anko2126 なつかないちぇん

なつかないちぇん

愛で 虐待 思いやり 愛情 現代



家の胴付きちぇんは懐かない、兎に角懐かない、もう家に来て1年になると言うのに
頭を撫でようとすれば、ビクリと身体を震わせ飛び退き、遊んでやろうとすれば、無視をされる
よっぽど機嫌の良い時でもないと近寄ってすらこない

だが、そんなちぇんも身体を拭いてやる時だけは大人しい
服を脱がせ、焼き鏝を押し付けられた後を優しく拭いてやる
脇腹の、熱したドライバーを何度も何度も刺された後を拭いてやる
肘から先の無い、左腕を拭いてやる
閉じたままの右目を、千切れた左耳を、半ばからもげた尻尾を

全身の傷跡を出来るだけ優しく、優しく、痛みよ消えろと願いを込めて

そして、人間によって心に負った傷も・・・何時か拭ってやりたいと思っている

うちのちぇんは懐かない、だけど、何時かは無邪気に遊ぶちぇんが見たい
俺から逃げて、それでも遠巻きにこちらを伺うちぇんを見ると、そう思わずにはいられない





ビチビチ・・・ブチン!

甲高い叫び声と共に、その左耳が永遠にちぇんの身体から失われた

元々飼いゆ同士の間に産まれたちぇんは、貰われて来たこの薄暗い家に入るなり
いきなり家主に帽子をビリビリに破かれ、耳飾りを耳ごと引き千切られた

男は、ちぇんに見えるようにその左耳を口に含み、ぐちゃぐちゃと音をたてて租借する
激痛と恐怖でガタガタと震えながら、家主にどうしてこんな事をするのか問いかけるちぇん

その弱弱しく哀れな姿が、よりいっそう家主の嗜虐心を刺激した

家主は笑いながら泣き叫ぶちぇんの髪を掴むと、ブチブチと髪が千切れるのもお構い無しに
その小さな身体を引き摺りながら家の奥へと奥へと入っていく

そして、家の地下にある、大きな大きな扉を開けた


そこは・・・ちぇんにとっての地獄だった





一瞬の出来事だった

ちぇんが、俺の手からちぇんの食事を盛った皿を、ひったくるように奪い
部屋の隅でこちらに背中を向け手掴みで食べ始める

ちぇんの食事は常にこうだ、他者の介入を絶対に許さない


・・・一度、無理を言って、同じテーブルで食事をしようとした事がある


俺が醤油を取ろうと伸ばした手に怯え、箸が茶碗に当たる音に怯え
俺の一挙一動を警戒していた
そして結局、その日ちぇんは一口も食事に口をつける事は出来なかった

ちぇんは、頭では俺は自分に危害を加えないと解っている
それでも、身体に刻み込まれた人間への恐怖が
本当に些細な、食事中の安らぎさえもちぇんから奪っていた


今は、これで仕方がない、でも


ちぇんの寂しげな背中を見ながら何時もこう思うのだ
何時か、俺とちぇんが向かい合って食事が出来る時が来たら

その時は・・・家族の団らんをちぇんに教えてやりたい・・・





嗚咽と痙攣と共に、ちぇんが胃の中の物を全て吐き出した
ちぇんの吐瀉物の中に混ざっていた物・・・それは小さな小さなちぇんの残骸
家主が面白そう、というだけの理由で用意して、ちぇんに無理矢理食べさせた物だ

泣き叫ぶ赤ちぇんを無理矢理口に押し込まれ、無理矢理噛み砕かされ、飲み込まされた
そして、全て戻した

戻したりしたらどんな拷問を受けるのか解っている
だが、口の中いっぱいに広がる自分の同種族の味に、嘔吐を抑える事が出来なかった

ケホケホと咽ながら怯えた目で家主を見る、必死に謝りと許しを請う
家主がにやにやと笑いながら、その様子を眺め

ちぇんの背中に焼き鏝を押し付けながら、今吐いた物をもう一度食え、と無慈悲に命じた

ちぇんは、戻した罰として受けた焼き鏝の痛みと悲しみに涙しながら
自ら戻した吐瀉物と、同族の死体と、床の汚れを全て胃の中に流し込んだ





ちぇんは、甘い物を食べない
ちぇんが俺の所に来てすぐの頃、ゆっくりだから甘い物が好きだろう、そう単純に考えて
弱りきっていた、ちぇんに少しでも栄養を与えようと、ゆっくり用のお菓子を口に入れた瞬間
ちぇんは胃の中身を全てぶちまけた

