昭和五十五年、冬木市。時刻は既に、深夜三時を回っている。
風営法を始めとした面倒な法律が少なく、警察もそう庶民の『遊び』に目くじらを立てていない時代だ。
深夜の都市部は昼間と比べても遜色なく、暴力団や非行少年達の道楽の舞台として大いに賑わいを見せていた。
薬、売春、暴力、恐喝……あらゆる犯罪の温床と化していながら、それを止める者のいない低俗な空間は、きっと朝焼けが見え始める頃までは続くことだろう。
そこは決して、繁盛している店ではなかった。
繁華街の外れでぽつんと営業している、恐らくは戦時中からやっているのだろうが、今ひとつ人気の出る気配のない場末のバー。
だが古風で目立たない外観なだけあって、客層もそう悪くはない。
中には明らかに堅気の人間とは思えない強面も居たが、少なくとも今店内に居る連中は、堅気への礼節を弁えたその道の『プロ』ばかりだ。
彼らは他にも自分の身の程と、こういった遊び場での相互不干渉。
そして何より、裏の社会の常識というものを弁えている。
この世には、触れてはならないこと、深入りしてはならない闇というものが至る所に存在する。
触らぬ神は祟らないし、藪を突かなければ蛇は出てこない。
この原則を破った者は、痛い目を見るし長生き出来ない。
だから彼らは、君子であり続ける。危うきに近寄らず、崩れかけの桟橋は渡らない。
―――彼らが今、意図して視界に入れないようにしている『藪』。それは、二人組の男女だった。
男女といっても、女の方は幼い子供だ。
見た目は十代になりたてくらいだろうか。
中学校に上がるには、恐らくまだ早い。
星と碇のマークが刺繍された白い帽子が特徴的な、どこか独特な雰囲気を持った少女。
その隣で安酒の入ったグラスを傾けているのは、上半身に布を何も身に付けていない、黒髪の青年だ。
バーという場所、午前三時という時間、その両方にそぐわない隣の少女よりも、この男の方が遥かに異彩を放っている。
オレンジのテンガロンハットを深く被り、顔立ちは日本人のものではないように見える。
剥き出しの上半身はよく鍛えられており、格闘家や用心棒も顔負けの肉体美を披露していた。
だが裏の社会をよく知る彼らが真に恐れたのは、彼の直接的な腕っぷしではない。
彼の『眼』だ。
それは、戦いを知っている男の眼。
生き死にのやり取りが延々繰り返される、過酷な戦場を知っている者だけがする眼だ。
いや――それ以上か。
一体どんな戦いを、冒険を経験すればこんな強さを身に付けられるのか。
浪漫や夢の消えた、『大人になった世界』に住まう彼らには分からない。そして彼らがどう努力しても、それを得ることは一生叶わないだろう。
こればかりは、生まれた世界を……もとい時代を恨むしかない。
「しみったれた時代だな、このショウワ?ってのは」
退屈そうに、青年は言う。
それを聞くと、隣の少女は苦笑いをした。
手厳しいんだね、ライダーは――
そう言って、彼女もグラスを傾ける。
……中に入っているのは、砂糖の入ったホットミルクだったが。
「どいつもこいつも、つまらなそうな面してやがる。
ゲラゲラ笑いながら馬鹿騒ぎしてるガキ共も、なんつーか、心の底から楽しそうに見えねえ」
「それは多分、君の居た世界が愉快すぎただけじゃないかな」
ライダーの生まれた世界では、誰もがもっと楽しそうにしていた。
あるかどうかも分からない宝島や大秘宝に思いを馳せて、叶うわけもない夢を酒の席は吐き散らかしては皆でそれを茶化して回ったものだ。
この世界にも、そんな時代はあった。
幻の大陸を夢見た探検家。
地球一周を掲げて無謀な旅に出た航海者。
居もしない怪物を真剣に追い求め、生涯を費やした冒険家。
――かつてこの世界は、子供だった。そこら中に未知と神秘と、夢が溢れていた。
「平和で住みやすいのは間違いないんだろうけどな……やっぱり俺は、あっちの方が肌に合ってる」
だが今は、その全てが狩り尽くされてしまった。
文明の発達に伴って、未知と神秘は駆逐されていった。
今後もこの世界は、どんどん発展し、進化していくのだろう。
今よりももっと、ずっと大人になっていくのだろう。
