【1】


 ……やあ、今日もカーニバルチャンネルに来てくれてありがとう。
 今日は、えーっと……アメリカのジョークの話をしようと思う。

 アメリカのジョークにも色々あって……その一つを、ノックノックジョークって呼ぶんだ。
 日本で言う、その、えー……ダジャレ、みたいなものなのかな。
 まずは、家のドアをノックする。そしたら誰だって聞かれるから……名を名乗る。
 そしたら、その名前にまつわるダジャレを言うんだ……面白いだろ?

 じゃあ、実践してみよう。
 Knock,knock……どなたですか?
 警察です。あなたの息子は……ククッ、飲酒運転を……ハハハハッ!!!ヒヒハハハハハ!!!
 す、すまない……ヒィーーーハハハッ!!ちょっと待って……ハハハハッ!!!!ハハッ、ククッ、ハハハハ……。

 すまない、発作で……勝手に笑ってしまうんだ。
 昔からなんだ、そういう障害で……すまない。

 ええっと、どこまで話したっけ……そうだ、ジョークだ。
 もう一度いこう。
 Knock,knock……どなたですか?
 警察です。あなたの息子は飲酒運転をしていた車に跳ねられて死にました!

 これは、そう、ノックノックジョークをする、と思わせて本当に悲しいニュースをするっていう。
 そういう捻ったジョークなんだ……どうだったかな?

 そういえば、そう。最近、肩の違和感が強いんだ。
 まるで、こう、血を吸う植物みたいなのを植え付けられたみたいな……。
 日本じゃ彼岸花っていう花が血を吸うんだっけ。
 その内、僕の肩にも咲くかもね……アーサーベルが!
 なんて、ハハッ…………。

 えーと、じゃあ、今日はここまで。
 高評価と、チャンネル登録してくれると……そう、とても、嬉しい。
 ……それじゃ、明日もよろしく。バイバイ。


【1】


 型落ちしたスマートフォンに、中古屋で買った低スペックのノートパソコン。
 金を払えば誰でも住まわせる古いアパートに、口に合わない安物のタバコ。そして、色の薄いピエロの衣装。
 それが、アーサー・フレックの全てだった。

 元々、アーサーは21世紀の東京の住人ではない。
 20世紀のアメリカ、その中でも恐ろしく治安の悪い街の出身である。
 道化師派遣会社の下っ端として働き、母親を介護しながら暮らしていた。
 しかし、ある朝目覚めると、「日本で一人暮らしをしている」という事になっていたのだ。
 自分を露骨に見下す上司も、真摯に介護していた母親の姿もない。
 故郷から遠く離れた土地に放り出されたアーサーは、独りぼっちで生きる他なかった。

 経緯も理屈も分からないが、アーサーは不法入国したアメリカ人という事にされていた。
 だから、まともな職に就くなんて夢のまた夢だ。安定した収入など以ての外である。
 幸いなことに寝床はあったが、それも築何十年なのか定かでない、老朽化したアパートである。
 金さえ払えば誰だろうと住ませるだけあって、環境は劣悪そのものだった。

 不思議な事に、現代日本を生きる為の最低限の知識は何故か備わっていた。
 具体的に言えば、日本語の理解度や、スマートフォンやパソコンの使い方だ。
 自分がいた時代にはない筈の装置、使った事もないのに、どう使えばいいのかだけは理解できる。
 薄気味悪い感覚ではあるものの、そのお陰でかろうじて生活は可能だった。

 ここまで言えば察しが付くだろうが、今のアーサーはその日暮らしで精一杯だ。
 かねてからの理想だったコメディアンの大成など、どう足掻いても不可能である。
 芸を披露する場所さえ見つけられないし、仮にあったとしても、社会的地位の無い彼を舞台に立たせる物好きはいないだろう。
 もっとまずいのは、戸籍を持たないアーサーでは公共の福祉を受けられないという点だ。
 そのせいで、日課であった精神科医とのカウンセリングも行えず、向精神薬さえ手に入らない。
 薬に頼れないこの状況では、アーサーの精神状態は悪化していくばかりであった。

 そう絶望していた頃、耳に入ってきたのがYouTuberという職業だった。
 彼等は面白い動画を投稿し、それによって収入を得て生活しているのだという。
 舞台に立てないアーサーにとって、彼等の存在はまさしく天啓であった。
 動画サイトであれば、誰もがコメディアンになれる。前歴など関係なしに、だ。
 インターネットの世界であれば、自分はもう一度道化師に返り咲けるのである。

