サイレンが鳴り響いた。
「怪獣襲来!怪獣襲来!」
授業中の教室がざわめく。

ここはとある目的のために作られた全寮制の女子高だった。
ここでは、全国から集められた女の子が集い、普通の学生生活を送る。
とくにどこが違うということはない女子高だった。
このときを除いては。

放送は続けて言う。
「今日の食事当番は1年7組に決定しました。
1年7組の生徒たちはすぐに用意をしてグラウンドに集まってください」
1年7組のざわめきがひときわ大きくなる。
驚きの表情のまま固まる者、やおら涙を浮かべ泣きはじめる者、
決意の表情で黙りこむ者、母親の名前を叫ぶ者。

すぐに担任の先生が教室にやってきた。
「先ほどの放送のとおり怪獣が南海上に現れました。
ただいま変身担当の方が巨大化の準備を始められています。
あなたがたもすぐに服を脱いでグラウンドに集まってください」
表のプール。普段使われているプールとは別に用意された赤茶色の液体が満ちているプールには
一人の男が全裸で浸っていた。
このプールにはさまざまな動植物から集められた栄養素。特にたんぱく質が満たされており、
特殊体質の隊員がそこに入ることで、栄養素を吸収、急速に巨大化できるという仕掛けだった。
しかし、動植物だけでも巨大化は出来るがそれだけでは困った副作用が現れる。
彼が地球を救うヒーローとなるためにはもうひとつの条件が必要だった。

服を脱ぐのを躊躇している生徒がいたのを見た先生がその生徒に近づいていった。
「ぐずっ…せん…せい…あたし…どうしても…食べられなきゃ…いけないの?」
それを聞いた先生は優しく覗き込んで諭してやる。
「そうよ。ちなみちゃん。あなたたちはそのためにいるの。」
ちなみと呼ばれた少女はぐずりながらうなずく。
「残念ながら人類には巨大な怪獣を独力で倒す力はないの。
いつも警備隊の人たちが出て行ってるけど、みんなあっという間にやられてしまう。
最近は相次ぐ消耗で技量が低下したのか怪獣に不用意に近づいていっては叩き落とされたり、
遮蔽物のないところで戦車の大群を出して踏み潰されたり。そんなことしかできなくなった。
だから、今巨大化しているあの人が戦わないといけないの。
そのために、あなたたちが栄養になるためにいるのよ。
あなたが栄養にならないとあなたの家族や親類、友人。弱い子供や老人が何人も殺されちゃうのよ。」
やがて、覚悟を固めたのかその生徒も服を脱ぎ、下着に手をかけ始めた。
それに満足した先生はそのままその場を立ち去り、教壇に戻った。

やがて、全裸になった生徒たちが列を組んでグラウンドに集まっていた。その数30数人。
それを2つのグループに分ける先生たち。
「前のグループの人たちはグラウンドの中央に集まってください。
残りの人たちは後ろで待機。前のグループの人たちが食べられてから中央に移動してください。

いわれたとおりに10人程度の生徒たちが中央に集まった頃、「それ」はやってきた。
銀色の体に黄色い目、その両手は翼のように広がり、いくつもの牙と赤い粘膜を露にしていた。
怪獣としか表現しようのない姿、それこそが先ほど特殊プールに身を投じた隊員のなれの果てだった。

動植物だけで構成された栄養。それをあまりに多く取り過ぎたために
人間の姿、理性を保つことが出来なくなった姿はまさに怪獣そのものだった。
この怪獣が世界を救うヒーローになるためには、それに匹敵する人間、
それも少女を栄養として大量に摂取しないといけない。この女子高はそのために作られたものだったのだ。
教室からは、友達の姿を見届けようという生徒たちが窓際に張り付いていた。

怪獣は、中央の生徒たちを抱え込むようにさらい上げ、大きく開いた翼型の口に放り込んだ。
わきあがるどよめきは3種類に分けられた。
後ろの列の女の子が発する悲鳴。
窓際の女の子が放ったどよめき。
そして、食べられた生徒たちがはなつ最期の叫び声。
外からは大きく膨らんだ口がもごもごと動きながら生徒たちを咀嚼している様がうかがえる。
口の中から上がる悲鳴が徐々に小さくなり、消えてゆく。
それに代わって、女の子の骨や肉を噛み砕く音が大きくなってゆく。
時々、口の隙間からこぼれる手や足の一部、それに真っ赤な血液が彼女たちの運命を
雄弁に物語っていた。

