ここは
シア皇国、その皇都の一画の各国の大使館が集まる地域である。
そこに日本の新しい大使館が建設されている。
シア皇国と日本は最も新しく国交を結んだため旧日本大使館は大使館地区の外れにひっそりと作られた。
この世界では国力などの要素によって大使館の位置や規模などにも明確な差が出る。列強や重要な友好国は政府施設に近い場所に大きな大使館を構えることができるが、弱小国は政府施設から遠い場所に小さな大使館を設立することしかできない。
そのため日本大使館は一時期各種外交活動にはかなりの支障をきたした。
しかし外れにひっそりと作られたことの利点もそれなりにあった。コンピューターや衛星通信装置など電子機器を稼動させるための太陽発電装置を設置するスペースを確保しやすかったし、何より人通りが少ないので各種機器の機密保持が容易、さらに脱出の際にはすぐそこの空き地を臨時のヘリポートとしても使用できた。
そしてシア皇国との紛争、タイラン独立戦争に介入して事実上勝利した日本国は列強各国と対等な位置に新たな大使館を建設中だった。新しい大使館の完成までしばらく時間が必要であり、その間の大使館業務は昨今保護国化した
ケリア聖王国の大使館を臨時大使館とすることで対応していた。
そこで日本大使の宮本俊哉大使は重要な客人達を迎えていた。
一人は宮元の側に座っているシア皇国の外務卿、これはそれほど重要人物とはいえない。本当に重要な客人達、7人の人間が取り巻きとともにテーブルの反対側に座っている。
彼らこそがこの世界を牛耳る列強7カ国の大使達だった。
「今回は大使の皆様方、お忙しい中お集まりいただきありがとうございます」
「いいえ、シア皇国外務卿の主催ですから」
宮元大使の発言にさしあたりない言葉で
ルネス主教国の大使が返す。
「面倒な形式的な挨拶は止めて率直にいきます。我が日本国はシア皇国に続いてあなた方列強各国とも友好、通商の条約を締結する準備があります。その回答をここでもらいたい」
文字だけで見れば、それは友好的な言葉だがこの世界の常識に当てはめると意外にも友好的とならない。この場合列強各国の大使達は『友好、通商の条約を結ばなければシア皇国のときのように圧倒的な日本軍の空海軍力で攻撃しますよ』という意味にとらえた。もちろん宮元大使や日本政府にそんな意図などなかったのだが。
「それは我々に決定できる問題ではありません。本国の指示を仰ぐ必要が」
「いえ、我々が求めているのは回答です。条約の事前協議を行うことへの」
「・・・・・・」
大使達は黙考して押し黙る。
「協議の目的はお互いの立場や文化への理解を深め、条約の迅速な締結のために内容をつめることです。本国からの指示で協議が潰れてしまっても問題にはしませんよ」
「わかりました。いいでしょう。我が
トスカーナ合衆国は協議に応じましょう」
列強最強を自負するトスカーナ合衆国の大使の合意をきっかけに各国大使が合意に続く。
「協議の場所は追って連絡します。今日の所はこのぐらいにしましょう」
宮元大使が会談を打ち切ったが、ああそうだといかにもわざとらしく思い出したような声を上げて各国の大使を呼び止めた。
「来月中旬、『暁同盟』の数カ国と合同演習を行う予定です。もしご覧になりたいのなら次の協議で申請してください。間に合えば席を用意しますよ」
意味深な言葉を耳に入れて列強各国大使達は臨時大使館を後にした。
「どう見る?」
「様子見だな」
「材料が少なすぎる」
帰り道、各国の大使達は今後の方針に活発な議論を交わしていた。
「外務卿、あなたのどうなのです?」
話をふられ、外務卿は少し考えて話し始めた。
「私の情報もほとんど変わらないだろう。かなりの情報不足だ」
ただ、と外務卿は続ける。
「私が知っているのは少なくとも日本軍の空海軍力は圧倒的だということだ。わが国は日本軍の機械飛竜によって開戦初日、全土の飛竜騎士団が壊滅的打撃を受けた。海軍も日本海軍の巨大な装甲艦の前に200隻もの軍艦を沈められた。ワンサイドゲーム、我々に反撃の機会はなかったよ」
ワンサイドゲームという言葉に大使達の表情が深刻なものになる。最強クラスの陸軍を保有する代わりに空海軍が列強最弱とも言われるシア皇国だがそれでも列強の一角を占めていることに変わりはない。その列強に対してワンサイドゲームを行うことができるのだ。
「ケリアでも日本陸軍は僅か3000で120000を制圧している。それも僅か二ヶ月でだ。進撃開始から数えれば実質一ヵ月半程度だろう」
外務卿の言葉に各国大使は耳を疑った。
早すぎる・・・
各国の大使達の意識は一ヵ月半という時間に集まった。この時代軍の移動手段は徒歩である。列強国と弱小国との紛争ならともかく、ケリア聖王国は小粒ながらそれなりに強力な国家である。進撃開始から一ヵ月半で首都制圧というのは機械化部隊ゆえの破格の速さであった。
「しかし、彼らの言葉は手放しに信頼できるとは言えないが少なくとも信用はできる」
外務卿は紛争の講和の際の交渉を語って見せた。
「うむ。新参者にしては意外と紳士的だな」
「まぁ、一応の良識はあるようだな」
「少なくとも話のわからぬ蛮族ではないということか」
「まあ、それは今度からの協議で確かめるとしましょう。で、皆様方は演習見学についてはどうするおつもりで?」
アルビオン王国の大使が話題を変える。
「もちろん駐在武官を派遣するつもりだ。日本軍の戦力を確認するにはいい機会だからな」
「ああ、少なくとも日本軍の装備がどのくらいのものか把握はできるだろう」
「見せようとしているのだから見てみようじゃないか」
少なくともこの時点では
ドッチュランド帝国とフレネス共和国、
ソニエト共和国連邦の大使達は自衛隊の装備を列強国の水準を僅かに上回るものとして捉えていた。
しかし、その認識は誤りであることをシア皇国の外務卿とシア皇国に優秀な情報網を持つトスカーナ合衆国とアルビオン王国の大使は知っていた。
そして、ルネス主教国の大使は別の懸念を抱いていた。
機械飛竜、巨大な装甲艦・・・まるで伝説だな
ルネス主教国は教皇を頂点として1000年以上政治体制が変わっておらず、戦火にも無縁だった。それゆえに各種歴史研究は最も進んでおり、700年前の世界大聖戦についても詳細な情報が残っている。
それゆえに機械飛竜と巨大な装甲艦という単語に反応したのだ。
こうして見解の相違を抱えたまま自衛隊の演習が始まろうとしていた。
最終更新:2006年08月17日 21:09