人間とそうじゃない奴を見分けられる理由?
んー、そうだな。人間で色々と遊んだおかげかな。
☆
「あんたが俺のサーヴァントってやつか」
「らしいな」
薄暗い路地裏で、帽子を被った中年の男と坊主頭の中年の男が佇んでいる。
帽子を被った男は名を葛西善二郎、坊主頭の男は浦上といった。
「まあ、まずはお近づきの印にどうだい一本」
葛西が差し出す煙草に浦上は首を横に振る。
「ワリィな。あんまり煙草は吸ったことがねえんだ」
「こいつは失礼した。健康に気を遣ってんのか?」
「そういう訳じゃねえが、なにぶんムショ暮らしが長いせいで馴染みがねえんだ」
「ムショか。火火ッ、確かにあそこはつまらねえところだ。俺も経験がある」
「女もいねえ、殺しもできねえ、生活リズムも強制される。ほんとやんなるぜあそこは」
「同感だ。...俺は吸っても?」
「構わねえよ」
葛西は煙草に火をつけ、フゥ、と一息つきつつ思いにふける。
ここに連れてこられる前。
葛西は、
絶対悪の王者である男、『シックス』の集めた組織、『新しい血族』の一員として生きてきた。
元々、『シックス』に出会う前から犯罪を美学と称していたし、彼と出会った後でもやはり犯罪を犯していた。
葛西善二郎という男は誰に命令されるまでもなく犯罪を犯していたし、そんな自分が決して嫌いではなかった。
ただ、生きる意味だけは確かに変えられていた。
かつては犯れるだけ犯ってあっさりと燃え尽きれる犯罪者の花道を歩んでいた彼だが、『シックス』に生きる悦びを植え付けられて以降は一転。
葛西善二郎は、誰よりも『人間の犯罪者らしく』長生きをしたいと思うようになった。
さて。そんな葛西善二郎だが、自分の同格の仲間は全て死に絶え、『シックス』は魔人探偵に殺されたことで再び1人の犯罪者となった。
『シックス』よりも長生きをしたいという彼のささやかな願いは見事に叶い、彼を縛るものも無くなった。
だが、それで彼という男がなにか変わったのかと問われればそのようなことはない。
なにも変わらず、人間の知恵と工夫のみで犯罪を犯しつつ、誰よりも長生きする犯罪ライフスタイルはなにも変わらなかった。
そう。彼という男はどこまで行っても人間の犯罪者だったのだ。
タバコを灰皿に押し付け、再び浦上へと向き合う。
「なああんた」
浦上は薄ら笑いを浮かべつつ葛西へと問いかける。
「あんたから見て、俺はなんに見える?」
「なにって...」
葛西は浦上の質問に眉をひそめる。
なにに見える、とはどういう意味か。
葛西の見る限り、浦上にはなにも変哲なものは―――
「...火火火ッ、まいったねこりゃ」
葛西は思わず帽子に手をやり苦笑する。
浦上は葛西が召喚したサーヴァントである。
サーヴァントとは、英雄が死後、人々に祀り上げられ英霊化したものを、魔術師が聖杯の莫大な魔力によって使い魔として現世に召喚したものである。
そのため、少なくとも並の人間よりは知名度があり且つ優れているのが最低限の条件だ。
だが、浦上には並の人間以上のものはなにも感じない。
もしも葛西と浦上が拳を交えれば、間違いなく葛西が勝利するだろうと思えるほどにだ。
「一応、人間とバケモノを見極めるくらいはできるけどな。まあコイツは一杯遊んだ成果だがよ。しかしあんた、俺みたいな大外れを引くなんざツイてねぇなあ」
うひゃひゃと浦上は他人事のように笑い転げる。
そもそも、この浦上という男は英雄として祭り上げられるような男ではなく、他のサーヴァントのように大層な人生を送った訳でもなければ聖杯を求めるほど願いに飢えている訳でもない。
生前は目いっぱい遊んだし、最後には化け物と人間の中間の少年と言葉を交わすこともできた。
完全に満足したとは言い難いが、かといって後悔や渇望がある訳でもない。
つまり聖杯戦争におけるサーヴァントには成り得ない存在なのである。
だが、彼はこうして葛西善二郎に召喚されている。それも、人間の頃の能力に寸分違わずだ。
これはもうツイてないなどというレベルではない。
バグだ。サーヴァントとして完全なる失敗策だ。
恐らく、原初のサーヴァントを作り上げる際に打ち捨てられてきたような出来損ないたちと同じだろう。
(ま、それはそれでやりがいはあるがな)
「なんだぁ?あんた、ずいぶん余裕こいてるがそんなに自信があるのかよ」
「火火火っ、さてどうだか」
「まあいいや。マスターよ、あんたこれからどうするつもりだ?」
浦上の問いかけに、葛西はあごに手をやりしばし考える。
この聖杯戦争、見滝原市という箱庭で自分は如何に立ち回るか。
「ま、当面はのんびりと過ごしましょうや。派手に騒がず、密かに楽しみつつってな」
葛西は、己の圧倒的な不利を理解してなお己のペースを崩さない。
それは自分への絶対な自負からか。それとも英霊を相手どってもねじ伏せる圧倒的な力があるからか。
否、彼は誰よりも自分の力量を把握しているし、己を超越する者を誰よりも恐れ警戒している。
それはこの聖杯戦争においても変わらない。
葛西善二郎の願いは、如何なる『怪物』たちよりも長生きすること。
