遠からず私はこの聖杯戦争で死ぬだろう。
私の胸の内には、暗い絶望と奇妙な安堵感で満ちていた。
まだ死にたくは無いが、可能性のない自分自身を見つめる今後の人生から解放されると考えると気が楽になる。

一体、どこで間違えたのだろう。
WING決勝で敗れたこと、天井社長の部屋で白盤を見つけてしまったこと、トレーナーの指示を守らず無茶なレッスンを続けたこと、プロデューサーと姉に無茶を言ってアイドルになったこと、なみちゃんに憧れたこと、なんだか悲しくて誰かになりたかったこと。

後悔は無限にある。
結果として私のアイドル人生はなみちゃんのように流星のごとく儚く終わり、
なみちゃんに限りなく近づけた私は、なみちゃんは「伝説の八雲なみ」なんかになりたくなかったと知って以前と同様の日常に戻った。

「はあ」

私はこのCDショップのバックヤードから出てため息をついた。
店内の蛍光灯の眩い光が目に刺さる中、私に気づいて近づく影が見える。

「にっちー大丈夫?」

「やっちゃったよねー、陳列の最中に手滑らせちゃうなんてさ。」

「…どうもです、先輩方」

このCDショップで働いている先輩達だ。
ずっと一緒に働いていたはずだが、なんだかずいぶん懐かしい気がする。

「ドンマイ、アイドルも辞めたんだしこれから挽回していけるでしょ」

「っ―――」

「アイドル」、その言葉を聞いた私は俯いて唇を?みしめた。
そんな私に構わず、先輩方は捲し立てる。
「にっちーがアイドル辞めたって聞いて私らも安心したわ」

「にっちー、イジメみたいの受けてたしねー」

「そうそう、あんないつまでもアイドルにしがみ付いてる人と
 若い新人のにっちー組ませてどうするんだっての」

「アイドル歴10年とかマジでないわ、
 引き返せるうちに女優とかダンサー名乗っとけっての」

そう言って彼女たちはかつての相方、美琴さんを嗤った。
彼女たちは知らない、美琴さんがどれだけアイドルに真剣だったのか。
美琴さんがどれだけ私に優しかったか。
私がどれだけ美琴さんを尊敬していたか。
それを飲み込んで、私は俯いた顔を上げ、答えた

「あはは…そうですよね…」

アイドルになる前と同じように、そつのない返事だ。
今の自分の表情は鏡で見るまでもなくわかる。
なみちゃんの真似をしている時のような曇り切った笑顔ではなく、
自然で、晴れ晴れとして、へらへらと紙のように薄い自分の嫌いな笑顔だ。
アイドルだったころは、どんな笑顔を作ってたか、もう思い出せなかった。

どこが世界の終わりだろうか。
日が落ちる間際に現れた、
延々と満ちては欠ける輪廻を繰り返す月を見ながら彼、キャスターは思う。

己の様に、歴史の大勢に影響を与えない有象無象の魔王たちが果てた時か。
それとも歴史の収束点に存在するゾーマ、竜王、シドー、己の後に延々と世界に立ちはだかる脅威たちが倒れた時が終わりか、
それとも更にそこから世界は続くというのか。
始まりがあれば終わりもまたある。
そう目指した心地よい混沌に、世界は辿り着かないような気がした。

マスターがバイトのさなか、彼は屋上に腰を掛けて月を眺めていた。
幸か不幸か、霊体化した彼を視認可能な存在が通ることは無かったが、
もし彼を見ていれば戦慄することになっただろう。
悪魔のような翼、胸に埋め込まれた赤い宝玉、肩に生えた鬼のような巨大な角。
およそ汎人類に刻まれた英霊とは思えぬ異形の存在、それが彼だった。

それもその筈、彼は英霊と対を成す反英霊の究極、
大魔王 異魔神。それが彼、キャスターの真名であった。

やがて、マスターが店内から出たことを確認して
彼は屋上から降り立った。

「バイトとやらは終わったのか?」

「……」

問いかけを無視し、彼女は手に持ったCDケースを見て歩いていた。
彼女とは似つかわぬ純真な笑顔がパッケージだ。
ラベルには「櫻木真乃」と書いてあり、よく見るとケースにへこみがある。

