anko0844 うどんげを怖い目に遭わせてみた(後)

(ふたば系ゆっくりいじめ 707 うどんげを怖い目にあわせてみた(前)からの続き)



野良ゆっくりであるまりさ・れいむ達が、人家に侵入し好き放題出来たのは一体何故だろう。

れいむとまりさの体格?
一理ある。
二匹は野良ゆっくりとしては異様な巨体を誇る。
ゆっくりが相手ならば、早々負ける事は無い筈だ。

まりさの知能?
それもあるだろう。
まりさが石を使う発想を見せなければ、きっと窓が割られる事は無かった。
ナイフという人間に対する武器さえ持っている。
それが通用するかどうかは置いといて。

お兄さんの不在?
これも大きい。
彼が居れば、まりさ達はすぐさま家の中から叩き出されていただろう。
これは最大の幸運と言っても良い。

これらを総合した幸運の上で、今のまりさ達が存在している。
たった一つでも要素が欠ければ、こうはならなかった。
家の中に入る事すら出来ず、或いは途中で潰されていた。

結局まりさ達は、成功するべくして成功したといっても過言ではない。
タイミングとしては完璧。選んだ家もこの上なく都合が良かった。
体格、知能、運。
全てを兼ね備えたまりさ達は、当然のように"おうち"を手に入れることが出来たのだ。


そしてもう一つ、付け加えるなら。
今までうどんげを『怒らせなかった事』。
これに尽きる。



 ***



まりさはゆん生の絶頂に到達していた。

まりさは野良の親から生まれた、生粋の野良ゆっくりだった。
薄汚れた両親からすーりすーりされ、生まれてまだ清潔だった肌はたちまちシミだらけに汚れきり、
食事も不味い雑草ばかり食べ、雨や外敵に怯えながら少しずつ大きくなっていった。

何度も死にかけた事だってある。
食べ物が雑草すら見つからず飢え死にしかけた時、カラスに襲われた時、突然の豪雨に見舞われた時。
両親や姉妹がほんの傍で見るも無惨に死んでいく。
その度に自分だけは、なんとか頭を働かせて危機を凌いできた。

ある時、野良レイパーにレイプされかけていたまりさを助けてくれた胴付きゆっくり――おそらく飼いゆっくり――がいた。
慈悲のつもりか、あるいは気紛れか。
どちらにせよまりさにとって、名も告げずに去ったそのゆっくりは女神のように感じられた。
胴付きゆっくりに対する変態的な性的嗜好は、その時の名残だろう。

そうしてまりさは何処にでもいる、ごく普通の野良ゆっくりとして成長した。
ゴミ捨て場を漁り、路地裏の隅を住処として人々に嫌われる生活を送る。
ただ一つ違う点を挙げるとすれば、

たまたま落ちていた折り畳みナイフを手に入れたという事くらいだろう。

誰が捨てたかは分からない。
だがそんな事、まりさにはどうでも良かった。
これ一本で、カラスや野良猫を楽々と撃退できるようになったのだ。
ましてや同属のゆっくりなど、敵ではなかった。

まりさの生活は激変した。
他の野良ゆっくりの住居を襲い、食料を奪い取っていった。
抵抗されれば容赦なくナイフで切り刻む。時には殺したゆっくりを食べる事さえあった。
野良であるまりさに、同属殺し、同属喰いの禁忌は働かない。
追い剥ぎ、強盗は言うに及ばず、屍食を働くまりさは誰からも忌み嫌われていた。
れいむと番になったのも、単にれいむが同族喰いを躊躇わなかったから、その一事に尽きる。

結果、当然の如く子を作った。
ただの性欲処理の結果。まりさにとって、それ以上の意味は無い。
だが現実として、食い扶持は増えた。
まりさに残った最低限の良心は、結果として子供達を食い繋がせる事となる。
自然、『狩り』の頻度は増えた。
犠牲になるゆっくりの数も同様だ。

『人間の家を乗っ取る』というれいむの提案に頷いたのも、ある程度の打算があったからに過ぎない。
いざとなれば、れいむと子供を囮にして逃げるという手も考えていた。
図体ばかりで能の無い番をけしかければ、ほんの数秒でも時間は稼げる。
その数秒さえあればまりさは逃げ切れる自信があった。
良心などではなく、ただ単に利己的な目的があって子供を生かしていただけなのかもしれない。

そうして乗っ取りやすい家を物色している途中に、
まりさはうどんげ――が住む家――を発見したのだ。

手段と目的は完全に逆転した。
人間の家を乗っ取るためにその家に侵入するのではなく、
その家に入りたいが為に人間の家を乗っ取るというお題目を掲げることになった。
あるいは一目惚れ、と言って良いかもしれない。
歪んだ胴付きへの慕情をそう呼ぶに値するならば。

侵入自体は呆気ないほど簡単に済ますことが出来た。
なにせ自分は動かず、デクの棒にやらせたのだから怪我の一つも負わない。
かくしてまりさは目標を達成した。
胴付きゆっくりを手中に収めたのだ。

全てが全て、まりさの理想通り。
艶を放つ程に手入れされた髪は、芳しい香りがする。
すらりと伸びた手足は、芳醇な甘味をたっぷりと蓄えていた。
そしてなによりその表情。
涙を湛えるその儚さは、まりさの嗜虐心をそそって堪らない。

もう隣のれいむなど目に入らなかった。
塵ほどに在った子への愛情も、完全に霧散した。
自分は最高の愛玩具を手に入れたのだ。
これさえあれば、もう他に何も要らない。

人間よ、取り返しに来てみるが良い。
そのときはこのナイフで、お前を殺してやる。
まりさはこの弱弱しくも愛らしい玩具を一生愛し続けるのだ。
誰にも邪魔させてなるものか。

そうしてまりさは、笑った。
腹の底から大笑した。
有頂天のゆん生を祝い、そしてこれから続く花道を夢想して――――



―――――夢想して、そこで止まった。



 ***



赤い、
紅い、
朱い、

真紅に輝く双眸が、まりさを見ている。

「ゆ………ひ………?」

そして同時に、まりさは笑う事をやめていた。

理解し難かった。
目の前に居る、これはなんだ?
まりさはあの可愛らしい奴隷を見ていた筈なのに。
目の前の玩具は、涙に濡れて震える事しか出来なかった筈なのに。
まるで違う。
まりさの奴隷は、愛したゆっくりは――――

決してこんなものではない。

―――『動くな』。

(これはなんなのぜ)

そう言おうとして、まりさは気付いた。
体が動かない。
否、動けない。

体が鉛のように重くなっている。
力を入れてもビクともしない。
顔は自由に動くが、だたそれだけだ。
まるで体中を鎖でがんじがらめに縛られ、その上で泥の海に沈み込んだようだった。

「どぼじでがらだがうごがないのおおぉぉ!!?」
「ゆっ!?ゆううぅぅっ!!?」
「おきゃーしゃああん!!」
「どびょちてええぇぇ!?」

後ろから聞こえてくる声は、れいむ達のものだ。
言っている内容からして、まりさと同じく動けなくなっているのだろう。
まりさは振り向こうとするが、それすらも出来なかった。

「まりざああぁ!!ごれはいっだいなんなのおおぉぉ!!!?」
「お、おちつくんだぜ、れいむ。これは、これは……」
「まりしゃのあししゃんうごいちぇにぇええぇぇ!!?」
「どびょちてうぎょかにゃいのおおぉぉ!!?」

銅像よろしく動けないゆっくりが、八匹。
明らかに何者かの仕業だ。
先までの余裕はまりさ達には影すらも残っていない。
ただ現状に驚き、泣き喚きながらも何とか動こうと必死に身を捩ろうとするだけ―――