それも、生まれ持った超能力だとか強化細胞のような代物に頼るのではなく、小細工や己の技術・経験を駆使した『人間であること』を超えずに、だ。
故に、聖杯戦争という超常染みた催しの中でも人間らしい浦上を引き当てられたことは、彼の美学にとって幸運だったのかもしれない。
「まあ、英霊様相手じゃお互い難儀しそうだが、精精長生きできるように頑張りましょうや」
「長生き、か。下手なお題目掲げて誤魔化すよりは正直で人間らしくて嫌いじゃないぜ」
「人間らしく、か。火火火ッ、そうじゃなくちゃ意味がねえ」
犯罪者二人はケラケラと笑いあう。
誰よりも人間らしく生きるために。誰よりも正直に生きるために。
人間の枠に縛られた二人の無謀な挑戦はかくして幕を上げた。
【クラス】セイバー
【真名】浦上
【出典作品】寄生獣
【ステータス】筋力:E 魔力:E 耐久:D 幸運:C 敏捷:D 宝具:無
【属性】
混沌・悪
【クラススキル】
対魔力:E
人間に魔術を防ぐなどという超常的なことができるはずもない。
騎乗:E
乗り物を乗りこなす能力 。まあ、車やバイクの運転くらいならできるだろう。
【保有スキル】
人間:EX
『セイバー』・『ランサー』・『アサシン』・『アーチャー』・『ライダー』・『バーサーカー』のクラススキルをすべて使用できる。
...が、それはあくまでも『人間』としての範囲である。実際には人間としてできる程度のことしかできない(ランクはE以下)。
そのため、このスキルはほとんど意味がないハリボテ同然のスキルである。
単独行動:EX
マスターを失っても滞在することができる。
本来はアサシンのクラススキルではあるが、人間にはもともと誰かとツルむのを強制される云われはないため浦上には関係ない。
気配遮断:E
人並みに気配を殺せる程度。あまり期待できない。
【宝具】
使用不可。"人間"にそんなものはない。
逆にいえば、英霊から見てもこの男を英霊だと認識することすら困難なほどに人間的であるという証拠でもある。
【weapon】
召喚時に所有していたごく普通のナイフ。
これしか使えない、という訳ではない。本人曰く『銃は腕が痺れるのでナイフの方が好き』とのこと。
逆に言えばそこまで武器に拘らないため知らない武器にも適応力はそこそこある。
一般人の女性では拘束を振りきれない程度にはあるが、そこまで高い訳ではなく、そこそこ鍛えた人間には太刀打ちができない程度と思われる。
ただ、人間の急所を捉える能力はかなり培われてきたようだ。
【人物背景】
犯罪者。己の本能に忠実な人間であり、それを満たすためならば殺人も平然と行う。
人間とそうでないものを見分ける目と勘を持つが、それは生来のものではなく長年遊びと称して多くの人間を解体し味わうなどして培われたもの。
己を特別な存在とは思っておらず、自分の行為は人間が隠している本性にしかすぎないと確信している。
【聖杯にかける願い】
特にない。最後まで"人間らしく"好きにやる。
【マスター名】葛西善二郎
【出典作品】魔人探偵脳噛ネウロ
【性別】男
【weapon】
袖に仕込んだ火炎放射器。これを使えば傍からみれば手から炎を出しているように見える。
【人物背景】
シックス率いる「新しい血族」の中でも選りすぐられた五人の腹心、「五本指」の一人。
全国的な指名手配犯であり、放火を主に脱獄も含めて前科1342犯のギネス級の犯罪者。
先祖代々、火を扱う者としての「定向進化」を受け継ぎ、その恩恵により火の全てを司ることができる...が、彼の美学は人間を越えないこと。
彼の手品のような炎の扱い方は、全て小細工と知恵、計算によるものであり、全ての「新しい血族」の中で、唯一「定向進化」に頼らず人間の犯罪者として在りつづけた。
また、葛西の目標は「人間としての知恵と工夫で、人間を超越したシックスよりも長生きすること」であり、「新しい血族」の中でも、唯一シックスに対する絶対な忠誠心を抱いていない。
そのため、自己中極まりないシックスに対して唯一意見ができ、且つシックス自身もそれを不快にも思わない、云わば友人(対等ではないにせよ)とも言える数少ない存在である。
重度のヘビースモーカーであり、一日に8箱ものタバコを消費する。
【ロール】
野生の犯罪者
【能力・技能】
前述した通り、全ては知恵と工夫の結晶であり、何も無いところから火を放つことなどはできない。
そのため、火を起こす時にはマッチや火炎放射器を使用している。
他の「五本指」と違い、身体能力を飛躍的に上昇させる強化細胞を身体に埋め込んでいないため、純粋に生身の人間である。
しかし、高層ビルの壁をすいすいとよじ登る、強酸を仕込んだ銃弾を何発も受けても割りと余裕ある動きができるなど、かなり高い身体能力を有している。
- 火にかけた親父ギャグのレパートリー:1000以上。
例
「ヒヒヒッ」→「火火火ッ」
【聖杯にかける願い】
己の美学である"人間を越えないこと"は決して曲げずに長生きする。そのため、聖杯そのものには大した興味は無い。
最終更新:2021年05月31日 20:53