 それに、Youtubeという動画サイトで人気を博すと、海外でも話題になるかもしれないのだという。
 アーサーが思い返すのは、海外のコメディアン――マレー・フランクリンのトークショーだ。
 司会者であるマレーはとっくの昔に引退してしまったようだが、番組は今も残っているらしい。
 それなら、自分が人気者になれば、憧れのあの番組で取り上げてもらえるのではないか。

 ひょっとしたら、自分の動画が脚光を浴びるかもしれない。
 ひょっとしたら、自分が人気者になってテレビに出られるかもしれない。
 ひょっとしたら、自分の活躍が海外のメディアの目に留まるかもしれない。
 ひょっとしたら、自分がマレーが残した番組にコメディアンとして出られるかもしれない。

 そんな、奇跡めいた偶然が叶うのを祈りながら、アーサーは動画を撮り続ける。
 碌に編集もできてない、数分程度のつまらないジョークの動画ばかりを。

 アーサーが開設した「カーニバルチャンネル」には、これまで投稿した多くの動画が並んでいる。
 数十個もの動画に対して、チャンネル登録者数は未だに一桁のままである。
 ここ数週間、その数字が変動したことさえなかった。

 広大なネットの海では、アーサーのジョークは誰にも響かない。


【3】


 経歴不明の怪しげな中年でも働き口があるのは、アーサーの数少ない幸運の一つだった。
 日雇い労働の仕事では、基本的に職歴は重要視されない。無視されると言ってもいい。
 だから、アーサーであっても働いて収入を得る――微々たるものだが――事は可能であった。

 そんな仕事の休憩時間、喫煙室で金髪の若い男と煙草を一服していた。
 アーサーとその男は、これまでに何度か顔を合わせる機会があった。
 恐らく、アーサーと似たような境遇にいるのであろう。それこそ、その日暮らしをせざるを得ない程のものが。
 スマートフォン片手に煙草をふかす彼に、アーサーは声をかける。

「……えっと、久しぶりだね。今日も元気そうで良かった」
「当たり前じゃないっすか。アーサーさんと比べてまだ若いっすから」

 そう言って若い男は、スマートフォンに視線を向けたまま、手に持つ煙草を口に咥える。
 アーサーが常用しているものと同じ、コンビニで買えるものの中で一番安い銘柄だ。
 不評の多いものだが、稼ぎの少ない者にとってはこれでもありがたかった。

「あーっと、その……前に言ったけど、僕のYouTube……見てくれたかなって」
「ああ、そういや言ってましたっけ。すんません忘れてました!見ときますわ」

 若い男はけろっとしているが、彼とアーサーがこの会話をするのはこれで三度目だ。
 その度に「忘れました、見ときますわ」と約束するが、それが果たされた日は一度もない。
 チャンネル登録者数はおろか、動画の再生回数すらまるで増えないのが、その証拠である。
 それどころか、アーサーがYouTubeの名前を出すと、若い男は鼻で笑う様な仕草を見せるのだ。
 彼がこの中年の外人を見下しているのは、誰が見ても明白であった。

「じゃあ、その、僕の動画見ないなら……今見てるのはどんなヤツなんだい」
「ああこれっすか。ファスト映画ってヤツっすよ、知らないんすか?」
「……知らない。何なんだいそれ」
「映画を十分くらいのあらすじに纏めてくれるんすよ。
 最近の映画までカバーしてくれるんでありがたいんすよねーこれ」

 当然の話ではあるが、若い男が観ているのは違法な動画である。
 海賊版に限りなく近いものであり、最近は逮捕者まで出たのだという。
 それだというのに、未だに多くの観客はファスト映画を求めている。
 アーサーが真面目に動画を撮る横で、彼等は卑劣な手段で再生数を稼いでいるのだ。

「だけど、それって駄目なんじゃないのかい?いくら便利だからって……」
「は?なんでそんな事アンタに口出しされなきゃならないんすか?」
「いや!す、すまない。君が悪いんじゃなくて……でも、僕は観れないなって……」
「意味わからんっすわソレ、今更善人ぶって気持ち悪いっすよ」

