世界のどこかに女だけの住む国があった。市街を囲む頑丈な城壁、そしてそれを抱擁するかのような森林。
そのため国は長い間栄えたが、ある一晩のうちに滅びてしまう。
 後代の宗教家たちはこぞって云う。天の神の罰を受けたのだと。つまるところ父なる神を疎かにした報いだと。
 しかし私はそうは思わない。彼女らが一晩にして消えたのは、神の炎のせいでも、また神隠しのせいでもない。
 ただ誰かの腹の中におさまったというだけの話なのだから。   

 月は分厚い雲にかくれて見えなかった。私は秩序だって林立するブナの奥を見極めようと、赤い瞳を細めた。
 森の異変に気づいたのは、ほんの半刻まえだった。季節風がもたらす木葉のざわめきに混じって、
なにか聴き慣れぬ音が耳に這入ってきたのだ。
 何かが近づいてきている。
 そう確信をもった時、わたしの四肢に緊張がはしった。早くここから逃げなければいけない。
小さな異変はまもなく確かな気配に変わり、いまや無作法な客人のごとく、
閑静な夜の森を踏み荒らしているのだ。私は身を隠していた潅木から飛び出した。
 わたしの目は夜目がきく、たとえどんな外敵も、この暗闇のなかでは私の小さな身体を捉えるのは困難だろう。
そう思った時だった。私の首に、小さな矢が刺さった。ひゅうという気の抜けた声をあげて私は絶命した。
 わたしの死した身体に近づく者がいた。そしてそいつは無礼な事に、まだ温かい私の両耳を掴むと軽々と持ち上げた。
「こいつはいいや。あの国に攻め込むまえに、ちょこっとばかし腹ごしらえをしよう。丸々太った、良いウサギだ」
 私はそいつの汚い胃の中におさまった。

 ひんやりと冷たい石造りの窓の縁に腰掛けながら、アンネは眼下に広がる黒い森をじっと見つめていた。
時計塔の鐘が午前十二時の鐘を打つ音が聞こえた。
「異常は、なしと」
 古びた羊皮紙に印をつけると、アンネは部屋の奥の階段を振り返った。
そろそろ交替の兵士がやってくる時間なのだ。まもなく石畳をうつ軽快な足取りとともに、
蝋燭をもったミアの姿があらわれた。
「見張り、ご苦労様ですぅ」
 そう言うとミアは、不恰好な椅子を引き寄せて座った。蝋燭が投げかけるオレンジ色の光線が、
彼女の美しい頬を際立たせていたが、皮肉にも同時に、眠たげな瞳をも際立たせてしまっていた。
彼女の太すぎる神経にはときどき辟易させられるときがあるが、このときがまさにそれだった。
「時間通りにくることは讃えるけど、職務怠慢で兵長に訴えるわよ」
 アンネは眠そうにしているミアの顔を睨みつけた。
「そんなに怒らない怒らない。こんな夜中に、誰が攻めてくるって言うのよ。よっぽどのものづきか、もしくは――」
 アンネはミアの声を遮った。「それでも仕事は仕事よ。だいたい、噂は聞いているだろう? 狩りに出た者数名が、
先日からいまだ行方不明なんだ、もし戻ってきたら、私たちがいち早く下に知らせて、城門を開けないといけない」
 ミアはいかにもつまらないと言いたげな表情で、しきりに爪をいじっている。アンネは憤怒にまかせて机を強く叩いた。
ミアは飛び上がりそそくさと姿勢を正した。
「だから、叫ばないでってばぁ。そうだ、いいものをもってきているのよ」ミアがポケットをまさぐる。
「ほら、これよ」
 彼女が取り出して机に置いたのは酒だった。見張り中に酒。
これがもし兵長の耳にでも入ったりしたら――想像してぞっとした――間違いなく首が飛び、
翌日から私たちは晴れて浮浪者の身だ。アンネが瓶に入った琥珀色の液体を唖然として見つめていると、
ミアは席を立ち上がるなり彼女に擦り寄る。
「ねぇ、ちょっとだけん。ちょぉっとだけだから」
 甘い猫撫で声とともに、ミアの形の良い唇が迫ってくる。アンネは窓際まで後ずさりしたが、
すぐに背中が窓の縁にぶつかってしまう。
「や、やめなさいっ、こんな時に・・・・・・もし誰かに見られでもしたら――違う、じゃなくて、
見張りを続けないといけないから、いまはだめ、やめなさいってば」
 ミアを引き剥がそうとその細い肩を掴んだとき、不意に窓の外で音がした。振り返ると窓の外から部屋の中に、
梯子のてっぺん部分が突き出していた。なぜ? とアンネは不思議に思った。
「ぎゅぴ」
 浮かんだ疑問符に妥当な解答を与えるより早く、アンネの頬に温かい液体が降りかかった。慌てて視線を戻すと、