そしてそんな中、まるで自分は関係ないとばかりに、ただひとりだけ、
うどんげが身を起こし、まりさ達を見つめていた。

「ゆっ、どれ、い……?」

気だるそうに、苛立たしげに開かれたその瞳は、まりさ達を捉えて放さない。
まるで蛙を睨む大蛇の目だ。
兎を狙う隼のそれだ。
哀れな罪人に斧を叩きつける、執行人のそれだ。
それよりももっと絶対的な、服従せねばならない予感を認めさせるものだった。

まりさは唐突に気付いた。
自分が何やら致命的な間違いをした事に。
そして今更気付いても、それが手遅れだったという事にも。
まりさの総身から冷や汗が噴き出す。
そんな事には構わないとばかりに、ナイフへと伸ばされる手。

「そ、そのないふさんはまりさの」

ひょいと、うどんげはナイフを取った。
まりさは抵抗しない。いや、出来ないと言う方が正しい。
未だ自由の効かぬ身体で、自身の切り札が奪われるのを見ていることしか出来なかった。

漫然とナイフを弄ぶうどんげ。
切っ先に指を触れ、鋭さを確かめる。
そうして再びまりさ達の方へと向き――――

―――『こっちへ来い』。

「ゆっ!?まりしゃのあんよしゃんがかってにうごいてる!!?」

途端、一匹の子まりさが弾かれるように動き出した。

子まりさはぴょんぴょんと跳ね、まりさの丁度目の前で立ち止まった。
うどんげと対峙する形になる。
身長の関係上、子まりさはうどんげを見上げ、また逆に見下される格好となった。

「ゆっ!?くしょどりぇいのくちぇにまりしゃしゃまをみくだしゅんじゃないじぇ!!ぷきゅー!」
「おいくそどれい!!さっさとひざまづくんだよ!!れいむのめいれいだからね!!」

頭が高いのが気に入らないとばかりに膨れる子まりさ。
見下されるのが我慢ならないのだ。
後ろかられいむが跪くように命令する。
うどんげの反応は早かった。
即座に膝を折り、しゃがみ込んでから、

子まりさにナイフを突き刺した。



 ***



「ゆぎゅぇっ?」

間抜けな声を出す子まりさの額に、深々と突き刺さったナイフ。
1秒、2秒と静観し……
たっぷり5秒。
それだけの時間を以って漸く、子まりさは自身を襲う痛覚に気が付いた。

「いっ……いじゃあああああああああああああああああああっ!!!?」
「おっ、おちびじゃああああああん!!!?」
「おにぇえちゃああああああん!!?」
「にゃにしちぇるのおおおお!!!」

子まりさの悲鳴。
れいむの叫びが響き渡る。
子供達もそれに続く。
その間も少しずつ、子まりさへと突き立ったナイフは沈みこんでいく。

「ぎいいいいぃ!!!いだいいいいいいい!!ごれぬいでええええっ!!?」

じたじたと、動かない身体を無理やりに動かそうとする子まりさ。
無論、逆効果だ。
僅かに身を捩る程度でも、それは傷口を広げるのに充分な働きを持つ。
その痛みでもってますます暴れようとする子まりさ。
悪循環である。

「おいぃぃ!!!どれいいいぃぃ!!なにやっでるんだあああああああああ!!!
 れいむのおちびじゃんになんでごどずるううう!!!」

れいむが凄まじい形相でうどんげを詰った。
対するうどんげは、何の痛痒も感じていない風である。
時折グリグリと手首を動かし、傷口を抉っている。
その度に子まりさは「ぎゅえっ!!」と喚いた。

「さっざとぞのないふざんをぬけえええええええええええ!!
 そしだらおぢびぢゃんにわびろおおおおおお!!じねええええええええええええ!!」

れいむの命令に――またしても粛々と従ううどんげ。
あっさりと子まりさからナイフを引き抜く。

「ぎっ……いだ………いだいよ゛ぅ………」

額に大きな風穴が開いているのだ。
餡子をそこから垂れ流し、ビクビクと痙攣する子まりさ。
だがまだ生きている。正気も保っていた。
うどんげはそんな子まりさの目を見ながら――――

―――『ナイフに突き刺され』。

「ゆ゛っ!!!」

途端、前へと飛び跳ねる子まりさ。
もちろん前方には、引き抜かれた切っ先が待ち構えている。
当然の結果として、子まりさは再びナイフに突き刺さった。
今度は右目、そこに深々と凶器が沈んでいく。

「ゆ゛っ、ゆぎゃあああああああああああああああああああ!!」
「おぢびじゃあああああああああああん!!!?」

れいむが再び叫ぶが、もう遅い。
己の右目を失くした子まりさは暴れ狂った。
暴れて、ナイフから身体を引き抜き、そしてまた狂ったようにナイフへと突進した。
左頬に突き刺さる。
これで子まりさの身体には、合計三つの穴が開いた。

「ゆぎぃぃっっ!!いぢゃいっ!!いぢゃいいいいいいいいいいぃぃ!!」
「おぢびじゃあああああああん!!?どぼじでぞんなごどずるのおおおおお!!?
 ぞんなごどじでだらじんじゃうよおおおおおおおお!!!やべでねえええぇぇ!!?」
「おねぇちゃんやべでえええっ!!?」
「おねーぢゃんがおかしぐなっちゃっだあああああ!!!」

れいむ達は理解できないだろう。
何故子まりさは自分からナイフに向かって突っ込んでいるのか。
しかし理解できなくとも、止めるように叫び続けるしかない。
そうしている間にも、子まりさは自殺行為に余念が無かった。

「ゆぎっ!!いぢゃい!!やべでぇ!!」

まず顔面のありとあらゆる場所を串刺しにし。

「じぬっ!!じんぢゃうよぉ!!」

それが終われば側頭部を切っ先に叩きつけ。

「ぎゅぐえっ!!……ぎぃっ!!……ぎゃっっ!?」

後ろを向いてナイフに突っ込むなどという器用な芸を見せた。
あっという間に子まりさは、蜂の巣よろしく穴だらけになっていく。

「おぢびじゃんがああああああああああ!!」
「ゆわあああぁぁ!!ばげもにょおおお!!!」
「ごわいいいぃぃ!!!」

「ゆぎ……い……いっぎ………」

姉妹が恐れるように。
まりさは全身の風穴を僅かに震わせるだけの代物と成り果てた。
まさしく化け物というほか無い。
今も餡子はそこかしこから流れ出している。
どうやって今生きているのか不思議なほどだ。

「ぢ………ぬ……ゆ゛・……」

流石にこれ以上動けそうに無い。
ナイフのまん前で、べしゃりと潰れるように倒れる子まりさ、のはずの物体。
まさしく瀕死。
あと少しで、子まりさは死ぬ。

そんなものを、ひょいとうどんげは摘み上げた。
再び立ち上がる。

「ぐっ……ぐぞどれいいいいっ!!!ぎだないででおぢびじゃんにざわるなあああぁぁ!!!
 おちびじゃんがじんだらどおずるんだああああああ!!!」

激するれいむを他所に、まじまじと穴――もしくは子まりさ――を見るうどんげ。
そのままスタスタと歩き出し、まりさを通り抜け、れいむの真ん前へと立った。
やはり身長の問題で、れいむを見下す形になる。
いや、それよりも。れいむにとっては子まりさの方が心配であった。

「ゆっ………!!くそどれい!!よぐおちびぢゃんをつれできだね!!そごだけはほめてあげるよ!!
 つぎはなんとかしておちびじゃんをなおせ!!はやぐじろ!!
 ……ゆ゛!?どうじだの!!?でいぶのめいれいをはやぐぎげぇ!!どれいのくせにぐずぐずして」

