首都高速道路(シュトコー)。
日本の中枢にして国家の心臓である東京が、都市としての機能を果たす上では欠かせない交通機関である。そんな国家の大動脈は、今日も平時(いつも)と変わらず、自身の役割を果たしていた。
時刻は夜に突入していたが、首都高を見渡せば運搬車(ワゴンカー)に旅客車(タクシー)、貨物車(トラック)といったいくつもの車がアスファルトの上を通り過ぎ、ヘッドライトで光の尾を描いている。ある車は荷物を配達し、ある車は人を彼方から此方へと輸送していた。中には夜景を眺めながらのロマンチックなドライブだけを目的に、そこを走っている者もいるだろう。なんらかの理由で家に帰りづらく、逃げるように首都高を駆けている者もいるかもしれない。走る車が様々なら、それらが抱える事情も多様だった。
その光景からは──どんな理由であれ、走行(はし)ることが目的なら、誰でも受け入れる。
そんな懐の深さが、首都高にあるように感じられた。
「名前は違っても変わらねーな、ここは」
首都高(シュトコー)を走る車のうちの一台、オープンカーの運転席でハンドルを握っている男は呟いた。
首都高速道路という、都民どころか日本国民なら誰もが知っている交通網の名は、彼の知識になかった。だが首都高(シュトコー)がおりなす蜘蛛の巣めいた模様や、カーブの角度、タイヤがアスファルトを切りつける感覚、なにより高速で走行(はし)る自分を抱擁してくれる向かい風は、彼が知る別世界の東京の高速道路である帝都高速道路──帝都高(テトコー)と比べて、寸分の違いも無かった。
その事実を認識して、男は口元に笑みを浮かべる。その表情ひとつだけで乙女のハートをダース単位で射貫けそうなほどに、彼は整った顔立ちをしていた。松の葉のように長い睫毛で飾られた瞳は玲瓏であり、それに加えて目元には泣きボクロ。老若男女問わずあらゆる他者から好かれそうな優男(イケメン)である。そんな人物が黒スーツに身を包んでいるのだから、何の事情も知らずに彼を見た者は、新宿歌舞伎町のクラブを根城(ホーム)とするホストだと思うだろう。
だがそれは勘違いというやつだ。
男の根城(ホーム)は──聖地(ホーム)は、歌舞伎町ではなくここ、都市高速道路である。
それに彼はホストでもない。
人理に名を刻んだ英霊(サーヴァント)だ。
英霊(サーヴァント)、役職(クラス)は騎兵(ライダー)。
殺島飛露鬼。
それが彼の名前だった。
「で──どうですかマスター。ドライブの感想は」
言って、ライダーは隣の助手席を見た。そこには彼がマスターと呼ぶ男が、ふんぞり返るような姿勢で座っていた。
名を志々雄真実と言うその男は、全身を包帯で覆っており、まるでミイラみたいな格好になっている。包帯の隙間から少しだけ見える肌は醜く焼け爛れていた。彼は全身に重度の火傷を負っているのだ。百人が見れば百人全員が言葉に詰まりそうなほどに痛々しい外見であり、聖杯戦争にマスターとして参加するどころか、こうして高速道路をドライブことさえドクターストップがかかりそうである。しかし、そのような状態にありながらも、彼の双眸に宿る光は凶暴な色を湛えていた。自分は死を待つ惰弱な怪我人ではなく、弱者の肉を食らう強者であると、瞳だけで雄弁に語っているかのようである。
「悪くねえ」
志々雄は愉快気に口角を上げた。
いや、彼が愉快に思っているものは他にもあった。
聖杯戦争──複数の主従が殺し合い、最後に残った一組のみが万能の願望器を手にする、バトル・ロワイアル。
緋村剣心と繰り広げた文字通りの熱闘の末に死亡し、死後の世界で地獄の国盗りに出ようとしたところで突如、未来の日本に連れてこられた時、志々雄は無粋なマネをされたと思ったが、弱者が蹴落とされ、強者が勝ち上がるという、まさに『弱肉強食』の概念をこれ以上なく端的に表した戦いがあることを知って、彼がそれを気に入らないわけがなかった。
「方治たちはここまで付いてこれなかったようだが……仕方ねえな。土産に聖杯を手に入れて、国盗りに戻ればいいだけだ」
自分の勝利を微塵も疑っていない口調で、志々雄は言った。
その時、ライダーは気が付いた──背後に現れた車の存在に。
「ん……」
不審(あや)しい。
極道としての勘か、それとも英霊(サーヴァント)になったことで他の英霊(サーヴァント)の存在に敏感になったのか──一見普通の車に見えるそれは、ライダーにとって獣が潜む檻のように感じられた。
聖杯戦争は既に始まっており、主従同士の戦いの火蓋は、都内各所で切られている。
もちろん、この首都高(シュトコー)も、例外ではない。
「どこかから尾行(つ)けられてたか? それとも偶然(バッタリ)遭遇しちまったのか? どっちにしろ、こんな時に敵が出てくるなんてなァ~……」
唐突に現れた敵に、不満を隠さないライダー。一方、志々雄は余裕のある佇まいを崩さないまま、次のように言った。