慌てて連れて行ったゆっくり専門の医師によれば、心因性のトラウマが原因らしい
いったい何をされたのか、ちぇんは喋らなかった
元々恐ろしく無口だが、この事に関しては特に一切喋らない


この事件以来、ちぇんに出す食事は全て薄味の甘味以外の物
茹でた鶏肉に軽く塩をふった物などにしている

ゆっくりにとって、甘い物を食べると言う事は、何にも増して幸せを感じる瞬間らしい
それすらも出来ないちぇんを見て

いったい、このちぇんは生きていく内にどれだけの物を奪われてきたんだろう、と考えてしまう

奪われた物全てを取り返すのは無理だ
でも、俺が与えられる物は、このちぇんに全て与えてやりたいと、心からそう思う
それが、俺の罪滅ぼしなのだから




家主が、ちぇんの眼孔に突き刺さった鉄串を引き抜く
ドロドロにシェイクされた、眼球だった物が涙とチョコレートと一緒に地面に零れ落ちた

強烈すぎる激痛に声にならない悲鳴をあげるちぇん、叫びすぎて声が枯れてしまい、大声が出せないのだ


これは罰だった


口を開くだけで、それを理由に拷問される、ちぇんの口数は延々と続く拷問の日々に極端に減っていった
飼いゆだった頃の明るさなど微塵も感じられない濁った瞳、それが今のちぇんだった

そして、何時ものように拷問を受け、家主がこの部屋を退出した時に閉め忘れた僅かな扉の隙間
ちぇんの瞳に僅かな光が戻る、この地獄から抜け出せるかも知れない
僅かな希望を混めて光挿すドアを開け、部屋の外に躍り出る

そこに救いは無く、代わりにうすら笑いを浮かべた家主が、ちぇんを無慈悲に見下ろしていた

鎖で全身を固定された状態で眼孔内を鉄串でシェイクされ
気絶した瞬間に目が覚めるような激痛を味わい、普通のゆっくりならとっくにショック死しているだろう

だが、家主はそれすらも許さなかった
オレンジジュースの点滴をちぇんに施し、死ぬ自由すらも奪った

死ぬ事も狂う事も許されず、ぐったりとうな垂れるちぇんの脇腹に
男がわざわざ傷跡を残す為に熱したドライバーを根元まで一気に突き刺した
再び声にならない悲鳴をあげるちぇん、家主はそんなちぇんの様子に満足げに微笑みながら
何度も何度も脇腹を熱で赤く変色したドライバーで抉る

何度も、何度も、何度モ、何度モ、ナンドモ、ナンドモ、ナンどモ、なンどモ・・・





深夜2時、うなされ泣き叫ぶちぇんを慌てて起こし優しく抱きしめる
必死に何かから逃れようと無我夢中で暴れるちぇん
だが、その姿は余りにも弱弱しかった
俺は、そんなちぇんに、大丈夫、大丈夫、とずっと囁きかけ続けた


このちぇんをこんなにしてしまったのは、俺の兄貴だ

兄貴は小さい頃から、アリの巣に水を流し込んだり、虫の足をもいで遊ぶと言った様な惨酷な奇癖があった
そしてそれは歳を経ると共に次第にエスカレートしていった
最初は虫、次は小動物・・・
家の裏手の土蔵を改造し、そこに頻繁に長時間引き篭もり、その中で動物虐待をしているらしい

俺達家族、父さんと母さんもその事で悩んでいた

だが、何も出来なかった、いや、しなかった
家族を裏切るような真似は出来ない、いや、ただ面倒ごとを避けたかっただけだ
毎晩の様に土蔵から聞こえる動物の悲鳴を、聞かなかった事にして、臭い物に蓋をした