うどんげは大きく開いたれいむの口の中に、そっと子まりさを入れた。
そのまま一歩下がる。
あとはどうぞ、と言わんばかりに。

「ゆっ!?おちびちゃん、おかあさんのおくちのなかにひなんしにきたんだね!!
 もうだいじょうぶだよ!!いたいいたいはれいむがペーろぺーろしてなおしてあげるから!!
 そしたらどれいをいじめてあそぼうね!!ついでににんげんも」

―――『噛め』。

「ゆぎゅっ」
「…………ゆ?」

れいむは、子まりさを噛み潰した。



 ***



「……………ゆ?ゆ?
 ゆ?
 ……………………ゆ゛あ゛ああ゛゛あ゛あ゛あ゛あああ゛あああ゛ぁぁ゛ぁ!!!?」

数瞬の間を置き、事態を理解するれいむ。
だが止まらない。
歯をガチガチと鳴らし、念入りに子まりさを咀嚼してしまっている。

「ゅ゛っ!!ゅ゛っ!!…………ゅ゛っ!!」

一度歯が鳴るごとに両断される子まりさの体。
二度目は四つに。
三度目は八つ。
四、五、六度と、徐々に子まりさを餡ペーストにしていくれいむの歯。

「あ゛あ゛あ゛あああ゛あああ゛ああ!!!
 でいぶのまっしろいはさん!!やべで!?やべでね!?
 おちびぢゃんがじんじゃう、じんじゃうがらあああああ゛あああ゛ああ゛あ!!!」

止まらない。
止まるわけが無い。
いくられいむが悲鳴を上げようが身体は言う事を聞かずに、子まりさだったものを磨り潰していく。
もう子まりさの声は聞こえてこなかった。
口の中一杯に、甘味が広がる。

「ゆぎゅっ!?むー、じゃっ!?むーしゃ!?
 じあっ、ち、ちがうよ!!しあわぜなんがじゃな、じあっ、わ、ちがううぅぅ!!
 ちがうのにいいい!!?じあ、わ、ぜえええぇぇぇ!!?」

思わずれいむはそう言ってしまった。
事もあろうに、我が子を食べて美味しいと言ってしまった。
涙が溢れる、が、それ以上に幸せそうにれいむは笑う。
本能なのだ。
例えどんなものでも、美味しいものは幸せに感じてしまう。

「お、おがーしゃんがおねーちゃんたべぢゃっだあああぁぁ!!!」
「ごわいいいいぃぃ!!!」
「れいみゅはたべないでえぇぇ!!」
「ゆあ゛あぁぁ!まりじゃはおいしぐないよぉ!ほがのごだべでぇ!!」
「どぼちてちょんにゃこというのおおお!!?」

恐慌に陥る周囲の子ゆっくり達。
当然だ。
目の前で姉妹が、よりにもよって親に食われたのだ。
単純に怯えるもの、懇願するもの、姉妹を売るもの、それに嘆くもの。
一匹として動くものは居ないが、それは体が動かないからだ。
もしそうでなかったらば、とっくにれいむから逃げ出しているだろう。

「むじゃっ、じあ、わっ、やべでっ、ごっくん!
 ………ゆあぁ………のみごんじゃっだよぉ………」

口の中の餡子を飲み込んだれいむ。
絶望と笑顔の入り混じった表情で、呆然と呟く。
そしてそのまま、

「ゆぐっ」

えづいて、餡子を吐き

―――『吐くな』。

「……………っげ、げぇっ………?」

……出さない。
一般的なゆっくりが餡子を吐くポーズそのままで。
れいむは何度もえづき、しかしその口からは少しの餡子も出る事はない。

「どぼじでおちびぢゃんででこないのおぉぉ……?」

心底不思議そうに、れいむは呟いた。
ぼたぼたと零れる涙が床を濡らしていく。
そんなれいむを見下す、二つの眼。
何も云わず、ただ目の前の出来事を淡々と眺めていた者。


身動きの取れぬまりさは一言も喋ることなく、目の前の、そして自身の後方で起きた出来事を、
ただ見て、ただ聞いて、そしてある種の確信を得るに到った。

今まで自分が侮っていた相手は「奴隷」などではない。
もっと恐ろしく、もっと危険なものだったのだ、と。



 ***



―――『付いて来い』。

まりさ達は一階へと降りていた。
正確に言うと、『降りさせられた』の方が良いかもしれない。
何故ならば、それはまりさ達の意思ではなかったからだ。

うどんげはれいむをじっと見て、見続け、それからやっと動き出した。
れいむの髪を掴み、強制的に上を向かせその顔を覗き込んだ。
それでお終い。れいむは未だ呆けており、何も反応を返す事はしなかった。
あとは順々に子ゆっくり達を掴み上げ、同じく顔を覗きこんでいった。

何をされた、というでもない。
ただ本当にそれだけ。
同じように、まりさもうどんげの赤い瞳を覗き込んだ。
紅く透き通った目は、それだけで本当に綺麗だった。

その時から、身体は勝手に動き始めうどんげの後を追い続けている。

まりさにも分かることがあった。
この異常な事態は、目の前のうどんげによって引き起こされている。
奴の目を見たときから体の自由は利かなくなったし、れいむ達が異様な行動を取った時、
必ずと言って良い程うどんげはその者を見据えていた。

結論として、まりさは一つの警戒を抱く。
うどんげの目を見てはならない。
この異常な事態は、奴の「術」――恐らくはそう呼べる――によって引き起こされている。
結果としてみれば、まりさの考えは当たっていた。
ゆっくりとしては中々に頭の良い証だと云えるだろう。

もっとも、それが事態の好転に繋がる事はなかった。
身体は相も変わらず自由に動かず。
それは即ち、反撃も逃走も許されていないという事。
今より早く気付ければ何かしらの好機はあったのかも知れないが、それは仮定の話だ。
まりさ達、少なくともまりさは、俎板の上の鯉だということに変わりは無い。

故に、まりさが現在出来得る事は。
俎板に乗りながらも、必死に頭を働かせて算段をつける以外にない、と言って良いだろう。



 ***



まりさ達は最初にリビングへと舞い戻った。
そこでうどんげが目をつけたのは、卓の上に置かれた皿、と大量のうんうん。
彼女が摂る筈だった昼食の成れの果てだ。
まりさを除くれいむ達全員がひり出したうんうんは、小山を作り出している。

「ゆぎゅ!?」
「ゆぐっぢ!?」

迷い無くうどんげは二匹の赤ゆっくり、赤れいむ、赤まりさを掴み上げた。
赤ゆっくり達に抵抗は出来ない。
もとより対格差は歴然であるし、何よりも体の自由が利かないのだ。
ピンポン玉程度の赤ゆっくりをそれぞれの手に持つ。

「にゃにしゅるにょ!?どりぇーのくしぇににゃまいきだよ!?
 れいみゅおきょったらきょわいんだきゃらにぇ!!ぷきゅーしゅるよ!ぷきゅううう!!」
「ゆゆっ!?おしょらをとんでりゅみちゃい!!」

身体は動かなくても口は利ける。
二匹はそれぞれ間抜けな感想と、もっと間抜けな威嚇を繰り返し、
そして無防備にうどんげを真正面から見据える形となった。

―――『皿の上のものを全て食え』。

「ゆっ!?」
「ゆゆっ!?」

ぽとり、と二匹が落とされる。
着地した場所は、うんうんの小山。

「ゆぎゅっ!?くしゃあああああああああああいい!!!」
「きもぢわりゅいんだじぇえええええ!!?」

当然、泣き喚く二匹。
ゆっくりだけしか分からないが、仮にも排泄物の上に立つのだ。
人間で言えば肥溜めの中に突き落とされる心境だろう。

だが、

「れいみゅこんにゃときょろに………いや゛ああ゛ぁぁ゛!!!どぼぢでだべでるのおおおぉぉ!!?」
「まりじゃのおぐちざんっ!ゆっぐ、むーしゃ、う゛ぇ゛っ!とばっで!!どばっでええぇぇ!!」