 露骨に見下したような男の言葉対し、アーサーは肩を押さえながら小さく笑う。
 あからさまな嘲笑に対してさえ、彼は何も言い返す事ができなかった。

「……そう、だね。そうかもしれない」
「そうっしょ?楽しく生きてればいーじゃないっすか!
 てかアーサーさん真面目すぎるんすよ、もっとテキトーに生きましょうって!
 ほら、最近出た実写映画あるじゃないっすか。俺見てねーんすけどアレマジでクソって言われてて!!
 解説動画で知ったんすけどぉ、アレ主演の演技クソすぎて逆に面白いらしいんすよ!!
 一緒になってぶっ叩くとストレス発散にいいんすよねーこれ」

 べらべらと喋り続ける男は、煙草を吸っている時よりよっぽど楽しげだった。
 非難していいと見なした存在に対し、彼はどこまでも嘲笑を向ける事ができた。
 大勢で何かを否定する事に快感を覚える、少なくとも彼は、そういう人間だった。

 いや、どんな場所、どんな時代だろうと、大衆とはそういうものだ。
 彼等は英雄が奮起するのと同じくらい、凡愚や無能が這いつくばるのを好んでいる。
 惨めな弱者が憐れに藻掻くのは、人々には最高のコメディにしか映らない。

「それも、ファスト映画ってやつで観るのかい」
「当たり前っしょ、たかがエンタメに金使うとかバカみたいじゃないっすか」

 そう言ってヘラヘラ笑う男に、アーサーもつられるように笑う。
 ただ周りに合わせるだけの、中身の伴わない笑い声だ。本心では少しも面白くない。
 それどころか、怒りにも似た感情が沸々と湧き上がるのを感じる。

 右肩を強く、強く握り締めた。


【4】


 その日は、帰るのに路地裏を通る必要があった。
 鼠が横切りそうな狭苦しい道を歩いていると、ここが日本の首都である事を忘却しそうになる。
 代わりに思い出すのは、以前住んでいたゴッサムシティの情景だった。
 酷い街だった。貧富の格差は東京の比でなく、富豪は弱者を下水道のネズミ程度にしか思っていない。

 歩きながら、右肩を押さえる。最近、いつにも増して疼きが強くなるのだ。
 東京に放り出されて以来、ずっと肩に異変を感じるようになっているが、ここ数日は更に悪化している。
 まるで、巨大なムカデが肩の裏側でのたうち回るような不快感を覚えるのだ。
 肩の病気なのかもしれないが、病院に駆け込む事さえ出来ない以上、放置するしかない。

 そんな風に、肩に気を取られながら歩いていたのがまずかった。
 前方を歩く小太りの学生に気付かず、正面からぶつかってしまったのである。
 スマートフォンを見ながら歩いていたその少年も、アーサーに気付けなかったが故に事故であった。

「す、すまないっ!大丈夫かい?」

 アーサーの心配になど目もくれず、少年は落したスマートフォンを拾い上げる。
 怪我を負ってるかもしれない男より自分の所有物の方が大事だと、そう言わんばかりの行動だ。
 だが、その画面を少し見つめた途端、彼は顔を真っ赤にしてアーサーに詰め寄った。

「お前どうしてくれるんだよッ!!スマホ壊れたじゃねーか!!」

 そういって少年は、証拠と言わんばかりにアーサーへスマートフォンを見せつける。
 アニメの美少女が描かれた液晶画面の全域が、罅割れてしまっていた。
 例え内部機械が無事でも、画面がこの有様では使い物にはならないだろう。

「お前のせいだぞ!!弁償しろよジジイッ!!」
「そんなっ!?でも、携帯を見てた君だって……」
「はぁぁぁ!?責任転嫁かよ!?ふざけてんのかよッ!!」

 アーサーの知らぬ事ではあるが、その少年は普段は大人しい。根暗と言い換えてもいいだろう。
 それは心が優しいからではなく、単に強者に対して強く出れない臆病者だからだ。
 そんな少年でさえ、アーサーに対しては純度100%の怒りをぶつける事ができる。
 早い話、彼でさえこのみずぼらしい中年を見下していた。