「なあに、ちょうどいいじゃねえか──ライダー、おまえの実力を見せてもらうぜ」
「了解(ウッス)」
ライダーは懐に片手を突っ込んだ。すぐに引き抜かれた手に握られていたのはピストルだった。現代社会で携行が禁止されている凶器を、まるで煙草やライターのように取り出したライダーは、後ろに振り返ってその引き金を躊躇なく絞った。もちろん、現代の車の操縦知識なんてないであろうマスターにハンドルを渡してしまうことが無いように、もう片方の手で運転を続けながら。
銃声がふたつ。黒光りする銃口から放たれた弾丸は、首都高(シュトコー)空中の須臾の旅を終えると、アスファルトで一度跳ね、背後の車のガソリンタンクに突入した。
いったい誰が信じられようか。ライダーは魔術でなければ、加護でもなく、ただ単純な跳弾技術だけで、『高速で走り続ける車の一か所に目掛けて、弾丸を滑り込ませる』という神業を成し遂げてみせたのである。
これぞライダーが極めし技術──その名も。
「極道技巧(スキル)『狂弾舞踏会(ピストルディスコ)』!」
直後、轟音が鳴り響く。背後の車が糸を引いたクラッカーのように弾けた。マスターとサーヴァントのものと思しき生首が、夜空に放物線を描いて飛んで行った。まさかガソリンタンクを即座かつ精密に狙われ、爆破されるとは思っていなかったのだろう。何が起きたのか分からないまま、避ける暇もなく即死したはずだ。
爆炎に照らされる首都高(シュトコー)を見て、ライダーは懐かしい気持ちになった。
いまの彼の脳裏には生前の記憶が蘇っているのだ。
暴走族(ゾク)の仲間たちと共に帝都高(テトコー)を走り抜けた日々を。
暴走の邪魔をした機動隊を血祭りにした毎日を。
警察(サツ)の目を逸らすために何百もの家を燃やした日常を。
懐かしさで絶頂(たまらな)い気分になりながら、ライダーはピストルの銃口から立ち上る煙を吹いた。
口づけをするようなその仕草は、やはりサマになっていた。
【クラス】
ライダー
【真名】
殺島飛露鬼@忍者と極道
【属性】
渾沌・悪
【ステータス】
筋力E 耐久C 敏捷B+ 魔力E 幸運D 宝具D++
【クラススキル】
騎乗:C++
乗り物を乗りこなす能力。暴走族神(ゾクガミ)であるライダーが『暴走』を目的とする騎乗をおこなった時、このスキルの効果は増幅する。
対魔力:E
魔術に対する抵抗力。ライダーは現代の英霊であるため、このスキルを最低ランクで所有している。
【保有スキル】
暴走族神(ゾクガミ):EX
カリスマの派生スキル。国家の運営ではなく、不良(ヤンキー)を率いた暴走行為時にこのスキルの本領は発揮される。その際にライダーはもはや神性に近いカリスマを獲得する。
ライダーは不良(ヤンキー)界の神性(カリスマ)である。その絶大なカリスマを発揮すれば、一本の電話をはじまりに、全世界の五万人の悪童(ワルガキ)の心に火をつけることすら可能となる。
また平常時であっても、彼はその美麗な風貌と人に好かれやすい性質(タチ)から、他者の好意を集めやすい。
射撃:B+
銃器による早撃ち、曲撃ちを含めた射撃全般の技巧。ライダーは跳弾を用いた立体的な弾道で敵を追い詰める極道技巧(スキル)『狂弾舞踏会(ピストルディスコ)』を得意とする。
地獄への回数券(ヘルズ・クーポン):-
ペーパードラッグ『天国への回数券(ヘブンズ・クーポン)』の改悪版。服用することで筋力、耐久、敏捷、射撃スキルのランクが著しく上昇する。
【宝具】
『暴走師団・聖華天』
ランク:D++ 種別:対軍宝具 レンジ:337800 最大捕捉:100000
ライダーと仲間たちの『暴走(ユメ)』の再現。
ライダーが生前率いていた最凶の暴走族グループ『聖華天』の構成員(メンバー)を“”召喚(よ)“”びだす。全盛期には十万人を超える規模だったこの集団(グループ)は、当時の機動隊すら圧倒し、東京の都市高速道路を恐怖に陥れたほどの戦力を持つ。聖華天は構成員全員がライダーに熱狂的な信仰を抱いており、ひとたび彼が招集をかければ、ひとりも欠けずに召喚に応じることだろう。
【wepon】
拳銃(チャカ)
【マスター】
志々雄真実@るろうに剣心
【weapon】
志々雄の愛刀である最終型殺人奇剣。予め無数の細かい刃毀れがあり、そこに人間の油が沁み込んでいる。刀を振って刀身が鞘などと摩擦を起こした際に発火することが特徴。そこに志々雄自身の腕前が合わさることで最強最悪の秘剣が誕生する。
【能力】
桁外れの耐久力、極めて高い剣技と、戦士としては十全な戦闘能力を有している。
しかしながら、かつて全身に負った大やけどが原因で発汗機能を失っており、そのため体力調整が出来ず、戦闘によって体温が上がり続けると人体発火を起こして自滅してしまう。
最終更新:2021年06月23日 21:05