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2022年グリッド編03

楓「みんなでてわけして!」


ルクス「どうして、こんな事に…」

 聞こえた声は、後悔の色が強くにじんでいる。

ルクス「もっと、もっと早くから行動していれば…こんなことには…」

 一人の小さなメスのドラゴンが、荷車の隅で揺られながら、悲痛な声を漏らした。
その声はあまりにか細く、耳を傾けねば気付かぬままに消え入ってしまいそうな程。
あまりに痛々しいまでの声色は、普通であれば誰しもが手を差し伸べそうなものだった。
…そう、普通であれば。

  楓「ふおー!!!すげー!!いちめんまっしろだー!!n(゚ヮ゚*n」
富寄利「楓殿は雪景色を見るのは初めてに御座ったか、良き経験で御座ろう!」
  楓「ちべてー!さみー!まぶしー!ヾ(>ヮ<*ノシ」

 荷車の後方では、茶色くふかふかしたケモノの少女と、糸目のオスドラゴンが騒いでいる。
どうやら今見えている景色が初めての光景だったようで、ウキウキのワクワク状態だ。
糸目のドラゴンも、そんなケモノ少女の様子を見ながら若干ウキウキしているご様子。
…荷車の隅で、消え入ってしまいそうな声の主の存在が、また僅かに掻き消えそうになり──。

カエデ「……す、すまんルクス」

 その隣で、雑に座り込みながらもバツが悪そうにしている一人のケモノの少女が謝る。
ルクスと呼ばれた少女は、怒りとも悲しみとも取れる瞳を、無言で返すものだから、
ケモノの少女も苦笑いのまま、目の前で、
「ゆきはかきごおり!ΣG(゚ヮ゚*」「非常に美味で御座候!」
と頭スッカラカンのやり取りを見ながら、若干の後悔を胸に秘めるのだった…。

 この4人、楓・富寄利・ルクス・カエデは、突然舞い込んだ≪グリッド君王族婚約問題≫を解決すべく、
事件現場になるであろう場所へ向かう為、荷車に乗りながら、こんなやり取りをしていたのだった。
一体何故こんな事になってしまったのか。そして事態は無事解決できるのだろうか。
誰しもがその結末を分からぬまま、荷車はその先をゆっくり進んでいく。
『小春招礼祭(こはるしょうらいさい)』が開催される『ノースファレス王国』へ……。




運転手「しっかしお客さん達、随分ゆったりした観光客だねぇ」

 今乗っている荷車の運転手は、愉快そうに騒ぐ4人に対して朗らかに話しかけている。

 時を遡ること4日前。カエデ達は、小春招礼祭に向かうべく宿屋「ひなたまご」を出立した。
宿屋が建てられている大陸と、ノースファレス王国がある大陸は、大陸と表記した通り別々の位置にある。
その旅路は、ルクスの計算でも最短ルートで2日。海路を跨いで陸路を行くという長旅である。
更に「最短」と表現した以上、道中の宿泊は最低限、何かしらのトラブルがあれば予定は徐々に延びていく。
よって彼女の提案で4日前と多少余裕を持った予定が組まれたのだった。

ルクス『でも、私はせめてあと1日追加の5日間が必要だと提案したいのですが…』

 予定は未定であり、想定通りになる保証がない。と内心言いたげなルクスの提案もあったのだが、

カエデ『ククク、安心しな。グリッドの緊急事態だぞ、確実に間に合わせられるさ』

 盛大に豪語するカエデや、その背後で盛大に頷く富寄利と楓によって4日間の予定は確定したのだった。
不安は残るものの、自分を含めたこの4人は、グリッドのその後を憂い集まった言わば「同志」。
ルクスは改めて、皆の仲間意識が強い事に密かな感動を覚え、道案内役を誇らしく務めたのだが──。

運転手「多分もう小春招礼祭は始まってる時間だぁよ。お天道様もあんな高い所さぁ」

 今は宿屋を発って4日後の昼前。言わずもがな、遅刻も遅刻、大遅刻である。
道中では、急ぎの移動をするあまりか楓が空腹に耐えきれず、途中の宿泊にて爆食&爆睡。テヘ♡(゚ヮ゚*ゞ
富寄利は大陸間の連絡船に乗るため立ち寄った港町で、世にも珍しい武具を発見し大興奮でタイムロス。
カエデに関しては『大丈夫だ、間に合う間に合う。ククク』と不敵に笑って見せたのだった。

 …その結果が、この有様である。
既に目的地であるノースファレス王国では、小春招礼祭が開催されている時刻のようだった。
もはや間に合う術はどこにもない。そんなもの、ルクスとしては最悪の事態として受け止めざるを得ず、
結果、文頭に漏れ出たのがあの苦悩の台詞だった…。

富寄利「…御免」
  楓「ごめんなさい…n(>、<;n」
ルクス「いえその、怒っている訳ではないので…」

 賑やかに騒いでいた富寄利と楓だったが、冥府のごとき雰囲気を醸すルクスに気付き謝罪する。
もちろん、ルクスもこの3人が全面的に悪いと思っている訳ではなかった。
実はこの『オルフェイン極北大陸』に入り、目的地のノースファレス王国に向かう道中にも、
自然に存在する『魔物』という存在が、彼女たちの行く手を何度か阻んでいたのだった。

 魔物が街道に出てくる、という事は別段珍しいわけでもなく、運転手によると最近は多い方だという。
集まればそこそこに戦闘ができる4人は、襲われる度に難なく撃退を繰り返したのだが、
運がいいのか悪いのか、今日は良く魔物に絡まれることが多く、じわじわと予定時間を削られていたのだ。