 怒り狂う少年と一緒に、アーサーの視界に入ってくるスマートフォンの画面。
 罅だらけの画面に映る少女は、まるで惨い皺が無数にできてしまってるみたいで、

「ヒ、ヒハハ、ハハッ」

 口から洩れるのは、笑い声だった。
 決してアーサー本人の意思ではない。そういう障害を彼は負ってしまっているのだ。
 かつて脳に傷を受けたせいで、意図しない時に勝手に笑いだしてしまう。
 断じて、少年やスマートフォンが面白くて笑った訳ではないのだ。
 けれども、そんな都合を知っているのは、この場においてアーサー独りだけである。

「……は?」
「ククッ、ハハハッ!!アハハハハハハハ!!!」
「なに、何笑ってんだよ、お前……!?」
「違っ、ハハハッ、違うんだ……!病気で……ヒヒッ!ハハハハッ!!
 勝手に笑って、しまってっ!アーーーハッハハハハ!!君を、その、笑いたい、訳じゃ――」

 言い終わる前に、アーサーの腹部に鋭い衝撃が走った。
 少年の渾身の蹴りが、彼に直撃したのだ。

「ふざけやがって!!どいつもこいつも馬鹿にしやがって!
 なんで、お前みたいな、中年のクズにまでっ!!笑われなきゃならないんだッ!!」

 幾度も踏みつけ、そして何度も蹴りを入れる。
 力加減などまるで考えてない、全力の攻撃がアーサーを打ち据える。
 暴力を振るった経験などまるでないのだから、死なない程度の加減が効かないのだ。

「お前みたいなッ!いかにも人生終わってますみたいなクズとッ!!
 このスマホが釣り合うと思ってんのかよッ!!死ねッ!!死ねッ!!死ねッ!!!」

 襲い掛かる暴力の波に、アーサーは何もできなかった。
 アメリカにいた頃と同じように、体を丸めてどうにか自己防衛を試みるだけ。
 何の力も持たない彼では、ひ弱な少年に対抗する事さえままならなかった。

 もしこの場が路地裏でなく、開けた大通りだったのなら、アーサーを救う者はいただろうか。
 いや、きっと道行く者の多くは手を出さず、傍観に徹する事だろう。
 いかにも金を持ってなさそうな中年に対し、彼等は助ける価値を見出さない。
 愛嬌のある子どもや美しい美女ならば、きっと誰もが助け舟を出したのだろうが。

 だからアーサーは、血が出そうなくらい右肩を握り締め、祈る。
 早くこの苦痛から解放してほしい、どんな手段であっても構わない、と。
 この小僧がどれこそ傷つこうが構わない。いっそ殺してしまいたい、と。
 人が助けてくれないなら、人でない、それこそ神様に救ってほしい、と。

 そう願った瞬間――――アーサーの願いは、晴れて成就した。

 何かを殴りつける音に、次いで生肉が床にぶちまけられたような音。
 ぴたっと暴力の嵐が止まり、アーサーは何事かと顔を上げる。
 彼の視線の先にあったのは、かつて人間だった肉塊が壁にへばりつく光景だった。
 壁一面に血潮をぶちまけているのは、ついさっきまで少年だったものだ。

 アーサーの前方に、それまで影も形もなかった筈の存在が立っている。
 豪奢な着物を身に纏い、頭に狐の耳を付けた女だ。背中には一本の見事な尾まで生えている。
 薄汚いものばかり見てきたアーサーにとって、目に毒なくらい麗しい美女であった。
 そして、学のない身であっても、それが日本の伝承にいる妖怪というものである事も理解できた。

 不意に手の甲に痛みが走り、アーサーは咄嗟に目を向ける。
 何も描かれてない筈のその部分には、奇怪な模様が描かれていた。
 おどろおどろしい三画のそれは、こちらを見上げる眼の様にも見えた。

「アヴェンジャー、玉藻の前。召喚に応じ参上致しました」

 汚れ切った地べたに正座し、女は深々と頭を下げた。
 それに対し、アーサーはよろよろと立ち上がり、自分より頭が低い人外を見つめる。
 頭を下げられる側になるだなんて、彼にとっては初めての経験だった。 

「あ……ああ、あの……なに……が…………」
「困惑するのも無理はありません。急な惨劇を前にすれば、ええ、誰もがそうなるかと」
「な、なんだ君は。これは……一体……」
「詳しい話はこの場を離れてからに。誰が嗅ぎ付けるか分かったものではありませんもの」

