地底湖の畔。
 かつてはクッキー工場だったその工廠の中で、いくつものモニターの前に座る一頭のヒグマがいた。
 穴持たず677――。つい最近『ロッチナ』という名前を得た彼の元に、外からもう一頭ヒグマがやってくる。


「お疲れ様っぽい? だいたい知ってると思うけど、各部隊の動きを報告しても良いっぽい?」
「言って、夕立提督」


 駆逐艦夕立が好みであるらしいそのヒグマは、背を向けたままのロッチナに向けてつらつらと語り始めた。


「残念なお知らせがほとんどっぽい。
 モノクマさんと一緒に放送室を襲撃していた『第四かんこ連隊』は、キングに丸め込まれて卯月提督以下全員造反。
 子日提督姉妹の『第五かんこ連隊』も、食糧班の中心部に攻め込んで逆に歓待されたっぽい。
 食糧庫に行った赤城提督は空ぶって、卯月提督始めマックス提督や愛宕提督に引っ張られる形で『第六かんこ連隊』も指揮から外れちゃった。
 しめて3連隊150頭が完全に私たちと分断されたとみていいっぽい」


 聞きながら、ロッチナは地下に散らばったモノクマからのカメラ映像をモニター上に切り替えつつ、周辺の状況を再確認してゆく。

「それで……、しろくまカフェに行った『第八かんこ連隊』は?」
「シロクマさんに返り討ちにあったっぽい。暁提督以下、50頭全員名誉の戦死を遂げたっぽい」
「……ま、『第八』の連中だし、ブチ切れたシロクマさんに真っ向から当たればそんなものだよね」

 司波深雪とモノクマの戦闘映像なども、そこにはしっかりと記録されている。

「とりあえずシロクマさんはモノクマさんが直接抑えたみたいだから大丈夫っぽい。シバさんとキングが釣れたみたいだから、そこで仕留めるつもりっぽい。
 おっつけ『第七かんこ連隊』の連中も援軍としてカフェに到着するっぽい」
「そりゃ良かった」


 夕立提督という呼称のそのヒグマの報告を受け、ロッチナはさもおかしそうに肩をすくめた。
 穴持たず677のその挙動を見て、夕立提督は首を傾げる。

「……全体としてはいい報告じゃなかったっぽいけど、ロッチナはなんで笑ってるの?」
「いやまぁ、適当に『口減らし』するには丁度いい環境になったなぁと思って。私ら『艦これ勢』始め、反乱に加わったのは帝国のヒグマの過半数に及ぶ500頭だ。
 流石に多すぎるんだよ。全員が生き残って艦娘の栄に浴するには。
 モノクマさんには悪いけど、ヒグマ帝国の支配者や人間どもと上手い具合に下々が潰し合って、私や、キミたち連隊長クラスが残ればそれで良い」
「……それ他の連中に言わないようにねロッチナ」
「言うわけないだろ。まぁ、『第四』の連中が離反したのは少々痛いと言えなくもないが……、こちらの主力はキミたちだしね。まだ問題ないだろう」
「『第一かんこ連隊』連隊長として、ありがたく褒められておくね」


 ロッチナを師団長として、艦これ勢の反乱軍は、全体を10の連隊に分けた指揮系統を立ち上げていた。
 各隊の連隊長と、それに続いて主だった艦これ勢のメンバーを列挙すると、だいたい次のようになる。


 第一かんこ連隊: 連隊長・夕立提督    ビスマルク提督
 第二かんこ連隊: 連隊長・ムラクモ提督
 第三かんこ連隊: 連隊長・チリヌルヲ提督
 第四かんこ連隊: 連隊長・卯月提督    愛宕提督・マックス提督
 第五かんこ連隊: 連隊長・子日提督姉       子日提督妹
 第六かんこ連隊: 連隊長・赤城提督
 第七かんこ連隊: 連隊長・龍田提督    天龍提督
 第八かんこ連隊: 連隊長・暁提督(故)  雷提督(故)・電提督(故)・漣提督(故)
 第九かんこ連隊: 連隊長・大井提督    球磨提督・多摩提督・木曾提督
 第十かんこ連隊: 連隊長・ゴーヤイムヤ提督    スイマー提督(故)


 各連隊は50頭の穴持たずで構成され、それぞれが帝国の各方面に散開して襲撃を行なっていた。
 上記の穴持たずたちは、艦これ勢の中でもヒグマ提督やロッチナと同じく、ヒグマ帝国の中で最も早く艦隊これくしょんのファンとなった面子だ。
 このメンバーの配置は、各ヒグマの単独戦闘能力もさることながら、それぞれの趣味・嗜好を尊重しての組み分けとなっており、言わば『クラスタ』のような繋がりになっている。
 そのため、単純に主要艦これ勢の数とその隊の実力が比例しているわけではない。

 中でも第四かんこ連隊は、連隊長が駆逐艦なりきり勢である上、その下には巨乳好き・貧乳好き・変態・独逸かぶれなど、バラエティに富んだメンバーが仲違いすることもなく和気藹々と互いを尊重して艦これ談義に興じることができるという、ある意味貴重な部隊であった。


