仕事中でもプライベートでも忙しい時は忙しいモノだが、
突然ぱったりと全ての用事が片付いて、時間が出来てしまうことがあったりする。
別にそういう日にはダラダラと過ごしてもいいのだが、
私の場合、別の方法で暇をつぶすこともある。
時期は2月に入っており、外を眺めると、草地や地面にうっすらと雪が積もっていた。
そんな日に用意するのは、押入れの奥から発掘した古い布団乾燥機。
とはいえ、屋外に持ち歩くには具合が悪かったので無理やり電池式に改造して、
温風もそよ風程度にしか出ない仕様にしてしまったが。
それだけを持ってぶらりと家のすぐ裏手にある、木々もまばらな林の中を訪ねるのだ。
「みゃみゃー。れいみゅ、おしょとにでちゃいよぉ。」
「おちびちゃん。おそとはさむいさむいだよ。はるさんになったらおそとでゆっくりしようね。」
「ゆぅぅ、はるしゃんは、ゆっくちしないではやくきちぇにぇ!」
少し耳を澄ますと、地面の方からかすかにゆっくり親子のしゃべり声が聞こえる。
林に入れば、雪に多少は隠されているものの、
木の根元やら不自然に積まれた石の下やらに、ゆっくりのおうちを見つけるのはたやすい。
季節は冬のど真ん中。
野生のゆっくりならば、おうちの中にごはんを溜め込み、
おうちの入り口もしっかり閉じて冬ごもり中だ。
ちなみに『冬の子作りは死亡フラグ』というのも地域によりけりで、
この林のゆっくり達などはむしろ、狩り中の事故で親が死ぬこともない冬ごもり中に、
子作り・子育てをしていたりする。
そんなおうちの入り口を塞ぐ木の枝や小石(いわゆる『けっかい』)に、
親指一本分の穴をそぉっと開ける。
そこに差し込むのは、先ほどの布団乾燥機の送風口にガムテープで無理やり取り付けた、
短く切った細いゴムホース。
あとは乾燥機を作動させ、ホースでおうちの中に、温風を送り込んでやる。
さあ、中から聞こえる話し声に耳を傾けてみよう。
・・・・・・。
「ゆ?あったかくなってきたよ!おちびちゃん、はるさんがきてくれたよ!」
「ゆわーい、やっちゃー。」
「じゃあ、おちびちゃん、のこりのごはんもたべちゃおうね。」
「ゆっくちむーちゃむーちゃしゅるよ。」
・・・・・・。
「むーちゃむーちゃ、ちあわちぇー。」
「ゆふふ、ごはんさん、のこしすぎたね。やりくりじょうずでごめんね!」
「みゃみゃは、とっちぇもゆっくちしちぇるにぇ。むーちゃむーちゃ。」
・・・・・・。
「まんぷきゅー。ちあわちぇー。」
「ゆふふ、きっとおちびちゃんがゆっくりしてるから、はるさんもいそいできてくれたんだね。」
「ゆゎーい。れいみゅ、きゃわいくってごめんにぇっ。」
・・・・・・。
「それじゃあ、『けっかい』をどけるから、おちびちゃんはうしろにいっててね!」
「ゆっくちりかいしちゃよっ。」
・・・ごそっ、ごそごそ・・・
おうちの入り口を塞ぐ木の枝やら小石やらをどかす音が聞こえ始めた。
・・・さあ、次のおうちに行くか。
・・・・・・。
今日は、12か所のおうちを見つけて、その全てに早めの春の到来を知らせることができた。
たまたま最初の一か所は最高のパターンで自滅してくれたようだが、
喜び勇んでおうちから飛び出して来てくれるなら、その後はおまけみたいなものである。
ゆっくりが秋までの努力で作り上げた冬支度、
必死にかき集めた越冬用のごはん、
冬ごもりを迎えてようやく手に入れた、ゆっくりしたおちびちゃん達、
それらを台無しにしてやったという事が、私にこの上無い充足感を与えてくれるのだ。
今頃、雪の積もった外の景色を見て、驚いているであろうゆっくり達の表情を想像する。
『ゆぁぁあああ!!どうぢでごんなにざむいのぉぉおお!?』
『はるさぁああん!!はるさぁん、もどっでぎでぇぇえええ!!』
『おぢびぢゃぁぁああん!?ゆっぐぢぢでぇぇええ!!』
そんな泣き声が、今にもここまで聞こえてきそうだ。
それだけで私は、また明日から始まるであろう、
仕事に追われる日々ですら楽しみに思えるほど、ゆっくりできるのである。
『軽いイタズラ』
D.O
最終更新:2010年10月09日 20:58