あすは檜の木、この世に近くもみえきこえず。
 御獄にまうでて帰りたる人などの持て来める、枝さしなどは、いと手触れにくげに荒くましけれど、なにの心ありて、あすは檜の木とつけけむ。
 あぢきなきかねごとなりや。誰に頼めたるにかと思ふに、聞かまほしくをかし


 ――あすなろの木は、この辺りでは見たり聞いたりしない。
 御獄にお参りして帰ってきた人などが持って来た枝振りなどは、とても手では触りにくそうに荒々しかったけれど。何のつもりで、「明日は檜の木」という名前をつけたのかしら。
 思うようにならない言葉でしょう。誰に願っているのかしらと思うと、なんか素敵で、そのわけを、聞きたくなる。


(『枕草子』第四十段より・拙訳)


   ††††††††††


 決断を、しなければならない。
 嫌な胸騒ぎのする決断を。

 足先から這い登る悪寒に耐えて、私はもう一度唾を飲む。

 決断を、伝えた。
 皇さんは、私のことをじっと見つめていた。
 何も言わず、私の眼の中を覗き込んでくるかのように。
 爬虫類のような赤い瞳に耐えられず、私は思わず目を逸らした。


「……了解いたしました」
「――いい、わよね、これで……。この決断で、大丈夫よね……?」
「作戦は、実行するのみであります」


 その決断に一切の賛否を加えず、皇さんはそのまま私の言葉を飲み干していた。
 向き直った時には、もう彼の顔は、工場の屋根から眼下を見下ろしていた。

 もう私の眼でも見える。


 正面のビルの一階部分に設えられた喫茶店。
 その空間の前に、3人の少女と、1頭のヒグマがいる。
 そしてそのヒグマは、1人の少女の死体を抱えているのだ。

 表情までは伺えない。

 彼女たちが、ひどく大仰な武装を背負っているのは確かだ。
 軍艦か何かをイメージさせる3人のその装備はしかし、死んでいる少女もまた装備しているものだ。
 ヒグマもヒグマで、その死体を食べようとしているようには見えない。
 むしろその場の全員が、少女の死を悼んでいるようにすら見えた。


 ――だから、私は決断したんだ。


「……わかった。じゃあ行きましょう。静かにね」


 風が吹く工場の上から降りるべく、私は皇さんに捕まる。
 その瞬間、皇さんが私を抱きすくめた。


「えっ――!?」


 ぐらりと体が傾いて宙に踊る。
 直後、私のすぐ傍を風切り音が通り抜け、爆風が私たち二人を襲っていた。


   ††††††††††


「まずは――、だ」

 天龍という名の船は、その小さな少女の体を震わせて声を絞った。
 両腕に抱きしめた僚艦――、島風と天津風の背をそっと擦り、きつく瞬きをして立ち上がる。

 彼女はそして、一息の元に腕を打ち払い、戛然と空気を断ち割った。


「――総員退避だ!! 俺が今後旗艦として指揮を執る!! 金剛を確保しながら屋内に入れ!!
 俺たちは狙撃されたんだぞ!! まだ狙われてるかも知れねぇ!! ぼさっとしてねぇで索敵だぁッ!!」
「――!?」
「あっ――!!」
「え……?」


 天龍の一声に、その場に漂っていた気が一瞬にして張り詰めた。

 ヒグマ提督が抱きかかえる死体――、金剛という戦艦の魂を宿していた少女の体には、胸元に砲撃を受けた大きな穴がぽっかりと空いている。
 溢れ出した血液は、彼女の巫女のような衣装を赤黒く染めている。

 彼女はつい先ほど、何者かに、緑色の光線により狙撃されていた。
 より正確に言うならば、狙撃されたヒグマ提督を庇って、金剛は致命傷を受けたのだ。
 何の誘因もなく、天からそんな砲撃が降ってくる訳はない。


 間違いなく今、この場にいる自分たちは狙われている――。


 ビルの中の喫茶店。
 テラスの張り出す小洒落たこの一角を、虎視眈眈と見張っている者がいたはずなのだ。

 それにも関わらず、ヒグマ提督を始め、残された島風、天津風、天龍の全員が、仲間の死に気を取られ、その危機的状況を失念していた。
 一撃で戦艦を沈めうる武装を有した敵に発見され、なおかつこちらはその敵の位置を把握できてすらいない。
 ヒグマ提督を狙っていたということは、敵は江ノ島盾子の言う『追手』か、それとも参加者か。
 何にせよ、こんな馬鹿げたことをしていたら、そのまま全隊が轟沈していてもおかしくはなかったのだ。

 幸運にも今まで第二撃が来なかったのは、敵の主砲の装填時間のせいか、狙いと違う者に命中したため一時撤退したのか、はたまた何か別の策があるのか――。


 ――俺らしくもねえ……いったいなにをしてたんだ。


 天龍は数秒前に口に出した言葉を再び心中に反芻した。
 何にしても、早急に隊列を組み直し、敵の次なる出方に備えなければならない。
 しんみりしている余裕など、本来なら有り得ないのだ。


「しまっ……! 島風! あなた電探ない!? 提督もしっかりして!!」
「わえぇ!? えと、えと、バッグにあったかな……!?」
「え、あ……? な、なに、を、すれば……?」
「全員電探装備してねぇのかよ……ッ!! ならとにかく急いで離脱を……!!」


 いち早く事態を理解したのは天津風だった。
 続いて島風も、敵前に自分たちが未だ晒されていることを把握する。しかし、慌てていて話にならない。
 ヒグマ提督に至っては、艦娘たちが何をしているのかの見当すらついていない。
 天龍と天津風が、間に彼らを庇うようにして身構える中、耳障りな哄笑が辺りに響いた。


「あっはっはっはっは~! オマエラって私様よりニブチンなのね~。
 ……すでに目視出来る距離だろが!! 撃たれた方角も覚えてねぇのかよ!? 早く応戦しねーとあぶねーぞぉ!!」


 そして即座に怒号へと変わるその声。
 それは、ヒグマ提督の手元にある、小さなスマートフォンから発せられたものだ。

 ディスプレイに映る剣幕は、薄い色の髪をツインテールにした少女の画像――、江ノ島盾子のアルターエゴのそのまたコピー、ポータブル江ノ島盾子である。

 彼女が二次元平面上から指差す先にあったのは、何かの大きな工場だった。
 風の吹くテラスから、ガラス張りのビルの窓を掠めて抜けるその直線上に、その屋根が見える。
 そしてその金属光沢に満ちた屋根の上には、確かに何者かが立っている。


 ――あんな位置から!?


 その地点までは、直線距離にして約200メートル。
 戦艦同士の戦いならば、もう目と鼻の先とも言っていい近距離だ。
 スケールダウンされた艦娘の身であるとはいえ、もし出撃した海上でそんな位置にまで接敵を許して脇を叩かれたとなれば、艦隊が潰滅するほどの損害を受けてしまうに違いない。
 位置取りだけでも、大きく仰角のついた下方の自分たちは圧倒的に不利である。

 そこまで気づかなかった自分の不甲斐なさに、天龍はガリガリと奥歯を噛んだ。
 その上、参加者である自分に残った主武装は僅かに投げナイフと自身の日本刀のみ。
 応戦は無理だ。
 即座に相手の出方を見ながら撤退を――!


「よ、よくも金剛をやったわねッ――!!」
「そうだー、いっちゃえ天津風ちゃんー」
「ちょっと待て、相手の動きを――」


 その時すでに、江ノ島の軽い煽りと共に、天津風が自身の配下である12.7cm連装砲――『連装砲くん』の砲身を彼の人影に向けていた。
 天龍の制止が入る間はなかった。


「連装砲くん――! 撃ち方、始めて!!」


 艤装の艦首に取りつけられた顔のある連装砲が、その瞬間、即座に火を噴いていた。
 間髪も容れず、彼方の工場に砲弾が着弾する。
 ガス管に命中したのか、そこは直後に巻き起こった激しい爆炎に包まれる。
 人影は、そこから真下に落下して見えなくなっていた。


「――躱された!!」
「天津風!? お前ロクに確認も取らず――」
「少なくとも何かしらの銃を携行してるのは視認したわ! しかも敵は二人組!!」


 天津風の逸った行動をたしなめようとして、天龍はその瞬間、別の事態に驚愕する。
 艦首型のユニットに据え付けられた『連装砲くん』の体を、天津風は片手で上方に掲げていたのだ。

 50口径三年式12.7センチ砲C型――連装砲くんの正式名称である。
 本来ならば優に30トン近くにのぼる彼の重量は、艦娘に合わせてスケールダウンされていてもなお、概算して約70キログラム以上。
 艤装専用のマウント部分に装着するか、連装砲くん独自の自律駆動状態にしていなければとても扱える代物ではない。
 そもそも生身の部分は普通の少女である彼女たち艦娘は、陸上においては『艤装の重さで圧死する』という事態も往々にしてありうるのだ。
 直近でも本日早朝に、立体機動装置の制御を失して吹き飛ばされた球磨が、この事態に陥りかけて肝を冷やしている。

 対するに、天津風はその華奢な体からは想像できない怪力を以って、平射砲である連装砲くんを軽々と取回していた。
 しかも、先程の砲撃の反動も、彼女は全て自身の右肩で緩衝している。
 腕部に艤装装着部分があるわけでもない身でそんなことをすれば、本来なら天龍でも、反動で腕の骨が肩関節を砕いて飛び出すくらいのことは平気で起こるだろうにである。


 ――島風もそうだったが、これがヒグマ製艦娘とやらの力なのか!?


