1842 探検家 j・モーノスの手記より抜粋――
産業革命以降、数々の冒険家が祖国を旅立った。私もそのひとりだった。
これはわたしの手記であり、眼球に焼きついたおぞましい異国の文化をありありと語るもうひとつの口である。
カプカプと呼ばれる村に到着したのはちょうど新月の二日前だった。私たちの隊は食料と酒とを引き換えに、三日間の滞在を許された。
カプカプは深いジャングルの奥地に存在していた。そして原住民の顔貌は、どちらかをいえば私たちの諸族と似かよっており、
私にはそれが第一に興味深かった。
彼らは周辺の裸族らとは明らかに異なった文化を持っているようだった。なぜなら、衣食住含め、
その水準は他の隔絶された地域のそれよりもはるかに高かったからだ。
私が村の中を散策していると、二人の美しい少女が話しかけてきた。私はにわかに心が沸きだった。
少女達の瞳は愛らしく、サファイアのような色をしていた。亜麻色の髪はうしろで束ねられていて、それは腰の辺りでゆらゆらと揺れていた。
美しい少女達は双子だった。歳は13、4歳だと言っていた。言葉を交わすうちに、私は次第に少女達に心惹かれるようになった。
二人の若々しい肢体と薔薇色の唇はわたしの欲望心をみるみるうちに燃え上がらせた。
私は村の長に二人のうちどちらかを祖国に持ち帰りたいと願い出た。村の長は憤怒してわたしの申し出を断った。
そして双子が新月の夜沼の主に生贄に出されることを私に説明した。
わたしの心は嵐のようにかき乱された。
五年に一度、新月の夜に、村で一番の器量を持つ処女が、その肉体をささげる。古くからの慣習やしきたりは、文化の高まりとは関係なく、
村の根底に深く根をはびこらせていたのだ。私にはそれがひどく愚かしい事に思われた。
沼の主はニョモと呼ばれていた。そしてその姿は誰も見たことがなかった。したがって、巨大なワニだとか、
なまずだとか噂されていていたが、その真偽は明らかではない。
新月の日の夜。村人達は双子とともに村を出た。私たち一行も同行を許された。
沼に到着すると、双子は村人達の前で衣服を脱ぎ捨てた。双子の裸体はこの世のものとは思えないほど美しかった。
その鎖骨はあらゆる女神をその下に跪かせ、つぼみのような乳房はあらゆる男神を魅了した。
火が焚かれ、双子の周りを男達が踊り狂った。双子は静かに涙していた。
双子は沼に進み出た。そして沼の水に脚を浸すと、とけあうように抱き合った。
村人達は双子を残して村へと戻った。
私は水面に遊ぶ人魚のような双子をどうにか助け出そうとした。
しかし私は男達に村へと強引に連れ戻された。翌日私は村を発った。
帰りの船の中で私は新月の夜を思い出していた。その夜私は一睡もできなかった。
とおくから聞こえてくる怪鳥の鳴き声がひっきりになしに私の鼓膜を打っていたのだ。そしてそれを聞きながら私はひとり涙した。
現地の言葉でニャモとは、「生皮を剥ぐ者」という意味である。
最終更新:2008年05月18日 15:32