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疾走する思春期のパラベラム『アーキタイプ・ブレイカー』

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   ――――Piece2◇行き着いた原罪(息ついた現在)――――




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眠たそうな瞳とは裏腹に、しっかりとした揺るぎなき決意を宿した、なんともあやふやな男の名前は、丹羽雄二と言う。
既に二時間ほど前になるのか。
さながら(実年齢は分からないが)少年かと見間違うような童顔に青髪を生やしたパーカー姿の男、所謂『マーダー』に出会い、
矢がぶっ刺されていた『死体』に遭遇してから、彼は実を言うと市街地から出ていなかった。
代わり映えのしない町並みを眺めながら、静かに歩き続ける。

理由としては、短絡なものなのだが、彼の最優先目的は一先ず河田遥という、殺し合いには乗ってないであろう絶対的信頼と、胸に抱く名状出来ないなにかを委ねた女の子を探すこと。
その為には、とりあえずは行く先、目的地を決める必要があったのだが、ある程度気持ちを落ち着かせてから考えてみると。

「……ここでいんじゃねえか?」

と、言う結論に落ち付いた。
前回のことを考えると、河田は丹羽を探そうと学校に向かっているかもしれない。
そうも考えてはみたものの、こちら――市街地の可能性だって捨てきれない。
どう考えたって、「人が集まるならどーこだ!」と問うた時、市街地の名前が上位クラスに入るのは明白。
河田が人の集まるところにわざわざ集まるか、と疑問が湧いて出たがそういうことは生憎分からない。
初めて遭った時から片時も離れなかったし、一番最初の遭遇者にして一番最後の遭遇者の殺人鬼以外には丹羽しかあっていないわけだ。
それだけでどうこうと判断するには、やはり決め手にかけるというもの。
そう思い、丹羽は何事もなければ放送の時ぐらいまでいようかな、と決めていた。
無論市街地と一口に行っても広いし、放送後、河田が生きてたとしてその後に市街地で入れ違いになろうとも、流石にそこまでは丹羽の知るところではない。

「……ふ~ん……」

とはいえ暇なものだ。
結果的には実際かれこれ二時間も市街地に留まっているのだから、何をするにしても退屈だ。
通常の彼であったら時間を惜しんで、惰眠を貪るかも(矛盾)しれないが、バトルロワイアルにおいてそれは死亡フラグのそれに近い。
なので、彼とてなにかをしようという当面の目標を掲げた時に真っ先に思い浮かんだのは、物資の調達である。
包み隠さず言うのであれば、不運なことに丹羽の支給品にも大塚の支給品にも、銃など言った銃火器は勿論刀のような刀剣類も存在しなかった。
あったのは、まず丹羽の支給品では――――携帯電話と、お風呂セット(石鹸、シャンプー等)と、何故かコンドーム数十個セット。大塚の支給品には、女性用スクール水着、防犯ブザー。
と、青髪の青年が予告した通り使えるのか使えないのか微妙なところなラインナップであったがどちらにせよ武器の類が見当たらなかったのは痛い。

だからこそ、丹羽にとっては物資の調達という行為はある種必然であった。
といっても物資の調達といっても派手なものではない。
近隣の住宅の一軒一軒粗方探すという、時間があるからこその探索方法をとっていた。
そんな中に舞い下りたのは、彼にとっては、見慣れた物――と言い変えてもよかった代物である。

「……チェーンソー……か……」

大剣、とも見てとれなくもない。
彼は柄の部分をもって、ギザギザと鋭き刃が煌かせる。
明るい赤に染められた機械部を握ると、ずっしりと重く、それでいて懐かしい重さだ。
連鎖的に、このチェーンソーと言うものも知らなかった河田の顔を思い出してしまった。
不思議そうに首を傾げていた、電波系漢字少女の、会いたいと希っている奴の顔を、脳裏によぎってしまう。

「……俺も重症だな……」

眠たげに、かったるそうに、無愛想に。
されど嬉しさを入り混じらせた、そんな不思議な声だった。
彼がその気持ちをなにか、と問われた時、どう答えるかは未だ分からない話。
しかしそれでも、彼の中で恋しいと思う程度には、立ち位置を確保してるのは確かであって。


「俺懸命頑張! ……なんてね…………」


「なんてね」と言う割には。
その瞳から燃える闘志が消え去ることは、ない。
静かに時は流れていく。



 □ ■ □


歩き始めてから一時間ほど経った頃だったか。
彼の身体は、熱気を漂わせるほど緊迫した面を下げ、一軒の住宅街の前で立ち尽くしていた。

(――はぁ、はぁ。……ここ……だよな……)