 アヴェンジャーを名乗る女の、濁り切った瞳がアーサーを見据えている。
 見上げる瞳だった。見下され続けた彼にとって、生まれてこの方、初めて感じた視線だった。
 またしても右肩を押さえる。これまでにない位、強い疼きを感じ取ったからだ。

 少しずつ冷静さを取り戻し、周囲を見渡す。
 この場にいるのは、アーサーと、怪しげな女と、壁に張り付いた少年の亡骸だけ。
 衝撃のせいか、壁の死体は四肢がひしゃげており、まるで出来の悪いマリオネットみたいだ。
 血をぶちまけている様子だって、まるでトマトが潰れているみたいで、見ようには滑稽に思えてしまって。


「………………ハ、HA,ハッ」


 血生臭い現場に不釣り合いな笑みが、路地裏に流れ出た。

「?……何が面白いのでしょう?」
「ハハッ、HA,HA、ハハハッ!!HAハハHAハ――――!!」

 惨劇の舞台でなおも笑うのは、他ならぬアーサーだった。
 堰を切ったように、今までにないくらいの大声で、笑う、笑う、笑う。
 殺人を犯した美女の事など気にも留めないで、腹の底から笑い続ける。
 心の底に蟠る絶望の一切を放り投げたような、そんな快笑だった。

「す、済まない……!!HAHAハ、持病で……勝手に――アァーーーハハHAッ!!
 笑ってしま……って……!!HAHA,ハハHA……!!すまない……悪気は、ハHAハハHAHAッ!!」

 玉藻はきょとんとした顔でアーサーを見つめていたが、それからすぐに口元を歪めた。
 何かを察したような、しかし相変わらず見上げるような瞳が、彼を見つめている。
 彼女の眼は、笑い続けるアーサーの顔――ではなく、彼の右肩に注がれていた。

「……ええ、病気。"そういう事"にしておきましょう」

 薄汚い路地裏で、一組の男女が笑っている。
 それが意味するのは、更なる悲劇の幕開けか、あるいは――――。


【クラス】
 アヴェンジャー

【真名】
 玉藻の前@Fate/Grand order

【ステータス】
 筋力:E 耐久:E 敏捷:B 魔力:A 幸運:D 宝具:B

【属性】
 秩序・悪

【クラススキル】
 復讐者:?
 復讐者として、人の恨みと怨念を一身に集める在り方がスキルとなったもの。
 周囲からの敵意を向けられやすくなるが、向けられた負の感情は直ちに彼女の力へと変化する。

 忘却補正:?
 人も妖も多くを忘れる生き物だが、復讐者は決して忘れない。
 忘却の彼方より襲い来るアヴェンジャーの攻撃は、クリティカル効果を強化させる。

 自己回復(魔力):?
 復讐が果たされるまで、その魔力は延々と湧き続ける。

【保有スキル】
 呪術:EX
 ダキニ天法。
 地位や財産を得る法や権力者の寵愛を得る法といった、権力を得る秘術や死期を悟る法がある。
 勿論攻撃にも転用可能であり、中でもアヴェンジャーは炎と雷の呪術を多用する。

 変化:EX
 借体成形とも。玉藻の前と同一視される中国の千年狐狸精の使用した法。
 殷周革命期の妲己に憑依・変身した術であり、アヴェンジャーはこれを積極的に使用する。

【宝具】



 アヴェンジャーとして召喚された玉藻の前は、宝具を所有しない。



【weapon】
 呪術を武器とする。

【人物背景】 
 キャスター・玉藻の前がアヴェンジャーとして召喚された姿。

【サーヴァントとしての願い】
 不明。

【備考】
 玉藻の前にアヴェンジャーの適性はありません。
.























































 今もなお疼く、アーサー・フレックの右肩。
 その奥深くで、『そいつ』はただただ嗤っていた。

 アーサーを救ったアヴェンジャーを名乗る女は、そいつが創り出した偽物だ。
 そもそも、「玉藻の前」なるサーヴァントに、復讐者の適性など存在しない。
 英霊の座にあった情報を元にでっち上げた、嘘っぱちの化身に過ぎないのだ。

 アーサーの中に潜んでいる「そいつ」こそが、彼が召喚した絶望の夜の化身。
 この星に住まう遍く全てを呪い、妬み、それら一切の蹂躙を望む邪悪の権化。
 世界が陽と陰に分け隔たれた刻より、陰から陽を見上げ続けた、原初の悪性。

