希望の消えた世界とは、こういうところを言うのだろう。
 少女は思い、静かに部屋の片隅で膝を抱く。
 薄暗い部屋だった。
 今の彼女の心境を、象徴するような部屋だった。
 その傍らに、彼女の相方のような存在だったマスコットはいない。
 この絶望に満ちた世界に、少女は一人きりで漂うことを余儀なくされていた。

「どうして」

 パーカーのフードを深く被って、少女は誰にともなくそう問いかける。
 その問いかけにもしも相手が居るとしたなら、それはこの戦争を主催した【誰か】なのだろう。
 姿も見せず、声も出さず。
 ただの一度もこちらへ干渉してこないそいつのことを、彼女は何も知らない。
 分かっていることは、そいつはこの状況を楽しんでいるということ。
 邪悪に口を歪めて、滑稽に踊る駒を嘲笑っているだろうこと。

 だとしたら、七海千秋がやることは決まっている。
 そんなこと、一つしかない。
 【希望】を育てるために創られた命は、決して【絶望】に屈してはならないから。
 あの時果敢に絶望を打ち破ってみせた少年のように、【希望】を胸に戦うだけ。
 すべきことが分かっていても、しかし、今の七海はあまりに非力だった。
 モノミはいないし、権限も何一つない。
 モノクマに奪われているどころか、最初からこの空間での七海は、ごく普通の人間と変わらない状態に矮化されていた。
 残っているものといえば、精々が七海千秋としての才能――ゲームの腕前程度のものだ。

 七海はあの時、闇の晴れる瞬間を見た。
 立ち込めた【絶望】が、【希望】の前に砕け散るのを見た。
 だからこそ七海は、全てに満足して電子の海に還ることが出来たのだ。

 しかし夜明けの先にあったのは、またしても【絶望】。
 七海の前に、執拗に立ちはだかる闇。
 孤立無援の状況で、ただの少女に過ぎない自分に何が出来るだろう。
 ……わからない。
 まるで、翼をもがれた鳥の気分だった。

 聖杯なんてものに興味はない。
 願い事くらいは人並みに持っているつもりだが、それは決して、コロシアイの果てにある願望器などで叶えるものではないのだ。
 それは、あの世界を冒涜することに等しい。
 ほんの僅かな【希望】を頼りに、これから復興へ向かっていくだろう世界と、そこに生きる数多の人々に対しての。
 聖杯は、破壊すべきだ。
 聖杯戦争は、解体すべきだ。
 この戦いも、件の願望器も……きっと、悲劇しか生まない。

「そうとも」

 閉じられたカーテンが、いきなり開かれた。
 部屋の内からではない。部屋の外にあるベランダから伸びた手が、布のヴェールを解いたのだ。
 光の差し込んだ少女の部屋に上がり込んでくる、一人の男。
 顔に浮かべた笑顔が印象的な、絵に描いたようなマッチョマンだった。
 その存在感は、物凄いものがある。
 具体的に言うと、彼だけが周囲のものよりも濃い作画で見えるくらいには、存在感の主張が強い男であった。

「願いとは、手を伸ばして掴み取るもの。努力の果てに勝ち取るものだ。
 他人のそれを蹴落として、楽して叶えた願いなんて、大抵ろくなもんじゃない!!」

 そもそも誰なのかという質問を挟ませない、不思議な魅力に満ちた目の前の男。
 彼の正体に、七海はすぐに気付く。
 七海の左の手首から先が、異様な熱を訴えていたからだ。
 慌ててそこに視線を落とせば――ある。
 聖杯戦争の参加者の資格。三度限りの、絶対命令権。
 聖杯に選ばれた証が、七海千秋という異物にも浮き上がっていた。

「だから私は、君に全面的に同調する。
 曲がりなりにも平和の象徴と呼ばれた身だ……敵(ヴィラン)の誘惑を殴り飛ばして跳ね除けるのは十八番でね。
 強いぞ、私は」
「あなたは――」
「おっと、これは失敬をした。名乗るのが遅れてしまったな」

 サムズアップで自分を指し、白い歯をにっと見せて笑う『平和の象徴』。
 その姿は、彼の生きた世界で知らない者が居ないほど、広く周知され、愛されたものである。
 民の声援に応え駆け付ける、現代の英雄。
 彼の拳に、古くから受け継がれる神秘なんてものはない。
 それでも彼の拳は、重く眩しく悪を討つ。
 彼こそは、ナンバーワン。
 悪の敵。
 平和の象徴―――ひとつの時代の頂点に立った、伝説(レジェンド)。

「エクストラクラス・ヒーロー。名を、オールマイト
 君はもう膝を抱えて悩むことも、未来を悲観することもない」

 ヒーロー。
 その意味は全世界、万人にとって共通だ。
 彼らは、絶対的希望。
 悪がもたらす絶望を跳ね除ける、不屈の闘志を胸に抱く者たち。
 本来存在しない筈のエクストラクラスを七海が呼び寄せられたのは、やはり彼女の生まれた意味に起因するのだろう。

「なんたって――私が来たんだからな」

 七海千秋は、希望を育てるために創られた存在だ。
 人一倍、希望の光との縁は強い。

「ヒーロー……か」

 だから彼女は、召喚することが出来た。
 先の見えない絶望の闇に風穴を穿つ、希望の光(ヒーロー)を。
 絶望の修学旅行を抜け、未来の始まりを見た少女は、かくして絶望の聖杯戦争に身を投じる。
 此度もその闇を晴らし、輝く未来を掴むために。