「そう言えば、キミに預けた『非常食』ってちゃんと機能してる?」
「……『非常食』って、『ビスマルク』のこと? それならあいつがちゃんと『操舵』してるっぽい。
 解体した素材はどうするのロッチナ? また新しく艦娘でも作るっぽい?」
「そう何個も『艦娘の形をした非常食』があったって困るだろが。全部武器にしろ。
 大口径主砲じゃなくて中小口径のヤツを量産して全部隊に補給できるように」
「ヒュ~ッ、相変わらずだね。了解っぽい?」


 生身の人間の肉体を持った艦娘など、ロッチナには食物にしか思えない。
 夕立好きのヒグマが連絡に部屋から出ていこうとした時、突如、ロッチナの見ていたモニターに大きな動きがあった。


『ハハハハ!!!最高だな合体ってのは!!!イライラがすっかり納まった!!!』
『ま、街が破壊されていく!?』
『暴れるんなら地上で暴れろゴルァ!!!!』
『ええい!シーナーさん!?シバさん!?一体何やってるんだ!?このままでは帝国が!!!』
『フハハハハハ!!!!!!』
「……地上からの侵入者っぽい?」
「そうみたいだな。私としちゃあ、あそこにまだ、帝国指導者を信用してる上に安穏と休んでるヒグマがいたことに驚いてるんだけど。『第九』の連中は何やってるんだ?」
「いつも通りの勧誘なんじゃない?」
「阿呆どもめ……、死んだな」


 モノクマの視界をモニター一杯に広げて、ロッチナは同胞を罵りながら笑った。


    ㈹㈹㈹㈹㈹㈹㈹㈹㈹㈹


「みなさーん! クマたちと一緒に艦これをやるクマー!!」
「帝国の抑圧を排除して、興じるタマー!!」
「艦むすのマネすると楽しいキソー!!」


 その時、地上から浅倉威が襲撃していた居住区には、『第九かんこ連隊』のヒグマ50頭が向かっていた。
 そこで『艦隊これくしょん』と書かれたビラを配っているのは、皆一様にウィッグやコスチュームで艦娘のような何かに扮した穴持たずたちである。

 筋肉で満ち満ちた体に無理矢理衣装をお仕着せ、カツラを嵌め、野太い声で叫ぶその姿はまさしく変態。
 どう贔屓目に見ても気持ち悪い。

 居住区のヒグマたちは、寄ってくる彼らを見てみぬふりをしながら、足早に通り過ぎてゆくのだった。


「うーん……、おかしいクマ。なんで大人気の球磨型の真似が受けんクマ」
「兄さんは特に地上の参加者にもいるタマ。知名度はあるはずなのにタマ」
「卯月提督とか夕立提督のところには人が来るのにおかしいキソー!!」
「そうクマノ!!」
「おかしいトネ!!」


 残念なことに、おかしいのは彼ら自身であることを教えてくれる者がこの連隊には存在しない。
 むしろロッチナが、艦これ勢の中でも特に勘違いした奴らをこの連隊に押し込めたと言った方が正しいのだが。

 球磨が『クマ』と語尾に発するのは辛うじて間違ってはいないが、多摩の語尾は『タマ』ではないし、況や木曾はそんな姉達の轍をそもそも踏んでいない。
 そんなメインの提督たちに、さらに劣化コピーの如く追随する他のヒグマたちについては言わずもがなである。
 主に駆逐艦の愛玩勢である『第八かんこ連隊』などが彼らの行動を目の当りにしたら、『クソニワカがぁー!!』の罵倒と共に怒り狂っていたことだろう。

 そもそも種の異なる人間の真似をヒグマがしている点からして、他の一般ヒグマにはとんと理解しがたいことであり、なおかつ彼らはそれをひたすら押し付けようとしているだけだ。
 この杜撰な勧誘で興味を持つ方がおかしい。
 彼ら自身が例に出した他の連隊のなりきり勢のように、自分の役目や他者とのコミュニケーションをしっかり取って節度を持ったレイヤー業に徹しているわけでもないのだから。

 付け加えて言うなら、卯月提督と夕立提督はメスである上、艦娘の衣装を着てもそれなりに見れるくらいには体をシェイプアップしている。
 コスプレにも努力が必要なのである。


「ハハハハ!!!最高だな合体ってのは!!!イライラがすっかり納まった!!!」
「ま、街が破壊されていく!?」
「暴れるんなら地上で暴れろゴルァ!!!!」
「ええい!シーナーさん!?シバさん!?一体何やってるんだ!?このままでは帝国が!!!」
「フハハハハハ!!!!!!」


 融合した浅倉威――浅倉威Jに彼らが気付いたのは、その時だった。
 13人分の人体の体積が一つに融合したその姿で、彼は次々に石造りの住宅を倒壊させてゆく。


 その巨体の身長はなんと――、約4メートル30センチ。
 あのデビルヒグマを若干上回るほどの大きさだ。
 13人分の彼の肉体が融合すると、掛け値なしでこの大きさになる。


「なんだ! どんだけデカイ侵入者が来たかと思って驚いたクマ!! あんなの騒ぐことないクマ!!」
「そうタマー!! 帝国の指導者に頼るまでもなく、タマたちがやっちゃうタマー!!」
「キソたちの兵装にかかればすぐだキソー!! 見てるキソー!!」
「北上さん……」
「あ、大井提督!!」

