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2022年グリッド編04

ルクス「一発入れないと気が済みません」


ルクス「楓様、まずはロンク様達と合流しましょう!」
  楓「がってんしょうちのすけ!ΣG(゚、゚*」

 カエデ富寄利、そこにメッシュを加えた3人が城の方へ向かい駆けていった。
その姿が見えなくなるのを確認したルクスは、隣で待機していた楓に声をかける。
楓も、半ば無理やりだがカエデから受け取った小包装をぎゅっと握りしめ頷いた。

ルクス「しかしあのお2人は一体どこに…。参加者様達が多くて見当たりませんね」
  楓「うーん、それっぽいのはちかくにないねー」
ルクス「よし、此処は任せてください。私が周囲を探知してみます…!」

 合流するとは言っても、既に戦地となったこの場にロンクとラトの姿はない。
周囲に見えるとすれば、その実力を遺憾なく発揮し魔物を薙ぎ倒していく、見知らぬ冒険者たち。
そしてその手から離れうろつく魔物達は、グリッドが放つ矢の雨により次々撃破されていく。
恐らく、この場には居ないのだろう。探知範囲を広げる為、ルクスが目を閉じたその時。

  楓「ねーねールクス、まものがとびはねてるよn(゚、゚」クイクイツンツン
ルクス「Σはひっ?!//// きゅっ急に脇を触らないでくださ……え?」

 突如彼女の小脇をツンツンする楓に、思わず上擦った声が出そうになるも、
その指が差した方向に視線を向ける。すると確かに、遠方で魔物が高く飛び跳ねていた。
…というより、むしろ誰かに空中へ放り投げられている…?
そんな違和感に気付いた瞬間、その魔物は勢いよく弾けて消滅した。
間髪いれず1匹、また1匹と、同じように宙へ投げられ消滅する魔物の数々。

  楓「とりあえずあっちのほうにいってみよっか(゚ヮ゚*」
ルクス「そうですね、ここで止まっていても仕方ありませんし──?」

 ともかく、動きながら捜索した方が早いでしょう、なんて付け加えようとしたその時。
今まで遠くの上空へ投げだされていた魔物が、突如としてルクスの方に飛んでくる。
そもそも『魔物』を空高く投げ出しているのだから、その行き先のルクスには身構える隙もなく──、

ルクス「ぁ──!」楓「ルクスっ!!」

 瞬時に楓が割り込んで盾になろうとする、それ以上の速さで彼女の元へ飛んでくる魔物は、
寸での所で弾けて消滅する。後から身構えたルクスはどうなったのか、分からないでいた。
だが魔物が消滅する際に聞こえた、2つの独特の風切り音。この音の正体は知っている。
弓から放たれ高速で飛翔する矢の音だ。実の所、割と聞き覚えがあったりする。

ロンク「ルクスさん、楓さん、ご無事ですかっ!?」
 ラト「ご、ごめんなさぁい~っ」

 そして次に聞こえてきたのは、逆にあまり聞き覚えのない声。
遠方からこの国の王子であるロンクが、身の丈程あるかという大弓を降ろしながら近づいてくる。
その背後には、彼と共に戦うと後を追ったラトが、謝罪の言葉と共にくっ付いて来ていた。
ルクスはこの時、無事に二人と合流できた事と、自身に起きた危機がどうなったのか一瞬で理解する。

ルクス「はい、この通り傷一つありません。ご安心くださいませ」
 ラト「よ、よかったぁ…。ごめんね、勢い余って手からすっぽぬけちゃって…」
  楓「…え? もしかしてまものが、おそらをとんでたのって…?(゚、゚;」
 ラト「こほん! そうです、私が空に投げつけてたんですよぅ!」フンス
ロンク「意気込むのはいいけど、他に人に怪我させるような真似は駄目だよラト…」

 ロンクとラトは一緒に戦う事で、より効率良く戦うようにしていたようだ。
襲いかかってくる、もしくは掴める範囲にまで来た魔物を、ラトが強引に掴んで頭上に放りなげる。
その隙をロンクが大弓で的確に狙い、撃ち抜いて撃破。後はおなじルーチンを行い続ける。
グリッドと一緒に戦った事があるルクスは、これに似た戦法をとったことがあった。
…だからだろう、矢の飛んでくる独特なあの音が「2つ」聞こえたのは。

ルクス「ともかく、今からロンク様とラト様のサポート役として、
    微力ながらお二人の力添えを、私と楓様でさせてください!」
  楓「おう、びりょくだけど、まかせろ!n(゚ヮ゚*n」ムネトントン

 純粋な戦力としては本当に微力だ。二人揃っても、魔物1匹相手に悪戦苦闘だろう。
だけど自分の真価はそこじゃないし、楓様もきっとお役に立つはず。
何よりもっと大切なもの、口では説明しきれない、かけがえのないものを守りたい。
……そんな風に訴えるような二人の瞳が、対する二人の瞳に映り込んだ。
ラトとロンクは、お互いを見合わせながら微笑み、照れくさそうに二人へ向き直った。

ロンク「出会って日も浅いのに…こんな僕たちの為に、ありがとう」
 ラト「貴女達の為にも、私たちの為にも、一緒に戦おうっ!」

 感謝の言葉と共に、ロンクとラトは双方へ握手を求めて手を差し伸べた。
それに対し、ルクスと楓はぱあっと笑顔を咲かせ、その手を取る。

  楓「よし、じゃあもっともっとがんばろーっ!ΣG(>ヮ<*」
 3人『おーっ!!』
  楓「ふんすー……お?」

 こうして、奇妙にも思える≪王子・許嫁・RW・ケモノ娘≫というパーティが結成。
お互いに為さねばならぬ事を為すため、最善を尽くす事を誓い合うのだった。
その瞬間だけ、何故だか不思議ともっと安心感が増えた…ような気がする楓であった。


ルクス「順に12時、5時、8時方向から魔物がきます!
    牽制は私たちが務めますので、先程と同じようにロンク様とラト様は」
ロンク「ラトに上空へ投げ飛ばしてもらって」
 ラト「ロンクに弓矢で倒して貰えばいいんですよね!」

 4人にまとまった事で、周囲の魔物達からも注意を引けたのか一斉に襲いかかってくる。
ルクスはその到着順を予測し、ラトがテンポ良く魔物を上空へ投げられるように誘導する。
しかし、あくまでルクス自身は司令塔として動くので、誘導の実働部は楓が担当するのだが、

  楓「ねーねーラト、これのなかみってなに?たべもの?(゚ヮ゚*」
 ラト「あっあっ、開けちゃダメです、食べ物でもないですからーっ!」
  楓「なーんだ…。えいっ(゚、゚*」小足ゲシッ
 ラト「──ふっ!!」ギュッ、グルン、バッ!

 その楓とラトが、緊張感のなさそうな会話を交わしながら、華麗にルーチンをこなしていく。
襲いかかってくる魔物に対し、やけに対応の早い小足で体勢を崩させると、
そのできた隙を縫うように掴み、回転で遠心力をつけ、思い切り中空へと放り投げる。
彼女により打ち上げられた魔物は、撃ち漏らすことなくロンクが華麗に弓矢で撃破していく。
つい先ほど共闘をしだしたばかりとは思えないチームワークで、襲い来る魔物は次々倒されていった。

ロンク「すごい…二人でてんてこ舞いだったのが、こんなスムーズになるなんて」
ルクス「勿論です。こう見えて私、ちょっと訳ありの宿屋の女将なんですから♪
    でもロンク様の弓矢捌きも特別素晴らしいと思いますよ?」
ロンク「こんな可愛らしい女将さんにお褒めに預かり、とっても光栄、だねっ──!」ギリギリ、ヒュッ

 一方のルクスとロンクも、会話こそしながらも魔物を撃破していく。
ロンクに至っては、ちゃんとルクスの顔を見ながら話しているのにも関わらず、
弓を引き、矢を放ち、的確に魔物を仕留めている。相当な熟練者である事が伺えた。
それ故…ルクスは、上空で無慈悲に魔物を仕留めていくグリッドの姿が気になってしまう。

ルクス「あの、ロンク様。大変お聞き苦しいかと思いますが、グリッド様は……」

 数日前にカエデ達をこの祭りに参加させる要因となった、件の手紙の内容。
そもそも、それを伝えに来たのがロンク本人であった事をルクスは聞かされていた。
だとすると本物の王族である彼と関わりがあるグリッドも、その王族に連なる可能性が高い。
もしそうだとしたら、この争いの発端は、もしかして本当に……。
…という、ルクスの思考が反映されてしまった発言を、ロンクはどう答えるか迷いあぐねる。

ロンク「えっと、そうだね。実際僕とグリッドは良い友人同士ではあったよ。
    今は僕の立場と、僕の大切なヒトのラトを巡って、こんな醜い争いをしているけど」

 ロンク自身、上空のグリッドとラトを交互に見ながらそう答えた。
自分の状況を説明してはみたものの、恐らくルクスが訊きたい部分はそこでないのだろう。
それが分かった上で、ロンクは自らの置かれている状況を素直に話す事にした。

