模倣東京内の一画に存在する団地。
 その管理人の住居に、二人の男がいた。
 一人はこの団地の管理人のヨシダ。
 外見は童顔で身長も低く、下手をすれば小中学生にも間違えられそうな程だが、これでも高校を卒業した後で、18歳は超えている。
 元は彼の父親が管理人を務めていたが、倒れてしまったので息子である彼がやって来たのだ。

 この団地は平和そのもの。
 大きなトラブルもなく、坦々と仕事をしているだけで、日々が緩やかに過ぎていく。
 断じて異常な性癖をこじらせる変態な人妻が現れることも、装着者の理性を奪う卑猥で異常な服が出回ることも無い。
 ヨシダが元の世界で管理人をしていた団地とは大違いに。

 そう、ヨシダは聖杯戦争のマスターに選ばれ、この世界に連れてこられていたのだ。
 しかし彼には願望器に掛ける願いはなかった。
 いや、正確に言うなら願いはある。それもかなり切実なものが。
 だが、その為に他人を踏み台にしようと思うほど、彼は非情にはなれなかった。

「だから、僕はこの世界から脱出できればそれでいいんです」

 と、いう話をヨシダは自身のサーヴァント、セイバーにしていた。
 セイバーの外見は、マスターのヨシダとは対照的に、老人だった。
 白髪で長髪を後ろで一本に纏め、和服を身に着け、一メートルを超える長い刀を携える彼の名前は佐々木小次郎。
 世間的には、宮本武蔵と巌流島で決闘したことが有名な剣客である。

 それはそれとして、セイバーは頭をボリボリと搔きながら困っていた。
 彼を知る人間なら、珍しいものが見れた、と思うであろう本気の困惑だった。

「いいのかい坊ちゃん。聖杯使わなくて?
 そりゃ、吾はいらねえよ。元々修行の為だけに来ただけだからな。でも坊ちゃんは違うだろ?」

 これはセイバーなりにヨシダを気遣ったうえでの言葉である。

 そもそも、セイバーには自分で言った通り聖杯に用があるわけでは無い。
 彼は、あくまで自分の力をより高める修行のためにここにいる。
 聖杯など、もし勝ち取ることがあっても、マスターに渡すつもりだった。

「変態人妻とかリビドークロスとか、吾には分からねえけどよ。
 聖杯(そいつ)がありゃ、坊ちゃんはいらねえ苦労をしなくていいんじゃねえのかい?」

 だがマスターであるヨシダは、聖杯をいらないという。
 もしこれが、何の願いもなく巻き込まれたのなら分かる。
 だがマスターには、話を聞く限りどう考えても願いがありそうなのに、聖杯をいらないというのだ。

 これがセイバーの考え方。
 これが剣に生きたバカな男の思考。

 セイバーは、目的の為に戦うことに躊躇がない。
 願いの為に血を流すことに、一切の抵抗がない。

「はい。僕に聖杯は必要ありません」

 だがヨシダは違う。
 普段は気弱でも、いざとなれば自らの身も顧みず他人を助けようとする彼とセイバーは違う。
 例え聖杯が何のリスクもなく確実に願いを叶えてくれるとしても、殺し合いの果てのトロフィーなど欲しくはない。

 加えて、ヨシダには守るものがある。
 それは彼が管理する団地の住民たち。
 それが管理人として、彼がやるべきこと。

 ヨシダが倒れた父から引き継いだ、大切なもの。
 聖杯で無理矢理捻じ曲げるようなことでは、きっとないのだ。

「だから僕は、あの団地に帰らなきゃいけないんです」

 ヨシダの嘘偽りない思いを、セイバーには理解しきれなかった。
 なぜなら彼の生涯は、基本的に『やりたいことしかやらなかった』人生だったから。
 誰かと心を通わせることはあっても、誰かの思いを継いだことはない。
 だから、ヨシダの言葉はセイバーにとって、酷く尊いもののように見えた。

