――ああ、まただ。
何で俺は同じ様な轍を踏みまくるんだ。これじゃぁ低能みたいじゃないか。

 男は深い溜息を吐きそうになった。
エル・ドラドの時と言い、シャングリラの時と言い、自分は何も変わっていなかった。

 如何して男は――いや、この男と言うものは、デカい儲け話と浪漫溢れる話に、うっかり飛びついてしまうのか。



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◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 カモメの鳴く声、白い砂浜に打ち付けられる漣の小さな音、そして、流れる緩やかな民族音楽。
これら全てをひっくるめたBGMを聞きながら、アクアマリンを煮溶かし水にした様な澄んだ海を眺めて飲む酒は、実に最高のものがあった。

 地上の楽園とも言われた事のある、インド洋に点在する島国、モルティブ諸島は今日も快晴だった。
地上の楽園。成程、使い古されたそのセールスコピー、嘘偽りはなし。景観は文句なしの百点満点。
赤道に近い国故に蒸し暑いが、そんな熱い中で飲むオンザロックはまた格別だった。
だが何と言っても素晴らしいのは、モルティブ名物の水上コテージである。蒼く煌びやかな海の上に建てられた、藁と木材のコテージ。
地上に建っていれば掘立小屋以外の何物にも映らないと言うのに、これが一度青い海の上に建立されると、見る者の度肝を抜く美しい光景へと早変わりする。
海で泳ぎたいなと思えば、海の上に建てられていると言う性質を活かし、そのままベランダから海へとダイブ出来るのも良い。

 リゾート地としては、百点も良い所だった。
バカンスの時期でもないのに、こんな所に来れる者は名うてのセレブに違いない。
そんなセレブに混じって、考古学者にしてトレジャーハンター、ネイサン・ドレイクこと『ネイト』はバカンスを楽しんでいた。

 ネイト風に言わせればデカいヤマも今はない。
今日以前に稼いだ金で、悠々自適な生活を送り、めい一杯羽を伸ばしている最中であった。
オン・ザ・ロックにしたウィスキーを呷り、地元のシーフードの盛り合わせを肴にしながら、モルティブでの一日を今日も楽しんでいた。
そんな時だった。明らかにネイトの方目掛けて、見知った顔が近付いて来たのは。

「ん?」

 その顔をよく知っていた為、ネイトは少し怪訝そうなリアクションを取った。
が、近付いてくる人間が真実、彼の見知った男だと知った瞬間、笑顔を晴れやかな物にした。

「ネイト~、しばらくぶりだな!!」

「サリー、如何して此処が!!」

 もう髪の殆どが白髪になってしまった中年の男性だった。
若い頃はキチンと摂生した生活を送っていたらしい。顔つきも歳の割には若く、身体つきも下手な二十代よりもずっと整っている。
白いシャツとハーフパンツと言うラフな格好は、モルティブの地に相応しい。名をヴィクター・サリバン、サリーと言う愛称が特徴のこの男は、ネイトのパートナーであり、家族と同じ位強固な絆で繋がれた間柄でもあった。

 暫く会っていなかったので、再会を喜ぶと言う意味でも、二人はハグを先ず行った。
「座るぞ」、とサリーが聞いて来るが、ネイトが言うまでもなく、彼は既に席に座り、店のウェイターにネイトと同じ酒を注文していた。

「デカいヤマを見つけちまったんだ、お前に話を通さないとアレだろうと思ってな」

「俺と一緒じゃなきゃ儲けを得られないの間違いだろ、もういい歳だろサリー」

「ハッハハ、まぁな」

 特に痛い所を突かれた訳でもないらしい。初めからネイトの若さと身体能力をアテにし、儲けの何割かを自分が貰うと言う既定路線でサリーはいたらしい。
尤も、そんな方針はいつもの事なので、ネイトとしては今更とやかく言う事でもないのだが。

「……で、その大きいヤマってのは、何だ?」

「ネイト。お前日本史は詳しいか?」

「日本史か……実を言うとあんまり、って所かな」

 ネイトの言う『あんまり』とは、『稼業人に求められるレベルの知識と比較して』詳しくないと言う意味であり、並大抵の史学科の学院生レベルの知識は、ネイトは当たり前のように有している。