ロンク「でも、どうしてこうなったのかは僕にもさっぱり分からないんだ。
    どうしてグリッドが、何を考えてこんな事をしているのか」
ルクス「そう、ですか……」
 ラト「──ロンクーっ、いくよーっ!」「いっけー!ヾ(>ヮ<*ノシ」

 ふと、話しこんでいる所にラトと楓の声が二人の耳に入り込んできた。
そして頭上高くへ放り投げられた魔物に対し、ロンクは素早く弓を引き絞り射抜いていく。
ルクスも、話へ意識を逸らしていた事を反省するように頭をぶんぶん振って紛らわした。
一連のルーチンも済んだことで、前線に立っていたラトと楓が二人のもとへ駆け寄ってくる。

 ラト「ロンク、ナイスファイトだよぉ!」
ロンク「ん、ラトもナイスファイト。大変だけどもうちょっと頑張ろうね」
 ラト「えへへぇ…♡////」

 特にラトは、真っ先にロンクのもとに行き、彼をねぎらう。
対するロンクも、彼女をいたわるようにその頭を優しく撫でた。
撫でられた事が余程嬉しかったのだろうか、ラトは甘い声で撫でらている。
それを見て、楓とルクスも微笑みつつ、ふとグリッドの事を思い出していた。
こうしてグリッドとその彼女も、常にイチャイチャしていたような気がして。

  楓「がんばろーな、ルクスΣG(゚、゚*」「…はい!」
 ラト「ふふ…♪ そういえば、楓のお姉さんとトヨリっていう人は…」「おねえちゃん!(゚ヮ゚*」
ルクス「あの人達は今、お城へ侵入して、あの大臣と対峙している思います」
ロンク「Σえっ城に侵入? というか大臣と対峙…って荒事じゃないよね?!;」
ルクス「えっと……ほ、保証はしかねると言いますか…;」

 改めてこの事態を打開する気概を持ちなおした二人に笑顔で返したラトが、ふと質問する。
それに対して「城へ侵入し大臣を襲う」という風に取れる内容が帰ってきて、ロンクは大層驚いていた。
ルクスはふと思う。荒事というか、快楽主義者というか。カエデの性格では穏便には済まないかもしれない。
富寄利は常識人枠にいるようで、実は変人の部分はあるし、今回の件で思う事もあるだろう。
そんな事を考えていたら、思わず「この配置を快諾して良かったのでしょうか…?」と無意識に呟いてしまった。

 ラト「きっと大丈夫っ、何事も為せばなるよぉ!」グッ
  楓「そーだな!なせばなる、なせーばなーな!(>ヮ<*ゞ」

 それを聞いたか聞いてないかは分からないが、ラトは元気一杯に励ます。
釣られて楽天家の楓も同調してよくわからないことを言っている。
が、それはそれでロンクは可愛らしく思っているのかニコニコ笑顔を湛えていた。
実際ルクスカエデ達が不安ではあるが、最終的に何とかなる気がしたのだった。

ロンク「よし…それじゃあグリッドに負けないよう、どんどん戦果をあげよう!」

 ロンクの一声で全員が改めて頷き直し、再び戦闘の構えを取る。
その一糸乱れぬ連携に、周囲の魔物たちは一瞬たじろぎ、周囲の冒険者たちは関心を寄せていた。




メッシュ「こうなったらヤケです、大臣の阿呆をふんじばってやりましょう!」
 カエデ「ククク、その息だ。目に物見せてやろうじゃないか」
 富寄利「…さてはお主、普段からその大臣とやらから苦労を掛けられているで御座るな…?」

 一方その頃。
カエデ富寄利、それにメッシュの3人は、戦場になった道中を駆け抜け、ノースファレス城へと急ぐ。
各地で参加者達が持つ武器の斬打音と魔法の炸裂音、その余波をギリギリで回避しながら、
立ちふさがる魔物を適度にいなし、その大半は上空から降る矢の雨で撃破されていく。
無理やり連れてきたメッシュも、何故か息巻いて反逆精神に目覚めている。
だがそれぐらいで丁度いい。下手に疑問に思われては、事が思うように進まなくなるだろう。
上手く持ちあげて、利用するだけ利用させてもらう。…カエデはニヤリとしていた。

メッシュ「──着きました。 門番兵、私です。大臣補佐のメッシュです!」
 門番兵「みりゃわかりますよ、メッシュ大臣補佐。その瓶底眼鏡は貴方しか居ません」
メッシュ「良いでしょうこの眼鏡、御洒落でしょう。…じゃなくて!
     ともかく非番ですが訳あって城内へ入らせて頂きます」

 そうこうする内に、壮大な造りのノースファレス城正面、巨大な城門前に到着した3人は、
その警護に当たっている門番兵と直面。メッシュがまず先にと門番兵の説得に入る。
どうやら彼は顔が広いらしく、門番兵も何故かやれやれと言った具合の対応を取っている。

 門番兵「どうせ大臣のやらかしの事後処理でしょう? さぁ中へどうぞ」
メッシュ「うぐぐ…とても納得いきませんが今はいいでしょう、さぁ中へ!」
 カエデ「お、じゃあ失礼しまーっす」富寄利「お邪魔するで候」
 門番兵「──あちょっと、そこのお2人はどう見ても部外者でしょう、駄目です」
メッシュ「なんて頭の固い!……でも普通に考えたら、そりゃそうですよね」

 あっさり入城許可が取れた…と思いきや、メッシュの後を続こうとする2人を門番兵は止める。
まあ普通はそうだろう。いきなり非番の偉いさんが怪しい人物を2人も連れ込むなら、尚の事だ。
メッシュも普通に「そう言えば」という顔をしている。この現状に、相当カンカンなのだろう。
だが今はこの場でもたついている暇はない。どうするべきか迷いあぐねていると…。

 富寄利「ちょいと失敬…お主の護衛武器、それはハルバードに御座るな」
 門番兵「はい? ええまあ、そうですけど」

 ここで突如として富寄利が会話に割り込む。

 富寄利「いわゆる『ポールウェポン』に属される長柄武器に御座るが…。
     お主、その使い手として相当の熟練者とお見受けするに御座るよ」
 門番兵「へ? …うーん、まあ確かに、扱いの難しい武器ですけど…」

 こんな所で、突如として富寄利の持病…もとい武器うんちくが急に始まってしまった。
一体何が始まったのかと、メッシュは目を白黒させて混乱している。
カエデも何度かおなじ場面に遭遇しているが、今は急いでいる。さて何時やめさせるか──。

 富寄利「先端の独特な形状は、様々な場面にそれぞれ対応する形態に御座ってな、
     これ一つで、斬る、突く、引っかける、叩く…大体の行動がこの一品で全て賄える」
 門番兵「そうですね、この武器の訓練では貴方の言った事柄をよく修練しますが…」
 富寄利「しかしそれだけ多用途になると、その武器の使用者は熟練者で相違ない。
     お主のハルバードの使い込み具合を見るに……相当の鍛錬を積んだので御座ろう?」
 門番兵「……分かって、貰えるんですか?」
 富寄利「当然に御座る!お主のようなハルバードの使い手、そうそう居らぬよ!」

 捲くし立てる訳でもなく、しかし早口でうんちくを垂れ流しながらも門番兵を称える富寄利
それに気を良くしてか、門番兵の態度が緩和され警戒度が薄れていく。

 富寄利「恐らくお主が門番という重要な役職に就いたのは…。
     そのハルバードを扱おうという志が、お主に強く味方しておるので御座るな」
 門番兵「…ハルバード、お前…」
 富寄利「お主が強くなりたいと願い、その子と共に困難に立ち向かう事で、
     確実にその子もお主の力になりたいと、力を貸して貰えるで御座ろう。
     拙者には分かる…お主とその子の、切っても切り離せぬような、強い友情を…!」

 …話がこじれてきてる。というより、何故か妙に富寄利に馴染みのある話になっているような。
これ以上はよくないだろうと、思わず口を挟みかけたカエデは、ふと気付いた。
富寄利が、門番兵に気付かれない程度に何かを指差している。その指先には……。

メッシュ「えぇ、何ですかこのうんちく話…というかそれどころじゃ」「……ククク」クイッ

 黙ってきいていたメッシュが、とうとう口を挟もうかというタイミング。
カエデは、門番兵の真後ろで無造作に置かれていたもう一本のハルバードを「超能力で掴む」。
当然そちらに意識も行かぬ門番兵は、富寄利の話をかなり真に受けてか、妙に意気込んでみせた。

 門番兵「…よし!ハルバード、君をもっと手足のように使いこなして見せる!
     そして共に国内…いや、全世界に名を馳せるような名のある騎士になってみsヘブッ!!!」ガンッ!!!