運転手「しっかしお客さんのお陰で助かったわぁ。もしかして、魔物狩猟祭の参加希望者かい?」
ルクス「あ、乗せて頂いたなりのお返しというか…はい、実はそんな所なんです」
運転手「ほほー…それなら多少遅れて到着しても問題ないかぁ。頑張れよぉ」

 安堵したように運転を再開する運転手。その口から出た『魔物狩猟祭』という単語に、
4人は改めてお互いの顔を見ながらこくりと頷きあい、荷車の中で向き合う。




カエデ「よし みんなきけ」

 実は出発前の宿屋でも作戦内容を確認していたのだが、現地も近くなったことで、
改めて確認の為にもカエデが率先して皆に声をかける。

カエデ「魔物狩猟祭というのはだな……。 …ルクス」
ルクス「あはは…; では、改めて説明させていただきますね」

ルクス「“魔物狩猟祭”とは、小春招礼祭の最中に開催される、参加型のイベントです」

 お祭りの中にもイベントが複数あるように、この魔物狩猟祭もそう言った類の物です。
名前のまま、魔物を討伐する祭りですね。「ひじょうにわかりやすい」ですか、ありがとうございます楓様。
少しだけ詳しく解説すると、国がとある方法を使い、城外から城下町に魔物を引きよせます。
それに釣られてやってきた魔物達を、最も多く仕留めた参加者が祭りの勝者となります。

ルクス「──というルールなのですが、実はこのお祭りにはある重要なルールがありまして」

 実はノースファレス王国において、この祭りは一大イベントでありながら由緒ある催し物らしく、
『主催の国側が出来る範囲で、優勝者の願いを叶えられる権利』が与えられます。
今までも、国民や余所からの参加者が優勝した際には、その願いが叶えられたそうです。

カエデ「ありがとうルクス。
    さて、改めて私たちの目標だが……他でもない、グリッドが王族になるのを阻止する事だ」
富寄利「改めて言葉の意味を考えると、まるでテロリストか何かで御座るなぁ…」
ルクス「確かに、結果的にはそうなる可能性もありますが…;」
  楓「でも、なんでグリッドがおうぞく?になっちゃうのか、しらないと(゚、゚」
カエデ「そうだ。我々はどうしてこうなったか知らなければならない」

 王子ロンクから預かった手紙で何度も確認したことだが、それが事実であれば、
≪グリッドは王妃と結婚し、正式な次期国王に任命される≫ことになる。
4人だけでなく、宿屋に関わる全員が、このまま彼が居なくなるのは納得できないはず。
ならばどうするか。…その思案の結果が、優勝者の権利であった。

富寄利「拙者達が優勝者の権利を奪取し、国に訴えれば…」
ルクス「はい。少なくとも、決定事項になってしまうグリッド様の現状を変えられるはずです」
楓「うまくいったら…グリッドのごはんが、またおやどでたべられるはず!ΣG(゚ヮ゚*」グッ

 国の決定事項を捻じ曲げるなら、国が出した条件で。
そこに勝機を見出した4人の内で楓は思わず自分の思惑をポロリと出してしまったが、
他の三人は苦笑いしつつも、お互いの思惑は口に出さず心の内に秘める事にした。
言おうが言うまいが、この4人はグリッドをどうにかしたい、その一心で集まったのだから──。

カエデ「よし、乗り込むぞ。グリッドを取り巻く真意を暴いてやろうじゃないか…!」
 4人『おーーっ!!』

 荷車の片隅で行われた作戦会議が終わり、4人は小さく声を合わせた。
その様子を、運転手はどこか朗らかな笑みで応援しているようだった…。




楓「うおおおー!?すげーひといっぱい!すげー!!ヾ(>ヮ<*ノシ」

 ノースファレス王国に到着した4人は、その盛大な賑わいと大勢の観光客を目の当たりにした。
城下町の大通りには幾つもの出店が軒を連ね、各所からは時折鼻腔と空腹をくすぐる香りが漂っている。
そしてその出店を覆い隠さんとばかりに動く人々は、祭りの雰囲気に当てられてか熱気を帯びている。
未だ積もる雪もあちこち残るような北国にしては、あまりにも情熱的だった。

富寄利「ここには仕事で来ることも多いで御座るが、往来する人数は桁違いに候…!」
ルクス「宿屋も、これくらい繁盛してくれればいいのに…」
カエデ「いやこんな人数がやってきたら、あの広さでも流石にパンクすると思うぞ…;」

 雑談もそこそこに、4人は人混みの中を掻き分けるように前進し続ける。
到着直後にルクスが示した行き先は、巨大な一国の城を俯瞰できる、城前公園という場所だった。
平時であれば国民達の憩いの場であり、一大観光名所にもあがる所らしいが、
毎年行われる発表ごとは、そこからが一番聴きやすいのだという。
実際にグリッドの事をどう発表するかは、そこから目の当たりにした方が良いだろう、との事。

カエデ「…そういえば、随分『プライアブル種』が多い気がするが…そういう土地柄なのか?」
ルクス「はい。代々この国を治めている王族も、プライアブル種の『グリフォン族』ですからね」

 行きかう人々は、余所の国からやってきたドラゴン族が大半を占めているが、
その見た目格好から、グリフォン族やウルフ族も多く目立つ。
宿屋の大半はドラゴン族で占められており、実は楓やグリッドなどは種族的にかなり珍しい。
故に「グリッドが王族だった」──なんて言われても、思わず信じてしまいそうになる。
勿論4人としては信じられない事であるし、その真相を確かめに遥々ここまでやってきたのだ。

カエデ「ま、そんな事今はどうでもいいさ」

 そう言いながら、カエデ達は何とか城前公園に到着し、人気の薄い隅で城を見上げる。
そして、バルコニーで何やら身分として偉そうな人物が、何やらご機嫌そうに何かを語っていた。

