anko2135 ぱちゅりー銀行 後編

 






「むっきゃっきゃっきゃきゃっ!ばかなゆっくりどもからさくしゅして、むしゃむしゃするごはんはたまんねええええええええ!
 むーじゃ!むーじゃ!し、し、し、しあわぜええええええええええええええええ!むっきゃっきゃっきゃっきゃきゃ!!!」

 銀行の本部となる洞窟の奥にて大量の食料をガツガツと口に入れるぱちゅりー。
 もはやその醜悪なゲスの本性を隠そうともせずにくっちゃくっちゃと醜く音を立てながらバカ食いをし、大声で笑い声を上げている。
 
「むきゅきゅきゅ!それにしてもあのうつむいたままなにもできずにくやしそうにしているおさのかおったらなかったわね!
 いいきみだわー!そもそもいだいなけんっじゃであるこのぱちぇをさしおいて、あのむのうがおさをやっていることじたいがおかしいのよ!」

 だがそれもまあ今だけの話だ。
 今にこのかんっぜんむけつのけんっじゃであるぱちぇが群れを支配する事になる。
 そう。全ては計算通り。すべて順調に進んでいるのだ。

 全てのきっかけは、この洞窟だった。流石にこの洞窟を自力で発見したことだけは幸運によるものだと、ぱちゅりーも認めざるを得ない。
 だがその後の一連の流れは全てぱちゅりーの策略によるものだ。

 まずぱちゅりーはいつまで経っても働かないような、がらの悪い不良ゆっくりたちに声をかけた。
 今から自分の教えるゆっくりは、昼間おうちには居ないから、ためてある食料が盗み放題だよ、と。
 事実簡単に空き巣行為を成功させることができた不良ゆっくりたちは大喜びだった。
 その後もぱちゅりーはそのゆっくりたちを指示し続け、大量の食料と不良たちの信頼を得ていった。
 好都合だったのは、自分達のほかにも便乗して空き巣を働くゆっくりたちが複数いたことだ。
 まあずさんな下調べのせいで何匹かは捕まったりしたようだが、目くらましとして大いに役立ってくれた。
 そしてある程度時期が来たのを見計らって、ぱちゅりーは不良ゆっくりたちに次なる策を提案をする。
 このまま空き巣を続けていても、毎度毎度おうちに忍び込んで食料を運ぶのは面倒ではないか?
 それに、最近は警戒して、つがいの片方をのこすゆっくりも増えてきた。
 それよりも、自分たちは働かずに、勝手にゆっくりたちが、食料を持ってくる方法があるのだが協力しないか?
 この提案をぱちゅりーのことを信用していた不良ゆっくりたちが断るはずもなかった。

 こうして出来たのがぱちゅりー銀行だった。
 始めは銀行という形態をとり、面倒な管理の手間をかけてまで、食料の預金を預かった理由は二つある。
 一つは、今まで盗んでためてきた食料を隠すため。
 木を隠すには森とはよく言ったもので、洞窟に大量に食料があれば、どれが盗んだものでどれが預かったものか区別はつかない。
 二つ目は、当面の貸し出し分の食料を得るためである。
 流石に盗んだ分だけでは、群れの子どもがいるつがい全員分の食料を貸し出すことは不可能である。
 どうしても、大量に食料を集める必要があった。
 だがその分、いったん集めてしまえばこっちのものだとぱちゅりーは思っていた。
 この群れは、子どもがいるゆっくりに対して、子なしゆっくりのほうが圧倒的に多い。
 よって子なしゆっくりたちから食料を集められれば、子どもがいるゆっくりに貸し出すぶんには、出たり入ったりする分を考慮しても十分すぎる量が確保できるというわけだ。

 食料さえ確保できれば、後はバカなゆっくりたちをそそのかして、借金漬けにするだけだ。結果はご覧の通りである。
 だが偉大な賢者の計画はこれからが本番だ。
 いま群れに存在しているほとんどの子ゆっくりたちはぱちゅりーに大量の食料の借金をし、奴隷となっている。
 と、いうことはだ、これから先この子ゆっくりどもが成長し、また子どもを作れば、自動的にそいつらもぱちゅりーの借金を負うことになるのだ。
 今はスッキリ制限のせいで、子どもが作れないが、そのうち上の老ゆっくりの連中が死ねば規定数に空きができて子ゆっくりが増えるだろう。
 そうなればまた、ぱちゅりーの奴隷がどんどん自動的に増えるという算段だ。
 群れの若い世代を支配するということは、群れの将来を支配するということなのだ。
 自分は何にもしないでも、かってに奴隷どもが、決して返済する事のできない借金を返すために必死で食料を運んでくる。さらに奴隷どもは自動的にその数を増やしていくのだ。
 こんな愉快な事があるだろうか。