二匹はその肥溜めに噛り付いた。
顔を底部の位置に換えて、地面――うんうんの――を掘り進もうとしている。

「うんう゛んなんがだべぢゃぐにゃいのにいいぃぃ!!ゅ゛えっ!!む゛ーしゃっ!!」
「どぼちでおぐちじゃんどばっで、むじゃっ!!ぐれないのおおおぉぉ!!!?」

えづきながらも食べる。
餡子は出ない。入っていくのみだ。

「だじゅげちぇええええ!!だりゃかきゃわ゛いいれい゛みゅを、むーじゃっ!!だずっ!むじゃっ!!」
「ごんにゃのだべぢゃくないいい!!どぼちでまりじゃがあああ!!!」

助けを乞いながらも食べる。
二匹を助けるべき姉妹、親たちは動けない。
それぞれ青褪めるか、「おぢびじゃんん!!?うんうんはぎだないよ!!やべでええ!!」と叫んだりするか、
あるいは妹たちの狂態――うんうんを食べているのだ――に怖気を抱くしかなかった。

「ん゛む゛うう゛うううう゛う!!む゛うう゛うぅ゛ぅ!!むしゃ、う゛ええ゛えぇ゛ぇぇ゛!!!」
「ぎぼぢわるいよ゛おおお゛ぉ゛ぉ!!ぉ゛っ…むーしゃ!ん゛むぇ゛え゛ええ゛ぇぇ゛ぇ!!」

食べ続ける。
それでもうんうんの山は無くならない。

赤れいむ、赤まりさは赤ゆっくりだ。
ピンポン玉程度の大きさしかない。
それに比べて、うんうんは親である――60センチ大の――れいむの総体積の一部なのだ。
プラス子ゆっくりのうんうんも含まれている。比喩抜きで小山である。

大きさだけでも赤ゆっくり二匹を足した上で、数倍。
体積は更にその数倍。
いかに貪欲、大食であるゆっくりと言えども、限界許容量を大きく逸脱している。
加えて、脆弱さに定評のある赤ゆっくりだ。
その薄皮が内圧に耐え切れなくなるのは、そう遠い話ではない。

「ぐるじいいい゛いいい゛ぃぃ!!ぽんぽんざんがやぶげりゅうう゛うう゛ぅぅ!!!」
「も゛うだべだぐない゛のにい゛いいいぃ゛ぃ!!どぼぢでとぼらな゛いにょお゛おおお゛おぉぉ!!?」

既に赤ゆっくり達の身体は、元の大きさの二倍にさしかかろうとしていた。
全身は張り詰め、心なしか目も張り出てきている。
今まで味わったことの無い内側からの苦しみに、二匹は揃って悶えていた。
のたうちながらも決して口は休まずに、悲鳴をあげ、そしてうんうんを食んでいる。
そこまでしても小山は無くなる気配を見せようとしない。
赤れいむと赤まりさは、やっと五分の一を食べきったというところだった。


うどんげはそんな二匹を、なんら気にする事無く移動する。
まりさ達も彼女に連れられ、赤ゆっくりの悲鳴は誰にも顧みられる事は無かった。



 ***



「ぐぎゅええ゛えぇぇ゛ぇぇえ゛えええ゛え゛え!!!」
「いだいいいぃ!!おぐぢざんどまっでえ゛ええぇぇ゛ぇぁぁ゛ぁぁぁ゛あああ゛ああ!!!」

所変わって、和室。
ガラス片が散乱するその部屋を、跳ね回る二匹のゆっくりがいた。
子れいむと子まりさだ。

隣から僅かに聞こえる赤ゆっくり達の悲鳴も、それ以上の大声に打ち消されて聞こえない。
二匹はここで、ある一つの『仕事』を仰せつかっていた。

―――『割れたガラスを見つけ出し、片づけろ』。

うどんげが二匹の頭を掴み、凝と見据えた時から、二匹の身体は自動的に動き続けている。
子れいむ達の意思は関係なかった。
嫌だ、逃げたい、と思っても、それは現実には成り得ない。

「い゛じゃいい゛いぃ゛ぃ!!あ゛んよざんいだいいい゛いいい゛ぃぃ!!!」
「も゛うぴょんぴょんずるの゛やだああ゛あ゛ぁぁ!!じんじゃううううぅぅ!!」

もう一度言う。
『ガラス片が錯乱した部屋』を、『跳ね回っている』のだ。
底部にガラスが突き刺さり、ぐずぐずに千切れていく。
それでも限界を超えたかのように二匹の身体は止まる事を知らない。

「ゆぎぃっ!!?もうがらすしゃんや゛だああ゛ああ゛あああ!!」

子れいむが一際大きいガラス片を見つけ、走り寄った。
そしてそのまま、咥える。

「ゆ゛ぎい゛い゛いぃっ!!ゆぎいい゛いいい゛いい゛いいいっ!!じぬっ!!じぬうう゛うぅぅ゛ぅ!!!」

一息に飲み込もうとする。
よりにもよって、ガラス片をだ。
当然、子れいむの口の中は切れ、さらに喉頭に突き刺さる。
だがその程度で止まる事はない。

「ん゛ぐうう゛うぅ゛ぅっっ!!?ぎゅぐうう゛う゛うううん゛!!!!!」

子れいむは既に、幾つものガラス片を同じように処理していた。
体内に貯まったガラス片がぶつかり合い、身体を抉り、傷つけていく。
子れいむの後頭部から、ガラスの一部がにょきりと生えた。
ガラス同士が押し合い、そのうちの一つが子れいむの身体を貫いたのだ。

「あがががががががががが!!!!!!あぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ!!!!」

傍らでは、子まりさが己の舌を、身体を使って、雑巾の代わりとしている。
細かいガラス片を拭き取っているのだ。
畳に入り込んだガラスを取ろうと、舌を擦り付ける。
結果として、子まりさの舌はボロボロ。
唾液などはとうに出なくなっており、まさしく襤褸雑巾といった風だ。
もっとも、その方が好都合ではあるのだが。

「ごろじでええ゛え゛ぇぇぇ!!!ゆ゛っぐりでぎないならいっぞごろじでええ゛えええ゛ぇぇ!!!!」
「ゆぎぎ……ぃぎっ!!ぎぃひっ!?ゆぐげぎゃがぎゃぎゃぎゃ!!!!!」

のたうちながらも丁寧に仕事をこなしていく子れいむ、子まりさ。
だがその悲鳴は、あるいは助けを呼ぶ声は、誰にも聞かれることが無い。

うどんげは既にこの場を去っていた。
それどころか、和室自体に入ろうとすらしなかった。
急拵えの針山地獄に悶える二匹をよそに、他の部屋を歩き回っている。
無論、まりさ達も同様だ。

子れいむと子まりさはその身を使ってゴミ取りローラーの真似事を続けるしかない。
実際、二匹の働きのお陰でガラス片は徐々に取り除かれつつある。
あるいは、生まれてこの方初めて他者の役に立った二匹であった。

「ぐぎゅ゛っ!!?」
「ぴぎぃ!!」

子れいむの右目からガラス片が飛び出し、子まりさの舌先が千切れた。
おおよそ問題は無い。
二匹はまだまだ元気に動き続けられるだろう。



 ***



そして、最後に残った子ゆっくり、子れいむであるが。

―――『跳ねろ』。

「ゆぎゅひっ!?どぼちてぴょんぴょんしちぇるにょおおおおおぉぉ!!?」

家を隈なく回り、散乱したうんうんやしーしー、それに埃などを舐め取って、
それからリビングに戻りうどんげの『暇潰し』に付き合わされていた。

子れいむの体が勝手に跳ねだす。
垂直に、ぴょんぴょんと。
およそ3センチほどだろうか。
子れいむの意思を抜きにすれば、比較的よく見られる光景である。

―――『三倍高く跳ねろ』。

「ゆひっ!?れいみゅ、どぼっ、どぼちてぇぇぇえええ!!!?」
「おぢびじゃあああん!!?」

グン、と子れいむの跳ねる高さが上がった。
相変わらずのれいむの悲鳴。
勿論それは何の意味も成さない。

身長とほぼ同じ高さまで飛び跳ねる子れいむ。
中々に珍しい光景と言えた。
身体能力に欠けるゆっくりが、ここまでの運動を見せる事は早々無い。
子れいむ自身も訳が分からないようだった。

