人間が最も古代の生物から受け継いでいる、光と闇の根本的な区別、それがあるんじゃないのか
何と言っても、光に対する反応は、生そのもののあらゆる可能性に対する反応なんだ
私達に解って居る限りでは、この区別は世の中で最も強い区別であり、ひょっとしたら、たった1つの区別かも知れない。
それが何十億年と言う間、毎日、強められてきたんだ
J・G・バラード、結晶世界
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浮いている、と言う表現がある。
文字通りの意味ではない。集団の中でその人物或いは物だけが、異様に目立っているように見えて、不自然に見える事をこう言い表すのだ。
黒い鴉の中に、白い鴉がいたら目立つだろう。赤いバラの中に一厘、青いバラが咲いていれば目立つだろう。そう言う事を、浮いていると言うのだ。
複数の人間から構成される組織や集団の中でそう言った現象が起こると、大抵浮いている人間に待ち受けているのは、排斥かそれに近しい境遇である。
猿や犬、果ては昆虫や魚の世界ですらそう言う現象は起るのだ。知能を持った人間の集団で、それが起きぬ筈がなかった。
無視で済めば可愛い方だ。酷いと、『いじめ』と言う名の私刑にすら発展する事は、この場合珍しくないのだった。
端的に言えば『
光本菜々芽』は浮いている部類の少女だった。
後ろ髪を長く伸ばしたブルーブラックの髪、全体的に黒で統一された服装。そしてその整った顔立ち。
明るく、社交的な性格をしていれば、きっと子供からも、況や大人からも、ウケの良い少女だったに相違あるまい。
しかし、実際には違った。彼女は浮いていると言うよりは孤立していると言う表現の正しい少女だったのだ。
10歳と言う年端も行かない年齢であるのに、達観とも老成とも取れる、大人びた雰囲気が、同年代に比べて目立つと言うのも確かにある。
だがそれ以上に彼女の孤立を助長させるのが、仏頂面とも取れる不愛想な表情を、常に浮かべている事であった。
同じクラスの子供達は、菜々芽が笑っているその瞬間を目撃した事がないのではなかろうか。教師ですら、ないかも知れない。
それ程までに、彼女は不愛想だった。しかしそれでいて、勉強も運動も人並み以上に出来る。今は公立に所属しているが、元々名門私立の小学校を目指していた少女だ。
運動は兎も角、勉強は同年代の子供よりずっと出来るし、中学で習う勉強も既に菜々芽は学んでいた。こんな風だから、クラスでは彼女は孤立している。
余りグループの輪にも入れて貰えないし、体育の授業での班決めでも何時も『あぶれ』の組だ。その上、黒い服装を好んで着るので、着いたあだ名が死神だ。
子供の語彙力と言うのは、たかが知れている。しかし、少ないからこそ、婉曲や皮肉と言った、本質をオブラートで包んだ表現が使えない。
つまり、本質をこれ以上となく適切かつ短い言葉で表す能力に長けている。あだ名の類などまさに、それが如実に表れている。
菜々芽が冬木市内の小学校を去り、家に着いたのは夕の四時。
裕福な家庭なのだろう。庭付きの一軒家だった。ただいまの挨拶もなしに、彼女は家の中へと入って行く。
「ただいま、はどうしたの」
「……ただいま」
面倒くさそうに菜々芽は言った。
菜々芽の目の前には、これまた菜々芽譲りのブルーブラックの髪と、綺麗な顔立ちをした女性が佇んでいた。
しかしその表情は、如何にもヒステリックな相と皺とがノミを当ててみた様に刻まれており、日頃のストレスが溜まっている事が一目で窺える風貌であった。
菜々芽の母親である。母娘と言う間柄であるのに、二人の関係は頗る悪い。菜々芽は母の前で笑みを零した事はここ数年ないし、母もまたしかり。光本家は、完全に冷え切っていた。
「今日は何かあったんじゃないのかしら?」
どんなに嫌悪しても血を分けた家族、と言う事なのだろう。伊達に10年一緒の関係じゃない。母親は、菜々芽の表情を見て、今日は学校で何かがあった事を悟ったのだ。
「抜き打ちテストの結果が戻って来ただけ」
「結果を見せなさい」
言われて、ぶっきら棒にランドセルから、一枚の藁半紙を取り出し、それを手渡した。
