「貴方は中々ですよ」
無数のメスを乱れ投げながら、黒いスーツを着た長身の男が称賛の声を上げた。
マスターと思われ金髪の女性がランサーと呼んだことから、この相手は槍兵だと思われるがそれを使う様子は見られない。
だが、その槍すらなくとも最も優れたと謳われるセイバーのサーヴァントに容易く肉薄し、僅か数十センチ程度のメスで斬り合ってみせる。
力、技、速さ。
そのどれもが一流であり最高級の一品と言っても良い。
「何を遊んでいるのランサー!」
マスターの女性がランサーへと吠える。
「言った筈ですよ。私は結果より、その過程を楽しみたい。
この戦いこそがその過程なのです。鷹野さん、邪魔をしないで頂きたい」
「なんですって……!?」
僅かにランサーの意識がマスターへと向いたその隙にセイバーは大きく剣を振るい距離を空ける。
セイバーの宝具は広範囲を巻き込み、かつ発動にインターバルがある。その為の露払いだが、ランサーは帽子の下から鋭い視線を送るだけで追撃はしてこない。
「クス、構いませんよ。どうぞ宝具のご使用を。
私も試してみたいのですよ。宝具の打ち合いというものを」
「馬鹿! その前に殺しなさい!!」
「少し、黙っていただきたい」
「なっ……」
ランサーとマスターの諍いを尻目に、セイバーは自身のマスターに合図を送り、マスターも意を決し令呪を三画も消費し魔力を増幅させる。
このランサーは強大な相手だ。出し惜しみをすれば屠られるのはこちら側だとお互いに理解し、何より令呪を失くそうとも裏切られることがないと信頼し合っていた。
その様を見てランサーは笑う。その信頼という絆が、かのゲットバッカーズを思い起こさせ、そして期待する。
この戦いという過程を―――赤屍蔵人を楽しませるに値するか、否かを。
「迎え撃つとしましょうか。赤い槍(ブラッディ・ランス)―――なっ!?」
セイバーのマスターが全霊を持って放ったガンドが、ランサーがその血から生み出した槍を打ち砕いた。
あれほどの強者の持つ宝具が、あの程度で壊れることに違和感を持つ。マスターすらも注意を逸らす程度の筈が、予想以上の功績に目を丸くしていた。
考えていても埒が明かない。それよりもこの絶好の好機を逃さないことが先決だ。
「……なるほど、美堂蛮に一撃で粉砕されたことが逸話として反映された、と……。これではランサーの面目丸つぶれですね」
セイバーの剣戟が光を帯び、それは流星のように尾を引き肥大化する。
宝具を砕かれ、溜息を吐くランサーを飲み込み、数十メートルほどのクレーターを大地に刻み込み大規模な魔力の放出が一転に集約される。
爆風が周囲一帯に吹き荒れ、砂塵は巻き上がり、塵芥は蹂躙されるかのように吹き飛ばされる。
「赤い剣(ブラッディ・ソード)」
破壊の閃光が赤い剣戟に両断される。その魔力の渦は収束し、クレーターの中心から一つの黒い人影が以前変わりなく立つ。
「セイ、バー……?」
剣を構えた騎士は、ただその剣を握り締めたまま自らが死んだことにも気付かず、五枚に下ろされていた。
吹き出す血と共に光の粒子となり消失していく。
「認めましょう。貴方方の絆は本物だったと。
ですが、その力は今一歩足りなかったようです」
ランサーの傍らにはあの砕いた槍ではなく、赤い血のような剣が握られていた。
「さあ、止めを刺しなさいランサー!!」
「もう終わっていますよ」
殺されたという実感すらなく、苦しみすら感じない程の速さで殺められたと気付いたのと意識が途絶えたのはほぼ同時っただ。
何を言って―――そう口を動かそうとして息が上手く出来ない事に気付く。
視界が揺れて、世界が揺らぐ。その中ではっきりと認識したのは、首のない己の肉体だった。
「――――ランサー、貴方ならこんな戦いもっと早くに終わらせられたでしょう?」
「何度も同じ事を繰り返させないで頂きたい。私は結果より、過程を楽しみたいとそういった筈ですよ?」
「ふざけるな! 貴方は私の『依頼』を引き受けたじゃない!」
マスター、鷹野三四が召喚したサーヴァントは風変わりしていた。
自らを運び屋を名乗り、そのマスターを依頼主として方針に従うとする。
「私は聖杯が欲しい……その聖杯まで私を運ぶ。それが依頼よ!」
当初は困惑こそしたが、当然彼女はこの戦争に乗ることを決意し、その勝利を……聖杯まで鷹野本人を到達(はこぶ)させることを望んだ。
「ですから、消したではありませんか。その聖杯に至るまでの障害をね」
「わざわざ宝具の打ち合いなんて、する必要なんかあったの? こちらの魔力も無尽蔵ではないのよ!」