「いぢゃっ!!いぢゃい!!れいみゅのあんよじゃん、どまっでえええええ!!!」

子れいむが苦痛を訴える。
タガが外れた運動能力に、子れいむ自身の体がついていかないのだ。
泣き喚きつつも、決して跳躍を止めようとはしない。
人間に例えるなら、子れいむは肉離れを起こしつつも運動を強制されている状態といえる。
内からの引き千切るような痛みなのだ。
子れいむに耐えられるようなものではない。

それにも関わらず、

―――『更に三倍高く跳ねろ』。

「ゆぎひぃっ!!?」

子れいむは更なる跳躍を行う。
否、行わされている。
今や子れいむの最高到達点は己の身長の約三倍、30センチにも及ぼうとしている。
ここまでくると珍しいを通り越し、最早怪異である。
誰の目から見ても、子れいむの挙動は異常極まりなかった。

「ゆ゛ぁ゛っ!!あ゛んよざん!!ぢぎぃ!!ぢぎれ゛る゛!!ぢぎれぢゃう゛うう゛うぅ゛ぅ゛!!!」

―――『更に三倍、かつ宙転』。

「ぎひい゛い゛いぃ゛ぃっ゛っ!!!?」

あっという間に、親たちの身長すら飛び越える程の跳躍を見せる子れいむ。
涙を振りまいて身体をぐねぐねと折り、そのまま顔面から着地を繰り返す。
体の至る場所が無理な運動により裂けかけ、中の餡子が透けて黒ずみ始めていた。

うどんげは子れいむの狂態を、ただ何をするでもなく見ていた。
椅子に座り足を組んで頬杖を突き、何の気無しといった風に見続けている。
そこに興奮や愉悦、嗜虐の色は見られない。
売れない大道芸でも見ているかのようだった。

―――『宙転ののち横回転1回、ひねりを加えた後に後方宙転3回、さらに月面宙返り』……

「ぎい゛い゛い゛ぃぃ゛ぃっぃぃ!!!?い゛ぎい゛いい゛いいいい゛い゛ぃぃ゛ぃっっ!!!!」
「おぢびじゃああんっ!!?もうやべでええええぇぇぇっっ!!!!」

ますます複雑怪奇になっていく子れいむの挙措。
制止の声も何処吹く風だ。
己の限界に挑戦せんとばかりに、子れいむは跳ね続ける。

少なくとも暫くの間は、子れいむはうどんげの暇潰しに付き合わされることになる。
それがいつ終わるのかと訊くのなら、
おそらくは、子れいむの体が限界を迎えるまでだろう。



 ***



かくして、結果は。

「ゆぎっ……ぃぎっ………っぐ………ぎゅぇ゛………」
「げぎっ………げぎぎ…げぎっ、げげげぎいぎぎ」

体中、あるいはその中までもガラス片に埋め尽くされた子れいむ、子まりさ。
子れいむはガラスのサボテンと化しており、子まりさも似たようなものだ。
僅かに動く度にガラスが擦れ、チャリチャリと音を鳴らす。
満身創痍をとうに越え、いつ死んでもおかしくない状態であった。
その代わりとでも言うべきか、和室は清められている。

「ぎゅぎっ!!!ぎゅぎょえ゛っ!!ぎょん゛っ!!!」

ビタビタと魚よろしく跳ね回っているのは、子れいむだ。
底部、顔面、頭部に関わらず床にぶつかり、またその部位を使って無理やり跳ね飛んでいる。
既に全身は膨れ上がり、蒼痣のようなものがそこかしこに浮かび上がっていた。
子れいむ自身も痛みによる気絶と覚醒を繰り返し、悲鳴を上げるだけの精神しか残っていない。

「ん゛お゛ぇ゛っ、むじゃっ、おげええぇぇっ!!むーじゃっ!!」

皿の上で嘔吐し、吐瀉物を食べる事を繰り返す赤まりさ、が一匹のみ。
それ以外には何も居ない。
『皿の上のものを全て食え』。
元よりそういうものだ。体が忠実に命令を守った結果である。
子まりさの身体は数倍に膨れ上がり、限界まで伸ばされた皮からは薄らと中身の餡子が透けて見えていた。
吐いて食べる、の繰り返しは不気味なポンプを連想させる。

今や満足に会話ができるものはまりさとれいむしか居ない。
子供達は駄目だ。
壊されてしまった。
目の前の、紅い瞳を持つものに。

そして、今もまた。

「ぎゅひっ!!」
「げひゅっ!!」

痙攣を繰り返すだけとなっていたガラス饅頭二匹が、ゴミ袋の中に入れられる。
それを待っていたかの如く、子れいむと子まりさはぼろぼろに千切れていき、やがて死んだ。
後に残るは餡子とガラスの混合物だけだ。
まさしくゴミを扱う手つきで、ゴミ箱の中に放り込められた。

「ぢぎいいぃぃっっ!!!?」

狂った顔で跳ねていた子れいむが、真っ二つに裂ける。
底部から口元は地に付き、それより上はまたも飛ぶ。
すべては近過去、紅い瞳を見た刹那。

―――『這いずりながら跳べ』。

どうやっても矛盾するであろう難題を、子れいむは見事やり遂げた。
代償は、真っ二つになった体。
間抜けに悲鳴を発する下半分を尻目に、上半分は餡子を零しながら上昇する。
やがて到達点。
もみあげを羽のように振り回し、しかし何の意味も無く上半分は下半分の元に着地した。

「い、へ、ゆへへへへへへへへっへっへへっへへへへ………」

気が触れたかのように笑う下子れいむ。
上子れいむは未練がましく空を見上げ、もみあげをぱたぱたと泳がせている。
二つの間から餡子は流れない。
身命を削った反動は、子れいむの瑞々しかった餡子を干からびさせていた。

「ゆぶ、お゛っげ……ゅ゛っ!?ゆ、ぐぎっ」

今にも餡子を吐こうとしていた赤まりさが掴み上げられる。
かつてのピンポン玉は、今や子ゆっくり以上の巨体だ。
張り詰めた肌に指が食い込む。
赤まりさにとってそれは、吐き気を増進させる以外の何者でもない。
元から耐える気も無く、迸るままに餡子を――――

―――『吐くな』。

「…………っっ!!ゆ゛、っっっっぃ!!!!!!」

吐けなかった。
何がどうなっているのか分からないが、とにかく餡子を戻せない。
親であるれいむと似た苦しみが子まりさを襲っていた。
いや、こちらの方が命に関わる点、れいむよりも重大である。

既に身体は限界許容量を越えた餡子――うんうんと、姉妹――で一杯である。
今までは騙し騙し、吐いて戻すを繰り返していたから耐えられたのだ。
こうなっては、皮がいつ内圧に耐え切れなくなっても不思議ではない。
ダムの堤防が決壊するようなものだ。

「~~~~~っっっ!!!!!っっっ~~~~~~っっ!!!」

思い切り目を閉じ、歯を噛み締める赤まりさ。
今にも行き場をなくした餡子は、他の場所から突き出ようとしている。
それを耐える。必死に耐える。
さながら時限爆弾のように。
そして、そんな爆弾は処理されるのが運命である。