カエデ「まずは一体何を話しているか、聞いてやろうじゃないか」


?「さて国民の皆さん、外からのお客様、この小春招礼祭を楽しんでいるでしょうか!」

 バルコニー…の手すりの上で、何やら快活の良い声を響かせる人物がいる。
遠方からは分かりづらいだろうが、どうやら体躯の小さなグリフォン族であるように見える。
ちょっとした片目がねを着用し、くちばしに御洒落にカールしたチョビヒゲを蓄え、
燕尾服のような正装に身を包んだ、まるで執事を思わせるような出で立ちをしている。

?「改めまして、この国の大臣である『アラク・シラクル』で御座います。
  そのわたくしから、皆さんに毎年公開されているある物をご紹介しましょう!」

 妙に機嫌がよいのか、挙動に回転を織り交ぜながら宙返りしてバルコニーに降り立ち、
彼は奥の部屋に続いているだろう扉を勢い良く開ける。

アラク「本日限定公開となる我が国の至宝──『フローズンハート』で御座います!」

 翼の手をバサッと広げると、扉の奥から何やら巨大なものが姿を現した。
それは、まるで見た目が氷の巨塊のようで、澄んだ藍色が美しい巨大な宝石の原石だった。
見る者を圧巻するような輝きを湛える国の宝玉が、太陽の元鮮やかな色彩を見せる。

アラク「このフローズンハートのお陰で、この国は魔物という脅威から守られております。
    この後開催される魔物狩猟祭に参加される皆様に、この宝玉の加護があらんことを!」


 毎年公開されている代物だというのに、人々からは割れんばかりの歓声が上がる。
それだけ、遠巻きでも圧巻される程に存在感を放つ国宝が見られた事が喜ばしいのだろう。
しかしカエデはと言うと…。

カエデ「あの大臣…遠巻きからでも分かる。 チビだな」
  楓「たぶんルシナぐらいのおおきさじゃないかなー(゚、゚*ゞ」ミアゲー
富寄利「かっカエデ殿、一応言葉は気を付けて慎んだ方が良きに御座ろう;」「ククク」
ルクス「それにしても可愛らしい名前ですね♪ でも、ハートの形には見えませんが…」


アラク「それでは皆様お待たせ致しました、魔物狩猟祭の開催宣言……の前に!
    皆様にはとてもとてーも大切な重大発表をさせていただきます」

 十分にフローズンハートを見せられたのか、躍り出るように再びバルコニーの手すりに乗ると、
今度は突如として神妙な面持ちになり、一呼吸おく大臣アラク。
宝玉を前に色めき立っていた人々も、その雰囲気に飲まれたのか空気を読んだのか静まりかえる。

アラク「現国王である八代目ノースファレス・オルフェイン国王陛下も今やご高齢。
    国民の皆さんも次代の国王就任が今か今かと気になっていた事でしょう。
    ──そう、本日、その次期国王陛下のご紹介をさせていただきます!!」

 両翼の手をバサッと広げ、盛大に発表するアラクに人々は喜びにどよめく。
国民達は今や今やと待ち望み、観光客達はまさかこんな日に立ち会えるなんて、と喜んでいる。
そして一瞬、アラクが背後に目を伏せると…奥の部屋から、とある影が出てきた。

  ?「………」
アラク「その名は他でもない、ロンク・ノースファレス・オルフェイン王子…。
    皆様ご存じ、我が国における偉大な次期国王陛下となりますっ!!」


  楓「あれグリッドじゃない?!Σ(゚ヮ゚;;」
富寄利「いや誰がどう見てもグゥ殿で御座候!?」
カエデ「王族の格好似合ってな…ク、ククク…」プルプル
ルクス「笑ってる場合じゃないですよカエデ様?!
    グリッド様も何故、そんな表情で壇上に上がられているのですか…っ!?」


 王族に所縁のある豪奢な外套、というよりマントを羽織り、その頭部にこれまた豪華な王冠を乗せ、
グリッドが神妙な面持ちで人々の前に姿を現したのだった。その姿は、まるで本物の王子のよう。
だがこの重大発表を聞いていたであろう国民達から、僅か一瞬、どよめき声が漏れるタイミングもあったが、
それを掻き消す程の万来の拍手喝采が、公園全体から弾けるように溢れ出た。

 アラク「皆様、盛大な拍手をありがとうございます。
     後日改めて戴冠式を執り行い、ロンク王子は晴れて立派な国王陛下になるでしょう!」
グリッド「………」
 アラク「それでは次に、そんな王子の許嫁であり、生涯を共にすると誓った女性をご紹介しましょう」

 その言葉を聞いた瞬間。顔色一つ変えないグリッドの表情が、明らかに一変した。
…かに見えたが、直ぐに元に戻る。この変化に周囲の人々は全く気付く事はなかったが、
カエデはこの時僅かな確信を持つ。あの一瞬の表情の変化に、意味があるのではないかと──。
そしてまたしてもバルコニーの奥にある部屋から、人影がゆっくりと現れてくる。

   ?「ご相伴に預かりました、次期国王ロンクの妻となります、『ラト』と申します。
     不束者では御座いますが、ひいては国民の皆様の為に、一生尽して参ります」

 自らをラトと名乗った女性…と言うにはやや幼い少女もまた、王族の正装に身を包んでいた。
ただ、その表情は隣に並ぶグリッド以上に読みとれず、同じように神妙な面持ちで佇む。
王族らしい立ち振舞いと言えば非常にそれらしく、その空気感は場内を納得させるだけの何かがあった。

