「ええ街やなあ」
「そうですね、マスター」
夜の冬木市。
その中でも一際高い建物の屋上に影が二つ。
一つは肢体がすらりと伸び、豊満な肉体をした女。
もう一つは、カナヘビのような小さな爬虫類である。
彼らの眼下には未だ活動を続ける街の姿がある。
「仕事柄、ボクはこれまで色んな場所を巡って来たもんやけども、そん中でも上位に入るくらい良いところやわ、ここは。一見、普通の街にしか見えへんけど、そこが逆にええねん。普通、万歳」
カナヘビの方が、京都弁の強いボーイソプラノボイスでそう言うと、両手を上げて万歳の姿勢をとる。
今までとある組織で異常な物ばかり見てきた彼にとって、こういう平凡な街こそが逆に素晴らしく見えるのだろう。
そもそも、カナヘビが人語を喋っている事はかなりの異常事態なのだが、女の方はそれに対して驚いている様子も不思議に思っている様子もない。
女はゆったりとした口調で、カナヘビの言葉に答える。
「この街には平凡な平和があります。人と人が、男と女が、母と子が笑って暮らせる平和が。私は、それがとても嬉しいことだと思えるのです」
「うんうん、分かるわー。分かる分かる。幸せな人たちって見てるだけで、コッチも幸せになってくるもんなあ」
女の言葉にカナヘビは首を縦に振りながら同意する。
「けどまあ……こんな平和な光景が見れるのも、聖杯戦争が本番に突入するまでなんやろうけどな」
「…………」
聖杯戦争。
それはこの平和な街で近々開かれる争いの名だ。
参加者として選ばれた複数の人間が人の常識を超えた存在――サーヴァントを召喚して使役し、奇跡の願望器である聖杯を巡って殺しあうのである。
この男女もそれの参加者であった。
カナヘビの方がマスターで、女の方はサーヴァントである。
「バーサーカー。キミってめっちゃ強いやん?」
カナヘビが放った突然の質問に、バーサーカーと呼ばれた女は軽く首を傾げるも、次のように答える。
「? ……まだ未熟ですけれど、それなりには強いという自負があります」
「でも、キミと渡り合えるヤツらもこの戦いにはぎょうさん参加するんやろ?」
「……ええ、まあ、おそらくは」
「そんなヤツらがこんなちっさな街で殺しあったらどうなるんかなぁ?」
まず街に今まで通りの平穏が続くことはあるまい。
サーヴァント同士の戦闘は爆弾と爆弾の衝突という例えでは足りないほどの破壊を周囲に撒き散らすのだ。
ルーラーの存在により、無意味なNPCの殺戮は無いであろうにしても、やはり一般人から少なからずの死傷者が出ることは間違いないだろう。
無関係な人間にまで被害が及ぶのが、戦争という物なのだから。
「サーヴァントっちゅうketerレベルのヤツらがじゃんじゃか見れるイベント、と言うと、財団のエージェントであるボクとしては正直興味が湧く。けどな。それに一般人の皆様を巻き込むのは頂けへんな。そういう事が起きない為に、ボク……いや、ボクらはこれまで頑張ってきたんやねん」
どこの誰か分からない、この聖杯戦争の主催者を心底憎むような口調で呟くカナヘビ。
「こんなクソッタレなゲーム、ボクがちゃっちゃと終わらせたる。残念ながら、今ではまだ聖杯がどんなものか、どこにあるか、誰がこの戦争を主催してるのかも全然分からへん。やけどな。何処かに情報の断片や端末はあるはずや。それを集めて、いつか黒幕に辿り着いたら、ボクは聖杯を収容してみせんねん」
カナヘビの決意を聞き、女は頷く。
カナヘビは言葉を続ける。
「もちろん、その為にはバーサーカー、キミの助力が必要不可欠や。ほら、ボクって見ての通り、喋れるだけのカナヘビやん? 何の力もないねん」
「マスター、わざわざ言われずとも、私は最初から貴方の為にこの身を捧げるつもりです。だって貴方は魔性である私を自分のサーヴァントだと認め、契約してくれた人なんですもの」
「いや、正確にはボクは契約してくれた『人』ではなく『カナヘビ』になるんちゃうかなぁ」
「ふふっ……それに、子の力にならない母なぞ母ではありませんからね」
「母……? ま、まあ、キミがボクに協力してくれるんなら幸いやね」
カナヘビはそう言うと、足から女の身体をよじ登り、彼女の左肩の上に乗った。
「……そんじゃ、ま、早速やけどフィールドワークと行こか」
カナヘビとバーサーカー。二人(正確には一人と一匹)の姿はどちらも情報収集に向いていない。
まず、人語の話せるカナヘビなぞ知られるだけで大騒ぎになるだろう。
一方、バーサーカーの方は、その、なんと言うか、見た目が非常に扇情的なのだ。
もっとはっきり言えば、すごくエロいのだ。