 恐らく艤装の機関部に加えて、彼女たち自身の動力伝達機構が大きく一般の艦娘に比べて向上しているのだろう。
 通常、艤装や被服の構造までにしか伝達されないボイラーやタービンのエネルギーが、彼女たちの肉体でほとんど損耗なく利用されているのだ。
 しかも、その機関はヒグマの血肉でできている。
 彼女たちの発揮する爆発的な力の由来は、およそこのようなところに因っていると考えられた。


「あ、電探あった――! ……いる! あっちにまだいるよ!」
「ダ、ダ、ダメコン……! 支給品にはダメコンも入れてるからね島風ちゃん! つけてね!!」


 自分のデイパックを漁っていた島風がその時、ようやく中から13号対空電探を見つけ出して索敵を始めていた。
 折角渡していた支給品が活用されていなかったことに驚いたヒグマ提督が、彼女に慌てて声を掛けている。

「……贔屓ね。そんなに好みの子だけが大事……?」

 天津風が舌打ちをした。
 工場側に砲口を向けたまま搾り出された微かな低い声は、隣にいた天龍だけの耳に届いた。


「天津風……、お前、一体……」
「……集中。今は目前の敵の事だけ考えるわ。いいから、旗艦なら早く指示を頂戴、天龍」


 瞑目したまま唸る天津風の表情は、苦い。
 僚艦の行動の真意とその心を推そうとした天龍の声は、その僚艦自身に差し止められていた。
 翻って、天龍は逐一ゆらいでいる自分の心に鞭を打つ。


 ――本当に、何をしてやがる。
 発破をかけてる自分自身が、仲間を纏めきれてない。

 沈んじまった金剛。
 状況認識がどこかずれっぱなしの島風。
 何考えてるかわからない天津風。
 優柔不断で無責任でその上ヒグマである提督。
 怪しさ満点の江ノ島とかいう女。

 周囲の人員が常と異なりすぎていて、踏み出しきれない。
 だが、この状況ではもう、やるしかない――。


 まず天龍が考えるべきなのは、直近に迫る二名の『敵』のことである。
 江ノ島盾子が指摘した通り、まず間違いなくその二名が金剛を轟沈せしめた犯人であろう。
 天津風の砲撃を躱したらしいその二人組は、数十メートルの高度から真下に落下しても、どうやらまだ無事であるらしい。
 かすかに、人影は工場の壁面を蹴って降りているようにすら見えた。
 しかも天津風の認識が正しければ、その者たちは金剛を一撃で沈めた、緑色の光線を放つ『銃』を保持しているはずだった。

 しかし、狙撃の後、位置取りも変えずにそのような場所に留まっていたとするならば、この二名には、本当は私たちに対する敵対心はなかったのではないか――?


 それが、天龍が第一に考えた可能性である。

 確率的に最も高いのは、その二人が、強力な支給品を持った参加者なのではないか、というものだ。
 彼らが狙っていたのは、実のところ金剛ではなくヒグマ提督だ。
 金剛は、逸早く狙撃を察知してその射線上に割り込んだために被弾したに過ぎない。

 つまり、彼らは本来、ヒグマを殺そうとしていたことになる。

 遠巻きにこの喫茶店前の状況を見れば、恐らく、少女4人がヒグマに襲われていたようにも見えただろう。
 金剛と天津風などは、抱きすくめられて、今にも食べられそうな状態に見えたかもしれない。
 彼らはその状況から、自分たちを救い出そうとしたのだ。


 それが蓋を開けてみれば、ヒグマは少女に庇われ、その少女の死を全員で悼むという、傍から見れば意味不明なやり取りが繰り広げられた。
 これでは襲撃者の二人も、一体何が起きているのか困惑するのは当然だ。

 まずは、会話を試みるべき――。

 それが、天龍の出した結論だった。


「……もう撃つな。たぶん相手は参加者だ。まずこの状況を話して、分かってもらうべきだ」
「……そうね。私もようやくそう思えたわ。……気が逸ってた」


 天津風は溜息をついて連装砲くんを降ろす。
 天龍に軽く敬礼して自省するも、それでも常に撃てるよう連装砲くんは小脇に抱え、警戒心だけは張り詰めさせている。
 ビル街の路地の彼方に、まだその相手の姿は見えない。


「えと……、ちょっとずつ、近づいてくる! 建物のノイズがすごいけど……。今、100メートルくらい!」
「向こうも警戒してる、わよね……。報復砲撃しちゃったから」
「いや……、それはもう気にしなくて良い。呼びかけてみる」


 島風の震えた叫びを背に、天津風と天龍が眼を合わせる。


「俺たちは参加者だ!! 俺は天龍型一番艦の天龍!!
 多分お互いに勘違いがある!! 申し訳なかった、一度話し合いたい!!」


 天龍の張り上げた声が辺りに響き、ビルの隙間に染み込む。
 気配が動いた。

 相手は、ビルの陰を縫って、一瞬にして天龍から30メートル程の、直近のビルの元にまで走り寄って来たようだった。

 そこから聞こえてくるのは、怪訝な棘を含んだ、少女の叫び声だった。


「……参加者ですって!? じゃあなんでそんな重武装で、首輪もなくて、ヒグマと一緒にいるの!?
 私たちは問答無用に砲撃されたのよ!! 信じられると思ってるの!?」
「この艤装は俺たちの服みたいなもんなんだ! あと、首輪は外してもらったんだ、このヒグマにな!!」
「砲撃したのはすまなかったわ……! もう撃つ気はないから!!」


 気配は、ビルの陰で話し合っているようだった。
 天龍と天津風は、その動向を固唾を飲んで待つ。
 そして暫くして、ビルの奥から少女が答えた。


「……わかったわ! 話し合いに、そちらに行く!!」


 声の直後、革靴の脚がビルから歩み出してくる。
 所々に傷の目立つセーラー服に身を包んだ黒髪の少女は、手を大きく上に掲げていた。
 その長い髪に、白い花の形をした髪飾りが揺れている。

 丸腰だった。

 少女はそれにも関わらず、幼さの残るその外見から全く想像もつかないような落ち着きを以って、重武装の天龍達の元に歩んでくる。
 天津風が唇を噛んで、連装砲くんを地面に置いていた。


「……柵川中学1年の佐天涙子よ。一体、どういう状況なのか、詳しく聞かせて――」


 十数メートルの距離を開けて立ち止まった少女が腕を降ろし、口を開いたその時だった。
 突如として、その声は掻き消える。


 猛烈な爆音と衝撃が、その場にいた天龍と天津風の耳を劈いていた。


   ††††††††††


「このッ、卑怯者ぉお――ッ!!」
「し、島風ッ!?」


 弾道の衝撃波に体を抉られそうなほど近距離からの砲撃で、天龍は地に転げていた。


「アンタ、何をっ!?」
「よくも、よくも金剛を沈めたなぁ――ッ!!」


 同じく地に伏した天津風の言葉も聞かず、彼女たちの後方で、一人の少女が半狂乱になりながら連装砲の砲撃を続けている。

 島風だ。

 薄い金髪を振り乱し、『連装砲ちゃん』と呼ばれる3基の自律駆動する砲塔の弾丸を、彼女はひたすらに放っていた。
 硝煙と土埃に包まれた空間を前に、島風は怒りに身を震わせて立ち尽くしている。
 天津風が匍匐前進のように這いずり、彼女の脚に縋り付いた。


「アンタ、アンタ――! 本当に、何やってんのよ島風!! あの子は、丸腰だったのよ!?」
「あいつだ……、あのバケモノが、あの銃で、金剛を撃ったんだッ!!」


 島風の指さす先を、天龍と天津風は見た。
 土煙の晴れたそこには、夜のわだかまったような黒い何かが、少女を抱えて低く身構えていた。
 いつの間にか現れていたその者は、島風の放った砲撃から佐天涙子を救い、その悉くを回避していたということになる。


「フルルルルルルル……」


 竜だ。
 竜人だ。

 形容するならばそのような言葉になるだろう。
 黒い鱗に全身を包んだその男は、身長2メートルに及ぶかと思われる巨体を地上数十センチにまで屈みこませ、真っ直ぐに天龍達一行をねめ上げていた。

 見開かれた真っ赤な瞳と、真昼の陽光に輝く金髪が、場違いな闇夜に浮き上がっているかのように見える。
 その背中に負われているのは、全長1.2メートルを超える機関銃だ。


 ――大戦時の独逸(ドイツ)軍の主力、マウザー・ヴェルケMG34!!


 特徴的な削り出しの空冷ジャケットは、天龍と天津風をして一目でその機関銃の正体を知らしめた。
 この銃では、とても金剛を屠った光線など撃てるわけが無い。
 この竜人も、佐天という少女も、金剛を沈めた犯人ではありえない――。


「そうよ島風ちゃん! そいつらが金剛ちゃんを殺した『追手』よ!! 工場の屋根から落ちても、砲撃を受けても平気な、ヒグマ以上のバケモノたちなのよ!!」
「なっ――」


 天龍達の思考を掻っ攫うように、笑い交じりの上気した叫びが辺りに響いていた。
 ヒグマ提督の手元で、スマートフォンが歓喜にバイブしている。
 竜人の胸元で、佐天涙子がぎちぎちと歯を噛んだ。


「江、ノ、島……、ジュンコぉ!! やっぱあんたかァッ!!」
「きゃー、あの子こわーい、助けて島風ちゃーん」
「うあああああああああああぁぁぁぁぁ――っ!!」


 ポータブル江ノ島盾子。
 彼女は、天龍と天津風の背後で、ずっと島風に耳打ちをしていた。

 丸腰の少女だと油断させて、その隙にみんなをあの光線で撃ち殺すつもりなんだよ――。
 天津風ちゃんの砲撃でも死なない、バケモノなんだよ――。
 島風ちゃんがやらなきゃ――。

 島風の電探に映る銃の反応は、佐天涙子が出て来ても未だビルの裏だった。
 彼女の怒りは、容易に着火した。


 そしてまた、江ノ島盾子の甘く苦い囁きに、島風は走り出す。

 ほとんど同時に、黒い竜人が後方へ跳ね飛ぶ。
 抱えられていた佐天涙子は、風に吹かれたかのようにその腕から急激に側方へ転がり出て、島風の動線から大きく外れた位置に起き上がる。


 ――速さの極み。


 時速80キロを超える驚異的な瞬発力で跳び退っていた竜人の動きに、本来水上でも時速75キロしか出すことの出来ない島風の体が、追いついていた。

 もっと速く。
 もっともっと速く。

 身中に湧くボイラーの炎が、そのタービンを輝かんばかりに転輪させる。
 湧き立つ水蒸気が、彼女の竜骨を駆け上がって躍動する。

 Z旗(ムーラダーラ)。
 強化型艦本式缶(スワディスターナ)。
 第二煙突(マニプーラ)。
 艦本式タービン(アナハタ)。
 第一煙突(ヴィシュッダ)。
 前檣(アジナー)。
 艦橋(サハスラーラ)。

 七つの結節点を転輪させた熱量が、その頭頂を越えて、彼女の外界を満たす空間に初転する。
 十分の十点五を超える超超過量の過負荷が、彼女の存在をその極点に至らせた。


 羯諦(至れる者よ)!
 羯諦(至れる者よ)!
 波羅僧羯諦(完全に至れる者よ)!
 菩提薩婆訶(成就めでたし)――!


