた残像となって消えていった。
本体は?
「ぐおおおッ!!?」
右後ろ45度でジャン・キルシュタインが叫んでいた。
ほむらがそちらを向くと、そこに先ほどのヒグマがいて、
ジャンに向かって爪を振り下ろしているところだった。
再時間停止で回避するか? しかし、時間停止内でも動かれていた。
ほむらは躊躇。ジャンはギリギリで剣でガードすることに成功した。
ヒグマの膂力が叩き付けられる。
立体機動ごと、ジャンとほむらはT字路の奥へと飛ばされる。球磨たちから見えない方へ。
「くっ……」
「来るぞ、アケミ!」
飛ばされながら、首を無理やりヒグマの方に向ける。
爪を振り切ったポーズのヒグマが残像となって消える中、何かがこちらに近づいてきている気配がした。
2秒後、こちらに向かうヒグマの姿が現れて、そのまま制止した。あれも残像だ。
本体は――きっと残像よりもさらにこちらに近づいている。
(どうなってるの? 消えてまた現れるまで、最大で2秒――瞬間移動ではない、
でもただのステルス能力でもない。時間停止中の世界でも動けていたのは何故!?)
ほむらは思考するが、まったくわけがわからなかった。
ともかくあと2秒あればヒグマの爪は飛ばされたこちらの位置まで届くだろう。
それは阻止せねばならない――もう一度、ほむらは盾を回す。
時間が停止する。
今まで見えなかったヒグマのこちらに向かってくる姿が、突然停止世界に現れた。
「……見えたっ!?」
「どうなってんだアケミ! あいつ、お前の魔法が効いてないのか!?」
残り14秒。
ジャンの問いに応えず、ほむらはジャンに四肢でしがみついた状態から両手を離し、
盾と腕のスキマから89式5.56mm小銃を取り出してノータイムで引き金を引いた。
銃から飛び出した弾丸は、停止空間内で任意のタイミングで静止させることができる。
普段は止まっている相手の直前で静止状態にし、解除と同時に全着弾させているが、
これは停止している物体への攻撃はすべて無効だからだ。
今回は、銃弾を静止させる必要はない。発火音と共にヒグマに向け、
小銃の銃弾を飛ばす。
しかし――当たらない。
「なっ……」
残り12秒。
銃弾がすり抜けた。
「だめだよ、お姉ちゃん。お姉ちゃんの“四つ目”と、わたしの“四つ目”は近くて遠い。
隣り合うけど通れはしない。見えるけど触れられはしない。……さあて、追いつめたよ」
残り11秒。
構えるジャンとほむらの眼前に、ヒグマは立った。
そして、その爪で、ほむらの頬を触る。――すりぬける。互いに見える位置に居ながら、
幽霊と人間になったかのように、ほむら達とヒグマは相互不干渉なのである。
ありえないほど近くにいつつ触れられないヒグマは、ほむらの頬をじっとりと見つめている。
「ほっぺた、かさかさ? 疲れてるの、お姉ちゃん?」
「……ジャン! とにかく距離を取って! 一旦解除する!」
「ぐ……全くわかんねぇが了解だ!」
残り10秒。
ジャンは巻き戻し終わったワイヤーを再射出、しながらバックステップでヒグマから逃れる。
もう一度ヒグマがこちらへと飛び込んでくる瞬間に、時間停止を解除。
一瞬消えてから、ヒグマの姿が残像となって現れる。
それより近く、見えないヒグマがこちらに近づいてきている。
出現ポイントは――ジャンの左側だった。すでに爪を振り下ろしている!
「う、おおおおおおッ!!!」
しかし、爪が届くより先に、壁に着弾したワイヤーを即座に背後へと巻き取り、危うく回避。
ジャンの服が爪に当たってほんの少し破けた。
さすがのジャンも立体機動のバランスを若干崩すが、立て直す。
宙を舞い、着地。
飛び去った位置は球磨たちがいる階段前からさらに離れてしまっていた。
テレパシーを送るか、ジャンと凛で繋がっているトランシーバーで事態を共有したいところだが、
立体機動一回分でもせいぜいヒグマ速で4秒分しか飛び離れることができない。
通信している暇がない。そもそも、電探が乱されている以上、トランシーバーが使えるとも限らない。
これ以上離れればトランシーバーの射程圏からも外れてしまう。まずい。
「アケミ! また来るぞ!」
「どう、すれば……」
「落ちつけ! “服は破けた”! こちらに攻撃してくる瞬間は実体があるんだ、そこを狙うんだ!」
「……そ、そうね……!」
ジャンの言葉に動揺を振り払う。
そうだ。いくら移動中に当たらなくとも、こちらを攻撃するその瞬間だけは実体を表さなければならない。
ならばあちらの攻撃に合わせて、こちらが攻撃すればいいだけだ。
2秒。こちらに向かってくるヒグマの残像が出現する。あと2秒後。タイミングを合わせて――。
「だめだめ。お姉ちゃんも、お兄ちゃんも、考えが浅いと思うよ?」
しかし1秒後。ヒグマが姿を表した。
今度は残像ではなく、どうやら実体のまま――こちらに向かって直進してくる。
タイミングを外されて驚くあいだに、ヒグマはジャンへとタックル攻撃を仕掛けてきた。
やることは変わらない。
攻撃に合わせて、こちらも攻撃するだけだ。だが……。
「ぬ、おおおッ!」
目を狙ってジャンが剣を刺しに行く。あっけなく、それはヒグマの眼窩へと刺さる。
手ごたえがあった……なのに、それは質量だけを残した残像なのだった。
攻撃に合わせて攻撃しても、ヒグマは返す手で実体を残像にしてしまうのである。
そして。
「うーん。ピースガーディアンのみんなと、
なるべく殺さずカタをつけるだなんて
ルールを決めなきゃよかったかなあ」
次に現れたヒグマは――“こちらに攻撃するゼロ秒前に実体を現した”。
今度は横合いから、タックル。
現れた瞬間、何の行動も差し挟む余地なくインパクト。
「ぐお、あっ」
「きゃあああッ!」
ほむら、ジャンはなすすべなく吹き飛ばされる。ジャンの肋骨が嫌な音を立てた。
壁に激突――すれば、さらなるダメージと気絶を免れない。
空気の重さを感じながらジャンはワイヤーを射出、
天井に挿して徐々に引き、飛ぶ勢いを弱めながら、
振り払われかけたほむらの身体をもう片方の手で引き寄せ、抱えるようにしてキャッチした。
ざざざ。
そのまま地面を足で擦って、なんとか停止。ヒグマを睨む。
ヒグマはこちらを無邪気な眼でみつめながら、すこしつまらなさそうにため息をつく。
「……ハァッ……ハァ……やりやがったな、畜生」
「うん。つまんない。布束さんに診療所送りにされたときはまだ扱い方がよく分かってなかったけど、
ちゃあんと制御したらもう、わたしに触れられる敵なんていないんだ。分かってたけど、つーまんない」
「アケミ! アケミ、起きてるか!」
「……なんとか、ね。あなたの服が汗臭すぎて目が覚めたわ」
ほむらは言うとジャンの胸を手で付いて飛び離れた。
「そいつは良かった。良かったが、喜べねえな……そんなにか?」
「本当に、ゲホッ、厄介、だわ……ああ、あなたの服ではなくて、あいつよ」
ポーンヒグマを見据えながら、ほむらは苦い顔をした。
明らかにこの敵は、自分の時間停止能力へのメタとして配されたヒグマだ。
敵はこちらの能力を把握している。それだけでも厄介だというのに。
「確かにな」
ジャンも自分の腕の臭いをかぎながら同意する。もちろん服が臭うことに対してではない。
目の前のヒグマが持つ、ふざけた能力についてだ。
質量のある残像を残して、消えながら2秒間のあいだ移動する。
連続発動可能、おそらく消費無し。
時間停止をすると消えていたのが見えるようにはなるが、
なぜか時間停止中でも動いてくる。
攻撃すれば残像と化してどこかへ逃げ去り、
向こうからはゼロ距離で実体化することでカウンター不可能な攻撃を繰り出す。
チェスの駒であるポーンには、初手のみ残像を残して2マス移動できるルールがあるが……。
似ているどころか、それをもとに、さらに強化されている。ふざけているとしか言いようがない。
(そしてその能力原理は、いまだにさっぱり。お手上げといったところね。
とりあえず分かったのは、時間をずっと止め続けることで相互不干渉を作り出せることだけ。
でも、それもあと10秒しかない。つくづく、間が悪いとしか言いようがないわ)
ひどく濁ったソウルジェムに目を落とす。
これが濁りきれば、ほむらは魔女化する。
(いっそ、魔女にでもなって、結界にこいつを閉じ込めてしまおうかしら。
このままではどちらにせよ殺される。なら……このヒグマと、結界の中で永遠に戦っても……)
「おいアケミ。弱気になってんじゃねぇぞ」
「……何よ」
「諦めてる顔をしてたぞ。俺が一番嫌いな顔だ」
心を読まれたかのようなジャン・キルシュタインの声に、ほむらは我に返った。
ジャン・キルシュタインはこの“未知”の恐怖を前に、まだ、全く諦めていなかった。
あくまでただの女子中学生だったほむらと違い、
ジャンは生まれながらに戦いの世界の中を生きてきた。
この程度の“未知”など、幾度も遭遇してきたし、弱音を吐かず戦ってきた。
戦士としての覚悟ならジャンのほうが上だ。――勇気づけられてしまった。1つ、借りだ。
そうだ。何を考えている、暁美ほむら。
まどかも救っていないのに、こんなところで死ねるわけがない。
仲間も守っていないのに、こんなところで、魔女になってたまるか。
「確かにあいつは厄介だ。攻撃したってどっかに逃げちまうし、倒し方もわかんねぇ。
でも、だからって俺たちが心ごと逃げたら、それこそ倒せねえ」
「……ええ」
「あんな、逃げて隠れて、自分の世界に閉じこもってるやつに心で負けたら駄目だ!