 アラク「ご来訪の皆様も割れんばかりの拍手喝采をありがとうございます。
     今後とも、我がノースファレス王国の永劫繁栄を祈って…両者、誓いのくちづけを」

 感謝の言葉と共に深く頭を下げながら、その場から一歩引く大臣アラク。
そして同時に、そっと向き合うグリッドとラト。全てはこのまま進んでいくように思えてしまう。


富寄利「あーっ!グゥ殿!いけません御座る、グゥ殿、あっ、あーっ!!」
  楓「グリッドのおばかーーーーっ!!!ΣG(゚ヮ゚#」
ルクス「いけません、このままでは魔物狩猟祭どころの問題じゃありませんっ…!
    でも、あんな遠くて高い場所にまで今すぐ行くなんて…うぅ…グリッド様…!」
カエデ「───」

 周囲が静まりかえり、固唾を呑んで見守る。
それはまるで、周囲の時間ごと氷のように固まってしまったようで、
しかしゆっくりと、二人の顔が近づいてゆく。永遠のようで、確かな歩みの様に──


  ?「そのご成婚、待ってほしい!!!!!」


 互いの口が重なる直前、その声は静まりかえった場へ高らかに響いた。
一体どこから声がしたのかと4人はそれぞれ違う方向を見回していると、
突如として会場であり、鮨詰め状態だった城前公園のど真ん中から人々が身を退く。
そしてその中から現れたのは、深くローブを被り素性の掴めない謎の人物だった。
…何者が、めでたい報告会見のようなこの状況を乱すものかと周囲の視線が集まった時、
満を持して、そのローブは脱ぎ棄てられ宙を舞う。その影から現れたのは…。

  ?「その者は王子ロンクに非ず… 我こそが真にロンク・ノースファレス・オルフェインである!!」

 楓とカエデは、その姿を確かに知っていた。
宿屋へ兵士や女性を引き連れやってきて、こんな事態を招いたとんでもない手紙を持ちこんだ張本人で、
今はその時に見る事の出来なかった、固い決意を鋭い眼光に秘めた、王子その人である。
そして間髪いれず、自らを本当のロンクだと語った本物のロンクは、
城を、というより城のバルコニーで此方を見降ろしているグリッドに向かって指差し、更に叫んだ。

ロンク「だがこの成婚が、国の決定事項と言うのなら──魔物狩猟祭にて、覆そうではないか!」

 その瞬間。改めて固唾を飲んで見守っていた周囲の人々が、割れんばかりの歓声で沸き立った。
城のバルコニーに居る「本物のロンク王子」に、偽物の「自称ロンク王子」が挑戦状を突きつけたのである。
多少の混乱こそあったが、偽物が言い放った言葉とそのえも言えぬ魅力に、人々は興奮する。
その圧巻と呼ぶに相応しい、圧倒的なボルテージが、会場を包み込んでいった。

アラク「良いでしょう。それでは開催される魔物狩猟祭で、勝者として輝いた一方こそ、
    真にこの国の王子ロンクであると認めましょう。大臣としてその勝負を認めます」

 それをバルコニーの端で聴いていた大臣アラクも、応戦するかのように対応をする。

アラク「それでは、ただいまを以って魔物狩猟祭の参加希望者を募ります。
    ──さぁ、腕の立つ皆様も、そうでない方々も、是非この祭りに参加してください!
    この二人を差し置いて優勝した方は、我々が全力でその願いを叶えて見せましょう!!」

 同時にこのお祭り最大のイベントが、彼の口から開始を宣言される。
熱狂覚めやらぬ会場はその宣言を期に、腕っ節の立ちそうな参加者が続々と城下町の方へとなだれ込んでゆく。
隅で待機していたカエデ達も、その大きな波を掻き分けるように、中央にて堂々とするロンクの元に辿りついた。

カエデ「……ククク、随分と格好良かったじゃないか」「よっ、ロンクーヾ(゚ヮ゚*」
ロンク「…カエデさん?それに妹さんと、お知り合いの方々かな?」「妹じゃない」「ぶー(゚、゚」
ルクス「あっ、えっと、その、お初にお目に掛かります、
    私、宿屋『ひなたまご』の女将をしておりますルクスと言う者でして──」
富寄利「拙者、富寄利と申す。グゥ殿に置いては拙者のいぢり対象であって──」

 突然の出来事で混乱したルクスは、まず宿屋の女将としていきなり挨拶を始め、
富寄利に至っては意味不明な発言をし出す始末で、その光景を目にしたアラクは朗らかに笑う。
その表情には、先程のような決意は見当たらず、まるで優しさに溢れていた。
だが、次の瞬間には再び結ぶように表情を鋭くする。

ロンク「色々伝えたい気持ちはあるけど…まずは」

 ロンクが視線を投げかけた先、バルコニーから大きな翼で滑空し、ここへ降りてくるグリッドがいた。
その腕には婚約相手とされたラトが、お姫様だっこと言うポーズで大事そうにされている。
やがてゆっくり着地し、そっとラトを降ろしたグリッドは…いの一番でこの状況に驚いた。

グリッド「…えっ、なんでカエデさん達がここに居るんですか!?Σ(゚◇゚;」
 カエデ「不躾だがそっくりそのまま返してやろうじゃないか。
     グリッド、今の今までどこに居て“何でこんな事”してるんだ?」
グリッド「そ、それは…」
 ロンク「──グリッド!!」

 カエデ達がこの場に居る事が余程想像だにしなかった事らしく、
ここ数日の所在などを突っ込まれ、ややたじろぐ様に半歩下がるグリッドだったが、
その半歩分すら超えて詰め寄り、その胸倉をつかんだのは他でもないアラクだった。