 島風の速度が、次元を越えた。
 竜人の体を、時の経過を許すことなく貫いた島風は、彼の遥か後方の地面に、ただ静かに出現していた。

 僅かにこの世界に立ち起こった現象は、島風の消失点に彼女の身体分の空気が殺到する、ポヒュッ、という微かな音のみだった。


「――金剛、仇は討ったよ」


 速度という尺度の定義さえも越えた高速に到達した彼女は、そう呟きながら、一筋の涙を零した。


   ††††††††††


 傍から見ていた者には、島風が一瞬にして、竜人の後ろに瞬間移動したようにしか見えなかった。
 黒い鱗の竜人は、未だ跳び退った空中にいた。

 そして彼は着地した後も、暫くそのまま立ち尽くしていた。


「――金剛、仇は討ったよ」


 そう呟いた島風が背後に振り向いた時にも、まだその竜人は立っていた。


「……フルルルル」
「……あれ?」


 そして、同じく振り向いた竜人と島風が、そのまま見つめ合った。
 僅かに首を傾げた島風の体が、震え始める。

 ヒグマを爆発四散させる攻撃を、更に速い、極限の速度で行なったのだ。
 沈まないはずがないのに――。

 理解不能な恐怖に、カタカタと歯が鳴った。


「なっ、なっ――、なんで、なんで沈んでないの――ッ!?」
「アギィィィィィィィィィィィ――ル!!」


 連装砲ちゃんを構えようとした島風の動きより更に速く、竜人の体は地を蹴っていた。
 独楽のように水平回転をしながら飛来する彼の鉤爪の輝きが、島風の眼にはっきりと焼き付いていた。


 ――彼女は、確かに速さの極みに至った。


 地底湖でスイマー提督に向けて走った時よりも、地上でパッチールに向けて走った時は更に速かった。
 そしてその際の速度よりも、今回走り抜けた速度は更に速かった。

 次元を越え、量子の運動確率までも揃えるような美しい走行は、一切の歪みもなく、エネルギーの全てを位置座標の変更に用いられるまでに研ぎ澄まされていた。
 途中で、障害物や次元の歪みに阻まれて減速することなどは一切ない。


 ――だからこそ、彼女の走行は、もはや攻撃手段には成り得なかった。


 極限に至り切らない、歪みを生じる低速であればこそ、彼女の走行は一撃必殺の威力をこの世界にもたらし得た。
 『攻撃』すれば、干渉した通過点にエネルギーを奪われ、その分だけ減速する。
 当然の理屈だ。

 彼女がそこで無自覚に選んだのは、威力ではなく速さだった。

 彼女が速く、更に速く走るにつれ、この世界に生じる歪みは減ってゆく。
 『速さ』の極限に至れば同時に、彼女の生むエネルギーは『攻撃』ではなく『移動』の極限に集束する。
 ヒグマを爆散せしめた『攻撃』は、彼女が速くなればなるほどその攻撃としての威力を落とす。
 彼女が中途でどのような経路を走行しようが、もはや極限に至った速度はその通過点に一切の痕跡を残さなかった。

 実際に島風が行なったことは、傍から見た通り、一瞬にして竜人の後ろに瞬間移動しただけだった。


「ぱ……」


 彼女の口も、最後にそう唇を開いただけだった。
 竜人が繰り出した回し蹴りは、その鉤爪で、過たず島風の首筋を叩いていた。

 ぽーん。

 と、軽い音を立てて、彼女の首元から丸いものが刎ね飛んだ。
 それはくるくると陽光に赤い飛沫を上げながら回転し、べちゃりと湿った音を立てて地に落ちる。
 ほとんど同時に、島風の胴体も、その四肢を操作する信号を失って倒れ伏していた。


「あ、あ、あ――」


 その、喉の引き攣るような息は、果たしてその場の誰から漏れたものだったのか。
 時間の止まったようなその喫茶店の前で、黒い竜人だけがつかつかと、島風の首から刎ね飛んだものに歩み寄る。
 そして彼は、掌に余るようなその球体を踏みつけて割り、その中の赤い肉を啜り始めていた。

 天龍と佐天涙子は、その光景を見つめたまま、未だ硬直していた。


「うわっあっ、あっ、あっ、ああぁぁ――!!」
「島風ぇぇえええええええ――ッ!!」


 叫んでいたのは、ヒグマ提督と天津風だった。
 連装砲くんの砲身を掴み、天津風は、倒れ伏す島風の元で肉を食むその竜人の背中に向けて躍りかかる。


「アンタ、よくもっ――」


 しかし、彼女の動きは、今にもその竜の背に連装砲くんの重量を振り下ろそうとしたその瞬間に止まっていた。
 眼だけを動かした竜人の鞭のような尾が、彼女の正中線上を、股下から頭頂まで走り抜けていた。
 その線に沿って真っ赤な液体が、彼女の姿を縦割して迸る。

 天津風は暫く、竜人と見つめ合ったまま驚きで固まっているかのように見えた。
 まるで自分の傷を見回すかのように眼下から上方へ瞳が動き、そして彼女は白目を剥いた。


「か、は――ッ」


 振り上げていた連装砲くんが力なく掌から零れ、天津風はそのままうつ伏せに地に倒れる。
 二隻の軍艦が倒れたその場所で、黒い竜人は、そのまま音を立てて肉を喰らっていた。


   ††††††††††


「ひ、ひゅぃ――っ」


 天龍がようやく絞り出した息は、彼女の咽喉にそんな音を吹いた。

 ――僚艦が、一瞬にして二人も、殺された。
 そして今、彼女たちの肉が、目の前で喰われている――。

 そんな常軌を逸した光景に、天龍の張り裂けそうな胸は、言葉を忘れていた。


「――天龍さん。そこをどいて。あの女を潰せないから」
「な、な――」
「どいて」


 呼びかけられた声に目を向けると、そこにはあの佐天という少女が、座った眼で立ち上がっていた。
 先程まで天龍と同様に、竜人の行動に驚愕していたはずの彼女は、今やその光景に背を向け、真っ直ぐにこちらへと歩み寄ってくる。


 ――何故だ。
 こいつらは、私たちと、話し合うつもりじゃなかったのか。
 首輪もしている。参加者のはずなのに。

 『追手』?

 首輪も言葉も、俺たちを油断させるための偽装だったとでも言うのか。
 戦場で易々と気を許した俺たちが、間違っていたのか。
 正しかったのは、あの江ノ島とかいう奴の言葉だったのか――?


 渦巻く疑問に動けぬ天龍の体を、後ろから何者かが掴んでいた。


「あっ、あっ、あぁあああああ――っ!! 殺してやる!! わ、私の島風ちゃんたちの、カタキィィィィィイイイイ!!」
「あ、がァっ!?」


 狂ったような慟哭が天龍の耳元で響き、彼女の肉体は引き千切られんばかりの怪力で捻じられた。
 ヒグマ提督が、天龍の艤装の砲塔を無理矢理ひねり上げ、島風の傍らで捕食に勤しんでいる竜人に向けていたのだった。

 赤い瞳を向ける竜人の視線を遮るように、佐天涙子がその砲の射線上へ割り込んでくる。


「……撃つ気? アクマの言葉を鵜呑みにして。ヒトの言葉は解るくせに、現実は全く見てないわけ?」


 鼻先に皮肉を吹いて、少女はその顔と、胸腹部を守るように、上下に両腕を構えていた。
 指の隙間からヒグマ提督の姿を伺いつつ、それでも彼女は、畏れる様子もなく近づいてくる。
 その光景を瞠目して見つめながら、天龍はようやく気付いた。


「うるさいぃぃぃいぃいいぃっ!! ころ、殺すっ、殺すぞ!? お前も殺すぞぉおぉぉおぉ――!!」
「そうだー、やっちゃえヒグマ提督ちゃん~!」
「痛ッ、ぐぅっ――! やめ、やめろっ!! 撃つんじゃねぇ――ッ!!」


 しかし、天龍の叫びは、耳障りな江ノ島の声とヒグマの膂力で捻じ伏せられた。
 狂い始めた彼の行動を、もう誰も止められない。

 天龍には、その時はっきりとそう思えた。


「――あんたの守りたいものはなんだッ!! あんたが放り出し、捻じ伏せ、目を逸らしてるものはなんなの!!」
「ひっ――」


 その瞬間、佐天という少女の口から、信じられないほどの気迫と共に裂帛の叫びが迸っていた。
 構えられた左手の指から覗く彼女の瞳は、氷のように鋭く、炎のように激しかった。

 彼女の小指の先から、邪悪な冷気が出ているような、得体の知れぬ重圧が視界を突いて皮膚感覚に襲った。

 ヒグマ提督も天龍も、その非力に見える丸腰の少女に気圧され、動けなかった。


「何やってんのヒグマ提督ちゃん!! 撃って! その女早く撃ち殺しちゃって!!」


 江ノ島盾子の声が響く中で、ヒグマ提督は、慄いて震えることしかできなかった。


 ――私の守りたいもの。
 それは、艦娘たちだったはずだ。
 なのに、彼女たちは皆、殺されてしまった。
 この、少女の奥にいる、ドラゴンのような怪物にだ。
 仇を、討たなきゃ、いけないはず――。


「い、いい加減にしろクソ野郎ぉ!! この子が、仇なわけねぇだろがぁッ!!」


 そして彼の腕の下から、艦娘の声が響く。
 腕を捻り上げられていた天龍は、佐天涙子の喝破に、一筋の活路を見た。
 痛みを堪えながら彼女は、激しく動揺するヒグマ提督に向け、必死にその叫びを突き込んでいた。


