鉄籠
狩りの途中、れいむは道ばたに不思議なものがあるのを発見した。
それはちょうど成体ゆっくりがスッポリと収まる大きさの籠(かご)であった。
小動物を飼育するためのゲージのように見えるが、一般的なゲージとは違って
あみ目を作る鉄の棒一本一本が太く、あみ目自体は非常に粗い。
小さな動物、例えばネズミくらいの大きさならば
そのスキマから籠を出入りすることができそうである。
明らかに自然のものではなく、人間が意図的にそこに置いたのだと考えられるが、
その用途や目的は一切不明である。
れいむは恐る恐る近づき、鉄籠の中を見てみる。
すると、中にはもっちりとした黒い塊があった。餡子(あんこ)である。
ほのかに香る甘そうな匂いから、その塊がゆっくりできるものだとれいむは判断した。
「ゆゆっ、こんなところにあまあまさんがあるよ。ゆっくり、れいむにたべられてね!!!」
れいむはゆっくりと近づく。だが、鉄の枠にぶつかって跳ね返されてしまった。
もう一度近づくが、やはり枠に邪魔されて中に入ることができない。
「どぼぢでなかにはいれないのぉお゛お゛!!せっかくおいしそうなあまあまさんをみつけたのにぃ゛い゛!!!!」
いきおいよく鉄籠に体当たりしたり、舌をのばしたりしても、中のものを食べる事ができない。
らちがあかないので冷静に籠の様子を観察していると、あるものを発見した。
黒い餡子の周りを、さらに黒い物体がうごめいている。蟻(あり)だ。
黒い蟻は、きれいに列を作って籠の中を出入りしている。
その小さな足を器用に使い、餡子を巣へ持ち運んでいた。
(れいむがあれだけ努力しても食べることができなかったあまあまさんを、
小さな蟻さんは何の苦労も無く運んでいる!!!!)
ふと、れいむの心に怒りの感情がこみ上げてきた。
「どぼぢでありさんが、れいむのあまあまさんをもっていくのぉお゛お゛。ゆっくりできないありさんは
ゆっくりしんでいってね!!!」
じっと蟻の動きを観察していたれいむが突如動き出し、
蟻の群れに向かってぴょんぴょんと飛び始めた。
そして、何の悪意も持たない小さな蟻を、淡々と潰していく。
はたから見ればただのやつあたりなのだが、列を作っていた蟻は餡子を捨てて必死にその場から逃げていく。
しばらく蟻を潰すことに夢中になっていたれいむだが、十分に満足したのか、
ゆぅ、ゆぅ、と息をつき、その場に座り込んだ。
そして、ゆっ、とあることを思いついた。
(小さいありさんはかべさんを通って中に入れる、
でも大きいれいむはかべさんを通ることができないよ。
このかべさんは小さいものなら、邪魔をせずに通してくれるよ。
だから、れいむのこどもたちならかべさんを通って中に入ることができるよ)
れいむは急いで家に帰ることにした。早くしないと、
せっかく見つけた食料を他の生き物に食べられてしまうことになる。
食い意地はゆっくり一倍強いようだ。
ゆっくりしなかったおかげで、予定よりも早くお家に帰ることができた。
れいむのお家は、小高い丘の斜面に掘られた穴の中にあった。
中にはれいむ以外に子れいむ3匹、子まりさ2匹、合計5匹の子ゆっくりと、
つがいのまりさが住んでいた。
カップルとしては特に珍しくない組み合わせなのだが、
この組み合わせならば、まりさが狩りに出て、
れいむが巣の中で子育てをする、というのが一般的である。
このカップルがそうしないのは、巣に居るまりさの方がにんしんっしているからである。
普段はまりさが狩りに出ているのだが、
まりさがにんしんっしてるあいだは、れいむが仕方なく狩りに出かけていた。
「ゆっくりせずについてきてね!!!」
おおまかな事情を話した母れいむは、子ゆっくり5匹を連れて現場へと向かった。
残されたまりさは野生の勘からか、ゆっくりできそうにない予感を抱いていたが、
せっかくれいむが見つけてきた絶好のチャンスをむげにする訳にもいかず、
巣の中かられいむたちを笑顔で見送った。
母れいむが餡子を見つけたのが朝であったため、
れいむたちはまだ明るい昼のうちに、籠のある場所にたどりつくことができた。
籠の前まで来たとき、中にはまだ黒い塊がたっぷりと残っていた。
「ゆっ、おチビちゃんたちよくきいてね。あのかごさんのなかにあまあまさんがあるから、
それをおくちにふくんでもってきてね。とちゅうであまあまさんをむしゃむしゃしたらだめだよ!!