 騒ぐ隊員に制止の声をかけたのは、一際数多くの武装を身に携えた一頭のヒグマだった。
 燃料と酸素魚雷を満載した重雷装の出で立ちに真っ白なミニスカセーラー服を纏い、さらにヒグマの身体を活かして過積載気味の砲塔を積んだその姿は、気持ち悪いを通り越して、一種怖気の振るうような威容さえもある。

 大井提督と呼ばれるそのヒグマは、呪詛のように「北上さん、北上さん」と呟きながら茶髪のウィッグを揺らし、暴れる浅倉威に向けて砲塔を構えた。
 その姿に気付いた浅倉は、彼の容姿に軽く吹き出しながら一枚のカードを噛んだ。


「クハハ、何かヘンな格好のヤツが出てきたぞ、オイ」
「北上さん、キタ北上さん、北上さん……」


 俳句のような韻律を踏んだ直後、大井提督はガッとその両眼を見開いた。


「キタキタキタキタキタキタキタキタキタキタキタキタ北上さぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」


 全身にマウントされた砲口が火を吹く。
 怪鳥のような叫びと共に放たれる弾頭が次々、浅倉の姿を捉えて硝煙を撒いた。

「やった! さすが大井提督クマ! 北上さんに狂った時の大井さんのマネをしたら右に出る者はいないクマ!!」
「完璧なヤンギレタマー!!」
「かっこいいキソー!!」
「北上さん……、きたきた北上さん……」


 見る影もなく穴だらけになった地面の前に、大井のコスプレのような何かをしたヒグマは恍惚とした表情で呟いている。
 飽和火力を叩きつけられた一帯にはもうもうと硝煙が立ち込め、ほとんど見通しが利かなくなっていた。


「見たクマ帝国のみんな!? 艦隊これくしょんを崇めるクマー!!」
「うーん……でも周りが良く見えないタマー」
「ああそうだな。お蔭でお前らの後ろを取るのは楽だったぜ」
「え……?」

 二名の次に言葉を繋いだのは、聞きなれた「キソー」という声ではなかった。
 木曾提督は振り向いた二頭の背後で、ボリボリとその首筋から食べられている。

「クマー!?」
「タマー!?」
「北上さんッ!?」
「おらよ」


 全くの無傷であった浅倉威は、そのまま両腕を振るって、球磨と多摩の低クオリティな物真似をしていたヒグマを叩き殺した。
 浅倉は先程の嵐のような弾幕を、トリックベントの幻影を残すことで完全に回避し、彼らの背後に回っていたのである。

 予想だにしなかった奇襲に、第九かんこ連隊のヒグマたちはたちまち半狂乱に陥った。
 背後に追いすがられて次々と叩き殺されてゆく同胞の姿に、大井提督は震える。
 初めこそ茫然としていた彼は次の瞬間、再びそのフルアーマーの如き艤装を構え直し、吠えた。


「みさん、上さんッ! 北上さぁぁぁぁぁんッ!!」
『スイングベント』


 彼が再び全力で砲火を放とうとした時、振り向きざまに浅倉は鞭を振るっていた。
 電撃を帯びたそれが叩いたのは、重雷装巡洋艦として作られた大井の、その魚雷だ。

「か……ッ!?」

 信管に加えられた衝撃で、魚雷は過たずその効果を発揮した。
 北上さん以外の言葉を発することのなかったそのヒグマを、至近距離からの爆発が包む。
 そして次々と彼の装備は誘爆し、大井提督の体はしばらく、出来損ないのネズミ花火のようにそこらじゅうを踊った。

 踊りが終わった時、そこにはもはや、異臭を放つ消し炭しか残ってはいなかった。


「ハッハッハ、一匹消えちまったなぁ! だがそれでもひぃふぅみぃ……、49匹もいりゃあ十分か!」
「トネェェッ!?」
「クマノーッ!?」
「チクマァァ!?」


 第九かんこ連隊は轟沈した。


    ㈹㈹㈹㈹㈹㈹㈹㈹㈹㈹


「ほら……、言わんこっちゃない」
「なりきり勢があんな奴らばかりだと思われるとこっちまで迷惑っぽい?」
「面汚しどもが消えてくれてむしろ良かったかもしれないな」

 居住区の惨状をモニターしていたロッチナは、その光景にも未だ余裕の表情であった。
 夕立提督は、肩をすくめながら彼に尋ねる。

「どうするの? ビスマルクでも向かわせてみる?」
「ハハハ、あのクソの役にも立たん非常食を出してどうするんだ? あいつは工廠の隅でゴミ処理しとけばいいんだよ」
「そうだよね~」


 朗らかに笑う二人の元に、その時モノクマの一頭が伝言を伝えにくる。

「あ、い~ぃじゃないですかー。南東に行ってたムラクモ提督とチリヌルヲ提督が間に合ったっぽい。
 あの大井提督も時間稼ぎにはなってくれたっぽい?」
「時間通りだな。我々艦これ勢に恭順しなかった奴らはどうした?」
「一般ヒグマ百数頭、みな平等に殺して差し上げたっぽい」
「それは重畳」


 モニターには、地底湖の工廠に次々と運びこまれる新鮮なヒグマの死体と、それを前に狂った嬌声を上げるビスマルクの姿があった。
 その様子にほくそ笑むロッチナへ、画面の端に通信が入る。
 通話口には、青みがかった体毛と白い目を持つヒグマが映っていた。