 そこでヒグマ提督は初めて、自分が自身の『守りたいもの』に苦痛を与えていることに気付く。

 はた、と後ろを見る。
 そこには、先程まで抱えていた、愛しい少女の死体が、無造作に放り投げられている。

 はた、と前に向き直る。
 そこには、駆逐艦娘たちと大して変わらぬ見た目の年端もゆかぬ少女が、射竦めるような眼差しで自分を見ている。


「わた、私は……、だって私は、艦、娘、たち、を……」
「だろ!? 艦むす守るなら撃ち殺せぇ!!」
「バカ野郎ぉ!! 俺たちがそんなこと望むかぁ!!」


 二つの声に挟まれた彼は、震えるだけだった。
 その間にも少女はじりじりと歩みを進め、ついに、彼と鼻先が触れ合うほどの位置にまで近づき、彼を睨みつけていた。

 ヒグマ提督から、スマートフォンが少女に掠め取られる。
 佐天涙子はその画面を睥睨して、冷ややかにその中のプログラムへと呼びかけていた。


「……何にも意味のない嘘を喋り続けて……。そんなに楽しい?」
「あっはっは~、あー残念、今回はここでゲームオーバーやね!」


 スマートフォンの中の江ノ島盾子は、一転して明るい口調で笑い、画面上で大きく伸びをした。

「……いやぁ、楽しかった楽しかった。恋人ごっこのために踊り続けるこのバカは傑作だったって。
 でも佐天ちゃんたちも案外外道だね~! 恋人全員死亡の絶望エンドなんて、最後に良いモン見れたわ、あんがとね~!!」
「フフ……」

 佐天涙子は、朗らかに笑う江ノ島盾子の画像に向け、心底可笑しそうに苦笑を漏らしていた。


「残念ながら、あんたの思うようなエンディングじゃないわ。カメラの画素数ケチると、碌な事ないわよ」


 そう言いながら、彼女はその右手を小指から握り締める。
 その拳に力が込められた瞬間、江ノ島盾子がコピーされていたスマートフォンは少女の指の間に炸裂していた。


「『疲労破壊(ファティーグフェイラァ)』……」


 そしてその手が開かれると、中に握られていたものが風に吹き散る。
 非常に細かな、砂漠の砂のような鉄色の粒子が、彼女の手から零れ落ちてゆく。
 それが、一瞬前までスマートフォンとしての機構を有していたものだとは到底信じられない程に、それは一切の構造を破壊された塵芥と化していた。


 満月に噛み砕かれたアクマの最期を見て、ヒグマ提督は同時に、今まで目を逸らしていた自分の心を、暴かれたような気がした。


   ††††††††††


 精密機械だった粉塵を掌からはたき落とし、少女はヒグマ提督と天龍の方へと向き直る。


「……ようやく、この無駄な争いの主因が消えたわ。……早く天龍さんから退きなさいよ、そこのバカヒグマ」
「あ、う……」


 佐天の声に力の緩んだヒグマ提督の手から、天龍が即座に腕を振りほどいて脱出する。
 尻餅をついてへたり込んでしまった彼を見下しながら、痛む腕をおさえつつ、天龍は苦々しく吐き捨てた。


「クソが……。本当に何にも気付かないでやがる……。俺だって最初は驚いたが、こいつは論外だな」
「……いや、いいわ。あの女に言いくるめられてただけなんでしょう? むしろ騙し通せて良かったと思うわ」
「涙子だったっけ。そういやあんたはあいつと因縁があるような口ぶりだったな。何があったんだ?」


 そしてヒグマ提督をよそに、胸を撫で下ろした佐天と、何事もなかったかのように天龍は話し始める。
 彼は信じられない、という面持ちで彼女たちを見上げた。


 ――なんでだ。
 何で天龍殿は、僚艦を殺されてこんなに平然としてるんだ。
 怪物がいるんだぞ。
 殺されてるんだぞ。
 この女の子も。
 なんであんなドラゴンと同行していたんだ。
 一体、みんなは何を話しているんだ――。


 自分の様相や所業を盛大に棚に上げながら、ヒグマ提督は喘いだ。
 死んでしまった金剛、島風、天津風の姿を思い出すと、涙さえ溢れてくる。
 抑えきれぬ滂沱に目を閉じて、彼は臆面もなく蹲ってすすり上げ始めた。

 その到底ヒグマに見えぬ、それどころかいっぱしの社会的生物にも見えぬ姿を冷ややかに見下ろして、天龍と佐天は、自分たちの隣に歩いてきた者に言葉を振った。


「……どうすればいいの、このヒグマは」
「……お前の方がこいつのこと知ってるだろ。頼む」


 彼女たちの声を頭上で微かに聞きながら、ヒグマ提督はひたすらに泣く。

 思い出の籠った艦娘たちが轟沈しては、もう、自分には何も残らない。
 金剛はもちろん、島風も、天津風も、艦これのできるスマートフォンも失い、ヒグマ帝国に戻るツテも失った。
 もう彼女たちのボイスを聞くことは、できないんだ――。


「ヒトフタマルマル。お昼の風も気持ちいいから、寝ぼけてないでそろそろ起きなさいよ」


 その瞬間届いた時報ボイスは、彼に耳を疑わせた。
 ハッと上げた顔が同時に、真下から大きく蹴り挙げられる。


「ゲッハァ――!?」
「おはよう提督。眼は醒めたかしら」


 牙が砕かれそうな衝撃に跳ね上げられた彼は、もんどりうって転げた後、自分の顎を蹴った人物の姿を認める。

 銀色の長いツインテール。
 丈の長いセーラー服に、艦首ユニットに載った連装砲くん。


 ――天津風だった。


 血のような真っ赤な線に体を正中線から真っ二つとされた姿で、彼女は平然とそこに立っている。


「ひゃ、ひゃ、な、なんで、あ、天津風ちゃんが……!!」
「ああ、これ? ケチャップみたいね」


 指差されたその液体を、天津風は額から掬い取って舐める。
 ケチャップの線が拭い取られた後の彼女の肌は、傷一つない綺麗なものだった。
 突然のことに事態が飲み込めぬヒグマ提督は、辺りをわなわなと見渡して声を上ずらせる。


「じゃ、じゃあ、し、島風ちゃんは、一体……!?」
「島風も気絶してるだけだったわ」
「あ、皇さん本当にありがとう! 流石に反撃ゼロじゃあ厳しかったけど、誰も傷つけずに済んだわね!」
「……そのような作戦でありましたので」


 天津風の返事の奥から、黒い鱗の竜人が静かに歩み寄ってきていた。
 彼――、アニラに向けて佐天涙子はにこやかに声をかけ、彼は笛のような細い声で答えた。

 遠くをよくよく見やれば、首を刎ねられたと思った島風の頭は、位置的に見えづらくなっていただけで普通にくっついている。
 回復体位で横たえられた彼女のボディは、3体の連装砲ちゃんが上に載せて、ちょこちょこと運んできていた。


「ずっと小声で話してたんだけどね。天龍、この人は、帝国陸軍准尉の皇魁さん。十二神将から取ったアニラって秘匿名もあるみたいだけど」
「……陸軍! いやぁ……、海軍が俺たちみたいなの作るから陸軍も何かしらやるだろとは思ってたが、恐竜か……」
「……正確には、元・陸上自衛隊第一師団所属であります」
「なんだっけ、『独覚これくしょん』? っていうプロジェクトらしいわ」
「……正確には、独覚兵であります」


 にわかに流暢に喋り始めた竜人と、それに対して普通に会話を始めている艦娘たちを見て、ヒグマ提督の混乱はいよいよ頂点に至った。

 アニラの長い尻尾には、小さなケチャップのボトルが掴まれている。
 そして彼が手に持っている食べかけの球体は、ケチャップ塗れの夕張メロンである。
 彼がずっと食べていた肉は、肉は肉でも、メロンの果肉であった。


 普通の精神状態ならば、いくら逆光があったとしても、吹っ飛ぶメロンを生首に見間違えることはなかっただろう。
 ヒグマの嗅覚ならば、ケチャップの臭いを血と誤認することなど、有り得なかっただろう。
 見間違えるとするならば、画質の悪いインカメラで外界を窺っているアルターエゴくらいのものだ。

 しかしヒグマ提督を始めとする一行は、その通常ではあり得ない状況を錯覚してしまうほど、平常心を失していた。


 アニラのこの行動を一番初めに正しく認識したのは、佐天涙子である。
 続いて気付いたのは、島風とメロンを間近で目視した天津風だ。
 彼女はそのまま、ケチャップを吹きかけられた意図を読んで、死んだふりをする。
 天龍は、佐天涙子の行動と、その奥で話し込んでいるアニラと、ヒグマ提督に向けて連装砲くんをブン投げようとしている天津風の姿を見て、ようやく気付いた。

 ヒグマ提督は、最後の最後まで、何にも気づかなかった。
 彼のヒグマとしての感覚は、まるでゲーム中毒の人間のような凝り固まった狭い思考に押しつぶされ、蒙昧の闇の中に溶け落ちていた。


「い、一体、何が起こってたんだよ……!! ほんとに何なんだよ、これぇ!!」
「結局、私たちは皇さんと佐天さんに、品定めされてた、ってことね」
「とりあえず、お前らが金剛を沈めた犯人じゃなく、偶然居合わせた参加者だということは確信を持てた。
 ことによると俺たちより事情に詳しいみたいだってこともな。話してくれ」
「……そうするわ。皇さん、周りにあのロボットって、いないわよね?」
「我々の移動経路からは撤退するように動いていた様であります。彼の合成被覆の臭気は記憶しております故」


 ヒグマ提督の混乱した叫びは、その場の4人の言葉で受け止められる。
 周囲の臭跡を鼻腔に辿っていたアニラの発言を聞き、佐天涙子はヒグマ提督に向き直った。


「……まず教えてあげるわ。あの江ノ島って女こそが、ヒグマを悪用しようと企んでいる、元凶なのよ」
『ピーンポーンパーンポーン♪』


 ヒトフタマルマルを正しく告げる時報が、彼女のボイスの後ろで流れた。


   ††††††††††


 時間は十数分遡る。
 その際佐天涙子が下し、アニラに伝えた決断とは、以下の通りである。


『何があっても、相手に危害は加えず、話し合う。きっと、話の分かる人たちだろうから』


 希望的観測と博愛主義に満ち溢れた、戦場ではとても許されないような、甘すぎる決断であった。
 その決断に一切の賛否を加えず、アニラはそのまま佐天の言葉を実行に移す。