ゆっくりりかいした?」
「「「ゆっ、ゆっくちりかいしちゃよ。」」」
子供たちは一斉に返事をした。
子供たちはまだ滑舌が悪く、知らないこともいっぱいあった。
自分よりも大きな籠におびえたり、
籠の中を行き来する蟻に見とれて、籠とは反対の方向に続く蟻の列についていったり、
のそのそと動くカタツムリをじっと見つめたりしていたが、
母れいむがはっぱをかけることでようやく、5匹の子ゆっくり全員が籠の中に入っていった。
あとは、籠の中にある食べ物を口にくわえて出てくるだけである。
子ゆっくりたちは黒い塊の周りにわらわらと集まり、各々がそれを口に含んだ。
そこまでは母れいむの思い描いていた通りの流れである。
ところが、
「ゆっ、このあまあましゃんおいちぃ!!ゆっきゅしたべしゃせてにぇ!!!」
母れいむが注意したにも関わらず、子ゆっくりたちは籠の中で餡子を食べ始めていた。
それは普通に考えれば当たり前である。
野生のものしか食べたことのない子ゆっくりが、
今まで食べたことも無いような、とても甘い食べ物を口に含み、
それを食べずに我慢して外に運び出すことなど、まず不可能と言ってもいいだろう。
空腹もあってか、子ゆっくりたちの食事は止まらない。
「むっしゃむっしゃ、ちぃ、ちあわちぇ~~~」
「ゆぅーーーーっ、なんでおチビちゃんたちでてこないのぉ!!あまあまさんをもってくるやくそくでしょ!!!」
母れいむの必死な言葉など、どこふく風。子ゆっくりたちはみな、ちあわちぇーの声をあげていた。
力づくで子供たちを外に出したい母れいむだが、鉄の籠が邪魔をしてそれも叶わない。
ただ、子ゆっくりたちが餡子を食べるのを見て、ひたすら叫ぶことしかできなかった。
しばらくして、ようやく子ゆっくりたちの暴食は止まった。
餡子を食べ続けた子ゆっくりたちは、もともとの楕円形から、
お腹だけがポコッと大きく膨れあがったブサイクなひょうたん型に変形していた。
お腹だけでも、ゆうに子ゆっくり3匹分もの大きさがある。
子ゆっくりたちは、いっぱい歩いていっぱい食べたので
今度は眠たくなり、目をうつろにし始めた。
「ゆぅ、なんだかとてもねむちゃくなってきちゃよ。ゆっきゅりして・・ゆう・ゆう・・・・」
「おチビちゃんたち、そこでゆっくりしちゃだめだよ!!ゆっくりしないであまあまさんをもってきてね!!!」
母れいむの声を聞いた子ゆっくりたちであったが、眠気には勝てず、そこでゆっくりと眠り始めた。
母れいむは子供達を起こそうと籠に体当たりを始めたが、ただ自分の顔が痛くなるだけであった。
「どぼぢでこうなるの!!!れいむはあまあまさんをもってかえって、みんなにたべさせてあげたかっただけなのに!!」
子ゆっくりたちのお腹を満たすことで、れいむの目的の一部は達成された。
だが、巣に持ち帰るという肝心な目的がまだ達成されていない。
そしてなによりも、最初に餡子を発見した自分が、まだ餡子を一口も食べていないのだ。
朝から長い距離を歩き、飛びはね、叫び続けたので、れいむのお腹はペコペコだった。
いくら呼びかけても子ゆっくりたちは目を覚まさないので、
母れいむは仕方なく、何か食べる物を探しにその場を離れた。
それからしばらくすると、子ゆっくりたちが目を覚まし始めた。
日はだいぶ傾き、青い空に黄色が混ざり始めている。
目を覚ました子ゆっくりがあたりを見回すと、
母れいむがおらず、しかも変な枠に取り囲まれているので、
ジワジワとゆっくりできなくなっていた。