「ま、それならそれでいいさ。坊ちゃん」

 結局、セイバーはヨシダの考えを受けいれた。
 別に、小次郎はマスターを殺し合いに駆り立てたいわけでもないのだ。
 そんなことより、ヨシダはセイバーに言いたいことがある。

「それより、坊ちゃん呼びはやめてください」
「おう」
【クラス】
セイバー

【真名】
佐々木小次郎@終末のワルキューレ

【パラメーター】
筋力B 耐久C 敏捷B 魔力D 幸運C 宝具EX

【属性】
中立・善

【クラススキル】
対魔力:C
魔術詠唱が二節以下のものを無効化する。大魔術・儀礼呪法など、大掛かりな魔術は防げない。

騎乗:E
乗り物を乗りこなす能力。騎乗の才能。
申し訳程度のクラス補正だが、生前の時代を考えると馬くらいなら乗れるはず。

【保有スキル】
心眼(真):A+
修行・鍛錬によって培った洞察力。
窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、その場で残された活路を導き出す戦闘論理。

岩流:A
セイバーが生み出したセイバーの為の剣。
それは未だ道半ば。

無窮の武練:‐
ひとつの時代で無双を誇るまでに到達した武芸の手練。極められた武芸の手練。
勝利したことがない故に誰にも認められないが、もし英霊級の剣士がそれを認めたならばその時は――

【宝具】
『史上最強の敗者』
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:0 最大補足:1
それは、決してありえない存在。
それは、あってはならない異常。
セイバーは、敗北してなお勝利を求める。
セイバーは、死してなお最強を求める。

故にセイバーは、一度『英霊の座』に登録されれば不変のはずの己の全盛期すら塗り替える。
死してなお修練。死して未だ成長。全盛期は己が死した後の老年となる。

セイバーはこの聖杯戦争の最中であっても成長する可能性がある。
それはパラメーターの変化か、新たなスキルの獲得か。
あるいは、新たな宝具の発現か。

そして全ての経験は、座にいる本体に余すことなく還元される。

【weapon】
備前長光三尺余寸

【人物背景】
巌流島で宮本武蔵と決闘したことで知られる剣士。
生前は富田道場に通っていたものの、寝坊や負けそうになるとすぐに降参することからお荷物だと思われていた。
しかし、実際は敗れる度に勝利の術を追求し、一人で学び鍛錬し、イメージだけでついには師である富田勢源すら超えた。
その後、師匠から朝倉家の剣術指南役の推挙を受けるが拒み、全国の剣士たちを相手に負け続けては、その剣士達を超える方法を一人追求していく旅をしていた。
最期には宮本武蔵に敗北し、その生涯に一度の勝利も無かった。
だが死後、生前に戦った相手と頭の中で何度も戦い、その相手を超え続けることで生前を超える実力を身に着け、『史上最強の敗者(ルーザー)』と呼ばれるまでになった。

【サーヴァントとしての願い】
修行。聖杯は必要ない


【マスター】
ヨシダ@淫獄団地

【マスターとしての願い】
元の世界に帰る

【weapon】
  • ボルタッククロー
生体電気を増強し、手をかざすことであん摩マッサージができる強化器具。
生体電気に反応するアイテムに手をかざせば破壊できる。
気になるお値段は10万円。

【能力・技能】
なし

【人物背景】
元々は高校卒業後、就活に失敗し引きこもっていたが、父が倒れたので跡を継いで、ある団地の管理人をすることになった男。
しかしその団地は、謎の組織から力を与えられ変態性癖を暴走させる、変態人妻が数多いる曰く付きの団地だった。

外見は小柄で童顔で、高校を卒業した18歳以上の男性には見えない
性格は気弱を自称するが、優しい常識人で、いざという時は強大な敵に勇気をもって立ち向かうこともできる熱い男。

【方針】
生還優先。

【備考】
参戦時期は6話終了後です

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最終更新:2021年06月29日 20:11