『こちらムラクモ。まずは南東方面への反乱つつがなく完了したことを司令官に報告する』
「ご苦労。斑目さんのメルトダウナーの調子が良いみたいで何よりだ」
『いかにも。ついては、続く作戦は北方に現れた、かの人間を掃討することで構わないな?』
「そうしてくれ。……そこにいるヒグマたちが、帝国ではなく我々になびくほどに、華やかにな」
『ふふっ、心得た。待ちかねたぞ……!』


 通信を切り、ロッチナは微笑を浮かべながらモニターを見据える。
 さらに巨大化した浅倉威が暴れている画面の中に、その時手前から巨大な機体が映り込んできていた。


    ㈹㈹㈹㈹㈹㈹㈹㈹㈹㈹


「やだぁあ!! シーナーさん、助けてぇぇッ!!」
「シバさんッ! ツルシインさぁん!!」
「グハハハハ!!」

 逃げ惑うヒグマたちを追いすがる浅倉の身長は、既にフロアの天井ギリギリの7メートル20センチにまで巨大化していた。
 浅倉威自身が、体積比で62倍にまで肥大しているのである。
 掛け値なしに、単純比で約4倍の高さから、断面積比で約16倍の筋力が、62倍の重量の一撃をその豪腕に揮う。
 その攻撃が、眼下でへたり込むヒグマたちをまとめて引き裂こうとしたその時だった。

 突如、一条の閃光が浅倉の腕を貫く。

 鮮やかな緑色をしたその閃光は、一瞬にして彼の下腕を骨肉から微塵に消し飛ばす。
 そして刹那、空気を揺らす一喝がその場に轟いた。


「『第二かんこ連隊』連隊長ムラクモ、出撃する!! 我の前を遮る愚か者め、沈むがいい!!」
「あぁ……? またケッタイなモンが出てきたなァ。モビルスーツとかいうのかそりゃ」


 浅倉の前に現れたのは、彼とほとんど同じ巨大なスケールを有した、漆黒の四足歩行ユニットだった。

 ――擬似メルトダウナー斑目カスタム。

 学園都市の誇るレベル5の超能力者の第四位、『原子崩し(メルトダウナー)』のデータを元にSTUDYが開発していたのが、この単独戦闘ユニットの『擬似メルトダウナー』である。
 それを更に、研究員の小佐古および斑目が専用機として機能拡充し、更にそれをヒグマ用にチューンアップしたもの。
 それが、ムラクモ提督の駆るこの機体である。

「艦これ勢の者です。今のうちに一般の方は避難を!」
「あ、あ……、ありがとう……」

 ムラクモ提督が名乗りを上げている間、揃いのカーキ色の軍服を羽織ったヒグマたちが、浅倉に襲われていた同胞を次々と避難させてゆく。
 浅倉は眼下のその様子を見て、高らかに笑った。


「ハッハッハ、ビームが出るからって勝った気かよ? 甘いなぁ!!」
「済度し難き愚か者よ……。ならば試してみるか?」


 擬似メルトダウナーの砲口から、瞬間的に緑色の閃光が迸った。
 それを浅倉は、巨体とは思えぬ身のこなしで屈んで躱す。

『ストライクベント』
「来るか――」

 弾けた右手に回転怪獣の頭部を生成し、浅倉はムラクモ提督が搭乗するその機体に向けて飛び掛かる。
 その瞬間、突如擬似メルトダウナーの前方に、緑の光で形成された円盤が形成されていた。


「――なんだそれはァ!!」
「グオォッ!?」


 電子を波と粒子の中間状態に固定することでその場に停滞させる『原子崩し(メルトダウナー)』で形成された光の膜は、襲撃する浅倉の右腕を一瞬のうちに弾け飛ばしていた。
 続けざまに機体の脚部で繰り出された突きに、浅倉の体は大きく後方へ吹き飛ばされる。


「我が『斑目式原子崩御』による攻防一体の『攻勢崩御』。貴様如きモグリに屠れるものか!」
「イライラさせやがって……。吹き飛ばしてやるよ……」


 浅倉はふらふらと立ち上がりながら胸部の装甲を開く。ストライカーエウレカのエアミサイルを、ムラクモ提督に向けて射出しようというのである。
 しかしその最中、当のムラクモ提督は泰然とした表情で、自身の連隊の部下に語り掛けていた。


「……設置は終わっているな?」
「はい! ムラクモ提督のご指示通り!」
「それでよい……」

 続けて、彼は避難した居住区のヒグマたちに笑顔を見せる。


「同胞の皆さん……。我々艦これ勢が救済を授けよう。無論、我々は嫁や愛の形、ノーマルアブノーマルを区別しない。
 皆平等に、この無能な帝国から自立しようではないか!!」
「助けて下さるんですか……!?」
「な、何言ってるかわからないけど、お願いします!!」


 完全に背後を向いているムラクモ提督へ、浅倉は怒りをあらわにしながら叫んだ。


「吹き飛べェェェェッ!!」
「……見切れなんだか?」


 ミサイルを構えて脚を踏み替えた浅倉の視界に、その時、ムラクモ提督の口角に浮かぶ笑みが滑った。
 地面を踏んだ彼の脚は、突如爆発を受けて弾け飛ぶ。


「ガァァァアッァアアアア!?」
「我が艦これ勢の保有する魚雷群が陸戦で活用できぬと思うたか!! 我が魚雷は大井提督の如き飾りではないぞ!!
 既に『四連装酸素地雷』は貴様を取り囲んでおるわ!!」