「ゆうん、おかあしゃんはどきょ?なんだかここはゆっくちできにゃいよ!」
「ゆっ、なんだかポンポンがムズムズすりゅ。うんうんがしたくなってきたよ。」
あれだけの餡子を体に取り入れたのだ、出す方も必然的に多くなる。
一匹の子れいむがその場所でうんうんを始めたのをきっかけに、
ほかの子ゆっくりたちもうんうんを始めた。少しすると、
「ゆっ、なんだきゃくちゃいよ。ここはぜんぜんゆっくちできないところだよ。」
たまらず籠の外へ出ようとする子ゆっくりたち、ところが・・・・
グイッ。
餡子を食べ過ぎたせいでお腹が鉄籠の枠にひっかかり、外に出ることができなくなっていた。
ギュッギュッと体を外に出そうとするも、顔から下が思うように外に出てこない。
そして、腹部を外に出そうとすればするほどお腹が圧迫されて、苦しくなってしまう。
子ゆっくりたちは訳が分からなかった。
さっきは枠のスキマを通って中に入れたのに、そこが通れなくなっている。
外に出ようとするとお腹が苦しいので、籠の中へ戻ることで、苦しみからいったん逃れる。しかし、
「う゛わ~ん゛、うんうんのせいでゆっくちできにゃいよ~!!おしょとにもでりゃれないよ~~!!」
「くちゃいよ~!!」
「ポンポンがくるちいよ~」
「おきゃあしゃんはどこ?ゆっくちさせてよ~~~!!!」
いろいろなことが重なり、不安からしーしーをもらす子ゆっくりたち、
だがそのしーしーのせいでゆっくりできなくなり、籠の中で暴れ始める。
暴れると排泄物が散らかり、姉妹同士がぶつかりあう。痛いし臭いのでまた暴れる。
負の無限ループにおちいった子ゆっくりたちはパニックをおこし、
しばらく籠の中でもがき苦しんでいた。
なんとかゆっくりしたい子ゆっくりたち、
そこへ、食事を終えた母れいむが戻って来た。
「ゆっ!?おきゃあしゃ~~~ん!!!」
「ゆっ、おチビちゃんたちどうしたの?とりあえずゆっくりそこからでてきてね!!!」
「ゆう、ここからでられにゃくにゃったの!!おきゃーしゃんたすけちぇ!!」
「ゆっ?おチビちゃんたち、そのスキマからなかにはいったんだから、そのスキマからゆっくりでてきてね!!!」
「でもなじぇかでりゃれにゃいの!!」
「なんとかしちぇ、おきゃーしゃん!!!」
母れいむにとっても、その現象は謎であった。
そのスキマから籠の中へ入れたんだから、同じくそのスキマを通れば外に出られるはず。
でも、確かに外に出ようとする子ゆっくりの体は枠にひっかかり、いくらもがいても外に出られない。
無理に引っ張ろうとすると子ゆっくりは非常に痛がるので、仕方なく中へ押し戻す。
訳のわからない状況に母れいむもパニックになりかけた。
が、土壇場で妙案を思いついた。そしてすぐさま実行に移った。
「おきゃーしゃん、なにをしちぇるの?」
「ゆう、おきゃーしゃんはじめんにあなさんをほってるよ。あなさんをほればみんなおそとにでられるよ。
おチビちゃんたちみんなであなさんをほってね!!」
「ゆっ、たすきゃるの?ゆっくちりかいしたよ。みんなであなしゃんをほろうにぇ。」
地面に穴を掘っていけば、籠の下をくぐることができる、れいむはそう考えたようだ。
母れいむの鶴の一声でみんな必死に穴を掘り始めた。
さきほどまでのゆっくり出来ない状況はもう頭の中に無く、
ただ、穴を掘れば助かるんだという安堵感がゆっくりたちの頭のなかを独占していた。
ところが・・・・
ゆっくりたちがいくら穴を掘っても、籠の下をくぐり抜けることはできなかった。
