anko2120 線香台

お盆にお墓参りをした。
普段お墓に参ることができないので、この日は特別。
色鮮やかな花やお菓子を持っていき、お墓をにぎやかに飾る。
お墓の前で故人を偲び、懐かしい思い出をめぐらせる。
そしていつまでも安らかに眠って欲しいと、手を合わせて念仏を唱える。

ところが早朝お墓に行ってみると、いつもとは様子が違った。
入り口に置いてあるバケツやひしゃくが散乱している。
マナーの悪い人がいるなぁと思うが、それだけに留まらない。
あちこちお墓の土がえぐれ、チョコレートのようなものがまかれていて、線香台や塔婆が倒れている。
誰かの悪戯か?
他家のお墓とはいえ見て見ぬふりはできないので、簡単なところは元に戻す。
あとでお寺の住職に話しておこうと思い、確信犯的な被害はそのままにしておく。

まだ犯人がどこかにいないかと辺りを見てみたが、人の姿は無い。
姿が見えない代わりに、わずかに誰かの話し声が墓場の奥のほうから聞こえてくる。
墓石の裏にでも犯人は隠れているのだろうか?
これだけのことをする犯人だ、金属バットのようなものを携帯していてもおかしくない。
不意打ちを警戒し、声のするほうへ恐る恐る近づいてみる。

すると、自分の家の墓前に丸い物体が2つ動いているのが見えた。
さらに近づくと、より小さな丸い物体がその傍に7つ動いていた。
もう少し近づいたところで、その正体がゆっくりだと分かった。

このゆっくりたちはお墓参りをしているのではない。お墓に置いてある物を荒らしているのだ。
そして今ちょうど、自分の家のお墓が荒らされている最中だった。
先に誰かがお参りしてくれたのであろう、花やしきみは綺麗なままだ。
だが、供えていたお菓子が食べられている。
お墓の土が掘りかえされている。
小さな黒い餡子の粒がそこらじゅうに散らかっている。
そして、線香台が割れている。

お菓子を食べ続けるゆっくりたちに近づく。
ゆっくりたちはようやく、こちらの姿を確認したようだ。


「ゆっ!!!にんげんさんはゆっくりできるひと?」
「まりさたちのゆっくりをじゃましちゃだめなんだぜ!!!」
「「「ゆっくちしていっちぇね!!!」」」

「・・・・・・」

「ゆ?おチビちゃんたちがあいさつしてるのにへんじをしないなんて、なまいきなにんげんさんだね!!
 あいさつのできないにんげんさんはゆっくりしないでね!!!」

「ゆう!れいみゅのおげんきなあいさちゅがききょえなきゃったの?」
「あまあましゃんをおいていっちぇね!!!」
「きょきょはれいみゅたちのゆっくちプレイスだよ!!!にんげんしゃんはどこきゃいっちぇにぇ!!!」


返事はしない。そのかわり一匹の子ゆっくりを持ち上げる。


「ゆう!!まりちゃおしょらをとんでるみちゃい!!!」

「ゆ!おチビちゃんをはなしてね!!にんげんさんはとっととどこかにきえてね!!!」


その子ゆっくりを持ってお寺のほうに向かう。


「ゆ!にんげんさん、どこかにいかないでね!!おチビちゃんをとっととかえしていってね!!!」


親れいむと親まりさが後をついてくる。
それを振り切るように早足でお寺へ歩いていく。

お寺に辿りつくと、境内の掃除をしている住職に会った。
事情を説明して子ゆっくりを見せると、申し訳なさそうな顔をする。


「これは申し訳ないことをしてしもうた。お盆の間はいつでもお墓参りができるようにと、
 墓場の入り口を開けたままにしておったのだが、その隙に入られてしもうたようだ。
 お墓を綺麗にするんで、その間お寺のほうでゆっくりとしていてくだされ。」

「いえいえ、私もぜひお手伝いさせてください。」

「これはかたじけない。」

「ゆっくちしちぇいっちぇにぇ!!!」

「・・・・・・」


後から続々とお参りに訪れた人が姿を表す。
そして、みんなで協力して墓場を綺麗にすることになった。
当のゆっくりたちは、再び悪さをしないよう小さな小屋に閉じ込められた。
お盆ということもあり、たくさんの人が集まってくれたおかげで、
30分ほどすると墓場は綺麗になった。


