木の洞の中に二匹の狢が蠢いている。
幾分か気分が悪くとも、彼らの安全であることの幸福は未来にわたって満たされる。

洞の中にいるだけでよいのだ。
道順に沿ってさえ行けば必ず、体は他の何よりも大きくなって、他を寄せ付けないだろうから。

 けれども、風変わりな一匹の狢は、狭くてはやってはいけないと、洞から飛び出して外で傷つきに飛び出した。
穴に残っている狢は、もう一匹には気づかなかった。彼は穴が広くなったことを喜び、ぬくぬくと蓄え続ける。
もう一匹が外で雨に打たれようが、穴の狢は気が付かない。そのうち体長も面容も変わり果てて、元は同じ穴にいたことを、彼らは忘れていくのだろう。

 雨が降っていた。

 空に浮くというのは、支配よりも自由を表す能力だ。地表からフワフワと浮き上がり。遮るもののない中空を縦横無尽に飛ぶ。
他のものがせせこましく海面を這いずる中で、彼と彼の艦隊は誰の静止をも受けることなく、大空に櫂を動かし進んだ。
やがて世界の半分を進み、もう半分で奪い合う中で彼は自由の頂点に限りなく近づいていたのだ。

 しかし、彼の芯は純然たる支配者であった。ルールに縛られずとも、他人がルールに縛られないことには我慢がならなかったのだ。
大艦隊を畏怖の統率でまとめ上げ、広大な縄張りを恐怖の統治で搾り上げ、不快な海でさえも強大な能力で掴み上げる。
自由に浮かぶ能力は、万物を制御下に置く能力へと覚醒し、砂粒から大地に至るまでも彼の支配下に置かれた。

 支配にこもる彼が求めるものは、この世を食い尽くすであろう究極の兵器。

 そしてそれを阻むものは、唯一その在処を知るのに使おうとはしない者。
彼と対極、規則を破壊し自らは規則を作らない。他人をどうこうできるだなんて思わない男。
支配の洞の中から飛び出した、この海で最も自由なくせに、それでいで後年、富も名声も、力も、
この世のすべてを手に入れる者の名を、人々は海賊王と呼んだ。

 超人的な意思も力も、時の流れに飲み込まれて闇に消える。かつて舞い降りた天才が独り言ちたように、
この世のすべてを手に入れたはずの老人は、いまや衰退を免れなかった。
彼にとって生きることも、栄えることも、勝利することも、すべて地球という大地を踏みしめて歩くことに等しかったのに。
できたことができなくなる、当たり前の事実が、総てでも満たされることがない彼の心中を覆った。

 そんな彼にとって普通の若者の姿はどう見えるだろうか。老いた自分ができるのに若いこいつはできない。
それでいて若さという万能性を、自分からとうに過ぎ去ったものを、直視したくない輝きを何も知らずに振り回し続ける。
なぜか、手に入れた力、立場、磨き上げた才、知性、生まれ持った運さえも持たないものがなぜ生きる。
なぜ持っているものが抑鬱に追い込まれ、持たざる者どもが解放されて生きるのか。奴らの目の前に広がる自由な景色さえ許せない。

 王は、自身の不覚に気が付かない。

 だから──夢にも思わなったのだ。自分の前に現れたただ若いだけの凡愚が、どんどん異形へと姿を変え、自分の命を脅かすなどとは。
目の前の悪魔は、有利に整えたはずの場面を支配し、巧みに練り上げた策略を乗っ取り、人知の及ばぬ強運さえも飲み込んでいく。
積み上がった金の城が陥落し、自分の首に手がかかった時、老人の認識は塗り替わりつつあった。
渡り合う悪魔が、小癪な天才が──打倒しなければならない同じ鬼へ、王へ、そして老人の人生に現れた珠玉の宝石へと。

 王手をかけて、勝利と引き換えに眼前の相手に死を突き付けたときに、老人はやっと気が付いた。
目の前の神域に触れる男は、外側にいた自分であるのだ。自身の有利から命までを自由に放ることができる男はあの時外に出た狢だった。
勝負の価値と自分殺しを天秤にかけたが、──執行に傾いた勝負は、結局有耶無耶のままに終わる。
しかし、彼はもっとも大きなものを得た。この神域というべき天才と再び戦い、勝利する。それこそが人生の本願である。

 そんな大きな──目標を。

 (なんじゃ……こいつは……)

 【エッドウォーの海戦】
〝金獅子〟シキと〝海賊王〟ロジャーが戦闘。
周辺を自軍で囲んだシキはロジャーに降伏勧告を行うもロジャーは拒否。
直後、周囲を覆った大嵐によりシキが頭部を負傷、艦隊も半壊し、ロジャーが包囲網を突破。

 (王は同じ王を嗅げる……一見したときは同じ匂いを嗅いだ気がした……、しかし、異なる……!)

 【海軍本部襲撃事件】
 シキがロジャー救出を目的として海軍本部を襲撃。
襲撃時本部に待機していたセンゴク(当時大将)及びガープ中将と戦闘に。
本部が半壊する被害を受けるものの、海軍が勝利。シキ、インペルダウンに収監。

 (こ奴は……もはや敗北者……! 自身の半身ともいえる目標を手にしておきながら逃し……、有耶無耶のまま……永遠に失った者……!)

 【インペルダウン脱獄事件】
 ロジャー処刑の情報を得たシキが海楼石の錠から両足を切り離して脱走。
また、押収していた刀剣、「桜十」、「木枯し」を奪取。
その後、白髭海賊団と接触した旨の情報が入るも、足取りは不明。

 (ぐ……なぜぐずぐずした……! 世界に同等の王が二人並び立つことなどあり得ない……! 見つけたならば食らわねばならぬ……!)