 アラク「これは一体どういう真似だい?何より…僕からラトまで奪うつもりなのかな」
グリッド「…………」

 腹の底から呪詛かのよう低い声を出して、掴みかかったグリッドに食って掛かる。
掴まれたグリッドは僅かに表情が曇るも、即座に持ち直してその腕を振り払う。
そして掴まれた胸元をさっと元通りにし、誰に声を掛けず、視線も合わさず、その場を去ろうとする。
まるで伝える事など無いかのように、毅然としたような冷たい態度だった……が。

 富寄利「──グゥ殿。拙者にも、それは言えぬ事なので御座るか」

 富寄利の一言で、去り際のグリッドの歩みが、ピタリと止まる。
二人の関係はカエデ達にとっても理解が容易い程に親密であると分かるもので、
そして同時にこの4人の総意でもあった。それはグリッドにも、恐らく確実に伝わっていた。
顔だけ僅かに振り向き、くちばしが開きかけるも、僅かに開いたその隙間は一瞬。

グリッド「……ごめん」

 ただ一言。グリッドらしくない低い声で、この場の全員の耳に確かにこびり付いた。
しかしその一言だけでこれ以上の情報は得られないだろうと全員が理解し、
足早にこの場を去っていくグリッドを、誰ひとりとして止める事はできなかった…。
そのまま数十秒、場の空気が凍りついたように固まったのだったが、

   楓「…(゚、゚」グゥゥゥ…

 黙っていても、腹の虫までは黙っていられなかったのだろう、楓の腹が空腹に負けた。
各自思い思いに溜めこんだ息を吐きだして、苦笑いする。怪我の功名…だろうか?
等と考えているカエデを尻目に、アラクも大きく息を吐いて4人に向き直る。

 ロンク「楓さん、皆さん。僕も魔物狩猟祭へ参加しに行くよ。
     このままだと、僕は自分の『本当に大切にしたいもの』まで無くしそうだからね」

 そう言いながら視線の先に居たのは、本物のロンクの許嫁であり、懸けに出されたラトだった。
彼女もまたグリッドとロンクのやり取りを見ながら、言葉も出さずに居たのだったが、
そんなラトを愛おしそうに、しかし複雑な視線を投げかけながら、アラクもその場を立ち去る。
こうして、4人とラトだけ残される事になり、若干気まずい雰囲気が流れるが…。

  ラト「あ、あの…皆様、えっと…」
 富寄利「ラト殿。貴女はロンク殿を追いたいので御座ろう?」
  ラト「──」
 富寄利「ご安心に御座る。元より拙者ら、グリッド殿をどうにかする為馳せ参じた者達。
     しかし…逆を言えばロンク殿とはあまり面識は無いに御座候。
     そこをどうにか出来るのは、きっとラト殿だけに御座る」

 何とか言葉を絞りだそうとしていたラトの「ある仕草」に気付いた富寄利は、
彼女が必要としているだろう言葉を言い当てる。それを聞いたラトは大きく目を見開らき、深く頷いた。
更に続けて、自分たちが何をするべきか、ラトにしか出来ない事があると言うのを伝える。
その言葉を聞いたラトは、もう一度深く頷いて…咳払いを一つ。

  ラト「…こほん!そうですよね。私にしか出来ない事だって、ありますよね!」

 両手でグッとガッツポーズを取り、意気込みを強めたラト。
その光景は何故だか、自然と周囲に暖かな勇気を与えてくれたような気がした。
4人はお互い顔を見合わせ力強く頷く。自分達にも、やるべきことがある──。

 カエデ「私たちも動くか」
   楓「いざ『まののしゅりょーさい』だね!ΣG(゚ヮ゚*」
  5人『おーーーっ!!』

 グリッドの意図も掴めない、そしてどういう結果になるかも分からない。
だが自分たちが為すべきことは分かった。それで、その結果に変化があるはず。
暖かな勇気に後押しされ、4人…共に行くラトを足した5人は、
魔物狩猟祭へ参加する為に歩み出した。




 『魔物狩猟祭』。
ノースファレス国にて開催される伝統的な行事で、小春招礼祭の大目玉とされるイベントで、
特殊な方法で城外から城下町へ魔物たちを呼び寄せ、それを参加者達が各自で退治する。
その中で最も狩猟数が多かった者に、国から「何でも願いを叶える」という報奨を与えられる。
…そんな訳で、国内外から腕の立つ冒険者や賞金稼ぎなどがこぞって参加してくる訳で、
参加の待機場所となった城下町の大通りは、とんでもない混雑状況となっていた。

カエデ「お、おい…さっき城前公園に居た人数より増えてないか…?」
富寄利「別に先の発表を聞かずとも、オフ参加は自由で御座る、これ目当ての者もムギュ居ろう…」

 大通りと言うだけあって道幅は特に広く作られているだろうはずが、
そこへ各々の得物を担いだ連中が、やや隙間ができるかどうかと言った具合で並んでいる。
あまり人前に出ないどころか、人混みがそこまで好きでないカエデはげんなりするが、
隣で大柄で筋骨隆々のオスドラゴンに挟まれ、潰れそうな声を発する富寄利。
ルクスと楓も、何とか狭さを回避しようと傍で屈みながら必死にやり過ごしている。

  楓「くるしいー…… n(>、<;n」
ルクス「参加開始になれば皆様各地に散らばっての戦闘になるはず、それまで我慢です…!;」
富寄利「し、しかし拙者、腕っ節は少々自信が… 武器に関しては詳しいに御座るが…」