「実はつい最近、そのジャパンでマジで大きい宝の動きがあったらしいんだ」

「そりゃ凄いな。借金返せそう?」

「勿論、借金返してその後ベガスで女の子ひっかけて遊べるレベルの金が入ってくる!!」

「で、何だよの大きい宝ってのは。事故で沈んだ朱印船が乗せてた宝とか?」

 朱印船による貿易。それは、安土桃山時代の将軍である豊臣秀吉の時代から、世界史でも有名な江戸時代の将軍・徳川家康の孫である、
徳川家光が鎖国を敢行するまで続いたとされており、主に東南アジア諸国から様々な物品の交易を行っていたと言う。
もしもその朱印船の内一艘が何処かで沈み、今もサルベージしてくれるトレジャーハンターを待っているとしたら。成程、それは確かに浪漫がある。

「違うなぁ」

 サリーは否定した。

「じゃあ何だ、日宋貿易か日明貿易か?」

「ネイト。今回の宝はそう言う船が乗せてた云々じゃないんだ。第一のヒントだ」

 ふぅむ、と考え込むネイト。
日本は地図を見れば解る通りの島国で、古の昔から諸外国、特に現在の中華人民共和国との貿易のやり取りが盛んだった。
そう言う歴史を知っていると、間違いなく海に沈んだ古代の貿易船絡みのお宝を連想するネイト。しかし、これが内陸に限定されるとなると、思い当たるフシは相当絞られる。

「徳川埋蔵金が見つかった?」

「埋めるだけ大量の金があったら無血開城何てしないだろ」

「壇ノ浦に沈んだ草薙の剣か?」

「それも船関係じゃないか」

「……あ!! 意表をついて、沖縄に伝わる楽園、ニライカナイとかだろ!! シャングリラの後でニライカナイはちょっとキツいぜサリー」

「ブブー、ハズレー!!」

「んだよサリー、そろそろ教えてくれよ!!」

 此処まであり得そうな推論を言っておいて、一つたりとも掠ってないと言う事実が頭に来たネイトが、少しいじけた様子で口にする。
その様子を見たサリーが、「解った解った」と、保護者めいた口ぶりでネイトを宥める。それと同時にウェイターが、ウィスキーのオン・ザ・ロックをテーブルに置いて来た。

「ネイト。聖杯は勿論知ってるよな?」

「モンティ・パイソン・アンド・ホーリー・グレイル面白かったよな」

「ああ、あのチープさが癖になる」

「で、その聖杯が何だって? 言っとくけど、今更ストーリーとかを説明する必要はないぜ。嫌になる位昔修道院で聞かされたからな」

「その聖杯がな、日本にあるんだとよ!!」

 ……沈黙で、ネイトは返した。
十秒程かけてネイトは、チビチビとウィスキーグラスに入った琥珀色の液体を嗜みながら、サリーの事を冷ややかな目で見つめ。
グラスから唇を離した後に、口を開いた。

「この場は俺が奢ってやるから、帰って良いぜサリー」

「待て待て待て待て待てネイト、胡散臭いって気持ちは解るがな――」

「信じられる訳無いだろボケオヤジ!! 極東の国日本と、ヨーロッパの伝説である聖杯がどうやって結びつくって言うんだ!!」

 皿に盛りつけられたエビのむき身を口に持って行き、頬張りながらネイトは口を開く。

「いいかサリー、聖杯って言うのはな、イエス・キリストが十二使徒達との最後の晩餐で使った杯でありそして、偶然その杯を手に入れたアリマタヤのヨセフが磔刑に処されたイエスの血を受けとめた杯でもあるんだ。その後ヨセフはイエスの遺骸を埋葬したかどで投獄されるも、聖杯の不思議な力で数十年も餓える事無く生きのび、投獄から解放され自由になった後は家族と共に巡礼の旅に出て、人目が付かないようにヨセフは代々この聖杯を保管したんだ。尤も伝説じゃこの後、ヨセフの子孫が巡礼者の女とエッチしたいって思ったからか、聖杯はどっかに消え失せちまったらしいがな」