「ありがとう、ヒーロー。……よろしくね、オールマイト」

 これは、【希望】の始まり。
 昭和の裏にうごめく【絶望】への、反旗の光に他ならない。


【クラス】
 ヒーロー

【真名】
 オールマイト@僕のヒーローアカデミア

【ステータス】
 筋力A+ 耐久B+ 敏捷A 魔力E 幸運C 宝具E+++

【属性】
 秩序・善

【クラススキル】
正義の味方:A+
 正義の名の下に平和を守り続けてきたヒーローのアイデンティティとも言うべきスキル。
 効果は人命救助や悪人退治などの善行を行う際のパワーアップ……ではない。ヒーローにとって人助けは当然の行為であり、これにわざわざプラスの効果は生じない。
 このスキルは、ヒーローが自らのアイデンティティを喪失しかねない場面において発動するマイナススキルである。
 悪人に服従する、非道な行為に加担する等といった悪行を強いられ、自らの信念を捻じ曲げられる状況に陥った時、ヒーローは大幅なパワーダウンを引き起こす。
 そして、例えばマスターから「聖杯戦争での勝利が最終目的である」と明言されている行動を命じられた場合にも、ヒーローが納得していない限りこのスキルは発動する。
 ヒーローを聖杯戦争に投じるとどうなるのか、その答えを示したスキルであると言える。

【保有スキル】
平和の象徴:EX
 民の安全と安心の象徴。カリスマとの複合スキルでもある。
 一個の社会、或いは時代における悪への抑止力。
 悪属性のサーヴァントに与えるダメージが上昇し、何かを守らねばならない戦いにおいてはそこに更に上昇補正が施される。
 逆境であればあるほど、守る者が居れば居るほど強くなる反則級のスキルだが、デメリットとして彼を視認した悪属性のサーヴァントは、例外なく彼に対し強い敵愾心を抱く。
 悪であることに美学のようなものを感じていれば、その敵愾心もまた、更に強くなる。
 つまり、とにかく敵の標的になりやすい。

勇猛:A+
 威圧、混乱、幻惑といった精神干渉を無効化する。また、格闘ダメージを向上させる。

戦闘続行:A+
 往生際が悪い。
 霊核が破壊された後でも、最大5ターンは戦闘行為を可能とする。

【宝具】

『ひとりは皆のために(ワン・フォー・オール)』
ランク:E+ 種別:対人宝具 レンジ:自分 最大補足:1人
 鍛錬と継承が繰り返されることで、何人もの身体能力を一つに収束した宝具。
 彼の生きた時代では、個性と呼ばれていた力。
 常時発動型の宝具で、オールマイトの高いステータスもこの宝具あってのものである。
 この宝具の真骨頂は、他人への譲渡が可能という点。オールマイトのDNAを含んだ体の一部を摂取することで、人間であろうと宝具を使用できるようになる。
 ただし規格外のパワーを発揮できる反面、力の調整が出来なければ反動で体が壊れてしまう。

『更に、向こうへ(Plus Ultra)』
ランク:E+++ 種別:対人宝具 レンジ:自分 最大補足:1人
 困難を乗り越え、逆境を跳ね除けて守るべきものを守り、敵に拳を叩き込む。
 理不尽に打ち勝つという彼、ひいては彼が教鞭を執った学び舎の校訓である上昇思想が概念宝具と化したもの。
 オールマイトほどのヒーローが敗北の淵にまで追い込まれる打破不可能なほどの絶望的状況であり、しかしながら後ろには守る相手が居り、彼が諦めていない、その全ての条件が満たされた瞬間に自動発動する最終宝具。
 全ステータスが1ランクアップし、その時負っているあらゆる傷や悪影響を全て無視、『万全以上』の体勢での戦闘を可能とする。

【weapon】
 拳

【人物背景】
 不動のNo.1ヒーローとして人々に愛される、まさに平和の象徴に相応しい笑顔の似合う好漢。
 あまりの肉体美に、彼だけ作画が違う。
 英霊として最盛期の状態で召喚されているため、宿敵から受けた傷も、活動限界もない。
 最強状態のオールマイト。

【サーヴァントとしての願い】
 願いとは、その手で掴み勝ち取るもの!

【運用法】
 正の方向で運用する限り、非常に頼もしく対立の可能性も少ないサーヴァント。
 戦闘能力も申し分ないが、『平和の象徴』スキルによってとにかく敵を作りまくるのが難点。
 また派手な対軍宝具などは持たないので、数の優位にも弱い。


【マスター】
 七海千秋@スーパーダンガンロンパ2 さよなら絶望学園

【マスターとしての願い】
 聖杯戦争の解体

【weapon】
 特になし

【能力・技能】
 超高校級のゲーマー。
 ゲームの腕前と知識にかけては、右に出る者がいない。

【人物背景】
 超高校級のゲーマーとして、コロシアイ修学旅行に参加させられた少女。
 高い頭脳と柔軟な発想力を持ち、学級裁判では積極的に発言して活躍する。
 ……その正体は、希望更生プログラムの教官を務めるモノミをサポートするために搭載された、補助プログラム。
 いわば現実には存在しない、ゲームの中だけを生きる少女。


【把握媒体】
ヒーロー(オールマイト):
 原作コミック全巻。最低限の把握ならUSJ編まででも可能。

七海千秋:
 原作ゲーム。クリアしておくことが望ましい。

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最終更新:2016年06月30日 23:41