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オープニング案A

ああ。希望など最初から無かったのだ。
この世界はどうしようもなく歪みきっていて、絶望に毒されている。
他ならぬこの私も、既に絶望の底に堕ちてしまった。
悲しみの向こう側に待つのは悲しみでしかないのに、私は侵された。
絶望した私は新たな絶望へと昇華。

新しい殺し合いを始めましょう?
全ては愛するお兄ちゃんの為に。悪鬼羅刹に成り果てましょう?
青木百合。さあ―――――『DEAD OR LIVE』を始めなさい。

私に救いの未来がないことは分かっています。私は、ただお兄ちゃんと幸せに生きていきたかっただけなんです。どうか神様。私を、助けて。いいえ、違う。
『私たち』を―――――――――――――助けて。
今の私はとても醜い。壊れて汚れて、地獄の亡者のように見苦しい。
もし私を、救ってくれるのなら。お兄ちゃんとの幸せが帰ってくるなら。

―――――私は貴方の、玩具になっても構わない―――――


『その願い、聞き入れた』


暗い闇の中。
自分の深層心理に声が重々しく響いて。
意識が墜ちた。
立たなくちゃ。お兄ちゃんを目覚めさせるために、悪にならなきゃ。
なのに私の体からどんどん力が抜けていって。
愛しい兄。

今はもう物言わぬ人形になってしまったお兄ちゃんに手を伸ばす。
あの温もりが恋しい。
あの笑い声が恋しい。
あの幸せが恋しい。
あの他愛ない日々が恋しい。
あの希望に満ちた世界が恋しい。
何もかもが恋しくて悲しいのに、私の手はお兄ちゃんに届かずに。
全身の力が抜けてもう指一本動かせなくなってしまった。
目まで見えなくなっていく。視界が霞む。大好きなお兄ちゃんが消える。

―――――あれ?消えた?

最後にそんな疑問を抱いて、私の意識は真っ黒になった。



あれ?私は何でこんな場所に居るんだろう。
さっきまでお兄ちゃんと居た空間とはまるで違いすぎる。
大ホール。そういえばいつかの頃にオーケストラを見に行った時もこんなホールだった気がする。現にステージ中央には大きなグランドピアノが配置されていて、優美な旋律が奏でられている。綺麗な演奏、と私は思ったけれど、ちょっと暢気過ぎたかもしれない。
この状況。私には、凄く見覚えのある状況だった。

ホール内には私の他にも老若男女問わず沢山の人々が溢れていた。
座席に座ったまま、皆三者三様の表情でピアノを演奏する者を凝視している。
顔全体を怒りに歪めている者。
涙を流して絶望の表情を浮かべる者。
何かを悟ったように目を閉じる者。
何も表さない者。
歓喜に満ちた表情をしている者。
状況を理解できず間抜け面を晒している者。

『演奏者』の演奏は続く。
何故野次が飛ばないのかと思えば、どういう仕組みか声が出せない。
黒衣に身を包んだ長身の男は演奏の手を緩めることなくその顔を客席に向けた。……………目が合った。合ってしまった。全身を走る悪寒と、まるで猛獣に睨まれたような恐怖。
曲の流れが加速する。終わりへ向かっている。
まるで私の姿を確認して満足したかのように、曲が終わる。

演奏が終わって、男は椅子からゆっくりと立ち上がる。
まさにプロの音楽家のように、客席の私達に一礼してみせた。
頭を上げて客席の顔ぶれを見渡すと満足気に微笑み、口を開いた。

「さて。私の作曲した『葬送曲五番・終焉』、お楽しみ頂けたかな」

男の眼には光が宿っていない。光彩が、ない。
この男はきっと今の私と同じもしくはそれ以上に壊れてしまっている。
頭の中に危険信号が流れる。本能がこの男を拒絶している。
素直に怖いと思った。この男は、絶望の塊だ。

