大きい。船というよりもこれは島と言ったほうがいいな
近づけは近づくほどその巨大な質量に圧倒される。舷側はまるで城壁のように高く格の違いを見せつけている。
まるで伝説に出てくる要塞艦だ・・・さらにこれが風のように速く動くというのか・・・
海軍が一糸も報いることなく壊滅したこともこの要塞艦を見せ付けられれば納得も出来る。
いったいどれだけの艦隊をそろえればこの要塞艦を沈められるだろうか・・・100隻?いや、これほど巨大な船だ、どれだけ艦隊をそろえようとも人の力では沈められないだろう・・・
そう思わせてしまうほどその存在は圧巻だった。
程なく内火艇が舷側に着く。そこにはタラップが降ろされておりそこから甲板へと上ることが出来た。
甲板上では水兵達が白い軍服に身を包んで舷側に整列している。
その光景に親善目的で来航したアルビオン海軍の面影を思い出す。
そこに高級士官用らしき軍服に身を包んだ初老の軍人が近づいてきた。
「『やまと』艦長の有坂雄治1等海佐です。本艦の全クルーを代表しあなた方の歓迎を表明いたします。ようこそ『やまと』へ」
艦長と握手を交わし、条約の締結場所である士官食堂へ案内されようとする時、リク皇帝は近衛兵が揉め事を起こしているのを発見した。
「ですから、武器の携帯は許可できません」
「それでは陛下をお守りできぬ!」
「よい。渡してやれ」
リクの言葉に近衛兵が躊躇する。
「は、ですが!」
「それが嫌ならそこで待っておれ。これは命令だ」
強く言われ、しぶしぶ近衛兵達は武器を手渡した。
それを確認して再び有坂艦長の案内を受ける。
「臣下が失礼をしましたな」
「いえ、規定で武器の携行を許可できず申し訳ありません」
リクの謝罪をあくまで大らかに有坂艦長が返す。その態度に人柄の良さを感じた。
程なく条約の締結場所である士官食堂に到達する。
「締結は署名した文書を交換する我々の方法で締結したいと思います」
「ああ、わかった」
二人とも用意された2枚の文書に署名を行う。そして、手交した。それを確認して有坂艦長が祝いの言葉を述べる。
「この条約が両国の末長い友好の印となることを願います」
第一報はその直後だった。
『CIC砲雷長より艦長!エマージェーシーコール!』
その放送に有坂艦長は機敏に反応し、艦内電話を取る。
「こちら艦長、どうした?」
『大陸上空に所属不明の不審機4を捕捉。こちらに向かってきています。速度約150ノット、接触予想時刻+45。指示を願います』
「レーダーによる監視を継続。光学映像による確認を急げ!」
『了解!』
砲雷長の答を待って有坂艦長は電話を降ろすとリク皇帝に向き合った。
「本艦のレーダーが大陸方面から本艦に向けて飛来する機影を捕捉しました。安全が確保されるまで本艦からの退艦はご遠慮させていただきます」
その言葉にリク皇帝はピンと来た。
軍務卿か・・・
彼は代々皇室に使える武門の出身で、生真面目な人間であった。
さらに有坂艦長は識別の為ブリッジまでご足労願いますと言って、ブリッジに入れられた。
『相対距離45000、光学映像を送ります!』
モニターの一つに画像が出る。そこには4騎の飛竜、そのうち1機は旗を持っている。それは予想通りの旗だった。
「彼らはシア皇国軍ですか?」
有坂艦長が無機質な声で質問を投げかける。
「いや、そうではない」
と答えるしかない。それが軍務卿の望みであり、シア皇国を守る唯一の方法なのだから。
「それは国家元首としての信用の置ける言葉ですか?」
「ああ」
その答を聞いて有坂艦長は一瞬表情を翳らせたが、すぐに気合いを入れなおす。
「所属不明不審機を敵機と認定!総員合戦準備!対空戦闘用意!」
命令が下命され、警鐘が響き、水兵たちが慌しく動き出す。
「緊急時につき確実を期す為ミサイルによる迎撃を許可する!」
『左舷VLS1セルから4セルESSM射撃用意!』
『左舷VLS1セルから4セルESSM起動!イルミネータデータ・リンク!スタンバイ!』
『左舷VLS1セル、2セルESSM、ファイア!』
左舷のVLSが開放され、噴煙と共にESSMが飛翔を開始する。
魔法矢!?この距離で!・・・届くのか!?
この世界にもホーミング能力を持つ飛翔体として
魔法技術を応用したマジックアローと呼ばれる兵器が存在する。だが、あくまで対飛竜用の兵器であり射程はせいぜい1000m以内でそれほど命中率がよいわけではない。
それに対してESSMは射程50000m、一撃で艦艇を撃沈する威力を持つ対艦ミサイルを迎撃する為きわめて高い命中率を誇る。そして飛翔速度はマッハ4、目視から対応までの時間は極めて限られており、人間の状況判断の限界を超える。
程なくしてESSMは目標に到達した。
『ESSM1番、2番、それぞれの目標に直撃!続いて3セル、4セル、ファイア!』
CICの砲雷長の無機質な声がスピーカーから艦橋に流れる。噴煙とともに再びESSMが発射される。
「・・・・・・」
「今なら、自爆が間に合いますが?」
悲痛な表情のリク皇帝の沈黙に耐え切れず、有坂艦長が助け舟を出す。
「いや、我が軍でない相手に情けをかける必要など・・・」
声はだんだん小さくなり、最後のないという言葉は消えてしまっていた。
『ESSM3番、4番の直撃を確認!本艦周辺空域の対空脅威レベルクリアー』
「戦闘配置解除、第1哨戒配備へ移行。以後5分間脅威目標探知がなければ、第2哨戒配備とする」
有坂艦長は指示を出すと複雑な表情でリク皇帝を見る。
「それではお送りします」
そう言いながら、やはりどこの世界でも政治家は変わらないのかと期待を裏切られたように感じていた。
こうして日本国とシア皇国の紛争、タイラン共和国独立戦争は航空、海上自衛隊の介入によるシア皇国空海軍の壊滅という形で幕を閉じ、タイラン共和国は独立を果たした。
そして日本は以後列強国、工業大国として世界へと進出していくことになるのである。