彼がこの住宅を、色々とすっとばして向かい始めていたのは、銃声が聞こえたからだ。
銃声が聞こえた! → 近づくか! というのも大変危険な思考回路だったが、彼にとっては重大なことだから。
『もし河田が撃たれてなんかしたら』、そう思うと、動かずには居られない。
彼がそこまでの熱血漢だったか、と言われたら彼を知るものであれば首を横に振るであろう。
しかしこのバトルロワイアル。なにもあるのは絶望だけではないのだ。――希望だって、育つ。そのことを忘れては、いけない。
眠たい、確かに今もいつも通りの眠気が容赦なく襲いかかる。――が、この場合の彼にとって、『河田と共に生き残る』という希望は、確かに実っている。
絶望に屈しないほどの原動力になっている。


とはいえども。
彼はただそれだけで我を忘れるような愚か者では決してなかった。
彼の手持ち武器は、チェーンソーただ一つ(今まで回った家で見つけた武器と言えばこれと強いて言えてカッターぐらいなものだった)。
相手が銃を所有していることは分かりきっていること。
そんな中で、堂々と突っ込んでいくのは自殺行為。
……まあ、一回は自殺行為をして見事死んだ彼でこそあるが、いや。そんな彼だからこそここは慎重に出るべきだ。
自分にそう言い聞かせて、玄関の陰にひっそりと隠れ、こっそりと盗み聞きを試みる。
チェーンソー片手に、人家に耳を傾けている姿は傍から見たら不気味の一言だが、そうはいっていられない。

どうやら彼らが話に講じている場所は玄関からも近いらしく微かながらに声は聞こえた。
ただ内容までは聞きとれない。もどかしさが彼の本能をくすぐって、徐々に裏庭の方に体は動いていき、

(――ここだ!)

とうとう彼はその場所に辿りついた。
ガラス窓から、こっそりと顔を覗かせる。
そこは見れば居間と呼べるような広く設計された部屋だ。
見たところ、今まで見てきた家の法則に則ってると考えると、そこはリビングだろう。と丹羽は結論付けて。
改めて、その部屋の惨状を観察する。――見る――観る――視る。
その末で出てきた感想としては、自分でもびっくりするぐらいにあっさりとするもので。

(――――狼? いや、そんな場合じゃないか……。……つか人が死んでる……?)

丹羽が見たときには、その狼は既に退散をしようとして、うつぶせに伏せている女の子は血が流れていない
……いや、流れてこそいないが、血の海によってそれが判断を悩ませる。……しかしその近くで倒れている青年は、明白に死んでいることがわかる。
あの狼が殺したんだろうか? とまで考えて、ようやく気付く。

(……っ! まだ生きてる!)

青年――鬼一樹月は、虫の息とはいえ一命は取り留めて――違う。
残り僅かの、風前の灯火をしっかりと灯している。
もう、僅か。
あと数分と経たずに消え失せそうな、繊細な、或いはそんなことなどもはや気にしなくていい脆弱な命。

(また……俺は……目の前で)

思い返すは、一番最初に出遭った、早野と、既に亡き者とされていた大塚の姿。
今も、また自らの前で人が死のうとしている。
――前回の殺し合いでは味わうことのなかった体験であり、その分新鮮過ぎて、心に突き刺さる。
後悔や後腐れ。
こんな『気持ち悪い』体験は、彼とて既にうんざりだ。
――そして河田をもし、こんな気持ちにさせてしまったとするなら、それは途轍もない後味の悪さが舌に残る。

そんな中で、彼は聞いた。
静かに響く、不思議と脳内に響く、懺悔――辞世の句――最期の言葉。
丹羽は名前も知らない、けれど恐らくは無念の内に死んでいくのだろう、そう思わせる儚げな声。

「ハァ……ハァ……残念だ……ここで……終わるか……」

息も立てずに静かに、丹羽はその場で男の声に聞き耳を立てる。
丹羽はもう彼については諦めているのか。それとも最期の言葉ぐらいは聞いてやろうと思ってるのか。
彼自身でも気持ちが整頓しきれていないために、よくわかっていない。
彼はどんな人間だったんだろう。
それでも、そんな疑問が、ふと湧き立つ。

将来有望な人間だったんだろうか。
実を言うと極悪人だったんだろうか。
はたは人間ですらなかったのか……。

そんなの知る由もない話だけれど。
それでもただ一つだけ、言えることだってある。


「誰……でも……良い……誰か…………この殺し合いを……人無を……潰……し……て…………く…………れ…………」


この人は、きっといい人だったんだろう。
類をみないほど、命を大切に扱える人間だったんだろう。
丹羽の中で、その言葉は深く、深く刻み込まれた。

壁に背を預けて。
されどチェーンソーは強く握りしめて。
溜息一つこぼすと。


「わかったよ……」


たった今息を引き取った鬼一に向かって、
いや、もしくは自分自身に言い聞かせる形で、静かに。
それはとても静かな声で、しっとりとさせる声で、決して気分を害すそれでもはない。そんな言葉を――繋いだのであった。