鷹野の懸念は魔力の残高だ。はっきり言えば、鷹野はマスターとして特別優れている訳ではない。
彼女は魔術師でもないし、どちらかと言えばその逆でもある。
他のマスターに劣る程ではないが、彼女が保有する魔力量は多くない。
まだ数十の主従がいるなかで、真っ向から戦闘を吹っ掛け使う必要のない宝具まで無駄使いされては、聖杯戦争最終盤まで持つか不安にもなる。
「まさかとは思うけれど、出会ったサーヴァント全員の宝具をわざと引き出させてから倒すつもりじゃないわよね?」
「もし、そうだと言ったらどうします?」
「くっ……」
苛立ちに任せ体に爪を立てる。歯ぎしりし癇癪を起しそうになる。
だが、先ずは深呼吸し冷静になる。
まだ負けた訳ではない。少なくともこのサーヴァントの強さそのものは本物だ。
状況は決して絶望的ではない。
界聖杯に招かれる前、山狗達がたかが中学生相手に翻弄された挙句、番犬とかいう訳の分からない連中に手も足も出ず投降し始め、銃を渡し自決を強要してきたあの時よりはずっとマシだ。
古手梨花を殺害し、女王感染者の死により雛見沢症候群感染者の暴走を理由に雛見沢そのものを全滅させる。
そして祖父の研究を政府に突き付け、自らとその祖父の一二三が神となる為に。
「令呪を持って命じるわ。私の意思に従え、ランサー!!」
勝手な真似をされて魔力枯渇にでもなられたら面倒だ。令呪を使い、一度完全に屈服させた方が良い。
だが命令に反し、ランサーには何の変化もない。
「イメージできないんですよ。貴方の命令如きに従う私が」
それどころか涼しい顔で言い放つ。そんな命令で己は屈することなどないと。
「そんな、令呪の命令は絶対じゃ……」
サーヴァントに対し、絶対順守の令呪の縛りすら難なく跳ね除ける姿に唖然とする。
命令が曖昧過ぎたか? 確かにそれもあるのかもしれないが、このランサーがあまりにも規格外すぎる。
あまりにも桁違いにもう恐れを通り越して笑いしかない。
「……いやよ。また巡った最後の好機なの」
鷹野は一度敗北している。団結した雛見沢に、あの部活メンバーの子供達に、何よりその運命に。
ふざけるな。ふざけるな。ふざけるな。
恨むのは神、憎しむはその運命。
勝つと決めた。捻じ伏せると決意した。
神が人を試すのなら、人が神を試してはならない不条理に。
ならば敢えて、試すのだ。
神の意思がこの己の意思に勝てるか否か。
サイコロの目は自分で決める。お前如きの好きにはさせない。
「私に従え、ランサー!!!」
「―――な、に?」
二つ目の令呪が光った時、ランサーの顔が歪み、その膝が地へと触れた。
先のセイバーすら叶わぬ偉業が今この瞬間為されたのだ。
「私は、絶対の未来を紡いでみせる。この場にある全ての願望を打ち消し、私の未来を勝ち取ってみせる。
邪魔なんてさせない……それが例え、神様……いえ、それを越えた者であろうと―――」
このランサーは理を越えた存在だ。
契約を交わした時から、察してはいた。絶望の淵に神を呪い、その強い意志の力が神の織りなす世界を否定し、殺戮に至る力を求めた超越者であると。
聖杯戦争すらも、戯れに参加したに過ぎない想像もつかない上位存在だと。
だが、それがなんだ? 神をも超える事が人に可能だというならば、鷹野に不可能な筈がない。
神を呪う思いならば、それは決して自らも劣って等いないからだ。
「……運命すら破る。強固な意思、ですか。
クス、ああ……私は貴女を見誤っていた」
楽しそうに、ランサーは笑っていた。
「か弱い人間はこりごりと思っていたのですが、いえ貴女は確かに強い。
良いでしょう。少しやる気が起きてきましたよ」
正直なところ、ランサーは……赤屍はこの戦争に期待していなかった。
元々、個々の戦いを望む彼は戦争に準ずる集団の戦いを好まないこともある。
更に言えばすぐに癇癪を起す余裕のない鷹野に呆れすらしてもおり、先のセイバーとの戦いもようやくちょっと楽しめたという程度のそれでしかない。
「ならば、見せて頂くとしましょうか。私に依頼しその果てに辿り着いた結果を」
だが神に抗い、その聖域を踏みにじるというのならそれを見届けるのも一興ではあるだろう。
その小さき胸に秘めた強い決意が。
世界に比べればあまりにもこの矮小な意思が、果たして運命すらも超えるのかどうか。
「同じ、神を呪った者同士としてね」
【クラス】
ランサー
【真名】
赤屍蔵人@GetBackers -奪還屋-
【ステータス】
筋力A 耐久C 敏捷A+ 魔力A 幸運C 宝具???