それもそのはず、この鉄籠はもともと縦長の長方体で、全体の75%が地面の中に埋まっているのである。
どうりで、母れいむが体当たりしてもびくともしない訳である。
だが、そのような事情はゆっくりたちには分からない。
「ゆうう、おきゃーしゃん、はやくここかられいみゅたちをだちてね!!!」
「どおじで、かべさんがじめんからでてくるの!!じゃまなかべさんははやくなくなってね!!!」
掘れども掘れども、ひょうたん形の子ゆっくりが通れそうなスキマは出てこない。
そしてとうとう、太陽が山の後ろに隠れ始めた。
あたりは急に暗くなり、どこか遠くでれみりゃの叫び声が聞こえた。
夜は捕食種がゆうゆうと空を飛び回るため、多くのゆっくりたちにとっては魔の時間帯。
夜、隠れる場所が無いところで捕食種に見つかることは、ゆっくりたちにとって「死」を意味する。
子ゆっくりたちは捕食種であるれみりゃの怖さをまだ知らないが、
母れいむは子ゆっくりだったころ、巣を出てすぐの場所でれみりゃに遭遇し、
姉妹が目の前でれみりゃに食べられるのを見ている。
そのときは巣に近かったので、巣の中に隠れてやり過ごすことができた。
だが、今回は状況が違う。
(とにかく急いで子供たちをここから出さないと、いずれ、れみりゃに見つかってしまう!!
でも、どうしても子供たちを外に出すことができない。できないけど、
出さないと子ゆっくりたちは確実に殺されてしまう。どうすれば・・・・)
「はやくここからだしちぇ、おきゃーしゃん。れいみゅはここじゃゆっくちできにゃいよ!!」
「ごめんねおチビちゃんたち!!ごめんね!!ごべんね゛!!!!」
れいむはただ謝ることしかできなかった。
自分が子供たちを巣から連れてきたせいで、こんなことになってしまった。
自分はこのまま巣に帰れば助かるが、放っておくと子供たちは捕食種に狙われて確実に死ぬ。
しかし助けようにも助ける方法が全く無い。
子ゆっくりたちの行く末を嘆き、ただひたすら謝った。
だが、ここで母れいむにとって一つ誤算があった。実は、この鉄籠の中は意外と安全なのである。
子ゆっくりよりも大きなれみりゃは中に入ることができず、仮に外から体当たりをかましたとしても、
とてもこの籠を壊すことはできない。
だから、自分の命だけを案じていったん家に帰り、翌日に子ゆっくりたちの様子を見に来ても良かったのである。
自分がゆっくりすることしか考えないゆっくりだが、しかしここは母性が勝ってしまったようだ。
子ゆっくりたちはというと、ゆっくりできないこの状況からとにかく逃げ出したい、という一心で
暴れ泣きわめき、鉄枠に体当たりし、穴を掘っていた。
一匹の子れいむはゆっくりできないストレスから餡子を吐いていた。
そんな子供の様子を見て涙を流す母れいむ。
もうダメだと絶望し、謝罪をひたすら繰り返していた。
「・・・ごめんね、おチビちゃん、ごめんね、まりさ、ごめんね、れいむのせいで、ごめんね、ごめんね・・」
追い詰められた生き物の行動は時々、滑稽に見える。
川に落ち、存在しない足場を求めて泳ぎ続けるドブねずみ、
蜘蛛の巣にひっかかって羽をばたつかせるトンボ、
足を持たれて逆さにされ、首をちょん切られまいと必死に抵抗するニワトリ、
まるで、死神がその体を操っているかのようで・・・・
それを見ると悲しいような、いじらしいような、やるせないような感覚になる。
いっそのこと、何もしないで素直に死んでしまえば、見る側としては気が楽だ。
でも、追い詰められた時の行動は、その生き物にとって非常に合理的なのである。