やるぞアケミ。命と引き換えなんてふざけたこというなよ。あんなやつ、5秒でねじ伏せる!!」
「そう、ね……やりましょう、ジャン。根競べよ。
攻撃が来そうな方向を読んで、直接接触を回避しつつ、敵が疲弊するのを……」
ジャンの言葉を聞いて心が軽くなったほむらは、根競べの作戦をとろうとした。
だが。さきほどジャンが言った言葉に、どこか違和感を感じた。
「……自分の世界に、閉じこもる?」
「? どうした」
「どうしたの、お姉ちゃん。お兄ちゃん。そろそろ、作戦会議は終わった? じゃあ、いくよ?」
律儀にもこちらの気力が回復するまで待っていたポーンヒグマが、
次なる遊びを始めようと、その姿を停止させる。
残像となって消えゆくヒグマの姿。ほむらは、引っ掛かったワードから、さらにその前、
自分が心中で愚かにも考えてしまった言葉を反芻する。
(魔女。魔女結界……の中。そこは、魔女だけの世界。異空間)
魔女になった魔法少女が作り出す魔女結界は、現実世界には存在しない。
三つの次元で構成される世界に作られた、四つ目の空間。魔女だけの世界。
そして暁美ほむらが使う魔法は、
三次元に流れる四つ目の数値を操作し、自分だけの停止世界を作り出すものだ。
同じ“四つ目”を操るその二つは、近くて、しかし遠い。
お姉ちゃんの“四つ目”と、わたしの“四つ目”は近くて遠い。
自身の能力への理解と、邪気なき純粋な心によって放たれただろうこのヒグマの言葉は。
あまりにも端的に、彼女の能力と――その打倒方法を、ほむらに知らせていた。
「……そういう、ことね」
「どうした?」
「ジャン。見つけたわ。5秒で、決めるわよ」
ほむらはジャンの手を取り、盾を回す。
残り10秒。
時が止まる。
近くて遠い世界に閉じこもっている、ポーンヒグマが現れる。
「あ、止めたんだぁ」
「ええ。だってそのほうが、貴女の世界に近いようだから」
残り09秒。
その姿に、ほむらはもう恐怖することはない。
本当に初歩的なことだ。初歩的すぎて、参加者データにも載っていない。
「ここ、ね。……貴女の世界。入らせてもらうわね」
「……え?」
魔法少女は。
入り口さえ見つければ。異空間への扉を、開くことができる。
残り08秒。
相手が見えているほど「近い」空間なら、それはあまりにも容易なことだ。
虚空に現れた扉を、暁美ほむらは開く。すると視界にポーンヒグマの世界が現れた。
といっても外見は全く現実と変わりないように見える。それもそうか。
これは現実から逃げるための異空間ではなく、現実を生きるために得た異空間なのだろうから。
ともかくこれで、触れ合える。
「嘘。なんで、――何でッ。なんで、わたしの、残像世界に!」
「私が魔法少女だからよ、箱入り娘さん」
「よく分からねぇが、当たるんだな? アケミ」
「ええ、間違いないわ。そして……これで、終わりよ」
「あ……嫌ッ……わ、わたし、遊びたかっただけだったのに……」
残り07秒。
質量を持った残像を残して異空間を2秒間移動できるポーンヒグマの前に、
魔法少女と調査兵団が、確かな質量を持って相対した。
能力以外は一般的なヒグマを斃し切るのには、あと2秒あれば、十分だった。
「娯楽がなさそうなところ、悪いけれど。こっちは、遊びじゃないのよ」
【穴持たず200(ポーンヒグマ) 死亡】
そして――5秒を残し、現実へと帰還したほむらとジャンは。
トランシーバーから聞こえる少女の悲鳴と、
次いで放たれた砲撃の爆音、地を揺らす衝撃を、連続して感じることになった。
「……なっ!? いまの悲鳴……誰だ!?」
「球磨……!?」
少女の悲鳴。
そして球磨が狭い空間で砲撃を行った。そうしなければならないほどに、まずい状況だということだ。
トランシーバーで凛と、テレパシーでマミと、連絡を取ろうとした。
どちらからも、反応がない。
凛は声すら出せない状況にあり、
マミも、テレパシーを返す余裕を失っている。
二人は顔を見合わせたあと、無言で頷きあい、再びほむらがジャンにしがみついた。
立体機動で通路を駆ける。早く。なるべく、最速で。
そしてT字路を曲がった二人が目にした、通路の光景は――。
◆
半分は、覚悟していた。
「私たちはもう、人間ではない。魔法少女の命は、ソウルジェムに封じられている。
身体がいくら傷ついても、ソウルジェムさえ残っていれば魔力を使って蘇ることができるの」
腹を裂かれ、喰われ、それでも生き返り。
体を真っ二つに引き裂かれ、それでも生き返る。
そんな経験をしたあとにこんな言葉を聞かされても、「そうよね」、としか言えない。
ヒグマを化け物だなんて言えたものじゃなかった。自分だって、化け物だった。
……でも、それはいい。それは重要なことじゃない。
ここで例え二度の死を経験していなくても、この情報で私が壊れることはない。
なぜって。私はもう、すでに一回。
魔法少女になるときに、“絶対的な死”を踏み倒しているからだ。
生きてこの世と繋がれていただけで奇跡なんだから、
例え人間じゃなくなっていたとしても、驚いて、悲しみはすれど、取り乱しはしなかった。
問題は、その先だ。
人間じゃなくて、魔法少女になった。
なら――魔法少女とは、いったい何なのか。
ソウルジェムにその魂が封じられているのならば、
そのソウルジェムが濁りきったとき、魔法少女はいったいどうなる?
「魔女になる」
暁美さんは、私の眼をしっかり見て、正直に明かしてくれた。
「ソウルジェムが濁りきった魔法少女は、魔女になる。
私たちが倒してきた魔女は、みんな、魔法少女のなれの果てだったのよ。
全ては罠。やつらは魔法少女の希望と、魔女の絶望の転移エネルギーを利用して、
自分たちの目的を叶えようとしている。私たちは、利用されたの」
「……そん、な」
「辛いと思うわ。でもこれが真実よ」
“魔法少女の真実”は……あまりにも、残酷だった。
絶望をふりまく魔女と、希望を繋ぐ魔法少女。
対極にあると思っていたこの二者は、遠いようであまりに近い場所に居た。
鏡写しだった。
同じ構造式から作られた、正負が逆の、鏡像異性体にすぎなかった。
ただその役割を変えただけで、両方とも舞台の上の、道化だった――。
「それじゃあ、私、は」
「落ち着いて、巴さん……いえ、マミさん。絶望するにはまだ早いわ」
打ちのめされかけたわたしを引き留めようと、暁美さんは色々な可能性を示してくれた。
精神の力であるスタンドというものの存在を例に出して、
ソウルジェムの濁りをグリーフシード以外の方法で止める方法を提示してみたり。
少し突飛な思いつきと前置きしつつ、ヒグマと知性ある会話が出来たのなら、
魔女にだって知性をもたせ、対話したり、なんなら人間に戻したりだって出来るかもしれないと言ったり。
私が魔法少女に絶望しないように、私に繋がったリボンを引っ張ってくれた。
でも。
「だから。いつかは、私たちは、魔法少女をやめて生き続けることができるかもしれない。
……本当はね、マミさん。私はいつかなんとかなるなんて根性論、大嫌いなたちだわ。
出来るかも分からない希望にすがって生きるのがどれだけ辛いかを、私はよく知っているから。
でも、球磨と出会って。ジャンと出会って、凛と出会って。
この島を生き抜いて――私は世界が開けるのを感じたの。
理に縛られちゃダメ。世界の理を変えるくらいの強い想いがあれば、願いだって、きっと叶うって、」
「ありがとう、暁美さん。嬉しいわ、励ましてくれて」
「……マミさん?」
「でも、少し、心を整理する時間が欲しいの……ごめんなさい」
「そ……そういうことなら、分かったわ。
あ、あの……こっちこそごめんなさい。知り合いに出会えて、少々浮かれていたのかしら」
しゅんと萎んだ風船のようになってしまった暁美さんに「大丈夫よ」と微笑みながら、
でも私は、こころのなかに建てた偽りの城が、今度こそ砂になって消え去ってしまうのを感じていた。
夢の残骸でも残っていれば、
まだそれは「壊れたけど、正しかったもの」として見ることもできる。
でも消えてしまったそれは偽りですらない。
間違った夢。抱いてはいけなかった願いであり、罰を受けるべき、罪でしかなかった。
(魔法少女が魔女を生むなら。
私が今までやってきたことは、何?)