 それは、キリスト教伝承としての聖杯の伝説である。 

「だがこの後聖杯は、アーサー王物語の中で特に重要なキーアイテムとして語られ、紆余曲折の大冒険の末に、ガウェインだかパーシヴァルだがガラハドの手で発見されるも、ガラハドは聖杯を発見するや天国に召され、それと同時にまた聖杯は何処かに消え失せた。そしてお仲間のパーシヴァルも一年後には出家して僧侶になって隠居、発見の一年後には死に至る。良いかサリーよく聞け、大本になったキリスト教伝説は元より、聖杯伝説の中にも、日本って言う国の名前は一言たりとも出てきやしない。日本人とヨーロッパの人間が接触したと言う記録は、一番確かで信頼の持てる物で1543年。非公式の物でも、どんなに遡ろうが1200年代より前はあり得ない!! 対して、ヨーロッパの文学に最初に聖杯と言う概念を持ち込んだのは、クレチアン・ド・トロア……12世紀の作家だ。解るか、物理的にも聖杯物語と日本が絡むなんてあり得ないんだよ、マルコ・ポーロだって12世紀にゃ生まれてない!!」

「んな事は解ってる!!」

 グイッ、と自分のウィスキーを飲んでからサリーがヒステリー気味に返した。

「ネイト。俺だって馬鹿じゃない。常ならそんな胡散臭い情報、信じすらしないさ」

「信じるに値する情報筋からの話だって事か?」

「蛇の道は蛇って言うだろ? 俺達と同じ稼業人も、同じような情報を近頃結構な割合で知ってる奴が多くなった。無論、その情報を流す筋の奴らもだ」

「で、その日本と聖杯の関係性を信じてる奴はいるのか?」

「お前さんと同じだよネイト。そんなバカな話、と皆信じない。情報を売ってる情報筋だって、荒唐無稽だと思ってるのか、捨て値でこの情報を売ってると来てる。俺の時は20$で買えた」

「ボジョレー・ヌーボーでも買った方が余程マシだな」

「だが、俺は引っかかった」

 トラウト・サーモンを切った物を口に運びながらサリーは言った。

「同じトレジャー・ハンターは元より、情報筋の奴らに何十人にも、こんな胡散臭い話を流させる手腕が先ず凄い。余程凄い金の量と、ネットワーク網がなけりゃ不可能だ」

「まぁそうだな」

「仮に罠だとしても、俺達を罠にハメる理由が解らない。メリットもないだろ」

「そもそもハマる奴がいないけどな」

「で、俺は思ったんだ。嘘でも良いから、この話に少し乗ってみようかとな」

「いやいやいやいや、おかしいだろサリー!!」

「まぁ待てよ。多くのトレジャーハンターや好事家達は、そんな話ある筈ないとこの胡散臭い話に目もくれない。だが、逆に言えばこれはチャンスじゃないか。誰もが向かわない方向に逆走する俺達、もしもその方向に聖杯があって、それを俺達が手に入れれば、ぶっちぎりの一位だ」

「手に入るかも解らないだろ、第一あり得ない!!」」

「手に入らなかったらそれでいいだろ、聖杯探索が日本の旅行に変わるだけ!! 一度ゲイシャの女の子と遊んでみたかったんだよな~」

 聖杯の探索よりも、そっちの方が目的なのかも知れない。
こんのエロ親父が、と思うネイトであったが、聖杯の探索よりはまだ健康的だ。それに、ネイト自身も芸者と遊んでみたかった。

「……3日だけ付き合う」

「良く言った流石は心の友ネイト!! んじゃ、日本に発つ間俺は色々下準備してるからさ、楽しみにしてろよネイト!!」

 「……ったくしかたねぇ」、と言いながら、再び剥きエビに手を伸ばし、それを咀嚼した。
燦々と、モルティブ諸島に夏の暑い太陽が光を降り注がせている。今から数えて、5日前の出来事であった。



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◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 ――そして、現在がこれである。
気付いた時には、ネイトは日本国の冬木市と呼ばれる街にいた。そんな街が本当に実在するのか、ネイトには解らない。
と言うより、如何にネイトであろうとも、日本にどんな街があるのか、詳しく網羅している訳じゃない。地方都市となると流石にノーマークだ。
本当に、気付いた時にはネイトは日本にいた。サリーが日本に向けての準備をしているその最中の時間だ。
その時間内に、気付いたらネイトは冬木にいて、しかもこの街の学校施設に通う考古学の教師と言う立場で、だ。