【属性】
混沌・中庸
【クラススキル】
なし
本来は対魔力がつくが、以下の保有スキルが上位互換となるので消失。
【保有スキル】
超越者:A
意志の力を知り、生死を越えた赤屍の絶対の摂理。
赤屍がイメージできない事は起き得ない。
森羅万象はそこに存在を認識されて初めて生まれ出る。
卓越した戦闘力に加え、彼が認めない(イメージできない)あらゆる異能を含めた事象を否定する。
それは己の死すらも例外ではなく、死とは他人事でしかない。
だが、体に仕込んだメスを磁力で逆に利用され八つ裂きにされて敗北した逸話から、地に足付いた事象であるなら完全には否定できなくなっている。
よって高ランクになればなるほど、その宝具及びスキルを無効にでき、逆に低ランクであればある程度は通用する。(死ぬかはまた別として)
赤屍の代名詞ともいえる死をイメージできない為に死なないという理屈も、魔力枯渇という致命的な弱点が存在しマスターが死ねか契約が絶たれれば消滅に繋がる。
更に不死と言っても一時的な仮死状態にはなることもあるので、その間にマスターを狙われるのも危ない。
サーヴァント化の際にこれらの弱点も付与されたので、ランクも下がってしまった。
医術:A
こう見えて医者であり、通りすがりに一般人を救った事もある。
【宝具】
『血』
ランク:??? 種別:??? レンジ:??? 最大捕捉:???
自身の血からメスなどの武器を生成し、時として異能へと変容する等し戦闘へと応用する。
『赤い槍(ブラッディ・ランス)』
ランク:??? 種別:??? レンジ:??? 最大捕捉:???
血から創り出した槍。
一応、赤屍がランサーとして呼ばれた所以の宝具なのだが、美堂蛮との戦闘に於いて使う前に一撃で壊された逸話のせいで、非常に壊れやすくなってしまった。
本来は非常に強固だとは思われる(赤屍の世界で最強クラスの人物が、最終覚醒を果たした上での一撃粉砕なので)。
『赤い剣(ブラッディ・ソード)』
ランク:??? 種別:??? レンジ:??? 最大捕捉:???
同じく血から作った剣。
使用頻度が非常に高く、強敵相手によく使用する。
その他、様々な武器や異能力をその血から繰り出す事が可能。
【weapon】
多数のメス(過去の戦いから反省し磁力対策済)。
【人物背景】
Dr.ジャッカル、史上最低・最悪の運び屋と呼ばれた男。
非情に好戦的かつ、高い戦闘力を誇る危険人物。
かつて大切に想う少年が居たが、それを救えなかったことで神を呪い超越者として覚醒した。
その過去からか、今は戦闘狂でもありながら時として人を救ったり、命に重みを語るなど矛盾した行為も時々見られる。
【方針】
聖杯には興味はなく、そこに至るまでの過程を楽しむ。
【マスター】
鷹野三四@ひぐらしのなく頃に解
【マスターとしての願い】
聖杯を手にし、滅菌作戦を成功へと導く。
【能力・技能】
少なくとも看護師として振舞える医療技術に、人を射殺できる銃の腕前。
【人物背景】
ひぐらしのなく頃にのラスボス的存在。
祖父が研究していたその成果を、一度は否定された日本政府に突き付けるべく雛見沢を滅ぼし、
神(オヤシロ様)となることで永遠の存在になろうとする強固な意志と狂気に取り憑かれている。
その運命を変えようとする強い意志は、本物の神ですら認めるほど。
【備考】
祭囃し編で、自殺用の銃を渡されて以降の参戦です。
最終更新:2021年07月15日 10:06