 直後に加えられた砲撃を、彼は佐天を抱えたまま、工場の壁を『真下に走る』ことで躱した。
 アニラの手足のスパチュラ機構に備わるファンデルワールス力は、十分な接地面さえあれば、大抵の環境を走り抜けることができた。

 狼狽する佐天に対しても、アニラはその決断を断行するための情報を、ビルの陰で冷静に伝えていた。
 彼は、その超人的な聴覚で捉えた天龍達3人と1頭と1機の会話を、そのまま繰り返したのである。


「『早く応戦しねーとあぶねーぞぉ』、ね……。彼女たちは、ちょうどあの工場から、誰かに撃たれてた、ってこと?」
「恐らくそうでありましょう。あの付近の屋根に、ヒグマの臭跡がありました。
 工場にも何らかの兵器が保有されているようでありますし、砲撃をするヒグマ――、などがいてもおかしくはないのかと思われます」
「うん。メルトダウナー飲み干すヤツがいるものね……」


 じりじりとビルの間の路地を進みつつ、佐天はアニラに対して確認を取った。


「そんで……、その発言は、間違いなく『江ノ島盾子』のものとみていいわよね。
 私たちの存在を知りつつ、始末しようと煽ってる、ってところかしら……」
「詳細は解らぬまでも、彼女は複数のロボットで、少なくとも我々の位置座標は把握しているはずであります。間違いないと思われます」
「……彼女だけは、潰すわ」

 ビルの影から喫茶店の方を伺いつつ、佐天は眼だけをアニラに向けた。

「言いくるめられてるんだろう彼女たちに、状況を理解してもらうの。いいわよね?」
「……了解いたしました」
「……いや、なんかそこまで徹底してイエスマンされると、却って不安なんだけど……」
「――自分は、佐天女史を信頼しておりますので。そのお言葉のまま、実行いたします」
「まぁ、こんなに信頼できるイエスマンも、そういないわよね――」


 表情を変えぬまま静かに語るアニラへ、佐天は微笑んだ。
 佐天の耳にも届くほどの大声で天龍が叫んでいたのは、その時だった。


「俺たちは参加者だ!! 俺は天龍型一番艦の天龍!!
 多分お互いに勘違いがある!! 申し訳なかった、一度話し合いたい!!」


 佐天とアニラはその声に顔を見合わせる。
 アニラは佐天を抱えて、容易に声の届く喫茶店直近のビルにまで走り寄っていた。


「……参加者ですって!? じゃあなんでそんな重武装で、首輪もなくて、ヒグマと一緒にいるの!?
 私たちは問答無用に砲撃されたのよ!! 信じられると思ってるの!?」
「この艤装は俺たちの服みたいなもんなんだ! あと、首輪は外してもらったんだ、このヒグマにな!!」
「砲撃したのはすまなかったわ……! もう撃つ気はないから!!」


 佐天の問い掛けには二名の少女が答えてくる。
 天龍と名乗った少女と、天津風と呼ばれていた少女の声だった。

 佐天は首を傾げる。


「……んー? 話し合いたいのは確かだけど、どこまで信じていいのか……。天龍型一番艦っていうのがまず何なんだろ、まるで自分を船みたいに……」


 天龍は自分たちのことを参加者と言っていたが、それならば、首輪を外せて、外してくれるというそのヒグマは、一体どのような立場の者なのだろうか。
 そして何より、彼女たちが一様に身に纏っている軍艦のような装備などには、解らないことが多すぎた。

 佐天のその疑問に、アニラが「噂ですが」と前置きをして答えた。


「海上自衛隊においても、自分の所属します陸自の『死者部隊(ゾンビスト)』のような、『鎮守府』という組織が秘密裏に作成されたらしいということを聞き及んでおります。
 『天龍』は大戦時の軽巡洋艦、『天津風』は駆逐艦の名称であり、海上自衛隊にも同名の艦が所属していたはずであります」
「……じゃあその、皇さんが実験で竜みたいな力を得たように、彼女たちも軍艦みたいな力を得た人間、ってこと?」
「あくまで憶測でありますが、そうである可能性は低くないと思われます」


 統一された規格の兵装を纏い、その重武装を少女の身で軽々と扱って行動している点に、アニラは自らとの類似点を強く認識した。
 その『独覚兵』のような少女たちが4人もまとまって行動していた理由は解らないまでも、海自に於いて陸自と同じような計画が進行していたとしてもおかしくはないと、彼は考えていた。
 あの幼い背恰好で軍属ないし自衛隊所属ということはにわかに信じがたかったが、独覚ウィルスのアーヴァタール効果によって獣じみた姿に変わることに比べれば、実験で多少肉体が若返ったりするくらい、十分ありうることだろう。


「STUDYの配下……、あ、いや、今なら有冨さん側でも協力できるか。江ノ島盾子の直属の配下、って可能性はないのよね?」
「『天津風』が、『海軍式の敬礼』を行なっておりました。身に染みた習慣は即時に変わるものではありません。
 海上自衛隊の所属であり、外部から連れてこられた者だということは、確かでありましょう」


 掌を内に向けて、腋を締める敬礼――。
 狭い艦内で、ロープ操作で汚れた手を見せぬようにするための、海軍独自の敬礼を、天津風は天龍に向けて行なっていた。

 疑問と不安を氷解させた佐天涙子は、胸を張って笑う。


「よっしゃ! そういうことなら、私一人で話に行ってみる!」


 武装して待ち構えている相手の元に、真正面から丸腰で向かって行く――。
 戦場であればどう考えても自殺行為である彼女の決断に、アニラも流石に、変わらぬ表情の裡で肝を冷やした。

「……自分の話を致しますが。我々は戦場に於いて、相手の元に自分から姿を晒し、声を掛けながら近づく、などという行動は、一切致しません」
「いやいや、わかってるわよ流石に。ここを『戦場にしたくない』から、そうするの」

 ヒグマに勝るとも劣らない強面のアニラは隠しておいて、非武装の佐天一人が行くことで、相手の緊張を解き、攻撃心を収めさせる算段であった。


「むしろ、それでももし相手が襲ってきた時のために、皇さんにはここに待機して状況を伺っておいてもらいたいの。
 誤解がとけたら、その時私から紹介するんで」
「……もし『戦場』に、なってしまった場合は如何致しますか。江ノ島盾子が、何も行動せず佐天女史を看過するとは思えません」
「……皇さん、何か隠し芸とかないの?」


 彼女の決断の穴を塞ぐべく重ねたアニラの言葉に、佐天は突如、全く関係のないような質問で返した。
 理解しかねたアニラの沈黙に、佐天は説明の言葉を捻りだす。


「あ~……あのさぁ。私と戦った時も、皇さんは気絶したフリとかで、上手いこと戦闘を血を流さず収めたじゃない。
 争いが起きても、ああいうことして欲しいの。ちょっとハードル高いかも知れないけど、江ノ島盾子を騙せるような、迫真の芸を」
「――了解いたしました」


 佐天の言葉に、今度は反駁することなくアニラは応えていた。
 自分のデイパックの中身を確認しつつ、彼は言葉を繋げる。


「自分は隠し芸といたしまして、忘年会でテーブルマジックやタップダンスを行なった経験があります」
「――忘年会!? ダンス!?」
「……自分が何を致しましても、佐天女史の決断を実行しているのみでありますので、驚きませぬよう」


 引き出された意外なアニラの一面に、佐天は面食らう。
 彼は赤い瞳で佐天涙子を見つめ、静かに息を吹いた。


「――自分は、佐天女史を信頼しておりますので」
「――私も、皇さんを信頼しているわ」 


 微かに上気した頬で笑い、佐天はビルの影からその声を張り上げた。


「……わかったわ! 話し合いに、そちらに行く!!」


 その後、アニラが披露した隠し芸の評価は、既に周知の通りである。


   ††††††††††


「球磨……!? 球磨も連れて来られてたのかよ、この島には……!?」
「ああ、そうみたいね……。ただ、江ノ島盾子が直前まで『監視』してた限りじゃ、地下に落ちて首輪の反応が消えたらしいので、死んでるとは言い切れないみたいよ。
 球磨もヒグマと同行してたらしいから、提督がしたみたいに外してもらったのかも」
「随分と楽観的な観測だな……。で、こいつは艦娘を守ると言いつつ、その言葉で安心してたわけだ。
 俺との会話でも一言も話題に載せなかったのはアレか、選り好みか。有言不実行ってレベルじゃねえな……」
「その通りよ。どう天龍? 提督って凄まじいヘタレよね。どうせ『殺す』って言っても撃てないと思ってたわ」


 第二回放送が死者を読み上げた後、天龍はヒグマ提督に向けて蔑んだ視線を向けていた。
 彼に作られた天津風さえもがヘタレと公認するヒグマ提督は、ただただ項垂れて蹲っているのみだ。

 死んだ者だけではなく、首輪が外れれば放送で呼ばれる、ということは、天龍自身が呼ばれたことから確認はできた。
 しかし、地下のヒグマ帝国で江ノ島盾子から艦娘の情報を得続けていたヒグマ提督が、その一言で安心していいものだろうか。
 真に艦娘のことを考えている提督ならば、天龍と同時に参加している球磨の事も心配して然るべきであろう。

 ヒグマ提督は『艦娘』を守ろうとしているわけではなく、『自分好みの女』を侍らせようとしているだけ――。

 口当たりのいい題目で隠していたその心が、衆目に暴かれてしまった瞬間でもあった。


『イヤッホーーーー!!!!穴持たず48シバさん討ち獲ったりぃぃぃぃぃ!!!!』
『ヒャハハーーーー!!!!いくら支配階級でも背後から襲えばチョロいもんだなぁ!!』
『オッシャーーーー!!!!この調子でどんどん行くぞぉっっっ!!』
『聞こえてるかぁ!?地上に居る我が同士ヒグマ提督よぉぉぉぉぉ!!』
『この革命!必ず成功するぞ!!ヒグマ帝国は俺達と艦むすのモノだぁぁぁぁ!!』


