「……赤い空気だ。進むな、深雪」

 走っていた少女の前へ、差し止めるように腕が突き出された。
 熊の掌をつけた、細い腕だった。

「え!? 赤い……、なんですって?」

 薄暗く荒廃した地下通路に声を響かせたのは、膝につきそうな長い黒髪を揺らす少女。
 司波深雪の体で息を弾ませている彼女は、穴持たず46・シロクマその人だ。
 現在のヒグマ帝国において、シーナーを除けばただひとりの指導者クラスの生き残りになってしまった彼女は、C-4エリア地下のしろくまカフェから一気に道を南へ下っていたところである。

 その彼女を止めたのは、百合城銀子と名乗る、クマとヒトの両方の特徴を備えた少女。
 シロクマに同行して道を駆けていた彼女は今、しきりに鼻をひくつかせながら、暗がりの先を窺っていた。

「……やはりこの先一帯が、赤い空気に塞がれてる。人間が機械から吐き出させてた、毒の空気だ。
 このまま進んでいくと、肺から舐めて溶かされるぞ。がうがう」
「まさか、二酸化窒素ですか……!? じゃあ、クイーンさんの能力……。
 これだけはしたくないと言っていたはずなのに……」

 C-6エリアから東に折れて、D-6の田園地帯に入ろうとしていた直前だった。
 キングヒグマが自身の救助に回って来れたことから、シロクマは現状唯一地下で抵抗戦線を張っていると推測された食糧班に合流しようと、百合城銀子を説得して走っていたのである。
 銀子は硬い表情で、シロクマへ顔を振り向けた。

「引き返そう深雪、きみの言う食糧班は潰滅した可能性が高い。近くに生き物の気配が全くないから」
「そん、な……」

 荒い息を膝に吐きながら、シロクマは声を震わせた。
 動悸が止まらないのは、全力疾走のせいだけではない。


「……あと、何か助けを求められる心当たりがあるのか?
 無いならもう、さっさと地上に上がった方が良いと思うがう」
「あと、可能性があるとするなら、西の診療所……。
 シーナーさんが防衛に当たっているなら、まだそこだけは無事かもしれません……」

 眼をきつく瞑りながら、司波深雪の口は祈るように言葉を絞り出した。
 見下ろす銀子の視線は痛ましかった。


「……本当に、その可能性はあるのか?
 この状況で、彼は防御という後手に回るようなクマなのか?
 敵の攻撃からその拠点が無事である可能性は、きみが信じられる程にあるのか?」
「……わかりません」


 シロクマは壁を叩く。
 規則的に叩いた指の先で、苔はぼんやりと光っているだけで、動かなかった。
 ――キングヒグマの能力は、失われた。
 粘菌通信で、拠点の安否を問うことはできなくなっている。

 そもそも、この通信遮断の事態を把握できる生存者が、シロクマの他にいるのかすら、わからなかった。

 シロクマには、シーナーの行動パターンなど読めない。
 なおのこと、江ノ島盾子とモノクマの行動などわかりようがない。
 江ノ島を利用し裏切ろうとしていたにも関わらず、ふたを開けてみれば、シロクマは完全に彼女の掌の上で踊らされていたに過ぎなかった。
 百合城銀子の質問に答えられる程、彼女は自分の思考を、信じられなかった。


「……引き返しましょう。引き返して、地上に上がり、機を待ちます……」
「よしきた。その言葉を待ってたがう」

 銀子はにわかに下心いっぱいの笑みを浮かべ、親指を立てる。
 そして周りを見回し、問うた。

「で、どこから私と深雪のユリの園には上がれるがう?」
「あ……」

 地上へのルートを聞かれ、シロクマは絶句する。
 下水道は、津波の水で溢れ、通れない。
 入ってしまえば、自分や百合城銀子程度の体では確実に流されるだろう。
 その場合、使えるルートは非常に限定される。


「総合病院への通路は、西の診療所……。
 研究所中央の大エレベーターは、多分火山の噴火で使えなくなってますし……。
 ……あとは、艦これ勢が島風を地上に出した時の、地底湖の隠し階段くらいしか……」
「潰滅の可能性濃厚な拠点2つに、敵の本拠地……? ……実にクマショックだがう」

 頭に地下の地図を描きながら、二人は渋い声を漏らす。
 最も近いルートは、すぐ西に向かった位置の診療所であることは間違いない。
 だが、シロクマはなるべく現時点で、敵の艦これ勢との接触は避けたかった。

 魔法演算領域を破壊された自分と、百合城銀子程度では、多数のヒグマと戦闘になった場合生き残れる見込みが立たない――。

 そう考えていた時、遠くの通路で、遠雷のような音が鳴る。
 何かの爆発音だった。

 続けざまに重い音が、通路を急速に走り寄ってくる。
 シロクマと銀子は、にわかに全身の毛を逆立てた。

 ざ、ざ、ざ、ざ、ざ、ざ。
 ざ、ざ、ざ、ざ。
 ざざざざざざざざざ――。

「――水音!?」
「まさか、これは――」

 津波。
 下水道管を破ったと思しき大量の水が、暗がりの中で通路を逆巻いてくる。
 穴持たずカーペンターズが補修作業をしていた下水管だ。
 通常なら破れるはずがない。
 艦これ勢の攻撃だとしか考えられなかった。


「と、とにかく、北へ戻りましょう! 少なくとも大エレベーターは、誰にとっても盲点になってるはずです!!」
「ああ、故障してるだけなら、こじ開けてエレベーターシャフトを昇ればいい!」

 西の診療所は、百合城銀子の見立て通り、壊滅したとみて間違いない。
 二人は一斉に踵を返し、追ってくる津波から、再び全力で逃げ出した。


    **********


「……水が来なくなったがう――?」
「この島には地下水脈もあります。溢れた津波がそちらへ流れ始めたんでしょう……」

 研究所跡の中心部まで彼女たちが駆け戻った頃、彼女たちの後方で、浸水していた津波が退き始めていた。
 艦これ勢の反乱で荒らされた瓦礫の通路を真っ直ぐ突っ切り、二人はC-5から火山の直下にほど近い、E-5の大エレベーターの前までやってくる。
 しかし、その場の状態を見て、両者は呆然とした。


「……これは、マグマの熱量……? いえ、巨人が現れたというから、その重量で……?」
「完全にひしゃげてるがう……。開くかな、これ……」


 崩落した天井や大量の瓦礫に狭窄した道なき道の奥で、大きなエレベーターの扉は飴細工のように歪んでいた。
 二人が扉の両サイドから爪を立て、全力で引き開けようとしたが、開かない。

「ちょっと、百合城さん! あなた純然たるクマなんですよね!? 本気出して下さいよ!!」
「なるほど私は確かにクマだが、同時にホモサピエンスでもある。深雪こそ全力を出したまえ」
「やっ、てま、すッ!!」
「わた、しも、だッ!!」

 歯を食いしばって唸っていた二人は、ついに指を滑らせて後ろにつんのめった。
 ただでさえ重い扉が、歪みのせいでがっちりと噛み合い、びくともしない。
 2人の力を持ってしてこれだ。
 いったいどれほどの怪力があれば開くものか――。

 そう考えてシロクマは、自分のある行為を思い出し、唇を噛んだ。


「……『解体さん』。もし私があの時、お兄様と一緒に、彼をビスマルクに殺させたりしていなければ。
 力に、なってくれていたかも知れないのに……。私たちは、彼の言葉を、聞こうともしなかった……」


 書類上の不備だけで、シロクマとその兄は、ヒグマ帝国で一、二を争うだろう力持ちを殺してしまった。
 それも、ビスマルクという即席の下請けに丸投げしたという、ひどいお役所仕事そのままの体裁でだ。
 今のシロクマには、そのビスマルクの所在すら解らない。

 艦これ勢から鹵獲したとはいえ、彼女も所詮艦娘だ。
 解体ヒグマの処刑報告に虚偽があったとしてもなんら不思議はない。
 彼女は再び、艦これ勢とモノクマに寝返っているのかも知れない。
 疑い始めたらきりがない。

 とにかくシロクマにわかることは、何もわからないということ、ただそれだけだった。
 もう彼女には、この場で味方となってくれる者が、誰も思いつかなかった。

「……深雪。八方塞がりなら、ちょっとどころでなくピンチかも知れないぞ。他に逃げ場って、ないのか?」
「あります……、ありますけど……!! もう私は、そこに、行けないんですよ……!!
 『イソマさんの場所』には……!!」

 焦りの色を帯び始めた百合城銀子の問いに、シロクマは吐き出すように答えた。


「イソマ様……、深雪のお兄様が言ってた、『願望器』の名前だったか?」
「そうです。穴持たず50であるイソマさんは、『聖杯の器』そのものです」


 記憶を紐解く銀子に、大きく頷く。 

「普通の人間や生物、もしくは機械ごときには絶対に侵入も認識もできない場所……。
 こちらの世界とは異なる演算法則が支配する空間を構成して、イソマさんはそこに隠れています。
 行き来する手段を持っているのは、私たちヒグマ帝国の指導者クラスに限られていました。
 だから、行けさえすればそこは安全なんです」

 ――お兄様ならば、その『精霊の眼(エレメンタルサイト)』によって四元数環上に構成されたイソマさんの空間を観測できる。
 ――ツルシインさんも同様にその眼によって、四元数環と実数空間の座標が一致する特異点という吉兆を見て、そこから侵入できました。
 ――シーナーさんの場合は、理由は不明ですがとにかく侵入できます。彼の『治癒の書』は、特に彼の五感を増強するものではないと思うのですが……。
 ――とにかく、彼は『イソマ様が呼べば、いつでもあのお方の元には瞬時に辿り着けます』と言っていました。


