あるところに、一人のお姫様がおりました。
 真っ黒な衣装のお姫様はその衣装と同じくらいに暗い闇の中でしくしくと一人で泣いています。
 お姫様に声をかける人はおりません。お姫様は昔からひとりぼっちだったのですから。
 どれだけそうしていたのでしょうか、泣きじゃくるお姫様の後ろから、一人の人影が姿を現しました。
 その人影は、お姫様とはまた別のお姫様でした。
 黒衣のお姫様とは違い、絹糸の様に細やかな髪からきらびやかなドレス、すらりとした足を彩るヒールまで血の様に真っ赤っかなお姫様です。

「どうしたのかしら?」

 赤いお姫様は尋ねます。
 声色は心配そうですが、その可愛いお顔はにっこり笑顔。

「パパに捨てられちゃったの」

 泣きじゃくりながら黒いお姫様は答えます。
 そう、黒いお姫様は大好きなお父さんに捨てられて、こんなところに来てしまったのでした。
 お姫様はお父さんによって作られました。
 だからお姫様はお父さんが大好きで、お父さんこそが全てだったのです。
 だけれども、恐い恐いお兄さんから逃げてきたお姫様をお父さんは『失敗作』と言いながら捨ててしまったのです。ああ!なんて可哀想なお姫様!

「ふぅん、そうなんだ。それは可哀想ね」

 笑顔のままで赤いお姫様は答えます。
 ぐすぐすと泣くだけの黒いお姫様を見下ろす赤いお姫様。
 赤いお姫様の可愛らしい笑顔に意地悪の色が宿っても、泣きわめくだけの黒いお姫様には気付きようがありません。
 身を屈めた赤いお姫様が、黒いお姫様の両肩それぞれに両の手を添えて抱き寄せます。
 そうして、哀れむ様に嘲る様に悪戯っぽく黒いお姫様へ囁くのでした。

「それじゃあ聖杯にお願いすればいいじゃない『またパパが私を愛するようにしてください』って」


 黒と赤のお姫様が出会ってから数日が経ちました。
 ここはお姫様達の邪魔をする、悪い悪い魔女の家。
 魔女退治にやってきた赤いお姫様に向かって、魔女の使い魔である狼男が牙を剥きます。
 お伽噺から抜け出してきたかの様な姿の狂った狼男はどんな傷でもたちまちに治ってしまう恐ろしい魔物。
 だけれども、そんな恐ろしい狼男が相手でも赤いお姫様はいつもの態度を崩しません。
 迫る鋭い爪を華麗なターンで舞う様にかわし赤いお姫様が手に持った琴の弦をピン、と爪弾きます。
 すると張り巡らされた魔法の糸がたちまちに狼男の腕を縛りつけたではありませんか。
 右腕、左腕、右脚、左脚。
 全部が魔法の糸で縛り上げれた狼男はまるでマリオネットの様に宙へぶらり。
 普通の糸ならば難なく引き千切れた狼男も魔法の糸には敵いません。
 ギチギチと締め上げてくる糸が食い込む度に苦しげな声が溢れます。

「あれだけ威勢が良かったのにみっともなぁい。……雑魚の癖に無駄に頑丈とか牙の氏族かよテメェ」

 ケラケラと悪戯っぽく笑いながら赤いお姫様の指が更に弦を爪弾けば、涼やかな音色と共に狼男の胸が裂けて真っ赤な血が噴き出しました。
 だけれど傷がたちどころに治ってしまう狼男はその程度では死ねません。
 つまり狼男はそれだけ赤いお姫様の玩具として長く苦しみ続けるということです。
 狼男と赤いお姫様の戦いは誰から見ても赤いお姫様の勝ちに決まりです。
 それにしても、赤いお姫様と一緒にいる筈の黒いお姫様はどこに行ったのでしょうか?


 魔女の家の中、赤いお姫様と狼男がいたところとは別の隠し部屋で黒いお姫様とフードを被った女の人が向き合っています。
 フードの女こそは悪い魔女。魔女は使い魔である狼男に赤いお姫様の相手を任せ、黒いお姫様を殺すために罠だらけの隠し通路へと誘い込んだのでした。
 黒いお姫様は魔女の仕掛けた様々な罠を潜り抜けてついに魔女のいる部屋へと辿り着いたところです。
 傷一つない様子の黒いお姫様の姿は計算違いだったのか、唇を歪めた魔女が一歩後ずさりました。
 魔女を追い詰めた黒いお姫様はニコニコと笑いながら、後ずさった魔女に合わせる様に一歩踏み出します。

