けたたましく鳴り響く目覚まし時計に、のろのろと手を伸ばして止める。
頭の中が、ひどく混乱している。
十分に眠れなかったせいか。いや、違う。
脳内に、今まで歩んできたものとはまったく違う人生の記憶がある。
そして、聖杯戦争なる戦いに関する知識も。
どうやら自分は、聖杯とやらによって未知の儀式の参加者に選ばれてしまったらしい。
迷惑な話だ、としか言いようがない。
すでに自分は、人生における最大の目標を達成している。
今さら他者と争ってまで叶えたい願いなどない。
そんな人物を参加させてどうするというのだ。
だいたい、願いを叶える力があるならどうしても叶えたい願いのある人間を見つけて無償で叶えてやればいいではないか。
命がけの戦いを勝ち残らなければ願いを叶えられないなど、理不尽な話と言わざるを得ない。

「いや、いつまでも布団の中で考え込んでないで、いいかげん起きてもらえません?」

とっくに召喚されていたサーヴァントに小突かれ、冨岡義勇は布団から追い出された。


◆ ◆ ◆


「おまえは……」

冨岡の前に現れたサーヴァントは、彼にとってなじみ深い人物だった。
美しく整った顔立ち。
隊服の上からまとった、蝶の羽を思わせる絵柄の羽織。
共に柱の一人として、肩を並べ戦った剣士。
蟲柱・胡蝶しのぶだ。

「死んだ人間が、もう一度現世に現れるはずがない。
 なるほど、聖杯戦争のくだりから全部夢か」
「いや、今そういうおとぼけいりませんから」

勝手に納得して布団に戻ろうとする冨岡の頭を、しのぶがわしづかみにして引き戻す。

「ちゃんと現状を認識してください。あなたは聖杯戦争に参加させられたマスター。
 そして私は、マスターと共に戦うためかりそめの体を与えられて現世に蘇った死者・サーヴァントです。
 ここまでは理解できましたね?」
「ああ」

しのぶの説明に、仏頂面でうなずく冨岡。

「現状、生きて帰る手段は聖杯戦争終了まで生き延びるしかありません」
「棄権も許されないとは、勝手に参加させておいて本当に身勝手な儀式だな」
「まあ、それは私も思いますが……。とにかく、どんなに逃げ回ったとしても戦いを完全に避けることは不可能です。
 そして冨岡さんは、すでに満足に戦える体ではない」
「ああ……」

冨岡は鬼舞辻無惨との戦いで、右腕を喪失している。
これでは鍛え抜いた技も、完全な形で放つことはできない。
それ以前に、振るうべき日輪刀は鬼殺隊が解散したときに手放してしまっている。

「まあ元々、サーヴァントには一般的な攻撃は通用しないんですが……。
 とにかく、戦いになった場合は私に任せてください。
 歯がゆいでしょうが、それが生き残るための最善策です」
「わかった、わきまえよう。ところで……」
「なんです?」

今までの説明にわかりづらいところがあっただろうか、としのぶは首をかしげる。

「おまえの願いはなんだ、胡蝶」
「は……?」
「俺に与えられた知識には、サーヴァントは叶えたい願いがあるからこそ召喚に応じるとある。
 先ほどからおまえは俺の命を心配してばかりで、自分の願いについては話していない。
 差し支えなければ、教えてもらえないだろうか。
 他ならぬおまえだ。俺もできる限り協力を……」
「はあ……」

冨岡の言動に、しのぶはわざとらしくため息をつく。

「何を馬鹿なこと言ってるんですか、冨岡さん。
 私の……私たちの願いは、あなたが生き残ることです」
「なんだと……」
「当然じゃないですか。あなたはあの戦いを生き残った、数少ない柱の一人です。
 こんな妙な戦いに巻き込まれて死ぬなんて、いやに決まってるでしょう。
 みんな同じ気持ちです。お館様も、悲鳴嶼さんも、煉獄さんも、時透くんも、甘露寺さんも。
 伊黒さんはちょっと微妙ですけど……。まあさすがに死んでほしいとまでは思ってないはず……」
「そうか……」
「それと、彼もです。錆兎さん、でしたっけ。冨岡さんの兄弟弟子」
「っ!」