 ムラクモ提督の配下である『第二かんこ連隊』のメンバーは、住民を避難させながら、一糸乱れぬ動きで浅倉の足元に魚雷を設置していた。
 さらに彼の搭乗する擬似メルトダウナーにも、魚雷をマウントできるよう改造が為されており、今までの戦闘中に、彼自身も浅倉の突撃を封ずる経路に幾つもの地雷を仕掛けていた。

 彼ら『第二かんこ連隊』は、『第八』のような愛玩勢でもなければ、『第九』のようななりきりクソニワカ勢でもない。


 ――艦娘の軍艦としての側面を愛する、『ミリタリーガチ勢』なのである。


「クッ、ソッ、ガアアアアアアッ!!」
「甘い……。玉と砕けよ!!」


 辛うじて転倒することなく片脚で耐えた浅倉は、そのまま捨て身となって宙に飛んでいた。
 上空から発射される雨のようなミサイルの弾幕にしかし、擬似メルトダウナーからも数多の光の弾が撃ち出されていた。

 特定座標で障害物のように停止するその光球は、接触するミサイルを悉く空中で爆破させ、落下してくる浅倉の体に火箸を突き刺したような穴をいくつも穿った。


「ウ、ガァアアアアッ!?」
「『特攻崩御機雷』……。対空対地対潜において、我が連隊の爆雷設置技術に敵う者はおらぬ!
 我は戦場(いくさば)を支配し、元帥へ至らん!!」


 深手を負って崩れ落ちる浅倉の前で、勝利を高らかに叫びながら、ムラクモ提督は擬似メルトダウナーに最大威力のエネルギーを充填させてゆく。
 鮮やかな彼の手並みと、誠実で小ざっぱりとした印象の第二かんこ連隊の面々に、居住区のヒグマたちは興奮した。
 艦これ勢への見る目を一気に覆したこの大立ち回りの締めくくりに、ムラクモ提督は爽やかな笑みで同胞に笑いかける。


「さぁ……、皆さんで、この侵入者と、無能な帝国に決別しましょう!」
「は、はい!! します!!」
「艦これって、カッコイイんだ……」
「ぬ、濡れるッ……!!」


 感動に湧き立つ民衆を満足げに見て、彼は浅倉へ向き直る。
 呻きを上げ、最後の力を振り絞って立ち上がろうとする浅倉へ、彼はその緑の閃光を以って止めを刺すのだ。


「さぁ皆さんご一緒に……! 華と……、散れィ!!」
「「「華と、散れーッ!!」」」


 路上、メルトダウナーの電撃が撃つ群衆の影で。
 散華したのは、浅倉か。それとも国への忠誠心か。


    ㈹㈹㈹㈹㈹㈹㈹㈹㈹㈹


「列を成せ、そして享受せよ……。愚民どもはセンセーショナルな偶像に踊らされてるのがお似合いだ。
 まったく、ムラクモ提督はいつもいつも上手いことやってくれるよ」
「実際、彼らを助けてるのは本当だからね。その先に何があるか見通せないバカたちには、思慮なんて必要ないっぽい」


 モニターの前ではロッチナと夕立提督が、事の顛末を保護者のように見守っていた。

 艦これ勢への否定的な評価を払拭して余りあるムラクモ提督の英雄的な立ち回りは、その場のヒグマたち全ての心を鷲掴みにしていた。
 画面の先でヤイヤイと騒ぎ立てる彼らは、今まさに満身創痍の浅倉威に向けて、最大威力のメルトダウナーのビームを放とうとしている。


『さぁ皆さんご一緒に……! 華と……、散れィ!!』
『『『華と、散れーッ!!』』』


 その瞬間だった。
 何の前触れもなく、突如室内の全ての電子機器の電源が落ち、一帯が暗黒に包まれていた。


「にゃあっ!? なにこれ、停電!?」
「……ッ、示現エンジンが落ちたのか!? モノクマさんが単身阻止に向かっていたはずでは……!!」


 ざわざわと工廠の中が狼狽に包まれた気配を聴いて、ロッチナと夕立提督は暗闇の中を、嗅覚と聴覚を頼りに移動する。
 別室から工場中心部へ出て、暗中に惑う『第一かんこ連隊』の元へ檄を飛ばした。


「落ち着け! 各自、持ち場を離れず、死体の油で明かりを確保して作業を続けろ! 夕立提督、指揮に戻ってやって」
「さぁさぁ、ただの停電だから何も問題ないっぽい! みんな粛々とやろぉ~!」
「……ごめんねぇロッチナクン。ボクらの一部がエンジン停止を阻止しに行ったんだけど、やっぱり無理だったよ……」


 工場の中に立ち去る夕立提督と入れ替えにロッチナのもとにやってきたのは、モノクマだった。
 そのロボットの申し訳なさそうな弁明を聞いて、ロッチナは朗らかに笑いつつ、それを誘って別室に戻る。