 シロクマは自分たちヒグマ帝国の指導者が、いかにして彼らの擁する真の帝王の元に辿り着けるのかを、つらつらと語った。 

「私の場合は、『ニブルヘイム』です。空間を絶対零度にすることで、四元数と実数での座標演算の差異が、私の魔法演算領域でも十分一致させられるほど、なくなります。
 その間に、量子もつれを利用して私の存在を移動させるわけです」
「……どういうことだ?」

 シロクマの言葉にそして、百合城銀子は真顔のまま首をひねる。
 シロクマは額を押さえた。

「……私が冷やすと、イソマさんの空間も止まって、捉えられるようになるということです」
「なるほど。確かに川ごと凍れば、どんなに速く泳ぐ鮭でも捕らえられるだろう。それと同じか?」
「だいぶ違いますけど、もうそれでいいです。……もうどうせ、無理なんですから。
 今の私には、イソマさんのいる空間なんて、見えっこありません……」

 言葉に出して、シロクマの落胆はなお深まる。
 魔法を失い、兄も、ヒグマ帝国の信頼も失った自分には、もう逃げ場がないということを再認識するだけだった。
 だがその前で、百合城銀子だけは、感慨深げに頷いていた。


「……そうか、イソマ様も、クマリア様と同じ、『壁の神様』か」
「……『壁の神様』?」

 顔を上げた司波深雪の瞳に、銀子は不敵な笑みを見せつける。


「要するに『イソマ様の場所』とは、『断絶の境界線』なんだろう? そこなら私は、行きつけだ」


 断絶の境界線という聞きなれない言葉の意味をシロクマが問おうとした時、彼女たちに通路のむこうから声がかかった。


「シロクマ、さん……? 良かった、ここにいらしたんですね……」
「え……!? あ……、あなた、まさか、あの時の……?」
「はい……、穴持たず543です……」

 暗がりの奥から、ヒグマの顔が、よたよたとした足取りで近づいてくる。
 初めこそビクリと身を竦ませたが、振り向いたシロクマは、そのヒグマの顔を見て、頬を緩ませた。

 見覚えのあるヒグマだった。
 放送室で、彼女の前にキングヒグマを連れて争いを収めた伝令ヒグマ、穴持たず543。
 瓦礫を掻き分けるようにして、彼の頭が、闇の中からシロクマたちの方に近付いてきているのだ。

 ――こんな私でも、助けてくれる味方はまだ、残っていた。

 司波深雪の眼は思わずその様子で、感涙すら零してしまう。

 血の臭いがする。
 怪我をしているらしい。
 ふわふわと足取りが定まらないのはそのせいだろうか。


「……待っててくださいね。今、安全な場所に、ご案内しますから……」
「は、はい! 543さん、そちらに行きま――」
「行くな深雪!!」


 近寄ってくる穴持たず543の姿に駆け寄ろうとしたシロクマはその瞬間、後ろから襟を掴まれた。
 百合城銀子だ。

「……ごりごりごりごりごりごりごりごり」

 彼女は暗がりにいるそのヒグマに向けて、威嚇するように低く唸り、歯ぎしりを繰り返している。
 シロクマは彼女の様子に、呆れと怒りを抱いた。

「何してんですか!? 折角彼が助けに来てくれたのに!!
 私を独り占めできないのが嫌だってわけですか!? いい加減にして下さい!!」
「……深雪にはあいつが『助け』に見えるのか?」

 銀子はシロクマの怒声にも表情を変えず、張り詰めるような警戒を続ける。
 そして続けざまに、彼女は歩み寄ってくるヒグマへ鋭く言葉を投げつけていた。


「……おい、近付くんじゃない! 趣味の悪い殺し方しやがって。今すぐその三文芝居をやめろ!」
「……あっるぇ~? この演技じゃダメかい? なかなかゴーレム提督みたいにはいかないねぇ~」


 直後、穴持たず543の頭から発せられていた声は、唐突に声音を変えた。
 暗がりに浮いていた頭が、どさりと床に落ちる。
 穴持たず543は、皮と生首だけになっていた。


【穴持たず543 死亡】


「ひぃ……!?」

 司波深雪の咽喉が引き攣る。
 穴持たず543のいた暗がりからは、別のヒグマが顔をのぞかせてくる。

「お初にお目にかかりますかね、シロクマさんと、あとそこのコスプレの貴様。
 ボクは第三かんこ連隊連隊長、チリヌルヲ提督だよ~ん。
 あ、覚えなくていいからね! どうせ貴様らはこのオレたちが嬲り殺すんだから!!」

 灰色の髑髏かクラゲのような被り物をした、気味の悪い笑みを浮かべるヒグマだった。

「ヒャハァッ!!」
「くッ――!?」

 直後、側方の空間から、突如何かが風を切って襲い掛かってくる。
 銀子はシロクマを掴んで後方に跳び、その爪の閃きを辛うじて避けた。
 全身を黒塗りにしたヒグマの影が、一瞬床に着地するのが見え、そして瞬く間にそれは再び暗がりに消え去っていく。


「女だ、女だァ……」
「ヒヒ、活きの良いメスの肉だぜ……」
「熱烈歓迎!! 悶絶失禁的絶望顔!!」
「指先から刻んで、シロクマさんの蕩けるような恐怖と血を啜ってあげたい……」
「い、一回やってみたかったんだな、ち、乳首の穴広げて、オデのをツッコムの」


 周囲の暗がりからは、にわかにざわざわと、数十頭ものヒグマの囁きが聞こえてくる。
 シロクマと百合城銀子の意識が、正面のチリヌルヲ提督に注がれている間に、ひっそりと取り囲んでいたものらしい。
 余りに手慣れている敵方の攻め手に、銀子は歯ぎしりを繰り返した。


「残念だったねぇシロクマさん。この彼も必死に他の指導者を探して、あなたのことを守り通そうとしてたのよ。
 貴様らの居場所とか吐いてもらおうと思ったんだけど。
 指を全部折っても喋らなかったし、腸を喰っても肝臓を千切っても、結局死ぬまで何も喋らなかったよ。ほんとエライ」

 チリヌルヲ提督と名乗った灰色のヒグマは、穴持たず543の死体を掲げながらにこやかに笑う。
 恐怖でかちかちと歯を鳴らすシロクマや、怒りの形相で睨みつけてくる百合城銀子の様子を、彼は心底楽しんでいるようだった。

「でも残念! シバさんは破壊され、ツルシインさんは爆死し、シーナーさんは生き埋め。
 彼が喋ろうが喋るまいが、貴様はもうどこにも逃げる場所なんてなかった! 完全に無駄な努力、ご苦労様ァ!!」

 そして叫びながら、彼は穴持たず543の死体を引き千切った。
 するとその中から、クラッカーのように大量の紙ふぶきと笛の音が吐き出される。
 シロクマと銀子が驚きに目を奪われたその時、チリヌルヲ提督の姿は紙ふぶきに紛れて闇に消えていた。

「しまっ、深雪――!!」

 同時に、それを合図にするようにして、四方の暗がりから一斉にヒグマの気配が二人に向けて襲い掛かった。
 シロクマを突き飛ばした百合城銀子に、ヒグマの爪の閃きが殺到する。
 後ろに転げた司波深雪の目の前で、百合城銀子の姿は、大量の黒い影にのしかかられて見えなくなってしまっていた。


「あ、あ……」

 シロクマは震えながらも、這うようにして瓦礫の中を逃げようとした。
 百合城銀子は、身を挺してでも自分を逃がそうとしたのだ。
 とにかく、この場所から急いで逃げなければならない。と、その一念だけがシロクマの思考にはあった。
 だが彼女の前は、黒い毛皮で塞がれる。
 眼を光らせ、涎を零すヒグマの姿が、顔を上げた彼女の視界を埋めた。


「オ、オデが乳首、もらったんだ、な」
「きゃぁあああぁぁぁ――……!?」


 ヒグマの爪が光るのを見た瞬間。
 シロクマは自分の体が、背中から階段を転落するかのように、下へ下へと落ちてゆくのを感じた。


    **********


「開廷――ッ!!」
「……は?」

 シロクマが気づいた時、そこは見覚えのない空間だった。
 いや、厳密に言えば見覚えはある。
 だが、最後に見た時とそこは、大きく内装が異なっていた。

 薄暗いその空間にはまるで裁判所の議場のように、法壇が設えられている。
 シロクマの見知っているこの場所は、確か左右がヒグマ培養槽のシリンダで埋められていたはずだ。
 そのシリンダがあったはずの右手には、なぜか、百合城銀子の姿がある。
 彼女は状況を理解できぬシロクマに微笑んで見せた。

「『断絶のコート』の『ユリ裁判』へようこそ、深雪」
「ゆ、ユリ裁判……!?」
「彼女の記憶に基づいて、この場所は再構築されたんだ。
 あまり体裁を気にする必要はないよ、シロクマさん」

 混乱するシロクマに、正面の壇上から声がかかる。
 老人とも若人とも男とも女ともヒトともクマともつかぬ声。
 見やればその裁判長席には、穴持たず50・イソマの、輪郭の掴めぬ姿があった。
 既に無き国の王と言っても過言でもないその帝王は、それでもなお堂々としていた。


「来れたんですか、私は……、この四元数環に!? 一体どうして……」
「良かったな深雪、私の『起訴』が間に合って」
「そこの百合城銀子さんの能力と言っていいだろう。
 彼女はこうして何度も、世界を隔てる断絶を越えてきたようだからね」