どんなに不恰好で滑稽に見えても、そうすることで生き残る可能性が少しでも出てくるのである。
ここにいるゆっくりたちも、ゆっくりしたいという本能から、無駄とも思える行動をひたすら繰り返す。
それは、もしかすると最後には実を結ぶ結果となるかもしれないのだ。
ふと母れいむの謝罪が止まった。母れいむの視線の先には、
餡子を吐いて、ひとまわり小さくなった子れいむがいた。
そして、今日一日体験したシーンが走馬灯のように母れいむの頭の中でよみがえっていく。
もともとゆっくりはあまり頭が良くなく、物覚えが悪い。
だが、極限の状況を体験することで中の餡子の流れが良くなったのだろう、
れいむは頭の中で流れるシーンの中から、子供たちを助けられる可能性を見つけた。
”体が小さければスキマをすり抜けることができる” その現象を思い出したのだ。
「おチビちゃんたち、ゆっくりきいてね。そこからおそとにでられるほうほうがわかったよ!!!
たいようさんがでるまでそこでじっとしててね。そして、いっぱいうんうんをしてね。そうすれば
小さくなってそこからでられるようになるよ。」
「ゆっ、どういうことおきゃーしゃん?」
「れいみゅたち、ゆっくちできにゃいうんうんなんてしちゃくにゃいよ?」
「とにかくそこからでようとしないで、いっぱいうんうんしてね!!」
子ゆっくりたちには、それがどういうことなのか理解できなかった。
(外に出たいのに、出ようとしてはいけない?
うんうんはゆっくりできないのに、うんうんをいっぱいしないといけない?なんで??)
それでも、信頼できる母親の言ったことだ。
とにかく言われたことを覚えようと、一生懸命に頭を回転させる。
母れいむは、これで子ゆっくりたちが助かる、と確信していた。
安心から顔がにやけ、全身の力が抜け始めていた。
しかし、ゆっくりし始めたのも束の間、死の宣告のような言葉を聞くことになる。
「ゆう、いっぱいかんがえちゃらおにゃかがしゅいてきちゃよ。
ゆっ、こんなときょろにあまあましゃんがありゅよ!!いだだゃきま~しゅ、むちゃむちゃ。」
一瞬、何が起きたのかれいむは分からなかった。子ゆっくりを外に出す方法が見つかり、
100%助けられると認識していた状況が一転、どうにもならない状況に変わろうとしていた。
「どぼぢであまあまさんをたべぢゃうの゛ぉぉ!!たべたら、からださんがおおきくな゛るでしょぉ!!!」
「ゆっ、でもうんうんをいっぱいしたらたすきゃるって、しゃっきおきゃーしゃんいっちゃでしょ!!」
「しょうだよぅ、いっちゃよ!!」
「いっちゃ!!」
「おきゃーしゃんはれいみゅたちのゆっくちをじゃましにゃいでね!!」
「ゆぅ、れいみゅおきょるよ、プクゥーー!!」
れいむの説明には
”あまあまさんを食べてはいけない”
という内容が含まれていなかった。とにかく体を小さくしようという意図から
”これ以上、物を食べてはいけないのは当然”
という考えが共通認識だと母れいむは思っていたようだ。だが、子ゆっくりたちは
”ただ、たくさんうんうんをすれば良い”
としか、とらえていなかったようだ。つまり、いっぱいうんうんをするために
いっぱい餡子を食べれば良いという考えが、子ゆっくりたちにとっての共通認識だったようだ。
たとえ、分かりやすく説明していたとしても、未熟な子ゆっくりたちがそれを遵守できる、とは思えないが。
母れいむは物を食べないよう、子供たちに説得を続けていたが、ふと自分の頭に何かが触れた気がした。