 (逃せば結果……! 現れるのはガラクタ転がる荒野よりも下、無明の空間……!)

 何が新しい時代だ。宝目当てのミーハーどもが海にのさばったって邪魔なだけだ。海賊は海の支配者だ。俺たちはそうだったんだ!。

 結局のところ、あの海戦にて決着は着いていたのかもしれない。ロジャーをできなかった時点でシキは敗北した。
しかし、あの時点では彼は次を見ていた。ロジャーを屈服させる目標は、海賊王の寿命を知らぬ彼にはまだまだ機会があったのだ。
結果起こったのはロジャーの自首と東の海での処刑である。機会を失い、最弱の海で海賊王が処刑されること、
自由を求めて、根幹が同じ同胞が処刑されることは、彼の価値観ではあってはならないことだったのだ。

 結果、起こったのは惰弱な海賊たちによるやかましいだけの時代。 目的を失った彼には何もかもが許せなかった。妄執に取り込まれた。
海賊王の処刑への報復のため、東の海を破壊する。20年の時間をかけた計画。
見る影もない空中海賊艦隊。脳を圧迫する操舵輪、両足の欠損による循環器系への影響。
総てが彼を弱体化させ──、油断と不運も相成り、彼は再び最弱の海の人間に敗れた。

 彼を破った男の名前はモンキー・D・ルフィ。その後の時代の中心となる男であった。

 シキは穴にこもった狢である。ロックスの海賊団に所属し、支配を指向したときから、彼は穴にこもったのだ。
鷲巣は彼の過去は知る由もなかったが、目的を失った王が行き着く先を見た際に心胆を寒からしめるものを感じた。
アカギとの戦いから三年、頭脳も意思もそうは衰えていないが、体はもはや衰弱し続けている。
このままアカギを見つけることができずに死んだならば、自分もここに行き着くのではないか──。

 行くぞ、と鷲巣は声をかけて車いすを回した。シキはおう、と答え、義足代わりの二本の剣が動いた。
まともに歩くことができずとも、目的は果たさねばならない。果たせずは──無明の洞の中である。


【クラス】
ライダー
【真名】
シキ
【出典】
ONE PIECE FILM STRONG WORLD
【性別】
男性
【属性】
秩序・悪

【パラメーター】
筋力:A 耐久:B 敏捷:A 魔力:B 幸運:C 宝具:EX

【クラススキル】
対魔力:B
 魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。
 大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。

騎乗:A
 幻獣・神獣ランクを除く全ての獣、乗り物を自在に操れる。

【保有スキル】

覇気使い:B+
 全ての人間に潜在する"意志の力"。
 気配や気合、威圧、殺気と呼ばれるものと同じ概念で、目に見えない感覚を操ることを言う。
 シキはは最高レベルの覇気使いであったが、老いと両足の欠損により弱体化しており、
 覇王色を"まとう"には令呪の補助が必要である。

空の航海者:A
 船と認識されるものを駆る才能。しかしシキは空を征く代償として嵐を航海することができない。
 集団のリーダーとしての能力も必要となるため、軍略、カリスマの効果も兼ね備えた特殊スキル。

悪魔の実:EX
 超人系の悪魔の実『フワフワの実』の能力者。
 これを食べたシキは自身と触れた物体を空に浮かせることができる。
 その能力の規模は弱体化した身体を補って余りあるほどであり、小さな砂粒から、軍艦十隻、島数個。
 弱点である海水さえも自由に浮かせることができる。また、別方向に浮かせることで念動力のような精密操作も可能。
 範囲も広く、何十~何百マイルにも及ぶ。ただし、生物を浮かせることはできない。
 また、概念としては浮かせる力が根幹であることから、強い外的営力、例として悪天候などに襲われると制御が難しくなる。

【宝具】
『海賊王よ、さらば』(グッバイ、ストロングワールド)
ランク:EX 種別:対海宝具 レンジ:- 最大補足:-
20年をかけた計画の集大成である、メルヴィユ及び島数個を空中に現界させる。
島の中には狂暴化した生物が多数生息しているほか、島の浮力はシキの能力であることから、島自身の質量をぶつけることも可能。
言うまでもなく、使用には莫大な魔力消費を必要とする。

【weapon】
義足代わりの二本の剣、「桜十」、「木枯し」

【人物背景】
金獅子、海賊艦隊提督、空飛ぶ海賊の異名を持つ海賊。
かつては海賊王ゴールド・ロジャーと肩を並べるほどの勢力を有した。
ロジャー処刑への反感から海軍本部襲撃を行うも失敗、インペルダウンに投獄された。
その後公式には初のインペルダウン脱獄者となるが、代償として両足を欠損する。また、ロジャーとの海戦の負傷で頭に操舵輪が刺さっている。
ロジャー処刑後は報復として東の海の壊滅を目論むが、弱体化と不運、油断によってルフィに敗北した。

【サーヴァントとしての願い】
界聖杯を獲得して、ロジャーと決着をつける。

【マスター】
【名前】鷲巣巌
【出典】アカギ~闇に降り立った天才~
【性別】男性
【能力・技能】
  • 強運
衰えつつある鷲巣の力の中でも、唯一鮮烈な輝きを放ち続けるもの。
作中では幸運と評されるアカギを平凡扱いできるほどに幸運であり、王の力の源泉として彼を支え続けた。

【人物背景】
参加はアカギ本編終了後。何よりも大事な目標であるアカギとの再戦に執念を燃やす。
ただし身体が衰え、車いす生活となったことから、再戦かなわず死ぬことを恐れている。
界聖杯の役割としては作中と同じ政財界のフィクサーとしての地位を持っている。

【願い】
何としてでもアカギと戦う。

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最終更新:2021年07月12日 20:42