 更に混乱を誘うのは、今の冬木の――いや、この世界の年代だ。
昭和55年……つまり。1980年であるが、これはネイトが生きていた時代より十数年以上も前の年代である。
今が1980年と言う認識で今を生きている、この国の住民は、本気で頭がおかしいのかとネイトは思いもしたが、何処の誰に聞いても、いやそれどころか、
公共の機関にすら訊ねても、正真正銘今は1980年だと言うのだ。知らぬ間にタイムスリップしたのか、とネイトは本気で頭が参ってしまいそうだった。

 ――だが、それ以上に、ネイトの頭を混乱させているのが。

「辛気臭い面してんねぇ、ネイサン」

 と、女っ気の欠片もない、実に男勝りな女の声が、背後から聞こえて来た。
その方向にネイトが顔を向けると、其処にはえんじ色のコートを着こなす、見事なまでのストロベリー色の長髪をした美女が佇んでいた。
だが、ああ、見よ。彼女が被る、厳めしい示威的なまでのその海賊帽を。羽織っている漆黒のビロードのマントを。そして、腰に掛けられた二丁の拳銃を!! 
彼女はそう、海賊なのだ。誰がどの角度から見ても、映画やコミックのなかに登場し、略奪の限りを尽くす海賊にしか、見えぬではないか!!

「辛気臭くもなる。『聖杯戦争』? 聖杯を巡って他の参加者と殺し合う!? 馬鹿言え、冗談じゃねーぜ!!」

 この冬木に何らかの手段で飛ばされてから、ネイトの頭には一つの情報が刻まれていた。
聖杯戦争。サリーの言っていた聖杯を巡り、不特定多数の参加者と、サーヴァントと呼ばれる超常存在を使役して行われる勝ち残りの殺し合い。
その殺し合いを制した最後の一人だけが、聖杯を手にする事が出来るのだと言う。成程確かに、サリーの言っていた事は真実だった。確かに聖杯は、あるようだ。
だが、幾らなんでもこれは酷過ぎる。宝を巡って殺し合いをした経験は、ネイトにもある。だがそれは、宝探しの過程で起った不可避の事柄であり、
当初の目的たる宝の発見とその入手から全くブレた事柄ではなかった。聖杯戦争は違う。初めから『殺し合いをせねば聖杯は手に入れられない前提』なのだ。ネイトは、これが受け付けなかった。これは、トレジャーハンターの美学に反する。

「おいおい、キレイゴト抜かせるタマかいアンタ? 結構なハンサム顔で本質隠しちゃいるけど、結構な人数手に掛けて来た悪党の面してるよ」

「俺はなるべくならキレイに聖杯が欲しいの、わかる? ライダー」

「綺麗に入手出来る宝なんてあるもんか、命張って、時には殺したり殺されたりするから、財宝ってのは価値があるのさ」

「あぁクッソ、如何にも俺の尊敬する人物の言いそうな……ってそうじゃねぇ!! ライダー!! 一つ言いたい事がある!!」

「何さ?」

 すぅ、はぁ、と深呼吸を数回繰り返してから、ネイトは言った。

「俺は、お前を、絶対に『フランシス・ドレイク』だなんて、その子孫として認めないからな!! 嘘を吐くのも大概にしろ!!」

「っはぁ!? 何言ってんだ唐突に!! アタシは正真正銘フランシス・ドレイクだっての!!」

 ライダーと言うクラスが証明するように、目の前のこの美女は、ネイトが呼び寄せたサーヴァントである。
そしてその真名は……『フランシス・ドレイク』。ネイトが自分の先祖だと自称する程、彼が尊敬する冒険家であり、大海賊だ。
それがまさか、こんな女性であったと言う事が、ネイトには信じられない事柄だったのだ。
今の今までネイトは男だと思っていたし、実際残っている肖像画も、全て男のものだった。それが呼び寄せられて見れば、このような美女である。
受け入れられる筈もなく。これが、ネイトの混乱の要素の1つである事は、言うまでもなかった。

「第一アンタ、誰が誰の子孫だって? アタシはアンタみたいな間抜けな子孫を授かった覚えもないよ!!」

 とは言え、目の前にいるこの騎兵のサーヴァントは真実、フランシス・ドレイクなのである。
多くの歴史的資料が、彼或いは彼女は、結婚の遍歴こそあったが子供をもうけたと言う事実を記していない。
つまり、スペインの無敵艦隊を沈めて見せた天才司令官の血を引く者は、今日存在しない事を意味する。そんな事、ドレイク自身が良く解っている事だろう。
それなのに、そのドレイク卿の子孫をよりにもよって他ならぬフランシス・ドレイクの前でネイトは自称したのである。彼女からしたら、ムカつかない筈がないだろう。