――助けて、と願って魔法少女になった。
そして私だけ、生き残った。
もう少し上手く願えていれば、私の両親は助かっていたのかもしれなかった。
私だけ生き残ったのは、罪だ。
償うには魔法少女をするしかなかった。沢山の人を救って、自分が生き残った理由を作った。
――たくさんの魔女を倒してきた。
でもそれが魔法少女のなれの果てだったのなら、私のやっていたことは殺人と同じだ。
沢山の人を救うために、沢山の少女を殺して。罪でなくてなんなのだろう。
見滝原をずっと守ってきた。魔女はその間、ずっと生まれつづけた。
私はどうして魔女が生まれるのか、何が魔女を作るのか、
突き止めようともせず戦っていたが、全てが舞台の上の演目だったのならこう考えることもできる。
――見滝原に魔女が現れるのも、私のせいだった。
キュゥべえたちが魔法少女が魔女になるエネルギーを利用するのなら、
利用した後の魔女は、絶望を振りまいて人々をおびやかす危険な存在で、しかも残りかすの存在だ。
それをさらに利用してキュゥべぇは新たな契約をするのだろうが、契約が常に上手く行くとも限らない。
リザーバーが必要だ。勧誘が成功しなかった場合に、魔女を倒してくれる都合の良い存在が。
――私だ。
歴戦を戦ったベテラン魔法少女・巴マミがいて、なんの疑いもなく魔女を倒す見滝原は、
彼らにとって非常にやりやすい「狩り場」だったのではないだろうか?
私は魔女の手から人々を守っていたけれど、それが彼らの仕込んだ舞台ならば、
……私が救っていた人々は、そもそも私のせいで危機に陥ったことになる。
とんだマッチポンプだ。そしてそれに全く気付かなかった私の罪は、あまりにも重い。
それどころか私は魔法少女の使命を盾にして、
ひとりぼっちの自分の寂しさを埋めようと、鹿目さんや美樹さんを勧誘すらして――。
――私が魔法少女でいることが、多くの人の絶望に繋がっていた。
そういうことなら。
私がいなかったほうが多くの人が助かっていたのかもしれないくらいなら。
じゃあ。何で私は、のうのうと生きながらえていたの?
人間じゃなくなってまで、生きたいと願ってしまったの?
なんで……あのとき……死ななかったの……。
(……私は人類の敵を倒すヒーローなんかじゃ、なかった。
ただ生きたいがために、魔法少女であることにすがっていた、弱くてずるい子だったんだ)
暁美さんはこんな私にも優しい言葉をかけてくれた。
絶望しないでと、魔法少女だっていつかはやめられるかもと。
でも……魔法少女だけが生きる意味だった私からそれを取ったら、何も残らない。
そして魔法少女が魔女になると知ってしまった今、魔法少女も、もう行えない。
チェックメイトだった。
繋がろうとして伸ばしたリボンが、がんじがらめになって、私の魂を縛る。
もう、戦えない。
ヒグマとも。魔女とも。戦っていいような生きる意味を、私は持たないのだから。
もう……私は。からっぽ、だった。
「――――させっかよ!」
「ああん!? “乱入”かッ!?」
何も考えたくない気分でぼーっと歩いていた私は、
敵のヒグマが現れたのに気付くのすら、普段では考えられないほどに遅かった。
私より前にいた、纏さんという露出の大きい子が階段を蹴り飛んで、
踊り場の壁を蹴って反転し、敵に向かっていく姿を視界にとらえて、やっとだった。
いつのまにか暁美さんと、金の短髪の男の子の姿もなかった。
纏さんより早く異変を察知して、時間停止で戦いに向かったのだろう。
私は――続こうと思うことすらできなかった。
自分でも、びっくりした。足が、手が、ぜんぜん動かなくなっていた。
白眼のヒグマ、ヒグマン子爵と対峙した時もこうなっていたけれど、それ以上だ。
魂に巻きついたリボンが、身体をきりきりと縛り付けている。
「エルフの……実体化……あ。う、あ……うわぁああああ!!」
「……オイオイ、“びびりすぎ”だっつの。あっけねェ」
纏さんが倒れ、そしてシンジくんが叫び声を上げて、
やっと私は身体を反転させて、戦場に目を向けることが出来た。
見えたのは、中央、ヒグマの形をしたスライムみたいなものに囚われた球磨川さん。
左に、倒れているシンジくんの脚。銀色の鎧の端。止まっている紫の人型機械。
右に、球磨さんの後ろ姿と艦装。
その肩越しにこちらを見つめる、ヒグマの眼。
髪を逆立たせたそのヒグマの眼に、私は射竦められた。
声を上げ、がくりとその場に崩れ落ちる。
残っていた中性的な容姿の少女――凛さんといったか、が、驚いて私の肩に手を置いた。
「ま、マミさん! しっかり!」
「おや? 少々、人数が足らないね」
「あ……」
「マミさん! 大丈夫かにゃ!?」
揺さぶって意識を確かめてくれる凛さんになんとか答えようとしたけれど、できなかった。
真実を知った後、改めて向けられた殺意が。罪だらけの私を、苛むように突き刺し続けていた。
私はただ目の前で流れていく光景を見るだけになってしまった。
球磨さんはすごかった。スタンドを有効利用して、逆毛のヒグマに有効打を与えた。
デビルさんも、相手の手が一旦出尽くしてからは終始優位に戦いを進めていた。
甲冑を着込んだヒグマの剣がデビルさんの肩口に吸い込まれたときには眼をつぶりそうになったけど、
それもデビルさんの戦術の内。
ヒグマン子爵に斬られたときのように身体を繋ぎ直し、
相手の剣を使用不可能にしてから、きっちりと絞め技で決めていた。
すごい――と思う。
同時に、どうして――とも思う。
島で課せられた殺し合いは、あの眼鏡の人が主催した舞台での演目だ。
首輪が外れた今、もうそれに乗る必要はない。なのに目の前ではまだ殺し合いが続いている。
殺し合いが止まらない。坂から転げ落ちたゆきだるまみたいに転がりながら巨大化している。
主催者の見ていないこんな場所でまで、人とヒグマ、人と人、ヒグマとヒグマが、争い合っている。
繋がりを断ち合う踊りを、踊る。絡み、交ざって、ちぎりあう。
私は眼を閉じようとした。みんなが戦っているというのに、眼を、閉じようとした。
もうたくさんだった。見るのも、踊るのも、どこから音楽が鳴っているのか、考えるのも。
未だに隣で心配してくれている凛さんに申し訳なさを感じながらも、私は眼を、閉じ、
ようとしたとき。
逆毛のヒグマさんが、右手を――こちらに向けた。
「痛みを返すのは、君じゃない」
逃げるだなんて許されなかった。
目を背けようとした臆病者に向かって、雷の裁きが与えられようとしていた。
「……!!」
標的になっていることを察知した私の本能は、それを拒絶する。
拒絶は魔法になって現れる。“絶対領域”。
物理ダメージも魔法ダメージも通さない、私の持ちうる中でも最上級の防御魔法だ。
発動したあと自己嫌悪に襲われる。なんでまだ、生きようとしてしまうんだ。
でもそれは身体に染みついた防御行動だった。
止めようがなかった。魔法は省エネのために、私の周りだけに展開された。
「え、」
私の周りだけに、展開された。
それからの1秒間を私は絶対領域の中からすべて見ていた。
◆
ギザギザで、グルグルで、バチバチで、ビカビカ。
それはまるで生き物のようにうねりながら、
二人の少女に向かって、驚異的な速度で、その先端を伝搬させていた。
球磨とデビルヒグマはその明るすぎる光に、本能的に目を瞑った。
巴マミは襲い来る死の恐怖に、本能的に自分の回りだけにバリアを展開した。
星空凛は。一歩、斜め前に。
――巴マミを守るような位置に。
自分の身体をねじ込みながら、両手を広げた。
当然、その行動によって、巴マミの張ったバリアから、彼女は外れてしまった。
雷が、轟く。
音が耳に届くころには、攻撃はもう終わっていた。
巴マミは、バリアの中から悲鳴を上げた。
◆4
ほむらとジャンがポーンヒグマを屠って戻ってきたときには、
すでに球磨が砲撃によって、壁ごとルークヒグマの胴体を消し飛ばしたあとだった。
【穴持たず201(ルークヒグマ) 死亡】
球磨川禊を内包しながら静かに震えるスライムヒグマのみが、その場に残っている敵だった。
「……誘導したな。凛がかばえるように、わざと、ゆっくり、右手を動かした。
最初っから、狙いは凛だったのかクマ? ……何か言えクマ。死んでんじゃねーぞクマ!!」
壁は無残なほどにえぐれ、天井は一部崩落した。通路がまだ繋がっているのが奇跡に近い。
そして砲撃の余波をモロに喰らって、
球磨もまた服は破け、身体や艦装のいたるところに火薬の墨をこびりつかせていた。
しかしそれ以上に、今まで見たこともないような、怒りの形相をしていた。
首から上しか残っていないルークヒグマに向かって、やり場のない感情を言葉にしてぶつけている。
ほむらもジャンも、こんな球磨を見るのは初めてだった。
「落ちつけ、球磨! もうそいつは死んでる!」
「分かってる! でも許せないんだクマ!