「ゆっ、ちょっ、ちょっとまつんだ」

まりさは唐突に帽子を取られ、頭の上に赤まりさを乗せられた。
あとは再び帽子を被せ、赤まりさが外から隔てられる。
ごく一般的な、まりさ種が良くやる子供の運搬法。
まりさとて覚えがある。子ゆっくり達をこうして運んでやったこともあった。
しかし今は場合が違う。
まりさの脳裏を過ぎった想像は、

ぱん

僅か数秒という近未来において現実のものとなった。

まりさの全身から冷や汗が噴き出る。
頭の上が重い。
まるで『何か』が、頭に『満遍なく降りかかったよう』で。
それは、つまり。
赤まりさが、満遍なく。弾け……
そこまで想像して、まりさは考えを打ち切った。
悍まし過ぎて、とても考える気になどなれない。

なんてことを。
なんてことをするのだ、こいつは。
まりさは総毛立った。
こんな殺し方があるか?
どうしたらこんな方法を考え付く!?
何で一体どうして、こうも酷い殺し方ばかりを―――

ふと、目を逸らす。

「おぢびじゃんんんん!!!!!!」

ようやく自体を飲み込んだれいむがまた泣き喚く。が、まりさにはどうでも良かった。
そんな事より。
見てしまった。
真正面から見据えてしまった。

うどんげは嘲笑していた。
無表情のように見える、その唇をほんの少しだけ歪めて。
誰にも悟らせようとせずに、ただひっそりと目の前のまりさ達を見て、哂っていた。
どうしようもなく侮蔑し、嘲弄していた。


気付かない方が良かったのかもしれない。
だが、まりさは気付いてしまった。
直感してしまった。

目の前のこいつは、まりさ達が死ぬことを愉しんでいる、と。



 ***



子を失ったれいむとまりさは、外へと連れて行かれた。
窓ガラスの向こう側、庭にぽつんと、二匹は立つ。

そして、それを見る赤い双眸は―――

「ぐぞどれえええええええええいいいぃ!!!おばえが!!おばえがあああぁぁ!!!」

れいむが叫んでいる。
怒りを込めて、憎しみを込めて。
愛する我が子を全て失った結果、やっとの事で全てを理解したらしい。
恨みを全てぶつけんと、動かぬ身体を必死に揺らしてれいむは叫び続ける。

「よぐも!!よぐもでいぶのおぢびじゃんだち…おちびじゃんたぢをおおおぉぉ!!!!
 ごろじでやる!!!おばえも、にんげんも゛……
 ぜんぶごろじでやる゛うう゛うう゛ぅぅ゛ぅ!!!!!!」

……それはもう叶わぬ夢だ。
まりさは理解している。
切り札であったナイフは、うどんげに取られてしまった。
虎の子があってこそ、人間に勝つ目があったのだ。れいむでは人間に勝てない。
ましてや、目の前のこいつには、特に。

「おぢびじゃんのがだぎはどっであげるがらね!!
 まずぐぞどれいのおめめをえぐって、そのぎたないかみをぬいて!
 ぞれがら、ぞれがら……どにがぐごろず!!ごろずう゛ううう゛うう゛う!!!」

無理だ、無茶だ、無謀だ、夢想だ。
憎しみを口に上らせるだけでは、何も起きはしない。
寧ろ煽ってどうするのだ。
殺してくれと言っているようなものではないか。

「ばりざもなんがいっでやっでね!!
 ごのぐぞどれいにかわいいおぢびじゃんをごろざれでるんだよ!?
 ぐやじぐないのおお゛おお゛お゛お゛お゛ぉぉっ!!!?」
「………………ぜ」

黙れ。
誰が言うか。
元々あんな餓鬼供、すっきりのついでに出来たおまけではないか。
それよりも………

まりさは往生際の悪いゆっくりであった。
いや、元々ゆっくりがそうなのかもしれないが、まりさはその中でも特に群を抜いていた。
そうでなければ野良を生き抜く事など出来なかったからだ。
まりさは性根、生い立ち共に、生き汚くなるように育っている。
故に、この袋小路とも言える局面においても何とかならないかと考えていた。

まりさは考える。
此処は土壇場。一歩間違えば首が飛ぶ。
最善の手を考えなければならない。

まりさは考えて。
逃げる事は出来ない。そもそも身体が碌に動かない。同じ理由で反撃も不可。
唯一自由に動くのは顔だけ。つまり言葉で何とかせねば。

まりさは考え抜いた。
考えろ考えろ考えろ。
どうにかして生き抜くのだ。
今この場で出来得る最良の手、それは―――

考え抜いて、まりさが出した結論は、

「……あ、あんなちびどもはしぬのがおにあいだったのぜ。ゆひぇっ」
「ばり゛ざああ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ!!!?」

単純にも、ただ媚びることであった。
やはりゆっくりである。
底が知れた。



 ***



「そもそも、まりさははんたいだったのぜ。にんげ、にんげんさまのおうちをおそおうだなんて。
 でもれいむにいわれてしかたなくやったのぜ?ほんとうなのぜ?」
「ばりざああああああああああ!!どぼじでぞんなごどいうのおおおおお!!!!
 おぢびじゃんだちのがだきをうつんでじょおおおおおおおおお!!!?」
「うるさいんだぜ!!このぶす!!おまえなんかとすっきりしたのがまちがいだったのぜ!!
 やっぱりれいむなんてただのまんじゅうべんきなのぜ!!!」
「ひどいよばりざああああああああぁぁぁ!!!」

必死に弁解するまりさ。
自分は悪くない、悪いのはれいむだ、と。
さりげなく――でもないが――れいむを罵倒することも忘れない。
板についた卑屈振りだった。

「れ、れいむはいくらくるしめてころしてもいいから、まりさだけはたすけてほしいのぜ?
 みかえりはあるのぜ!!まいにちおいしいあまあまをもってくるのぜ!!
 それにきれいなびゆっくりだってたくさんつれてくるのぜ!!それから―――」
「ばりざああぁぁ!!どぼじでぐぞどれいなんがにあまあまあげなぎゃいげないのおおおおぉぉ!!!
 それにびゆっくりってどういうごどおおおぉ!!!?まりざにはがわいいれいむが」
「うるさいってさっきもいったんだぜ、このまんじゅうべんき!!!
 おまえはそこらへんでいきずりののらゆっくりとでもすっきりしまくってればいいのぜ!!」
「どぼじでぞんなごどいうのおおおおぉぉぉ!!!?」

無論、大嘘だ。
あまあまが取れるならば最初から人家に入ってなどいない。
美ゆっくりなど、まりさは今まで数えるほどしか見たことが無かった。
つまりは絵に描いた餅。
死を恐れるあまりに、有り得ない約束まで取り付けようとしている。

「きっとにんげんさまもまりさたちをころすのをはんたいするとおもうのぜ!!
 よわいものいじめなんて、きっとにんげんさまがしったらかなしむのぜ!!
 ここはひとつやさしいところをみせて、まりさをみのがしてほしいのぜ!!」
「なにいっでるのおおおぉぉぉ!!!?にんげんもごろずんだよおおおお!!!
 かみついてのしかかってどれいにしてうんうんたべさせてそれから……」
「うるさいってのがわからないのかぜこのどぶす!!くず!!あかばえ!!さげまむ!!
 うんうんはだまってうんうんらしくそこにすわってるんだぜえええ!!!」
「ひ、ひどいいいいいい!!!ばりざのばがああああぁぁ!!!」