そして、頭の後ろからじわじわと痛みがわいてきた。
「ゆ゛ゆ゛!!!!!」
痛みから母れいむは声をあげたが、まだ痛みの原因が分からない。
少し考えていたが次の瞬間、視野の左半分が消えていた。それと共に原因不明の激痛に襲われた。
訳が分からず、パッっと左を向くと、そこにはギロリと光る目が二つあった。
その物体は何かを食べていたが、噛み切れないれいむのおリボンをペッと吐き出した
しばらくして、れいむはやっと、れみりゃが自分の左半分を食べているのだと分かった。
「ゆ゛ゆ゛ゆ゛ゆ゛ゆ゛」
しかし、痛みの原因が分かったころには、れいむの体の感覚は麻痺し、全身が痙攣を始めていた。
「う~~~☆、このゆっくりはとってもあっまあっまだどぉ~~ぅ」
「ゆわ、おきゃーしゃーん!!!!!!!」
「ゆぅーーーーーーーん゛」
れみりゃがれいむの左半分を食べ終える頃に、さらに別のれみりゃが飛んできた。
そして、れみりゃ2匹であっという間に、残るれいむの右半分を食べてしまった。
「うー、おいしかったどぉー」
「まだちいさいあまあまがあるんだどぉー、ゆっくりたべられるんだどぉー」
「ゆぎゃ~~~~~!!!」
「おぎゃーじゃーん!!!!!!」
「ゆ゛っくぢできに゛ゃいよ゛ーーーー!!」
泣き叫ぶ小ゆっくりたち、
一方で2匹のれみりゃはまだ食べ足りないらしく、小ゆっくりを狙って突撃する。
が、鉄の籠に行く手をはばまれ、はじき返される。
れみりゃ達は自分の身に何が起こったのか理解できていないらしく、
繰り返し鉄の籠に突っ込んでいく。
母親がいなくなり、れみりゃの狙いが自分達に変わったことで、子ゆっくりたちは再びパニックになっていた。
子ゆっくり全員が泣き叫びながらしーしーをもらし、
子れいむはぷくーっと頬を膨らませ、
一匹の子まりさはそこから逃げようと、鉄枠のスキマに頭を突っ込んでいた。
鉄枠にはさまった子まりさの姿がれみりゃの目にとまり、
外に出ていた子まりさの顔の部分をひと噛み、そして引きちぎる。
大きく膨れた子まりさの腹の部分だけが、ボトリと籠の中に落ちた。
姉妹を一匹失ったことで、子ゆっくりたちはさらにパニックになった。
「ゆ゛ぎゃーーーーー!!も゛う、おうぢにぎゃえりちゃいよ゛~~~~!!!」
「ゆ゛ぅ、ゆ゛っぐぢしちゃいよ゛~~~~!!」
外かられみりゃが籠に体当たりをかまし、パニックになった子まりさも内側から籠に体当たりする。
体当たりの衝撃で子まりさが外へ餡子を吐き、吐いた餡子を外のれみりゃがおいしそうに食べる。
しまいには、母れいむの言いつけを妙なタイミングで思い出した子れいむが、外に向かってうんうんをし始める。
そのうんうんも外にいるれみりゃが食べる、という奇妙な光景が繰り広げられていた。
だが鉄籠はとても頑丈で、籠の中にいればれみりゃに食べられることはなかった。
翌朝、4匹の子ゆっくりたちはまだ生きていた。
だが、みんな暴れたせいで皮の一部が破れ、少量の餡子が中からはみ出してきている。
昨夜、一睡もせずにれみりゃに狙われ続け、母親と姉妹を失った絶望と悲しみから、
みな元気なく ゆ゛っ、ゆ゛っと声を発し続けているだけである。
だが、そんな子ゆっくりたちにさらなる絶望が待ち受けていた。
朝になってから無性に体がチクチクするなぁと皆が感じ始めていたのだが、
その原因となるものが、昨日食べ残された子まりさの腹部に集まってきている。
蟻だ。
昨日はゆっくりたちは蟻に襲われなかった。