 まるで愛しの彼女を撫でるかのように、自らのハルバードを両手に構えた門番兵。
…の後頭部を、倒れこんできたかのようにカエデに引っ張られたもう一本のハルバードが強打。
幸い激突部分は柄部分だったが、金属で覆われた部分だったらしく、非常に痛々しい音が響き渡った。
──当然、激しい鈍痛と衝撃により門番兵は気を失い倒れ込む。愛するハルバードからの熱烈ラブアタックである。

メッシュ「なるほど。こうして気を引いて、油断させたんです。せこ──あ違すごいです!」
 カエデ「…やるじゃないか富寄利。じゃあ城の中へ乗り込むか」
メッシュ「ふむふむ…この二人をけしかければ楽できそ、ゴホン。
     よし!では大臣の部屋へご案内させて頂きます、どうぞこちらへ!」
 富寄利「実はその腰に付けた剣にも、ハルバードとは違った役割が……おろ?
     あ、待って欲しいで御座る!まだ拙者聴いて欲しい話があの剣にあるで御座るよーっ!」

 お話が終わっても、未だ話し足りない様子の富寄利を、カエデは無理やり引っ張って前進する。
メッシュも本音を漏らしつつ、富寄利の転機が聞いた行動に感動してみせながら、先導するように前を買って出た。
目指すは大臣アラクが恐らく居るだろう部屋、その場所を目指して駆け抜けていく──。


 カエデ「ほぉ。流石は城と言うだけあって、内部は中々に豪奢じゃないか」
 富寄利「これで拙者達が不法侵入という罪を犯してなければ、より美しく見えたで御座ろうな…」
メッシュ「まぁまぁ、あのアホ大臣をふんじばって上手いようにさせましょう」

 門番兵をのして城門から一気に侵入を計ったカエデ達一向。
その到着先は、城内の中でも随一の広さを誇るエントランスだった。
見る者を圧巻させる広大さと優美さは、まさに一国の力で造られた、言わば表情そのもの。
特に天井にてエントランスを照らすシャンデリアは、まるで王冠かのような輝きで周囲を照らす。
あまりそう言った物に縁の無かったカエデ富寄利だが、その感想といえばそんなもので、

 富寄利「そもそも肝心の大臣は何処に居るで御座るか?
     急がねばならぬのに、この広い城内を探しまわるのは──」
メッシュ「それについては心配に及びませんよ。何故なら…」

 そもそも、遠目から見ても巨大な構造物だと分かる城の内部で、ヒトを探さねばならない。
様々な危険が伴う中、外ではグリッド対ロンク達の勝負が続いている。
その内容が故に時間はあまりないと言える状態に富寄利の不安が口から出てしまった。
が、メッシュは掛けている瓶底眼鏡を光らせ不敵に笑みを浮かべて見せる。

メッシュ「大臣の考える事ですから、恐らく……」
 富寄利「恐らく…?」 カエデ「……ん。来るみたいだな」

 その視線が投げかけられた先は、エントランスから奥へと続く長い廊下。
何故か光る眼鏡の先に隠れた視線は何を見ているのか、不審そうに何度も双方を見やると、
廊下の奥から、何やら賑やかで騒々しい連中が見えてきた。
徐々に近づいてくるそれらから、遠くて聞こえづらかった内容が聞こえてくる。

 兵士1「大臣、大変素晴らしい演技で御座いました!」
 アラク「…ふっふっふ…」
 兵士2「最初はどうなるか肝を冷やしましたが、上手く行きましたね…!」
 アラク「…ふっふっふっふ…!」
 兵士3「これで我らがノースファレス国は安泰に違いありません!」
 アラク「……ははっ…はっはっはっ…!」

 衛兵であろう兵士複数名に囲まれ、やけにご機嫌な大臣アラクが、こちらに向かって来ている。
だが、そのご機嫌麗しさのせいか、カエデ達の事には全く気付くことなく、高笑いを始めた。

 アラク「あの方の御助言があったとは言え、まさかここまで上手くいくとは…。
     やはりロンク王子には、これ位痛い目を見て貰わねばなりませぬな。
     これで、この国は私の思った通り──」

 そして事もあろうに兵士たちも聴いているだろう中で、何やら確信めいた事を言い出したアラク。
同じく聴いていた富寄利も、何故こうなってしまったのか、何となく察しがついた。
隣で同じように聴いていたカエデも、微妙なあきれ顔をしている。

 アラク「私のお陰で全ては良い結果に導かれるのです、良きかな良きかなぁ!」

 国の重要な発表の場において、突如現れた新王子グリッドと許嫁ラト。
そして婚約を目の前に、本当の王子であるロンクが現れ、会場は大盛り上がり。
こうした場面で、常に先導者となって場を鼓舞してきた人物が彼だった。
……要するに、こんな事態を引き起こしたのは他でもなく大臣アラクが原因である。

メッシュ「──貴方の事ですから、上機嫌になると廊下を歩き回ると思いましたよ、大臣!」
 アラク「はっはっはっは…はっ!? お前は補佐のメッシュ…!? 今日は非番では…っ」
メッシュ「ええ非番でしたとも。貴方が自分の為に、あんな下らない芝居を打つまでは」

 まるで此処に来る事が分かっていたように打って出るメッシュと、それに酷く驚くアラク。
瓶底眼鏡をクイッと上げる仕草をしながら、前へ歩みを進めつつ語り口調になっていく。

メッシュ「元々貴方が今のロンク様に御不満を持っていた事は、私含め周知の事。私も…げふん。
     しかし、その野望もここまで…。我々がそれを打ち砕いて見せましょう!
     主に私の休日と平穏をぶち壊してくれた恨みも一緒に乗っけてやります!」
 カエデ「…後半に私情が混じった気がしたが、そんな事はどうでもいいな」
 富寄利「御座る。そんな事の為にグゥ殿を利用した事──拙者が、成敗致すっ!」

 遂に大臣アラクの前に来て、ビシッと彼を指差したメッシュの勇ましい宣言に、
カエデ富寄利も乗りかかって身構える。特に富寄利の口上は、やけに気合いが入っている。
その耳元に、グリッド富寄利に聞かせた“あの言葉”がフラッシュバックしていたのだから。
対するアラクはというと…。

 アラク「ふっ、これ程の困難も乗り越えねば、この国の為にはならぬのだろうな。
     者共!この不法侵入者達を捕えい!!」
 兵士達「「「…っは、りょ了解っ!」」」

 不敵にもチャームポイントと自称しているらしいチョビヒゲを触りながら、
周りで突然の事態に茫然としていた兵士たちへ、直ちに命令を下す。
多少の混乱はあれ、大臣クラスの衛兵をしている兵士なだけあってか、
あっと言う間もなく、大勢の兵士集団に囲まれるカエデ達。一瞬で不利な展開に。
見栄を切った富寄利だったが、あまりに一瞬の事にたじろぎ、思わず訊いてしまう。

 富寄利「メッシュ殿…こうなると分かっておったなら、打開策は」
メッシュ「……ど、どうしましょう?! 二人をけしかける気しかありませんでした!」
 富寄利「──絶望的という前にお主ぃ!」「ひえぇっ;」
 カエデ「なぁ、あのチビ大臣…もう既に逃げてないか?」
  2人「「ほんとだ居ない(で御座る)!!!」」

 その内容が完全に他人をアテにしていた計画だった事が露呈し、富寄利はメッシュに詰め寄る。
一方カエデは、兵士達の影にいたはずのアラクの姿が見当たらない事に気付いた。
恐らく荒事になる事を見越して、兵力を残して自らは退散を決め込んだのだろう。
だからこそその行動が怪しく見え…カエデの燃えやすい絶妙な好奇心へ、余計に燃料をくべた。

 カエデ「さぁて、あの大臣を追いかけたいんだが……此処を退く気はないんだな?」
 兵士2「当たり前だ、これが我々の仕事なのだからな!」
 兵士3「大人しく投降すれば手荒な真似はしない。特にメッシュ大臣補佐の知り合いのようだし」
 富寄利「こんなのとは知り合いでないで御座る!」メッシュ「こんなのとは失礼な!」
 兵士1「ええい煩い!大人しくせず、抵抗するようなら──」
 カエデ「ようなら…何だというんだ…? クク」

 兵士数名に取り囲まれ、富寄利とメッシュは良い争いをする中、カエデは数歩前に出る。
その足取りは…何故か言い得もできぬ、艶めかしい挙動だった。
唐突だが、彼女のプロポーションはそこんじょそこらの美女には敵わぬ逸材である。
その奇抜な言動を除けば街中の視線を釘付けにするもので、それは兵士とて変わらない。

 カエデ「大人しくしないこの身体を、地下牢の鎖で繋いで…好き放題するか?」
兵士23「「………////」」ゴクリ
 兵士1「馬鹿、そんな色仕掛けに引っ掛かるな!そもそも我らはそんな事をしないっ!」
 カエデ「それはそれでいいのか? 視線が何処に向いているか、本人は分かるもんだぞ…?」ムニュ
 兵士1「く、う……っ////」

 一斉に生唾を飲む音を立てる兵士達。しめたと言わんばかりに煽るようにカエデが次の行動を起こす。
自らその豊満な胸を両腕で寄せ上げて、抵抗の意思を見せる兵士の1人を混乱させてみせた。
実際そのこぼれんばかりの双丘へ、兵士達全員の視線が注がれていることを確信した彼女は、
両腕を上げて更に艶めかしいポーズをとる。上げられた腕に引っ張られたそれは自在に形を変え、ぷるんと震える。

 カエデ「ククク……」
 兵士1「は、は、破廉恥な奴め!まずは貴様から捕縛してくれる!!掛かれーっ!!」
 兵士達「「「うおぉぉぉっ!////」」」

 兵士の1人が掛け声をかけ、他の兵士達全員が鼻息荒く一気にカエデで突っ込んでいく。
それを確認したカエデ本人は、今まで以上のしたり顔で振り上げた両腕をスッと振りおろした、その時。
『バキッ』、天井に吊るされたシャンデリアの根元が、嫌な音を一瞬立てる。
そして──甲高い炸裂音とともに、兵士達とカエデ達の間に墜落した!