これは効果があった。
明らかに、相手は考え込むそぶりを見せたのだ。
しかしれいむの発言のせいでそれも霧散した。
まりさは焦る。
光明が閉じられようとしている。

「じつをいうとまりさはこのおうちのにんげんさんとしりあいなのぜ!!
 だからほんとうはただおうちにあそびにきただけなのぜ!!
 それをこのみしらぬどぶすれいむにつけまわされただけなのぜ!!」
「どぼじでぞんなごどいうのおおおぉぉぉ!!!」
「いいかげんだまれっていってるんだぜ、くず!!ぶた!!うんうん!!のうなし!!なまごみ!!
 いっちょまえにくちだけきいて、そのきたないつらをみせるんじゃないぜこのでいぶ!!」
「でいぶはでいぶじゃないのに゛いい゛いい゛いい゛ぃ゛ぃ゛ぃ!!!」

嘘に嘘を重ねるまりさ。
もう整合性なんて知ったことではなかった。
元々それについては適当な所がある。
今はとにかく生き延びるのが肝心……

「それに、それにまりさとはいちどあいしあったなかなのぜ!?
 あんなにあつくもとめあったのに!!ころすなんてどうかしてるのぜ!!
 まだまりさのことがすきなら、どうかまりさをみのがして――――」

―――『黙れ』。

まりさは地雷を踏んだ。
哀れなり、まりさ。



 ***



「………っ!!…っ……っっ!!!」
「~~~っっ!!?~~~~~!!!!」

身体が動かない。
加えて、口も動かなかった。

まりさ達の進退は、此処に窮まった。

目の前には紅い眼がある。
大きく見開かれ、爛々と光を放つ大きな瞳が。
そしてその瞳を貼り付けた顔は、



狂ったかのように、歪みきった笑いが浮かんでいる。



口の端は裂けんばかりに開かれていた。
重なり合った歯の間からは、軋むような音が漏れている。
瞳はそれぞれ、右目がまりさを、左目がれいむを捉えていた。
痙攣が起きたかのように身を震わせ、その度に喉の奥から詰まったような声が聞こえる。

最初とは、否、先程までとすらまるで違う。
これに比べるなら、まだ子ゆっくり達を殺していた時の方が理性がある。
獣の笑みだった。
狂人の笑みだった。
れいむ、まりさから、一切の反抗を奪い取るような貌であった。

同時に、れいむとまりさも狂った。
恐怖が心を押し潰した。
狂気が精神を蝕んだ。
紅い瞳が、その狂を写したのだ。
錯乱する餡子の脳は、もとより少ない策やら何やら――あるいは全てを吹き飛ばす。

―――『裏返れ』。

「っっ!!?」
「~~~っ゛っ!!!?」

途端、まりさ達の口が開く。
上顎と下顎が同極の電磁石でも取り付けられたかのように、凄まじい勢いで離れていく。
もとより大きいゆっくりの口が、それだけでは満足できないとばかりに、大きく開いていく。

そんな二匹を見て、またも哂う者がひとり。
最早誰にも隠す必要はないとばかりに。
始めはゲラゲラと笑い出した。
すぐさまそれよりもけたたましく笑い出した。
そして次には、更に搾り出すかのように笑い出した。

まりさ達の口の端が裂けた。
それでも身体は、口を開くことをやめない。
既にれいむとまりさの体勢は、海老反りのようになってきている。
止まらない。
まさしくれいむとまりさは、『裏返ろう』としている。

腹を抱えて嘲笑する声が聞こえる。
指を指して嘲弄する声が聞こえる。
身を捩じらせて侮蔑する声が聞こえる。
身体を引き攣らせ、腹の奥から吐き出される怪笑が聞こえてくる。

「っ゛っ゛っ゛!!!!っっ゛っっっ゛!!!!」
「~~っっ゛っ゛っ!!!?っ゛っ゛っ゛っ~~~~!!!」

凄まじく耳障りだった。
気が狂いそうだった。
死にそうだった。
一刻も早く黙らせたかった。
殺してでも止めたかった。

でも、できない。
まりさ達はそれができない。
両顎の成す角度は180度を越えた。
口内が外に張り出し、まりさ達の皮が内側に納められようとしている。

声が響き渡っている。
誰かを嗤う、忌々しい声が響き渡っている。
心底可笑しそうに、心底馬鹿にした、悪意を結晶させた声。
滑稽な死に様を晒すまりさ達を嘲笑う、真っ黒い笑み。

口が開く、否、『閉じる』。
内を外とし、外を内としてまりさ達は閉じていく。
身体の内側を引っ張り出され、そして外側を折りたたまれていく苦痛はどれ程のものか。
内臓を引きずり出されるのに似ているのだろうか。
最後の瞬間に、まりさはふとそんな感慨を覚えた。



そしてやがて、口は閉じた。
其処にあるのは奇妙なオブジェ、が2つ。
一見するなら、60センチ大のおはぎ、といった所だろうか。
時折びくりと震えるのは、それが何の成れの果てかを物語っている。
放っといてもそのうち果てるだろう。

狂笑は続いていた。
ゲラゲラと、耳障りに。
誰であろうと不愉快にさせるその笑い声が。
まるで、早く死ね、とでも言うかの如く。



おはぎ二つの命が潰えると同時に、
その笑い声はぴたりと止んだ。



 ***



時間は進み、夕刻。

うどんげはひとり、膝を抱えていた。
目の前には割れたガラス窓。
段ボールとガムテープで一応は塞いだものの、それでガラスが直る筈も無い。

お兄さんは言った。
「良い子で留守番しろ」と。
これの何処が良い子なのだ。
取り繕ったが、部屋にも荒らされた跡が残っている。

そもそも、家に入られる前に何とか出来れば良かったのに。
勝手に腰を抜かしていた結果がこれだ。
飼いゆっくりは家を守る役目も持ち合わせている。
今回の事は、それの最低基準にすら満たない。
番ゆっくりとしては失格としか言えなかった。

野良ゆっくりに、お兄さんの大切な家を荒らされたのだ。
自分なんかより何十倍も価値のある、この家を。
きっとものすごく怒られるだろう。
もしかしたら、愛想を尽かされてしまうかもしれない。

夕日が沈んでいく。
夜が降りてくる。
ネガティブな事ばかりを思い出し、それによって更に悲惨な想像を膨らませていく。
うどんげは、思考の悪循環に陥っていた。

―――嫌。

怒られるのは、当然の事として受け止められる。
どんな罰でも受ける覚悟があった。
それでも、お兄さんに見捨てられるのだけは耐えられない。
それだけが怖くて、うどんげは一層膝を強く抱きしめる。

自然に涙が出てきた。
袖で拭うが、それでも出てくる。
目の周りをごしごしと擦った。
ぼんやりと熱い。
それでも涙は止まらない。

―――ごめんなさい。

早く帰ってきて欲しい。
帰ってきて、それで泣いている自分を慰めて欲しい。

―――ごめんなさい。

早く帰ってきて欲しい。
どんなに怒られても我慢できるから、自分を叱りにきて欲しい。

―――ごめんなさい。

出来れば会いたくない。
捨てられてしまうかもしれない。
見捨てられてしまうかもしれない。
それがうどんげにとって、何よりも恐ろしいことだ。

―――ごめんんさい、ごめんなさい、ごめんなさい。

今この場に居ないお兄さんに向けて、必死に謝罪を繰り返すうどんげ。
謝れば謝るだけ涙が溢れてくる。
寂しかった。
ひとりは嫌だった。

元々赤い眼を更に真っ赤にしながら、うどんげはお兄さんを待ちわびる。
段ボールの隙間から吹く風が冷たかった。



 ***



「うどんげ、よくも俺の家をめちゃくちゃにしてくれたな。
 お前はもう要らない。捨てる」

―――嫌!

「離れろ、くっつくな、鬱陶しい。
 邪魔なんだよ、捨てたのに付いてくるな」

―――捨てないで!

「何だお前、その目は?
 役立たずの分際で、一人前に俺に意見するだと?
 調子に乗るのも大概にしろよ」

―――ごめんなさい、謝りますから!

「もうお前は用済みなの、要らない子なの。
 俺は代わりにこの※※※と暮らすから。それじゃ―――」

―――嫌、嫌、嫌っ!!!