 ふとカエデは、この4人がさほど戦い慣れている訳ではない事を思い出す。
4人集まれば多少の魔物ぐらいは退治できるが、実際の所、個々の戦闘能力はあまり高くない。
富寄利は自ら言う通り、武器の知識はあっても身体が付いてこない貧弱っぷり、
ルクスは特殊な出生のもと魔法の才はあっても、どちらかと言えばサポート向き、
楓なんて確かに何故か怪力だが戦闘センス皆無。自分ことカエデも、超能力も戦闘には不向きだ。

カエデ「……今更だがルクス、私らに勝機はあるのか?」
ルクス「…え、えへへ♡」

 案内役であり勝手に参謀にしていたルクスが可愛らしく笑って誤魔化した。
恐らくこうなるだろう事を織り込み済みで、今まで黙っていたらしい。愛い奴め。
カエデはこの状況からの勝算を必死に考えてみたが……割と絶望的な気がした。
こういう時は空笑いして誤魔化すか、と思考放棄をしかけた、その時。

 ラト「みなさーん!…あ、えと、グリッドさんのお知り合いの方々!」
  楓「む? このこえ……あ、ラトだ!(゚ヮ゚*ノシ」ブンブン

 何処からか此方を呼ぶ声がしたと思いきや、列の遠方、人混みの中から振られる手だけ見える。
その声が、つい先ほど王子ロンクを追って別れた許嫁のラトだと気付いたが、
人混みの中そこに辿りつける気がせず、まあ手を振る楓だけで済ます気でいたカエデ。

 ラト「えっと、実は……とりあえずそっちまで向かいますね!えぇいっ!」

 彼女は此方側が自らの存在に気付いたのか、気付いていないのか分からなかった、なので。
突如、その位置から此方までの道すがらにいる参加者を、ゴリゴリと押しのけやってくる──。
衝撃的光景だった。あの小柄な体躯からは想像がつかない、あれこそまさに『怪力』だ。

 ラト「やっと辿りつけました。お呼びしたからには、此方から向かわないとですね!」
カエデ「あ…ああ、手数をかけたな…ククク…」
富寄利「」ルクス「わ、わぁ…;」楓「すげーっ!(>ヮ<*」キャッキャッ

 その道中にある全てを押しのけやってきた少女は、汗一つかかず、一息ついた。
これはますます勝率を下げなければならないと、勝手に笑いが零れるカエデだったが、
それを知ってか知らずか、ラトはぱぁっと笑顔を広げて話し始める。

 ラト「申し遅れました、私の名前は『ラト』と申します。
    身分につきましては、先の通りですが、今後とも宜しくお願い致します。
    …こほん! 実はお頼みしたい事がありまして…これを受け取ってください」

 何故か改まってわざとらしく咳払い。ラトは自らの懐をゴソゴソと漁りだす。
そして目的の物を見つけたようで、それを一度両手でギュッと握り、手渡してきた。
とりあえず言われた通りカエデが受け取ったそれは、丁寧に包装された何かだった。
掌に収まるサイズのそれは、中に何か入っている膨らみがあり…恐らく小石のように思える。

カエデ「これは何だ…? 中には何か入っているようだが」
 ラト「はい。詳しく説明するのには少し時間が無いのは申し訳ないんですけど…。
    その包みを、どうにかしてグリッドさんにお渡しして頂けませんか?」
カエデ「ふむ…」

 手渡された小包装を眺めながら、カエデは様々な事を考えた。
先程ラトとグリッドは一緒に居たタイミングがあったが、そこで渡さなかった理由。
そもそも、これを彼に渡す意味。諸々の理由をそれなりに考えたが…。

 ラト「難しいことですし、本当はちゃんとご説明しないといけないのですが…。
    絶対に悪いことにはなりませんから、お願いします…っ!」

 このラトという娘が自ら言う通り、これを渡した所で悪いことにはならないだろう。
多少なりと疑り深いカエデからしても、言葉の端々からその意図がないようにも感じる。
何より、こちらを見つめる瞳の奥底に…なんて、その言葉は自分の性に合わないだろう。
問題は周囲に見当たらないグリッドにどう渡すかだが、今は置いておくとする。

カエデ「まあ任せておけ。あいつは私に頭が上がらないからな…ククク」
富寄利「そうで御座るな、このグゥ殿いぢり隊に任せておくで御座るよ」
  楓「しんらいとじっせきのわたしたちに、まかせとけーΣd(゚ヮ<*ゞ」
ルクス「…え、えっと、こんな私たちですけど……必ずお渡ししますね!」
 ラト「はい! …ふふっ、グリッドさんは良き方々に恵まれておりますね♪」

 その言葉の意図は…何となく汲まなくても良さそうだ。

 ラト「では私はこれで。皆さんも魔物狩猟祭、頑張ってくださいね!」

 そういって深くお辞儀をすると、ラトは再び人混みを掻き分け…いや押しのけて去っていった。
恐らく向かう先にはロンク王子が居て、二人でこの戦いに勝利しようとしているのだろう。
…いや、今の所あの二人が優勝候補の筆頭であることに間違いはなさそうだ。

富寄利「豪快な女性に御座ったな…。下手したら、勝利さえもぎ取っていきそうに御座る」

 富寄利は苦笑いしながらも、周りで同じように笑いあう楓とルクスと一緒に頷き合っていた。
皆が同じ意見でカエデも笑みがこぼれかけたが、ふと、何故こうなってしまったのか考える。
あの二人がもし優勝をして国の宣言を排し、元通りになったとして、
何故そこにグリッドが介入しているのか。この流れを作ろうとした国の意図とは。

カエデ(考えすぎの可能性もあるが、だとしてもこんな事態には普通ならないだろう。
    だとしたら…それで得をする、裏で糸を引いている奴が居る?)
ルクス「──カエデ様、始まるみたいです」