ミアの顔が潰れてなくなっていた。驚きのあまりミアの肩を力無く放すと、彼女はその場にどさりと崩れ落ちた。
部屋の隅の暗がりになにかいた。
「ぐへへ、感心しないなぁお穣ちゃん。見張りはちゃんとしとかないと、だめだって、言われなかったのかな」
 最初は部屋の中に子供がいるのかと思ったが違った。そいつは確かにアンネの臍あたりまでしか背がなかったが、
暗がりから歩み出たやつの顔はむしろ老人のそれに近かった。髪は脂ぎった黒髪で不潔に絡み合っていて、
頬から顎にかけてたるんだ皮膚が幾重にもなり、醜い吹き出物により全面を覆われている。
猛禽類のように鋭利な眼は飛び出ていていまにもこぼれおちそうだ。
 男? 怪物? は片手に自身の身体ほどもあろうかという棍棒を持っていた。
棍棒には血液と肉片がくっついている。足元でミアの身体が魚のように痙攣をしていたが、やがて止まった。
アンネは窓に背を向け男に向かい合うと震える手で鞘から剣を抜き取り構えた。
 床に広がったミアの血液が靴に滲みこむ感触を感じながら、アンネは目下のところ、
この恐るべき侵入者をどうやって城内に知らせようかという方策をめぐらせていた。
 市街のぐるりを囲む城壁の四隅に設けられた見張り部屋の尖塔部分には、危険を城内に伝えるための鐘が設置されている。
するとその尖塔の下部にあたるこの見張り部屋には、鐘を鳴らすためのしかるべき紐が垂れ下っているわけだが――
「お穣ちゃん、俺の事じっと見て、惚れたかい?」
 件の紐は化け物のやや右後方に、我関せずと垂れ下っているのだ。アンネが心の中で見張り塔の設計者に毒づいたのは言うまでもなかった。
「賊、なにが目的だ」
 怪物ににじり寄りながら、アンネは鋭く言い放った。怪物が顔をあげる。アンネはその顔のあまりの醜さに吐き気を催した。
「目的?」
 怪物が小首を捻りながら不気味に哂った。耳まで裂けた三日月状の唇には、内縁に沿って鋸のような歯がびっしりと並んでいる。
アンネの背に悪寒がはしった。あの歯は見たことがある。
”生肉を好む歯だ”
「もう一度きく、侵入した目的はなんだ。場合によっては、減罪の余地があるかも知れない」
 アンネは既に死体となった友人に心の中でしきりに謝りながら、そう口にした。そしてまた怪物ににじり寄った。 
 減罪。これはまったくの嘘だった。できるならすぐにでも叩き斬ってやりたかった。が、敵わないのはわかっている。
こちとら実践で剣など握った事のない見張り兵なのだから。
「俺はただ、腹が減ってるんだよ。さっきからぐぅぐぅ鳴りっ放しで、止まりゃしねぇ。さっき少し喰ったんだが、あんだけじゃ、腹の足しにもなんねぇよ」
 化け物は顔を伏せて腹をさすった。そこでアンネははもう一歩分、化け物に近づく事に成功したが、
そのとき最悪な事に膝まで震え始めた。まるで子鹿のように。
「は、腹なら、そうだ。パンか、ワインか? それならそこのテーブルにたくさん――」
 あいかわらず腹をさすっている怪物にアンネは言った。そしてテーブルのうえの皿を引き寄せて、食料を差し出した。
 そのときアンネは不思議な感覚に襲われていた。何かに焦らされているように心臓の鼓動が高まり、ちょうど――乞食が貴族に施しを受けるときのように、
怪物に対してご機嫌取りを行なっているような気がしてならないのだ。
 違う。アンネは強く否定した。違うのだ。そう、これは鐘を鳴らすための合理的な手段なのだ。だからだからだからだから、
自分は何かに怯えているわけでもなく、ましてや助かろうと――潰されたミアの顔――怪物に譲歩しているわけでもなく、
そこでアンネは目の前の光景に呆然と口を開け、その思考はまもなく停止した。怪物がアンネの差し出した皿を手で払ったのだ。
石床の上に皿の落ちる乾いた音。怪物が顔をあげる。アンネは叫びたかった―生肉を喰う歯だ―彼女の大きな眼がさらに大きく見開かれる。
四肢が言う事をきかない。理性が脳の中で火花をあげながら危険を告げているが、本能がその柔らかな肌にナイフを差して机の上に止めて動けなくしている。
ちょうど、獣に睨まれた小動物のように。怪物が口を開ける。そしてその口から臭い息と一緒に穢れた言葉がつむがれる―行方不明の数人―やめて!
