何も見えない世界

粘液が少しずつ体を浸していく
頭の中は半ば蕩けながら全身が伝える鋭く小さな苦痛とそれを包む大きな快感を受け入れていた

あたしは今巨大な食虫植物の中にいた
「獲物を消化液で動けなくして溶かしながら食べていく」
この外であたしが食べられていくのを見ているはずの白衣の男はあたしが取り込まれているこの植物についてそう説明していた

あたしは平凡な女子高生だった
友達の由佳と一緒に「新製品モニターの高給アルバイト」とこの研究所にいくまでは
そこで応接間に通され説明を受けた時に勧められたお茶を飲んだら、急に意識が遠くなって、
気がついたらこの植物の前で友達、そのほかの女性たちと一緒に全裸で転がされてた

といってもみんな拘束されてたわけではない
しかし、誰もこの部屋から逃げようとはしなかった。できなかった。
まず自分が全裸であることに驚き、続いて目の前の植物に驚き、最後にその植物が放つ香りに驚いていたからだ
この植物が放つ香りをかぐだけで急に大きく口を開けていた葉っぱに身を投げ出したくなる衝動に駆られるのだ

部屋は巨大な窓があり、あたしたちを見る白衣の男がいるのがわかった
全員が戸惑いながら意識を取り戻したとき白衣の男は今の状況を説明した
目の前の植物は人を食料とする人工培養された新種の植物
あたしたちはそれが人間をどう食べるかの「モニター」だった

しかし、すでに部屋に充満していた植物の香りに浸されていたあたしたちはそれを聞いても逃げようと思えなかった
ひとり、またひとりとふらふらと体を植物の葉に横たえては葉に全身を包まれていった
その中で何が起きているかはあたしの今の状況がすべてを物語っていた
全身が炭酸水に浸されているかのようにピリピリしながら痺れていく
そして、それとともに全身からくすぐったいような不思議な快感が伝わる
さっきの香りと合わせてあたしの頭の中は少しずつ蕩けていった
それでも残った理性で何とか逃げようと右腕を動かそうとしたら腕の肉がボロリと崩れて腕から強烈な痛みが伝わった
あたしの身体は自分が思っている以上にこの植物の消化液に浸されていることを理解した

肉の崩れた腕はもう自分の意志では動かなかった

逃げられないことをあたしは悟った
だったら…このまま快感に身をゆだねるしかない

そしてたゆたう快感に身を委ねた



しかし、その時間は急速に途切れた



ドサッ

突然回復した視界

そこには半ば消化液に溶かされた状態の由佳たちが身を横たえていた
みんなよろよろと動こうとするが思うように体が動かない
あたしみたいに手足を溶かされて動かない人ばかりだったからだ

巨大なアリとハチが女性を取り込んだ葉っぱを切り落としていた
切り落とすとともに葉っぱが落ちて中にいた人が投げ出されていく

巨大なアリのような虫とハチのような虫はそうやって何匹も植物に群がっていた
大きさは1m位で頭にはアリのような虫には大きな牙があり、
ハチのような虫には電柱ほどの太さのストローみたいな口があった

女性を取り込んだすべての葉っぱを切り落としたアリとハチはこちらに顔を向けて向かってきた

何をしようとしてるか直感的に理解した
みんな逃げようと体を這わずがうまくいかない

虫たちからいちばん近いところにいた由佳は必死に足で立とうとする
すでに腕や足の肉の一部が溶けて乳房は片方がどろりと落ちていた
しかし、残った消化液に浸された足の肉が溶け落ちてた瞬間バランスを崩して転倒した
そこに巨大アリが群がり足を噛み千切る
太腿の肉やふくらはぎ、半ば溶けた足が噛み砕かれながらアリたちに食べられていく
由佳は絶叫を放ちながらはい回る
そこに巨大なハチが片足を失った由佳の股間に巨大なストローを突き刺す
由佳は腰をハチの足に捕えられて何度も何度もストローに体を突き上げられていく
半ば溶けた乳房や腕の肉が溶け落ちてはアリが食べていく
そして、ハチが一瞬身を震わすと由佳の胴体が風船のように膨らみ、次の瞬間じゅるじゅると吸い上げられていった
由佳の内臓をハチが吸い上げていったのだ
内臓を吸い尽くされた由佳はそのまま投げ出されてアリにバラバラにされていった

逃げなきゃ

あたしは必死に身を這いまわらせる
消化された肉が落ちる苦痛など構ってられなかった

みんな少しずつ虫たちから逃げようとしていたが、一人また一人とアリやハチに捕えられていった
部屋の中は絶叫で満ちていく

あたしはすでに右腕が溶け落ちて両足も思うように動かない
体をねじらせたら両膝の肉が骨が見えるまで溶かされていた

残る片腕で芋虫のように身をよじらせるが、そこにアリが襲い掛かった
露出した尻にアリの牙が突き刺さった
「ああっ!!助けて!」
必死に叫ぶが、アリは瞬く間にあたしのお尻をかじり取った
続けて右足の付け根の肉も噛み千切られた
すでに骨でつながってるだけだった右足がボロリと体から離れていった
「ああ…あたしの足が…」
右足を失ったあたしは必死に残った左腕と左の太腿で這おうとするがもはや体は右に回ることしかできなかった
もう一匹のアリがそこにやってきて左足を膝の下から噛み砕いた