「いいか、俺は先入観がぶち壊されて凄いおセンチなんだ!! これ以上喋ってなんか俺のイメージ壊さないでくれ!!」

「――へぇ。それじゃあんたは、アタシが不服って事かい?」

 ドレイクの声に、ゾッとする程の冷気が宿り始めた。

「見りゃ解るだろ?」

「そうかい」

 其処まで言った、その瞬間だった。
ネイトが認識すら出来ない程の速度でドレイクは、懐から拳銃を引き抜き、その銃口をネイトの額に向けた。
フリントロックタイプの拳銃で、中世~近代には見られたものである。威力と精度、耐久性こそ現代のそれには遠く及ばないが、人間の頭に弾が直撃すれば、即死は免れない。

「不服だって言うのなら、仕方がないね。アンタがサーヴァントに不平を漏らす権利があるように、アタシも気に入らないマスターには従わない自由がある。公平だろ?」

「その公平さ、略奪先でも発揮した方が、悪鬼羅刹みたいな風評も生まれなかったと思うぜ」

 ネイサンの声には、緊張の糸が張りつめている。その事をドレイクは見逃さなかった。

「アタシの脅しに、気丈にそんな事が言えるんだったら大したタマだが、それと、私の人差し指が引き金を引くかどうかは話は別さ」

「聖杯が取れなくなるぜ」

「酒注ぐ杯なら間に合ってるよ」

 キリストの血を受け止めた聖なる杯を、よりにもよってワインかウィスキー、バーボンでも注ぐ為の器にしか見ていないらしい。
実に自由と言うか、刹那的と言うか。誰もが認める聖遺物をそんな風に使ってみる事に、一種の快楽を感じている風に、ネイトには見えた。

「反論のレパートリーは、あと十個ぐらいは増やしておくんだったね。興が削げるよ、アンタ」

「余程元の場所に還りたいんだな。勝ち残る自信がないか?」

 皮肉気な笑みでそう挑発したネイトに、「ほう?」とドレイクが反応する。

「正直な所、俺は勝ち残る自信が滅茶苦茶ある。誰もが見た事のない、エル・ドラドとシャングリラに足を踏み入れて、俺は生きてるんだぜ? こんな日本の一都市で聖杯探せ何て、借り物競争より楽勝ってもんだ!!」

 ドレイクは知らないが、ネイトは生前の彼女が辿った冒険譚と同じ位、危険な線を幾つも掻い潜って来ている。
犯罪組織が擁する私兵団、銃器やグレネードで武装した彼らに単身で挑み、その犯罪組織ごと壊滅させた事もある。
同じく重火器で武装したテロ組織を、単身で壊滅させた事もネイトはある。全ては機転、人脈、知恵、そして度胸と運。それらがあったから、ネイトは生きて来れた。
そんな話も道理も通じない危険な連中と戦って来たネイトにとって、都市部で行われるバトルロワイヤルなど、今更恐れるにも値しない事柄。この言葉は強がりでも何でもなかった。

「で、そんな、自称ドレイク卿の子孫である俺ですら、怖くないんだ。まさか本物のドレイク卿が、聖杯戦争が怖いから俺を殺して退場する、だなんて言う筈はないよな?」

 ネイトのこの言葉を聞いた瞬間、銃口を彼の額に突き付けたまま、ドレイクは黙りこくった。
表情は、石のような無表情。眉も鼻も唇も、ピクリとも動かさない。呼吸する音すら、悟らせない。生きたまま石像になったかのようであった。
が、その数秒後に、フッと、この美人海賊は顔を破顔させ、ネイトに笑みを投げ掛けた。

「成程ね。そのクソ度胸だけは、アタシに似てる。そして、それはそれとして――」

 其処まで言うと、ドレイクは拳銃を懐にしまい、代わりに、鞘に入れていた、銀色の剣身が眩しい曲刀・カトラスを引き抜き――。
その柄で、ネイトの頭頂部をガッと殴った。

「痛ぇ!!」

 言ってネイトは、叩かれた頭頂部を両手で抑え、涙目になりながらドレイクの事を睨めつけた。
無論彼女は答えた風も見せず、笑みをいたずらっぽいそれにさせながら、白い歯を見せ付けて笑った。