こいつを止められなかった球磨も! カッとなって殺した球磨も! 許せないクマ!!」
「だから、おち、つけ……ぐっ」
球磨をなだめにいったジャンが腹部を押さえて眉を寄せる。
もともと肋骨が折れていたところにタックルを喰らったジャンのダメージもまた、大きい。
ほむらに至っては、残り5秒停止分の魔力しか残っていないところまで追いつめられた。
見渡せば、球磨は見ての通り中破。
纏流子と碇シンジは地面に伏せて動かず、エヴァンゲリオンは停止している。
悔しさがにじみでた表情で立っているデビルは外傷無しに見えるが、身体を使った白羽取りで再び体力を消耗した。
そして、階段に目を向ければ、
「あ……ああ……」
さめざめと泣く巴マミに抱えられている、動かない星空凛がいる。
「あけ、み、さん……りん、ちゃん……が」
「! ……」
「わ、私が。私が守らなきゃいけなかったのに。……私、じぶんしか、かんがえてなくて。
凛さんは、かばってくれたのに。私、私……。あ……」
「……とりあえず絶対領域を解いて、マミさん。魔力が無駄になってるわ」
階段に向かいながらほむらは、マミに出来うるかぎり優しい声で諭した。
「もし心停止していてもまだ望みはある。幸い、ひどいやけどはないし、
落雷の死因は脳か心臓の停止が主だから、心肺蘇生すればまだ……」
ただの落雷ではなく、指向性の雷撃であることには触れない。
言われたとおりにバリアを解除したマミの手から、ほむらは凛を受け取る。
階段を降り、床に寝かせた。
服を軽くめくると、シダの葉に似た軽度の火傷の跡が腹部にある。落雷被害の症状に近い。
胸に手を当てる。
(止まって……いや、まだ、弱いけど、動いてる)
パニック状態のマミでは分からないレベルの、かすかな鼓動。
意識はない。呼吸は――微か。
いつ止まるか分からないが。希望はある。ほむらはそう自分に、言い聞かせる。
「……でも、これは……」
「すグに……病院に……運ばねば、なりマセンね?」
「!」
ごぽごぽというエフェクトがかかった声が、そんなほむらに飛んでくる。
見ればヒグマ型スライムがその顔あたりに口を作り、ほむらに向かって話かけてきていた。
「ああ……貴女には自己紹介がまだデしたかね。No203、ビショップヒグマです。
チェックメイトを……しにきました。私たちが……求めるのは。アナタがたの、降伏(ステイルメイト)です」
るずるずるず。
るずるずるず。るずるずるず。るずるずるず。
スライムヒグマがそう言うと同時に、
突如として、地面や天井から大量の水触手が現れ、通路の両サイドに網を張った。
もっとも近い位置にいたデビルが腕のブレードでそれを斬るが、
斬った瞬間のみ「スライム」は「水」に戻り、攻撃は意味をなさなかった。
ほむらたちは、閉じ込められた。
「ぬ……」
「降伏……ですって?」
「どういうことだ、貴様」
「我が主、キングの望みは……実験の完遂。島の人間の殺戮では……ナイのです。
首輪を外し……帝国に反逆を加えようとしテいても……、
そちらが実験参加者であることには……違いありマセん。故に、今回の“警告”なのです」
「……警告? これが、警告だと?」
「ヒグマ帝国には……現在、約1000匹のヒグマが登録されているソウです」
水触手を操り、空中に「1000」の数字を描く。
「そのウチ、……およそ9割のヒグマは……培養液から生まれたままのプレーンヒグマ。
しかし、1割は我々のように……弱いか強いか、『能力』や『技術』を持っているカスタムヒグマ。
そして……時間さえあれば。カスタムヒグマでさえ、いくらでも……生産可能です。
アナタがたが今回殺したヒグマだって……調整すレば……再度作ることは難しくナい」
それに、ルークやナイトであれば、代わりのヒグマは居る。
ビショップにも、より効率のよく、より広い制圧力のある増殖能力を持つ『檻』を作るヒグマが存在する。
ビショップの水はせいぜい半径20m内しか伸ばせず、閉じ込めるだけの触手を伸ばすにも時間が必要だが、
彼女の制圧範囲は島の周囲の海すべてに及ぶ。
同じ水属性として尊敬に値します、と私情を挟みつつ、ビショップは続けた。
「だから……アナタがたがここで奮闘をしても……ヒに入った夏の虫の、小さな抵抗でしかナイのです。
いくらでも、同レベル。あるいは……上位レベルの脅威を立ちはだからせることがデキる。
……ゆえに抵抗はムダ……それを……分かって頂きタかった。
もっとも、ナイトとルークはともかく、ポーンが殺サレルとは……思っていまセンでしたが。まあ、同じコトです」
そこまで言うとビショップヒグマは、ヒグマ型の身体から二対の触手腕を生やし、
片方は、球磨川を。
もう片方は、階段の方を指した。
「この……球磨川という参加者が。首輪反応消失の……主犯だと推測しマす。
今回の侵入に際しては……この者の捕縛連行……これで手打ちと、しましょう。
そこの階段から……お帰りクダさい。
上の水道管の水は……私が今、通れるようにせき止めテいます。
ここから上に出れば、D-7とD-6のほぼ境界……総合病院が、近くにアリますので。
そちらの死にかけの少女にも……処置を行うことが可能でしょう……」
この警告に従わぬなら、脱出路も封鎖。
すでに呼んでいる、さらなる追っ手に、全員殺されることになるでしょう。
ごぽごぽというエフェクトをかけながらスライムは淡々と告げた。
「穴持たずNo.1、デビルヒグマさん……貴方も、同様です。
キングは実験の停止を望んでいマせん。会場に戻って……ヒグマとしての役目を、遂行シテ下さい。
戻っても尚……参加者に、協力するようなら。……追って、制裁ヒグマを向かわセます」
「ぐ……」
「さあ……決断を。あまり……思考時間はナイと思われますよ」
「……ぬ」
デビルヒグマは、沈黙した。
球磨も、ジャンも、スライムヒグマを睨みながらも、言い返せなかった。
事実として、たった4匹のヒグマとの戦いでこれだけほむら達はダメージを受けた。
さらなる追っ手と戦うだけの力は、もうなかった。
それどころか目の前のスライムヒグマから球磨川を取り返すことすら……。
……もとより、地上へと戻るつもりだった。
道を作ってくれているのならば、むしろ、好都合だ。
ほむらは、背後で泣きじゃくる巴マミと、目の前で小さく息をする凛を交互に見てから、
拳を握りしめ、喉から敗北の言葉を、絞り出そうとした。
「まだだ」
それより先に、声を出したのは、纏流子だった。
意識を取り戻していたらしく、起き上がろうと体をぎちぎちと動かしている。
「……?」
「まだ、だ……ッ。……こんなモンで。……負かしたと思ってんじゃ、ねェぞ!!」
「……無理しないほうが……イイですよ。
ルークの電撃は……確かに『悪性』でもアリます……身体の感覚がナイでしょう?」
その行動は、敵であるスライムに心配されるほどであった。
実際、流子の感覚はルークの電撃で一時的に断絶されていた。
触覚はない。自分の腕や足がどの方向に曲がっているかも分からない。
しかし、だから流子は立ち上がろうとする。
――あたしは降伏を勧められて、素直に受け入れる魂(タマ)じゃ、ねえんだよ!!