 彼女は叫びたかった。もう何も言わないで! 
「お穣ちゃん、パンはいらない」アンネに、怪物は低い声で優しく囁く。「”俺たち”は”人間”を喰うんだよ」
 怪物はアンネの細い首に噛み付いた。 
首からアンネの体液を存分に飲み干したあと、怪物は彼女から離れた。
細い首には、鋭利なはによって穿たれた穴が幾つも口をあけている。すると満足げに腹をたたく怪物――ドーリーの耳に、
窓の外から梯子を上がってくる音が聞こえてきた。
「ドーリー、どんな調子だい」
 上がってきたのは親友のマモだった。彼は部屋に入るや否や、足元に転がっている魅力的な肉に興奮した。
「お前にやるよ」
 ドーリーは得意げになって言った。すぐさま、マモが顔を潰されたミアの衣服を剥ぎ取る。
「俺はこっちのが好きなんだ」
 さっそくポケットからよく磨かれたナイフを取り出して、ミアの豊満な乳房を丁寧に切り取り、大口を開けて呑み込む。
もう片方も食べてしまうとマモは満足げにげっぷした。
「突入の準備はどうだい」
 ドーリーがマモに聞いた。
「この下に大勢集まっている、正門はいつでも開くよ。みんな腹をすかせている。いつでもいいよ」
「そうかい」ドーリーは立ち上がって、ミアとアンネの身体を軽々と持ち上げる。「それならこれは、前祝だ」
 ドーリーは二人の身体を窓の外に放り投げた。まもなく下からは肉を咀嚼する生々しい音が聞こえてきた。
「いいのかい」
 マモが名残惜しそうに云った。
「あの穣ちゃん、あれだと何ものこらねぇな」ドーリーが笑いながら云う。「さぁて。楽しい狩りの始まりだ」
 ドーリーは天井から垂れ下っている紐を勢いよく引っ張った。危険を知らせるために。
 マーリ家の女中ケイトは二階の女中部屋にあるクローゼットのなかで縮こまり耳を塞いでいた。彼女は恐ろしい現実から逃避しようと、
かたく瞑ったまぶたの裏で楽しかった出来事を必死になって思い出しそうとした。
 先日のルーシーお嬢様のお誕生日。華やかなドレスと品の良いアクセサリで着飾ったお嬢様の姿を見たとき、
胸に熱い感情が込み上げてきたのをケイトはありありと憶えている。なんといっても、
ケイトは少女の幼い頃から――ルーシーがまだ一人で立てない頃から――身の回りのお世話をさせてもらっているのだ。
 誕生会で給仕を務めながら、ケイトはルーシーの温かい視線を何度となく感じた。少女もまた、
自身に向けられるケイトの愛情を残らず受け止めていたのだ。二人は固い絆によって結ばれていた。
そんなルーシーに、ケイトはおそらく自身の子供の(彼女は若く、まだ男を経験していないが)それ以上の敬愛をもって仕えていた。
 ルーシーは今年で十三だった。体つきはまだほっそりとしていたが、いたるところに女性らしさが萌え始める時期である。
容姿は極めて美しく、小造りの輪郭のなかに宝石をちりばめた様に目鼻が整列し、桃色の唇からはいつも真っ白な歯と笑顔が咲いていた。
 ルーシーは歌う事が好きだった。暇を見つけるとテラスに出て、自慢の声を太陽や月や星座の英雄達に披露していたし、
彼らもまた物音ひとつ立てずに美しい声音に聴き入っていた。
 ケイトはルーシーの歌声が好きだった。仕事中に聴き入ってしまって、女中頭に叱られた事は数知れない。
少女の声は、ルーシーの耳を魅惑する何かを持っているようだった。だからケイトにとって、
ルーシーの声を拒んだのはこのときが初めてだった。
 ケイトは耳を塞いだままクローゼットのなかでよろよろと立ち上がり、板の隙間から部屋の中を恐る恐る窺った。
ベットのうえには手を縛られ衣服を剥ぎ取られたルーシーの白い裸体があった。股を大きく割り開かれた少女は、
悲鳴をあげながら小人に犯されていた。
 ケイトはその場で失神した。

 大正門が開くやいなや、ドーリーとマモの二人は意気揚々と市街に躍り出た。仲間たちが次々と手近な家々に押し入っていくの横目に、
二人はメイン・ストリートに並ぶ建物を慎重に物色していた。女の悲鳴があちこちからあがり始めた。
「分別なく狩りをしたって、おもしろくもねぇ。それに下の人間は臭くてかなわねぇからな」
 ドーリーがそういうと、マモは同意した。