彼女は唐突に立ち止まり、キャスターの問いかけを無視して尋ねた。

「キャスターさん、願いってあります?」

「貴様にはないのか?」

「ぐるぐるしてるんです、頭の中で」

「私はアイドル辞めて、CD見るのも嫌になって、
なみちゃんは辛くて、お母さんとお姉ちゃんは今も大変なのに、
大変じゃなくなった自分が嫌になって…」

少女は頭を抱えて道に座り込む。

「なにを望めばいいのか、わからないんです」

それを聞いたキャスターは、フンッと鼻を鳴らして
どんぐりのように丸まった少女に答えた。

「無に帰ることだ」

「帰る?」

「余を追放した魔界、地上から追放した世界、我が道を阻んだ人間ども…
 全てを無に帰す」

大げさな表現かと思い、少女は下からキャスターの顔を覗き込んだが、
彼は顔色一つ変えていなかった。

「それってキャスターさんだけ無に帰るんじゃ、ダメなんですかね」

「人間にそこまでの力があるなら構わん」

「あはは…くだらない」

少女はゆっくり立ち上がり、目の前のキャスターを見上げた。
疲れ切ったその顔には、確かな嘲りの視線があった。

「要は自分を嫌ってる世界か、世界から嫌われてる自分を消したいってだけじゃないですか!
 そんなの、人の手なんか借りないで勝手に消えてくださいよ!」

「貴様…死にたいのか」

「キャスターさんにそこまでの力があるなら、構わないですね」

少女は嗤う。
可笑しいのは目の前のキャスターか、その瞳に映る自分自身か。

「クックック…」

「あはは」

言葉がどこまでも響かない、命も夢も背負ってない空虚な言葉、
それを互いに紡ぐ不毛な言葉のやり取りが、なんだかおかしい。
そんな奇妙な感覚に耐え切れず、二人は笑った。

「還りましょうか」

「ああ」

母はいない、かつていた親戚もいない、まだこの時間では姉もいない。
己を崇めるものも、己を憎むものも、またいない。
そんな家に彼女たちは向かった。
少女は一瞬振り返り、沈みかけた日に照らされる赤い街並みを見下ろしたが、
すぐさま世闇に紛れて有象無象の影に消えていった。


【クラス】
キャスター
【真名】
異魔神@ドラゴンクエスト列伝 ロトの紋章
【パラメーター】
筋力:A++ 耐久:C+++ 敏捷:B 魔力:A++ 幸運:D 宝具:Ex
【属性】
混沌・悪
【クラス別能力】
陣地作成:Ex
 自身に有利な陣地を作成できる。
 異魔神は自分の成長に特化した『幻の月』を生成可能。

道具作成:B
 魔力を帯びた器物を作成できる。
キャスターは呪いを帯びた道具を作成可能

【保有スキル】
魔王:A
世界のラストボス、即ち魔王であることを示すスキル。
同ランク以下の仕切り直し、および瞬間移動能力を無効【メリット】
ランクが高ければ高い程、聖属性・雷属性のダメージが増加【デメリット】

自己改造:A
自身の肉体に別の肉体を付属・融合させる適性。このスキルのランクが高くなればなるほど、正純の英雄からは遠ざかる。
魔界に追放されし魔神に世界樹の肉体を加え、誕生したものがキャスターである。

神性:C+
その体に神霊適性を持つかどうか、神性属性があるかないかの判定。
本来キャスターは高位の神霊であるが、自己改造により神性適性を落としている

自己回復:B+++
魔力により己の自己再生を行うスキル。
世界樹のエキスから誕生した肉体を持つキャスターは、極めて高度な再生能力を誇る。

【宝具】
『高密度魔法言語』
ランク:A++ 種別:対国宝具 レンジ:99 最大補足:5000
異魔神が使用する魔界の呪文。
ある呪文は国を一瞬にして氷漬けにし、ある呪文は海を沸騰させる超威力を誇る。
聖杯戦争、およびキャスターにとって過剰なまでの火力こそが欠点であり、
超威力故、何らかの方法でキャスター自身に反射された場合即死しかねない。
また、呪文によっては膨大な魔力消費を何らかの方法で補い、後述する幻の月やマスターが耐える、或いは当たらない事を期待する必要がある。
作中で披露された高密度魔法言語の詳細は以下の通り。

  • りゅうせい
重力制御を行う高密度魔法言語。
その名の通り、宇宙より大量の隕石を(キャスター自身を除く)周囲全域に落下させる。
高密度魔法言語の中でも超絶の破壊力を誇り、作中では旧竜の女王城一帯と、世界樹の位置を示す巨岩が囲む一帯全域に無数のクレーターを刻んだ。
披露された2回の破壊規模を見比べる限り、落下する隕石群の集弾化・散弾化を操作可能なようだが
最終決戦で範囲内にあった幻の月を砕いたように、着弾地点の詳細な制御は行えない模様。

  • ひょうが
その名の通り、周囲一帯を氷漬けにする。
作中ではポルトガ城下町と、その近海を氷漬けにした。

  • たいよう
その名の通り、太陽状の巨大な熱球を天に作り、落下させる。
作中では海に落下し、周囲一帯の海が沸騰するほどの火力を示した。

  • たつまき
その名の通り、巨大な竜巻を作り敵の体を切り刻む。
作中では勇者3人を巻き込んだが、ジパングの王女イヨの烈風竜巻扇により相殺された。
高密度魔法言語の中では最も小規模に唱えられる呪文だが、威力も最も小規模と言える。

