地獄の沙汰も金次第



本日はお日柄もよく、ヒグマ屯す素敵な孤島、皆様いかがお過ごしでしょうか?
突如集められ、時も場所も人種も理屈も違う生き物大集合、動物奇想天外、冗談じゃなく。

時にこのロワでは、本人の最も得意とする武器が支給されると聞きます。
さてさて、この孤島に立たされるは白いスーツ白手袋に蔓なしメガネ、身長169㎝体重60kg、嘉永元年9月生まれおとめ座の特技金儲け趣味掃除、の30代男性。
そこかしこで有名ですね、ほら、回転式機関砲(ガトリングガン)ぶっ放す人って言ったら通じます?
たまんねえなあって言ったら顔をしかめる人もいるんじゃあありません?

そうですその彼、武田観柳です。
では皆様、もう少し頭の運動ですよ。
彼の、武田観柳の最も得意な武器って、なんだと思います?



「なんで……ちょっと待って下さいよ、私はただの単なる商人……」
わけのわからないうちにポイーと殺し合いに放り込まれた観柳はとりあえずショックだった。
月並みにショックだった。
なんせ彼は自分で言う通りタダの貿易商。
ちょっと阿片を売りさばいてお金持ちになった成金野郎。
実験って、こんな初期に登場して一巻ちょいでいなくなって二度と出ない悪役に何をもとめているのか。

でも落胆してばかりも居られない。
彼とて易易と死にたくはない。
ヒグマにビビりつつも渡された支給品を調べる。
ところで明治16年にジッパー付きのバッグってあったのだろうか、多分ない。

ぽんと真っ先に出てきたのは、黒いがま口のバッグ。
「は……?は?はぁああああ!!??」

見覚えがある時点で嫌な予感バリッバリだった観柳は、ヒグマにびびってたことも忘れて叫んだ。
がばりと口を開いたバッグから溢れる金、金、金。
普段ならば大切大事なお金様、今はちょっとどうしたらいいのか分からないお金様。
観柳が叫んだ理由はお金様がご降臨なすったからではない。
他の支給品がどう見ても戦闘用のものではなかったからだ。
武器は?武器、せめてさあ、一般人レベルなんだから、武器、死ぬよ。

無駄のところで頭の回転の早い観柳は察した。
自分の武器は金であると。
刀より金が強いって自分で言っていたのが災いしたのか。
回転式機関砲じゃないの?と問われる御方。
その回転式機関砲を手に入れたのは金の力だ。
金がなければ回転式機関砲は買えないしあかべこも貸し切りにできない。
貸し切りにした挙句肉だけ食って帰るなんていうクソみたいな行動もできない。
詰まり最強の武器は金、お金様だ。

「だからどうしたァ!!!」

こんなとこじゃ何も買えないし、お金で人を雇えと?頭大丈夫か?殺し合いだよ?
金で御せない人間をちょうどよく見て困ってた折に呼ばれたのだから人間不信さはマックスである。

「しかも、なんだ、一万円札って、私を馬鹿にしてるのか、ええ?」
勿論お札はピカピカの新札。
十円券をばらまいてはしゃいでた明治の観柳からすればこども銀行100万円札並におもちゃにしか見えない。

仮にもお金様、おもちゃといえど……いやおもちゃなら捨てるか?
なんて悩む観柳の後ろに黒い影。
こんにちは、ヒグマさんだ。


「ひぃい!?」
紙一重、爪が降りてえぐれた地面を見ることに観柳は成功した。
しかし奇妙だ、相手がヒグマで、この至近距離なら間違いなく観柳は愉快な惨殺死体。
さあ尻もちついてへたれこんでる場合ではない。
ダッシュだ、動きづらそうな服だろうと靴だろうと30代の体だろうと関係なくダッシュだ。

またも不思議な事に、観柳とヒグマの距離は付きすぎず離れすぎず、気持ち悪いくらいいい関係を保っていた。
童謡で歌われるもりのくまさんの構図でも思い浮かべていただきたい。
真夜中のヒグマとおっさんのおいかけっこ。


夜空を仰ぎ、阿紫花英良は、退屈していた。
死ぬまで何をして暇をつぶそうか、誰に語ることもなかったが常日頃退屈を抱えて。
目付きの悪いただの殺し屋は、突拍子もない殺戮の舞台に呼ばれても退屈していた。
というか、うんざりしていた。