 兵士達「「「うおあああああっ!?!?!?」」」
 富寄利「御座るーーーっ?!」メッシュ「うわああああ貴重な我が国のシャンデリアがーっ!?」
 カエデ「煽っておいて何だが…この身体は既に『先約』がいるんでな。お触り厳禁だ。ククク」

 全員の目の前に落下したそれの衝撃はあまりに大きく、兵士達は突然の事態に動転し腰を抜かした。
その裏で信頼性がないだの計画性が云々だのと口論していた富寄利とメッシュもそれそれ尻もちを付く。
カエデはと言えば…惨状を前に、ニヤニヤと両手を広げて呆れのポーズをとる。
艶めかしいポーズの正体は、シャンデリアの根元を両手の超能力でへし折るための物だった。
当然、端から自分の身体を触らせるつもりは一切なかったのである。酷い。

 カエデ「さてメッシュ、逃げた大臣が行きそうな場所へ案内してもらおうか」
メッシュ「そっ損害賠償ものですよ!? …あでも正直大臣に払わせればいいですよね。案内します!」
 富寄利「切り替えが早くて良いのか、私怨が強いのか…拙者もう分からんで御座るよ…;」

 メタメタのバラバラになったシャンデリアと放心状態の兵士達を尻目に、
メッシュが先導し、その後をカエデ富寄利は追っていくのだった。


 アラク「ふぅ…何とか撒いたようだな。
     非番のメッシュがあちら側に居るのもそうだが──」

 ノースファレス城のある廊下にて、ヘロヘロと歩く小さな姿があった。
自らを護衛させていた兵士数名を囮に、窮地からこっそり逃げ果せたこの国の大臣アラク。
余程急いで走ってきたからか、それとも自分の小さな体躯が災いしてか、疲労困憊の様子で立ち止まる。
そして…、

 アラク「──な、何なのだあの二人組は!?
     あんなのは話に聞いていない、このままでは“あの計画”が…」

 人目も憚らず突然大声を出しながらアワアワと慌てふためく。
アラクの脳裏には、あの二人組…褐色長身のウルフ族と異国情緒あふれるドラゴン族が居座っている。
どうやらその発言からして、彼の秘めた何かしらに影響を及ぼすような存在らしく、
それが思わず口から出てしまったようだった。

 アラク「…いえ、私はこの国の未来を担う大臣…これ位の事ではへこたれられぬ…!
     とはいえこのままでは…うむむ、やはりあのお方達に」ヒョイ
 カエデ「ほうほう、あのお方達?」ガシッ
 富寄利「あの計画とやらにグゥ殿が関わってるで御座る?」ズイッ
 アラク「ひっ?!」

 ともかく、持ち前の愛国心で一度落ち付く為にチャームポイントのチョビヒゲを撫でていると、
突如としてその身が軽く浮き上がり、両脇をがっちりホールドされてしまう。
そして彼の顔の両側面から、脳裏に焼きつくあの二人組の顔が迫っていた。

メッシュ「ふふふ…貴方の駄々漏れボイスのお陰でだいぶ深層に近づけましたよ、アホ大臣」

 そして、自身を抱きかかえる者の裏から、今度は見知った声が聞こえてきた。

メッシュ「どうやらこの国を手に入れる魂胆があったようですが、それもここまでです!
     そんな面倒そうで大それた事はさせません!ついでに首謀者も吐いてもらいましょうっ!」ビシーッ
 富寄利「…お主の本音も割と駄々漏れに御座るがな…」
 アラク「──国を手に入れる魂胆? な、何の事だ?」

 まるで名探偵かのように、瓶底眼鏡を持ちあげメッシュが指差し、声高らかに真相を暴いた。
体格の違い、もとい体力差で疲れて止まっていたアラクに、カエデ達はすぐ追いついており、
更に言えば周囲を気にも留めずペラペラ内情を喋っていたので、
カエデがすぐさま近づいて、小さな身体のアラクをそのまま捕まえ抱っこに成功。
その脇を富寄利が固めて、メッシュが今まさにと言わんばかりとポーズを決めた。
だが、メッシュの言う真相に対してアラクは素っ頓狂な顔と声で対応する。

メッシュ「普段から下手な嘘はやめるんですね。まあ今はいいです、
     とにかく今はあの無用な王座決定戦のようなものを止めさせてください!」
 アラク「くっ…は、離せ…!」
 カエデ「離せと言われて離す奴がいるか?ククク、このこの」グリグリ
 富寄利カエデ殿、言動がどちらかと言えば悪役のそれで御座るよ…?
     それよりも大臣アラク殿、メッシュ殿の言う通り、この計画を中断させるで御座るっ」

 メッシュと富寄利がアラクの言う“計画”の中止を求めるも、
彼はそれに一切耳を貸そうとせずに、カエデの腕から抜け出すべく必死にもがきあがく。
カエデはそんな彼を必死に押さえる…というよりも片手を空け、軽くどつき始めた、その時。

 カエデ「ククク……──ん?」
 アラク「ぐぐぐ…ふんっ!」スポンッ

 ふとカエデがそのどつきを止め、僅かに抱っこしている片手が緩む。
抜けだすのに必死だったアラクは無我夢中でその拘束から抜け出すと、地面にべちゃっと落下。
一瞬顔をしかめるも、そのまま逃走を図るべく一目散に走り去ってしまった。

メッシュ「あっアホ大臣!くっ無駄に小さいから抜けだすのも逃げるのも一瞬素早いですね…」
 富寄利「何で離してしまったで御座るかカエデ殿!」
 カエデ「……。いや何、いっそ離した方が“あの方達”とやらの元に案内してもらえるかもな、と」
メッシュ「成程、一瞬のドジかと思いましたが妙案ですね!すぐ向かいましょうっ」

 その様子を見て双方に散々な評価をしたメッシュであったが、すぐさま逃走したアラクを追った。
富寄利も一瞬カエデに詰め寄るも「確かにあの大臣ならで御座るな」と納得し、メッシュの後に続く。
カエデはその様子を見て、いつも通りクククと笑いを洩らすも、
自分の髪の毛に刺さる緑色の羽飾りを僅かにひとなでして、同じように後を追うのだった。


 大臣アラクとの鬼ごっこは数十分に渡り続いた。
スタミナは少ないが、機敏で小回りのきく小さな体躯はカエデ達を翻弄するには十分で、
城のあちこちを駆けずり回り、行く先々でドタバタ騒ぎを引き起こしていった。
だがそれも長くは続かず、遂に3人は彼をとある廊下の隅にまで追い詰める事に成功する。

メッシュ「ふぅ…ふぅ……往生際の悪さは、天下一品ですね…!」
 アラク「はぁ、はぁ…お、お主らの諦めの悪さも、海内無双だな…!」
 カエデ「例え方もそうだが……無駄に仲がいいな、お前ら…」
 富寄利「右に同じくで御座るよ…」
メッシュ「さあ、私に掴まって全てを白状するのです、アホ大臣…!」

 互いに息を切らしながらも、褒めているのかけなしているのか分からない大臣と大臣補佐。
富寄利カエデも、実はそこまで体力に自信がないのでかなり疲弊していたが、
そのやり取りを見て、何故だかよりげんなりしてしまうのだった。
しかしアラクを隅に追いつめた事に変わりはなく、メッシュがジリジリと距離を縮めていく。

 アラク「く……!」
メッシュ「──確保ぉぉーっ!」
 アラク「っ!」シュッ

 万事休すか、という苦悶の表情を浮かべたアラクだったが、
ふとその瞳に何かが映り込んだのか、大きく目を見開いた。
それを知ってか知らずか、メッシュはまるでダイブするかのように彼へ突進する、
瞬間、メッシュの腕をすり抜けるように加速してそれを避けたアラクは、
近場の僅かに開いていた扉の中へ吸い込まれるように逃走していった。
あまりの速さに対応できなかったカエデ富寄利は、

 富寄利「も、もう逃がさないで御座るよ…!」
 カエデ「ククク…!」

 空ぶって壁へ盛大に激突する音を後に、僅かに開いた扉を思い切り開けて中へ侵入する。
そして入り込んだ部屋の内部が、その様子が何かおかしい事に二人は気付いた。

 まだ日中だと言うのに、日差しが入るだろう大きな窓を、洒落たカーテンが締め切っている。
その部屋の中央には長方形の豪奢なテーブルと、その上に置かれた優雅な食器が並ぶ。
僅かに鼻腔をくすぐるのは、香りのよい紅茶と甘みを想像させる茶菓子。
そして……椅子に座りながらも、明らかに此方へ視線を投げかけている、2つの人影。