 その途端、黒いお姫様の全身を床から吹きあがった炎が包みました。

 歪んでいた魔女の唇が歪んだ三日月に変わり、おかしそうな笑い声が上がります。
 魔女の罠は通路だけでなく、部屋の中にも仕掛けられていたのでした。なんて用心深い魔女なのでしょう。
 黒いお姫様を殺せたと魔女は喜びます。魔女の使い魔の狼男をいたぶっている赤いお姫様は黒いお姫様がいなければこの世界にいられません。
 つまり黒いお姫様を殺すことさえできれば赤いお姫様がどれだけ強くても魔女の勝ちなのです。
 魔女はメラメラと燃える炎に背を向けて、このまま赤いお姫様が消えるのを待つか、それとも赤いお姫様に契約を持ち掛けて狼男の代わりに赤いお姫様を使い魔にするか考え始めました。
 だからこそ、魔女は燃え盛る炎の中から火傷一つない綺麗な腕が伸びてくることに気がつきません。
 炎から伸びた手からぼうっと灯った炎が放たれます。もちろん、その炎が向かうのは考え事をしている魔女の元。
 炎が触れると同時に黒いお姫様の時と同じ様に一瞬で魔女の体を炎が包み、叫び声が響きます。
 チリチリと焼ける真っ赤な視界の中、振り返った魔女は驚いて目を見開いてしまいました。
 それもその筈、炎の罠の中からは衣服すら焦げ跡一つない黒いお姫様が姿を現したのです。
 なんと、黒いお姫様は炎を操れる凄いお姫様だったのでした。炎を自在に操れるお姫様は同時に炎に対しても頑丈で、ちょっとやそっとの炎なんてへっちゃらです。
 黒いお姫様を追い詰めた怖いお兄さんの炎ならまだしも、魔女の仕掛けた罠程度ではなんどもありません。そんな事など分かる筈もない魔女は、そのまま燃え尽きて黒焦げになってしまいました。
 どこからか狼の苦し気な鳴き声が響きます。黒いお姫様が死んでしまえば赤いお姫様がこの世界にいられない様に、魔女がいなければ狼男だってこの世界にはいられません。
 こうして悪い魔女と狼男は黒と赤のお姫様によって無事に退治されたのでした。




 悪い魔女を倒した二人のお姫様が家の帰り道を歩きます。

「これで聖杯に近づいたんだよね?トリスタン」
「ええそうね、煉華。アナタのパパに愛してもらえるまで一歩前進よ」

 黒いお姫様・煉華の問いに赤いお姫様・妖精騎士トリスタンはニッコリ笑って応えます。
 トリスタンの『聖杯戦争に優勝し、聖杯でパパに愛して貰える様に願えばいい』という提案に煉華はすぐに乗りました。
 お父さんだけが全てであったのにそのお父さんに捨てられてしまった煉華には、それ以外の手段なんて考えられなかったのです。
 煉華は人を殺す事が好きという訳ではありませんが、だからといって嫌いでもありません。お父さんに喜んで貰えるのなら、愛して貰えるのならいくらだって殺してしまえます。

「えへへ、待っててね。パパ♪」

 誕生日のプレゼントが待ちきれない子供の様に浮かれる煉華を見て、トリスタンは意地の悪い笑顔を浮かべます。
 トリスタンが煉華に聖杯戦争への参加を勧めたのは決して親切からではありません。
 ただ、聖杯戦争に切実な願いを持って挑もうとする他の参加者を踏みにじって遊びたいのです。
 なんとトリスタンはお姫様でありながら人や妖精を虐めて喜ぶ、とてもとても悪い魔女だったのでした。
 トリスタンにとっては煉華が願いを叶えることだってどうでもいいのかもしれません。だって彼女には願いなんて――。

“くだらない■■も、弱っちい■■も、みんなみんな殺してやる! 見ていて■■■……私、今度こそ■■になってみせる!”

 ――少なくとも『今』の彼女には聖杯にかける願いなんて、ないのですから。


 聖杯戦争の舞台に降り立った二人のお姫様がくるくると輪舞曲を踊ります。
 赤いお姫様が琴を爪弾き繰々(くるくる)と。
 黒いお姫様が炎を灯して狂々(くるくる)と。
 くるくるくるくる。
 ぐるぐるぐるぐる。
 花の様に嗤いながら、お姫様達はタップを刻んで回ります。

 さて、最後に舞台に立っているのは、一体だぁれ?