「わざわざお墓参りに来てもろうたのに、墓地の清掃を手伝わせてしもうて申し訳ない。
 お寺のほうに冷たい飲み物を用意させておるんで、そちらでゆっくりとしていってくだされ。」

「「「ゆっくりしていってね!!!」」」


清掃を手伝ってくれた人が返事をする前に、小屋のほうで返事が聞こえた。


「今回の騒動は人間の悪戯ではなく、今ちょうど小屋に閉じ込めておる、ゆっくりという生き物の仕業のようじゃ。
 そちらのお話は、お寺の中でゆっくりとお聞かせしましょう。」

「「「ゆっくりしていってね!!!」」」


住職の言葉に反応して、ゆっくりたちが返事をする。

お寺で少しゆっくりした後、みんな改めてお墓参りをしてそのまま帰っていく。
帰っていくみんながみんな、穏やかな顔つきをしている。ゆっくりたちを恨むような表情はしていない。


「ゆっくりたちも生きておるのだ。
 生きている以上、必死に食べ物を探し、必死に住みかを作る。
 この程度で腹を立てていては、ご先祖様に申し訳が立たない。
 お墓を荒らされたことに関しては、ご先祖様には申し訳ないが、
 ちゃんと元に戻すことで、ご先祖様も許してくださることだろう。」


そう住職が諭したのだ。

最終的に、お堂の中に住職と私だけが残る。


「しかし今回、ゆっくりたちは少々おいたが過ぎたようですな。」

「ええ、そのようですね。」


雑談をしていると、住職の奥さんであろう方が風呂敷を持ってくる。


「ああ、持って来てくれたか。割れたあなた様の線香台ですが、私のほうで弁償させていただきたい。」

「いえいえ、そこまでしていただいては・・・」

「これは私の気持ちです。ぜひ、受け取っていただきたい。」

「わかりました。ありがたく頂戴いたします。」


風呂敷を開けてみる。中には、白く輝く綺麗な線香台が入っていた。


「また、これはこれはご立派な線香台を。
 末代まで丁寧に使わせていただきます。」


専用の砂までついている。後で早速、お墓のほうに持っていくとしよう。
そしてこれから一つ、肝心なことを住職にお願いしなければならない。


「一つお願いがあります。小屋の中にいるゆっくりたちのことなんですが・・・
 ゆっくりたちを、私のほうで引き取らせてもらってもいいでしょうか?」

「どうぞどうぞ。ゆっくりたちが二度とお墓に来ぬよう、
 お灸をすえてやろうかと思っておりましたが、あなた様にお任せします。
 ですがお盆の間は、くれぐれも殺生をなさらぬように。」

「分かりました。さて、そろそろ帰ることにします。今回は色々とお世話になりました。」

「こちらこそ。」


頂いた線香台をお墓へ持って行く。
これでようやく、先祖のお墓参りをすることができる。
ゆっくりたちがお墓を荒らすという出来事があったので、
より丁寧に、お墓の見栄えを良くする。
頂いた線香台が、お墓をより立派なものに見せてくれる。
そういう意味では、ゆっくりたちに少し感謝をしなければならないのかもしれない。
しかし、それと墓場を荒らしたこととは話が別である。
墓場を荒らしたぶん、ゆっくりたちにはお灸を据えてやらねばならない。

帰る際、小屋に入れられていたゆっくりたちを、それぞれ別のビニール袋に入れてもらう。
ゆっくりが袋の中で暴れて、同じ袋に入っているゆっくりがつぶれないようにするためだ。
ゆっくりたちは「はやくおうちにかえりたい」と訴え、体を必死にゆすってビニール袋から出ようとしている。
だがゆっくりたちの願いは叶わない。

そろそろお昼になる。熱い真夏の太陽があたり一面を照らし続ける。
ゆっくりの入った白いビニール袋を携え、垂れてきた汗を上腕で拭う。
周りの青々とした景色を見ながら、家まで寄り道して帰ることにした。