   ?「………」
   ?「よくいらして下さいました。さぁ、お掛けになって下さい」
 富寄利「えっ、ご、御座る…」
 カエデ「……ふん」

 一方は寡黙に、ただ只管に此方に視線を投げかけている。
一方は物腰柔らかな対応で、入ってきた2人…いや3人に椅子へ座るよう促している。
その声の持つ不思議な感覚に誘われ、富寄利カエデは言われるがまま、着席してしまった。
しかしこれが何かしらの罠である可能性はゼロではない、と彼女が立ち上がろうとして、
その中で開口一番に声を出したのは、真っ先に着席していたアラクだった。

 アラク「……あ、あの、申し訳ございません…!」
   ?「大臣、むしろ謝らねばならないのは此方の方です。ごめんなさいね」
 アラク「へ? い、いえ、私には勿体ないお言葉で、恐縮です…!」

 今までも自らを大臣と称したアラクが、敬語を使ってまで謝罪をする相手。
不思議な感覚の一つである、妙な凄みを感じ取れる相手であることを考えると、
大臣よりも立場の高い…それこそ王族に近しい、むしろ王族の誰かである可能性が高い。
流石のカエデも僅かに身動ぎしてしまう程で、下手に発言できず口を噤んでいると、

   ?「わたくしの名前はラニア。こちらはトリクスです」
   ?「……」ペコリ

 まるで訊きたいのだろうと、カエデ達の方へと向き直り、自ら名乗りを上げた。
最初に自ら名乗ったのは『ラニア』。妙齢の女性グリフォン族で、優しい笑みを湛えている。
同時に紹介された『トリクス』も妙齢の男性グリフォン族。先程から一言も発する事がない。
男性の方はフクロウに、女性の方はモズという鳥に似た姿をしており、
グリッドとはまた違ったグリフォン族という印象を二人に与えた。
だが、それ以上に……。

 ラニア「では単刀直入に。
     貴方達が探している“あの方”、もとい裏で手を引いていた黒幕はわたくし達です。
     見事ここに辿りつくことができましたね、富寄利さん、カエデさん」

 その核心を突くような一言がより一層、富寄利カエデの肝を冷やす。
二人はこの妙齢の男女と知り合うどころか、今まで一度として顔を見かけた事すらない。
忘れていたりだとか、城前広場で見られていたなら或いは、とは思うが、
だからと言って、自ら主犯格を名乗る理由は全く見当がつかない。

 ラニア「何故…というお顔をされておりますね。
     種明かしを行う前に、少しわたくしのお話を聞いて下さいな」


 ラニア「昔、この国はある凶悪な魔物を中心とした群れから、常に狙われていましたわ。
     その魔物の長の名は『ソルガルム』といい、規格外の強さで国を幾度となく窮地に晒したのです。
     そこで昔の王は、一世一代の大規模な部隊を結成し、その魔物を討伐しようとしました。
     “魔物討伐戦”、後に小春招礼祭の一大企画となる魔物狩猟祭の前身ですわ」

 突然始まった昔語りであるが、大臣のアラクを含め、誰しもがその話に耳を傾ける。

 ラニア「その戦いはまさに戦争と呼ぶに相応しい規模で、参加した多くの民が犠牲となりましたの。
     でもそのお陰で、ソルガルムを国の近隣にある森林に追い詰め、封印する事に成功しましたわ。
     …以後、この戦いを忘れないよう、名称を変え国の一大事業にしていったのです」

 その語りが終わったのか、ラニアは喋り終えると一呼吸つけ、紅茶を口元へ運ぶ。
要するに、今城の外で行われているお祭りにはそういう由来があるという事なのだろうが、
ちゃんと聞いてはいたものの、やはりイマイチしっくりこなかった。それよりも…。

 カエデ「私たちは別に昔話を聴きにやってきた訳じゃないさ。それに…」
 富寄利「──どうしてグゥ殿をあんな事に巻き込んだので御座るかっ!」

 カエデが想像した通り、富寄利がテーブルから身を乗り出す勢いで強く立ち上がった。
実際彼女にしても気になっていた。この妙齢の男女がグリッドを巻き込んだのなら、
その目的と理由は一体なんなのか。そして、何を期待しているのか。

 ラニア「……近年、この土地に住む魔物達の活動が活発になってきました。
     そんな不穏な動きの中に、ソルガルムの影が見え隠れしておりましたの。
     例えばそう、そのままの意味で『ソルガルムの影』が出現するようになりましたわ」
 カエデ「…ソイツの見た目って言うのは、中型で真っ黒の二足歩行する魔物か?」
 ラニア「その通りですわ」
 富寄利「そう言えばカエデ殿、この国までの道中で倒した魔物にそれらしき姿が…。
     しかし、あれは拙者達でも難なく倒せてしまったで御座るよ」

 再び語り口調が始まったかと思いきや、その中に紛れていた『ソルガルムの影』にカエデが噛みつく。
カエデ達がこのノースファレス国に辿りつく数時間前、荷車に乗っている間に様々な魔物に襲われ撃退していた。
実はその中に、カエデの言う真っ黒で影のような魔物も含まれていた。
その時は4人で戦略的に倒していたが、話に聞くような凶悪な強さは持っておらず、
さほど危険度の高くない、いわゆるその地域の固有種程度にしか思われなかった。

 ラニア「そう、通常の影自体に大した戦闘力はないのです。問題は──」スッ

 ラニアが一言付け加えると同時に、ふっと手を上げるジェスチャーが入る。
それと同時に部屋の角、暗がりから潜んでいた人影…2人のメイドが素早くカーテンを引き開けた。
軽快な音ともに暗がりの部屋全体に太陽光が差し込み、一瞬カエデ達の視界を奪うも、
ゆっくり光に慣れてきた視界が窓越しに映る城下の風景を映す。…その異様な光景と共に。




 カエデ達がラニア達の元へ辿りつく数分前。
外に残りロンクとラトと共に戦闘をしていたルクスと楓は、
城壁を乗り越え城下町へなだれ込んでくる魔物たちを順序良く倒していく。
そしてその数は少しずつだが、確実に減ってきているように見えた。

  ラト「ふぅ……結構やっつけたんじゃないかなぁ?」
 ロンク「そうだね…。一応討伐数は数えてはいるけど…例年通りならそろそろおしまいかな」

 すっかり馴染んだ4人のお陰でロンクとラトはひとまず一息ついていた。
ロンクが言うには、城下町から魔物を1匹残らず殲滅した時点で祭りは終了になるらしい。
実は事前にルールを調べていたルクスも、街の至る所で待機していた審査員の報告で、
誰が一番魔物を倒したかの調査を行い、表彰式を行う事を知っていた。

 ルクス「かなりの魔物を倒しましたからね、中々良い結果になっていますよ」
 ロンク「そうだね。…けど、念には念を押してもう少し徘徊している魔物達を倒さないと…」
 ルクス「では私が索敵をしますので、全員でその方向に──正面です!」

 とはいえグリッドとロンク達の討伐数は非常に均衡していた。
ここで油断して討伐数で競り負けてしまえば、本当にグリッドとラトが結婚してしまう。
だからこそロンクはより討伐数を稼ぐためにも周囲を見回しだす。
ルクスはそんなロンクの姿勢を見習い、早速RWの力で周囲の魔物を探しだそうとした時、
その4人の正面に魔物が現れた。

  ラト「真っ黒な魔物!今まで見かけなかったけど、この子も倒しちゃおうっ!」
 ロンク「真っ黒……影? 影の魔物って、確か…」

   楓「──みんな、きをつけて…!!」フーッ

 のそりとした動き。しかし、今の今まで正面に居る事に気付かなかった、黒色の魔物。
その姿をルクスは、ここへ来る道中に見たことがあったのだが。
…突如、今までキョロキョロとしていた楓の様子がおかしいことに気付く。
のほほん笑顔の彼女らしくない険しい表情と、全身の毛を逆立てて、低く唸り声を上げている。

 ルクス「か、楓様? 急に一体どうし……──っ!!」

 彼女の見慣れない威嚇のような状態を心配しようとした、その時だった。
ルクスが行っていた索敵に、1匹、また1匹と、引っ掛かる反応が増えていく。
その速度はさほど早くはなかったが、気付けば増え始め、数十秒としない僅かな間に、
4人の周囲はおびただしい黒色の魔物であっという間に囲まれてしまった。

 ルクス「そ、そんな、何でこんな急にすごい数に…!?」
   楓「きゅうにじめんからわいてでたんだよ!」フカーッ
  ラト「楓さんの言う通りです…まるで急に、沸き出てきて……っ!」
 ロンク「影……大婆様から昔聞いてた昔話に、そんな魔物がいるって聞いた事が…!」

 ロンクのいう大婆様という人物をルクスや楓は知らなかったのだが、
彼の表情が明らかに硬く変化している事には気付けた。同時に危険な状況だという事にも。
ラトも不安の恐怖の表情で、ロンクの腕にしがみついてしまう。その身体は震えていた。
明らかな異常事態。しかし、既に囲まれており、今にも襲いかかられそうな状態で、

 ルクス(魔力のシールドを半球状に…でも全方位からだと耐久力が…。
    楓様に一瞬だけでも“使用者仮登録”してもらって…いやでも成功するか…。
    どうする…どうしよう……このままじゃ…!)
影の魔物「───」ヒュッ
 ルクス「………っ」