算数の問題だった。98点。言うまでもない高得点だ。難しめの計算問題から、図、グラフの問題。そして大問の最後の方の文章題も、完璧な答えだ。
しかし、母親は結果が不服だったらしく、小刻みに身体を横に振るわせ、その結果を眺めている。元々100点以外の点数は認めない程、融通の利かない女だったが、今日は特に怒りに震えている事が菜々芽には解る。此方も伊達に、10年付き合ってはないと言う事だ。
「――菜々芽!!」
口角泡を飛ばし、母は叫んだ。
「こんな簡単な問題で、100点を取れなかった事もそう!! だけど、私が許せないのが、何だか解る!?」
「……」
沈黙で、菜々芽は返した。それが、母の怒りを増長させる結果となった。
「貴女、こんな簡単な問題を間違えるなんて、わざとやったでしょ!!」
言って母親は、藁半紙を菜々芽に突き付けた。
実を言うと菜々芽が100点と言う王手をかけらなかった問題と言うのは、全然難しい問題じゃなかった。
それ所か、彼女程頭の良い少女なら目を瞑ってても解けるし、同じクラスの一番頭の悪い男の子でも、30秒あれば十分解けるレベルの簡単な問題だ。
その問題とは、大問の1番の、最初の計算問題。しかも、4桁の数字の足し算だ。誰が見てもサービス問題。それを菜々芽は、空白で提出したのである。
書き忘れはあり得ない。最初の問題のパラグラフの小問を、全て彼女は正解している。わざと――それこそ、母親への意趣返しでもやらねば、この結果はあり得ない。
「見えてなかっただけだよ、お母さん」
「ッゥ……!!」
本当にそうだった、とでも言うような風に菜々芽が答える。
それを受けて、全身の血液が全て顔に回って来たように、母親の顔は真っ赤に染まり、菜々芽の事を睨みつけた。
「もういい!! そうだったらしっかりとケアレスミスした事を自室で反省なさい!!」
言って、バッと2階の菜々芽の私室を指差し、母は彼女から目を逸らしそう叫んだ。
母親としては、9割方菜々芽は自身の母は失格だと思っていた。しかし残りの1割の部分を母と認めているのは、理性を働かせて、
菜々芽に余り手を上げる事がないからだ。だからこそ、菜々芽は母の事を「お母さん」と呼んでいた。
いつまでもその場にいると流石に母から手を上げれても文句は言えないと思い、そそくさと靴を脱ぎ、揃えてから、2階の自室へと菜々芽は向かう。
彼女の思う通り、この聡明な10歳は、わざと問題を空白で提出した。確かめたかったからだ、自らの母親を。
結果は、あの通り。菜々芽の母親に、あんな意趣返しそのもののミスをしたテストを提出しようものなら、烈火の如く怒る事は解っていた。解っていて、菜々芽は提出した。
――だって菜々芽は、元々冬木と言う街の住民でもなければ、昭和55年にはそもそも生まれてない少女であったのだから。
この世界に来てから彼女は、自分のいた年代と今の年代の差額を計算した。菜々芽どころか、自分の母親ですら二歳児、三歳児程度の年なのだった。
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要するに光本菜々芽は、この世界――或いはこの年代の――の住民じゃないと言う事だ。
何でこの世界に菜々芽が存在するのか、彼女自身よく解ってない。気付いたら、彼女は此処にいた。
スマートフォンや薄型テレビが当たり前になっていた彼女の世界から、二十年三十年時を巻き戻した様な生活水準。
そして、菜々芽からすれば最早学校で習う歴史の中で起っていた世界情勢が、当たり前のように周りを取り巻いている。
タイムスリップしてしまったと、思い込むのも無理はない事柄だった。であるのに、母親は元居た世界のような風貌と物の考え方で健在していて。
しかも自分にはしっかりと、公立小学校に通う女子小学生と言う役割すら与えられている始末だ。抓って、この世界が夢でない事を菜々芽は確認している。
あの母親を装う女は偽物の誰かなのではないかと思い、反応を試す上で、わざと抜き打ちテストの答えを間違えて彼女を試すような真似をしたが……。
結果は先程の通り。菜々芽自身が、母親までタイムスリップして来たと思う程彼女は、元居た世界の彼女通りの反応をする。頭が、どうにかなりそうだった。