  • しんくう
大気中の酸素を一瞬で燃焼させ、周囲一帯を無酸素状態にする。
その名に違い、真空状態とするわけではない。
作中では世界樹の跡地に集まった勇者三人と、集った冒険者たちを無酸素状態で苦しめたが、
近くの飛空艇内部には影響が無かったため、密室内には影響がない模様。

  • げっこう
周囲全域の死者の魂をキャスターが喰らい、
5000程の死者の魂を結晶化させることで己の陣地であり宝具である『幻の月』を生成する。
生成した『幻の月』の詳細は以下に記載。

『幻の月』
ランク:A++ 種別:対神宝具 レンジ:50 最大補足:5000
高密度魔法言語・げっこうにより作成される異魔神の陣地
5000程の死者の魂を用いて青い月を模した巨大な陣地を空中に生成する。
幻の月の魔力により範囲内のキャスター・および世界樹に類するものの自己回復スキルのランク・己の魔力を上げることが可能。
幻の月は通常の砲撃には耐えうる強度を誇るが、死者の魂であるため成仏判定を行う場合は確定で昇天する他、
異魔神の通常攻撃、呪文級の攻撃で破壊可能なため、細心の注意を払って戦う必要がある。

『異魔神』
ランク:Ex 種別:対界宝具 レンジ:- 最大補足:-
古代ムー帝国の英知による肉体と異空間に幽閉された魔神が合わさり誕生した血と肉と破壊と欲望の神、キャスターそのものである。
世界樹の雫から構成される肉体には高度な再生能力の他、再生の形態を変える能力が備わっており、
人サイズの翼の生えた鬼のような形態から、世界を蹂躙した巨人サイズの怪物となることも可能。
人サイズ形態の胸にある赤い宝玉こそ異魔神の本体である『聖核』<セイントコア>であり、
命を奪うことで成長するキャスターの負の聖核と、命を生むことで成長する世界樹の正の聖核が幻の月により臨界状態まで引きあがった場合、
互いに引き合い融合し、世界を崩壊させるほどの莫大なエネルギーが放出されることとなる。
作中に置いてキャスターは、これを利用し世界樹の恩恵によって生まれた世界を破壊し開闢以前の混沌に戻そうとしたが、世界樹の破壊により失敗に終わったため詳細は不明。
世界樹の聖核は高密度魔法言語を模した古代ムー帝国の英知『いかづち』により砕け、キャスターの聖核は人類の力を受けた王者の剣との激突により剣と双方砕ける結末となっており、
相応の耐久力がある模様。

【人物背景】
ドラゴンクエスト3の1万年2千年ほど前、古代ムー帝国に召喚されたが帝国の崩壊を招き、その後女神ルビスの作り出した究極封印呪文『オメガルーラ』により肉体は闇のオーブに、精神は宇宙の彼方へと追放された。
その後、大魔王ゾーマによるルビスの石化を切っ掛けに精神のみ再召喚され世界中の旅の祠を封印、その100年後に大魔王異魔神としてロトの子孫と戦った邪神。
大魔王時代は表向きは世界の支配を目的に掲げ、多くの魔王軍を率いて戦っていたが
その真の目的は前述の通り世界の破壊であり、率いた魔王軍は全て使い捨てるつもりで利用していたに過ぎなかった。
最終決戦においてはルビスによりオメガルーラが刻まれた、ロトのしるしを世界のどこかへ弾き飛ばすも立ち上がり続ける勇者と人類の前に敗北。
敗北後、自らの崩壊と破滅こそが己の望みだったかも知れないと言い残し、それを聞いて激怒した勇者に聖核を砕かれた。
最終的には残された亡骸を元に世界樹の種が急成長し、己の肉体が世界樹へ変化する形でルビスと和解を果たし、彼自身も世界に心地よさを感じる形で世界の一つに統合されたようだ。
作中における背景は宝具欄の解説の通りだが、そもそもなぜ異魔神と世界樹は同質の存在なのか。
言動や加筆による最期などからすると、世界樹の世界から疎外を感じ開闢以前の混沌を心地よく思っていたらしいがそれは何故なのか。(異魔神の行動はオメガルーラによる追放以前から行われており、オメガルーラが理由とは考えにくい)
ロトの紋章作中では明らかにされてはいない。
後に描かれたドラゴンクエスト11の世界描写からするとロトゼタシア開闢より以前、後に命の大樹へ姿を変えロトゼタシアを作り出した聖竜、それを打ち破りロトゼタシアを元の闇の世界へ還すことを目的とした邪神と同等の存在であり、
異魔神は邪神の側に位置する神だったのかもしれない。

【サーヴァントとしての願い】
自らの崩壊

【マスター】
七草にちか@アイドルマスター シャイニーカラーズ

【マスターとしての願い】
還る

【備考】
七草にちかシナリオ、W.I.N.G決勝敗北後からの参戦です。

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最終更新:2021年06月18日 00:35