それを見て泣き出す少女たち。
とくにグラウンドに残る全裸の少女たちは真っ青になっていた。
自分も、もうすぐああなる。
徐々に小さくなってゆく口。その中では食べられた少女たちが少しずつ飲み込まれ、消えていっていた。

怪獣の体が徐々に滑らかな銀色に変わり始め、顔も少しずつ変化していった。
体も大きくなっていた。
それを見た先生が残った20人の生徒をグラウンドに集めはじめる。
そのなかには、先生に諭されて栄養になることを決意したちなみもいた。
「洋子ちゃん、ひろみちゃん、千尋ちゃん…うう…ぐす…」
さっき食べられた友達の名前をいいながら泣く。
捕食の現場を見たばかりだけに、何人かの生徒たちはぐずりながら立ち尽くしていた。
もう、逃げる気力も残っていない、そんなありさまで立ち尽くしていた。
失禁した生徒もいたが、誰も問題にはしなかった。
「ちなみちゃん、わたしがいるよ」
勤めて気丈な声で隣の少女がいう。
「和美」
和美と呼ばれた少女はクラス委員長だった。
自分の運命を覚悟したのか悟りきった表情で、ちなみに声をかける。
「わたしが、最後までちなみちゃんのそばにいてあげる。みんな一緒だから。」
「…あ…ありがと…う…ぐす…」
泪をぬぐって上を向く。すでに、大きな口は目の前に覆いかぶさっていた。
一瞬、足元の地面が消え、ふっと体が宙に舞う感覚があった。
視界は暗転し、生徒たちの悲鳴がこだまする。
口の中に納まった少女たちはもみくちゃにされながら唾液にからめとられていく。
すぐに、口内の幾つもの牙が少女たちを貫き、むさぼり始める。
「ぎゃぁ!痛い!痛いよぅ」
「助けて!ママ!」
手や足、お腹を噛み砕かれた生徒が悲鳴をあげる。
ざく、ざくと咀嚼を繰り返すたび生徒たちの体はすりつぶされ、血を飛び散らせ始める。
ちなみは、中央部にいたのが幸いしてかまだ無傷だった。
しかし、唾液や生徒たちの血、それに肉や骨が飛び交う中、牙が襲うのは時間の問題だった。
真っ暗な中、自分がどこにいるのか分からない、その中で目の前にごろりと噛み砕かれた首が飛び込んできた。
暗い中でも、その顔は不思議とはっきりわかった。和美だった。
表情は穏やかで、満足して食べられたことを示していた。
「いやぁぁぁ!」
和美の首を抱えながらちなみは泣いた。
それを封じるように、牙がついにちなみにも襲い掛かる
最初に噛み千切られたのは下半身だった。腹部が貫かれ、太腿の肉が咀嚼される。
上半身が千切れ飛ぶ寸前、ちなみははぐれそうになった和美の首をしっかりと抱きしめた。
「最後まで、いっしょにいよう」
そうつぶやいたままちなみの意識は消えていった。
ちなみの下半身は他の生徒の体と交じり合い、ミンチへと変わっていった。
はぐれた上半身は内臓をあちこちにまきながら血や唾液とともにもまれる。
その中でも、腕はしっかりと和美の頭部を抱えたままだった。

その上半身に、牙が襲い掛かった。
ちなみの頬が、胸が、残った和美の頭とともにバラバラになり、
撒き散らされた自分や友達の中身とともに交じり合ってゆく。

もはや、生徒たちの中で形をとどめているものはいなかった。
噛み砕かれた彼女たちの顔や乳房、粉々になった膣や内臓、繊維のようにぼろぼろになった
柔肌や手足の肉にその名残を残しながら、怪獣に生身の女の子の味を伝えるだけだった。

滴るような女の子の旨みを味わうようにぐちゃぐちゃと長い時間をかけて
咀嚼した怪物は、少しずつ、それを飲み込み、消化していった。


すべてが終わったとき、グラウンドには撒き散らされた生徒の名残と、聳え立つ銀色のヒーローがいた。
ヒーローは地面を蹴り、空を飛んでゆく。
怪獣を倒し、地球の平和を護るために。

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最終更新:2008年05月19日 11:18