今日は表面の皮が破れ、体からおいしそうな餡子を出している。
食べられるものであれば、例えそれが動くものだとしても、蟻にとっては恰好の餌となる。
亡骸となった子まりさの餡子は、じわじわと時間をかけて運ばれていたが、
生きている子ゆっくりも蟻の標的となっていた。
半日経って、子ゆっくりたちはやっと、自分たちが蟻に食べられていることに気がついた。
「ゆ゛っ!!!!ありしゃん、れいみゅのあんこをたべにゃいでね!!!!」
「ゆっくちできにゃいありしゃんは、ゆっくちしんでいっちぇね!!!」
まだ少し元気の残っている子ゆっくりはぴょんぴょんとはねて、自分達にたかっている蟻を潰し始めた。
蟻は悲鳴をあげることなく潰れていく。
しかし、ぴょんぴょんとはねることで子ゆっくりの中から餡子が噴出し、
さらに多くの蟻を寄せ付ける結果となった。
それでも、籠の中には子ゆっくりの餌となる餡子がまだ豊富に残っているので、
お腹が空いたら随時、餡子を補充していた。
再び夜になり、蟻は去っていったが、代わりにれみりゃ達が鉄籠の周りを取り囲む。
しかし、睡眠不足と疲労のせいか、4匹の子ゆっくりたちはみんな籠の中で死んだように眠っていた。
これでは手が出せない、と集まったれみりゃ達は、早々にその場を飛び去っていった。
そのようなことが三日間続いた。
籠の中の食料となる餡子はだいぶ減っていた。
子ゆっくりたちのお帽子やおリボンも、いつの間にか蟻が持ち去っていた。
4匹の子ゆっくりたちはまだ生きていたが、動く気力もしゃべる気力も無い様子で、
籠の外をじっと見つめていた。しかし、子ゆっくりたちのお腹はまだ膨れたままだ。
そしてその日、とうとう雨が降り始めた。鉄籠はれみりゃ達を退けることができたが、
小さな雨粒は遮断することができない。
雨は籠の中にいる子ゆっくりたちに容赦なくあびせられ、
子ゆっくりの表面を覆っていた皮はじわじわとふやけていった。
最後の気力をふりしぼって、子まりさが籠の外に逃げ出そうとする。
雨が降る前はゆっくりの皮にも弾力があり、餡子がつっかえて外に出ることが出来なかった。
だが、その時はスッと、スキマを通り抜けることができた。
これで巣に帰ることが出来る!!と感激した子まりさ、
だが突然、子まりさの体が軽くなり、それと同時に足の感覚がなくなり、前に進めなくなってしまった。
後ろを振り返ると、自分の腹部がちぎれて、籠の中に残っているのを見かけた。
ちぎれた部位から大量の餡子が漏れ出し、子まりさの意識が遠くなる。
そして子まりさは、とうとう動かなくなってしまった。
子れいむたちはその様子を見ていたが、自分たちの皮も溶け始めているので、
子まりさの容態を案じるどころではなかった。
そして、極限まで追い詰められた子れいむたちも
最後の力をふりしぼって
いっぱいうんうんをした。
そして、絶対に外に出ようとしなかった。
外に出るために
雨がやんだ翌日、乾燥した餡子が籠の中に敷き詰められていた。
ふと、一匹のゆっくりれいむがそこを通りがかり、
足を止めて中の様子を観察していた。
しばらくすると、嬉しそうな表情をしてその場を足早に去っていった。
その後、そのゆっくりれいむが、子ゆっくりを連れて戻ってきたことは言うまでも無い。
ゆっくりは同種の餡子を食べ続け、
蟻は潰されるにも関わらず餡子を運び続け、
鉄籠はわずかにサビをつけてその場にあり続けた。
その三者は、はたから見ていると非常に滑稽であった
最終更新:2010年10月10日 15:23