「うるせぇ!! ……鮮血ッ!! あたしを動かせ!!」
(いいのか流子)
「いい! どれだけ血を使っても構わねェ!! 立ち上がるぞ!」
(……分かった。意識をしっかり保てよ)
流子は自身とリンクしている鮮血に、自分の操作権を預ける選択を取った。
元より流子の腕と脚は鮮血に覆われている。
それを動かしてもらうだけでいい。危険だが、今はそんなことを言っている場合ではない。
服に引かれた赤いラインから、強い光が十字に煌めいた。
「ぐ……おおおらあああああ!!」
腕に力が入る。脚が地面を蹴りあげる。
立ち上がる。前を向く。
片太刀バサミを構える。相手を睨む。
「どう……ナって……!?」
鮮血は機械でもないし人間でもない、服だ。
魂で動くそれに脳はない。しびれさせることなんてできるはずもない。
静電気を喰らっても、生地が逆立つくらいだ。
そもそも神衣の声が聞こえている流子以外には、鮮血はただの服にしか見えていない。
スライムヒグマもだが、意識のある参加者サイドも全員が、
わけのわからない流子の復活劇に驚いた。
(纏流子……本能寺学園の、生徒……、神衣という身体強化服を着込んで、
片太刀バサミという武器を使う……こんなの情報にナイ……!)
「黙って聞いてりゃ、好き放題言いやがって。
ナメてんじゃねェぞ! お前にお膳立てしてもらわなくてもなァ、脱出くらいしてやるってんだ!
でもその前に……てめーをぶっ倒した後でなァ!!!」
「な……」
「行くぞ鮮血! 武滾流猛怒(ぶったぎるもーど)だ!!」
(ああ、流子!)
神衣が蒸気を噴き、サスペンダーが閉まる。襟が巨大なアーマーになる。
片太刀バサミが変形する。通路の端いっぱいまで、長く、長く、伸びた。
さすがのスライムヒグマも攻撃の予感に狼狽え始める。
「や、やる気ですが……イイのですか……? 中に人がイル……んですよ!?」
「安心しな。ちゃァんと服だけ斬ってやる。
スライムだなんてたいそう冷たそうな服着てやがんなァ、球磨川! 今剥がしてやるよ!!」
「な……やめ……」
「――おらァッ!!!!」
神衣の襟のアーマーから、さらに蒸気が噴き出し、それがスラスターとなった。
動きをすべて鮮血が制御しているため少々不格好だが、意思はシンクロしている。
スラスターによって高速で駆け抜ける流子が、スライムヒグマのそばを通りぬけながら、
手に持った巨大片太刀バサミを振るい――。
「 戦 維 喪 失 ! 」
掛け声とともに。
スライムヒグマの身体がバラバラに四散し、ついでに球磨川の学生服も上下ともに四散した。
地面からスライムの意識制御部分が浮かされたことで、壁の触手も順次、ただの水に戻っていく。
そして一撃で服を消し飛ばすほどの高密度の衝撃を受ければ、
いかな再生能力といえど、すぐには再び球磨川を取り込むほどの体積を獲得できない!
「ぐ……だが、私は……死にマせ」
「マミさん!! 囲んで!」
「え?」
「早く! リボンであいつを閉じ込めて!」
「……え、ええ!」
空気中の水分を吸い取り、おそるべき速度で体積を増しかけていたスライムが、
ほむらの声に突き動かされるように発動されたマミのリボンに閉じ込められる。
「!」
四方八方から伸びたリボンが球状になり、隙間なくスライムを閉じ込めると、
だんだんと硬質化しながら透明になり――そして継ぎ目のないガラス玉になった。
巴マミのマスケット銃などの兵装は、リボンを変化させて作られているが、
別にマスケット銃だけしか作れないわけではない。単純な構造の物体であれば再現することは可能だ。
リボンから作られたバレーボール大のガラス球の中に、スライムは閉じ込められてしまった。
「……成程。詰まれたのは、……私のほうでシタか。
仕方ありません。そちらが・……どうやって……チェックから逃れるか、ご拝見と行きましょう」
再生能力に特化したスライムヒグマに、攻撃力はまったく存在しない。
パンツ一丁になった球磨川禊と共に、地面から生えたマミのリボンに受け止められると、
息を切らして振り返った流子、震えながらこちらを見つめるマミの前で、
手詰まりを認識したスライムはその身体から小さな触手を生やしてちゃぷりと振った。
白旗である。
◆
『やれやれ――これじゃあ裸エプロン先輩ならぬ、裸パンツ先輩じゃないか……。
で、どうするんだい、デビルちゃんに、ほむらちゃん。実際のところ、ここから逃げおおせる算段はあるの?』
「あたしには無い!」
『……流子ちゃんには聞いてないよ』
胸を張って無策を誇った流子にツッコミを入れると、球磨川は疲れ気味に息を吐いた。
聞けば、大嘘憑きはもう、しばらく使えないらしい。
そもそもスライムに囚われる前から、残弾は0になっていたのだという。
『助けてくれたところで申し訳ないけど、劣化大嘘憑き(マイナスオールフィクション)に頼るってのはナシだぜ。
僕だって、すごく参ってるんだ。もう少し体力を残していれば……全治は無理でも、
危険な状態にある凛ちゃんを、少しは元気づけられたかもしれないって思うと……悔しくて泣きたくなる』
その言葉はぎりぎり括弧付けていたものの、ほとんど本心と変わりないように見えた。
実際、万能の回復手段である劣化大嘘憑きが使えないのは本当に痛い。
チーム的にも、本人的にも、死に向かおうとしている少女を前に歯噛みするしかない現実は痛みを伴う。
なんとかしなければいけない――しかしどうすればいい?
凛、そして気絶したシンジを中心に寝かせ、その周りを囲んで座って、全員が悩むこととなった。
そうしている間にも凛の吐息が小さくなっていく。しびれを切らしたのは、ジャンだった。
「とにかくだ。凛だけじゃねえ、シンジも球磨も、球磨川も、俺や纏だって、もう限界だ。
ほむらも魔力が底を尽きた。自分の限界点くらいは分かってるだろ、みんな。休息が必要だ」
「それは分かってるクマ。だが、病院は上だクマ……」
「やはり……ビショップの提案に乗るべきだったか? 今となっては遅いし、俺は纏を支持するが」
「いや、あたしも先走りすぎた。すまねえと思ってる」
「……纏さんが奮起してくれなければ、例え上に昇れても、士気が無くなっていたわ。
そこについては、非難しない。でも……手詰まりであることは、確かね……戦利品は、ヒグマだけだし」
ちら、とほむらは横目で壁のほうを見る。
そこにはガラスの球体に入ったスライムヒグマと、リボンで四肢を拘束されたナイトヒグマ、
停止したまま動かなくなっているエヴァンゲリオン初号機が並べられていた。
ビショップは沈黙、ナイトは意識を取り戻していないが、
例えナイトが意識を取り戻したとしても、彼らから情報を得ることはできないだろう。
ジャンがほむらの視線を負ったあと、意見を述べた。
「ここから逃げるにしても、あいつらを置いてくと復活させられちまう。殺してくか?」
「スライムは死なないらしいから、連れていかないといけないわ。
でもそうね……どこかに隠せればいいのだけれど……それと、死体も」
悩ましいことは一つだけではない。
ポーンヒグマとルークヒグマの死体も放置したままであることに、思い至る。
ここから移動するにあたって、こちらの動きを誤魔化すためには、
出来ればこれらの死体も隠しておきたいところだった。どこかに仕舞えればいいのだが……。
いや――仕舞う場所なら、ある。
「待って」
「……診療所」
閃きかけたほむらの隣で、ルークの死体を見つめた球磨が1つのワードを呟く。
『ん? どうしたの、球磨ちゃん』
「診療所。
診療所って! 言ってたクマ! あの逆毛のヒグマ。自分たちは診療所で寝ていたって。
ヒグマの診療所が、あの王国のどこかにあるんだクマ。そこに、行けば」
「確かにそんなこと、ポーンも言ってたな。でも行けば……って、どこにだよ」
「C-6かもしれん」
デビルが会話にエリア名を挟む。
「C-6に総合病院がある。地下に診療施設を作るなら、上の病院から色々と持ってくる必要があるだろう。
病院は地下まであるはずだから、そこから専用のルートを伸ばして――まさか、そこから上に出れるのか?」
「あり得るクマ! もうこれは、診療所を目指すしかないクマ!」
「いや……駄目だ」
「そこまでどうやって行けばいいってんだ?」
球磨が逸るのを、デビルやジャンが固い顔で押さえた。
診療所があるのが確かだとしても、そこまで見つからずに行く方法がない以上、どうしようもない。
見つからずに行けたとしても、診療所の中のヒグマに助けを呼ばれたら終わりだ。
作戦は破たんしている。
しゅんとする球磨。
その間、ほむらは天井を見上げつつ、何かを呟いていた。
「……もう首輪はない。……信号が消失してもそれを悟られることはない。
エヴァが入っていたなら……ただそれは敵の作った空間。けど、こっちならどう?