 百合城銀子の微笑みに合わせ、イソマは議場壁面のロウソクへ一斉に炎を灯す。
 にわかに荘厳な明るさを帯びた裁判の壇上で、裁判長が朗々と声を張り上げた。


「それではこれより、被告人シロクマのユリ裁判を執り行う!」
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってください! 全く意味がわかりませんよ!
 そんなことより先に、私はイソマさんに話さなきゃいけないことがいくつもあるんですけど!?」
「ああいいよ、話してくれても。だがこの裁判は、断絶のコートとしてここを訪れた場合、必ず執り行われなければならないものだ。そこは留意してほしい」
「はぁ……、と、とにかく話します……!」

 狼狽で一気に体力を失った感のあるシロクマは、そうしてようやく息を落ち着けた。
 彼女はその時ようやく、自分が被告人席に立たされていることに気付く。
 なんと失敬なことか。と思ったが、そこに拘っている暇はない。


「イソマさん! 気づいてますか!? ……もう、ヒグマ帝国の指導者は、ほとんど殺し尽されてしまったんです。
 お兄様も、ツルシインさんも、シーナーさんも……。キングさんやクイーンさんまで……」
「大体のことは察せている。だが少なくとも、シーナーはまだ生きているようだ。それだけはわかるよ」
「でも、生き埋めらしいんです……! これではもう、この島は江ノ島盾子と艦これ勢に支配されてしまいます!!」

 シロクマは、司波深雪としての学校生活で磨いた弁舌の腕を揮い、被告人席から滔々と意見を述べた。


「今こそ! 今こそイソマさんの聖杯としての力を使うべきです!!
 イソマさんが願望器として、私のお兄様を復活させて下されば、必ずやお兄様は敵を滅ぼし、この島とヒグマに平和をもたらして下さるはずです。
 お願いします!!」
「……きみの意見はわかった。ならばぼくは、いくつかそれを正させてもらおうか」


 深々と頭を垂れたシロクマに向かい、イソマはゆっくりと指を立てて見せる。

「わかってるだろう? ぼくはまだ、願いを叶えることはできないし、同時にもはや、外界に出ることは叶わない。
 なぜならばそれはぼくが、『聖杯』を宿してしまったヒグマだからだ。ぼくは外界と隔絶されたここでのみ、自分を保つことができる」
「……『聖杯戦争』については、確かに専門外ですが……。そこまで、厳密なものですか」
「ああ、そうだ」


 イソマは、HIGUMAとして作成された際に、サーヴァントを呼び寄せるだけの大きな魔力に接続し、図らずも『聖杯の器』となってしまった、一種のホムンクルスである。
 STUDYがクロスゲートパラダイムシステムによってマスターを呼び寄せた際、彼らのサーヴァントが現界を維持できたのは、ひとえにイソマが聖杯としてこの島に存在していたからに他ならない。

 そして同時に、7騎のサーヴァントの魂を収める器でもあるイソマは、その魂が集まるにつれて生物としての思考能力を失っていってしまう。
 現在イソマの中には、既にランサー、セイバー、アーチャー、ライダーバーサーカーという5騎ものサーヴァントがくべられている。
 この状態では通常、『聖杯の器』の肉体はもはや物質的な聖杯の形状に落ち込んでしまっているはずだ。
 そのイソマがいまだ活動していられる理由は、四元数環という異なる演算法則の支配する領域へ、自身を絶妙に断絶させているからに他ならない。

 聖杯は、7騎のサーヴァントの魂を元にしてのみ、ようやく願望器として十分な魔力を得る。
 5騎では、まだ願いを叶えるには足りない。
 だがその前に、外界に出て身動きのとれぬ肉体になり果ててしまうことは避けねばならなかった。
 イソマが完全に聖杯と化してしまえば、特定の願いのみを選んで叶えることなどできない。
 それこそ、7騎の魂が揃った時点で早く願ったもの勝ちになってしまうだろう。


「……もしぼくを願望器として使いたいなら。言ったはずだシロクマさん。
 ぼくはきみたちが行なった実験の『果て』に従い、それを断行する者だ。と。
 どのような過程を経ようが構わない。
 だが、きみが『お兄様の復活』をぼくに願うなら、島に生きる全ての者をその意見に賛同させてみせろ。
 『彼の者』だろうと、艦これ勢だろうと、きみだろうと、その条件は平等だ。
 それがぼくへの願いに対する、必要十分条件だ」
「そ、んな……。全員の意見を一致させるなんて……」
「どうしてできないんだい?
 きみのお兄様が、本当にきみの言うような『この島とヒグマに平和をもたら』す素晴らしい者だったとするなら、みな、彼の復活に賛成してくれるんじゃないのかい?」
「……」


 イソマの詰問に、被告人席のシロクマは言葉を失った。
 もしかするとイソマは、司波達也が、津波の地上を爆破し、意味不明な深海棲艦を作り、鹵獲した艦娘をほっぽり、島中にアイドルを広めようとして物資を使い込み、助けに来たキングヒグマやツルシインさえも爆殺したことまで、全て把握しているのかも知れない。
 こうしてあげつらってみると、妹である司波深雪ですら、客観的に見て彼が復活させたいほど素晴らしい人間であったかには大きな疑問が出てくる。

 誰の目にも明らかだ。
 彼女の兄が素晴らしい人物で、島に平和をもたらすかどうかなど、ただの方便に過ぎない。
 シロクマの願いの本当の理由は、ただ彼女が、兄を手に入れたいだけのことだった。


「……どうした? きみの願いには、『スポンサー』がつきそうにないのか?」
「――!?」


 冷や汗が零れ落ちた。
 この別空間にずっと籠っていたにも関わらず、イソマには彼女とその兄の行動の一部始終を見透かされているような気さえした。
 いや、今のイソマの言葉は、間違いなく、シロクマの行動の全てが把握されていることを、暗に示している。

 イソマは、シロクマがうっかり発言してしまった『江ノ島盾子』という人物名を、『彼の者』と同列に扱った。
 そして今の『スポンサー』という単語は、彼女が一体どういう暗躍をしていたのかを把握していなければ、わざわざ選ぶような言葉ではない。

 そうだ。イソマの手に掛かれば、脳のニューロンの全てを転写・判読して記憶を見ることなど簡単なのだ。
 恐らくたった今、司波深雪の記憶は完全に見られた。
 シロクマが、救いようのない裏切り者であることを、知られてしまった。

 顔を上げても、イソマのぼんやりとした表情は、読めなかった。
 裏切り者であることを知ってなお、どうしてイソマがそこを責めないのかが、わからなかった。

「そ、それでも――、私の信じるお兄様は素晴らしい人です……!!
 今度のお兄様はもっとうまくやってくれるはずです……!!」

 彼女は、震える声で主張を続けるしかなかった。

「安心してくれ深雪。私はそんな願いには絶対に反対するから」
「え――!?」

 だが勇気を振り絞った発言は、弁護側の席にいる百合城銀子に、即座に叩き落とされる。


「だって、お兄様なんてユリのためにはただの邪魔者じゃないか。
 わざわざ一回限りの願いで復活させる意味なんて、私にはないがう。
 さっさとイヨマンテしてあげるのが筋というものだ。がうがう」
「こ、の……」

 飄々と言い放つ銀子に対し、シロクマは司波深雪の拳を握りしめ、強く眦を怒らせた。
 兄の所業への具体的な苦言ならばまだわかる。
 だがしかし、独占欲に満ちた手前勝手な意見で自分の渾身の願いを否定されたことに、シロクマは彼女へ殺意すら抱いた。

 銀子はそのシロクマの表情を見ながらも、不敵な笑みを崩さない。


「……そうだ。深雪がイソマ様を使ってその願いを叶えたいなら、自分以外の全ての生命を殺し尽すしかない」

 シロクマの心中を見透かすかのように、銀子は言った。 

「本当に『クマ』らしい顔をするじゃないか深雪。まるで蜜子のようだがう。
 まず手始めに私だな? 受けて立とうじゃないか。結果は眼に見えてるけどね。がうがう」
「……それか、イソマさんを無理矢理外に連れ出すという手もあります」

 歯噛みしつつ、シロクマは銀子から眼を背ける。
 殺意はあっても、現状で自分が百合城銀子を殺害できる算段はたたない。
 それどころか、この島で司波達也の復活に反対する全ての生命を殺し尽すことなど、今のシロクマにはどだい無理だ。体がいくつあっても足りない。

 シロクマは開き直った。
 どうせ裏切り者なのだ。
 それならばここでもイソマを裏切っても――。
 そう思い、彼女は爛々とした眼差しを壇上のイソマの方へ向けていた。


「現実世界に連れ出せば、あなたも思考能力を失った、ただの聖杯になりますものね……。
 そのままずっと持っていれば、もう私のものです……!」
「……本当にそんなことができると思っているのかいシロクマさん。
 今のぼくでもまだ、きみを一瞬でちくわパンにして銀子さんと食べるくらいの力はあるんだが」
「ああ、ちくわパンはいいぞ。紅羽のスキの味だ。深雪が一緒に食べられないのが残念だがう」


 できる限り凄んでみても、それは二頭のクマに、微笑みと共に脅し返されるだけだ。
 兄を復活させる前に北海道民のソウルフードにされてはたまったものではない。
 シロクマは、今の自分のちっぽけさを、痛感せざるを得なかった。

「まぁでも、そんな苦難の罪グマを承認してくれるのが、この『ユリ裁判』だがう。
 こちらで訴えた方が、イソマ様に直接願うよりまだ現実的だと思うぞ、深雪?」
「……はい?」