 まあ、最近は噂が広がって、新たにぱちゅりー銀行に食料を借りにくる輩はいなくなったが、対策は既に考えてある。
 その対策とはこうだ。
 まず、つがいになり、身ごもった一家を探し出す。
 当然だが、身ごもっていないほうのゆっくりは、狩りに奔走していることだろう。
 そのゆっくりを奴隷ゆっくりを使い、秘かに亡き者とするのだ。
 残された身重のゆっくりは途方に暮れるだろう。なにせ自分はにんっしんして動けないのに、つがいは死んでしまっているのだ。
 そこでぱちゅりー銀行の出番だ。シングルマザーのゆっくりに食料を貸し出す提案をするのだ。
 まあ、初めは嫌がるかもしれない。だがやがて気づくだろう。自分と、おちびちゃんが生き残るには、食料を借りるよりほかに方法はないということに。
 と、まあこんなふうに食料を借りざるを得ない状況を奴隷を使って故意に作り出していけばいいのだ。
 この完璧な計画に死角はない!

「むっきゅっきゅっきゅきゅ!いだっいなけんっじゃのぱちゅりーさまのまえに、すべてのゆっくりがひれふすひもちかいわね!
 ああ!ゆかい!ゆかい!むきょきょきょきょ!」

 洞窟内にてぱちゅりーのゲスな笑い声がこだました。






「うう、いったいどうすれば……」

 長ありすは自分のおうちでどうすればこの事態を収めることができるか必死に考えていた。
 あのぱちゅりーは自分が正義などとのたまっていたが、そんなことは絶対にない。あのゲスは悪いことをしている。それは間違いない。
 だというのになぜか反論できない。やはりこの辺の思考の低さが野生のゆっくりの限界なのか、長ありすはどうなっているのか訳がわからないのだ。
 
 いっそのことあの奴隷たちや群れの仲間をつのってぱちゅりー銀行を攻撃するか?
 いやだめだ。あそこは、みんなの食料を預かっているのだ。そこを力ずくで潰すとなれば当然反発が起こるだろう。当然ぱちゅりー亡き後は誰がどれだけ食料を預けていたかで揉めることになる。
 何より掟を破ったわけでもないのに、暴力に訴えては、群れというルールの概念自体があやふやなものとなってしまう。力だけが正義ならみんなで協力する意義が失われてしまうのだ。

 だが、このまま悠長にあのぱちゅりーを放っておいても結局同じことのように思える。
 長ありすは気づいていた。群れのほとんどの子ゆっくりたちが、すでに借金漬け状態になっていることに。
 このまま群れの未来を担うはずのおちびちゃんたちが成長していったとしたら、きっと群れはぱちゅりーの所有物同然になってしまうだろう。
 それだけはだめだ!
 やはり自分が全ての罪を被り、あのげすぱちゅりーと刺し違え、銀行を崩壊させるより他に手はないだろう。
 その後群れは秩序を失い、完全なる弱肉強食の時代になるだろうが、今のままよりはましなはずだ。
 
「ゆうう!もうこれしかてはないわ!」

 長ありすは覚悟を決めた。
 と、そのときである。

「あー、こんちわ長。群れの視察にきたよっと」
「むきゅ!こんにちわ長」

 長ありすの覚悟とは対称的な呑気な男の声がおうちの外からかけられたのであった。
 この危機的状況を脱することのできる救いの声が!