ゆっくりと、だけど着実に。
バトルロワイアルは進行されている。
殺し合いは、もうどこまでも後戻りなど出来そうにない。――丹羽雄二は改めて、そう認識した。



 □ ■ □



その後、問題は幾つか――見方によっては山ほど積み残されていた。
死体の処理、埋葬は――以前同じくできないにしろ。
倒れていたもう一人は、そのまま放っておく訳には行くまい。

丹羽雄二は狼……須牙襲禅がこの場から本当に消え去ったのか入念に確認しつつ。
異様に重たい雰囲気の、件の部屋へと這入っていった。
あらかじめ知っていたとは言えれども、この惨状には思わず口元に手を添えてしまう。
異臭が、彼の嗅覚を攻め立てる。
何度嗅いでも、見ても、慣れないものであると丹羽は沈潜する。
その辺りまで思考が行き着いた辺りで、仕切り直してこの部屋の観察を始めた。

改めてみると、散らかりまくりである。
まず、彼が三軒もの家を荒しまくっても手に入れることのできなかった武器――銃器。
それが随分と粗雑に放置されていた。
近くには――これが鬼一を殺した凶器と推測できるほどに、血糊のべったりとついたナイフまで転がっているじゃないか。

無論、ここで彼がそれを拾わないという選択肢を選ぶ義理はない。
元より武器には困っていた身。
銃の入手と言うのは青年には悪いと丹羽も思いつつ、実にあり難い話でもあった。

と、銃とナイフを拾い上げてディパックに仕舞ったところで、
どうしても、視線は青年、鬼一樹月の方へと向けてしまう。
窓越しでは分からなかったが、腹のあたりにざっくりと空いた傷跡。
沈殿する生気なく握られた拳。力などまったく働かせず床に臥せている姿は、痛々しいを通り越して見ていて気持ちいいものではない。
何処か人間とは違う風には見えるけれど、生憎丹羽にはそんな事を考察する余裕などなかった。
既に歩く狼など人外を見ている云々以前に、こんな行く先々で人が死んでいたら、頭が痛くなるのも致し方ないだろう。

「……」

名前も知らない奴。
だけど遺言だけはしっかりと受け取った間柄。
そんな奇妙な繋がりを得た相手を、そのまま放置できるほど、未だ丹羽は冷酷な人間には成りきれていない。
妙なムズ痒さと、今更押し寄せる悲痛の思いのまま。
彼はしっかりと、手を合わせ、鬼一樹月の奮闘を称えて、追悼した。
このロワイアル二度目の追悼。何故だか親戚の通夜なんかでする追悼とはまるで違い、ずっしりと重たい。
本来であれば感じる重さは逆なのではないかと、丹羽自身思うが、それでもこの追悼には、それだけの重さがあったのだ。

そして、数秒。
丹羽も閉じていた瞼を開けると、以前の時と同じく、埋葬なんて出来ないし、している暇は生憎なかった。
短く息を吐くと、落としていた腰をあげて、顔を動かし、それを観察する。

鬼一という青年が作りだした血の湖にひったりと浸かって服は真っ赤に染まっていた。
見るからに幼い体型に、長く、煌びやかな銀髪が外国の人形を連想させる。
柔らかさをイメージするに難くない頬には、口元より涎が一筋零れていた。
どこか満更でもない夢を見ているのか、表情は言うほど固くない。
棒のように細い手足も、決して青白くはなったりしていなかった。健康的な色をしている。

「……うーん」

ならば彼はどうするべきか。
答えなんて、考えるまでもなかった。



 □ ■ □



それからの丹羽の行動を記しておこう。

結論から言うに、丹羽雄二は少女、天王寺深雪を見捨てることを由としなかった。
優しさと言うより、自らの命を犠牲にしてまで誰かを救えるという彼の甘さなのだろうが、なんであれ見捨てることはしなかった。

ならば、どうするべきか。
男の思考は簡単にそちらの方へとシフトしていく。
そのことに何ら疑問も抱かず、適当な筋道を立てて、それを実行しようと、チェーンソーを仕舞い、
血の海で溺れる少女の矮躯を抱きかかえた。

彼の弾きだした方法とは以下の通りだ。
まずは、この住宅ではどうしても鬼一の死体と彼女が再び面向かうのは少女にとっては問題であろう、と考えた丹羽は、少女を別の場所に移そうと決めて、
先あたっては少女を隣の住宅に移そうと目論んだ。
その後の話をするのであれば、どうせ服は血などで汚れるであろうから住宅で漁って手に入れていた彼のサイズとも合う服に着替えて、
できれば少女の服も漁って用意するべきであろうな、とまでは考えついたがその先は生憎ながら未定だ。

