凶悪犯罪が年々増加しているだとか、そういう話をメディアはいつの時代も狂ったように撒き散らして口角泡を飛ばしている。
だが実際の所、一つ一つの事件の凶悪さや残忍さは明らかに昔の方が勝っており、現代の方が幾分か平和である、というのはお約束だ。
いざ実際にこうして"昔"にやって来てみると、そのことがよりいっそう深く実感できる。
―――昭和、五十五年。
赤軍派の猛威が一段落し、社会はある種"落ち着き"のフェーズへと入り始めた時代。
それでも、現代に比べて数だけでいえば犯罪数はやはり多い。
あの魔人などはこの有様を見て大いに喜ぶのではないかと、刑事・
笹塚衛士は紫煙を吹かしながら心中で独りごちた。
腕時計の時刻は午後四時を示している。笹塚は今、とある事件についての聞き込み調査を終え、警視庁へと帰る道中であった。
事件自体はなんてことのない通り魔殺人で、目撃証言も比較的多く、こうなっては犯人が割り出されるのは笹塚の経験上時間の問題だ。
早ければ数日、長くても半月。
それくらい過ぎた頃には、ワイドショーや新聞がセンセーショナルな見出しと共に犯人の顔写真や名前を取り上げていることだろう。
そして、一週間もすれば忘れ去られる。
一ヶ月もすれば、大半の人々の記憶から抜け落ちる。
当の刑事たちですらも、そうだ。
いつまでも解決した事件に延々思いを馳せているようでは、とてもではないが警察官は務まらない。
故に、誰もが忘れていく。
そこに例外があるとすれば、残された側のみだ。
人間のふりをした怪物は実在する。
言葉通りの意味でも、比喩的表現としても。
少なくとも、笹塚は両方を知っている。
本当の意味で、人間を逸した肉体を持つ"怪物(モンスター)"。
人を人とも思わず、記憶にすら残さないような気軽さで殺人を犯す"怪物(シリアルキラー)"。
後者の怪物は、容易に死を忘却する。
自らの罪を、記憶の海から消し去ってしまう。
意識もせずに、当然のように。
飯を食い、それを排泄するように―――彼らは、人の命を奪うのだ。
しかし。
これは曲がりなりにも正義を名乗る職務に就いている人間の口にして言い台詞ではないが、そのどちらかしか持たないのならば、まだいい。
確かに社会に野放しにしておくには悍ましすぎるし、彼らは檻の中に入れられるか、正義の凶弾に倒れるまでの間、遠慮なく凶行を繰り返すだろう。
それでも――罪悪感を抱く怪物であれば、まだ救える。
心の中にしか居ない怪物を心理に飼う殺人者であれば、まだ手が打てる。
だが心と肉体、その両方に怪物を宿した"悪意(Sick)"は、それらとは文字通り次元の違う存在となる。
悪意の塊として生まれ落ちた存在を討つには、人生を捧げる必要がある。
己の人格を含めたあらゆるものを犠牲にして、ただ一つ掲げた目的を追い求める必要がある。
笹塚衛士は、事実そうしてきた。
あの日から。一人、一個、一つの悪意によって、愛すべき家族を惨たらしく奪われた時から。
裏の世界に入り、作れる限りの人脈を作った。
南米のマフィアに身を寄せ、戦闘スキルも磨き上げた。
出来ることは全てやってきた。
後はこの懐に収まった銃弾を、奴の心臓に撃ち込むのみ。
―――そして今。笹塚衛士は、最後の弾丸を探し求めて、昭和の時代を訪れている。
警察官が刺青をしているというのは、社会通念上やや問題がある。
その為笹塚は今、右腕に火傷を負ったという設定で、軽く包帯を巻いて令呪を隠していた。
正確には刺青ではないのだが、素人目にはまず区別など付かないだろう。
付く者が居たとしたら、それは笹塚にとっての排除すべき邪魔者だ。
「全くお笑いね。何が"怪物"よ――アンタだって、そうなんじゃない」
くつくつと、歪んだ嘲笑が聞こえる。
笹塚は、それに対して返事はしない。
自分の呼び出した英霊ではあるが、彼女と会話をするほど不毛なことはないと、少なくとも彼はそう思っていた。
しかし、彼女の言う通りだと自虐する自分が心のどこかに居るのもまた、確かだった。
笹塚衛士は聖杯戦争に乗っている。
彼は、冷たい覚悟を決めた人間だ。
この時代を訪れるよりも遥か前から、笹塚は目的を遂げるためならどんな事でもする覚悟があった。
その彼にとって、聖杯戦争にどのような姿勢で臨むかなど……愚問でしかなかった。
復讐のために、笹塚は人を殺せる。
自分以外の願いを踏み躙り、そうして死んだ希望を道標にして、止まらずに歩み続けられる。
聖杯という、"至高の弾丸"を手にするまで。
彼はその過程で出した犠牲に、頓着しないだろう。
殺した相手を忘却して、怪物のような精神性で戦いを進めるだろう。
――だからやはり、この聖女(アヴェンジャー)の言うことは間違っていない。
此方の神経を逆撫でする子供じみた嗜虐のようでありながら、その実的を射た指摘である。
「貴方はかくも哀れな男です、笹塚衛士。……ああ、いえ。そうでなければ、私みたいなモノを呼んでしまう筈もありませんか」
彼女に言葉を返すことはせず、煙草を携帯灰皿で揉み消して、笹塚は停車中のパトカーに乗り込むべく歩き始めた。
アヴェンジャーの暴言に心が痛むことはない。感じ入ることも、やはりない。
全て、事実であるからだ。ならばそれにいちいち過剰な反応をして疲弊するのは、賢い選択とは言い難いだろう。何より非効率的だ。
復讐者が復讐者を呼ぶ。恩讐が恩讐を呼び起こす。
魔術の心得など流石に持たないが、どうやら聖杯とやらは、なかなかに良い性格をしているようだと笹塚は思った。
そこでふと、ある探偵と、その助手を名乗る男の顔が脳裏をよぎる。
彼女達は今、何をしているだろうか。
彼女達は彼女達なりのやり方で、笹塚が追う"悪意"を打ち倒さんと尽力しているのかもしれない。
それでいいと笹塚は思う。
それならいいと、笹塚は思う。
無意識下に亡くした妹と重ねて見てしまっていた彼女。
探偵、桂木弥子。
あの少女には、自分が此処でこれから行うだろう戦いを見られたくなかった。
それはきっと酷く醜く、下劣で、外道じみたものになるだろうから。
「呆れた。よもや今更、外面などに気を遣っているのですか? 復讐者に堕ち、殺すしか能のなくなった男が?