「ムカつくから一発殴らせて貰った」

 カトラスを鞘に入れ、ドレイクが言った。
当然、ドレイクが手加減してネイトを殴ったのは言うまでもない。ランクDとは言え、ドレイク程のサーヴァントが本気で人を殴れば、頭の形が変形する。

「まぁ、何があってもアンタを子孫とは認めたくはないけど、物覚えの良さそうな部下としちゃ合格だ。アタシの船は阿呆ばっかで、宝の目星が付けられる奴がアタシ以外少なかった。アンタだったら雇ってやってもいいね」

「そいつぁどうも、手に入れた宝山分けにしてくれるんだったら雇われてもいいぜ」

「優秀だったら三割は払ってやるよ」

 売り言葉に買い言葉。マスターと主の関係と言うよりは寧ろ、付き合いの長い腐れ縁の様なものを見る者に想起させるやり取りだった。

「ああ、最後に一つ、聞いて置きたかったよ。自称アタシの馬鹿子孫」

「ん?」

「当然アンタは、アタシの事を良く勉強してるんだろ? だったら、アンタはアタシと言う存在をどんな目で見てたのか、教えておくれよ。気に入らなかったら殴るから」

 何とも横暴が過ぎる言葉だと思うネイトだったが、意外や意外。
彼は直に口を開き、己の考えを口にしたからだ。直に思い描けたのは簡単な話。彼は本当に、真実フランシス・ドレイクの事を真摯に考えて来た男だから、直答えられるのも、当然の事なのだった。

「SIC PARVIS MAGNA(偉業も小さな一歩から)。それが俺から見たアンタだ」

 ネイトは言葉を滔々と紡ぎ続ける。

「世界を一周出来たのも、フェリペ2世のアルマダ(無敵艦隊)を沈めて太陽を落とせたのも、アンタに備わる才能が初めから凄かったからだなんて、俺は思っちゃいない。口では強がってて、派手で、目立ちたがり屋で、刹那的で享楽的なアンタは、恐らく何処かで努力してる事を隠す天才何だとも俺は思ってる。あんな偉業が、最初から備わってた努力の総量で出来てたまるか。影で努力してたんだろ? ドレイク卿。……だから俺は、アンタを尊敬してた訳だ」

「……ハッ、聞いてるアタシが恥かしくなる事を良くもまぁいけしゃあしゃあと……」

 海賊帽子を目深に被り直し、照れ隠しと言わんばかりにドレイクが口にした。

「ま、合格にしといてやる。ネイサン。聖杯をブン獲るよ!! 命は海に置いて、命の在った所に度胸を詰めて動きな!! そうすりゃ、一直線に聖杯まで辿り着けるさ!!」

 稲妻の様な鬨を発し、フランシス・ドレイク卿はネイトに宣言した。
聖杯に向けての一歩は、小さく、しかし確実に、今刻まれた事を、ネイトとドレイクは感じ取ったのであった。


【クラス】

ライダー

【真名】

フランシス・ドレイク@Fate/EXTRA、Fate/Grand Order

【ステータス】

筋力D 耐久C 敏捷B 魔力E 幸運EX 宝具A+

【属性】

混沌・悪

【クラススキル】

対魔力:D
一工程(シングルアクション)による魔術行使を無効化する。魔力避けのアミュレット程度の対魔力。

騎乗:B
騎乗の才能。大抵の乗り物なら人並み以上に乗りこなせるが、魔獣・聖獣ランクの獣は乗りこなせない。

【保有スキル】

嵐の航海者:A+
船と認識されるものを駆る才能。集団のリーダーとしての能力も必要となるため、軍略、カリスマの効果も兼ね備えた特殊スキル。

黄金律:B
身体の黄金比ではなく、人生において金銭がどれほどついて回るかの宿命。大富豪でもやっていける金ピカぶりだが、散財のし過ぎには注意が必要。

星の開拓者:EX
人類史においてターニングポイントになった英雄に与えられる特殊スキル。あらゆる難航、難行が“不可能なまま”“実現可能な出来事”になる。

【宝具】

『黄金鹿と嵐の夜(ゴールデン・ワイルドハント)』
ランク:A+ 種別:対軍宝具 レンジ:20~40 最大補足:前方展開20船
スペイン無敵艦隊を打ち破った「火船」の逸話と、ヨーロッパの伝承である「嵐の夜(ワイルドハント)」の逸話。
ライダーの生前の愛船である「黄金の鹿号(ゴールデンハインド)」を中心に、生前指揮していた無数の船団を亡霊として召喚・展開。
圧倒的火力の一斉砲撃で敵を殲滅する。ライダーの奥の手にして日常の具現とも言える宝具。
対軍宝具でありランクも高いが、現在の所持金(貨幣、或いは黄金や純銀、宝石や考古学的価値の高い物など)の多寡に応じて威力が増減するという変わった特性を持っている。

