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第1話

0-1
『タリホ』
編隊無線からの音声で2機のエレメントがヴェーパーを引きながら散開する。
それを確認してスロットルを押し込み、アフターバーナーを点火。
一瞬の間をおいてF100-IHI-232が炎を吐き出し、力強い加速Gを返す。
機体が音速を超え、ショックウェーブがキャノピーに走る。
超音速の機体は敵に向け突撃した。
HUDの照準線に敵を捉えトリガーを僅かに引いて1秒も経たずに戻す。
M61A1機関砲が火を噴いて初速1000m/sで20㎜の砲弾を送り出す。
紅い曳航の先で何かが飛び散った。
それを確認する前にスティックを引いて上昇をかける。
巨大なチタン製の大鷲は爆音を響かせて敵の前を通り抜けた。
それに対して敵は固定翼機では不可能な恐ろしく小回りの利く旋回を行って追撃しようとするが、追いつかせない。
片やはばたく翼で250ノット、優良種でも350ノットがせいぜい、片や合計20tを軽く越える出力を持つターボファンエンジンで巡航速度でさえ400ノット、最大速度はM2.5。
ドックファイトなどしたくも無い。したくともそれだけ速度を落すと失速してしまうから。
「シャット・ワン・ダウン」
バックミラーで後方を確認すると奇襲を受けて散開した敵に先に分離した2機が切り込みを掛けてさらに2体を空から叩き落していた。
それを確認してバンク角60度で緩旋回し、再び大鷲は敵に襲い掛かった。
今、彼ら4機が戦っているのはワイバーン(翼竜)である。その中でも彼はノワールと呼ばれる優良種を狙った。愛称のノワールの通り他のワイバーンが灰色なのに対して優良種は黒色だった。
狙われたノワールはトリガーを引く直前に急旋回した。レーダーと連動したFCSが追従するが非線形軌道の運動であり追従が僅かに遅れた。
「ちっ!」
照準がぶれたことを認識しながらも彼は迷わずトリガーを引いた。M61系は発射初期の散布界が広い。1、2発なら当るかもしれないと彼は踏んだ。
だが、攻撃は失敗した。
M61系のバルカン砲はM70で口径20㎜、弾丸重量270gの砲弾を初速約1000m/sで撃ち出す。戦闘を前提とした戦闘機にかなりのダメージを与え、一部の大型動物を除くあらゆる動物を1撃で絶命させるだけの威力がある。
しかしながらこの世界ではそうではなかった。
ドラゴンと呼ばれる生物は種や個体によって大きく差は出るが総じて防御障壁なる空間防御システムを持ち合わせている。
優良種であるノワールなら1発や2発の命中弾なら何とか耐え切れるだけの能力を持っている。
しかしながら主力機関砲であるM61系のバルカン砲は毎分6000/4000発もの発射速度を誇っており複数の被弾が圧倒的に多い為、幸運な1、2発に留まる事例はそれほど無い。
今回の彼はそのそれほど無い事例だった。
それに対して彼は確実に撃墜すべくミサイルの使用を決断した。
HMDが起動し、AAM-5がスタンバイする。
AAM-5はIR画像ホーミングで本来高温のジェット排気が発生させる赤外線を追尾するものだが、武装偵察ヘリなどの低温源目標にも対処できる為比較的大きな熱量を持つワイバーンも追尾できる。
彼はHMDを使いボア・オフサイドでAAM-5を発射する。
ノワールは再び急旋回で逃げようとしたがM2.5で迫るAAM-5に対処するには遅すぎた。
ノワールと乗り手が最後に感じたのは超音速のスプリンターが自らの体を貫く感覚だった。
その後第2陣が到着し、僅か15分にも満たない戦闘は終わった。
今回の空中戦に参加したのは航空自衛隊のF-15J改8機とF-15EJ4機、同盟軍のケリア聖王国のノワール10騎とワイバーン30騎。
数の上ではケリア聖王国軍が勝っていたが、飛竜騎兵は開戦初日から消耗が相次ぎ練度と質は大幅に低下しており、なおかつ両者の性能差は圧倒的だった。
今回帰還できたのは飛竜騎士2騎のみであり、与えた損害はF-15EJの対地攻撃任務が30分遅延しただけであった。