「ロハはないでしょロハは……せめてねぇ主催者さん?ゼニを頂けりゃあああたしも喜んでぶっ殺して回るんですがねぇ」
聞こえるのかは分からないが抗議しておく。
生き残るためだけの闘いなんて、と彼は煙草の煙に乗せて吐き捨てる。
彼が知りえぬ未来の話だが、その生き残るためだけの闘いに実は後々巻き込まれる、そんな時でも彼はきっちり前金で200億頂いていた。

がらがらと糸を引いて操られるのはグリモルディと言う名の人形。
懸糸傀儡、阿紫花の得意とする技術である。
人形を繰り、標的を抹殺する、彼の里ではその技術の悪用は禁じられているのだが。
本来阿紫花が殺しに使う人形はプルチネルラ、しかし動きやすい人形を与えられたのだからこちらを操ることにした。
プロは状況に応じた最善を選ぶ。
しかしプロはタダじゃあ仕事は受けない。

死なない程度に頑張るかあ、なんて気概で歩いていると、前方から聞こえる悲鳴。
がさがさと草木を掻き分ける人間と、草木をなぎ倒す何かの音。

「あらら、やばいのが来ちまったようで……」
くるり方向転換する時間も僅かに、飛び出してきたのはまず人間。
上等なスーツは、樹の枝に引っかかったのかところどころ裂けていて残念なことになっている。
それでも金を持ってそうなナリだな、と呑気に見た阿紫花は、その男が後生大事に握りしめている鞄に気付いた。

「た、たしゅけ……!」
「お代はいかほどいただけるんで?」

「……!この鞄の金……いや、私の持つ全ての金を出そう!!」
間髪入れずの遣り取り、瞬間的に両者は理解した。
クライアントと殺し屋の立場を。

グリモルディは駆ける、背後から迫るヒグマと同じく道なき道を作りながら。

「ありゃあ……なんですかい、人形?」
「人形……?何を言ってるんですかあれはヒグマ……ヒグマ?」

ようよう背後を確認した観柳も首を傾げた。
関東郊外在住、蝦夷のことなど話に聞く程度。
そんな観柳でも「あれはヒグマなのか?」と疑問に抱く姿。

目立つパーツは確かにヒグマだ。
黒い三メートルにもなる巨体、獣らしい爪、耳。
だが構成されたパーツは自然の、生命やどりし生き物の体ではない。
あれは自動人形――オートマータ――否


自動羆人形――オートヒグマータ――!!!!


自動人形の理を持つ曲芸羆人形は武器を持たない限り、決して人間――観客より素早い動きは出来ない。
故に観柳は逃げ続けることが出来た。
もしも観柳に支給された武器が回転式機関砲であればその場で観客では無くなり殺されていたであろう。
観柳の本来の武器である金が、彼の命を救ったのである。
やっぱりお金様は素晴らしい!

「あんな妙ちきりんな奴からは逃げるに限らぁ……あーと」
「武田観柳、私は大商人武田観柳です」
自分でそういうこと言うのか、悪徳商人。

「あたしは阿紫花ってもんでさあ、んじゃあ観柳の兄さん、飛ばしますぜぇ!」

闇夜を駆ける人形と、自動羆人形の追いかけっこが始まった。




【I-6森/深夜】
【武田観柳@るろうに剣心】
状態:疲労、ちょっとスーツが破けてる
装備:金の詰まったバッグ@るろうに剣心特筆版
道具:基本支給品、ランダム支給品1~2(武器ではない)
基本思考:死にたくない
1:ヒグマってなんなんですか?

※観柳の参戦時期は言うこと聞いてくれない蒼紫にキレてる辺りです。

【阿紫花英良@からくりサーカス】
状態:健康
装備:グリモルディ@からくりサーカス
道具:基本支給品、煙草(支給品ではない)プルチネルラ@からくりサーカス、ランダム支給品0~1
基本思考:お代を頂戴したので仕事をする
1:ヒグマ?人形?

※阿紫花の参戦時期はからくりサーカス本編以前です。

【自動羆人形】
状態:損傷無し
装備:無し
道具:無し
基本思考:参加者を殺す


No.034:Death of the Brown bear Viscount 投下順 No.035:(無題1)
No.034:Death of the Brown bear Viscount 時系列順 No.035:(無題1)
武田観柳 No.056:パラ・ユニフス
阿紫花英良
自動羆人形

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最終更新:2014年12月14日 00:58