赤い人・翌日』

赤い人がわたしを縫いぐるみにした。連れて来られたのは知らない子の家。
翌朝、同い年位の女の子が、靴下の中のわたしを見つけた。
暫くわたしで遊んでいたけれど、どうやら気に入られなかったらしい。
夜が来るまでには、わたしはクローゼットの奥へしまわれてしまった。

夜が来たらしい。黴の臭がする。扉の隙間からはうっすらと月明かりが漏れている。
明かりに照らされるのは、細切れの毛糸、布、ボタン、人形の残骸。
獣の気配。

鼠が三匹、姿を現した。今のわたしは、兎程の大きさしかない。
臭をかがれている。彼等の目つきが変わった。
まだ、生き物だった頃の臭が残っているのだろうか。

一匹が右腕に歯を立てた。痛みは感じない。
歯は編み込まれた肌を貫通し、内側にまで食い込む。他の二匹も腹や脚に噛みついてきた。
肉の味がしたのだろうか。三匹の獣は狂った様にわたしに牙をたてる。
腕と脚の二匹は、自分のものだと言わんばかりに引き寄せ合っている。
その度に噛まれた傷口が広がっていく。傷口から覗く綿は赤い。

腹には既に大きな穴が空いてる。獣が赤い綿を引きずり出している。綿に混じって太い繊維も見える。

音を立てて、腕が体から引き千切られた。獣が右腕を運び去ってゆく。
獣が通った跡には、赤い綿や繊維が溢れ落ちている。

一匹は、脚を諦めたらしい。今度は頭を狙って来た。
ボタンの瞳にかじりつかれる。左目を繋ぎ止めていた糸が切れると、視界が半分になった。

腹を喰っていた獣は、体内に潜り込み、内側から綿をあさり出した。
腹の布が大きくうごめき、体内で獣が動くのが解る。

遂に、二匹の獣は頭の内部にまで達した。
残された右目に、頭から綿が引っ張り出されるのが見える。
頭の綿は、赤ではなく白い。所々赤い繊維も混じっている。

右腕を持って行った一匹が、更に何匹もの鼠を連れて戻って来たのを最後に、視力が無くなった。
無数の歯がわたしの体に立てられる。

もう、手足はつながっていない。頭の綿も随分無くなった。

徐徐に、意識が薄れていった…

また、どからともなく鈴の音がした気がした…

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最終更新:2008年05月18日 15:35