 少し前にこの国を訪れる際に4人が潜ってきた、今は閉められた大きな城門の上部、
そこにメイド服を着飾った女性のドラゴンが現れた。…何故メイド服を着た使用人?
だが参加者たちはその姿を見て、にわかに盛り上がり熱を帯び始める。
その場の雰囲気的に、どうやらあのメイドが開始の合図を告げるのだろう。

カエデ「ま、むさい男がやるよりマシか」
メイド『それでは開城いたします。皆様、戦いの準備はよろしいでしょうか!』

 全員に聞こえるよう叫ぶメイドに対して、参加者、特に男どもは雄たけびをあげて返している。
ま、あれがあいつらなりの鼓舞の仕方なのだろう、と適当に考えを放りだしつつ、
カエデは周囲を見渡しながらグリッドを探す。戦闘が始まれば辺りは喧騒に包まれるだろう。
そうなれば、頼まれた物を渡すのは難しくなるのは、火を見るより明らかだ。故に直ぐ渡したいのだが…。

富寄利「しかし…グゥ殿の姿が見当たらんで御座るな」
ルクス「──。この周囲には居なさそうです。一体どこに…?」

 富寄利とルクスも疑問に思っていたのか、同じようにキョロキョロしていた。
この二人ならばこの人混みの中でもグリッドの判別がつくだろうが…。
だがその思考を遮るように、それは告げられてしまった。

メイド『それでは──魔物狩猟祭、開始致しますっ!!』

 叫ぶと同時に、懐から取り出した角笛を手に大きく息を吸い、吹き鳴らす。
角笛独特の遠くまで届くかのような音色が、辺り一帯に鳴り響く……と同時に、
飛行型の魔物の数々が一斉に外壁を乗り越え、一斉に参加者に襲いかかってきた。
あっという間にあちこちが戦場と化したこの場所で、カエデ達もまた戦闘となる。

 魔物「キュエエェェッ!!」
  楓「わーーっ!?(>ヮ<;ノノ」ピョンコピョンコ
ルクス「楓様下がって!富寄利様は前衛をお願いします!」
富寄利「ま、任せるで御座候!」

 中型の翼でホバリングできるタイプの魔物が、早速その鋭い嘴で楓に襲いかかった。
突然のことに慌てふためく楓と魔物の間を遮るよう、横やりを入れたルクスが富寄利に指示を出す。
富寄利も一瞬焦るも、すぐさま得物の倭刀で反撃──が、素早く躱されてしまう。

ルクス「っこの!」

 その回避の隙を狙って、ルクスが自らの周りに生成した魔力の弾を一気に撃ちこむ。
弾速の早い魔力弾は的確に魔物の身体を貫き、その一体を撃破する。
関心するカエデだが、その間もなく、背後から新たな飛行型の魔物が彼女へ急襲を仕掛けた。
それを涼しい顔で回避したカエデは、飛び去る魔物を超能力で掴み、地面へ叩きつけた。

カエデ「富寄利!」「了解で御座る──」

 動かない相手であれば、戦闘が苦手な彼でも十分に攻撃が出来る。
丁度地面から這い上がろうとする魔物を、踏み込みの袈裟斬りで一刀両断する富寄利。

 実際、この街へ来るまでの戦闘もこんな感じで、幾つかの連携に分けていた。
この戦い方であれば、多少のアレンジでどんな敵にも対応ができる。
…だがこの戦い方は、あくまで安全に戦闘を行うもので、数をこなせない。
周囲を見れば、腕の立つ冒険者達がたった1人で魔物を撃破していく。
ジクスヴァルフクリスあたりだったら片手間に魔物たちを蹂躙していただろうが…。

ルクス「カエデ様、囲まれてしまいましたっ!」

 なんてカエデが考える間にも、4人はあっという間に数の暴力に押さえられてしまった。
見れば城門が解放されており、地上を動く種類の魔物達が、既に至る所へ侵入してきている。
予想以上だった。これほどまでに魔物が襲ってくるものだとは、とルクスも考えているようで、

ルクス「ごめんなさい、まさかこんなに魔物の数が多くなるなんて…」
カエデ「いや気にするな。恐らく…」

 謝罪の言葉も気にせず、カエデはどっしり構えた。
その瞬間。こちらを囲んでいた魔物達が全て「何か」に撃ち抜かれ、一瞬で撃破された。
この祭りにおいて負傷者の話を聞かなかったのは、参加者全員による戦闘だということ。
つまり…魔物の撃破にまごついていたら、他の実力者たちに獲物として横取りされるだろう。
現に、今撃破された魔物たちは上空からの攻撃によりやられたように見える。
それと同時に、周囲で戦闘を繰り広げる参加者たちの魔物も一瞬で撃破されていく。

富寄利「……グゥ殿」

 武器を降ろした富寄利の視線の先──上空にて翼をはためかせホバリングするグリッドの姿があった。
身体ほど大きい大弓を構え、腰の矢筒から引きぬいた矢に風の魔法をかけ、静かに矢を引き絞り、撃ち放つ。
それだけで周囲の魔物数十匹が撃破されていく。交戦中の魔物も、地上も空中もお構いましに、全て。
グリッドが弓の名手であるのは周知の事だが、あの異様な存在感は今まで誰も見たことがない。

  楓「グリッド、あんなたかいとこに…。これじゃわたせないよー(゚、゚;」
ルクス「助かりましたけど、このままだと勝ち目なんて…」

 4人で話している間にも、引き絞られた魔法の矢が、大空から街中を闊歩する魔物を撃破していく。
その姿は参加者どころか、参加せず退避している一般市民の目にも届いているだろう。
場合によっては『まさに王族たる所以の実力』と見られる可能性も多いにある。
まずいな、と呟くカエデだったが、ふと気になる声が耳元に入ってきた。