0-2
大歓声が空気を震わせる中次々と飛竜が離陸していく。
その数140騎。
開戦以来最大規模な出撃に飛竜騎士の駐屯地は沸いていた。
必ずやこの大軍は祖国に侵攻してきた敵を打ち砕いてくれるに違いない
集まった多くの民衆はそう信じた。
だが、少しでもまともな事情を知っている者は悲痛な表情を浮かべていた。それは飛竜騎士団長も例外ではない。
もはやこれが最後なのだ。
この出撃に関してケリア聖王国軍飛竜騎士団は能力の低下が激しい中戦闘に参加できるだけの飛竜をかき集めた。
そのためもうケリア聖王国には退役間近の老体か飛行もおぼつかない幼体の飛竜しか残っていない。乗り手のほうも見習いばかりで実戦経験のある物は皆無に近かった。
その総合戦力は開戦時自衛隊に攻撃を仕掛け、全て未帰還となった精鋭100騎の70%にも満たないだろう。その結果も容易に予想できた。
騎士団長はこの出撃がただの悪あがきに過ぎないことを自覚していた。
抗戦派である聖王以下宰相、各大臣はこの作戦に賛成し、中立派や講和派も反対しなかった。その決定に1騎士団長である彼が逆らえるわけがない。
抗戦派の描くシナリオはあまりにも稚拙で愚かだ。勝てないまでも痛打を与えてそれを機会に講和するなど現実になるはずがない。
そもそも日本国はこのケリア聖王国が目障りだから攻撃してきたのだ。この国が日本国にとって目障りでなくなるか、派遣されている自衛隊が決定的な敗北を喫しない限り講和などありえないだろう。
空中で敵の進撃の象徴である機械飛竜を攻撃できないのならばその基地を攻撃すればよい、それが抗戦派の書いた戦術シナリオだった。
しかし、敵は全力で阻止に動くだろう。それを突破するだけの力は味方にはない。
恐らくこの戦いを最後にケリア聖王国軍飛竜騎士団は消滅し制空権を完全に喪失するだろう。
そもそも日本国と戦争すること自体が無謀だったのではないか
現在我々が敗北しつつある自衛隊は1個方面軍にも満たない規模の1派遣部隊に過ぎない。
屈辱的な内容であっても外交交渉で何とかすべきだったのではないだろうか。そうすればこのような亡国の危機まで発展することは無かったはずだ。
重い思考を中断して顔を上げた騎士団長の目に最後に離陸していく飛竜が写った。彼にはこの大歓声が140騎の飛竜騎士の壮大なレクイエムのように聞こえた。
その後140騎は文字通り全滅した。その2日後、帰還飛竜騎士の代わりに巨大な敵の機械飛竜が飛来して大量の爆弾を落とし、その最後に敬意を込めて炸薬の代わりに飛竜騎士の遺品とメッセージカードを添えた花束が詰められた高抗力爆弾を投下していった。

一方陸上でも勝負は決まりつつあった。機械化された陸上自衛隊ケリア派遣戦闘団は僅か3000名、対するケリア聖王国軍は計50000万名を動員した。
だが、その多くはF-15EJによる航空攻撃によって阻止され、実質的に地上部隊と衝突したのは17000名に過ぎず、しかも五月雨式だった。
そのためケリア派遣戦闘団は保有していた機甲兵力を前面に押し出して、航空支援の下に敵を粉砕して進撃を続けた。
その進撃速度は自衛隊の評価ではそれほど速くなかったのだが、この世界では驚愕に値するほど速かった。そのためケリア聖王国軍の打つ手は後手後手に回ることとなり、あっという間に首都近郊への進軍を許してしまった。
そして、事実上最後の戦いとなった近衛部隊との戦闘であった。それに際して飛竜騎士団が最後の突撃を敢行したため、対地攻撃のため派遣されていたF-15EJ飛行隊も防空戦闘に加わったので航空支援は見込めなかった。
さらに、この時点で後方警戒のために部隊を分割した為近衛部隊7500名と対峙したのは1000名のみだった。
その際、指揮官が降伏勧告を行ったのだが敵の司令官はそれを突っぱねた。彼は自衛隊が1000名に減っていることを後方警戒の為の部隊の分割ではなく消耗と認識したのだ。
ケリア聖王国軍の近衛部隊は前進を開始した。それは同時に戦闘開始を意味していた。
まず、野戦特科が全力で応戦した。99式自走砲とFH-70野砲に加えて、比較的開けた土地での野戦は事実上これで最後であることが予想された為これまで温存されていたGMLRSも加わった。
一瞬の後に敵軍に鉄と砲弾の雨が降り注ぎ、一瞬で密集していた兵士を制圧した。ごく一部が生き残ったものの、突撃は普通科隊員のMINIMIに阻まれ、撤退は追撃した軽装甲機動車によって阻止された。
しかもこれが王都の目の前、戦場を目視できる距離で行われた為首脳部に与えた衝撃は大きく、戦闘終結から4時間後ケリア聖王国は日本国に降伏した。

最終更新:2006年09月25日 14:45