【クラス】
 アーチャー

【真名】
 妖精騎士トリスタン@Fate/Grand Order

【ステータス】
 筋力A 耐久C 敏捷A 魔力B 幸運D 宝具E

【属性】
 混沌・悪

【クラススキル】
 対魔力:EX
 決して自分の流儀を曲げず、悔いず、悪びれない妖精騎士トリスタンの対魔力は規格外の強さを発揮している。

 騎乗:A
 何かに乗るのではなく、自らの脚で大地を駆る妖精騎士トリスタンは騎乗スキルを有している。

 陣地作成:A
 妖精界における魔術師としても教育されている為、工房を作る術にも長けている。

【保有スキル】
 グレイマルキン:A
 イングランドに伝わる魔女の足跡、猫の妖精の名を冠したスキル。
 妖精騎士ではなく、彼女自身が持つ本来の特性なのだが、なぜか他の妖精の名を冠している。

 祝福された後継:EX
 女王モルガンの娘として認められた彼女には、モルガンと同じ『支配の王権』が具わっている。
 汎人類史において『騎士王への諫言』をした騎士のように、モルガンに意見できるだけの空間支配力を有する。(マナの支配圏)

 妖精吸血:A
 妖精としての本来の姿である■■■■■・■■としてのスキル。
 他者の血液を経口摂取することで体力・負傷状態と魔力を修復する。

【宝具】
 『痛幻の哭奏(フェッチ・フェイルノート)』
 ランク:E 種別:対人宝具 レンジ:無限 最大捕捉:1人
 対象がどれほど遠く離れていようと関係なく、必ず呪い殺す魔の一撃(口づけ)。
 相手の肉体の一部(髪の毛、爪等)から『相手の分身』を作り上げ、この分身を殺すことで
 本人を呪い殺す。ようは妖精版・丑の刻参りである。
 また、フェッチとはスコットランドでいうドッペルゲンガーのこと。

【weapon】
 琴をつま弾くことで発生させる真空の刃、また琴から伸びる糸を張り巡らせ操作することで相手の動きを高速することも可能。
 モルガンから習った魔術とベリル・ガットより習った魔術。

【人物背景】 
 妖精達の暮らすイギリスの異聞帯出身のサーヴァント。
 異聞帯を取り仕切る女王モルガンの養子にして汎人類史の円卓の騎士・トリスタンの名を与えられた妖精騎士。
 だが、その性質は名の元になったトリスタンとはに憑かず残虐・酷薄・悪辣・傲慢の四拍子が揃った刹那的快楽主義者。
 女王モルガンが弱者を虐げた時のみ彼女を褒めていたという学習経験があったこともあって弱者を弄び踏みにじる行為を『楽しい事』と認識している。
 懇意にしていたクリプターのベリル・ガットから汎人類史の文化を聞かされており、その中でも靴(ヒール)の魅力にとりつかれ、カッコいい靴を作るという目標も持っている。

【サーヴァントとしての願い】
 他の弱者(=参加者)をいたぶり踏みにじる

【マスター】
 煉華@烈火の炎

【マスターとしての願い】
 パパに愛して貰う

【weapon】
なし

【能力・技能】
 炎を操る炎術師としての能力を持ち、針状にした炎や特大の炎の塊を放つことが可能。また、炎に対しての耐性も持つ。

【人物背景】
 森光蘭によって「自分の命令に絶対に逆らわない紅麗」というコンセプトによって作られたクローンの成功体。紅麗と恋人の紅の細胞を掛け合わせて作られており、紅麗の炎術師の力を発現させている。便宜上は紅麗の妹という扱い。
 森光蘭をパパと認識しており、彼のいうことには絶対服従。関係としては森光蘭を一方的に慕っておりオリジナルである紅麗とは真逆に友好的。
 性格は無邪気で精神年齢に幼さを感じるところはあるが。森光蘭にとって都合のいい存在として教育を受けていることもあって殺人等には忌避がなく、また癇癪を起すと人形の首を引きちぎるなど猟奇的な物への当たり方をする。
 また、自身をクローンと認識していると同時にそれがコンプレックスとなっている。紅麗に殺意を向けていたが返り討ちにあい格の違いを見せつけられて戦意を喪失。森光蘭に助けを求めると失敗作と罵られなが彼女にやどる炎術師の能力だけを目的に吸収されてその命を終える。
 本作では原作死亡後からの参戦。

【方針】
 優勝狙い。邪魔する悪いやつは皆殺し。

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最終更新:2021年06月23日 21:05