「ハハハ、本気を出せばモノクマさんだってあそこらへんの指導者を一網打尽にできただろうに。表面上は手を組んでるこっちにまで絶望の片鱗を送って来なくていいからね?」
「まー、ボクはボクなりに一網打尽の策は打ったから。キミもまだ策の一つや二つ、平気でひねり出せるだろう?」
「ああ、私はヒグマ提督ほど馬鹿じゃないんでね。モノクマさん、ムラクモ提督たちに伝言を頼む」
「はいはい。何かな~?」


 うぷぷぷぷ。という耳障りな笑い声が、暗闇の中に重なった。


【E-4の地下 ヒグマ帝国:艦娘工廠 日中】


【穴持たず677(ロッチナ)@ヒグマ帝国】
状態:健康
装備:なし
道具:なし
[思考・状況]
基本思考:艦娘のために、ヒグマ帝国を乗っ取り、ゆくゆくは秋葉原を巡礼する
0:他のヒグマの間に紛れて潜伏し、一般ヒグマの反乱を煽る。
1:艦隊これくしょんと艦娘の素晴らしさを布教する。
2:邪魔な初期ナンバーのヒグマや実効支配者を、一体一体切り崩してゆく。
3:暫くの間はモノクマに同調する。
※『ヒグマ提督と話していたヒグマ』が彼です。
※ゲームの中の艦娘こそ本物であり、生身の艦娘は非常食だとしか思っていません。


※浅倉威Jの手によって、北東の居住区を襲撃していた約50体の艦これ勢が殺害されました。


    ㈹㈹㈹㈹㈹㈹㈹㈹㈹㈹


「なっ……!?」


 停電は平等に、ムラクモ提督が搭乗する擬似メルトダウナーの元にも及んでいた。
 まさに放たれる寸前だった強大な緑の閃光は、直ちに輝きを失って砲口から消え去ってしまう。

 一瞬のうちに、コケ以外は何も光の無い暗闇に放り出された彼らの中に不安と狼狽が走る。


「これしき……ッ!! ここからが我の本番だ! 皆さん、慌てるな!!」


 ムラクモ提督は即座に示現エンジンの停止を察知し、機体内に確保されている液体燃料に動力を切り替えようとした。
 出力からして、予備燃料では高火力のメルトダウナーは撃てて一発。
 それでもこの手負いの人間を仕留めるには十分――!

 しかしその隙を、浅倉威は逃さなかった。


「グォラァッ!!」
「グハァッ――!?」


 闇の中に立ち上がった彼は、無事な左腕で擬似メルトダウナーを殴り飛ばしていた。
 地底の壁に叩き付けられ、機体は轟音を立ててその下に横転する。


「ムラクモ提督――!?」
「うわぁーっ!! まだ死んでねェこいつ!!」
「私の提督様がぁー!!」
「あーん! ムラクモ様が死んだ!!」
「無敵の艦隊これくしょんで何とかして下さいよぉ!!」


 部下や民衆の叫びを彼方に脳震盪に呻くムラクモ提督の元にその時、一体のロボットがやってきていた。
 天地がさかさまになったコクピットへ、モノクマは明るい声で呼びかける。


「ムラクモクン今までご苦労様! 後はそこで寝ててくれても大丈夫だよ!」
「ハァッ……ハァッ……ハァッ……。も、モノクマ殿か……! 大丈夫とは、一体……?」
「この環境は今、『チリヌルヲ提督』の独壇場だろう?」
「……! なるほど、悪くない……! 艦これの魅力が増すな……」


 モノクマからの黒い声を聞き、ムラクモ提督は静かに笑う。
 その彼の上から、荒い息づかいで浅倉がカードを噛む。


「よぉ……。久々にイラつかせてくれたなぁてめぇ……。せいぜい良い声で鳴けよ、おい」
『スイングベント』


 浅倉の千切れた腕に、電撃を帯びた太い鞭が生み出される。
 暗闇の中でバチバチと火花を散らすその武器は、人々の恐怖を煽るには十分なものだったろう。
 しかし、その死の光を目の当たりにしながら、ムラクモ提督は不敵に笑っていた。


「……てめぇ、何笑ってやがる……? イラつくぜ……」
「ふふっ。いよいよ出番だぞ……、待ちかねたろう?」


 ムラクモ提督が呟いた瞬間、浅倉威の握る直径20センチほどの鞭は、突如消失していた。
 ブチン。
 という大きな破断音を上げて、落下したらしいその鞭は、電撃が消えたことで闇の中に溶ける。


「ヒュ~ウ、いいドロップ品だねぇレ級提督……。それじゃあみんなも、陣形を組もうか……」


 その闇の中のそこここで、クスクスと笑う声が次々に上がる。
 どこから聞こえるのかわからない謎の声に、浅倉は苛立った表情で周囲を見回した。


「オイッ!! 誰だよッ!! 姿を見せやがれッ!!」
「ではお言葉に甘えて……」

 浅倉が叫んだ直後、その両眼に、凄まじい照度の光が叩きつけられていた。
 眼を焼くようなその白い閃光に思わず一歩引いた浅倉は、その足下に仕掛けられていた酸素魚雷を踏んで、無事だったもう片脚をも爆破されて地に倒れる。