「ふーん。成る程ねえ、そいつぁ難儀なこって」

 長ありすから事情を聞いた男がそう感想を呟く。
 この男と連れのぱちゅりーは、定期的に人間との協定が守られているかどうかチェックするためにやってくる国営機関の人間であった。
 最近のゴタゴタですっかり長ありすは忘れていたが、もうそんな時期だったのだ。
 だが長ありすにとってこれはまたとない僥倖。さっそく相談を男に持ちかけるのであっつた。

「にんげんさん!なんとかならないかしら?このままじゃむれがあのぱちゅりーにのっとられてしまうわ!」

 長ありすは必死になって男に訴える。
 もうこの群れの状況を打開するには人間の力を借りるしかないと思っていたからだ。
 だがしかしそこへ、

「そこまでよ!むっきょきょきょきょ!はあはあぜえぜえ……」

 突然、今話題にしているゲスぱちゅりーがおうちの前に現れたのだった。
 慌ててやってきためか、若干息切れしている。
 それもそのはずで、群れへ人間がやってきたという情報を聞いてから急いでこの場へやってきたからだ。
 ゲズぱちゅりーもまた、もし今の自分の計画が覆されれるとしたら、人間の介入しかありえないと考え、
 いつ人間が視察に来てもいいように、長ありすのおうちを他のゆっくりに見張らせていたのだ。
 強いものにはしっかりと媚を売ろうとするところがいかにも小悪党を思わせる。
 
「おさ!いわれのないちゅうしょうを、にんげんさんにふきこむのはやめてもらおうかしら!
 ぱちぇはなんらむれのおきてにふれるようなことはしていないわ!
 むしろ、げすなゆっくりは、むこうのほう!なにせ、かりたものもかえせないんですからね!
 そのけっかとして、すすんでぱちぇのどれいになるのはとうぜんのことだわ!
 ばかで、くずなゆっくりには、にはそれくらいしかつかいみちがないものね!むっきょきょきょきょ!」
 ふふんと胸を張ってそう主張するゲスぱちゅりー。
「なに言ってるの!ぱちゅりー!あんなたいりょうのりしをはらえるわけないじゃない!
 こんなふざけたけいやくは、むこうよこのいなかもの!」
「むっきゃっきゃっきゃっきゃ!すべてそうほうのどういのうえでのけいやくよ!
 それとも、いちむれのおさともあろうものが、ぼうりょくでむりやりなかったことにするつもり?
 こっちは、こういでしょくりょうをかしてあげたのに、そっちのかってなつごうで、ふみたおすき?
 それじゃどろぼうとおなじね!おお、げすいげすい!このむれのおさはとんだどげすね!
 おさがげすじゃあ、むれのゆっくりたちがげすなのもしかたないわね!
 やはりここはけんじゃなぱちぇがむれをしはいするのがただしいのよ!むきゃっきゃっきゃっきゃきゃ!」
「なんですってー!いわせておけばぁ……」
「お前らちょっと黙れよ!」
「ゆひっ!」「むきゃ!」
 再び長ありすがゲスぱちゅりーに噛み付こうとしたそのとき、男の一喝が二匹を縮み上がらせる。

「あー、話は大体わかったよ。まあ何だ、この場合はぱちゅりーが正しいな。
 事前に借りる前に、双方で契約内容の同意があったなら、それをあとからゴチャゴチャ言うのはルール違反だわ」
 男は静かに言う。
「むっひゃひゃひゃひゃ!さっすがかしこいにんげんさんは、はなしがわかるわね!
 このむれにいるむのうなゆっくりたちとはおおちがいね!むっきゃっきゃっきゃっきゃ!」
「そっ、そんな!にんげんさん……」
 勝ち誇ったように笑うゲスぱちゅりー。
 それとは対照的にがっくりと意気消沈してうなだれる長ありす。

「まあ、とは言えさ、もちょっと負けるなり何なりしてくれてもいいんじゃないか?借りた連中はもうはじめにもらった食料の程度は返してるんだろ?
 もうちょっと利子を緩めてもお前さんはもう損をしないわけなんだしさ」
「むっきゃっきゃっきゃっきゃ!いくらにんげんさんのたのみでも、それだけはきけないわ!
 けいやくは、かならずまもられなければならないものよ!
 それともにんげんさんも、このげすなおさとおなじように、ちからずくでぱちぇのぎんっこうをつぶかんがえかしら?」 
「まさか。約束するよ『オレ』は『お前』に何もしないとね」
 男はしっかりとした口調でゲスぱちゅりーに約束する。
「むっきょきょきょきょ!それでこそかしこいにんげんさんだわ!にんげんさんとはいいかんけいをきずけそうね!
 つぎにしさつにくるころには、ぱちぇがむれのおさになっているとおもうから、そのときはよろしくね!むっきゃきゃきゃきゃ!」
 