自分をかばって命を落とした親友の名前を告げられ、冨岡の顔色が変わる。

「召喚に応じたとき、彼の声が聞こえました。
 『あいつを頼む』と」
「錆兎……」

冨岡は、左の拳を強く握りしめる。

「みんなにそこまで心配をかけているのでは、むざむざと死ぬわけにはいかないな。
 なんとしてでも生き残らなければ。力を貸してもらうぞ、胡蝶」
「ええ、もちろんです。そのために来たんですから」
「だが今は……とりあえず、朝食を食べさせてくれ。
 空腹では考えもまとまらない」
「……はい」

いまいち締まらないなあ、とうなだれるしのぶであった。

【クラス】アサシン
【真名】胡蝶しのぶ
【出典】鬼滅の刃
【性別】女
【属性】中立・善

【パラメーター】筋力:D 耐久:D 敏捷:B 魔力:E 幸運:E 宝具:C

【クラススキル】
気配遮断:A
自身の気配を消すスキル。隠密行動に適している。
完全に気配を断てばほぼ発見は不可能となるが、攻撃態勢に移るとランクが大きく下がる。

【保有スキル】
医術:B
アサシンが生きていた当時としては、最先端に近い医療技術。
彼女の本職は医者ではないためBランク止まりだが、負傷を治療するには十分。

鬼狩り:A
鬼殺隊の一員として、鬼を狩り続けた者。
鬼に攻撃するとき、与えるダメージが上昇する。
サーヴァントのスキルとして昇華されているため、彼女の知る「鬼」と同種でなくても
「鬼」と呼ばれる存在であれば効果が発動する。

藤の毒:EX
全身を余すところなく、藤の花から抽出される毒に染めている。
彼女の肉体は鬼にとって高純度の劇物であり、摂取すれば大きなダメージを受けることになる。

【宝具】
『全集中・蟲の呼吸』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1-3 最大捕捉:1人
身体能力を飛躍的に上昇させる「全集中の呼吸」の中の一つ。
呼吸法及び彼女の繰り出す技の全てが、まとめて一つの宝具として扱われている。
宝具としては威力もランクも低いが、その分わずかな魔力の消費だけで繰り出すことができる。

【weapon】
「日輪刀」
鬼を滅ぼすことができる、太陽の力が込められた刀。
アサシンのものは突きに特化した彼女の戦闘スタイルに合わせ、先端と根元にしか刃がない特異な形状となっている。
また毒を敵の体に流し込む機能が備わっており、鞘に出し入れすることで毒の調合を変えることも可能。

「隊服」
鬼殺隊士共通の、学生服のようなデザインの服。
低級の鬼の爪程度なら弾ける強度がある。

【人物背景】
鬼殺隊の幹部に相当する「柱」の一人で、蟲の呼吸を収めた「蟲柱」。
幼少期に鬼の襲撃で両親を失うが、姉と共に後の岩柱・悲鳴嶼行冥に救われる。
彼に無理を言って、姉と共に鬼殺隊に入隊。
剣士として成長していくものの、姉は上弦の鬼・童磨との戦いで殉職。
姉を殺した鬼への怒りと、鬼との共存の道を模索していた姉の思いを踏みにじりたくないという思いがせめぎ合い、
常に笑みを浮かべながらも心には怒りを抱いているいびつな状態となってしまった。

【サーヴァントとしての願い】
冨岡の生還

【マスター】冨岡義勇
【出典】鬼滅の刃
【性別】男

【マスターとしての願い】
生還

【weapon】
なし

【能力・技能】
「全集中・水の呼吸」
身体能力を飛躍的に上昇させる「全集中の呼吸」の中の一つ。
呼吸そのものは今も使用可能だが、付随する技は隻腕のため完璧な形では使用できない。

【人物背景】
鬼殺隊の幹部に相当する「柱」の一人で、水の呼吸を収めた「水柱」。
選抜試験において兄弟弟子・錆兎の犠牲によって何もしないまま合格してしまったことが心の傷となっており、
柱の地位を与えられた後も「自分は柱にふさわしくない」と思い続けていた。
性根は間違いなく善良なのだが、必要最低限のことを口にしないコミュニケーション力不足から誤解され、嫌われることの多い損な性分。
参戦時期は、鬼殺隊解散後。

【方針】
生き残る

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最終更新:2021年07月07日 21:04