案外、これからこの冬木で始まる『戦争』が、世界最後の神秘になるのかもしれない。
ライダーは、残りの酒を一滴残らず飲み干して、ウェイターにお代わりを注文する。
それに合わせて白帽の少女も、ホットミルクの追加を申し出た。
「……で。結局、どうすんだ?」
そう問われると、少女は顔を俯かせ、静かに溜息をついた。
彼女も彼も、この世界の住人ではない。
特にライダーは、彼自身も言っているように、此処とは大きく違う歴史を辿った世界の人間だ。
そんな彼らが此処に居る理由は、一つ。遠くない内に始まるだろう戦い――聖杯戦争へと挑み、万能の願望器を手に入れるために他ならない。
だが少女は、今日この時に至るまで、自身の戦争に対する向き合い方を決めかねていた。
聖杯戦争に乗るということは、実質他のマスターと殺し合いをするも同然だ。
サーヴァント同士の戦いだから、それを使役するマスターに危害が加えられることはない……そんな考えを抱いている人間が居たとしたら、その考えは余りにも甘い。
アサシンなんてクラスが存在する以上、マスター狙いを主戦法として動く主従は確実に存在する。
そうでなくとも、正攻法ではとても倒せないサーヴァントを打破するためにも、マスターを落とすことで連鎖的に消滅させる手段を取る者は多いだろう。
自分達がそうならないという保証もまた、ない。
「……昔、私達は……国のために戦ってたんだ」
それは、今から四十年も昔のこと。
今でこそ、この日本は反戦国家だ。
しかしその時代、日本は戦っていた。
世界を敵に回して、小さな国土で奮戦していた。
―――少女は、その戦いに参加していた。
勇猛果敢に海原を駆け回り、小さな体で砲や機銃を扱い。
暁の水平線に勝利の二文字を刻むため、魂を燃やした。
「たくさんの仲間が死んだよ。でも私達もたくさん殺したし、文句は言えない」
戦争とは、そういうものだ。
国の利益のために、お互い大勢の犠牲を払う。
それは何も日本だけに限った話ではない。
あの当時、最大の敵として目の敵にしていたアメリカも、膨大な数の犠牲を出している。
「……割り切ってんだなァ、お前」
「そうでもないよ。……割り切れないから、此処に居るんだ」
頭では分かっている。
仕方のないことだと。
言ってもどうにもならない、覆してはならない一つの結果なのだと心得ている。
――それでも。理屈だけで行動できないのは、人間も……『艦娘』も同じなのだ。
「やるよ。私は聖杯を手に入れて、願いを叶える」
「オイオイ、下手すりゃ死ぬんだぞ?」
「下手を打って死なない戦いなんて、もうずっとしてないよ」
どうせ、一度は死んだ命。沈んだ船だ。
失うことは怖くない。それよりも、取り戻せないことの方がずっと怖い。
だから少女……駆逐艦娘・
Верныйは戦う。
あの時失った、かけがえのない……『割り切れないもの』のために。
「姉妹の中で……私だけが生き残ったんだ」
戦が終わって、名前も変わった。
世界は平和になって、海は何十年後かまで静かになった。
それでも。彼女の中では、今も戦いは終わっていない。
―――暁。雷。電。
なくした家族を取り戻すまで、『響』の第二次世界大戦が終わることは、永遠にない。
「家族……か」
それを聞いた時、ライダーは、自分がこの少女に召喚された理由が分かった気がした。
Верный――ヴェールヌイとライダーの縁は、家族だ。
ライダーも、戦争を知っている。
頂上戦争と後に呼ばれる、空前絶後の大戦争を。
ただしライダーは、戦う側ではなかった。
彼は家族に、救われる側だった。
最後まで家族の優しさを一身に受けながら、幸福の中で死んだ英霊。
それが、彼……
ポートガス・D・エースというサーヴァントなのだから。
「だからお願いライダー。どうか私と一緒に、戦ってほしい」
ライダーは、家族を残して先立った側だ。
ヴェールヌイは、家族に先立たれた側だ。
もしもライダー一人を残して、あの船長や、愛すべき仲間達が全員死んでいたなら。
彼もきっと、同じことをしただろう。
「いいぜ、乗った。嬢ちゃんの願いを叶えるために、一肌脱いでやるよ」
ライダーに、願いはない。
彼は自分の人生に、後悔はしていない。