 ルクスは高速で必死に思考を巡らせるも、有効な打開策が一切浮かばず、
その隙をついて影の魔物が一瞬で距離を詰め、その鋭い爪を振りかぶる。
カエデはその速さに思考が追い付かず、反射的に身構え目をぎゅっと瞑ってしまった、その瞬間。

 ルクス「──………あ、れ?」

 短いようで、長い思考停止の時間。その身に痛みどころか何も起きてはいなかった。
恐る恐る目をゆっくり見開くと、目の前で襲いかかってきていた魔物どころか、
周囲を覆い尽くしていた魔物の影は、ひとつ残らず消滅していた。地面に刺さる矢の数々を残して。

   楓「グリッド!!(゚ヮ゚*」

 あれほど毛を逆立てていた楓が、上空を見上げて嬉しそうな声を発する。
それと同時に、周囲に再び湧きだしてきた影の魔物を矢の雨で的確に片付け、
急いだ風に大きな翼をはためかせ、4人の目の前へと降り立ったのだった。

グリッドルクスさん、怪我はないですか!? 楓さんにロンク、ラトさんも無事ですか!?」
 ルクス「は、はいっ、グリッド様の的確な射撃で全員無事です!」
グリッド「そっか……ふぅ、よかった(^◇^」

 慌てたように無事を確認するグリッドに、ルクスが報告を入れると、彼はほほ笑んだ。
その表情は、かつて宿屋の厨房に立ちご飯の催促を受けていた、その笑顔。
つい先刻に見せた堅苦しいものではなく、皆の知る優しいグリッドそのものだった。

 ロンク「グリッド、これは一体どういう──」
グリッド「ロンク…さっきはごめん!」
 ロンク「んな…っ!?」

 しかし険悪な雰囲気のまま終わったロンクはそうとも行かないようで、
降りてきて間もないグリッドに詰め寄ろうかと向き直ったその時、
グリッドはそんなロンクに向かって、深く深くお辞儀をする。
その行動はあまりに予想外だったのだろう、ロンクはひどく驚いた表情を見せた。

グリッド「だけど今はゆっくり説明をしている暇はないんだ。だから手早く要件だけ伝えるよ」
 ロンク「い、いや、一体どういう訳で…」
グリッド「多分これから、さっきみたいな影の魔物がみんなが予想するより沢山出てくる。
     それをロンク達で退治して欲しいんだ。出来るなら、ロンク自身の実力で」
 ロンク「……お前は、どうするんだよ」
グリッド「僕はこの大元の魔物を倒しに行くよ。多分ロンクも気付いているかもだけど、
     この影を産み出している大元を倒さなきゃ、ずっと影を出されてジリ貧になる。
     だから僕が大元を倒すまでの間、どうか街を守ってほしいんだ」
 ロンク「そんなの…実力が上のお前がやればいいだろ…!」
グリッド「──ロンクじゃないと…いやロンクだから出来るんだ。必ず守り切れるから…!」

 狼狽するロンクを余所に、グリッドは申し訳なさを含ませた決意の表情を見せ、
この場をロンクに任せて自分が親玉を叩きに行くと言いだしていた。
彼がここまで重要な話をしているというのは、逆に言えばこの件に噛んでいる事実の裏返しだが、
先刻見せた苦渋の表情よりも、幾分も信頼できる、強い意志を感じさせた。
それは傍から聴いていたルクスと楓、そしてラトにも伝わったようで、

 ルクス「ロンク様…」楓「ロンク…(゚、゚」
  ラト「…ロンク」
 ロンク「……~~~っ!
     分かった、やってやる、お前じゃなくて、僕がやる!
     この街を、城を守ってやるんだ。次期国王のロンクとして!!」
グリッド「うん、お互い頑張ろう!」
 ロンク「うるさい、お前が帰ってきたらいっぺんはたくからな…!」

 観念したように、もしかしたら逆にやる気に満ち溢れたかのように、
ロンクはグリッドに対して指を差し、高らかにそう宣言する。
それを見て、グリッドは深く頷きほほ笑んだ。それを横で眺めるラトも一緒に頷く。
よっぽどその対応が気に入らなかったのか、ロンクはらしくないそっぽを見せつけた。
満足したのか彼は笑って見せつつも、次はとルクス達に向き直る。

グリッドルクスさんと楓さんは…出来たら避難していて欲しいけど…。
     他の参加者さん達も同じように危ない状況になってるかもだから、
     二人の力で避難誘導とかをお願いしたいんです。いいでしょうか…?」
   楓「まっかせろー、グリッドのいうことはまもるぞ!ΣG(゚ヮ゚*」
 ルクス「お任せ下さい。私たちも、私たちなりに役に立って見せます!」
グリッド「ふふ、期待してますね(^◇^*
     それじゃあ必ず戻ってきますから、待っててくださいね──!」

 一瞬心配そうな顔をするも、ルクスと楓の実力を知っているグリッドは、
彼女二人に救難活動をしてほしいとお願いし、二人もそれを快諾する。
あまりに気持ちのいい返事だったのか嬉しそうに答えると、
一旦別れの挨拶をしてから、翼を羽ばたかせ、勢いよく地面を蹴り高く飛んでいく。
そして高く遠くの空へと消えていった…のを、ロンクは確認してぼやく。

 ロンク「何だかはめられたみたいで癪だけど…。
     ラト、皆の為に…ううん。僕たちの為に一緒に戦ってくれるかな」
  ラト「──うんっ!」
 ルクス「ふふっ♪」

 そして人々の為、ひいては自分たちの為に戦うことを決意し、許嫁のラトに協力を請う。
対するラトは、まるで待っていましたと言わんばかりの笑顔で、それを受け入れた。
ルクス達もその光景を見て頷きあいながらも、周囲に溢れ冒険者を襲う影の魔物達を一瞥する。
その数はあまりに圧倒的で、歴戦の猛者である冒険者たちが、既に劣勢に置かれている。
上手に捌かなければ、死傷者とまでは行かないが重傷者がでる可能性もある。
自分たちの使命に強い使命感を覚えるルクスは、ぐっと両手で拳を作るのだが…。

   楓「…あ!Σ(゚ヮ゚;」
 ルクス「Σぴゃあっ?!//// ど、どうしました楓様っ」
   楓「ねぇルクスグリッドにこれ、わたしわすれちゃった… nn(>、<」

 隣で同じようにフンスーと意気込んでいた楓が、唐突に大声を出してルクスを脅かす。
かなりの声量だったようで尻もちをつくかという勢いで仰け反ったルクスが聞き返すと、
楓がおずおずと言った風に、ルクスにそれを見せる。
それは、グリッドに渡す予定であった小包装であった。
(どうやらぎゅっと握られていたのか、若干潰れているのは見て見ぬフリをした)
しかしそれに一番驚いたのは他でもないラトで、慌ててこちらに駆け寄ってきた。

  ラト「あっ!それはグリッドさんに渡して欲しいってお願いしてたもの!」
   楓「ごめんなさい、わたしわすれちゃった…(>、<;」
  ラト「ううん、楓ちゃんは悪くないよっ! でもこれは絶対渡さなきゃいけないのに…」
 ルクス「余程大切な物なのですね。後を追ってでもお渡しするべきでしょうか?
     しかしグリッド様は、私たちに避難誘導をお願いしてくださいましたし…」

 ラトの言葉の端々から感じる、本当に渡さなければいけない物、というのは分かっていた。
しかしグリッドはわざわざ危険だろうからと、まだマシな避難誘導を二人にお願いしたのだろう、
そんな彼の元へと駆け付けるのは、些か危険行動ではないだろうか、とルクスは懸念する。
何より、実際にあちこちで起こっている戦闘では、既に怪我人と思しき人々が出始めていた。
それだけ影の魔物は大量に出現しており、放置していく訳にはいかないとルクスが悩んでいた時。
──遠方、特に城の方から何やら土煙を上げ、影の魔物を蹴散らしながら、何かが近づいてくる。

   ?「……じー……うじー……!──ロンク王子ぃぃぃぃ!!」
 ロンク「うっ…この声はアラクだね…?」

 声の主はどうやら大臣のアラクだったようだが、何故かその姿は見えない。
そして土煙はごうごうと此方に近づいてきて、楓でもその正体が何なのかがようやく理解できた。

   楓「あー!なんかみたことある、やどやにきたときみたいなやつだー!(゚ヮ゚*」
 ロンク「ううん、あの時の数倍…いや数十倍?もっと多い…沢山の騎士達だ!」
 アラク「お見つけしましたぞ王子! ──我らがノースファレス騎士団、全員集結!」

 ガチャガチャと音を立てる重装甲の鎧から、軽装の防具、様々な武器種を抱えた兵士達が一斉に集まった。
そして一歩前に出る、より装飾の強い鎧兜の頭部で、ヒゲをつまみながら鎮座するアラク。
突然の光景に1人だけ唖然とするルクスであったが、それを知ってか知らずか、アラクは高らかに宣言する。

 アラク「──皆の者、ソルガルムの影に怯むことなく立ち向かえい!
     騎士団としてこの街を、この国を守るのだぁーっ!!」
 騎士達「「「我らが国の誇りにかけて!!」」」