 項垂れるシロクマに、銀子は得意げな口調で語った。
 裁判長席からイソマが、怪訝な顔をするシロクマに言葉を投げる。


「こういう体裁ではなかったけれど、以前にもきみは、その願いを申し立てていたはずだ。
 お兄様を手に入れたい。とね。そのためには彼を一度殺さねばならないことを、ぼくは言っていただろう?」
「……ああ! それならそうです。お兄様をリセットするためでしたから。
 お兄様なら、死の間際にヒグマに転生し、感情を取り戻せると確信していました!!」


 シロクマが反射的に裁判長の言葉に答えてしまった、その瞬間だった。
 辺りを占める空気が、ざわりと張り詰める。
 百合の花の香りがする、緊迫感だった。


「……被告人シロクマは、自分の犯した罪を認めるということだな?」
「……え?」

 裁判長の声音が、低くなった。


「被告は、自分の兄の姿を変えてしまうことを望んだ。それは傲慢の罪だ。」


 被告が犯行に及んだ日時は、一昨日深夜から昨日未明にかけてである。
 被告は目撃者シーナーおよび被害者シバを連れ、自身の兄でもある被害者司波達也を殺害し、被害者司波達也の肉体が被害者シバの肉体に変わるよう仕向けた。
 これは明らかに傲慢の罪に抵触する犯行である。
 一連の犯行の真の目的および詳細は、目撃者シーナーその他あらゆる他者に伝えられたことはない。
 これらの事実は、犯行が被告の私情に基づく計画的なものであることを示しており、到底情状酌量の余地はない。


「え、ちょっと待ってください……。だってそれは、元々イソマさんが示唆なさったことじゃありませんか!
 それに私が傲慢? 私が傲慢だったら、願いを抱く純真な女の子はみんな傲慢ですよ!」
「ククッ、自信あるねぇ、深雪は」


 弁護人百合城銀子が、苦笑を漏らした。
 被告は腹立たしげに彼女を睨む。
 被告はなぜ自分がそんな罪で糾弾されているのか、全く理解できなかったのだ。

「とにかくそんなレッテルどうだって構いません。私はお兄様が欲しいんです!」
「……被告人シロクマ。きみがお兄様を手に入れるための条件は、やはり変わらないんだ」

 身を乗り出して叫んだ被告へ、裁判長は静かに言い渡す。


「きみは、お兄様を殺し、手放さなければならない。
 それが出来た時はじめて、きみはお兄様を手に入れられるだろう」
「……何を言ってるんですかイソマさん? 訳が分かりません!
 もうお兄様は死んでるんですよ!? 復活させてほしい、って言ってるじゃありませんか!!」

 理不尽にしか思えぬ裁判長の言葉に、被告は手すりを叩く。
 見かねた弁護人が、ユリ承認取り消しギリギリの内容で彼女に助言を与えた。

「深雪。きみのスキが本物ならば、きみは今でもきみのお兄様を、殺せるはずなんだ。
 そして殺せていたならば、恐らくきみは今なおきみのお兄様を、手に入れていたはずなんだ」
「……ハァ?」

 だが謎かけのような弁護人の助言に、被告はただ苛立ちを募らせるだけだった。
 裁判長は粛々と、被告に問いかける。


「それでは被告人シロクマに問う。きみはお兄様を殺すのか? それともスキを諦めるのか?」
「おかしいです! こんな二択、成立していません!! 私が裏切り者だからって、いじめて楽しいですか!?
 何がユリ裁判ですか!! こんな意味不明な裁判は無効です!!」


 断絶の壁からの挑戦を、被告は蹴り飛ばした。
 シロクマがそう叫んだ瞬間、議場の壁に灯っていたロウソクが、一斉に吹き消える。
 再び暗く落ちた空間に、イソマはがっくりと肩を落とした様子で、ただ額に前脚をやるのみだった。

 怒りに任せて拙いことをしでかしてしまったのかと、シロクマは辺りを見回す。
 だが沈黙の中で、瞑目したイソマは、失望と困惑の入り混じったような表情で、溜息をつくだけだった。


「……シロクマさん。きみはそのまま、排除されることを望むのか?
 きみはもう、あらゆる仲間を、信じないというのか……?」
「い、いや、何も、そんなこと言ってないじゃありませんか……。
 イソマさんの言う意味が、わからないだけで……」
「思い出すんだシロクマさん。きみは一体、何をしてきたのか……」


 謎めいた言葉だけを残して、イソマは再び沈黙する。
 暫くして、弁護人席から、百合城銀子が声を上げた。


「……イソマ裁判長。深雪にユリ裁判は早すぎるみたいだ。がうがう。
 弁護人百合城銀子は、裁判長に、被告人の裁判の延期を申し立てる。
 そして代わりに、私の裁判記録を再提示する許可を願うよ。がう」
「……いいだろう。
 それでは被告人シロクマのユリ裁判を延期し、百合城銀子の裁判記録の再提示を許可する」

 その言葉で、議場には再びロウソクの明かりが灯った。
 百合城銀子は弁護人席から降り、司波深雪の立ち尽くす被告人席の元へとやってくる。

「……よく見てろ深雪。ユリ裁判は、こうやるものがう」
「あの……、え、え……?」
「それでは、被告人百合城銀子のユリ裁判を始める」

 イソマの手元には、いつの間にか紐綴じされた裁判記録の書類が出現している。
 百合城銀子は、司波深雪の体を押しやり、真っ直ぐにイソマ裁判長の姿を見上げた。


「クマである私、百合城銀子は、ヒトである椿輝紅羽を愛し、そのスキを諦めない。
 その証として、私はこの世界でもヒトとクマとが最初から友達であったことを証明し、テロスの変革たるユリをもたらすことを誓う」
「きみはせっかく手に入れた椿輝紅羽とのスキのみならず、その願いさえ受けて、こんな辺境の島にまでユリを広めようとしているんだね?
 それは素晴らしいことかもしれないが、余りに大きなお世話。傲慢だ。罪だよ、被告人百合城銀子」


 傲慢の罪――。
 被告人シロクマと同様の罪に問われながらも、被告人百合城銀子の態度は毅然としていた。
 隣で聞く被告人シロクマにとっては、被告人百合城銀子の証言も罪状も意味不明だ。
 被告人百合城銀子はただ、裁判長からの言葉に大きく頷くのみだ。

「私は罪グマだ。その程度のことは百も承知だがう。
 それでも私は、ヒトとクマとが再び透明な嵐へ飛び込み、断絶の壁を越えられることを示す」
「……良いだろう。だが一つ条件がある。
 ヒトとクマとが最初から友達であったことを証明するためには、きみはスキを手放さなければならない。
 きみは椿輝紅羽を手放した上で、あらゆる透明な人間の敵として存在することになる」

 裁判記録の書類をめくりながら、裁判長は満足げな表情で、被告人百合城銀子へとそう問いかけた。
 被告人シロクマには、裁判長のこの言葉も、矛盾しているように聞こえた。

 一体どうすれば、大好きな人間と異なる世界に離れながらその人間を諦めず、人間の敵として戦いながら人間と友達であることを証明できるというのか――?

 だが、被告人百合城銀子の瞳は、揺るがなかった。


「それでは被告人百合城銀子に問う。きみは人間を食べるのか? それともスキを諦めるのか?」
「私のスキは本物だ。あらゆる透明な人間を、私の牙は喰らい尽す!!」


 ジャッジ・ガベルの槌音が、高らかに響く。
 百合城銀子の真っ直ぐな言葉に、裁判長は朗々と応える。

「それでは判決を言い渡す。――『ユリ、承認』!!」

 裁定が下された瞬間、シロクマは自分の体が、一面の百合の香りに包まれたように感じた。


【HIGUMA製造調整所・複製(四元数環)/午後】


【穴持たず50(イソマ)】
状態:仮の肉体
装備:なし
道具:なし
[思考・状況]
基本思考:ヒグマの起源と道程を見つけるため、『実験』の結果を断行する
0:ヒグマ帝国の者には『実験』を公正に進めてもらう。
1:余程のことがない限り、地上では二重盲検としてヒグマにも人間にも自然に行動してもらう。
2:『実験』環境の整備に貢献してくれたものには、何かしらの褒賞を与える。
3:『例の者』から身を隠す。
4:全ての同胞が納得した『果て』の答えに従う。
5:シロクマさん。気付きたまえ。きみがお兄様を手に入れるためには、何が必要なのかを……。
6:……『彼の者』の名前は、江ノ島盾子というんだな? ありがとう、シロクマさん。
[備考]
※自己を含むあらゆる存在を、同じ数・同じ種類の素材を持った、別の構造物・異性体に組み替えることができます。
※ある構造物を正確に複製することもできますが、その場合も、複製物はラセミ体などでない限り、鏡像異性体などの、厳密には異なるものとなります。
※ヒグマ島の聖杯の器です。7騎のサーヴァントの魂を内包すれば、願望器としての力を発揮できます。
※現在5騎のサーヴァントの魂を内包しています。現実世界に出た場合、もはや自我を保つことはできません。


    **********


「あゲェ――!?」
「がふるるる……」

 耳元で、ごりん、と、骨の砕ける音がした。
 シロクマが気づいて顔を上げた瞬間、その上には真っ赤な血飛沫が降りかかってくる。
 それはつい先程、彼女の乳首を抉ろうと爪を振りかぶっていた、第三かんこ連隊のヒグマだった。

「はひぃ!?」

 目の前に倒れたそのヒグマの死体に、恐怖と驚愕で司波深雪の体は尻餅をつく。
 その先に、一人の少女が立っているのが見える。

 フリルのドレスに、王冠。
 クマの掌蹠をつけた肢体を血に塗れさせる彼女は、紛れもなく、百合城銀子だった。
 ぷっ、と口から何かを吐き出し、彼女は赤く染まった唇を拭う。