 そして直後、放送は大音声のヒグマの唸り声で満たされ、ぶっつりと途切れる。
 アニラ、佐天、天龍、天津風、そしてヒグマ提督の総員が、驚愕で暫く反応を忘れていた。

 内容を翻訳して佐天や天龍に伝えたのは、天津風だった。


「……聞いたでしょ。あれが、江ノ島盾子に踊らされた、その他のヒグマたちよ、たぶん。
 一歩間違えればあんたたちもあの群れの中に混じってたんでしょうね、きっと」
「オリジナルの野望を潰すとか綺麗事言って……、口先で丸め込んだら、結局やらせることは一緒だったわけだな、アホらしい……」
「ほんとね。思った以上に凄まじい風だったわね、あの女……」


 江ノ島盾子を知る三人の女子が、口々に溜息を吐く。
 その最後に呟いた天津風の言葉に違和感を覚えて、天龍は顔を上げた。


「……天津風、お前、あの女のこと、『いい「風」が吹いているのよ』とか言ってなかったか?」
「そうよ。途轍もなく強くていい逆風だったじゃない」


 金剛然り、島風然り、この島で作られた艦娘たちの思考はどこか尖りすぎていて、天龍には同輩でありながらその心の底が読み切れなかった。
 特にここに来て、一見がらりと態度が変わってきているように思える天津風の思考は、さっぱりわからないのだ。


「逆風の中でこそ、船の操舵技術が試され、いい運転ができるものよ。その点彼女の甘言は絶好の訓練日和だったわ」
「な、なんだそれ……」
「この、『艦に乗せられてばかりの初級士官』に稽古をつけてやろうと思っただけよ」

 脇で蹲るヒグマ提督に顎をしゃくり、天津風は先程まで提督に見せていた甘い顔から一転して、冷酷な女帝のような視線を彼に向けていた。
 そこで反応したのは、彼女たちに少なからぬシンパシーを感じているアニラである。


「……天津風女史。帝国海軍軍艦の能力を有する『艦娘』のあなた方が、このような者を上官としていることに、自分は先程から多大なる疑問を抱いております」
「ん? 少なくとも私はこの提督のことを『上官』だと思ったことは一度もないわよ。上官は、部隊の旗艦だもの。
 この提督は、敢えて言うならただの上司。もしくは、鎮守府に座っているお飾りね」


 脱出に向けての隙の無い作戦を立案してくれる上官を、深夜から探していたアニラにとっては、艦娘たちがヒグマ提督のような者を慕っていることを聞くのは、非常に嘆かわしいことであった。
 見方によれば、アニラにとっては数十歳も年長の大先輩が、彼女たち艦娘なのである。
 その大先輩が無能な上官に肯い、あまつさえ恋愛感情さえ抱いているともなれば、失望どころか、目を背けて全てを忘れたくなるほどの事態であったのだ。

 天津風から返ってきた返事に、アニラの心は晴れる。
 そして彼は、天津風と固く握手を交わしていた。


 彼女の発言に慄いて、ヒグマ提督は天津風に縋り付こうとする。


「ど、どういうことだよ天津風ちゃん――! なんで天津風ちゃんがそんな言葉を――!」
「やだ、触んないでよ」
「ガッ――、ぼぁッ!?」


 足元に擦りついて来ようとするヒグマ提督を、天津風はその爪先で勢いよく蹴り飛ばしていた。
 顎が砕かれるような衝撃で宙に跳ね上げられた彼は、きりもみして地に倒れた後、舌を噛んでしまったらしく、血の唾液を吹いた。


「――吹き流しが取れちゃうでしょ」


 天津風の行動に、その場の誰もが反応を忘れて硬直する。
 服のケチャップを拭いながら漫然と呟いた後、彼女は地に悶えるヒグマ提督に指を突き付ける。


「あなたが私に何を見ていたのか知らないけど、金剛みたいにあなたを盲目的に好いてくれるヤツばかりだと思わない方が良いわよ。
 所構わずイチャイチャしちゃってさ。上司への愛想笑いと男女間の笑みを混同するような無粋な頭は、私が矯正してやらなきゃと思ってた。
 いつ言い出してやろうかと思ってたわ……。私は島風のテストベッドじゃなくて、新型高温高圧缶のテストベッドなんだってことも……」


 ヒグマ提督の頭脳は、彼女の言葉を暫く理解できなかった。
 彼女の言葉に慌てたのは、ヒグマ提督よりもむしろ天龍だった。


「……あ、あの、天津風。お前、『私に進む風をくれるのは提督だけ……』とか言ってなかったっけか……?」
「ええそうよ。ここまで優柔不断で陰鬱な低気圧を作り出せるクズ提督なんて、そう例を見ないでしょ?
 このへたれた初級士官を自分で矯正できるなんて、とてもやりがいのある任務だと思わない?」
「うっ……、『華の二水戦』、神通仕込みの鬼訓練かよ……。俺はそんな任務ごめんだぜ……」


 天龍はここでようやく、天津風の思考に合点がいった。

 戦時中、天津風が所属していた『華の二水戦』は、旗艦に軽巡洋艦・神通を有した、帝国海軍第一の斬り込み部隊だった。
 全世界最強の艦対艦雷撃能力を有する精鋭部隊であった二水戦は同時に、「月月火水木金金、日々是訓練」という凄絶な訓練でも有名であった。
 艦隊のアイドル・那珂ちゃんの姉でありながら、大戦中最も激しく戦った日本の軍艦ということで賛辞を受けた神通の訓練には、以下のようなものがある。

 一つ、「訓練に制限なし」が合言葉。
 一つ、大時化の日を「絶好の訓練日和」とし、その中での急加速・急減速・大転舵などをウォーミングアップとする。
 一つ、神通が先頭に立っての無灯火での夜間襲撃戦。
 一つ、探照灯を照射してお互いに目潰しを食らわせつつ、真一文字に突撃し合う速力全開の反航戦。
 一つ、両軍の巡洋艦が高速で駆け回る中を、駆逐隊が間隙を縫って突撃するという、実戦以上に過酷且つ想像の範疇を超えた、神通自ら敵艦役を務める4駆逐隊異方向同時魚雷戦。


「腕が鳴るわぁ……」


 挙げていけばキリのないその『二水戦魂』を引っ提げて、天津風は華のようににっこりと笑っていた。


   ††††††††††


 佐天たちは、自分の来歴と、脱出に向けて百貨店に拠点を設けていることをかいつまんで話していた。
 天龍たちも同様に、自身が夜間から遭遇してきた事態を佐天らに伝える。
 天津風ら帝国生まれの艦娘については、なかなかに込み入った事情と、驚くべきその実態があった訳だが、結局は『この提督が女の子侍らせたさに負けて江ノ島盾子の誘いに乗った』という認識で落ち着いた。


「ヒグマのくせに人間に惚れるっていうのは……、なに? 人間で言うならケモナーとかいう異常性癖扱いになるのかしら」
「まぁそうなんだろう……。だが、異常だろうが正常だろうが、振る舞いさえまともなら別に何も言わねぇのによ……」
「矯正する機会が来て良かったわ……。このままだともっと大事になってたでしょうから」


 結局、ヒグマ提督を狙撃した犯人については解らず仕舞いであったが、アニラの嗅覚を信じれば、それは何らかのヒグマだということになる。
 江ノ島盾子の言うヒグマ帝国からの『追手』というのも一概に嘘と言い切れないが、そのヒグマがなんであるにせよ、それは既にどこかに移動しているようだった。
 本来集中すれば工場の屋根からでもヒグマの聴覚は喫茶店付近の会話を聞き取れたようなので、そのヒグマは狙撃前に十分に彼らの話を聞いた上で撃っていたはずである。

 江ノ島盾子を敵と見做すのであれば、そのヒグマとも協力できる余地は残されているようにも感じられた。


 一方、佐天、天龍、天津風の三者からはゴミのように蔑まれ、アニラからは気にもされていないヒグマ提督は、金剛の亡骸に縋り付いてさめざめと泣いている。
 その傍で、アニラの当て身により脳震盪を起こしていた島風が、ようやく意識を取り戻した。


「……、こ、こは……?」
「あ、し、島風ちゃん……」
「島風、気がついた? 気分はどう?」


 起き上がった島風の視線は、隣のヒグマ提督、近寄ってきた天津風、そして喫茶店外のアニラの方へと移る。
 その瞬間、彼女は気絶直前の光景を思い出し、絶叫と共に後ろへ転げた。


「ひぎゃぁああああああ――!? まだいる! 死んじゃう! 沈んじゃう! 殺されちゃう!!」
「島風、落ち着いて! この皇さんは、まるゆとかあきつ丸とかと同じ、陸軍の人よ!!
 金剛を撃った奴でもなかったし、あなたは気絶してただけ!!」
「海軍としては、陸軍の提案に反対――ッ!!」


 天津風の制止も間に合わず、発砲された連装砲ちゃんの砲弾を、アニラは慣性を殺すような急加速でサイドステップを踏み、全て躱していた。
 はっきりと彼の速度を目の当たりにした島風は、「うっ」、と喉を詰まらせて身を固める。
 アニラは依然として表情を変えず、喫茶店前の路面に平然と立っているが、彼と島風の間には得も言われぬ緊張感が走っていた。


「もうやめなさいよ島風……。皇さんが寛大で素早い人だったからいいけど、あなた、大惨事起こしてるところだったのよ……」
「……何度も訂正いたしますが、自分は陸軍ではなく、陸上自衛隊の所属であります」
「す、ば、や、い……? こいつが、私より、速い……? 私が、スロウリィ……!?」


 三者三様に全く噛み合わない会話の中で、アニラと島風は互いに睨み合う。
 そこでアニラは、ぽむ、と手を打ち合わせ、突如その場で、反復横跳びを始めた。

 カツッ、カツッ、カツッ、と規則的な音を鳴らすステップは、徐々に加速してゆく。
 暫くその様子を見つめていた島風は、煽るようなその音に、思わず喫茶店から路上へと飛び出していた。