うん、これで2つはクリア。……でも私はどうする? いや……デビルを残して、ああすれば……」
「どうしたアケミ?」
「よし、これなら……みんな。聞いて」
計算し終わったらしく、全員に向けて言った。
「もしかしたら、全てを解決することができるかもしれないわ」
「な!?」
「マジか!?」
『本当かい? 一体、どうやって……』
「考えに至るピースは、あのヒグマたちが教えてくれた」
ほむらはそう言って、立ち上がる。
そう。作戦は、思いついた。
敵ヒグマがとった2つの戦術が、ほむらの突飛な発想を手助けしてくれた。
ひとつ、異次元に隠れる能力を使用したポーンヒグマ。
ふたつ、その身体の中に球磨川の身体を取り込んだ、スライムヒグマ。
これにナイトヒグマの甲冑を合わせることで、その作戦は完成する。
「“トロイのマトリョーシカ作戦”。私たちは今から、ヒグマ診療所を奇襲する」
貴方たちの命を、一旦私に背負わせて頂戴。
そう言いながら暁美ほむらは、左手の盾を「開いた」。
◆5‐α
「さっきこっちから大きな音がした! 急ごう、泊くん!」
「ま、待って白ちゃん! 危険かもしれないよ、いったん棟梁に報告して」
「侵入者かもしれないよ! それにもし、水道管に何かあったら……」
「確かにそうだけど……ってなんだこりゃ!」
ヒグマ帝国の建築班を担当する穴持たずカーペンターズの一員、
No.89パク(泊)とNo.99ハク(白)の二名は、
球磨の砲撃の爆音に釣られ、先ほど通った道を引き返していたところだった。
そして、戦いが行われた廊下にたどり着くと、惨状に口を大きく開けた。
壁がえぐれ、天井が半分ほど崩落している。
えぐれた壁の中央に、血の跡をまき散らしながら、血まみれの鎧をまとったヒグマが1匹、座り込んでいる。
それは彼らもよく知っているヒグマ――キングの側近、ピースガーディアンのひとりナイトヒグマだった。
鎧はボロボロで数か所凹んでいた。がっくりとうなだれ、意識があるかどうかも、
「う……」
いや、意識はあった。パクとハクは慌ててナイトヒグマに駆け寄る。
「だ、大丈夫ですか!」
「診療所に……っていうかナイトさん、診療所で養生していたんじゃ!?」
「……“侵入者”だ。人間……“侵入者”の野郎どもに、やられた」
「侵入者!!??」
甲冑めいた装備の下から、がらがら声でナイトヒグマは確かに「侵入者」と言った。
帝国産であるパクとハクはそのワードに正直びびった。
「まずいじゃないですか! 侵入者はどこへ!?」
「分からねぇ……今、残りの“ピースガーディアン”で追っているはずだ」
「そんな……でもナイトさんが無事でよかったです。立てますか?」
「あ、ああ。なんとかな……だが、“診療所”、に戻らねぇといけねえな、これじゃ」
「わたし、肩貸しますよ! 泊くん!」
「あ、うん! 貸しますよ!」
ふらつきながら立ち上がったナイトヒグマに、ヘルメットを頭に乗せた2匹のヒグマが肩を貸し、
ヒグマ診療所に向けてナイトの大きな身体を誘導していく。
少し歩いたところで、ナイトヒグマが「うっ」とえずいてから、口から息を吐いた。
「げっぷ」
「?」「?」
「……なんでもない。進んでくれ」
2匹のヒグマは首を傾げたが、血を吐いたのかもと思うと言及をためらった。
そのまま歩くことに、した。
甲冑の中。
ナイトヒグマの脳内に、テレパシーが送られる。
(大丈夫? デビル)
腹部から聞こえたその声に、
ナイトヒグマは脳内で小さく声をくぐもらせ、返答する。
この近さであれば、キュゥべぇを介さずともテレパシーでの応答が可能だ。
(……大丈夫だ。全く、無茶を言う……ナイトヒグマが私と近い背丈だったからよかったものを)
(もう少し我慢して頂戴。頑張って、お腹を凹ませ続けるのよ)
ナイトヒグマの甲冑の腹部には、暁美ほむらがいる。
ナイトヒグマ――のふりをしているデビルヒグマが、
変形能力を使ってお腹を凹ませ、甲冑との間に作った空間にだ。
正直言ってかなり無理をしている。声はがらがらになるわ、息は上手く出来ないわで、
逆に本当に体調が悪いような雰囲気を出せてしまっているのは皮肉かもしれない。
(しかし、どうするんだ。診療所を奇襲とは)
(こっちは本物のナイトヒグマを捕らえている。あいつを人質に、診療所のヒグマに言うことを聞かせるのよ。
上へルートが開いているならそっちに誘導させる。無いなら、診療所で治療ね。
言うことを聞かせるのが無理なら……全員殺しましょう。あと5秒でもなんでも使って)
(物騒だな……やはり、私としてはヒグマは同胞。殺すというのは……)
(なるべく避けたいところではあるわ。どんな能力が出てくるか分からないのは、やっぱり脅威。
それに懸念は、もう一つある)
(もう一つ?)
(私はヒグマ帝国なんてものが成立するとは思えないわ)
ほむらは、地下広くに広がる王国そのものの危うさに言及した。
(私が戦ったポーンヒグマって子は、ただの遊びで私たちを殺しに来ていた。
でも、聞いたかぎりルーク、ナイトは汚名返上、ビショップは警告が主だったようじゃない。
一緒にこっちを襲ってきたたった4匹のヒグマでさえ意思統一がとれていないのよ?)
(……確かに、有富たちが作ったり、外来から連れてきた80匹のヒグマにも、
多種多様な価値観・宗教観・人生観を持つものが居たな)
(それが、いくらプレーンな奴らが9割だからって、1000匹でしょう……?
野生のヒグマと比べるのはおかしいかもしれないけれど、ヒグマって本来群れを作らない生物のはずだし。
個性豊かなヒグマを集めて作った王国がちゃんと機能するかと考えると、はっきりいって疑問だわ)
同じ魔法少女という種族内で繰り広げられた縄張り争いや諍いを経験しているほむらだからこそ、
それがヒグマになったときにどういう結末を迎えるかというイメージがすぐに出来た。
ましてこの広いと言えど狭い地下。食料争い、役割分担、思想の違いで、いずれ内乱になるはずだ。
(もし、診療所に向かう途中に異変があったら。また臨機応変な対応が求められるわね)
(頭の痛くなる話だな……知性を持つと言うのも、なかなか難しいものだ)
(でしょう? でも、思考を放棄しちゃだめよ。考えることをやめたら、それは、獣でしかない)
(分かっている……。考えると言えば、巴マミのことだが)
デビルが切り出したのは、先ほどの戦闘でさらに心的ダメージを負っただろうマミのことだった。
(月並みな言い方だが……大丈夫だろうか? 俺はどう声をかけていいのか分からん)
(奇遇ね、私もよ。どうにも、上手い言い方とか、
励ますとか慰めるとか……機微を見るっていうのかしら。苦手なのよね)
(……そうだな。お前の心は、有富とまでは言わないが、布束並みには伝わり辛そうだ)
(もう少し上手く話せたら、こんなに苦労してないって思うことはよくあるけれど……難しいわ)
音を立てないようにため息をつく。
(でも、もっとじっくり……1時間でも、2時間でも……彼女と向き合う時間が、必要だとは思う。
“この中”で、他のみんなとマミさんが触れあって、少しでも前を向ければいいけど……。
たぶんどこかを後押しするのにはまだ、私の言葉も、必要だと思うから。考えなきゃ。マミさんのことも)
そしてもちろん、まどかのことも。
テレパシーには出さずに最後にそう付け加えながら、
ほむらは自分の左腕についている盾を、優しく撫でる。
その盾の中に――巴マミたちは、隠れている。
【D-6地下 ヒグマ帝国 昼】
【暁美ほむら@魔法少女まどか☆マギカ】
状態:肉体は健康。魔力消費:極大
装備:ソウルジェム(濁り:極大)
道具:89式5.56mm小銃(30/30、バイポッド付き)、MkII手榴弾×10
基本思考:他者を利用して、速やかに会場からの脱出
0:巴マミと、もっと向き合う時間が欲しい
1:まどか……今度こそあなたを
2:脱出に向けて、統制の取れた軍隊を編成する。
3:凛を筆頭に消耗した軍隊を休息させるため、ヒグマ診療所を奇襲する。
4:ジャン、凛、球磨、デビルは信頼に値する。球磨川、マミ、シンジ、流子は保留ね。
5:グリーフシードなどに頼らずとも、魔力を得られる手段は、あるんじゃないかしら。
6:ヒグマが国なんか本当に作れるのかしら……?