「……所詮この世は、弱肉強食鮭肉サーモン。
 きみらの肉は、産卵後のメス鮭にも劣る透明さだ。がうがう」


 吐き出され、地に落ちたのは、先程のヒグマの首の骨だった。

 辺りを見回し、シロクマは気づく。
 自分のいる場所は、イソマの支配する空間ではなく、瓦礫のエレベーター前だった。
 つい先ほど、艦これ勢の襲撃を受けた場面そのまま。
 それも、ヒグマの爪に裂かれたと彼女が思った瞬間の、その直後だった。
 まるで先程のイソマとのやり取りは、夢か何かだったようにすら感じる。

 だが、その夢の前と今とでは、明らかに異なる事柄がある。

 百合城銀子を襲っていた十数体のヒグマが、赤黒い死体の山となってシロクマの前に転がっていること。
 そして、今にもシロクマを殺そうとしていたヒグマが、たった今、百合城銀子に噛み殺されたということ――。


「なぁ、深雪、わかったか――?」

 百合城銀子は、竦み上がったかのように動かない暗がりへ向けて、悠然と構え直す。
 そして、眼だけを振り向けて、言った。

「これがテロスの変革――、『ユリ承認』だ」


 テロス――。
 ギリシャ哲学における、『完成された道』だ。
 その縛られたルートを咲く、避く、裂く、百合の花の香りが、彼女の体からは匂い立っている。

 一瞬のうちに、ほとんどあり得ないような因果を成し遂げた百合城銀子の速攻に、シロクマも、そして周囲の艦これ勢も、一様に度胆を抜かれていた。


「……言ってくれるじゃないかァ」

 そのさなか、場違いに明るい声で、暗がりの中からポムポムと拍手するヒグマがいた。

「このボクの有する、我らが第三かんこ連隊のメンバーが、ババアサーモンにも劣るってぇ!?」
「『境界線の番グマ』だった、この『ヒトリカブトの銀子』に、有象無象の嵐が勝てるとでも?」

 そしてその声は陣風のように、百合城銀子に向けて飛び掛かる。
 それはチリヌルヲ提督と名乗った、あの灰色のヒグマだった。
 上空から振り下ろされるその爪を、銀子は容易く見切る。
 落下する彼の頭部を、確実なカウンターで銀子の爪が抉るだろうと、シロクマの眼にもそう見えた。

 だがその瞬間、チリヌルヲ提督の体が、空中で突如反り返る。
 そして後方回転しながら、振り抜かれた銀子の爪の上を通りすぎ、彼の体は、奥に尻餅をつくシロクマの元に降り立っていた。

「なっ――!?」
「もらったァ!!」

 天井を脚の爪で捉え、着地点をずらしたのだ――。
 そう察した時には、既にシロクマの上に、チリヌルヲ提督の爪が振り被られていた。
 銀子は全身を投げ出すようにして、チリヌルヲ提督の爪を司波深雪の体から弾こうと飛び掛かった。

 だが、振り被られたチリヌルヲ提督の爪は、シロクマの首に落ちなかった。
 その爪は、何か小型の機械を掴み、飛び掛かる銀子の顔面に向けて直ちにそれを起動させていた。


「サプラァ~イズ――!!」
「ぐあああぁぁぁ――!?」


 辺りを閃光が包む。
 真っ白な光は、咄嗟に目を瞑ったはずのシロクマの網膜すら焼いた。
 至近距離で、指向性の高い『探照灯』の閃光を受けた百合城銀子は、顔面を押さえて悶絶した。

「ベ、ベア・フラッシュ使い――!? き、きみがこの『透明な嵐』を作った『クマ』、か……!!」
「貴様、その年恰好で退役軍人か何かか……。
 まさか艦娘以外にもそういう輩がいるとは、油断させてもらったよ。
 まさにこれホント、弱肉強食鮭肉サーモン」

 カウンターを狙っていたのは、最初からチリヌルヲ提督の方であった。
 震えるシロクマの視線の先で、悶える銀子の手足を、ぞろぞろと姿を現したヒグマたちが掴み上げてしまう。
 その様子を見ながら、チリヌルヲ提督はぞくぞくと体を震わせた。

「……でもこう、強気な子をいたぶれるってのは、ホント興奮するねェ!!
 シロクマさんも見ていきなよ? どうせこの後は貴様がこうなるんだからさ!
 魔法も使えない。お兄様もいない。友達もいない。奇特な助っ人も手籠めにされちゃう。
 あぁ~、可哀想だねぇシロクマさん。心がぴょんぴょんしちゃうねぇ~」
「そ、そんな……」

 へたり込んだままのシロクマの感情を弄ぶかのように、チリヌルヲ提督は彼女の顎を撫で上げる。
 第三かんこ連隊のヒグマたちに四肢を吊し上げられた百合城銀子の姿がしっかりと見えるように、そのまま髪を掴まれてシロクマは無理矢理顔を上げさせられた。

「に、逃げろ、深雪……」

 全身を締め上げられながら、百合城銀子は苦しげに声を漏らす。

 もしも、あの『ユリ裁判』の場で、彼女だけでなく、自分もあの問いに答えられていたのならば――。
 こんなテロスには、至らなかったのかも知れない。

 ――万物のアルケーはクマである。
 アルケーとは根源。テロスとは完成。
 クマは世界の始まりであり、終わりである。
 テロスを変革するのはユリである――。


『思い出すんだシロクマさん。きみは一体、何をしてきたのか……』
『魔法も使えない。お兄様もいない。友達もいない――』
『……あと、何か助けを求められる心当たりがあるのか?
 ――可能性は、きみが信じられる程にあるのか?』

 完成に至ってしまいそうなその絶望のさなかで、シロクマはある一つの事柄を、思い出していた。


    **********


「――這いつくばりなさいっ!!」
「ぬぁ――!?」

 司波深雪の体が、突如躍動していた。
 チリヌルヲ提督は、完全に虚を突かれた。
 へたり込んでいた地面から跳ね上がるようにして、シロクマは髪を掴むチリヌルヲ提督の背面に回り込む。
 彼の前脚の関節を捻りながら、髪が束で引き千切られるのも構わず、全体重をかけて彼女はチリヌルヲ提督を床に叩き落としていた。

 彼女はそのまま、不意を突かれて初動の遅れた第三かんこ連隊の間をすり抜け、脱兎のごとく、荒れ果てた研究所の先へと走り去ってしまう。
 チリヌルヲ提督を始めとする第三かんこ連隊の面々は、彼女の突然の行動に、総じて呆気に取られた。
 暫くして、身を起こしたチリヌルヲ提督が噴き出す。


「ぶっはっはっはっは! まさか、マジで逃げ出すとは!!
 いや~、私としたことが完全に奇襲喰らったからヒヤッとしたけど、流石はシロクマ様!!
 いくら勝ち目ないからって薄情すぎだろ~。可哀想だね貴様、見捨てられちゃったよ、オイ。
 あ~、飛行場提督、南方提督、一応追ってやれ。クイーンさん見つけられたらちと面倒だし」
「……そう、か、深雪……」

 チリヌルヲ提督は、百合城銀子の頬をリズミカルに叩きながら爆笑する。
 シロクマの姿を見送り、静かに思案していた銀子は、叩かれながら唐突に、舌なめずりをした。

「……デリシャスメル。じゅるり」
「何……?」

 頬を腫らし、四肢を吊られながらも、彼女は不敵な笑みを浮かべていた。

「きみらには嗅げないのか? 深雪から匂い立ったユリの香りを。
 ……彼女はもたらすぞ。すぐにでも、テロスの変革は訪れる!!」


    **********


「……そうです。ええ、そうですとも。
 私にはもう、魔法も、お兄様も、友達も、誰一人いません……!!」

 シロクマは司波深雪の体で、泣きながら走り続けた。
 走る走る、その足取りは、迷わない。

 裏切りに裏切りを重ねた罪人に、味方してくれる者はほとんどいないだろう。

『……同志、司波深雪よ。私は、あなたとの出会いを歓迎する――!!』
『……シロクマさん。きみはそのまま、排除されることを望むのか?
 きみはもう、あらゆる仲間を、信じないというのか……?』

 だが、百合城銀子の言葉が、イソマの言葉が、彼女に思い出させた。
 兄と別れたあの場面が。
 キングヒグマと諍ったあの場面が。
 穴持たず543を叫びつけてしまったあの場面が。

 ただ一人この場に残る確実な仲間の、同志の存在を、シロクマに思い出させていた。


「私は、確かに罪を犯してきたのかもしれません……。
 でもこれは、これだけは……」

 シロクマが辿り着いたのは、崩壊した放送室だった。
 第七かんこ連隊との大規模な戦闘が勃発しかけたその場所は、機材と瓦礫が散乱し、見る影もなくなっている。
 ただそこで、彼女は必死に瓦礫をひっくり返し、ある仲間の存在を探した。


 ――何を探すの?

「私の為してきた『仕事』だけは――」


 シロクマは自分の胸に、百合の花が咲いたように感じた。
 供花のように咲くその花弁から、輝く蜜が、滴り落ちる。


 ――どこを探すの?