くす―――道化を演じるのもその辺にしたら? 度を過ぎたパントマイムは、ただ不愉快な奇行に過ぎないわよ」
「……そうかもな」
堕落した聖女が笑っている。
彼女の指摘は、やはり正しい。
かつて大衆の正義に押し潰され、陵辱の末に火刑と消えた聖女。
――とある魔元帥の激情や偏見が混入したことで、あり得ざる側面が表に浮き出た復讐の魔女(アヴェンジャー)。
彼女のような存在を呼び出してしまったのは、きっと聖杯が己に吐いた皮肉なのだろう。
ならば、それでもいい。これでも自分は刑事だ。
人の悪意に晒されることは慣れているし、巨悪を討つことを目指す復讐鬼が、これしきの小さな悪意に挫けていては本末転倒というものである。
此処に、正義を騙る笹塚衛士の姿はない。
あるのは、ただ泥と死臭に塗れた殺人鬼だ。
瞳の奥底に危険な決意と暴力の香りを宿し、彼は聖杯という名の弾丸を求む。
【クラス】
アヴェンジャー
【真名】
ジャンヌ・ダルク[オルタ]@Fate/Grand Order
【ステータス】
筋力A 耐久C 敏捷A 魔力A+ 幸運E 宝具A+
【属性】
混沌・悪
【クラススキル】
復讐者:B
調停を破る者である。
莫大な怨念と憤怒の炎を燃やす者だけが得られる、アヴェンジャーというクラスの象徴。
忘却補正:A
忘れ去られた怨念。
このスキルを持つ者の攻撃は致命の事態を起こしやすく、容易に相手へ悲劇的な末路を齎す。
自己回復(魔力):A+
読んで字の如く、自身の魔力を自動的に回復する。
戦闘中でも休息中でも関係なく一定量の回復を続けるため、基本的にガス欠になりにくい。
【保有スキル】
自己改造:EX
自身の肉体に、まったく別の肉体を付属・融合させる適性。
このランクが上がればあがる程、正純の英雄から遠ざかっていく。
竜の魔女:EX
とある男の願いが産み出した彼女は、生まれついて竜を従える力を持つ。
聖女マルタ、あるいは聖人ゲオルギウスなど竜種を退散させたという逸話を持つ聖人からの反転現象と思われる。
竜を従わせる特殊なカリスマと、パーティの攻撃力を向上させる力を持つ。
うたかたの夢:A
彼女は、ある男の妄念が生み出した泡沫の夢に過ぎない。
たとえ、彼女がそう知らなくとも。
【宝具】
『吼え立てよ、我が憤怒(ラ・グロンドメント・デュ・ヘイン)』
ランク:A+ 種別:対軍宝具
竜の魔女として降臨したジャンヌが持つ呪いの旗。
復讐者の名の下に、自身と周囲の怨念を魔力変換して焚きつけ、相手の不正や汚濁、独善を骨の髄まで燃やし尽くす。怖い。
【weapon】
旗
【人物背景】
フランスに復讐する竜の魔女。
我が物顔で正義を語り、そしてそれを疑わない人々への怒りに駆り立てられる聖女。
ジル・ド・レェがそうであってほしいと願った彼女の姿。
【サーヴァントとしての願い】
復讐。
【マスター】
笹塚衛士@魔人探偵脳噛ネウロ
【マスターとしての願い】
聖杯の力という"弾丸"を手に入れ、
シックスを殺害する
【weapon】
拳銃
【能力・技能】
裏の世界で身に付けた戦闘能力や破壊工作の技術。特に射撃の腕前は天才的だという。
【人物背景】
常に無表情でくたびれた雰囲気を漂わせる、無精髭を生やした刑事。
「低いテンションと高い実力」で有名であり、テンションの低さはなぜか生命活動にまで現れ、動きをほぼ完全に停止することを得意とし、塩と焼酎と日光だけで2週間生き延びたこともある。その一方、いざという時の動作は極めて俊敏。
家族をシックスという男に皆殺しにされた過去を持ち、その復讐のために力を得てきた。
【把握媒体】
アヴェンジャー(
ジャンヌ・オルタ):
原作ゲームもしくはプレイ動画。
wikiには台詞をまとめた項目もある。
笹塚衛士:
原作漫画。
全二十三巻となかなかのボリュームがあるが、アニメ版は大変出来がよろしくない上に彼の過去などが一切明かされないので、事実上漫画以外に把握の手段がない。
最終更新:2016年08月23日 17:11