……いや、もしかしたら、もうなっているかも知れないのか。
元々いた世界では、自転車を漕いでクラスメイトの浜上優に会いに行こうとした時であった。
下り坂に差し掛かった時、ブレーキが効かなかった。ブレーキを駆動させる為の線を知らぬうちに切られていたのだろう。
そのまま如何するか考えている時に、横合いの道路からトラックが突っ込んで来て――其処からの記憶が、ない。
此処は、天国なのか地獄なのか。菜々芽はもしかしたら、此処は死んだ人間が行く世界なのかと、本気で考えていた。
「いいや、それは違うな」
男とも女とも判別出来ぬ声が、菜々芽の部屋に響いた。机に向かい自習をしていた菜々芽が、その方向を振り返る。
顔中に包帯を巻き、その上にお札――呪符、と言うらしい――を何枚も張り付けた人間がいた。
ゆったりとした服装からは、性別を窺わせない。包帯も顔中に巻いているのではなく、右眼だけは露出させているのだが、それが異様に大きく、魚めいてギョロっとしていた。
「此処は間違いなく生きてる人間達の国。一人たりとも死んで、霊体や魂だけになった奴らは存在しない。正真正銘、リアルの世界さ」
その不気味な風貌からは想像もつかないが、意外にお喋りらしく、この人物は度々菜々芽とコミュニケーションを図ろうとする。
今彼が違うねと言ったのだって、彼が菜々芽の身の上を聞いて来たから、それに彼女が答えたからであった。
何故そうまで話したがるのかと聞くと、「オレはカカシじゃないんだ。それにお前はオレのマスターだろ、話ぐらい通しとけ」、と至極正論。
……そう、この人物こそが、菜々芽のこの世界に於ける違和感を共有してくれる者。この世界に於ける現状唯一の、菜々芽の味方。
アサシンのサーヴァント。これから菜々芽が巻き込まれる事になる――聖杯戦争と言う名前の殺し合いを制する為の、右手であり唯一の剣だった。
「それにしても……陰険な女だなぁ、その、蜂屋あいって言うのはさ」
蜂屋、あい。その名前を聞く度に、身体が強張る。緊張と言うのもあるが、それ以上に怒りだった。
多くの人物のレールを乱し、グチャグチャにする天使の身体と顔を持つ、おぞましい悪魔。彼女はしかも、自分から手を汚さない。
手練手管を用い、天使の風貌に惹かれた者達を巧みに操って、自分が楽しいと思う悪事を働く少女。それが、菜々芽には許せなかった。堪らなく、認められなかった。
「それで、お前は如何したいんだ? 聖杯使って蜂屋あいでも殺すか?」
殺す。その言葉をアサシンから聞いた瞬間、ゾッと怖い物が足元から這って出て来た感覚を菜々芽は憶えた。
余りにも、物質的な量感を伴い過ぎていた。一目見た時から、人間以外の何かで、そして、小突けば自分など粉々になるだろう程の力を有している事は、解っていた。
そんな人物が殺すと口にしたのだ。異常なまでの現実感を、錯覚してしまうのも、無理からぬ事なのだ。
「殺すまではしない」
それ位の良識は、菜々芽にもある。殺してしまえば、蜂屋は悲劇の被害者になる。
一方殺してしまえば、菜々芽の方は一生鬱屈とした気分で、残りの人生を過ごさねばならなくなる。それは、蜂屋あいとの戦いへの敗北に等しい。
殺してしまった方が敗者で、殺されてしまった方が勝者。その関係が、蜂屋と菜々芽の関係で代入されてしまう事が、菜々芽は許せない。
「でも話を聞くに、そのあいって娘、手遅れだぜ。そう言う手合いは昔何度も見て来たよ。そいつは多分、自分が殺される段になっても、笑って死を受け入れる位の度胸を持った、筋骨の通ったバカだ」
「だから、殺すしかないと?」
「野蛮?」
「幻滅した」
「アサシンって、暗殺者って意味だぜ? 今更だろ」
ふっ、とアサシンは笑った様子を見せる。
「お前の言う4年2組、だっけ? そんなにお前の手で、そんなちっぽけな世界を取り巻く問題を解決したいのか?」
「……どう言う意味?」
菜々芽が声に冷たい物を宿らせても、アサシンからすれば脅しにもならないだろう。現に彼は全く答えた風を見せず、平然と返事を行っていた。
「お前は、その年の人間って奴にしちゃ、変に度胸の据わった奴だと思うよ。そんな奴だったら、喧嘩も滅多に売られないだろ。何で態々、修羅の道を選ぶんだ?」