「申し遅れてしまったな―――私は楓坂時人という者だ。見ての通り怪しい者だよ」


以後宜しく頼む、と口元だけを歪めて楓坂時人は言った。
楓坂時人。
この男が『今回』の仕掛け人なのだろうか。
愚問だ。楓坂時人は堕ちて汚れた私さえも畏怖させる人間―――。
これほど仕掛け人に適した人材などそうは居ない。


「そうだ、忘れていた。私の可愛い可愛い『相棒』を紹介しなくては」


出ろ、と楓坂がステージ脇、横断幕の内側に向けて言い放つ。
しばらくして、小さな少女が彼の元に駆け寄っていく。
夜の水面のような黒髪、140cmにも届かないだろう小柄な体駆。
可愛らしい純白のワンピースを着ているが、やはり瞳に光はない。色白な素肌と触れれば折れてしまいそうな細身の体はどうしても私に日本人形を連想させた。
右目が黒髪で隠れ、左目だけが見えている。

「この子は私の相棒、楓坂彼方。まあ私の娘と思って貰って構わない」

楓坂彼方がぺこり、と客席に一礼する。
可愛らしい仕草ではあるのに、その濁った瞳が全てを台無しにしている。
彼方を自分の後方に立たせ、再び時人は私達の方を見た。

「君達には私と彼方の計画に協力して貰う。………ああ、心配するな。何も見返り無しで協力しろなどとは言わないさ、それなりの賞品を用意している。少なくとも君たちにはそれで満足して貰えるだろう」

全ては彼方に在る、と付け足し意味あり気に笑う時人。
しかし今の私にはそんな些細なことは気にならなかった。
楓坂時人及び楓坂彼方の『計画』。
それが何に到ることを目的としたかは分からないが、一つだけ予想できる。
当たって欲しくない。少なくとも今の私にとっては当たって欲しくない。
だって、私の右斜め前の座席に見えるあの後ろ姿は――――――!!


『お兄ちゃん』――――――青木林のものじゃないか。


「君達にはこれより、最後の一人になるまで殺し合いをして貰う」


楓坂時人の声だけが、何時までも私の中で反響していた。




参った。
私の心には余りにも重すぎる事実だった。
多くの命を殺めて、その果てに得た勝利。とても苦い、勝利。
殺めた人たちの無念を背負って生きていくと決意したばかりなのに。
何で、また―――――バトルロワイアル、なのよ。

「制限時間の類を定める気はない、精々じっくり楽しんでくれ給え」

狂ってる。
この男はもう救いが無いほどに壊れてしまっている。
………でも、まあ。私の言えた事じゃない。
保身の為に何人も殺した私に、他人の人格を貶める権利なんてない。
だからここは聞く。
戒めに。

私、新藤真紀の犯した罪への戒めとして、聞く。

「しかし説明とは存外面倒臭いモノだな。大方のルールは説明し終えたところだし、次は『首輪』と『賞品』について実演を交えて解説していこう―――――崖鉄平、心機一転。起立しろ」

二人の人間の名前が呼ばれた。
幸か不幸か私の知り合いではなかったが二人の末路は何となく分かる。
時人が黒い金属製の輪を彼方から受け取り、客席に突き出した。


「君達も当然気付いているだろうし知っている者も居るだろうが、こいつは爆弾だ。起爆されれば例外無く何者だろうと即死する―――つまり、こうなる訳だ」


バァァン!!という激しい音がホールに鳴り響いた。崖鉄平と呼ばれた男の首が吹き飛び、そのまま崩れ落ちる。
声が出せない為に悲鳴はあがらないのだが、これが何とも不気味だった。