お盆を過ぎた翌日、ベランダに置いていたビニール袋を取ってくる。
袋の中を見てみると、訴えかけるような目でおうちにかえしてほしい、
としきりに言い続ける、糞尿まみれのゆっくりたちの姿があった。
まずその中から、大きなゆっくりれいむを取り出す。
そのれいむを水の入っていない水槽に入れ、簡単な前準備をする。


「ゆ?ここはせまいよ。れいむをはやくおうちにかえしてね!!!
 そしてここからでたらとっととあまあまさんをよこしてね!!!」


さて、準備は整った。

プスッ


「????なにかあたまにささったんだよ。にんげんさん、とっととこれをぬいてね!!!」


痛みは感じていないようだ。少しそのままで放置する。


「きこえなかったの?はやくあたまのものを、ゆっ、ゆぎゃあああああああ!!!」


れいむが悲鳴をあげる。突き刺した線香の灰が頭に落ちてきたようだ。
必死に転がろうとするが、れいむの体は水槽にピッタリとはまっているので、横に転がることができない。
れいむの体は、縦に横に振動するだけである。


「あじゅいよぉおおおおお~~~!!はやくとってよぉおおおおおお!!!」


椅子に座り、その様子をじっくりと観察する。
少しすると灰の温度が冷めて、熱さを感じなくなったようだ。


「ゆうう、にんげんさんむししないでね!!はやくたすけ、ゆっ、ゆぎゃあああああああ!!!」


二つ目の灰が落ちる。相変わらずゆっくりは、体をぷるぷると小刻みに震えさせているだけだ。
熱さのせいか目には涙を浮かべ、歯を必死に食いしばっている。
その様子は、お灸を据えられている子供のようだ。

私は体験したことはないが、昔の人はよく、悪さをした子供に対してもぐさを使ったやいと(お灸)をしていたそうだ。
もぐさのお灸は、やり方によっては体を直接焼かれるので、結構こたえるらしい。
最近のお灸は仕様も異なり、よりマイルドなものになっているが、
あんな楽なものはお灸ではない、と言うお年寄りが結構いるそうだ。

れいむたちに刺しているのはもぐさではなく線香だが、
線香の灰が熱く、触れるとゆっくりたちは苦痛を感じるので、お灸の代わりとして使っている。


「あづいいいいい!!!どぼぢでごんな゛ごどにぃい゛い゛い゛!!!」

「なあれいむ、昨日のことを覚えてるかな?
 れいむたちがお墓を荒らしていたことを・・・」

「ゆっ!!れいむたちはじぶんたちのゆっくりプレイスをさがしていただけだよ!!!」

「でもそのかわり、私のゆっくりプレイスが荒らされてしまった。何か言うことはないかい?」

「ゆ?あそこはれいむたちのゆっくりプレイスになったんだよ!!!にんげんさんのものじゃないんだよ!!!」

「そうか・・・追加だ。」


二本目の線香に火をつけ、ゆっくりれいむの頭に刺す。
それと同時にゆっくりまりさを別の水槽に入れて、同様に線香を1本刺す。
子ゆっくりたちも小さな花瓶に入れて、同じく1本ずつ線香を刺していく。
まりさ種は帽子が邪魔になるので、帽子を先にとってから線香を刺すようにする。


「やめてね!!!あついあついをふやしちゃだめだよ!!!れいむたちはゆっくりできなくなるんだよ!!!」
「ゆう、しぇまいよ~~~はやくだちて、ゆっ、みぎゃああああああ!!!」
「あちゅいいいいいいいい!!!」
「はやくやめちぇよぉおおおおお!!!!ゆっ、ゆぁあああちゅいいいいいい!!!」
「ゲホゲホ、けむちゃいよ~~~!!くるちいよぉおお!!!」


他のゆっくりたちに刺した線香も、灰を落とし始める。
子ゆっくりたちは体をぷるぷると震わせ、熱さから逃れようとしている。
しかしぷるぷる震えることで、まだ熱い線香の灰が早く小刻みに落ちてくるので、余計に苦しんでいる様子だ。
花瓶と水槽のゆれる音が部屋の中でコトコトと聞こえるが、倒れる気配はない。
線香を2本刺したれいむの水槽は、まりさの水槽よりも強くゆれている。
線香を2倍にしたことで、2倍の苦しみを感じているようだ。