 その一声だけで、騎士団員達の士気は合言葉かのように急上昇。
統率のとれた小隊で別れ、周囲で暴れ回る影の魔物、もといソルガルムの影を各個撃破していく。
そしてその間にも、怪我をして動けなくなっていたり、立ち往生している参加者をみるみる救助していく。
相当訓練を積んだ者達なのだろう、素人が口を出すような場面でないとルクスは思ったが、

 アラク「ふむ、色白のウルフ族と白角のドラゴン族のお譲様方…。お主がルクス様だな!」
 ルクス「えっ、なんで私の名前を…?」
 アラク「あのお方と、貴女のご友人であるカエデ様とトヨリ様からだ。
     困っているだろうから、助力をするようにと。 戦闘と救助は我らにお任せを!」
 ルクスカエデ様と富寄利様が? で、でも、私たちは、避難誘導を任されて……」

 突如として見知らぬ者がこちらの事を知って、あまつさえ手助けさえしてくれる。
何より見えていないはずなのに、まるで『グリッドの後を追え』と言わんばかりの対応は、
ルクスの心を混乱させると同時に、酷く動揺させた。命令を遵守し避難誘導を行うか、それとも──。
そこに、自身の決定権に迷いあぐねている姿を見たロンクとラトが、ルクスのもとに駆け寄ってきてくれた。

 ロンク「大丈夫だよルクスさん。この場は僕たちに任せて」
 ルクス「し、しかし…!」
 ロンク「グリッドとの付き合いは君たちの方が長いから、馬の耳に念仏だろうけど…。
     あいつの事だから、人知れず苦労して…多分窮地に立たされるかもしれない。
     それなのに自分から助けを遠ざけて、困った奴だよ!」
  ラト「それはロンクが言えた事じゃないかもだけどね~」
 ルクス「いえ、そこまで困った人ではないのですが…」

 どうやらロンクもグリッドと浅からぬ付き合いがあるのだろう、王族とは思えない文句が出ていた。
しかしルクスにも思い当たる節はある。彼は非常にできたヒトであるが、あまり此方を頼った事は殆どない。
それは逆を言えば、グリッド自身が何でも1人で解決してしまうとする節がある、という事に相違なかった。

  ラト「でも貴方達が向かう事で、きっとグリッド君の手助けになる事はあると思うの。
     ついでにお願いしたクーちゃ…そのお届け物も渡せるかもしれないしっ♪」
 ルクス「あははは…。 ……」

 楓の手に握られた小包装を指して、万感の笑みを浮かべるラト。何気にちゃっかりしている。
確かに今この場の環境は十分整っている。ルクスと楓が抜けた所で戦局に大差は起こり得ないだろう。
しかしそれでも、ルクスの心はまだ何か腑に落ちないでいた。その正体も理由も何故か分からないまま。
納得しきれない彼女を見かねたのか、はたまたそうでないのか、隣に立つ楓がルクスの手を取る。

   楓「じゃあわたしたちは、なーんにもおしえてくれないグリッドのサポートだねΣG(゚ヮ<*n」

 よく考えると笑顔で自然にグリッドのお願いを放棄していた楓だったが、
その決定、もとい言葉は何故だか今までの物とは違い、ストンと綺麗に胸へ落ちた。
参加者達を助ける事も大切だけど、それ以上にグリッドが心配だった。
…いや、心配もあるが、思い返してみればグリッドを巡ってルクス達は今こんな状況になっている。

 ルクス「──! そう、ですね。そうですよね!」

 ルクスの腑に落ちない心境の正体は、心の隅で無意識にこっそり増長していた不満だった。
『優しくて頼りになるグリッド』という表面を一皮めくって見てみれば、
実際は人に頼らず、相談もせず、全部1人で決めて背負いこんで、
せっかく追い掛けてきた我々に詳しい話を何もせず、今も単独行動である。
…ちゃんと気付いてみれば、何だかむかっ腹が立ってきた気もするルクス
ならば取るべき行動はただ一つ。

 ルクス「行きましょう楓様、グリッド様の後を追いかけて!」「あいあいさー!(>ヮ<*ゞ」

 こうして、ルクスと楓はグリッドが飛び去っていった方向、街の外へと駆け出していった。
楓は届け物を渡す為に、ルクスは身勝手な彼を身勝手に助けるために…。




 ルクスと楓がグリッドを追っていった数刻前。
ノースファレス城内で、妙齢のグリフォン族であるラニアと対峙していた富寄利カエデは、
突如開け放たれた窓の眼下、城下町で起きている異常事態を見せつけられていた。
飛び跳ねるように椅子から窓へと駆け寄る大臣のアラクを、カエデ達も追う。

 アラク「そ、そんな…!」
 富寄利「なんと奇妙な状況に御座るか…!?」

 広がっていた光景には、遠目からでも明らかに異質だと分かる黒色の「何か」の数々。
それも、こうして眺めている間にもそこそこの速度で増殖しているのが分かる。
同時に参加者達との戦闘も続々と開始され、黒色の何かは即座に討伐されているものの、
カエデの目からして、いずれ増殖のペースに押し負けるのは想像に易かった。
そこまで考えついてか知らずか、アラクは酷く狼狽した様子で立ちつくしてしまう。

 ラニア「──始まってしまったようですね」

 一方のラニアは、まるで予見でもしていた…いや、実際に予見してしたのだろう、
座っていた椅子から静かに立ちあがると、窓の元へと歩み寄り、同じようにその光景を眺める。
偶然隣になったカエデは、その横顔に複雑な感情を感じながらも、口を開いた。

 カエデ「国の一大事のようだからこそ、聞いてやろうじゃないか。
     どうしてこんな事態を引き起こしたんだ?」

 その質問にハッとして、富寄利も同じようにラニアの方へと向き直る。
一方のラニアは二人の視線が注がれている事に気付いていながらも、逆に視線は窓へ向けたまま。
やがてそっと、自らの指を視線と同じ方向へと差した。その先に居たのは…。

 富寄利「……グゥ殿?」
 ラニア「ええ」

 空中でホバリングしながら弓を引き絞り、凄まじい量と速度で矢を射るグリッドだった。
彼から放たれた矢の雨は、的確に黒色の何かを打ち抜き撃破している。
相変わらずの精度だとカエデが関心する間もなく、直後に彼は城下町へと降りていった。
その降りていった先を見る事なく、今度はカエデ富寄利へ向きなおったラニア。

 ラニア「私たちが彼に依頼をしたのです。今外で起きている問題を解決するために」
 富寄利「依頼、で御座るか? しかし一体何の依頼を…」
 ラニア「そうですね…まず、問題というのはロンク王子の事なのですが」
 富寄利「も、問題より依頼の内容を──」
 カエデ「…クク、やはり」「やっぱりそういう事でしたかっ!!」

 カエデからの質問を、再びはぐらかすかのように答えるラニア。
富寄利はその返答が納得いかず、自分が一番訊きたい依頼内容を急こうとするも、
それをカエデが制止……する前に、別の声が突如として割って入ってきた。
声の主は『今まさに自分の出番』と言わんばかりに部屋の中央で踏ん反っている。

 カエデ「…そう言えばさっきまで居たっけな」
 富寄利「と、唐突で御座るなメッシュ殿…」
メッシュ「人が壁に激突して気絶していたの放置しておいて、とんだ言葉ですね!?」ジタジタ

 この部屋に侵入する直前、アラクを捕縛しようとして盛大に壁に激突していたメッシュ。
思い返してみれば、今までの重要な話の中に、賑やかし担当だった彼の記憶が無い。
実際、居ても居なくても変わらなかっただろう、とカエデは思うも口には出さなかった。
それに気付いていないが放置されていた事に身体全身で憤慨するメッシュであったが、
少し落ち付いたのか、一息つくや否やその立ち振舞いをガラリと変える。

メッシュ「ですが…そんなどうでもいいでしょうと置いといてあげます。
     何故なら今からこの私が、この事件の真相を解明するのですから!」メガネクイッ

 アラク「な、なんとぉっ!?」
 富寄利「…ごごご御座るーっ?!」
 カエデ「…えぇ…」

 驚き方が全く別々の富寄利カエデ、ついでに驚くアラク、黙って場を見つめるラニア。
こうして、突如名探偵かのように高らかに声を上げたメッシュによる、
事件解決ショーが目の前で開催されることとなった……。


 とりあえず全員突っ立ったままで真相を詳らかにするのは地味に大変だと、
この部屋に居た全員は再びテーブルの元に集まり、静かに座っていた。
勿論、外では未だに謎の黒い物体が増殖している。悠長にはしていられない。
それを分かってか、メッシュも真っ先にある言葉を放った。

メッシュ「…では結論から言わせて頂きます。
     グリッドさんは、我が国の王子ロンク様の問題に巻き込まれたのです」
 富寄利「ロンク殿に問題、で御座るか…?」