[備考]
※ほぼ、時間遡行を行なった直後の日時からの参戦です。
※まだ砂時計の砂が落ちきる日時ではないため、時間遡行魔法は使用できません。
※時間停止にして連続5秒程度の魔力しか残っておらず、使い切ると魔女化します。
35
【穴持たず1(デビル)】
状態:疲労極大
装備:ナイトヒグマの鎧、ヒグマサムネ
道具:なし
基本思考:満足のいく戦いがしたい
0:マミが心配だ。
1:ヒグマ帝国……一体誰がこんなことを?
2:私は……マミに一体何の感情を抱いているのだ?
3:この様子では、実験はもう意味がないのでは?
[備考]
※デビルヒグマの称号を手に入れました。
※キング・オブ・デュエリストの称号を手に入れました。
※
武藤遊戯とのデュエルで使用したカード群は、体内のカードケースに入れて仕舞ってあります。
※脳裏の「おふくろ」を、マミと重ねています。
※ナイトヒグマに変装中です。
【穴持たず89(パク)と99(ハク)】
状態:健康
装備:おそろいのヘルメット
道具:工事用の工具
基本思考:ツルシインの下、下水道の防水処理をする。
0:ナイトヒグマさんをヒグマ診療所へ連れて行く。
[備考]
※仲がいいです。
◆5‐β
碇シンジが目を覚ますと、そこは異空間だった。
「!?」
ばっと起き上がる。辺りを見回す――暗黒空間に、星が回っているかのような空。
地面は漆黒で、感触としてはタイルに近い。硬くてつめたい。
ここはどこだ――と思った視界に、ランドマークのようなものが見える。
巨大な砂時計だ。
シンジは眼を凝らす。砂時計がその砂粒を落とす中、
ふもとにちらほら、動くものが見える。どうやら人のようだ。シンジは砂時計を目指して駆けた。
そこに居たのは、さっきまで一緒に行動していたメンバーだった。
10mはありそうな砂時計にもたれかかるように纏さんが目を閉じていた。
纏さんの隣では、ヒグマが拘束されて眠っている。
そばにガラス玉があって、その中にあの水ヒグマが居た。ぷるぷる動いている。
あとエヴァンゲリオンもいた。が、その隣にあったヒグマの死体と生首は、直視できなかった。
『シンジくんじゃないか。そっちにいたのか、よかった』
「球磨川さん! それにみなさんも……あの、球磨川さん。その、服は?」
『気にしないでくれ。ちょっとヌーディストしてるだけだから』
砂時計のそばの地面で、球磨川さんは数人と共に、床に眠る少女を囲んでいた。
球磨川さんのほかには、マミさんと、大きな機械を背負った……球磨さん、
それとアメリカ軍人っぽい男の、ジャンさん。床に眠っているのは、凛さんだった、と思う。
出会ってから少しの時間であの恐ろしい少女との戦いに巻き込まれ、
地下に潜ってからも歩きながらの散逸的な会話しかできておらず、出会った組はまだ名前もおぼろげだ。
ちなみに球磨川さんはパンツ一丁だった。
それはいいとして、球磨川さんがしていたあることに、シンジは驚いた。
「……って、何してるんですか!!??」
『ああこれは。ちょっと、思いついたから、僕なりの“処置”を凛ちゃんにね』
球磨川さんはどこからか大きく長いネジを取り出すと。
中央で眠っている、凛さんの胸に向かって、ぶすりと突き刺してしまう。
『劣化却本作り(マイナスブックメーカー)。指した人のステータスを“僕と同じ”にしてしまうマイナススキル。
だけど、今回ばかりはプラスの意味だ。
この球磨川禊、しぶとさだけには定評がある。
こうしてやれば――凛ちゃんも僕と同じしぶとさを手に入れるはずさ。ま、気休めかもしれないけど』
「ほ、本当に大丈夫なんだろうな……」
『君こそ大丈夫かい? これでもまだ気づいてないんだよね?』
「……何にだ?」
『うん、絶句』
「あの……その、凛さんは?」
「危ない状況なんだクマ。マミの魔法を使ってもまだこんな調子クマ。
本当に、藁にでもネジにでもすがりたいくらいんだクマ」
確かに、小さく息をする凛さんの顔はひどく苦しそうだった。
腕やちらりと見えるお腹には火傷の跡も見えるし……幸い顔にはないみたいだけど、
どうやらかなり重症らしい。シンジがやられたあとも、戦いは続いたようだ。
ただこうして相手を捕らえて? 別の場所に居るってことは、そのあと勝ったらしい。
それだけに、剣を向けられたくらいでびびって気絶してしまった己が不甲斐ない。
「ええと、じゃあ……びょ、病院に運ばなきゃ!」
「今やってんだよ、それを」「そうクマ」
「え? でも止まって……そういえば、ここはどこなんですか?」
『ここはね、ほむらちゃんの盾の中なんだってさ』
球磨川さんがちょっと理解できないことを言った。
『四次元ポケットの中がどうなってるのか――ってのは子供のころからの疑問だったけれど、
実際に入ってみるとなんというか、こんなもんかってカンジだよね』
「え……?」
「あー、分からないなら分からないでいいクマ。正直、球磨たちもよく分かってないクマ」
首をかしげるシンジを、球磨さんがなだめた。
「ほむらが言うには、ほむらが“出す”と思わない限りはここから出れないかもしれないらしいクマ。
実際、出口もないっぽいクマ。逆に言えば絶対安全ってことでもあるクマね」
「代わりに、アケミが死んだら永遠に出れないってことでもあるがな」
「はあ……よく分からないけど、分からなくていいってことでいい、んですか……」
「よく分からねぇと言えば、お前だな」
と。
突然後ろから、声がする。
振り向くと、纏さんがいて、指を指していた。
指している方を向くと、マミさんが居た。凛さんを泣きそうな目でみながら、さっきから喋っていなかった。
纏さんの指摘は、鋭くマミさんを指した。
「お前、よく分からねえ。なんでだ? なんで。戦わなかった」
「……」
『流子ちゃん、マミさんは今ちょっと』
「今? なんだってんだ? 最後に見た限りじゃあ――お前、ここにいる中で一番強いだろ。
なんでさっき、最後の最後まで戦わなかった? 力の温存にしてもやりすぎだ」
「……」
「お前が最初から戦ってたら。もっと被害は抑えられたかもしれねぇ。
そこで倒れてるそいつも、お前が本気になってりゃ攻撃を喰らわなかったんじゃねーか?