「はやくあついあついをとってよ~~~~ゆっ、あづいいいいいいいい!!!ケホッ、
 それになんだかけむたいよ!!!はやくたすけてよぉおおお!!」

「みんながお墓を荒らしたことを反省しているようなら、線香をとってあげるよ。」

「ゆうう!!れいむがわるかったよ。だから、ケホッ、はやくあついあついをとってね!!!」

「れいむはどんな悪いことをしたんだ?悪いことなんてしてないんだろ?
 だって、あそこは自分たちのゆっくりプレイスだったんだから、別に何をしても文句を言われる筋合いはないだろ?」

「ゆっ、そうだよ!れいむはなにもわるいことしてないんだよ!!だからはやくとってね!!!あじゅいいい!!」

「・・・まだ反省してないようだな、しばらくそのままでいるといい。」

「ゆあああああ!!まってねにんげんさん!!はやくれいむをおそとにだしてね!!!」
「あちゅいよおおおお!!」
「きょれじゃ、ゆっくちできにゃいよぉ!!!」


線香の熱い灰と、線香から出てくる煙はゆっくりたちを苦しめてはいるが、死に至らしめることはない。
しばらくそのまま放っておくことにする。
1本の線香はおよそ30分ほど燃焼し続けるので、
それくらい時間が経ったらまた様子を見てみることにするか。
椅子に座り、氷の入った麦茶を片手にテレビをつける。
ちょうど夏の甲子園野球をしているようだ。
音量を大きくし、ゆっくりたちの声が聞こえないようにする。

30分経った。
ゆっくりたちの様子を見てみる。
ゆっくりたち全員の頭には茶色い焦げ跡と灰が残り、皮の中の燃焼しきらなかった線香が食い込んだままになっている。
線香を刺したあたりの髪はちりちりに焦げ、そこだけが丸くはげている。
線香の火は消えているが、ゆっくりたちは体を震わせ、ゆ゛っ、ゆ゛っ、とひたすら泣き続けている。
だがいくら泣いて体を震わせても、外に出ることはできない。
ゆっくりたちはただ、火傷の痛みをガマンし続けるしかないようだ。
近づいてみると、こちらの姿に気がついたゆっくりたちが
ゆう~~~~、ゆう~~~~と自分の存在をアピールするように泣き始める。


「次はまりさに聞いてみようか。まりさたちはどんな悪いことをしたんだ?」

「ゆう~~~~はやくここからだしてね!!ここはゆっくりできないんだぜ!!!」

「そうか、あついあついを追加だ。」

「ゆ!!まってね!!!まりさたちがわるかったよ!!!おねがいだからはやくここからだしてほしいんだぜ!!!」

「でも、あそこはまりさたちのゆっくりプレイスだったんだろ?
 なら、まりさたちが何をしてても、別に怒られる筋合いはないだろ?」

「ゆっ、そうだよ!!!まりさたちはわるくないんだよ!!!だからここからはやくだしてほしいんだぜ!!!」

「仕方ない、みんな1本ずつ追加だ。」

「ゆああああ!!!!どお゛ぢだらい゛い゛の゛ぉ゛お゛お゛お゛お゛お゛!!!」


ゆっくりたちの火傷した部分に、1本ずつ線香を刺していく。


「ゆぎぃいいいいい!!!いちゃいよぉおおおおお!!!!!」

「簡単なことさ。まりさたちが反省してくれれば、線香はとってあげるよ。」

「だからまりさははんせいしてるんだぜ、ゅあ゛づい゛い゛い゛い゛!!!」

「まりさはどんな悪いことをしたんだ?」

「ゆうう、まりさがとにかくわるかったんだよ!!!にんげんさんごめんなさい!!!!」

「まりさはもう二本追加だ」

「どぼぢでぇ゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛!!!!!!」


ゆっくりたちの悲鳴が響き渡る。
外にいる蝉も負けじと、強く鳴き始める。
窓からはそよ風が吹き、にぎやかな雑音を和らげるように、
カランカランという風鈴の透き通った音が聴こえてくる。
お盆を過ぎてからは、暑さが徐々に和らいでいくだろう。

だが、ゆっくりたちの熱い熱いお盆はまだ終わらない。
反省するまで、ゆっくりたちは線香台であり続けるのだ。


鉄籠あき
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最終更新:2010年10月10日 15:25
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