 富寄利の疑問に、メッシュは「ええ」と静かに頷いて返す。

メッシュ「この国の王子であるロンク様は文武両道、全国民の人望と信頼に厚いお方。
     しかし、我々国政に関わる者達は、彼のとある一面に頭を抱えていたのです。
     それは……彼が様々な面で奥手、もとい自信の欠如にあったのです」
 富寄利「ふむ? 拙者にはそのようには見えなかったで御座るが…」

 メッシュが言うには、ロンクは自らに自信が持てないでいた、という事だった。
しかし、この事件に際して彼とカエデ達が互いに関わった時間は短いものの、
そのように感じた事はなかった、と富寄利は今までの事を思い返しながら返事をした。
が、それも違う方面からの返答が帰ってくる。

 ラニア「大臣補佐の仰ることは事は本当ですわ」
 アラク「ら、ラニア様!?」

 今まで事の成り行きを見守っていたかのように黙っていたラニアが口を開いた。
対して何故か慌てふためくように落ち付かない大臣アラクだったが、彼女はそれを無視し続ける。

 ラニア「彼は自らがこの国の王座に就く自信が無かったのです。
     本来ならば既に国王となり、国民達を導くべき立場であったのですが…」
 カエデ「…だから“こういう事態”を引き起こした、と」
 富寄利「おろ? こういう事態、で御座るか?」
メッシュ「そう。ロンク様を差し置いてグリッドさんを新たな国王陛下とし、
     その妃にラトさんを招いて、国民達や旅行者達の目の前で大々的に公表したのです。
     ロンク様が心の底から大切にしていたものを、目の前で奪う形を装って…」

 何事にも自信が無かったロンクは、そのせいで王座に就く事も出来なかったのだが、
今日の出来事で大切に思っていた自ら王位と、自分の許嫁であったラトをグリッドに奪われそうになる。
その結果、彼は民衆の面前で国を相手に啖呵を切った。自らの大切なものを守るために。
引いては──自らの立場である王座に就任するために。

メッシュ「今回の騒動の計画をラニア様からお聞きになった大臣のアラクは、
     実際に計画を実行に移し…見事ロンク様は、計画された通りに動いて下さいました」
 アラク「……メッシュの言う通りだ。あのお方…ラニア様から今回の計画をお聞きになった時、
     はじめは耳を疑うばかりであったが、ラニア様が言うならば、と──」

 計画の内容が概ね正解で、また同時にラニアが口を開いた事で、同じように大臣のアラクも喋り出す。
騒動の発端と思われていたアラクは、この黒幕を名乗るラニアの命によって動いていたのだった。
こうして計画は見事に達成され、今まさにロンクは王位と許嫁のラトの為に魔物狩猟祭に参加している。
アラクはその様子を「王子があんな立派にされて…大臣は感激で御座います…」とコッソリ涙を拭いていた。
富寄利もまた、その内容を理解できたのだったが、最後に一つ改めて訊き直す。

 富寄利「つ、つまり……グゥ殿は別に王族でもなければ、ラト殿とご結婚をする訳ではないと…?」

 その僅かに残った一抹の不安が言葉になったような声に、ラニアは初めて見せる優しい微笑みで返す。

 ラニア「ええ。グリッドは王族でもありませんし、ラトさんと結婚するなんて破廉恥はしませんよ」
 富寄利「よ………よかったで、御座る…」ヘタリ
 カエデ「ククク…良かったじゃないか富寄利」ポンポン

 へたり込んだ富寄利の様子が、まるでヒロインか何かに見えて可笑しくなったカエデは彼の肩を叩く。
だがカエデもようやく確信を得た発言を聞けて、内心安堵もしていたのだった。
そんな二人の様子を微笑ましく、また嬉しく感じたラニアは、それを心の内にそっとしまい込む。

 ラニア「さて、では仕上げに…大臣アラク」
 アラク「──はっ」
 ラニア「城下町にて発生している『ソルガルムの影』との戦闘に介入し、ロンクの助けとなりなさいな」
 アラク「了解致しました! この大臣アラク、全身全霊を以って王子の助けとなりましょう!」

 言葉端を鋭くしたラニアの点呼に、アラクはその小さな身体でぴしゃりと敬礼する。
そして彼女の言葉を快く了解した彼は、まるで小さな弾丸かのように部屋を飛び出して行った。
余りの速さに会話を挟めないままでいたカエデ富寄利だが、それでも彼は立ち上がる。

 富寄利「拙者達も、ルクス殿達の元へ行かねばならぬで御座るな。助太刀せねば!」
 カエデ「論外だな。だがその前に…「──失敬!」うん?」
 アラク「王子のご友人方、先刻の非礼を詫びたいのだ。その場は改めて設けたいのだが…」

 富寄利の言葉もそうだが、その前に…という所を遮られる。
その声の主は、煙を撒きあげ気付けば目の前まで戻って来ていたアラクだった。
事態が明るみに出たことで、態度を改めてた彼はわざわざ戻ってきて、
二人に対し謝罪の場を設けたいと申し出たのであった。

 カエデ「あぁいいさ別に。何となくそうじゃないかと思っていたからな…ククク。
     ただまあ、そうだな…」

 律義な奴だなと対するカエデは、面白可笑しい状況に置かれて満足していたので、
その必要性は感じなかった…が、一応念を押す為にあることを付け加えた。

 カエデ「ロンクと一緒に居る私たちの仲間も一緒に助けてやって欲しい」
 アラク「その程度なら安い用だ。代わりに、その容姿と名前を教えて貰えるか」
 カエデルクスと言う白角の幼いドラゴン族と、楓という私より色白のウルフ族だ」
 アラク「あい分かった。ではまた後ほど!」
 富寄利「拙者達も直ぐに後を追うで御座るよ~! …さぁカエデ殿」
 カエデ「まあ待て富寄利。まだ訊いていない事がある」

 その申し出も快く引き受け、改めて大臣のアラクはその場を跳んでいくように後にした。
凄まじいやる気だと感心するが、それで終わらせてしまうにはまだ早いと考えるカエデは、
急く富寄利を制止させながら、今度こそとラニアの方を向く。
そしてラニアもまた、カエデの言葉を待つように向き合っていた。

 カエデ「ロンクを奮起させる為にグリッドを当て馬にした、というのは検討がついた。
     あいつが今も民衆の前で戦う事で、結果として王位継承の地位が確立していくのもな」
 ラニア「ええ、貴女の言葉の端々から伺っておりますわ」
 富寄利「そ、そこまで考えていたで御座るか…?」
 カエデ「ククク。 ……だが、未だに解せない部分がある」
 ラニア「あらなんでしょう」

 急ぎたいのに何やら場の雰囲気がおかしい事に若干とまどう富寄利を余所に、
カエデとラニアの間には迫真めいた雰囲気が漂い始める。

 …心優しいグリッドなら、友人であるロンクの現状をラニアから聞いて、
ロンクや自分達に対して、あんな気魄迫る態度で演技に臨むのも理解はできた。
ただカエデにはそれだけに収まらない、何か『のっぴきならない理由』があると推測する。
彼にそこまでさせる何かとは、一体何なのか──?

 カエデ「………」

 質問をする風に見せかけた、カエデの癖である、思考時間。
様々な憶測や可能性を加味しながら、その内容を口に出そうとした、その瞬間だった。
あまりに神掛かったかのような、言うなれば天啓のような閃きが、彼女の脳で弾けて産まれた。
『直接グリッドに訊いて、皆の前ではずかしめれば愉しくないか?』
…と。

 富寄利「……カエデ殿? カエデ殿ー?」
 カエデ「──クク、ククク…。
     気が変わった。全部終わった後、皆の前でグリッドに訊く事にした」
 富寄利「Σえぇ!? 何故に御座るか!?」

 黙ったままのカエデを心配して覗きこんできた富寄利だったが、
残念だが当然のように、彼にこの愉悦はまだまだ伝わらなさそうだった。
グリッドいぢり隊の名が泣くぞと付け加えた所、富寄利は「そんなで御座るぅ!」とショックそうに叫ぶ。
その光景が可笑しかったのか、ラニアはくすくすと笑いながら、

 ラニア「まぁまぁ、なんてお酷いヒトですかしら」
 カエデ「それは恐らく『お互い様』だと言ってやろうか? ククク…。
     よし富寄利、私たちも先を急ぐぞ」
 富寄利「そ、そんな、どういう事で御座るか!? 拙者にもご教授願うに御座るよーっ!!」

 何故か満足してしまったカエデは、状況の飲めない富寄利を連れて、ラニアを一瞥もせず部屋を後にした。
騒がしい声が遠のいていく中、残されたラニアと、黙ったまま…しかし笑顔を称えて佇むトリクス。

 ラニア「ねぇあなた。きっとこれなら、あの子も大丈夫よね?」
トリクス「──ああ」コクリ

 あの子には、これから恐らく辛い経験をさせるかもしれない。
もしかしたら、心を打ち砕かれて、望まれない道へ進んでしまうかもしれない。
だが……確実に問題にはならないだろうと、二人はおなじ確信めいた気持ちで頷きあった。
そしてあの子の進む未来に幸があらん事を、強く願う。
そんな二人の両耳に付けられた宝石が、淡くも強く輝くのだった──。


   ?「───」
 ラニア「…ええ、貴方の質問にも、答えねばなりませんね」



最終更新:2022年08月28日 00:38