身体の出るところが出てて、ピッチリとした衣服で身を包んでいる彼女は良い意味悪い意味の両方で目立つ。
以上の事からこの聖杯戦争という場での情報収集において、彼らは不利な立場に置かれていると言えるだろう。
だが。
「せやけど、ボクはカナヘビやからなあ。ちょっとした隙間さえあれば何処へでも入れるし、カナヘビサイズの小ささだからこそ人の会話を気付かれずに盗み聞きする事も出来るんやで」
「それにしても全く……財団から離れて、資料も部下もいない状態になると、情報集めるだけでもわざわざ苦労せないかんくなるとはなあ。やれやれやね」
カナヘビのその呟きを残し、一人と一匹はその場から姿を消した。
情報を求めて、街へと降りて行ったのであろう。
誰もいなくなった屋上には風が吹いていた。
【クラス】
バーサーカー
【真名】
源頼光@Fate/Grand Order
【属性】
混沌・善
【ステータス】
筋力A 敏捷D 耐久B 魔力A 幸運C 宝具A+
【クラススキル】
狂化:EX
理性と引き換えに身体能力を強化するスキル。
頼光の場合、理性は失われておらず、元の理知的な彼女のまま。
だが、その精神は鬼の血の濁りと、異常的なまでの母性愛の発露で道徳的に破綻している。
【保有スキル】
対魔力:D
一工程(シングルアクション)による魔術行使を無効化する。
魔力避けのアミュレット程度の対魔力。
頼光はセイバーへの適正が強い為、バーサーカーとして召喚された今でもこのスキルを保有している。
騎乗:A+
乗り物を乗りこなす能力。「乗り物」という概念に対して発揮されるスキルであるため、生物・非生物を問わない。
A+のランクでは竜種を除く全ての乗り物を乗りこなす事ができる。
頼光はセイバーへの適正が強い為、バーサーカーとして召喚された今でもこのスキルを保有している。
神性:C
神霊適性を持つかどうか。ランクが高いほど、より物質的な神霊との混血とされる。
牛頭天王の化身とされる彼女は神性も持つが、強引に封じた影響かランクはCに落ち着いている。
無窮の武練:A+
ひとつの時代で無双を誇るまでに到達した武芸の手練。
心技体の完全な合一により、いかなる精神的制約の影響下でも十全の戦闘力を発揮できる。
魔力放出(雷):A
武器・自身の肉体に魔力を帯びさせ、瞬間的に放出する事によって能力を向上させるスキル。
頼光は魔力を雷として放出する。
神秘殺し:A→B
魔性殺しの謂れがスキルと化したもの。頼光は四天王とともに数々の魔を打ち倒してきた。
魔性以外にもデミ・疑似以外の天と地属性のサーヴァントに対して特攻効果を発揮する。
だが、此度の聖杯戦争ではマスターが神秘や異常や怪異を殺すのではなく確保・収容・保護する側の者であり、その性質に引かれてこのスキルのランクは一段階落ちている。
【宝具】
『牛王招来・天網恢々(ごおうしょうらい・てんもうかいかい)』
ランク:B++ 種別:対軍宝具 レンジ:1〜100 最大補足:200人
魔性・異形としての自己の源である牛頭天王。
その神使である牛(あるいは牛鬼)を一時的に召喚し、これと共に敵陣を一掃する。
神鳴りによって現れる武具は彼女の配下である四天王たちの魂を象ったものである。
【サーヴァントとしての願い】
母と子が幸せに暮らす世界。
それは戦争とは真逆に位置するものである。
【人物背景】
「大江山の
酒呑童子」「京の大蜘蛛」「浅草寺の牛鬼」など、多くの怪異を討ち果たしてきた平安時代最強の『神秘殺し』。配下の坂田金時を始めとした「頼光四天王」を率い、都の安寧を守護し続けた。
史実では男と記されているが、とある事情で女となっている。
好きになってしまった者への愛情の注ぎ具合が異常であり、愛する者を息子のように扱う、母性愛が服を着て歩いているような存在である。
【マスター】
カナヘビ@SCP Foundation
【能力・技能】
異常オブジェクトを含めた数多の分野へ通じる豊富な知識
交渉、諜報、統率術
【weapon】
なし
【マスターとしての願い】
聖杯の収容
【人物背景】
京都弁を話す雄のカナヘビ。
あらゆる分野への深い知識を生かして財団のエージェントととして働いていた。
だが、此度の聖杯戦争ではただのその辺にいるカナヘビのロールを与えられている。
ちなみに英語はあまり得意ではない。
【補足】
クリエイティブ・コモンズ 表示-継承 3.0に従い、 SCP Foundationにおいてtokage-otoko氏が創作されたカナヘビのキャラクターを二次使用させて頂きました。
最終更新:2016年08月20日 13:26