もうあたしは歩くことが永遠にできなくなったんだ
ちぎられた左足を掲げるアリを見ながらぼんやりそう思っていたら突如大きな衝撃が襲いかかった

ハチだ

尻肉を失った腰をロックされたあたしの体はすごい力で反転された
目の前にあたしの股間に口を突き刺したハチの顔が見える
あたしはそのまま掲げあげられた
両足と右腕のないあたしの裸身は溶けた肉を散らしながら高く掲げられる
一瞬ガラスの向こうにいた白衣の男と目があったがその次の瞬間重力であたしの体はハチの口に貫通された
「けふっ」
息が漏れる
そしてあたしのお腹の中で感じたこともない感覚が襲う
ハチはその体勢のままあたしを何度も突き上げる
一突きされるたびにお腹の中に熱い何かがまき散らされる
あたしの内臓が溶けていくのを感じる

一突きされるたびにあたしの内臓がかき回され、溶かされる
本当なら気絶しそうな苦痛なのだろうがさっきあたしを溶かした植物の消化液のせいか今体内にまき散らされてる
ハチの消化液のせいかむしろ奇妙な快感の方が苦痛を上書きしていった
突き上げられると溶けた内臓がたぷたぷとあたしのお腹を揺らす
溶け残った腸や子宮がそれとともに体の中でどろどろした液体に変わっていく

あたしの呼吸が少しずつ弱っていく
肺が溶けているんだ

もうすぐ心臓も肺も溶けてあたしは死んじゃう…

そう思った瞬間あたしを貫く上下動が止まる
じゅるじゅるじゅる…
身体の中身が急速に吸い上げられはじめた
「ああ…」
小声で声を漏らすのが精いっぱいだった

あたしが食べられているという事実が実感を持って伝わってきた

失われていくあたし

空っぽになって行くあたし

それを実感しながら視界が急速に暗転していった


何も見えない

何も聞こえない

でも、あたしの残った体をアリの牙がバラバラにしていくことだけはなぜか感じることができた

あたし…死んだんだ…じゃあ…この感覚…いつまで続くのかな…

永遠に続くかのような暗闇の中で由佳の声がこだまする

「由佳?由佳なの?ここ、どこなの?」
由佳の声はそれにこたえるように言った
「ここは・・・」

そのあと突如視界に光が戻った

「あ、よかった。ず~っと目覚まさないかと思ったよ」
目を覚ますとそこはさっきの研究所の応接間だった

え?由佳?さっきのアリやハチは?

「何言ってるの?ここでお茶飲んでからあたしたち突然倒れちゃってこの人たちに介抱してもらってたんだよ。
あたしは先に目を覚ましたけど、あなたぜ~んぜん目を覚まさないんだもの」
そういいながら由佳は白衣の男たちに何度も頭を下げていた

じゃあ、さっきのは…夢だったの?


あたしと由佳はそのあと何種類かのジュースをモニターして感想を書いた後バイト料をもらって研究所を後にした

白衣の男はそのまま研究所の奥の部屋に行き、巨大な植物の周囲でうずくまっているアリとハチを見つめていた
「やれやれ、人間以外の栄養補給手段を持たない食虫植物と人間以外の餌のないアリにハチにあんな使い道があったとはな」
白衣の男はスイッチを操作してアリとハチを別室に戻す

翌日

白衣の男は植物の根を掘り金色の塊を掘り出した
「人間の栄養をもとに生み出した塊根を精製したら美容液ができる。そして…」
塊根を取り込んだ白衣の男はつづけてアリとハチのいた部屋に行き、そこに全裸の女性が何人も寝転がってることを確認した
「食べた人間の遺伝子でそっくりな人間の抜け殻を作るアリとハチと。我ながら奇妙なものを生み出したもんだ」
白衣の男は見た目に反してジャケットのように軽い抜け殻を部屋の外に運び出した

塊根は美容液になり、抜け殻は中身を詰められ高級ダッチワイフに加工された

「あの植物は自力で女性を取り込むけど閉じ込めておかないとどこまでも女性を取り込んで自壊するし、アリとハチは自力で獲物を取るには動きが鈍すぎる。
だからあの植物に食べてもらわないと生きていけない。つまり、この植物とアリとハチが共存してこそお互いに生きていけると」
白衣の男はそういいながら目の前の巨大なカプセルに目を落とす
「そして、それを維持しながら社会を混乱させないための私のクローン技術があるがゆえに世の中は混乱せずに成り立ってる。つくづくうまくできてるものだ」
そういいながらパソコン画面に向かってキーをたたく
昨日取りこんだ娘で作った美容液とダッチワイフの注文を確認するためだった

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最終更新:2016年01月24日 13:29