 本来であれば、「そいつ」の残滓さえ召喚される訳がなかった。
 誰のものでもない願望機は無我ではあったが、決して無策ではない。
 聖杯戦争そのものを揺るがしかねない存在など、予め召喚できないよう設定されていた。
 そもそもとして、神霊に匹敵する上位存在など、聖杯の出力では召喚しようがない。

 けれども、その程度で潔く諦めるほど、「そいつ」は行儀のいい妖ではない。
 「そいつ」は自らの尾の一本を変化させ、玉藻の前と呼ばれた女そっくりの化身を生み出した。
 かつての自分と同じ名を持ちながら、今ではしれっと陽の側に立っている、不快極まる大妖怪。
 英霊の座に名を刻まれた彼女の仮面を被る事で、聖杯に自分は無害なサーヴァントだと誤認させる。
 それにより、「そいつ」はまんまと聖杯戦争の舞台に上がってみせたのだ。

 だが、「そいつ」の計画はそれだけに留まらなかった。
 聖杯戦争への参加権を得た「そいつ」は、次に受肉の手段を模索し始めた。
 例え聖杯を巡るこの戦いに参加できたとしても、今の状態では勝者となれないからだ。
 無理くりサーヴァントに収まった以上、どうしても魔力供給という問題が立ち上がってしまう。
 よしんば以前のように暴れれば、マスターは一瞬で死に至り、自分も消滅の憂いに遭うだろう。 

 そこで、「そいつ」はかつての記憶を再現することにした。
 どうやらサーヴァントというものは、逸話を再現されるとそれに従わざるを得ないらしい。
 ケイローンにヒュドラの毒が効いたように、狼王ロボが白い犬に足を止めたように。
 であれば、自身がかつて受肉したエピソードを再現すれば、同様に肉体を得られるのではないか。
 世界を憎む者の内側に入り込み、右肩を食い破りながら再誕する――あの印度の記憶を再現すれば、あるいは。

 その判断の結果が、マスターに選んだアーサー・フレックへの寄生だった。
 都合のいい事に、この男の内部はこの上なく――それこそかつて寄生したあの男のように――心地よかった。
 彼は上っ面でこそ優しい弱者を気取っているが、薄皮の裏にはヘドロのような感情が渦巻いている。
 よしんば不幸が重なり、怒りと憎悪が表皮を焼き払えば、間違いなく彼は怪物へ変貌するだろう。

 この東京という舞台も、「そいつ」の受肉にはおあつらえ向きだった。
 かつて日本を火の海に変えた頃に比べても、段違いに陰の気が増しているからだ。
 そんな地で弱者として生きねばならないアーサーの内面は、尋常ならざる憎悪で充満しつつある。
 彼が東京に住み続けるだけで、「そいつ」は驚くほどの速度で力を蓄えるだろう。

 そして何より――――ここにはあの"獣の槍"がない。
 かつて「そいつ」を心から恐怖させ、そして打ち滅ぼした対魔の刃が、この聖杯戦争には存在しない。
 それは、どこにも「そいつ」の復活と暴虐を止めるものがいない事を意味していた。

 だから、「そいつ」は笑うのだ。
 富豪が貧者を描く映画で大いに笑うかのように、「そいつ」は聖杯戦争を嗤い続ける。
 嗤いながらも、妬んで止まないこの世の全てを滅ぼしつくす算段を、現在進行形で整える。

 そう、「そいつ」は地球に生まれし全ての呪う。
 生誕の祝福を受けた存在全てを見上げ、憎み、そして滅せんとする。

 希望を齎す"英雄"を呪う。
 勇気を与える"偶像"を憎む。
 未来を照らす"正義"を妬む。
 互いを支える"家族"を蔑む。
 祈りを束ねる"結束"を嘲る。
 そして、全てを照らす"太陽"を――――羨む。




 おぎゃあぁ、と。
 誰にも知られず嗤いながら。
 そいつは、「白面の者」は、その刻を待ち続ける。

【クラス】
 アヴェンジャー

【真名】
 白面の者@うしおととら

【ステータス】
 筋力:A++ 耐久:A++ 敏捷:B+ 魔力:EX 幸運:E- 宝具:EX

【属性】
 混沌・悪

【クラススキル】
 復讐者:EX
 陰より生まれ出た者として、人の恨みと怨念を一身に集める在り方がスキルとなったもの。
 周囲から敵意しか向けられないが、向けられた負の感情は直ちに白面の者の力へと変化する。
 この世に存在する遍く負の感情、それら悉くが白面の者の餌となる。