その先の予定は、この抱えている少女に定められるものだから。

まあ、何はともあれとして済ませるべきことはとっとと済ましておこうと、足早にその場を立ち去り、隣の住宅へと這入って行く。
おおよその予想通りの構造をした住宅の構造をしていたために、何ら迷うことなく、ひとまず居間に配置されていたソファに置いた。
万が一のことも想定して、少女の手足をタオルできつく縛り、少女、そして青年から奪ったディパックは自分が保管しておくことにした。

眠っている、しかも拘束されたいたいけな少女を前にパンツ一丁でいる。
と描写すると実に変態的な男になってしまうが、今回の場合はそれが通用しない。
とはいえども。
実際変質者にも似ているということで、居心地がいいわけない。
身に沁みついた不快感(というと罪悪感が湧いてくるが)を振り落とそうと、風呂場に向かう。
――どうせだから支給された風呂セットを使うか、何て暢気なことを思いついたが最後。
自然と彼の足は浴場に向かっており(一応追記しておくと、玄関のドアも含めて施錠は済ませてあるので万が一の場合も奇襲される心配はよほどない状態ではあった。だからといっても暢気な話だが)、
シャワーの水や湯が出ることを確認することを思うと、なんとも場違いなお風呂タイムへと変わって行った。

(……ふう)

まあ、場違いとはいえども。
彼にとっては案外、丁度いい休息に、気分入れ替えになったのではないのだろうか。
どうであれ、死体を早々に二体も見て、精神的に疲れていないわけがないのだから。
水と一緒に、疲れを流れ落とすのもまた一興だ。

ササッと烏の行水よろしく、シャンプーも済ませ、石鹸で身体を洗い流すと、
とっとと出てって備え付けてあったタオルで体を拭いて、違う住宅で見つけたなんかオシャレな(と思った)パーカーを着こんで、ズボンも同じく適当にサイズの合うものを穿く。
以前まで着ていた服は、そのままゴミ箱に投げ込む。

「……うん」

と、髪もタオルで拭きつつも、彼はクローゼットや箪笥の並ぶ衣裳部屋へとやってきた。
理由は前述の通り、天王寺の服を探すためだ。
小、中学生ぐらいの体躯の服は、彼は当たり前なのだが持ち合わせていなかった。

「うーん……」

しかし、中々難航する。
彼とて懸命に探すが、なかなかそれっぽいのが見当たらない。
どうやら、家の構造は全く同じであるが、収容されているものは各々違うようである。

強いて見つけたのは、真っ白のワンピースである。
最初こそ、さすがにもっとあるだろう、と考えていたが、次第にいいんだろ、こんなんで。と彼は考え直し、その場を後にする。
途中寝室で毛布も見つけたので、それも遠慮なく頂かせてもらうと、彼女の元に戻り、毛布を掛けておく。
これで身体を冷やされても彼とて後味は悪いものなのだ。

ここまで、滞りなくイベントは終わり。
あとは、彼女の目覚めを待つだけだ。
彼は思考をそこまで行き着かせると、腰をおろして、ぼんやりと河田の事に想いを馳せ、静かに、彼女の目覚めを待っていた。

――。

――――。

――――――。



「ん……んみゅみゅ……あと五分」
「……いやそこは起きてよ」


それから三十分ほど。
ふと、天王寺が寝言を零したと同時に。
さすがに痺れを切らした頃なのか、すっっごく眠たそうな声色で、丹羽も言葉を返して、天王寺の肩を揺らした。
三回ほど揺らした頃に、天王寺も目を覚ましてきたのか。

「……ふみゅぅ?」

寝ぼけているのか、謎の言葉を漏らして、丹羽の眠たげな瞳を覗く。
目をパチクリさせながら、丹羽と無言の会話をする。世間一般で言うアイコンタクト。

「……」
「……」
「……」
「……」

……三十秒ほど経った頃か。
天王寺は一際大きな瞬きをしたかと思うと。
裏返った声で、彼に問う。

「――――! あ、あなた誰!?」
「……やっとかよ……。……俺は丹羽雄二だ」

毛布で身動きがロクにとれない自分の身を護るようにかざしながら。
やっとのことで意識を覚醒させた天王寺を丹羽は呆れながらも返事を返す。
邂逅からようやくというところで、


「――――それで、きみはなんていうんだい」
「……天王寺深雪だけど……」


自己紹介が終わったのであった。
――――波乱があるなら、ここからだった。



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最終更新:2012年12月18日 15:01