「裏切りの嵐の中でも、私を、裏切らない――!!」


 その蜜を、誰かの舌先が、確かに受け止めたような。
 そんな気がした。

 重い音を立てて崩れた、放送席真隣の瓦礫の奥に、その時シロクマは見つける。
 それは確かに生き残っていた、彼女の同志の、姿だった。

「ふひひひひ……、みつけたよぉシロクマさん……」
「もう逃げられないぜぇ……、ズタボロになる覚悟は良いかぁ?」

 背後から、追ってきたヒグマたちの声が聞こえる。
 だがシロクマはもう、振り向きもしない。


「……STUDY事務長、司波深雪の名において、お願いします。
 ……どうか、私に、力を貸してください……」


 震える両手を広げ、シロクマは『彼女』を、抱え上げる。

 彼女は、司波深雪の同僚だった。
 彼女は、シロクマの同胞だった。
 彼女は、仕事に対する、かけがえのない同志だった。
 彼女はざわざわとした音で、司波深雪の名に、応えた。


 ――了解いたしました、司波事務長。


    **********


「あぁ~、やっぱり若い女の子はいいっすねぇ~」
「し、白い肌が、良いよね、そ、それを汚していくのがさ……」
「熱烈歓迎! 万里長城鼻血噴出! 千里馬的絶頂興奮!」
「はいはいみんな落ち着いて~。どんな拷問するかちゃんと決めようね~」

 チリヌルヲ提督は、生き残った第三かんこ連隊を纏めて、捕えた百合城銀子をどうやっていたぶるかの意見を求めていた。
 魔法演算領域を破壊されたシロクマには、どうせ追手のヒグマに対する反撃の手段などない。
 そのため、彼らは腰を落ち着けて、とりあえず手に入れた獲物で楽しもうとしていた。

「一寸刻み!」
「車裂き!」
「水責め!」
「踊り食い!」
「石抱き!」
「舟刑!」
「鉛のスプリンクラー!」
「異種姦!」

 様々な拷問が提示される中、ある一頭のヒグマがレイプの意見を出したところで、連隊がにわかに色めき立った。

「ちょっとテメェ、異種レイプとかヌルすぎるだろ正気かよ!」
「だって貴重な人型女子だろ。殺すよりそっちの方が、オレらもこの子も楽しめるんじゃ?」
「このエロバカ! そんなもんで興奮するとかテメェ本当に加虐勢かよ!」
「えぇえぇ!? オレなんか間違ってるわけ!?」
「嬲り殺してこその加虐勢だろ、お前から死ぬか!?」
「えぇぇ――!?」
「意見を違えるヤツは排除だ! 排除! 排除!!」

 当の百合城銀子を放って、連隊員同士で論戦がヒートアップし始めてしまう。
 チリヌルヲ提督は苦笑を漏らしながら、百合城銀子に平謝りした。

「ごめんねぇ~、こいつら馬鹿で。なんであれちゃんと貴様をいたぶれる拷問にはするから安心してね!」
「……ああ、確かに安心した。がうがう」

 手足をヒグマに押さえられたまま、腫れ上がった顔で、銀子は笑った。
 覗き込んでくるチリヌルヲ提督に、彼女は笑顔で語り掛ける。

「彼らはやはり『透明』だ。……思い知るといい。『透明な嵐』は『クマ』に、食い破られる」
「……解説が欲しいんだけど?」
「ちょうど解説なら来たぞ。さぁ、さぁ、見ろ。ユリのショーを……!」
「排除! 排除! ハイジョ! ハイ、じょじょじょじょじょじょじょ――……!?」

 銀子が呟いた瞬間、隊員を糾弾していた一頭のヒグマの体が、爆裂した。
 驚愕する第三かんこ連隊の上に、100匹程の甲虫のような生物が降り注ぐ。
 目の前に落下し、そして通路側からも何匹となく高速で向かってくるその8本足の有毛甲虫の姿に、チリヌルヲ提督は眼を見開いた。

 それは音に聞く、海上封鎖の要。
 STUDYが念入りに調教した、この実験の要衝を担うヒグマにしてシステム。

「――『ミズクマ』さんだってェ!?」
「ちぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ……」

 ラグビーボールのようなその黒いヒグマは、一斉に鳴き声を上げて、第三かんこ連隊の面々に襲い掛かった。
 一瞬にして大混乱に陥ったエレベーター前の空間に、一人の少女が叫びながら走り込んでくる。


「STUDY事務長、司波深雪の名において、穴持たず39ミズクマに仕事を依頼します!!
 『女性を食い物にしようとしている悪辣なオスは、みんな食い殺しちゃってください』!!」
「どっ、どこでこいつを見つけたんだよ、シロクマさん――!?」

 飛び掛かるミズクマの群れを弾きながら、チリヌルヲ提督はシロクマに叫ぶ。
 その瞬間、彼の横っ面は百合城銀子の拳に殴り飛ばされていた。


「……キマテッ・カムイ・ホシピ(びっくり。神のお帰りである)」


 自分を掴んでいた四頭のヒグマとチリヌルヲ提督を瞬く間に張り倒して、銀子は地に降り立つ。
 体を一旦、小さなクマの姿にして拘束を抜け、直ちにヒトの姿に戻る勢いで攻撃する、百合城銀子がシロクマを初めて救い出した際の技である。

「よし逃げよう、深雪」
「あなた、自力で逃げられたんじゃありませんか!?」
「私は逃げられても、あのままじゃ深雪を連れては行けなかった。
 良かったよ。きみが私以外にも、信じられる仲間を見つけられて」

 探照灯にやられた視力も回復し、銀子は既に、逃げ出すタイミングを見計らっていただけに過ぎなかった。
 ミズクマとの乱戦に陥った第三かんこ連隊の面々を尻目に、銀子とシロクマは、脇目も振らずそこから走り去った。


    **********


「……この子がミズクマさんか。なかなか可愛いじゃないか。紅羽やるるが見たら喜ぶかもしれない」
「えっ……。この子を好きな人への贈り物にするのは、やめた方が良いと思いますが……」

 北の方へ地下を走りながら、銀子は司波深雪の肩に乗る3体のミズクマの娘を撫でた。
 銀子は微笑んでいるが、それらを肩に載せているシロクマは頬を引き攣らせている。
 いくら広い意味での仕事仲間だったとはいえ、枯れ枝のような脚で体を這い回られるのは、正直言って気持ち悪くてしょうがないのだ。

「何にせよ、これでテロスは変革された。この子のおかげで、地上に出る方策も見える」
「え……、どうやってですか?」

 放送室でキングヒグマは、非常用のミズクマを数匹、管理し続けていた。
 それを思い出し、手に入れたのはいいが、シロクマはその先の身の振り方が見えず、再び気を落としかけていたところだった。

「考えてみろ、深雪。私たちは行く先々で戦いに道を断絶された。
 そしてついに、敵は私たち自身にまで戦いをもたらしにきた。
 ……だが、そこまで戦線が広がったならば、その本拠地は、一体どうなっている?」
「あ……」


 放送室を襲撃し、キングヒグマに懐柔されたらしい部隊。
 しろくまカフェを占拠しに現れていた部隊。
 田園地帯のクイーンヒグマと戦闘になったであろう部隊。
 診療所のシーナーないし医療班を水責めにした部隊。
 そしてたった今2人を襲った、第三かんこ連隊。

 シロクマが把握する限りだけでも、これだけのヒグマの大部隊が戦闘に出ている。
 この状態ならば、地底湖の艦娘工廠は、相当手薄になっているとみて間違いなかった。

「……奇襲で隙をついて、地上への階段を上がるだけなら、できるかも知れませんね」
「……そうだ。そしてちょうど私たちには、『攪乱』をこの上なく得意とする仲間が、就いてくれた」

 百合城銀子はミズクマの一体を抱えて、その黒い毛皮に頬ずりまでしてみせた。
 ミズクマもちぃちぃと鳴いて脚を蠢かせる。もしかすると喜んでいるのかも知れない。

 シロクマは走る速度を落として、百合城銀子にぽつりと問うた。
 どうして彼女がこれほどまで自分に助力してくれるのか、わからなかった。

「今のあなたは、『あらゆる人間の敵』なんでしょう……? なんでこんなにも私を、助けてくれるんですか?」
「深雪は『クマ』だろ。何を言っているんだがう?」
「私は人間ですよ!! さっきだって、あなたは、あのヒグマたちを食い殺していましたし……。
 私にはあなたのことが、さっぱりわかりません……」

 百合城銀子の存在にしろ、ユリ裁判にしろ、シロクマにはわけのわからないことばかりだった。
 彼女の疑問に、銀子は微笑む。


「……訂正するが、私は『あらゆる透明な人間の敵』だ。
 深雪には、あの『透明な嵐』が、『クマ』に見えたのか?
 あの連中に、『クマ』なんかほとんどいなかったし、『ヒト』もいなかった。
 そしてきみが何と言おうと、きみは間違いなく『クマ』だ」
「……あなたの言う『透明』と『クマ』と『ヒト』が、普通の意味とは違ってることだけはわかりますけど」
「そして私はきみに、紅羽ととても良く似たデリシャスメルを嗅いだ。とても良い、匂いだ。
 『ユリ』をもたらすために、私は同志の『クマ』であるきみと行動を共にしようと思ったのだ。
 私が助力する理由としては、それで十分じゃないか? がうがう」


 百合城銀子の言い分は、やはりよくわからなかった。
 それでも彼女が、深い愛と優しさで動いているのだろうことだけはわかる。
 それは裏切りを繰り返してきたシロクマには、とても暖かく感じられた。

「……そのクレハさんというのが、あなたの好きな、『ヒト』なんですか?」
「そうだ。紅羽こそが私のスキであり、私こそが紅羽のスキだ。
 そして私たち二人のスキは、ともにユリ裁判で承認された」
「それなのに、なんであなたは、彼女から離れたんですか……!?」

 百合城銀子本人以外に、もう一つシロクマの理解できないことが、そのユリ裁判の条件だ。
 好きなものを手に入れるために、好きなものから離させるというその裁判のシステムは、まるっきりシロクマには理解できない。
 だがその疑問にも、銀子は微笑むだけだ。