と、いう夢を見て、うどんげは飛び起きた。
いつの間にか寝てしまってらしい。

うどんげは家を出た。
お兄さんを探しに行くのだ。
時間は既に夜で、辺りは暗いが関係ない。
とにかく寂しかった。何でも良いから、お兄さんと出会いたかった。

ひたすらに、暗い夜道を走る。
行き先は決まっていた。
お兄さんが毎日の通勤に使う駅、其処に行くのだ。
一刻も早く会いたかった。それ以外の事は考えていない。

ただ走った。
脇目も振らずに走った。
息が切れようがどうなろうがお構い無しだった。
そうして、

走って、
走って、
走って、

転んだ。

なんて事の無い石ころだった。
普段なら、絶対に躓いたりはしない。
それはつまり、うどんげが現在どれだけ取り乱しているかという事なのだが。
生憎ながらうどんげ自身はその事に気付かなかった。

冷たい地面に倒れこんでいる。
じんわりと冷気が、身体に染み込む。
何故かまたも涙が溢れてきた。
うどんげは、蹲りながら泣き始める。

―――嫌だよ、寂しいよ。

先程の事は夢だと、うどんげも分かっている。
だからと言って不安を消せるかと言えば、そうではない。
むしろ逆だ。
夢という不確かなものでも、お兄さんからはっきり「要らない」と言われてしまったのだ。
それだけでうどんげの胸の奥がきりきりと痛む。

―――会いたい、会いたいよ。

夜になってもお兄さんが帰ってきていないという事も、うどんげの不安を煽っていた。
いつもはもっと早く、お兄さんは帰ってきてくれた。
だというのに今日は妙に遅い。
うどんげにとって、それは見捨てられたのではないかという恐怖に直結していた。

―――お兄さん、お兄さん、おにいさん!!

いくら呼んでも彼は来ない。
そんな事はうどんげ自身が一番良く分かっている。
でもそうしなければ耐えられなかった。
ただ蹲って、ただ震えて、お兄さんを呼ぶ。

無知蒙昧というべきだろうか。
それとも真摯というべきだろうか。
どちらにしても、あまり賢い行動ではないと言える。
でも、だけど。



「…………うどんげ?何やってんの、そんな所で?」

この世にご都合主義というものは存在し。
それは今のような場面で使われるものなのだ。



 ***



「うどん……ぐォッ!?ナイスタックルっ!?」

家路に就いている途中、驚くべき事があった。
いつもの見慣れた帰り道。
そこにうどんげが寝ていて、声をかけたら頭から突っ込んできたのだ。
何がなんだか分からない。

「……っ!!………!!!」
「お、おいィ?どうした?」

なにやら顔をうずめてわんわんと泣いているうどんげ。
寂しかったのだろうか?
それにしても様子がちょっとおかしい。
一体何かあったのだろうか。

「………っ、………!!」
「……成る程、さっぱり分からん」

ゆっくりうどんげ種は、めーりん種と同様に人語が喋れないゆっくりだ。
つまり何を伝えたいのかチンプンカンプン。
いつもならある程度の機微は伝わるが、今のうどんげは錯乱気味でそれも無理だった。

とりあえず。

「落ち着け、れいせん」
「………!」

ぎゅっ、とうどんげ…もとい、れいせんを抱きしめる。
仄かな温かみが伝わってくる。
れいせんも、くたり、と身の力を抜いて俺に身体を預けてきた。
抱き締めたまま頭を撫でる。
相変わらずれいせんの髪の毛は、手触りが良い。

「………落ち着いたか、れいせん?」
「……っ」

こくん、と首を縦に振るれいせん。
そのままれいせんを抱き上げ、歩き始める。
れいせんの身体は、相変わらず軽かった。

とりあえず、何事かが起こっていたのは間違いなさそうだった。
臆病者のれいせんが、夜にこんな場所をうろつく事なんて普段は有り得ない。
あるいは家に泥棒でも入ったか。
そしてれいせんは助けを求めるべく、俺のもとまで走ってきた、なんてことも考え得る。

まぁ、なんにしても。

「とりあえず。
 れいせん、ただいま」
「………っ!」

目の前のれいせんさえ無事ならば、御の字だ。

他の家具とかはまた買い戻せば良い。
だけどこいつは、一度失えば二度と戻る事はない。
そういう意味で、れいせんは唯一無二の存在だ。
他の何よりも大事な、俺の家族だ。

「ほらどうした、挨拶はしないのか?れいせん」

くりくりとれいせんの頬を突っつく。
嬉しそうに、くすぐったそうに身を捩るれいせん。

それから、俺の目をじっと見つめて。
ようやくれいせんは笑顔になってくれた。
やっぱりこいつには、笑う顔が良く似合うと思った。



「な………何じゃこりゃァッ!!?」

帰ってきてみたら家の中が微妙に荒らされ、そして和室の窓がぶち割れているのを発見。
うどんげがビャービャー泣きながら説明してくれた所、どうやら野良ゆっくりの襲撃があったらしい。
庭に転がってる二つの巨大泥饅頭とか、ゴミ箱の中に納まっている子ゆっくりっぽい何かがその証拠だった。

正直、猟奇的だった。
ちょっとうどんげと付き合い方を考えた方が良いかもしれない。










(おわり)
   *   *   *   *   *
疲れた。
正直30キロバイト以上のもの書くと構成とかオチとかグダグダになる。
おまけに話の骨子もよく考えんで前半上げちゃったから色々大変でした。主に前編の二倍近い文量とか。
前編の「多分あとで消す」ってのは単純に後編が書けなかったから。
皆様のコメントのお陰で書ききることが出来ました、ありがとうございます。
モチベーションって大切だね。
このお話は「こんくらいのサイコパスのほうが可愛いよね」をコンセプトにしています。
あと、前編中に一回でも「まりさ羨ましい」とか思った奴、屋上に来ようか。釣りだよ。すっきりとかさせる訳無いだろ。

byテンタクルあき







おまけ

今回の話には出ていなかったが、俺は他のゆっくりとも住んでいる。
何?なんで今回は居なかったかって?こまけぇこたぁ(ry
家を二軒所有してて、片方にうどんげしか居なかった、とでも考えて下さい。

「おいィ?おにいさんのおうごんのてつのかたまりでできたおうちをきずつけるなんて、
 いったいどういうつもりなんですわ?お?
 さっさとおにいさんにあやまったほうがほんのうてきにちょうじゅたいぷ、はやくあやまッテ!」
「えっとね、うつほもしってるよ!
 のらゆっくりにおうちをあらされるのはだめだって、おりんもいってた!」
「………(プルプル」

天地魔闘コンビ(てんこ、うつほ)がヒゲダンスしながらうどんげの周りをぐるぐる回っていた。
どうやらうどんげの警備に対して物申したいらしい。うつほは知らんが。
可哀想なことに、うどんげは顔まで真っ赤にして震えていた。
図星なだけに何も言い返せないようだ。

と、ここでうどんげの能力を紹介しておこう。
後になって判明したことだが、ゆっくりうどんげ種は一種の催眠術を扱えるらしい。
なんでも、狂気がどうとか、分かりやすく言えばギ○スだ。
ある程度抵抗できる者も居るが、それは大抵捕食者よりの上位種、との話。
ちなみに人間にもある程度使用可能。
一種の興奮状態にすることが可能だとか。

「…………(キッ!」
「ぐっ、ぐおおおぉぉ?て、てんこの、てんこのからだがかってにっ!?
 どうなってるのこれー!?あたまがおかしくなってしぬのー!?」
「うにゅー、あれ?からだがかってに……」

天地魔闘コンビはゲイナーダンスを踊り始めた。
今日も相変わらず平和である。
最終更新:2010年10月09日 20:56
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