 それだけ言うと、自分の計画が脅かされることがないと安心したのか、満足げな表情で、ゲスぱちゅりーは去っていった。
 
 
 その姿が、見えなくなったところで、
「はっ、小悪党が、ヘドが出るねぇ」
 そうぼそりと男は呟いた。
「むきゅ!人間さんはやっぱりあのぱちゅりーを何とかする気なの?」
 それを聞いて、男に尋ねるぱちゅりー。
「まあね。このまま放っておいたら、借金に追い詰められた奴隷ゆっくりたちが、集団で麓の村へ食料を奪いにくるなんて自体も考えられなくもないしね。
 人間にしろゆっくりにしろ、借金に追い詰められたやつは基本ろくなことしないからねぇ。今の内に潰しといたほうがいいだろう」
 そう連れのぱちゅりーに答える男。
「え?え?どういうことなのにんげんさん?
 ありすにきょうりょくしてくれるってことなの?
 でもさっきぱちゅりーがただしいって、それにあのげすぱちゅりーにはなにもしないってやくそくしたような…」
 頭にクエッションマークを浮かべなら男に質問する長ありす。
「ああ、それはさ、オレが動くまでもないってことさ。
 あのバカは致命的なミスを犯している。オレに言わせりゃ今までもってたほうがおかしいくらいだよ。
 まっ、そんなわけで、極めて合理的にあのクソ銀行を叩き潰す手段をお前さんに教えよう」
「ほんとなの!にんげんさん!」
 長ありすは驚いた。あの完璧とも思えるぱちゅりー銀行を潰す手段があるというのか。
「まあね。ルールで相手を縛ろうとする者は、自分もまたルールに縛られるものさ」
 男はそうぼそりと呟いた。




 
 そして次の日。

「みょん!たいへんだみょん!ねてるばあいじゃないみょん!」
 銀行である洞窟の奥にて、呑気に寝ているゲスぱちゅりーを、慌てた様子の社員ゆっくりが起こしにきた。
「……ふぁあああ!いったいなんのさわぎなの!このけんっじゃの、すーぱーおひるねたいむをじゃまするなんて、
 よっぽどのじたいなんでしょうね!」
 気持ちよく寝ていたところを無理やりに起こされ、すこぶる不機嫌な声で言うゲスぱちゅりー。
「それがたいへんなんだみょん!むれのゆっくりがしょくりょうをひきだしにきたんだみょん!」
「はああああああああ!そんなことで、けんじゃのぱちぇをおこしたのおおおおおおおおお!
 ふざけるなああああああああ!そんなのさっさとはらってやればいいでしょおおおおおおお!
 そんなこともわからないの?いくらばかだからって、げんどってものがあるわよ!」

 銀行にゆっくりが食料を引き出しにくるのは当然の事である。
 だったらその分の食料をさっさと渡してやればいいだけのことだ。そんなことまでいちいちぱちぇが指示しなければならないのか!
 まったく自分がけんっじゃなのは当然としても、周りの連中がここまで低脳だと、いちいち指示を仰がれるのもわずらわしいものだ。
 と、バカにしたような顔でみょんを見るゲスぱちゅりー。だがしかし、実際の事態はそんな悠長なことを言っている場合ではなかった。

「ちがうんだみょん!ぎんっこうにあずけてたすべてのゆっくりが、いっせいにしょくりょうをひきだしにきたんだみょん!
 もうぎんっこうには、しょくりょうのひかえがないんだみょん!」
「な、な、な、なんですってえええええええええええ!」





「さっさと、れいむのあずけたしょくりょうをもってきてね!すぐでいいよ!」
「はやくもってきてね!えいっぎょうじかんないなら、いつでもひきだせるってやくそくだよ!」
「あずけたしょくりょうが、ひきだせないってどういうことなの!さっさとせきにんゆをだしてね!」

 ぱちゅりーが洞窟の入り口近くまで来てみると、そこには食料を引き出そうと詰め掛けてきた群れのゆっくりで溢れ返っていた。
 今はまだかろうじて社員ゆっくりがなだめているが、いつ暴動に発展してもおかしくないほど殺気立っている。
 それも当然だろう。自分の預けた食料が返ってこないかもしれないのだから。

「む、むぎゃぎゃ、これはいったい…」

 騒然とざわめく目の前の光景に直面して、放心したように呟くゲスぱちゅりー。
 昨日までは何の問題もなかったはずなのに、いったいどうしてこんなことになってしまったのか。
 いったい何が起こっているのか、ゲスぱちゅりーにはさっぱりわからなかった。