もしヴェールヌイが聖杯戦争に乗らないというのなら、彼女を生かすために全力を尽くすつもりでいた。
だが彼女が戦うというのなら、話は別だ。
彼は少女の願いに全力を懸ける。
家族のために戦った英霊として、一度は死んだ命を存分に使う。
「――――この『火拳のエース』がな」
【クラス】
ライダー
【真名】
ポートガス・D・エース@ONE PIECE
【ステータス】
筋力C 耐久C+ 敏捷B 魔力A 幸運B 宝具C+
【属性】
混沌・善
【クラススキル】
対魔力:C
第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。
騎乗:D+
騎乗の才能。大抵の乗り物なら人並み程度に乗りこなせる。
それが船であれば、ランクは2ランク上昇する。
【保有スキル】
嵐の航海者:C
船と認識されるものを駆る才能。
集団のリーダーとしての能力も必要となるため、軍略、カリスマの効果も兼ね備えた特殊スキル。
ライダーは四皇『白ひげ』の配下としての評判が強いが、彼自身も海賊団を率いていたことがあるため、このスキルを保有している。
海賊の誉れ:B
船を駆り、浪漫を追い求めたの海原の冒険者。
泥だらけの誇り。
攻撃力上昇と戦闘続行付与の複合スキル。
海からの絶縁状:A
彼はその宝具の効力で、水に嫌われている。
水の中を泳ぐことは出来ないし、水に全身が浸かっている状態では宝具を使うことすら不能になる。
ただしシャワーのような流水では影響を受けず、体の一部分が浸かっているだけなら宝具の行使も一応可能である。
【宝具】
『火拳』
ランク:C+ 種別:対軍宝具 レンジ:1~70 最大捕捉:300人
食べた者に特殊な能力をもたらす『悪魔の実』の一つで、正式名称をメラメラの実という。
体を燃え盛る炎へ変化させることが出来、その火炎を自由自在に操れる。
最大火力で放てば、付近一帯を焼き尽くすような対城級の超火力も発揮出来るだろう。
この悪魔の実は俗に『自然系』と呼ばれる種類で、特殊なエンチャントが施されていない限り、ライダーは全ての物理攻撃を透過できる。
ただし『覇気』を会得している者には透過は通じず、火をも焼き尽くすマグマのような高温に対しては彼の炎は全く通用しない。
覇気習得者が他に召喚されているかは定かではないが、武を極めた強力な英霊ならば、その体を捉えることは不可能ではない筈だ。
【weapon】
宝具
【人物背景】
白ひげ海賊団二番隊隊長、『火拳のエース』。
『黒ひげ』マーシャル・D・ティーチとの戦いに敗れて海軍に捕縛され、最期には大将・赤犬の手によって殺害された。
彼を奪還すべく公開処刑の場には白ひげ海賊団の軍勢とインペルダウンを脱獄した囚人達が集結し、海軍との総力戦となった。
――しかし結果は、白ひげ側の敗北。彼は命を落とし、『白ひげ』もまた戦場に散ることとなる。
【サーヴァントとしての願い】
悔いを残す生き方をしてきたつもりはない。
【運用法】
サーヴァントである以上、直接の覇気使いは居らずとも自然系を捉えられる敵は少なくないだろうことから、透過への過信は禁物。
一方で無窮の武練のような特殊スキルを持たないバーサーカーには安定して透過を使っていくことが出来るだろう。
通じる相手に対しては、やはり透過は非常に有利。
応用の幅も広いので、柔軟な立ち回りが期待できるサーヴァント。
【マスター】
Верный@艦隊これくしょん
【マスターとしての願い】
姉妹を、取り戻したい
【weapon】
艤装
【能力・技能】
艦娘としての経験、及び戦闘能力。
水上での戦闘には特に優れている。
【人物背景】
暁型二番艦、駆逐艦『響』……だった少女。
姉妹の中で唯一終戦まで生き残り、賠償金としてロシアに引き渡された。
その結果に対して、怒りは抱いていない。
ただ、それでも――取り戻したいもの、変えたい過去は……ある。
【把握媒体】
ライダー(ポートガス・D・エース)
:原作漫画の初登場回、VS黒ひげ回、マリンフォード頂上戦争編
Верный
:ブラウザゲーム『艦隊これくしょん』。wikiで全台詞が閲覧可能。
最終更新:2016年06月26日 23:24