その結果・・・兄貴にちぇんをここまで壊させてしまった


俺はその日、なんとか兄貴にそんな事は辞めてくれと頼みに行くつもりで
兄貴が良く引き篭もっていた家の裏手の土蔵へと向かった

珍しくドアが開いていた

そして、薄暗い土蔵の中へ、床下から洩れてくる声を目印に

階段を降り、目の前にある大きな扉を開け

そこで、俺は見てしまった


夥しい動物やゆっくりの死体の中で、兄貴が笑いながらぐったりとしたちぇんの腕をのこぎりで切り落としてる所を


俺は兄貴を突き飛ばすと、ちぇんを抱えて土蔵を出て
そのまま警察に通報した

兄はその後すぐに逮捕された
土蔵の中から、周囲の家で失踪届けが出ているペットや飼いゆっくりの死骸も大量に見つかったらしい

そして、結果家族を売る事になった俺は、このちぇんを連れて家を出て
今の家に移り住んだ

最初は、罪滅ぼしの気持ちと同情だった
兄貴がしでかした事への罪悪感
その兄貴を放置した事への罪悪感
あまりに惨いちぇんへの同情


でも、今は違う、ちぇんと一緒に過ごす内に、なつかないこのちぇんと過ごす内に
俺は、このちぇんを家族だと思うようになった
同情だけでも罪悪感だけでもない、家族であるこのちぇんに、幸せになって欲しいと思うようになった


俺の前では絶対に遊ばない癖に、俺がいない所で俺が使ったねこじゃらしをしきりに弄っていたちぇん

一緒に食事は出来ないが、声をかけると少し嬉しそうに尻尾を動かすちぇん

お礼のつもりなのか、寝てる間に俺の枕元に捕まえた赤ゆの死骸を置いておいてくれたちぇん

そして今、俺の腕の中で再び安らかな寝息をたて始めたちぇん


俺はちぇんの家族だから、ちぇんには無邪気に遊んで欲しい、遊べるようになって欲しい

俺はちぇんの家族だから、ちぇんと一緒に食事がしたい
俺が失ってしまった家族の団らんを、思い切り楽しんで欲しい

俺はちぇんの家族だから、ちぇんが今まで失った物を取り戻してやりたい
全部は無理でも、俺に与えられる物は全て与えたい

俺はちぇんの家族だから、もう泣かないで欲しい、苦しまないで欲しい
もっともっと、世界中の誰よりも幸せになって欲しい

頬を伝う涙を拭う事もせず、俺はすやすやと眠るちぇんにこう囁いた



「ちぇん、これからずっと、俺がお前を守ってやるからな」




ちぇんは、みみさんがかたほうないんだ
ちぇんは、めさんもかたほうないんだ
ちぇんは、からだじゅうきずだらけなんだ

そして、いま、かたほうのうでもとれちゃうんだよ

どうしてこんなことをするのか、わからないよ
にんげんさん、どうしてちぇんにいじわるするの?
ちぇんがわるいこだから?
ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい


あ、ぽとり、うでがとれちゃった


ああ、ぜんぶたりなくなっちゃった、きっともうずっとこのままなんだ
だんだんまわりがまっくらになってきた

さむい、なんだかさむい、さむいよ、わからないよ



あれ・・・?すごくさむかったのが、なんだかきゅうにあたたかくなった

めをがんばってあけると
いつもちぇんをいじめてたにんげんさんとは、ちがうにんげんさんがちぇんをぎゅっとしてないてて


ああ・・・おにいさんのなみだが、とってもあたたかかったんだね、わかるよー




ちぇんが寝ている横で書類整理を始める
どれだけ使命感に燃えようが、家族を守ると誓おうが、やっぱり働かざる者食うべからずな訳で
持ち帰り仕事はしないなどと甘えた事も言っていられず、夜遅くまでこんな事をする羽目になっているのである
さっきまで上げていたテンションの所為か、単調な仕事により虚無感が付き纏いなんとも


!?


その時、背中に突然柔らかく暖かい感触を感じた、恐る恐る肩越しに覗いて見ると
ちぇんが俺の背中に背中をくっつけるように座っていた

思わず飛び上がりそうな程嬉しかったが、グっとこらえる
ちぇんの性格を考えると、ここで俺が大喜びしよう物なら十中八九、驚いて逃げてしまうだろう


「・・・おにいさん」


ちぇんの方から話しかけてきたのははたして何ヶ月ぶりだろうか?


「おにいさんは・・・あったかいんだね、わかるよ」


俺は喜びをグっと噛み締めながら、書類整理を続けた
この幸せな時間を迂闊な事をして壊したくなかったから
ちぇんも、無言で俺に背中を預け続けた


それから、俺が仕事に行くまでの時間、俺達はそのままだった
俺が立ち上がろうとした瞬間に、ちぇんは驚いて逃げた、案の定だ

少しずつでも良い、亀の歩みでも良い、ゆっくり二人で歩いていこう
とりあえずは


俺はドアの隙間から少しだけ顔を出してこちらを伺う、ちぇんの無言の激励を背中に受け、勇ましく仕事場へと向かうのだった
最終更新:2010年10月10日 15:22
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