  ?「ああっ、あの方があんな活躍をしてしまったら、本当に王子様が…!
    大臣も何でこんな事を…ああもう、なんて事をしてくれたんですか…っ!」

 声の主を探すと、大通りの隅、建物の影から上空をハラハラした面持ちで見上げる何者かが居た。
どうやら非参加の退避者のようだが…カエデの地獄耳、もとい耳の良さからするに…。
的確に魔物だけを撃ち抜く矢が振ってくる中、目にもとまらぬ速さでカエデは接近する。

カエデ「──事情通のようだが、さてはあんた王国の関係者だな?」
  ?「ひえぇっ?! 誰ですか貴女!?」

 その見た目は、何と言うか…イモだった。
紫色を中心としたカラー、中肉中背のドラゴン族、だが何より目立つのは…瓶底眼鏡。
果たしてそれは視えているのか?とツッコみたくなる程の度数が入っているだろう眼鏡をかけている。
アタフタしている姿は何と言うか、職務中というより、休暇中のような感じだった。

  ?「まさか貴女も大臣の差し金で、こんな無茶苦茶な作戦を…!?
    早く城へ戻ってこんなふざけた事態を止めさせないと──」

 だがビンゴで間違いなさそうだ。オマケに相当のおっちょこちょいときた。大当たりまである。

カエデ「…とりあえず素性は分かった。
    私たちも訳あってこの状況を打破したい。協力させてもらおう」
  ?「し、しまっ…! あでも、逆に考えたら都合が良いかも……」

 おっちょこちょいついでにチョロいとまで来た。ここまで来るとちょっと出来すぎに思えるまである。
だが、グリッドの本気具合を見るに手段を選んで、手を拱いている暇はないだろう。
魔物狩猟祭で勝ち目が無いのなら、そうでない勝ち目を作るまで。その方が私向きまである。
…なんて、カエデはついニヤニヤと笑ってしまう。さぁ、反撃開始だ。

   ?「利用させてもらおっと…あ、いえ。
     僕の名前はメッシュ、大臣アラクの補佐官をしております。
     今日は非番で、単純に魔物狩猟祭を楽しもうと思っていたんですが…」
 カエデ「…うん、見事な自己紹介をありがとう。ククク」
 ルクス「カエデ様、一体どうなされたのですか…すごい瓶底眼鏡です!?;」
 富寄利「負傷者に御座るか、今すぐ治療を……グルグル眼鏡に御座る!」
   楓「ちょっとかり……おぉぉ?!(n@ヮ@n;」グワングワン

 いつの間にかルクス達も寄ってきて、大臣補佐のメッシュを取り囲む。
逆にメッシュも何事かとオロオロしているようだが、カエデはそんな事は置いといて、
取り敢えず現状打破の為に、色々考えて……ある提案を出す事にした。

 カエデ「提案だ。二人一組に別れよう。
     ルクスと楓は今まで通りこの祭りに参加し、ロンク達のサポートをするんだ。
     私と富寄利は、こいつ…メッシュと共に城に侵入、親玉のアラクを叩く」
メッシュ「あの、大臣に危害を加えるのは」「言葉のあやだ」

 戦闘が出来る面々を分けるのはやや心配だが、王子ロンク達のサポート役ならば万全だろう。
そして私とメッシュに富寄利を入れる理由だが…恐らく富寄利が知りたがっているのもある。
どうしてこうなってしまったのか。それを一番正確に知るなら、富寄利は同行が良いだろう。

 ルクス「了解しました。私たちはロンク様達のサポートと、グリッド様の妨害ですね。
     …きっと、カエデ様達であれば何とかできると信じております…!」
   楓「まっかせろー!(゚ヮ゚*ゞ」
 富寄利「カエデ殿……お心遣い痛み入るに御座るよ…!」
 カエデ「ククク、何のことやら。…っとそう言えば、こいつを頼めるかルクス」

 その時ふと、カエデはラトからグリッドに渡して欲しいと頼まれた小包装の事を思い出した。
所持者が彼女のままでは、グリッドの居る場から離れてしまい、そもそも渡せなくなる。
ならば、外に出ていて、万が一に渡せる機会ができるだろうルクス達に任せるのが適任だろう。
特にルクスと楓どちらに任せるか…というのは愚問だろう。その可愛らしい手に直接ものを渡す。

 ルクス「承りました、確実にグリッド様にお渡ししてみせま」「わたしがやるーーーっ!(>ヮ<*ゞ」

 …だがそれは、楓が納得していれば、という条件付きだった。
二人の間で譲渡されようととした瞬間、横から楓がシュバッと小包装を奪い取り、大切に抱え込む。
少々所でなくかなり心配ではあるが…言い出したら聞かないのは、二人も良く分かっての事だった。

 カエデ「よし、それじゃあ別れて行動開始だ。メッシュと言ったか、城への案内頼んだ」
メッシュ「わ、分かりました! …あれ?良く考えたら、とんでもない事に加担させようとしてる…?」
 ルクス「では私たちは引き続き此方の対処を。カエデ様、富寄利様、メッシュ様、お気を付けて!」ペコリ
 富寄利「うむ、必ずやこの状況を打開してみせるで御座る…!」
   楓「みんながんばっていこー!ゞ(゚ヮ゚*ノシ」ブンブン

 ルクスと楓は、無理な戦闘は参加しないで様子を伺いながら王子ロンク達のサポート、
カエデと富寄利は、王国関係者のメッシュと共に王宮に侵入し、元凶の大臣アラクに突撃。
お互い顔を見合わせ頷きあうと、4人は2チームに別れて行動を開始したのだった──。


最終更新:2022年05月17日 02:55