「救いたいと思ったからよ」
菜々芽の返事は、簡潔で、そして、意思の強さを感じられるそれだった。
「アサシンは、教室の事をちっぽけな世界だって言った。そうだと思う。子供が30人しかいない世界、ちっぽけにも程がある」
「――でも」
「そんな世界でも、子供達なりの道理と法則が働いてて、皆それに沿って動いてる。それに子供だけじゃない、子供の親も世界に関わる人物に含めるなら、教室の世界はもっと広がる」
現在進行形で子供ある菜々芽は、よく理解している。教室とは子供が中心の世界であり、そして、子供の法則に従って動く『社会』であると。
心と知性を持った人間が複数人集えば、その時点で
ルール等の規範が生まれる。それは即ち社会であり、法則だった。
子供達の世界にもそれがある。大抵は他愛のない、大人から見ればつまらない法則で動く社会だろう。
――しかし同時に、子供は染まりやすい。良きにつけ悪しきにつけ、影響を受けやすい。
そして4年2組は、蜂屋あいと言う黒に染まり切ってしまった。子供ゆえの無邪気は、蜂屋の黒によって残酷さに反転してしまった。
子供はブレーキの利きが緩い。平然と、一線を越える。彼らが元来有していた未成熟で、しかしそれでいて大人のそれよりもずっと恐ろしい、無邪気さゆえの残酷さは、
クラスメイトだった曽良野まりあを呆気なく死に追いやり、しかも彼らの多くがその死をまともに受け止めていない。大人からしたらあの教室は、異常な世界だった。
今あの、子供の法則だけが絶対の珊瑚島で、大切な少女が追い詰められている。
浜上優と言う名のその少女は、教室は勿論、家からも阻害され孤立していた光本菜々芽の光になり、淀んだ心を綺麗にしてくれた水の様な少女だった。
彼女があの狂った世界に身を置き、変わって行く様子が、見ていられない。
一度は、蜂屋との勝負に負けた菜々芽だった。端的に言って、浜上は今憔悴状態に陥っている。
しかし、今度は絶対に負けない。絶対に蜂屋あいの正体を皆に知らしめ、あのクラスを元通りの世界にするんだ。クラスの為に。そして、自分の光になってくれた浜上優の為に。
「だからアサシン。私の大切な、だけど、戦わなくちゃいけない世界の事を、ちっぽけだなんて言わないで。私は、本気で戦ってる」
それを受けて、アサシンは無言を保っていた。
数秒程経って、やおら、と言う様子で顔の包帯をシュルシュルと器用に解いて行き、それをパサッと地面に置いた。
――その顔を見て、菜々芽は、絶句した。まるで、そう言う表情を浮かべるのが、当然の礼節であると言うように。
「オレが醜いと思うか?」
平然とアサシンは言った。
「まだある」
言ってアサシンは、自分が着ていた道着にも似た服も脱いだ。
衣擦れの音が痛い位菜々芽の耳に大きく聞こえる。パサッと地面に服が落ちた。
アサシンは女だった。きめの細かい白い肌と言い、肉体の見た目の柔かさと言い。
乳房もあったし、男に生えているべきものが伸びている所には何もなく、彼女の橙色の髪と同じ色をした陰毛が鬱蒼と生えているだけだった。
――だが、彼女の身体の右半分の殆どは、赤く醜く焼け爛れていた。
火傷を負ってこうなったと言うよりは、酸性の液体を浴びせ掛けられてこうなったと言うべきそれで、その爛れた痕が、
彼女の頭の右半分の殆どと、胴体の右半分全て、そして脚部の中頃まで続いていた。包帯の奥から覗くギョロっとした右眼は、瞼がなくなったからであった。
右腕も殆ど機能していないのか、機械に似た義腕を肩の付け根の辺りから嵌めており、爛れた頭の右側頭部にも、演算の補助を行う為の副次的な装置を取り付けている。
アサシンは、自分の事を醜いかと聞いて来た。
絶句はしてる。しかし、目を離せない。それはアサシンが、醜いからではない。寧ろ菜々芽は、その爛れた所を綺麗だとすら思っていた。
アサシンが余りにも、自身の負ったこの傷に、負い目も引け目も感じていない。それどころか、己を象徴する勲章であると誇っている風にすら見えたからだ。
だから、美しい物に菜々芽は見えた。女としては、死んだも同然の姿。その事を、アサシンは誇っている。そんな様子が、美しいのだ。
「生まれたその時から性奴隷だった」
アサシンは語り始める。