あたしはあんま、こういうこと言うタチじゃねーんだが……ちょっとおかしいぞ、お前」
「……分かってる。分かってるのよ。でも……」
「でもじゃ、分かんねえ。何かあんなら、話してみろよ!」
纏さんが叩き付けるように言う。マミさんは、小動物じみてうなだれる。
「…………そうだな」
続いて、ゆっくりとジャンさんが同意した。
「アケミにはそっとしておいて、と言われたが……こうしてチームを組む流れになっちまった以上、
俺たちにもあんたのことを知る権利があるはずだ。
地下に来てからすぐ、二人で話してたのは知ってたが、俺らはその内容すらよく把握してねぇしな」
「そうだクマ。誰かに話して楽になることって、あるんだクマ。
ほむらも最初は、ホント鬼! って顔してたクマ。でも、今のほむらは少しはよくなったと思うクマ。
マミも、そう思ったんじゃないかクマ? それが仲間ができるってことだクマ」
「……仲、間」
『そうだね。そういうことなら僕は席を外そう』
「え?」
『いやいや――そういうのってさ、僕抜きでやったほうがいいんだよ。
僕は重い話を軽く笑い飛ばすのが大好きなキャラだってこと、自分でもちょっと忘れかけてたぜ。
大事な話も僕がいるとホント締まんなくなっちゃうからさ、ここは潔く消えておくよ! じゃあね!』
「何言ってるクマ。お前だってもう艦隊の一員だクマ。ジャン、押さえるクマ」
「了解」
『ちょ、待って待って待って待って。男二人でくっついても絵面に華がないだろ!』
「安心しろ、俺はホモじゃねえ」
ちゃっかり重要場面から逃げようとした球磨川(パンツのみ着用)をジャンが抑える。
本来なら確かにそれもギャグになりそうな場面だったけれど――。
どしりとあぐらをかいてワイルドに座り込んだ纏さんの放つ「逃がさない」気迫が、空気をリセットする。
「纏流子。と鮮血だ。この片太刀バサミの「もう片方」を持ってる奴を探してる。
そいつはあたしの父さんを殺した。父さんはこれと鮮血を残してた。
何がなんだか、分からねえ。だから、知らなくちゃならない。それが今のあたしの生きる理由。戦う理由だ」
纏さんは、持参武器らしきそれを見せつつ、そう言ってから。
「――お前は、何だ?」
斬り込んだ。
「わ」
マミさんは、唇をがたがたと震わせながらも、言葉を紡ぐ。
「わ……わたし、は――私にはっ……。何も、ないの……!」
◆
始まった、巴マミによる感情の吐露をしっかりと聞きながらも、
球磨はこの四次元空間の中に入ったときから感じている“微かな感覚”について考察をしていた。
……なにかに見られているような気がする。
この空間には、いまここに見えている他にはもう生き物なんていないはずなのに、
なにかが近くにいるような、そんな感じがしてたまらないのだった。
ヒグマの中に見える奴がいるかもしれないと、電探とマンハッタン・トランスファーは球磨が持っている。
もちろんどちらにも他生物の反応はない。それでも……だ。
(気のせいなら、いいんだけどクマ)
考えすぎても動けなくなるし、他のことを考えるか。
気分転換をしようと球磨は、目の前でパンツ一丁でジャンに抵抗している少年のアダ名を考え始めた。
【暁美ほむらの盾の中 昼】
【ジャン・キルシュタイン@進撃の巨人】
状態:右第5,6,7,8肋骨骨折、疲労
装備:ブラスターガン@スターウォーズ(80/100)、ほむらの立体機動装置(替え刃:3/4,3/4)
道具:基本支給品、超高輝度ウルトラサイリウム×27本、省電力トランシーバーの片割れ、
永沢君男の首輪
基本思考:生きる
0:許さねぇ。人間を襲うヤツは許さねぇ。
1:リンが心配だ。それにしても、俺が何を分かってないって?
2:アケミが戻って来た以上、二度と失わせねえ。
3:ヒグマ、絶対に駆逐してやる。今度は削ぎ殺す。アケミみたいに脳を抉ってでも。
4:しかしどうなってんだ? ヒグマ同士で仲間割れでもしてるのかと思ったら、帝国だと?
5:リンもクマも、すごい奴らだよ。こいつらとなら、やれる。
[備考]
※ほむらの魔法を見て、殺し合いに乗るのは馬鹿の所業だろうと思いました。
※凛のことを男だと勘違いしています。
※首輪の通信機能が消滅しました。
【球磨@艦隊これくしょん】
状態:疲労、中波
装備:14cm単装砲(弾薬残り極少)、61cm四連装酸素魚雷(弾薬残り少)、13号対空電探(備品)、双眼鏡(備品)、マンハッタン・トランスファーのDISC@ジョジョの奇妙な冒険
道具:基本支給品、ほむらのゴルフクラブ@魔法少女まどか☆マギカ、超高輝度ウルトラサイリウム×27本
基本思考:ほむらと一緒に会場から脱出する
0:ほむらの願いを、絶対に叶えてあげるクマ。
1:ほむらは戻って来たけれど、このマミって子もなにか抱えてるっぽいクマ……。
2:ジャンくんも凛ちゃんも、本当に優秀な僚艦クマ。
3:これ以上仲間に、球磨やほむらのような辛い決断をさせはしないクマ。
4:今度こそ! 接近するヒグマを見落とすなんて油断はしないクマ。水は反則すぎクマ!
5:何かに見られてる気がするクマ……? あ、そうだ。球磨川との差別化をしなきゃクマ。
[備考]
※首輪の通信機能が消滅しました。
※四次元空間の奥から謎の視線を感じています。でも実際にそっちにいっても何もありません。
※メモ:球磨川のアダ名を考える
【巴マミ@魔法少女まどか☆マギカ】
状態:健康
装備:ソウルジェム(魔力消費(大))
道具:基本支給品(食料半分消費)、ランダム支給品0~1(治療に使える類の支給品はなし)
基本思考:――――。
0:私は、なんのために生きているの?
1:誰かと繋がっていたい
2:ヒグマのお母さん……って、どうなのかしら?
※支給品の【キュウべえ@魔法少女まどか☆マギカ】はヒグマンに食われました。
※魔法少女の真実を知りました。
【球磨川禊@めだかボックス】
状態:疲労(最大)
装備:なし
道具:基本支給品、ランダム支給品0~2(治療には使えないようだ)
基本思考:???
0:『マミちゃんと凛ちゃんは大丈夫かな?』
1:『そうだね』『今はみんなについてこうかな』『マミちゃんも巨乳だしね』
2:『凪斗ちゃんとは必ず決着を付けるよ』
[備考]
※所持している過負荷は『劣化大嘘憑き』と『劣化却本作り』の二つです。どちらの使用にも疲労を伴う制限を受けています。
※また、『劣化大嘘憑き』で死亡をなかった事にはできません。
※『大嘘憑き』をあと数時間使用できません。
※首輪の通信機能が消滅しました。
【碇シンジ@新世紀エヴァンゲリオン】
状態:疲労大
装備:デュエルディスク、武藤遊戯のデッキ
道具:基本支給品、エヴァンゲリオン初号機
基本思考:生き残りたい
0:ええっと、それで結局ここはどこなんだ……?
1:脱出の糸口を探す。
2:守るべきものを守る。絶対に。
3:……母さん……。
4:ところで誰もヒグマが喋ってるのに突っ込んでないんだけど
5:ところで誰もヒグマが刀操ってるのに突っ込んでないんだけど
6:ところでいよいよヒグマっていうかスライムじゃん
[備考]
※新劇場版、あるいはそれに類する時系列からの出典です。
※エヴァ初号機は制限により2m強に縮んでいます。基本的にシンジの命令を聞いて自律行動しますが、多大なダメージを受けると暴走状態に陥るかもしれません。
※首輪の通信機能が消滅しました。
【纏流子@キルラキル】
[状態]:疲労大、貧血気味
[装備]:片太刀バサミ@キルラキル、鮮血@キルラキル
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いに対する抵抗
0:今のところ、こいつらは信用できそうだが……マミには話を聞いてみねえとな。
1:智子を探す
2:痴漢(
鷹取迅)を警戒
[備考]
※首輪の通信機能が消滅しました。
【星空凛@ラブライブ!】
状態:感電による重体
装備:劣化大嘘吐きの螺子@めだかボックス
道具:基本支給品、メーヴェ@風の谷のナウシカ、なんず省電力トランシーバー(アイセットマイク付)、手ぶら拡声器
基本思考:この試練から、高く飛び立つ
0:しっかり状況を見極めて、ジャンさんをサポートするにゃ。
1:ほむほむが戻って来たにゃ!
2:自分がこの試練においてできることを見つける。
3:ジャンさんに、凛が女の子なんだって認めてもらえるよう頑張るにゃ!
4:クマっちが言ってくれた伝令なら……、凛にもできるかにゃ?
[備考]
※首輪の通信機能が消滅しました。
※球磨川の劣化大嘘吐きによって、球磨川と同じステータスになっています。
【穴持たず202(ナイトヒグマ)】
状態:“気絶”、マミさんの“リボン”で“拘束”中
装備:なし
道具:なし
基本思考:“キング”にもう一度認められる
0:“メシ”より大事なもんなんてねぇ。
1:俺の剣には“信念”が足りねえ……だと……。
[備考]
※キングヒグマ親衛隊「ピースガーディアン」の一体です。
※“アクロバティック・アーツ”でアクロバティックな動きを繰り出せます。
※オスです。
【穴持たず203(ビショップヒグマ)】
状態:ガラス玉の中に閉じ込められ中
装備:なし
道具:なし
基本思考:“キング”の意志に従う
0:……夏の虫たちのお手並み拝見。
[備考]
※キングヒグマ親衛隊「ピースガーディアン」の一体です。
※空気中や地下の水と繋がって、半径20mに限り、操ったり取り込んで再生することができます。
※メスです。
※ルークヒグマによって、「ほむら達9名が帝国に侵入したこと」、
「発見位置:地下D-7」、「現在交戦中、増援求む」などの情報が、粘菌通信で発信されました。
最終更新:2014年08月12日 02:00