 忘却補正:EX
 人も妖も多くを忘れる生き物だが、この邪悪の権化は決して忘れない。
 数百年の時を経てもなお、白面の者は全てを滅ぼす為だけに動き続ける。
 忘却の彼方より襲い来る攻撃は、クリティカル効果を強化させる。

 自己回復(魔力):EX
 全ての陽が滅ぼされるまで、その魔力は延々と湧き続ける。
 それに加え、宿主であるアーサー、更には社会そのものに蔓延る陰の気を食らって力を増していく。

【保有スキル】
 変化:EX
 自身が持つ九本の尾を、"一本を除き"自在に変化させることができる。
 武器や雷に変化させての攻撃はもちろん、意志を持つ化身を生み出す事さえ可能。
 今回の聖杯戦争では尾の一本を玉藻の前に変化させ、サーヴァントとして振舞わせている。
 勿論、それらの尾も白面の一部であり、彼等が陰の気を溜め込めばその分白面の力も増していく。

 人理の陰:EX
 白面の者の正体は、原初から存在していた陰の気そのものである。
 よって、怒りや憎しみといった負の感情を伴わせた攻撃では、白面の者を滅ぼすことができない。
 それどころか、人々が白面の者を恐れれば恐れる程、無尽蔵に力を増していく。
 この獣を滅ぼせるのは、陰を打ち払う太陽の如き希望だけである。

 見上げる眼:EX
 自分を見下す存在のファンブル率を上昇させる。
 が、白面は陽から生まれたこの世の全てを妬み、陰より生まれ落ちた己さえ嫌悪している。
 よって、このスキルはこの地球に存在する全生命に対して発動する。

【宝具】
『この世全ての陰(はくめんのもの)』
ランク:EX 種別:対陽宝具 レンジ:- 最大捕捉:-

 白面の者が実体を得た逸話に由来する宝具。
 この大妖怪の本体は、召喚と同時にマスターの体内に寄生する。
 変化させた自身の尾を利用しつつ、宿主を介して負の感情を吸収していく。
 そして十分な力を溜め込んだ瞬間、マスターの肉体を食い破って受肉。
 霊基という枷から解き放たれた白面の者は、東京の全てに破壊と恐怖を齎すだろう。
 なお、受肉に利用された宿主の肉体も人外のものとなる。

【weapon】
 数十メートルもの巨体を持ち、九つの尾を自在に操る。
 口から熱光線を放つこともでき、その威力は巨大な山すら一撃で消し飛ばす。

【人物背景】 
 妖怪すら恐怖する大妖怪。
 この世の原初の混沌から陰と陽の気が分離した際、陰の気より生まれた邪悪の化身。
 陽の気から生まれた万物に憧れと憎悪を抱き、それら全ての抹殺を至上としている。
 本来であれば召喚不可能だが、玉藻の前の皮を被ることで聖杯戦争に忍び込んだ。

【願い】
 今はただ、再誕の時を待つ。

【備考】
 アーサーと行動している玉藻の前を名乗る存在は、白面の尾が変化して生まれた化身です。
 彼女のステータスは捏造されたものであり、本来サーヴァントですらありません。
 なお、仮に受肉が果たされた場合、クラス及びスキルが変化する可能性があります。

【マスター】
 アーサー・フレック@JOKER

【マスターとしての願い】
 死にたくない。

【weapon】
 無力。少なくとも、今のところは。

【能力・技能】
 幼少期の体験によって脳が損傷しており、本人の意思と無関係に勝手に笑い始める障害を負っている。
 また、コメディアンとしての大成を望んでいるが、コメディのセンスは皆無。
 しかしその一方で、内に秘めた狂気と殺人の才能――特に射撃――は常人とは一線を画す。

【人物背景】
 後に狂気の犯罪者「ジョーカー」になる男。
 あるいは、無数に存在するジョーカーのオリジンの一つ。

【方針】
 何がどうなっているのか分からない。

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最終更新:2021年07月18日 15:33