『黄金の鹿号(ゴールデンハインド)』
詳細は不明。ライダーが上記宝具を展開した時に乗っている船だが、この船自体が黄金鹿と嵐の夜とは別個の宝具。
イングランド王国のガレオン船でありドレイクが私掠船として用いたことで有名。 全長37メートル弱、船首と船尾に4門ずつの砲を持つ他に、両側舷にも14の砲を搭載。
上記宝具とは関係なく召喚し、カルバリン砲での攻撃、乗船しての移動が可能。彼女が『騎兵』たる所以であり水上でなくても船体を地面に隠しながらの移動などもできる。
但しムーンセルでの聖杯戦争でライダーのマスターだった少年同様、現状のマスターでは魔力供給に乏しい為、全力は余り出せない。

【weapon】

二挺拳銃:
彼女の活躍した歴史から考察するに、フリントロック式のものであると思われるが、サーヴァント化した事により、フリントロックのものとは思えない程の連射力を可能としている。

カルバリン砲:
空間から自由に出し入れさせる事が出来る、ゴールデンハインドの砲塔。当然直撃すれば大ダメージを負う事は言うまでもない。

【人物背景】

原作参照

【サーヴァントとしての願い】

聖杯の獲得。願い自体は決めてない。


【マスター】

ネイサン・ドレイク@アンチャーテッドシリーズ

【マスターとしての願い】

聖杯を手に入れた後、元の世界への帰還

【weapon】

リング状のネックレス:
ネイトの首に掛けられた、丸いリングが一個だけついたネックレス。
実はフランシス・ドレイクの遺産であるらしく、シリーズ三作目ではこれを巡って物語が進んで行く。

ネイトも、そしてサーヴァントであるライダー・ドレイクも知らない事柄だが、実はこれが触媒になって今回の聖杯戦争ではドレイクが召喚された。

【能力・技能】

考古学的知識:
ライダーは考古学の他、歴史学にも非常に造詣が深く、その知識の深さは、僅かに残った断片から、建物の様式、何処の国の物だったか、と言う事を瞬時に推察できる程。

超人的身体能力:
お前本当に人間か? と言う突込みが入るレベルの身体能力をなんか知らないけど有してる。
僅かな壁の溝を頼りに、垂直の壁を階段代わりに指の力だけで上ったり、訓練を積んだ民兵や傭兵を相手に引けを取らないレベルの格闘術と拳銃の腕前を持つ。

【人物背景】

フランシス・ドレイクの子孫を自称するトレジャーハンター。
宝が目当てと言うのもあるが、根っからの冒険野郎で、知的好奇心を満たす為に危険を冒してるフシも結構ある。
10歳前半までは修道院で暮らしていたが、尊敬する兄の帰りを待ちわびていた。10歳半ばに入ってから、スリを生業としつつ、
現在のようなトレジャーハンターまがいの事もやるなど危険な橋を渡っていた。この時にサリーと出会い、彼から探検家としてのテクニックを学ぶ。
サリー曰く、当時からセンスはあったが、テクニックはイマイチ。その後、ペルーの刑務所に投獄されるも、サリーの手により助け出される。
投獄経験は本人の話から推察するに、盗みに失敗し何度も経験しているらしく、その度に金か何かの力で放免されている。
決して悪人ではないし、無暗な殺しもする男じゃないが、仕方ない局面になったら非情に人を殺す程の度胸を秘めている悪党でもある。

シリーズ2作目である、黄金刀と消えた船団が終わってからの参戦

【方針】

聖杯を手に入れる。

【把握媒体】

フランシス・ドレイク:
言うまでもなく原作

ネイサン・ドレイク:
原作ゲームをプレイだが、全部プレイするのは骨が折れるし何よりも金銭的にかさむので、プレイ動画がベスト。

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最終更新:2016年07月02日 20:15