「離れていない。私と紅羽は、今もずっと、これからもずっと、共にある。
 私が紅羽を手放し、スキを手放したからこそ、私は紅羽と共にあり、スキと共にある」
「スキを手放すことと、スキを諦めることは、同じことでは、ないんですか?」
「ああ、違う。がう」

 謎かけのような百合城銀子の言葉が、シロクマの思考の中でも、少しずつほぐれてゆく。
 それでもまだ、その内容の大部分は理解しがたい。

「……あの裁判は、私と深雪自身の『断絶の壁』の境界線にて行われたものだ。
 ユリ裁判の正当性を担うのはいつだって、その被告人、きみのスキに他ならない。がうがう」

 沈思黙考し始めてしまったシロクマへ、銀子は柔らかに語り続ける。


「……イソマ様は、ヒトとクマとを公平に応援してくれる者だった。
 だから深雪、イソマ様はきみが裏切り者でも、罪グマでも、お許しになったんだ」


 シロクマは、ユリ裁判の無理難題が、裏切り者への罰として課せられているものなのかとすら、思っていた。
 だが、それは違った。
 シロクマは、許されていたのだ。

 その許しが承認される機会を、シロクマは、みすみす蹴り飛ばしてしまった。
 唇を噛む。
 これからイソマに、どう顔向けすればいいのか、シロクマには解らなかった。


「私はあの裁判で、何を答えれば、良かったんでしょうか……」
「……スキを忘れなければいつだって一人じゃない。
 スキを諦めなければ何かを失っても透明にはならない。
 そのスキこそが、私たちに断絶を越えさせる、道しるべだ」


 進む先には、廃墟の暗闇とは違う、発電によって賄われる工廠の明かりが、漏れ始めていた。


【E-4の地下 地底湖への境界線/午後】


【穴持たず46(シロクマさん)@魔法科高校の劣等生】
状態:ヒグマ化、魔法演算領域破壊、疲労(大)、全身打撲
装備:ミズクマの娘×3体
道具:なし
[思考・状況]
基本思考:兄を復活させる
0:諦めない。
1:とにかく江ノ島盾子の支配区域からは早く離脱する
2:江ノ島盾子には屈しない。
3:私はヒグマたちに対して、どう接すれば良かったのでしょうか……。
4:残念ですが、私はまだ、あなたが思うほど一人ぼっちではないようです。有り難いことに……。
5:私はイソマさんに、何と答えれば、良かったのでしょうか……。
[備考]
※ヒグマ帝国で喫茶店を経営していました
※突然変異と思われたシロクマさんの正体はヒグマ化した司波深雪でした
※オーバーボディは筋力強化機能と魔法無効化コーティングが施された特注品でしたが、剥がれ落ちました。
※「不明領域」で司馬達也を殺しかけた気がしますが、あれは兄である司波達也の
 絶対的な実力を信頼した上で行われた激しい愛情表現の一種です
※シロクマの手によって、しろくまカフェを襲撃していた約50体の艦これ勢が殺害されました。
※モノクマは本当に魔法演算領域を破壊する技術を有していました。


【百合城銀子@ユリ熊嵐】
状態:殴られた顔が腫れている
装備:自分の身体
道具:自分の身体
[思考・状況]
基本思考:女の子を食べる
0:早いとこ地上に逃避行しようぜぃ
1:まずは司波深雪を助け、食べる
2:ピンチの女の子を助け、食べる
3:数々の女の子と信頼関係を築き、食べる
4:ゆくゆくはユリの園を築き、女の子を食べる
5:『私はあらゆる透明な人間の敵として存在する』
[備考]
※シバに異世界から召還されていた人物です。
※ベアマックスはベイマックスの偽物のようなロボットでシバさんが趣味で造っていました
※ベアマックスはオーバーボディでした。
※性格・設定などはコミック版メインにアニメ版が混ざった程度のようですが、クロスゲート・パラダイム・システムに召還されたキャラクターであるため、大きく原作世界からぶれる・ぶれている可能性があります。


    **********


 ミズクマの脅威は、増えつつあった。
 体内に卵を注入されたヒグマたちから、次々と娘が孵り、第三かんこ連隊を蹂躙しようとしてゆく。
 百合城銀子に張り倒されたチリヌルヲ提督は、殺到する黒いラグビーボール状のヒグマへ、両前脚を振り抜いていた。

「水瓶の星弾――!!」

 瞬間、大量のマグネシウム粉が、濁流のように振り撒かれ、真っ白な爆炎を上げて周囲を焼いた。
 100を超すミズクマが、その一撃で焼け落ちる。
 暗いエレベーター前が昼間になったかのような明度差と温度差に、彼以外のあらゆる生物の動きが、一瞬停止した。
 その隙に体勢を立て直したチリヌルヲ提督が取り出したのは、『照明弾』の砲だった。

 そして彼は、方々に群がるミズクマの娘たちへ、あえて襲われている連隊員に直撃するようにして照明弾を狙い撃っていた。

「ぎゃぁあああぁぁぁ――!?」
「あひぃぃぃいいぃぃ――!?」
「はい、ミズクマさんに刺されたノロマは手を上げろォ!!
 全員焼き殺してあげるからねぇ~!! はい猟犬~、猟犬の星弾~!!」

 直撃した照明弾は、ヒグマの全身にマグネシウムを撒き散らし、その身を炎に包み込んだ。
 悶えるヒグマは、間もなく全身を焼き焦がして絶命する。
 照明弾を焼夷弾として用いるえげつない攻撃だが、相手の体内で増殖し頭数を増やしてくるミズクマを内側で蒸し焼きにして根絶するには、この上なく有効な掃討作戦だった。

 あちこちに真っ白な炎が上がる瓦礫の山の中で、チリヌルヲ提督が点呼を取った時には、始め46名が残っていたはずの第三かんこ連隊は、既に15名ほどにまで減少していた。


「いやぁ~、情けないねぇ。何が情けないって、この失態の原因が、貴様らが拷問の方法すら決められず時間を無駄にしたことにあるってとこだよ」

 辛くもミズクマの襲撃から生き残った面々を集めて、チリヌルヲ提督は溜息をつく。
 その原因となったヒグマの方へチリヌルヲ提督が眼をやると、彼はびくりと身を竦ませた。

「……なぁレ級提督。貴様のレは、レイプのレだったのか?
 貴様はあのレ級ちゃんを沈めることではなく、くんずほぐれつの妄想で興奮する輩だったのか?」
「だ、だって第三かんこ連隊は、深海棲艦好きが集まってるって聞いただけだし……。
 まさかこんなガチリョナばっかだとは思ってなかったし……。たまには和姦だっていいじゃん……」

 詰問されたレ級提督は、後ろめたそうにもじもじと呟くだけだ。
 その彼を、チリヌルヲ提督は壁に押しやり、前脚で彼の横の壁を思いきり叩いた。
 ドン。
 という腹に響く音と共に、ねめ上げるチリヌルヲ提督の低い声が彼を脅す。

「……おいおいわかってるのか? オレらのモットーは、『相手をいたぶって楽しむこと』だろう?
 深海棲艦相手にほのぼの楽しんでたら、心理的優位性を失った瞬間に、こうして私たちは敗北するんだよ。
 今すぐボクが虐げてやろうか? マグネシウムで少しずつ内臓を焼いて、悶絶絶頂の極みで殺してあげるよ?」
「ひ、ひぃ、いや、やめて下さいっス! ただ口のはずみっていうか、オレは間違いなく加虐勢なんで!」


 その恐ろしげな脅迫に、レ級提督は、自分の発言を翻し、チリヌルヲ提督にへつらった。
 しかしチリヌルヲ提督はその瞬間、つまらなそうに肩を落とす。

「……なるほど『透明』だ」
「……え?」
「確かにあの子の言う通り、貴様らは『透明』だったな。このボク以外全員」

 彼はレ級提督から踵を返し、目を瞑ってとぼとぼと歩き出してしまう。


「ど、どうしたんですかチリヌルヲ提督……?」
「不高興的? 慰安必要?」
「……おい、聞こえるぞ。敵の足音が。この鉄火と、弱者の臭いに寄ってきたんだろう。
 ……あとは自己責任だ。貴様ら各自、日ごろの深海棲艦愛を、存分に発揮しろ」

 未だ照明弾が燃え盛っている中で、耳を澄ますチリヌルヲ提督は、何者かが高速でこちらへ迫ってきている足音を聞き取っていた。
 それは明確に、自分たち第三かんこ連隊を狙っている音だ。
 何者かはわからない。
 それでも緊張を取り戻した連隊員たちは、ばらばらとエレベーター前の空間に散開する。
 そして彼らは一様に、通路の奥を見つめて、固唾を飲んだ。

 だがいつまでたっても、その地面を走ってくる者は、見えなかった。 

「――上だッ!」

 チリヌルヲ提督が叫んだ瞬間、最も通路に近い位置にいた二頭のヒグマが、首を刎ね飛ばされた。
 白い照明の中に、赤い髪と、黒い体が翻る。
 天井を走り、瓦礫に降り立ったそれは、人間の少女の姿をしていた。

「なっ――」
「ただの人間に、リ級提督とヌ級提督が!?」

 狼狽する第三かんこ連隊の面子に向けて、その少女は、ぱかりと口を開いた。

「ただの人間がクマの首落とせるわけねぇだろ、バカ!!」

 チリヌルヲ提督は反射的に危険を察知して、その口の向きから逃げるように跳ね飛んでいた。
 直後、エレベーター前の空間を舐めるように、ピンク色の太い光線が吐き出される。
 避けられなかったヒグマたちが、ほとんど一瞬にして消し飛ばされた。