「グオォオオッ!?」


 その瞬間、間髪を入れず、何頭ものヒグマの気配が、浅倉の千切れた脚の傷口を引き裂いて肉を奪ってゆく。
 倒れた彼の腕から毛を毟り、髪を抜き、衣服を千切り、闇の中に時折探照灯の光をちらつかせながら、何十頭ものヒグマの気配だけが少しずつ彼の体をいたぶっていた。


「クソォォッ!! なんだ!? 何なんだこれはぁッ!!」
「ねぇ……、深海棲艦って可愛いよね……。ヲ級ちゃんとか特に可愛げがあってさ……。敵なんだけど、そこが好きになっちゃうところなんだ……」


 地面にもがく浅倉の顔の横に、一頭のヒグマの声が囁きかける。
 不気味な熱を帯びたその声は、彼の方を向こうとした浅倉の眼に、容赦なく探照灯の光を突き付けた。
 そして思わず目を瞑った彼の眼球に、そのヒグマは一切の迷いもなく自分の腕を突き込んでいた。


「う、ゴアアアアアアァァァアアァッ!?」
「だからさぁ……、好きな敵は、とことんいたぶってやりたいんだよねぇ……。艦娘を沈めたくせに、自分は大破ごときで命乞いしてるような深海棲艦をひん剥いて、切り刻んで……。
 その肉をこね回して、ドロップ艦娘に練り直してるところとか想像したら、サイッコーじゃない……!?」
「て、テメェエエエ……ッ!!」


 神経を弄ぶようにして浅倉の眼球を抉り出したそのヒグマは、探照灯の光で自身とその目玉を明るく照らし出した。
 髑髏のような被り物――空母ヲ級の帽子を頭に載せた、濃い灰色のそのヒグマは、眼だけを闇に光らせてにっこりと微笑んでいた。


「どうも名も知れぬフラッグシップさん……♪ 『第三かんこ連隊』連隊長の、チリヌルヲ提督だよ……。
 このいたぶりはサービスだから、まずは歓迎を受けて轟沈してほしい……」
「フィーヒヒヒ……!!」
「アァイイ……、巨大なオトコでもヤリがいあるねこれ……!!」
「熱烈歓迎!! 熱烈歓迎深海棲艦!!」
「上下、上下!! ピストン運動的上下にて可及的高速のドロップ奪取!!」
「ぐ、ぐふふ……、轟沈した後のをヤるのは、オ、オデなんだな」


 闇の中に紛れた連隊の隊員は、口々に上気した快哉を上げて浅倉の肉を削ぐ。
 眼が利かぬなら嗅覚、聴覚に頼ろうと身を起こす浅倉は、たちまち鼻を落とされ、耳を引き千切られる。
 その指の爪も、闇の中から一本一本丁寧に引き抜かれていくのだ。


 ――彼ら『第三かんこ連隊』は、『第二』ともまた一線を画す、深海棲艦に対する度を越した『加虐勢』だ。


 最早状況が決したと言ってもいいその環境下で、ムラクモ提督はようやく自身の擬似メルトダウナーを起こし、一般ヒグマたちの元に駆けつけていた。


「……もう大丈夫だ皆さん。新しく加わった我らがメンバーにかかれば、天は間違いなく艦これを選ぶ!!」
「おぉ……やっぱり艦これすげぇ……」
「ム、ムラクモさまぁ……、生きてらっしゃったんですね……!」


 他者からすれば決して外聞の良いとは言えない『第三かんこ連隊』の所業を上手い具合に擬似メルトダウナーの巨体で隠しつつ、彼は民衆の意識を束ねるべく口上をぶち上げていた。
 その間、上機嫌なチリヌルヲ提督の元へ、ムラクモ提督から離れたモノクマが歩み寄ってゆく。


「うぷぷぷぷ……、いい仕事ありがとうチリヌルヲクン」
「ふふ……、愉しんでるだけだけどね僕たちは……。夜戦で翻弄するのがだぁ~いすきなもんで……」
「何にせよいい気味だね、浅倉クン。どうだい気分は? 元気に絶望してるぅ?」
「あ、モノクマさん……、一応、計画して削いでるから不用意に近づくと危ない――」


 チリヌルヲ提督の制止を聞かず、にこやかに浅倉威の口元へ近づいたモノクマは、次の瞬間、巨大な浅倉の口にバクリと飲み込まれていた。


「あ……」
「ウッ……」


 チリヌルヲ提督とムラクモ提督の両者が、その光景を見て硬直する。
 続けざまに浅倉威は、驚きで動きを止めた近場の『第三かんこ連隊』のメンバー2体に食らいついて逃げ出した。
 捕食しながら、その肉で肉体の欠損部分を補い、脚を再構成して浅倉威は走り出す。
 突然の事態に、チリヌルヲ提督が両のほほを抑えて悲痛な叫びを上げた。


「あぁあぁ……!? イ級提督とロ級提督が喰われた……!! 奴らはうちの連隊の中でも最弱……!!」
「チリヌルヲ提督、追えるか……ッ!?」
「あーゴメンゴメン~。ボクも不注意だったね。でも大丈夫だよ。一緒に追おう」

 慌てる二名の元に、その時何食わぬ顔で、もう一体のモノクマが出てくる。
 闇の中を彼方へ走ってゆく浅倉と目の前のロボットとを交互に見て、チリヌルヲ提督は眉を下げて嘆息した。