「生まれて間もなくやられた事が、子宮の除去だった。おかげでオレは今も昔も、女の癖に子供の産めない身体になっていた」
話を続ける。
「初めての相手は血の繋がった実の父親。誕生日の度にオレの身体には傷が刻まれ、次の誕生日が来るまでに、お前には想像も出来ないような事をオレはやらされたよ」
そしてすぐに、アサシンは焼け爛れの痕をつつとなぞった。
「7歳の頃に自分から酸を被った。親父の性奴隷と性癖を満たす為の運命から逃れる為に、女である事を完全に捨てた。当然の処置と言うように、奴はオレを肥溜の中に捨てた。その時からオレは、我武者羅に走り続けて、今みたいな風になった」
爛れの痕をなぞっていた人差し指を離し、目線を菜々芽の方に向ける。
「醜いって言われなくて良かったよ。この傷はオレの誇りなんだ。どんな腕の良い医者にも、治させやしない」
そう、理解した。
アサシンにとって自分の右半身の焼け爛れの痕は、自分が呪われた運命から脱却出来た事を何よりも雄弁に証明する証なのだ、と。
呪われた運命から逃れ、自分の運命を新しく切り拓ける切欠となったその傷を、彼女は何処までも誇っている。だから、どんな者にも治させないのだ。菜々芽はその事を、直感的に理解してしまったのだ。
「勘違いはしないで欲しいが、オレの方が不幸でありお前の不幸など大した事ではない、と言いたい訳じゃないぞ」
「じゃあ、何て言いたいの」
「お前は子供らしくなさすぎる」
単刀直入にアサシンは言った。
「確実に言える事は、お前の境遇は少なくともオレよりはずっと恵まれている。頼る奴もいるし、取り巻く環境もオレがお前と同じ歳の頃程絶望的な訳じゃない」
それはそうだろう。生まれた時から奴隷として運命づけられた女に比べれば、世の殆どが恵まれているに違いない。
「お前の周りは、そんなに信頼出来ない奴ばかりか?」
「……解らない。けど、同じ思いの人は、いる筈」
「敵は強いと思うか?」
「強い」
「お前一人で勝てそうか?」
「……」
「だったら、もっと子供らしく素直に振る舞っておけ。そうすれば、道もいつかは開くさ。少しお前は可愛げがなさ過ぎる。あれじゃ母親も怒るぞ」
「お母さんは関係ない」
「まともな家族と無縁だったオレがこんな事を言うのもアレだが、家族は大事にしとけよ。オレには一生解らないが、結構良いものらしいからな」
そう言うとアサシンは、脱いだ道着を慣れた要領で身に付けて行く。その様子を眺めながら、菜々芽は、口を開いた。
「アサシン、人を元気づけるの、苦手でしょ」
シュッと。道着をちゃんと着用してから、返事をした。
「見ての通りさ。オレもお前と同じで、友達が少なくてね」
「少し、元気づけられた。……ありがとう」
「どういたしまして」
包帯を拾い、それを顔に巻こうとした、その瞬間だった。
「――アサシン」
「どうした?」
巻きかけの体勢のまま、アサシンが言った。
「……私を絶対に、元の世界に戻して」
「そんな事か」
つまらない、しかし、それが当然の仕事だと言うような態度で菜々芽の方に向き直り、アサシンは口を開く。
「お前の引き当てたサーヴァント――『軀(むくろ)』は雑魚共には遅れは取らんさ」
出来の悪い妹でも見るような瞳で、軀が言った。
聖杯戦争への緊張と、これから待ち受ける過酷な運命で濁っていた菜々芽の心が、水を注がれたように、少し綺麗な物になって行くのを、彼女は感じたのだった。
【クラス】
アサシン
【真名】
軀@幽☆遊☆白書
【ステータス】
筋力C+~A++ 耐久A 敏捷B+~A++ 魔力A 幸運E- 宝具EX
【属性】
混沌・中庸
【クラススキル】
気配遮断:B
サーヴァントとしての気配を断つ。隠密行動に適している。完全に気配を絶てば発見することは非常に難しい。
【保有スキル】
卑賤よりの栄光:EX
低い身分から始った人生において、どれだけの成功を掴めたかを象徴するスキル。
その性質上当該スキルの持ち主は、賤民或いはそれに近しい身分の出でなければならない。