二人が狙っているのは裕福な家の清潔な女だった。ほどなくして二人は自分たちのお眼鏡にかなう家を発見した。
石造りの豪勢な建物で、アプローチには人間の像が門番のように立っている。家の明かりはすべて消えていた。
 二人が棍棒で扉を壊しきるのには一分とかからなかった。まもなく悲鳴があがって、家の奥から女中らしき女数人がナイフを持って出てきた。
ドーリーは彼女らの頭を一撃で吹き飛ばした。
 二人は殺した女の手足を齧りながら屋敷の奥へと進んだ。階段を見つけると二階に上がった。
「ドーリー、どうやらお楽しみを見つけたようだぜ」
 マモはそう言うと、ドーリーの視線を薄暗い廊下の先へと促した。そこには模様の彫られた両開きの大扉が威厳を湛えながらどっしりとかまえていた。中から人間の気配がした。
 ドーリーは女中の手を口から吐き出すと、さっそく扉を開けた。広い部屋のなかにはネグリジェを着た女とまだうら若い小娘がいるだけだったが、
ドーリーとマモは思わず唾を飲んだ。一目見ただけで、極上の獲物だと悟ったのだ。ネグリジェを着ている女のほうは、
手に見事な装飾の施された長剣を持っていたが、ドーリーとマモの二人はそれを気にせず話し合いを始めた。
「俺は大きいほうだ」
 ドーリーが言った。
「じゃあ俺は小さいほうだ」
 マモが答えた。二人は獲物ににじり寄った。そして獲物の恐怖を存分に味わった。
 ネグリジェを着た女がドーリーの頭めがけて長剣を振りおろした。しかしその長剣は役割を果たすことなく石床に当たり砕けた。
ドーリーは小さな身体からは想像できないほどの力を発揮すると、女を部屋の端に追い詰めていった。
 一方、マモは残酷な追いかけっこに興じていた。少女が右往左往するのを見てにたにた哂いが止まらなかった。
「ルーシー、逃げなさい!」
 いまや両手を縛られベッドに押さえつけられ、さらにはドーリーに豊満な乳房を舐められている女が少女に向かって叫んだ。
ルーシーと呼ばれた少女は頬に涙を流しながら、手近にあったランプをマモに向かって投げつけると、隙を見つけてすぐさま部屋から飛び出した。マモも続けて部屋を飛び出す。
 マモの眼は廊下を懸命に走っていく少女の姿を捉えた。ルーシーは階段を跳ぶように下りた。外に逃げられては面倒だな、とマモが階段を下りながら思っているとき、
逃げる少女は玄関とは反対の方向へと消えた。マモが一階の踊り場に着いたとき、廊下に並んだ部屋のひとつから切迫した声が聞こえてきた。
「ケイトっ! ケイト、どこなのっ」
 マモはノブを回し扉を開けた。そこは女中部屋だった。部屋の左側には安物のクローゼットと鏡台があり、
反対側には簡素なベットが置かれている。そのベットの手前で、ルーシーは泣き崩れていた。
 マモが近づくと、少女は顔をあげてきっとマモを睨んだ。
「あなたが、ケイトを殺したのね」
 その声には果てしない憎悪がこめられていた。マモはさっきドーリーが殺した女中のことを思い出した。きっと少女の言うケイトはその中の一人だったのだろう。
しかし、いまとなってはそれを確認する事はできない。どの死体も顔面を吹き飛ばされているのだから。
「あぁ、たぶんね」
 マモは嘘が嫌いだった。だから正直にそういった。少女は顔を伏せて涙を流した。ひとしきり泣いたあと、少女は顔をあげた。
涙に濡れたその顔には何もかもをあきらめたような表情が見て取れた。
「好きにしなさいよ」
 ルーシーが言った。  
「言われなくても」
 まずマモはルーシーの手足を縛り、衣服を剥ぎ取った。思いのほかルーシーは抵抗しなかった。
無遠慮なマモの視線が肌の上を舐めているときひとつも声をあげなかった。
 マモは少女の美しさに感嘆した。形の良い鎖骨と、小さな乳首をつけた控えめな胸。細い腰はまだ幼さの残る臀部に滑らかな曲線を描いて繋がっており、
その中心には萌え始めた海草のような陰毛が坐っている。太股の肌は絹のようで、マモ伸びる舌を禁じえなかった。
 全身を丹念に舐めまわしたあと、マモはルーシーの股を開いた。その時になって初めて、ルーシーは抵抗の声をあげた。
「おねがい、それだけはやめて、わたしはじめてなの」