 そして彼女も、アニラに負けじと、高速で反復横跳びを始める。


「うおおおおおおおおお――!!」
「フルルルルルルルルル……!!」 


 上体を残し、下半身がほとんど残像しか見えないような高速の横跳びで、足音が機関銃のようにけたたましく響く。
 アスファルトを切りつけるそのステップで、路面にひびが入ってゆく。
 見る間に砕けてゆくその地面に、最高速度に至っていた島風がついに指を掛けた。

「うりゃあっ!!」

 ステップにより剥げ落ちた路面の舗装を、彼女はアニラの目の前にひっくり返す。
 ハァハァと息を荒げたまま、彼女は誇らしげな笑みで、アニラに指を突き付けた。


「――私の勝ち!!」


 アニラの足元のひびは、まだ地面がめくれるような深さにまでは入っていない。
 静かに立ち止まった彼は、島風に向けて、恭しく敬礼を行なっていた。


「やったぁーッ!! 勝ったーっ!! 私がやっぱり一番速いんだーッ!!」


 よくわからない勝敗条件を満たして快哉を上げた島風は、その場で跳ねまわってはしゃぐ。
 子供に花を持たせてやり、一歩引くアニラの姿。
 その様子に、喫茶店から天龍と佐天は思わず涙ぐんですらいた。


「……あの島風に付き合ってやれるのか……、優しすぎるだろ……」
「いや、なんかもう……、いつもいつもご苦労様……」
「キミもなかなか速かったよドラゴンくん! でも私ほどじゃないね! もっと精進してきたら、また競走を受けてあげようじゃあないか!!」
「……光栄であります島風女史。自分は皇准尉であります」


 調子が戻って上機嫌になった島風と握手を交わし、アニラは淡々と自分の呼称を訂正した。
 見える位置に名札をつけているのだが、如何せん容姿に目が行き過ぎて誰も名札を見てくれないのが、彼の心残りであった。

 彼らの様子を見てほっと息を吐く天津風は、振り返って、喫茶店内で金剛を抱えるヒグマ提督を見やる。


「そうなるとあとは……、提督だけね」
「う、あ……」


 先程から放心状態もいいところであるヒグマ提督の元へ、天津風たち艦娘がつかつかと歩み寄る。
 口火を切ったのは、旗艦として立候補している天龍であった。

「……あのな。これから、涙子と皇の部隊に合流して、百貨店に行くことにした。結局ヒグマ帝国には乗り込まなきゃならねぇが、那珂や龍田を探すためにも、拠点があるのは助かるからな」
「……うん、そう……」

 しょぼくれたまま何度も頷いていた提督は、そこでハッと顔を上げる。


「ま、まさか……! 人間と行動するからって、私を置いていくつもりかい!?」
「……え? そうして欲しいのか? それならむしろ助かる気もするが……」
「いやいやいや違う! 違うって! 行く! 行きたい! 連れて行って下さい天龍殿、お願いします!!」

 慌てふためくヒグマ提督に溜息を吐き、天龍は言葉を続けた。


「……それならな、ヒグマ提督。金剛を弔うぞ」
「えっ……」


 その言葉は、彼には信じがたいものだった。

「このまま連れて行ったところで、もうどうしようもないのは解るだろ……?
 ここでちゃんと埋葬してやって、思いを入れ替えて進むことが、金剛のためにもなる」
「……誰にも看取られず水漬く屍となるより、万倍マシよ、きっと」
「金剛……、速かったよね……」

 口々に語り掛けてくる艦娘たちの言葉に、彼はぶんぶんと首を振った。
 彼女たちの言葉はどれも、彼の聞きたいボイスではなかった。
 心の戸を叩く声というノックに、彼は喫茶店の片隅でがたがたと震える。
 見えないグラスの中の、見えない酒を煽り、彼はまた、艦隊これくしょんという夢の中に戻ろうとした。


「やだ……ッ!! そんなの、嫌だぁ……ッ!!
 そんなの、艦これじゃないっ……。私の艦娘は、こんなこと言わないぃいっ……!!」
「――いい加減にしなさいっ!!」


 子供のように駄々をこねる彼の頬を、天津風が張り飛ばす。
 その眦には、抑えきれない怒りが灯っていた。


「……私も金剛も島風も、那珂も龍田もビスマルクも。あなたの人形じゃないのよ……ッ!!
 金剛の思いを無下にして、いつまでベタ凪いでいる気!? せめて自分の脚で立ちなさいよ、お飾りでもね!!」


 彼女はそのまま金剛の遺体をヒグマ提督から引き剥がし、無理矢理彼を押さえつけて、外に連れ出した。
 その脇を、天龍と島風が固める。


「C-4だったよな!? 済まない、先に行ってるから、頼んだ!!」
「佐天さん、話しておいたように埋めてくれればいいわ。提督は私たちがなんとかするんで」
「やめろぉおおおおーっ!! いやだぁああああ!! 金剛、金剛ぅうう――ッ!!」

 彼は叫びながら、その巨体で激しく暴れ回って逃れようとするが、背後からがっちりと天津風の怪力で押さえつけられ、そのままずるずると引きずられていった。


「え、私たちが埋めちゃっていいの――?」
「……こいつは、自分が暴れれば暴れるほど、金剛の遺志を無駄にすることすら分かってねぇ。見せない方がいい」
「ドラゴンくん、早く来てね」


 天龍と島風がそう言い残し、佐天とアニラだけが、喫茶店の元に佇んでいた。


   ††††††††††


 綺麗な指をしている。
 眠り姫のような、綺麗な顔をしている。
 その巫女さんのような衣装の胸元に、ぽっかりと大口を開けた銃創だけが、ただただ異質だった。

 衣服に取りつけられている、信じられないくらい重い船の模型や武装を取り外してみれば、そこにいたのは、私や初春と大して変わらない、ただの人間の女の子だった。


「作られた……って言っても、私たちと、どこが違うっていうのよ……。同じじゃない、ねぇ……」


 そこにいたのは、紛れもなく、人間の女の子の死体だった。
 胸元の奥深く、赤黒い血だまりの闇に溶けた空間は、余りに生々しくて、見たくなかった。
 私が直視した初めての、人の形をした死体だった。

 喫茶店の植え込みに穴を掘っていた皇さんが、尻尾の先にボールペンを掴み、メモ帳に文字を書いていた。


『恐らく、何も違いません』
「そうよね……。有冨さんに作られたフェブリちゃんだって、普通の女の子だったもの。
 極論、この島のヒグマだって、同じなのかも……。人の言葉、喋ってたしさ……」


 他者とかかわり、会話し、コミュニケーションから関係を築いてゆく。
 恐れもするし、お腹もへるし、恋もするし、色んなヤツがいるし。
 それならば、私たち人間と、ここのヒグマたちとの間の、一体どこに境があるだろうか?

 金剛という、重々しい名前を背負った彼女の装備を四次元デイパックに仕舞い、軽くなった彼女の体を、その穴の中に二人で差し入れてやる。
 その頭上には、一本の真っ直ぐな木が聳えていて、鱗のような葉を茂らせた、爽やかな香りの枝がそこに広がっていた。

「……この木、何ていう名前なのかしら」
『「翌檜(あすなろ)」』


 滑らかな木肌に触れていた私に、皇さんが丁寧な漢字で、その名を見せてくれた。
 『明日はヒノキになろう』――。
 確か、そんな意味合いでつけられた名前の木だ。

 彼女の体は、分解され、きっと、この木の糧となってゆく。


 ヒグマの肉で作られ、人間の形を持った、軍艦――。


 一体、そんな彼女の存在は、何になろうとしていたのだろうか。


「彼女も――、あすなろみたいに、『明日は人間になろう』と、思っていたのかしらね」
「それは違います」


 しんみりしていた私の言葉は、皇さんの声で即座に否定された。
 驚きに振り向いた私へ、皇さんは、彼女の体に土を被せてやりながら静かに説明を加えている。


「『明日は檜になろう』という語源は、真の語源ではありません。
 あすなろは、ヒノキよりも枝葉が分厚く育つため、『アツハヒノキ』と呼ばれておりました。
 『明日はヒノキ』とは、それが転じていったものであります」

 私の眼を、皇さんはその真っ赤な瞳で見つめ返す。

「始めから、あすなろはヒノキであり、彼女は人間であり、同時にヒグマであり軍艦でありましょう。
 全ては、視点の相違に依存するだけの価値観であります故。そこに、境などありません」


 古くから、日本人は、ありとあらゆる物事に『神』が、八百万の神が宿っていると考えていた。
 100年大切に使った道具には魂が宿り、99年だと妖物になる、とか。
 器物と妖物と神との間に境は無く。
 そして、それを観測している私たち人間と、観測されている外界にも、境は無かったのかも知れない。

 擬人化。

 というのも、多分日本人独特のものだ。
 英語を習っていると、無生物を主語にしたりするけれど。
 恐らく、ただの物体に人格を見出す文化が根付いているのは、日本人くらいのものなのではないか。

 柵を越えて同期した心は、異なった視点を生み、異なった現象を呼び、日本人の精神文化を進化させてきたのかも知れない――。

 私は、皇さんの言葉を聞きながら、ふとそんなことを思う。


 ぼりん。


 少女の体を埋めていた皇さんから、そんな音が聞こえていた。

 ぼりん、じゅる、じゅる。と。

 彼の黒い背中の向こうで、そんな音が立っている。


 回り込んで、私は見た。
 皇さんが、メロンのような丸い球体を割って、中の肉を啜っているのだ。

 メロンにしては、その果肉は赤すぎた。
 ケチャップにしては、その臭いは酸鼻すぎた。

 そして何より、その球には、髪の毛と、目鼻がついていた。


「ひ、やぁあああああ――っ!?」


 数歩たたらを踏んで尻餅をついた私の前で、皇さんは淡々と、金剛という女の子の脳を啜り続けた。
 そして頭蓋内を綺麗に舐めた後、彼女の生首を丁寧に墓穴に置いて、最後の土を掛けて、埋めた。


「な、な、なんで――ッ! なんで、この子を、食べたのッ!?」
「……佐天女史には、自分の食人欲求のことをお話ししていたはずでありますが」
「いや、話してたってッ……! さっきまで、一緒に、弔っていたじゃない!!」