「貴様も救えない数奇モノだねぇ……。色んなヒトを困らせるのがそんなに好きなんだ?」
「うぷぷぷぷ……、そこは否定しないけどさ。でもこの作戦はロッチナクンの案だよ!」
「ロッチナの……!? そうか。心得た……。これが天命か!!」


 モノクマの意を解したムラクモ提督は、不安げな表情を見せる一般ヒグマの方へ向き直り、高らかに叫んだ。


「皆さん、この先の農地には、我々穴持たずの食糧を独占している、悪辣なヒグマ帝国の上層部がいる!!
 我々艦これ勢は彼の侵入者をも利用して、総員で上層部を叩く! これは臣民のための聖戦だ!!
 皆さん、今こそ立ち上がる時だ!! 我々に、艦隊これくしょんに、ついて来い!!」
「う、うおおおおっ……! そうだったのかッ!!」
「やります! みんなのためなら、私も……ッ!!」
「ムラクモ様の言うことなら、なんでもします!!」


 居住区のヒグマたちは口々に力強く頷く。
 夜景遍く居住区で、憎悪の声が歓喜する。

 『第二かんこ連隊』と一般ヒグマたちがムラクモ提督の煽動に湧きあがる中、チリヌルヲ提督と『第三かんこ連隊』は、陰に溶けるようにしてひっそりと浅倉威を追い始めていた。

 制圧の済んだ帝国南東側を回らせ、逃げてゆく浅倉威の逃走方向を誘導してゆく。
 隅々に地を走り、逃亡の夢を砕きながら、浅倉を破城槌として連隊が迫る。
 その先は、ヒグマ帝国の生命線である、彼の地だ。


    ㈹㈹㈹㈹㈹㈹㈹㈹㈹㈹


「クイーンさん!! タンクが軽いなぁー!?」
「エンジンが停止したために、水道もオリギナールから止まっているんだ……!!」
「あ、愛宕トマトのためにも、水を汲んでリレーを……!!」
「自家発電装置、張り切って漕ぎましょう!」
「クソ……、とてもじゃねぇけど電力が足りねぇよ!!」
「照度も足りんぴょん!! 各連隊、コスプレしてるヤツは艤装のボイラーと探照灯を供出するぴょん!!」

 第四から第六のかんこ連隊が駐屯している帝国の田園地帯は、その時総員で停電に対する事態の処理に追われていた。
 水と光が生命線であるハイポニカ栽培を行なっていたそこの多くの作物にとっては、この停電は致命傷にもなりうるものだった。

 そこへ、闇の中から地響きと唸り声を上げて、走り寄ってくる巨人がいる。
 逃走方向を誘導された浅倉威が、田園を踏み荒らし、彼らの元へ襲い掛かってきていた。


「グオォォォオオオォオォォオォッ――!!」
「うびゃあ!? なんだぴょんあれ!?」
「あれは何の羆(ヒ)!?」
「もはやヒでもヒトでもねーよあれ!!」


 狼狽する彼ら連隊の最前線で、黒い長毛のヒグマが一頭、静かにたたずんでいた。


「やれやれ……。私の力を観察させろって、そう言ってるわけかい……、反乱の首謀者さんは」


 女王の肩書を預かる彼女は、この異常事態の連続の中にも、泰然とその先を見据えていた。
 艦これ勢、反乱、そして目の前の巨人の背後に存在する見えない意志。
 秘密裏に囁き続けるその無情で巨大な意志に対抗するため、彼女は決意を新たにする。


【D-6の地下 田園地帯 日中】


【浅倉威J(ジェイ)@仮面ライダー龍騎】
状態:仮面ライダー王熊に変身中、ヒグマモンスター、分裂、合体、左眼球欠損、鼻切除、両耳切除、ダメージ(大)
装備:カードデッキの複製@仮面ライダー龍騎、ナイフ
道具:なし
基本思考:本能を満たす
0:一つでも多くの獲物を食いまくる
1:腹が減ってイライラするんだよ
2:居住区を制圧する
[備考]
※ミズクマの力を手にいれた浅倉威が分裂した出来た複製です
※ユナイトベントを使えば一人に戻れるかもしれません
※ヒグマ帝国民を捕食したことで増殖した62人の浅倉威が
 ユナイトベントで合体して浅倉威J(ジャンボ)に進化しました。


【穴持たず205(クイーンヒグマ)】
状態:健康
装備:なし
道具:なし
[思考・状況]
基本思考:“キング”に代わり食糧班を統括する
0:反乱や障害から、田畑を総員で死守する。
1:塩害と、外来植物の侵食……。加えて反乱とはね。参ったよ。
2:艦これファンってのは、お気に入りの娘のためなら頑張れるんだろ?
3:じゃあ、ここの作物たちを自分の娘だと、そう思って気張りな。
[備考]
※何らかの能力を持っています。


※ヒグマ帝国のD-6エリアは、現在キングとクイーンが説得した約150体の艦これ勢で防衛されています。
※生き残っていた帝国の一般ヒグマは、全てムラクモ提督とチリヌルヲ提督の手により殺害されたか、もしくはそのムラクモ提督の手により艦これ勢に靡きました。
※その死体は艦娘工廠に運び込まれ、ビスマルクによって解体されています。

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最終更新:2014年12月14日 23:42