「済まないな、崖鉄平―――では次に、『賞品』について」

バァァン!!と、二度目の爆発音がした。
『心機一転』と呼ばれた妙な名前の男の首が同じように吹き飛ぶ。
またも断末魔も悲鳴もなく、奇妙に静寂が包んでいた。

「さあ、今ここに心機一転は確かに死亡した。苦しむ間もなく即死だ。だがそれは絶対ではない、まだ『書き換えが可能な事項』だ」

彼方が掌を客席に向け翳す。
―――――そこから先は、私の常識を見事に逸脱した光景だった。
心機一転の崩れた肉体に、爆散した首が寸分の狂いも無く癒着していく。
五秒と掛からぬ内にその肉体は完全に復元され、心機一転は目を開いた。
自分の身に起きた不可思議を理解したのか、心機一転は腰を抜かしたようだ。無理もないだろう。一度首を吹き飛ばされたのに、それを顔の特徴一つ一つまで復元されたのだから。
人間一人を壊すには十分な『拷問』。

「この彼方には特殊な力が在ってね。一人につき三度まで失われた命を戻すことが出来るのだ。理解したか?たとえ大切な恋人が死のうと『それは絶対の事項ではない』のだ」
「お金なら、彼方たちが幾らでも用意します。どんな望みも叶えます」

彼方が初めて口を開いた。
どんな望みも叶える――――これは参った。
あまりにも、魅惑的すぎる。
極端に言えば『バトルロワイアル』をなかったことにしろ、なんて願いも主催側二人が嘘を吐いていない限りは可能な訳なのだから。
その他自分の人生で犯した失敗、不老不死なんて願いも叶えられる。
『絶対』が消えて、新たな『絶対』に書き換えられるという訳だ。
生への執着。
そんなものが一切無い人間さえ、殺人鬼に変えてしまいかねない。

「説明は以上だ。そろそろ始めようか、次なる葬送曲を」
「てんそう、かいし」

客席の人物たちが一人また一人と消えていく。
遂に私の隣の中学生くらいの少女が消えて、私の番になる。
足の先から体が粒子のようになって消えていく。
痛くはなく、不思議と私の心は落ち着いていた。
意識が消える最後の瞬間。薄れ行く私の意識は最後に、


「君達の求める答えは必ず――――彼方に在る――――さあ踊れ、狂え!!葬送曲の終わりに君達の望みはきっと、叶えられるだろう!!」


楓坂時人のそんな声を、聞いた気がする。



【崖鉄平@ろわらじおつあー2nd in 非リレーバトルロワイアル】  死亡

【オリキャラオールスターバトルロワイアル  開幕】




全てが消えて閑散としてしまったホールに、二人だけが居た。
楓坂時人と楓坂彼方。
二人の求めるモノは、まさに彼らの『計画』の彼方に在るのだろう。
濁った瞳に黒髪、黒衣に長身の時人。
濁った瞳に黒髪、白いワンピースに小柄の彼方。

「彼方―――――もうすぐだ、もうすぐ、我々の望みは叶う」
「そうですね、父様。私達の計画の果てに必ず」



「「   希望がある   」」




【楓坂時人(かえでさか-ときと)】
24歳の男性。神父服を基調とした黒衣に身を包み、185cmを越える長身。
瞳は濁っていて光彩がない。
今回の殺し合いの主催者で、楓坂彼方と共にとある願いを叶える為にバトルロワイアルを主催。彼方とは真逆に明らかに人間離れした戦闘能力を持つ。
彼方を『娘』『相棒』と称するが彼方は拾った子である。
彼自身は何も特別な能力を有さないが、力の有効な使い方を熟知。


【楓坂彼方(かえでさか-かなた)】
13歳の少女。純白のワンピースを着用、身長は138cm。
瞳は濁って光彩がなく、色白で細身な為人形のようにも見える。
夜の水面のように綺麗な黒髪を持ち、右目を常に髪で隠している。右目は黒目が真紅に染まっている為、本人が自ら望んで隠している。
楓坂時人の補佐役で、運動神経が極端に低い。体が極端に白基調になり、瞳が紅くなるアルビノ遺伝子の為。しかし中途半端なので左目は茶色。
超能力の類を多数有すが時人の補佐なしでは死者蘇生能力しか使えない。
だが時人の補佐があれば攻撃型の能力を行使することも可能である。

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最終更新:2012年01月04日 16:41