 さらに陣風のように赤髪の少女は走り、辺りに散った連隊のヒグマたちを次々と惨殺していく。

「ひぎぃ――」
「ぎゃぁ――」
「救命――」
「ほっぽちゃ――」
「こうわ――」

 断末魔さえ途切れるほどの速さで喉笛を噛み千切られ、彼らは絶命する。
 最後に少女は、通路側にステップして身構えるチリヌルヲ提督の方へ走り寄っていた。


「……貴様、何を感知してきた? 匂いか? 明りか……?」

 物言わず、大口を開けて飛び掛かってくるその少女の顔面に、チリヌルヲ提督は、沈み込みながら大量のマグネシウムを叩きつけていた。
 だが、発火する顔面をものともせず、彼女はその両手の爪をチリヌルヲ提督に向けて振り降ろす。
 その時同時に、地面に転がっていたチリヌルヲ提督の脚が、彼女の胸を蹴り上げていた。


「鳳凰流星弾――」


 同時に蹴り出された照明弾が、炸裂しながら彼女の体を天井にまで叩き付ける。
 それでも油断なく後方へ距離を取り、チリヌルヲ提督は地に落ちる少女を見下ろした。
 彼女はなお停止することなく、地面から身を起こし始める。

「何だ……? 何で察知している? 耳か? 耳を責められたい系女子か……?」

 顔面を炎に焼かれながらもチリヌルヲ提督を見失わず突撃してくる少女に、彼は正面から相対した。


「蠍の星弾!!」


 そして、首筋に飛び掛かってくる彼女の両耳を、彼は勢いよく両前脚で挟み叩いていた。
 叩き込まれたマグネシウムが、彼女の耳を内側から爆裂させる。
 衝撃でのけぞりながらも少女の爪は、振り抜いた先でチリヌルヲ提督の額を真一文字に切り裂いていた。
 あと数センチ斬り込まれていたならば頭蓋骨から脳を切断されていたと、明確にそう思わせる攻撃だった。

 そして、少女は止まらなかった。
 眼も、鼻も、耳も機能停止したと思われるにも関わらず、なおも迫る少女へ向け、チリヌルヲ提督は大きく後方へ跳び退りながら、大量のマグネシウムをばら撒いた。

「くォ――、水瓶の星弾!!」

 真っ白な劫火が、少女の目の前を埋めた。
 炎に彼女が飲み込まれたのを見ても、チリヌルヲ提督はそれで安心などしなかった。
 彼はそのまま脇目も振らず、一目散に通路を走り去っていく。

 そして直後、彼の予測通り、少女は全くダメージを意に介した様子も無く、炎を纏って通路に出てきていた。


「いまだ現と見紛う野辺に……、降れ、疑団の牡牛……!!」


 しかし通路には、既に落下傘によって滞空させられた幾つもの照明弾が、ふわふわと設置させられていた。
 熱源のモザイクで通路は埋まり、その先の温度は、もはやわからなくなってしまっている。
 視覚、嗅覚、味覚、聴覚を奪われ、体表の炎で触覚を封じられ、サーモグラフィーや電波までを欺瞞するフレアチャフに行く手を塞がれた彼女は、それでようやく、対象の追撃を諦めた。

 これ以上の追撃はリターンが釣り合わないと判断した彼女は、おとなしくエレベーター前に転がった45体程度のヒグマの肉片に舌鼓をうち始める。


「けぷ」


 お腹いっぱい彼女が食べたころには、燃えていた照明弾の炎も消え、彼女の焼けた皮膚や組織も、きれいさっぱり新陳代謝されている。
 燃え尽きた灰色が、瓦礫に相応しく降る中、『H』は、体に着いた煤や灰をぷるぷると身を振って落とす。
 そうして彼女は、今一度くしくしと髪を梳かして身づくろいし、瓦礫の研究所を軽快に走り出した。

 お仕事は裏切らない。
 島中を攪乱し、最大多数に最大損害を与えるのが、彼女のお仕事である。


【E-5の地下 エレベーター跡前ホール/午後】


【『H』(相田マナ)@ドキドキ!プリキュア、ヒグマ・ロワイアル
状態:半機械化、洗脳
装備:ボディースーツ、オートヒグマータの技術
道具:なし
[思考・状況]
基本行動方針:江ノ島盾子の命令に従う
0:江ノ島盾子受肉までの時間を稼ぐ。
1:弱っている者から優先的に殺害し、島中を攪乱する。
2:自分の身が危うくなる場合は直ちに逃走し、最大多数に最大損害を与える。
[備考]
※相田マナの死体が江ノ島盾子に蘇生・改造されてしまいました。
※恐らく、最低でも通常のプリキュア程度から、死亡寸前のヒグマ状態だったあの程度までの身体機能を有していると思われます。
※緩衝作用に優れた金属骨格を持っています。
※体内のHIGUMA細胞と、基幹となっている電子回路を同時に完全に破壊しない限り、相互に体内で損傷の修復が行なわれ続けます。
※マイスイートハートのようなビーム吐き、プリキュアハートシュートのような骨の矢、ハートダイナマイトのような爆発性の投網、といった武装を有しているようです。


    **********


「なんだ、なんなんだあの子は……。
 一瞬にして、このボク以外の隊員をみんな、殺し尽すなんて……。
 レ級提督、ヌ級提督……、港湾提督や北方提督さえ、手も足も出ずに……!!」

 チリヌルヲ提督は、逃げた先の瓦礫に身を隠していた。
 彼が、考え得る敵の感覚機能を全て封じていなかったならば、チリヌルヲ提督自身も、あの時殺害されていただろうことは間違いない。
 暗闇の中で、彼は縮こまるように震えながら顔を覆う。

「うう……、うううううぅ……」

 脳裏に蘇るのは、共に過ごしてきた同胞たちの、苦悶に歪む顔。
 凄絶な断末魔。
 鼻を突く血腥さと、光に映える鮮血の照り。
 思い出される光景に、チリヌルヲ提督の感情は、爆発した。


「……うっはっはっはっはァ――!! いーっはっはっは、うはははははは、ははァッ!!」


 その爆発は、悶絶するほどの大爆笑だった。
 彼は暫く、その場で腹を捩らせながら笑い転げる。

「うっひゃっひゃ、ケッサク!! 傑作だよぉ!!
 『まさか自分たちが』って声が聞こえてくる死に顔ばっか! マジでバカばっか!!
 この連隊に入っただけで強気になってたのウケるわぁ~!!」

 咳き込み、むせかえるほどの喜びが、彼の脳裏には満ち溢れていた。
 深海棲艦にしろ、人間にしろ、同胞にしろ、恐怖に怯え死にゆくその表情と有様は、チリヌルヲ提督の加虐心に快感をもたらすものに他ならなかった。

 そして同時に、同胞を殺戮したあの少女に対しても、チリヌルヲ提督は全く恐怖心を抱かなかった。
 自分ならば対応できる、という絶対の自信と狂った心理が、彼の最大の武器だった。


「……本当の加虐勢なら、このオレに対しても、心理的優位性を保ってみせるはずだもんね~。
 本当に和姦が『スキ』なら、諦めずに堂々と宣言して、連隊全員を説得するくらいしてみろと。
 このボクに同調して従ってしまった以上、所詮は、捕食されるべき透明な餌だった、というわけだ。ふふっ」


 ようやく思い出し笑いに一区切りをつけて、チリヌルヲ提督は身を起こす。

 彼が思い返すのは、自分たちに襲われながらも瞳を燃やし続けていた司波深雪と百合城銀子。
 そして、物言わぬ無表情のままに、連隊を壊滅させ、自分の額を切り裂いた『H』の姿である。
 その正体や目的の如何など、チリヌルヲ提督にとってはどうでもいい。
 彼女たちの一挙手一投足を思い返し、次の戦闘の光景を想像しながら、彼はただ自らの股間をこする。


「……うっ! ……ふぅ」


 彼が武者震いのように身を震わせると同時に、彼の責め具である真っ白な炎のような液体が勢いよく股間から溢れ出てくる。


「あぁ……想像しただけでイッちゃうよ……。
 早くあの子たち全員を滅茶苦茶にして、苦しみもがく表情を見たいなァ……」


 第三かんこ連隊は壊滅してしまったが、もはや彼はそれを痛手には感じなかった。

 彼女たちの、責めるべき弱点は、見抜けた。
 肉球の上に溢れた、加虐心の塊のような白濁液を舐めながら、彼は顔を上気させて微笑んでいた。

 彼の耳には、ほど近いところでざわつく、知り合いのヒグマたちの声が聞こえていた。


【D-5の地下 研究所跡/午後】


【チリヌルヲ提督@ヒグマ帝国】
状態:『第三かんこ連隊』連隊長(加虐勢)、額に切り傷
装備:空母ヲ級の帽子、探照灯、照明弾多数
道具:隠密技術、えげつなさ、心理的優位性の保持
[思考・状況]
基本思考:ヒグマ帝国を乗っ取る傍ら、密かに可愛い娘たちをいたぶる
0:ロッチナの下で隠れて可愛い子を嬲り、表に出ても嬲る。
1:艦娘や深海棲艦をいたぶって楽しむことの素晴らしさを布教する。
2:邪魔なヒグマや人間も嬲り殺す。
3:暫くの間はモノクマに同調する。
4:シロクマさん、熊コスの子、ボディースーツの子、みんないたぶってあげるからねぇ~。
5:くくく、クイーンさんと卯月提督……、次はあなたたちに、加虐の礎になってもらおうか……?
※艦娘や深海棲艦を痛めつけて嬲り殺したいとしか思っていません。
※『第三かんこ連隊』の残り人員はチリヌルヲ提督のみです。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2015年11月07日 19:05