黄金律とカリスマを兼ね備えた複合スキルであるが、アサシンの場合におけるこのスキルのEXはAランクの更に上と言う意味であり、黄金律・カリスマ共にアサシンの場合はA+ランクに相当する。生まれたその瞬間から性奴隷としてスタートし、その身分から、力こそが全ての魔界で強大な王国を作り上げ、最低でも千年以上国王として君臨してきたアサシンのスキルランクは、規格外のそれを誇る。
気分屋:A
気まぐれな性分であるかどうかのスキル。ランクが高ければ高い程、行動に一貫性がなくなる。
アサシンの場合は、行動にも目的意識も極めて一貫性が高いが、彼女の場合その気まぐれさは戦闘に表れる。
平和的、競技的な性格を秘めた戦闘において、アサシンのステータスは低下する。特に顕著なのが筋力と敏捷である。
威圧:A+
S級妖怪の遥か上を往く、魔界の三大妖怪としての威圧感。
このランクになると、ランクB以下の精神耐性の持ち主はアサシンの姿を見るだけで怯み、Aランク以上でもこの限りでない。また、同ランクまでの精神干渉を無効化する。
【宝具】
『支配せよ、痴れた大地を』
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:-
個人の性奴隷と言う、最低最悪の身分から人生が始まり、其処から徐々に力を付けて行き、力こそ全てと言う理と『無秩序』が絶対の概念である魔界に於いて、
三大妖怪とまで言われる程強力な個体にまで成長、遂には巨大な国家をも樹立した、アサシンの成功譚及びそれによって獲得した王威が宝具となったもの。
アサシンはスキル、卑賤よりの栄光に内包されている『カリスマのスキルランク以下のカリスマスキルの持ち主と、そもそもカリスマを持たぬ存在』に対し、
大幅なファンブル率の上昇と此方側の行動の達成値に大幅な上方修正を掛ける事が出来る。
これを無効化するにはランク以上のカリスマ系スキルと、Cランク以上の叛骨の相に似たスキルが必要になる。対魔力での防御は不可。
厳密には『卑賤よりの栄光スキルを最大限に発揮している状態こそがこの宝具』であり、発動は任意。使用中は魔力の消費が掛かるが、スキルの延長線上の宝具の為消費は低い。
【weapon】
【人物背景】
魔界の奴隷商人であった痴皇と呼ばれる男の娘であり、彼の玩具奴隷として人生をスタートする。
生まれた時から腹を改造され、痴皇に弄ばれる日々を送るも、7歳の誕生日に自ら酸をかぶることで痴皇の興味を殺ぎ、捨てられる事で自由を手にする。
その後、我武者羅に魔界の住民を殺す日々が続き、いつしか魔界の一角を牛耳れるほどの力を手にし、強大な国家を形成する。
彼女の歴史は想像以上に古く、彼女が巨大な国家を形成し、無敵の妖怪として君臨していた頃には、作中の殆どの人物は妖怪含めてまだ生まれてすらいなかった程。
その後、飛影と呼ばれる男との出会いややり取りもあり、過去にけじめをつけ、一人の妖怪として生きて行く事になる。
【サーヴァントとしての願い】
特にないし、未練もない
【マスター】
光本菜々芽@校舎のうらには天使が埋められている
【マスターとしての願い】
元の世界への帰還。この際、マスターはなるべく殺したくないし、そもそも戦闘も避けたい
【weapon】
【能力・技能】
【人物背景】
教師からですら面倒くさがられる程の教育ママを持ち、度重なる不幸な出来事と性格のせいで、クラスからも孤立していた少女。
ある時一人の少女の温かさに触れ、彼女の友達になりたいと願うも、その友達が酷いいじめに遭っていた事を知る。
元々いじめの事は知っていたが、部外者のスタンスを崩さなかった菜々芽であったがその後、友人を護れなかった事を後悔。
今度こそいじめを止めさせようと行動に出、蜂屋あいと戦うようになった
二巻終了時の時間軸から参戦
【方針】
元の世界への帰還。蜂屋あいとの決着には、聖杯を絶対に使わない。
【把握媒体】
軀:
初登場巻は全19巻の内17巻とかなり遅め。最悪17巻からでも把握は可能だが、このキャラクターと絡む飛影は作中初期から登場するキャラクターの為、完全に把握したいとなると、1巻からの把握が推奨
光本菜々芽:
2巻まで見れば凡そ把握は出来る。彼女のカッ飛んだ行動力等が見たいとなると最低3巻までの把握が必須となる。こいつ本当に小学生なんすかね……?
最終更新:2016年07月03日 21:37