 皇さんは、『意味が分からない』とでもいうように、小首を傾げていた。


「……彼女の血肉を、有効利用させていただいたまでです。無駄を省き、死者を敬うという面でも理に適ったことであったかと思考しております」
「そ、そういう問題じゃないわよ――ッ!! 何があっても、相手に危害は加えないって――、約束してくれたじゃない!!」
「……佐天女史の決断には、従っております」


 皇さんは、悪びれもせず、そう答えるだけだった。

 解る。
 頭では、解る。

 皇さんは確かに、生きている人には、綱渡りのような危ない演技で、私の決断を実行してくれた。
 そして、金剛という彼女は、既に死体だ。
 形見である装備品やなんかも回収したし、あとは埋めてしまうだけの体を、独覚兵が食べていけないわけはないのだろう。
 皇さんは、今までずっと真摯に、その欲求に耐えていてくれたんだ。

 彼が理性的でなかったら、金剛さんの脳の代わりに、食われていたのは私の脳だったはずだ。


 ――でも、生理的に、受け付けない。


 皇さんも、あのヒグマも、同じだ。
 自分の欲望を、上手く他人から隠していたか、人目に晒してしまったかだけの違いだ。

 それは目の当たりにしてしまえば、あまりの生々しさに、普通の人なら見たくなくなる歪みだ。
 だから人間は大人になるにつけ、きっとそれを心の奥にどんどん仕舞い込んで行く。
 自分が一番見たくない、自分の一番根底にあるもの。

 それが自分の表面に、境を越えて現れてしまった時――。


 行動的には、それは異常性癖や食人欲求となり、肉体的には、竜やヒグマのような荒々しい形態となって、現れてしまうのかもしれない。


 私は皇さんを視界に入れないように、踵を返していた。
 立ち上がった時、自分の手足が、胸騒ぎで震えているのがわかった。

「……皇さんが、耐えていてくれたのは、解るわ。でも、悪いけど、そんなもの、聞きたくない」
「……本当に、お解りになるのですか?」

 皇さんの静かな呟きに、私はハッと振り向いてしまう。
 佇む皇さんの表情は、心なしか、悲しんでいるようにすら見えた。


『ウィルスは、些細なきっかけに過ぎません。脳の中に、体の中に、心の中に、「独覚兵」という存在は誰の奥底にも眠っているものだと思われます。
 それは自分自身の本質でありながら、最も自分自身とは遠いものであります。
 佐天女史は、それを呼び覚ましてなお、自分自身である自信がありますでしょうか』

 皇さんが語った言葉が、脳裏にはっきりと思い出された。


 私が、皇さんの心を理解できるというのなら、私は彼の心に、自分の投影を見ている。
 彼の『在り方』に、近づいてしまったからこそ、彼を理解できるんだ。

 見たくない。
 聞きたくない。

 頭ではわかっても、生理的に、拒絶したい。


 それはきっと、開けてはいけない扉の先にあるものを、私は薄々――。
 いや、それどころかはっきりと、認識してしまっているからに、違いなかった。


「――後悔に意味はありません。佐天女史の心情を損ねた結果を、自分はただ受け入れ、改善致します。
 佐天女史も、どのような結果になりましょうと、ご自身の決断には決して後悔なさいませぬよう」


 皇さんは、それだけを静かに呟き、あすなろの木を墓標としたお墓に向けて、そっと両手を合わせていた。
 彼に続けて合わせた指の先は、冷えきっていた。


 小指の先に回る、億兆京那由多阿僧祇の、細かな満月が見える。
 江ノ島盾子を噛み砕いた月が、私の影で笑っている。
 冷え冷えとした表情で、私の中にくるくると踊っている。

 蹴り殺したはずの誰かの足音を、私は、私の真下の大地の中に聞いた。
 埋めたはずの墓の下にいるのは、本当は、私なのかもしれない。


   ††††††††††


【D-6 とあるビルの中の小さな喫茶店/日中】


アニラ(皇魁)@荒野に獣慟哭す】
状態:喋り疲れ、脱皮中
装備:MG34機関銃(ドラムマガジンに40/50発) 、『行動方針メモ』
道具:基本支給品、予備弾薬の箱(50発×5)、発煙筒×2本、携帯食糧、ペットボトル飲料(500ml)×3本、缶詰・僅かな生鮮食品、簡易工具セット、メモ帳、ボールペン、金剛の装備品×4
[思考・状況]
基本思考:会場を最も合理的な手段で脱出し、死者部隊と合流する
0:これほどまでに多数の女性と長時間会話したことは、今まであっただろうか……。
1:海自の『艦娘』の中には、優良な人材が居そうであるが……?
2:佐天女史は、自分と行動を共にしすぎている……。果たして、それは良いことなのか。
3:参加者同士の協力を取り付ける。
4:脱出の『指揮官』たりえる人物を見つける。
5:会場内のヒグマを倒す、べきなのでしょうか。
6:自分も人間を食べたい欲求はあるが、目的の遂行の方が優先。
[備考]
※脱皮の途中のため、鱗と爪の強度が低下しています。


【佐天涙子@とある科学の超電磁砲】
状態:疲労(小)、ダメージ(小)、両下腕に浅達性2度熱傷、右手示指・中指基節骨骨折(エクステンションブロック法と波紋で処置済み)、頬に内出血
装備:なし
道具:百貨店のデイパック(発煙筒×2本、携帯食糧、ペットボトル飲料(500ml)×3本、救急セット、タオル)
[思考・状況]
基本思考:対ヒグマ、会場から脱出する
0:金剛さん……。ご冥福を。
1:人を殺してしまった罪、自分の歪みを償うためにも、生きて初春を守り、人々を助ける。
2:もらい物の能力じゃなくて、きちんと自分自身の能力として『第四波動』を身に着ける。
3:その一環として自分の能力の名前を考える。
4:『疲労破壊(ファティーグフェイラァ)』……!!
5:私の奥底に眠る、『在り方』って……?
6:ヒグマ提督も皇さんも私もみんな同レベルとか、流石にそうは思いたくないわね……。なんか字面が嫌。
[備考]
※第四波動とかアルターとか取得しました。
※左天のガントレットをアルターとして再々構成する技術が掴めていないため、自分に吸収できる熱量上限が低下しています。
※異空間にエカテリーナ2世号改の上半身と左天@NEEDLESSが放置されています。
※初春と協力することで、本家・左天なみの第四波動を撃つことができるようになりました。
※熱量を収束させることで、僅かな熱でも炎を起こせるようになりました。
※波紋が練れるようになっているかも知れません。
※あらゆる素材を一瞬で疲労破壊させるコツを、覚えてしまいました。


【島風@艦隊これくしょん】
状態:健康
装備:連装砲ちゃん×3、5連装魚雷発射管、応急修理要員
道具:13号対空電探、基本支給品、サーフボード
基本思考:誰も追いつけないよ!
0:ヒグマ提督と、天龍の指示に従う。
1:金剛……速かったよ……。
2:ドラゴンくんも速かったな……。
3:あっちにいる人は、どのくらい速いのかな……。
[備考]
※ヒグマ帝国が建造した艦むすです
※生産資材にヒグマを使った為、基本性能の向上+次元を超える速度を手に入れました。
※速さの極みに至った場合、それはただの瞬間移動になり、攻撃力を持ちません。
※エネルギーを失えばその分減速してしまうため、攻撃と速力の極限は両立しません。


【天龍@艦隊これくしょん】
状態:小破
装備:日本刀型固定兵装
主砲・投げナイフ
道具:基本支給品×2、(主砲に入らなかったランダム支給品)、マスターボール(サーファーヒグマ入り)@ポケットモンスターSPECIAL
基本思考:殺し合いを止め、命あるもの全てを救う。
0:迅速に那珂や龍田、他の艦娘と合流し人を集める。
1:金剛、後は任せてくれ。俺が、旗艦になる。
2:ごめんな……銀……
3:涙子、皇と共にいる参加者と合流し、情報交換する。
[備考]
※艦娘なので地上だとさすがに機動力は落ちてるかも
※ヒグマードは死んだと思っています


穴持たず678(ヒグマ提督)】
状態:健康、金剛と離れたくないと駄々をこねている
装備:なし
道具:なし
基本思考:責任のとり方を探す
0:自分にできることをはじめよう
1:金剛…………!! 金剛…………!!
2:だって球磨は……、うちの艦隊にいなかったんだもん!!
3:こんなの、私の知ってる天津風ちゃんじゃない!!


【天津風@艦隊これくしょん】
状態:健康
装備:連装砲くん、61cm四連装魚雷、強化型艦本式缶
道具:なし
[思考・状況]
基本思考:ヒグマ提督を守る
0:ヒグマ提督を、二水戦流の訓練で矯正する。
1:風を吹かせてやるわよ……金剛……。
2:佐天、皇と同行して、人員を集める。
3:私は島風の姉妹艦でもないし、提督LOVE勢でもないわよアホか!!
[備考]
※ヒグマ帝国が建造した艦娘です
※生産資材にヒグマを使った為、耐久・装甲・最大消費量(燃費)が大きく向上しているようです。


   ††††††††††


【アテヒ(明檜・貴檜)】

 あすなろのこと。

 あすなろの語源には諸説ある。
 アツヒ(厚葉の檜)→アツハヒ→アスナロという変化以外にも、古来アテヒと呼んだことから2つほどの説が提唱されている。

 林業における、日陰で育った木の事を指すアテ(陽疾)という単語から、『暗闇に負けぬヒノキ』の意。
 そして、古語のあてなり(貴い)という単語から、『気高く、高貴なヒノキ』の意。

 どの説を取るにせよ、『明日はヒノキになろう』ともがき、その明日に決して至れない者の意では、有り得ない。


 人と、獣と、機械の、全てのちょうど中間点にいた少女の亡骸も今、このあすなろと共にある。

 獣の姿を持ってしまった人。
 自身の裡に歪んだ月を見る人。
 人の思考を持ってしまった獣。
 人と機械の矛盾点を踏み越えてゆく同胞。

 彼らの背中を、あすなろはそこから見ていた。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2014年12月14日 23:43