 マモは少女の嘆願を無視した。自身の性器を取り出すと、少女の性器にあてがった。少女の性器は濡れていたが、
それは愛によるものではなくただ自己防衛本能によるものだった。
「いやっ、助けて、ケイトっ、ケイト!」
 マモは腰を押し進めた。少女は叫び声を上げたが、マモの腰の動きはまるで弱まる事を知らなかった。少女の性器から破瓜による少量の出血が見て取れた。
快感が高まっていくにつれて、マモは少女の乳房を噛んだり、太股に歯を立てたりした。少女の肌のいたるところから血が流れ出て、
その度に膣が締まるとマモはさらなる快感を得ようとさらなる暴力を振るった。
 行為は半刻に及んだ。幾度となく少女の膣の中に射精してぐったりとなったペニスを引き抜くと、膣穴からは精液があふれ出した。
少女は股を閉じる気力もないのか、中空をぼんやり見つめたまま荒い息に肺を上下させている。かすかに動いている口からは、ケイトという言葉が聞こえた。
 死んだ魚のようにぐったりとしているルーシーを見つめているとマモはこの少女を食べてしまうのが惜しいきがした。生かしておけば、
こうやって何度も何度も楽しめる。我ながら名案だとマモは思った。さっそくルーシーに向かって提案してみた。
「どうだい。俺とこないかい。助けてあげるよ、殺さないし、食べない。約束するよ」
 ルーシーの眼が動いて、マモを捉えた。少女はマモの顔めがけて唾を吐きかけるとこう言った。
「くたばれ」 
 ケイトは夢を見ていた。ルーシーと自分が花畑で手をつないでいる夢だ。ルーシーは自分に花の冠を作ってくれた。
ケイトは敬愛をこめてルーシーの額にキスをした。二人が花に囲まれて坐っていると、急に雲行きが怪しくなり、空で雷鳴が鳴り始めた。
急いで帰りましょう、とルーシーの手を握り立たせようとすると、ルーシーはそれをかたくなに拒んだ。ケイトは力を込めてルーシーを引っ張った。
けれどルーシーは立ち上がらない。すぐ傍で雷が鳴った。ケイトは思わずルーシーの手を放した。するとルーシーと自分との間に地割れが起こって、まもなく二人の間を別ってしまった。
ケイトはルーシーにあやまった。地割れはどんどん深くなって二人の距離はみるみるうちに広がっていく。ルーシーは仕方ないのよと言った。
ケイトはあやまった。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。
 ケイトが眼を覚ますと、頬がぬれていたのに気がついた。自分は一体どんな夢を見ていたのだろう。とんでもない悪夢だった気がする。
でも、どんな悪夢だったのか思い出せない。
 周りが真っ暗なのに気づいた。手探りをすると手の平に衣服の感触があったので、すぐに自分がクローゼットの中にいる事がわかった。
 ケイトはクローゼットから這い出た。まぶしい陽光が目に滲みた。外はもうすっかり朝だった。格子ガラスを通してメイン・ストリートが見渡せる。
城壁の向こうから幾筋もの煙が上がっているのが見えた。足が震え始めた。
 ケイトは見ないようにしていた――ベットの上――”ソレ”から視線を逸らしながら何事もなかったかのように寝巻きを脱ぎ仕事着を着た。ケイトの鼻腔を生臭い死臭が突いた。
 ベットの上にはルーシーの死体があった。死体は裸のまま仰向けに寝かされていた。生きたまま解体されたのだろう、顔は苦痛に歪み、
眼は刳り抜かれて真っ黒な穿穴を天井に向けている。鼻と耳はそげ落とされている。両方の乳房は丁寧に切り取られてなくなっている。
両方の足と腕は切断されて無かった。腹の皮膚が丸く切り取られ、中の内臓が無くなって腹腔がぽっかりと口を開けている。淫核には何本もの針が刺さっている。
性器にはナイフが突っ込まれている。かつて美しい詩と声を紡ぎだしていた口には抉り取られた子宮が突っ込まれている。
 ケイトはその場に崩れ落ちてごめんなさいと謝りつづけた。彼女は部屋に近づく気配に気がつかなかった。

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最終更新:2023年01月29日 16:57