「ゆゆ!でてきたわねぱちゅりー!さあ!このじたいをせつめいしてもらおうかしら!
 あずけておいたしょくりょうがおろせないとは、いったいどういうことかしら?」
 洞窟前に出てきたゲスぱちゅりーを、目ざとく見つけた長ありすが鋭く問う。
「ありす!このさわぎは、あなたのしわざね!」
 ぐぬぬぬと歯軋りしながらゲスぱちゅりーは長ありすを睨みつける。
「ゆゆ?なんのことかしら?ありすたちはただ、せいっとうなけんりをようきゅうしているだけよ!
 そんなことよりも、はやくありすがあずけたしょくりょうをもってきなさい」
「ゆぐぐぐぐ!」
 何か言い返したいのに、唸る事しかできないゲスぱちゅりー。

(ゆふふふ。にんげんさんのいったとおりになったわ!)
 胸の中でそう感想をもらす長ありす。
 しらばっくれてはいたが、勿論この事態を引き起こしたのは長ありすの仕業である。

 昨日、ゲスぱちゅりーが、長ありすのおうちを去った後、男はこうアドバイスをしたのだ。
「群れ全体にさ、噂を流すんだよ。
 あのぱちゅりー銀行はキケンで今にも潰れそうな状況だ。
 ぱちゅりーたちが必死になって借金を取り立てているのは、自分たちがみんなの預けてある食料を食っちまったせいで、
 首がまわらなくなったせいだ。
 このままあの銀行に預けたままにしておくと、今に取り返しのつかないことになる。
 つまり、預けておいた食料が帰ってこなくなるかもしれない。そうならないように、いまの内に全食料を引き出しておいたほうがいい。
 と、まあこんな感じの銀行の危機を煽るような噂をさ」

 長ありすは、この男のアドバイスに従い、これらの噂を群れ中に流した。
 そして噂はあっという間に群れ中に広がっていったのだった。
 それでなくとも、ゲスぱちゅりーたちがかなりあくどい取立てを行っていることは有名であったし、
 調子に乗って群れの広場で公開制裁なんぞ馬鹿なことをやったせいで、借金をしてない群れのゆっくりたちからの印象も最悪だったのだ。
 そしてこれらの要素は、どうやら噂どおりあの銀行に預けたままにしておくとなんかやばいかも、と群れのゆっくりたちに思わせるには十分だった。

 その結果が今朝のこの事態の原因である。
 ちなみに、噂が群れを駆け巡っている最中、当のゲスぱちゅりーはというと、
 洞窟の奥で大量の食料をがっつき「けんじゃ!けんじゃ!」と叫びながら、
 自分が群れを支配したときのことを妄想していたので、今朝になるまでまったく気づかなかったという。


「さあさあ、ぱちゅりー!さっさとみんなのぶんのしょくりょうをこのばにもってきなさい!」
「そうだ!そうだ!」
 げすぱちゅりーに詰め寄る長ありすと、その他のゆっくりたち。
「ゆげげげどうするんだぜぱちゅりー!」
「みょん!もうしょくりょうのあきがないみょん!なんとかするみょんぱちゅりー!」
「わからないよー!このままじゃやばいんだよー!」
 取り巻きの社員ゆっくりたちもぱちゅりーを急き立てる。

「む、む、む、く、むぎゃ、むんっと……」

 ぱちゅりーは必死になって打開策を考えるが、まったくもって良案は思い浮かばない。
 そりゃそうであろう。
 いまぱちゅりー銀行に起こっている事態は、俗にいう取り付け騒ぎというやつだ。
これは金融機関などが信用不安に陥った時などに預金者が銀行に殺到して騒ぎになる現象のことである。
 ゲスぱちゅりーたちが行ってきた行為は、言ってみればヤミ金業者のそれに近いが、建前上は銀行と同じ形態を取っている。
 銀行や保険といった、実際になにか物を作り出しているわけでない商売でもっとも大切なものは信用である。
 何故ならば、銀行はその構造上、預金者が一斉に預金を引き出せば、嘘みたいにあっけなく潰れるのだ。だからこそ銀行経営者は信用に気を使う。
 銀行などが実際は別として、昔からお堅いイメージを持っているのはこのためなのだ。社員のスキャンダルなどもってのほかである。
 
 だがぱちゅりー銀行はというと、信用などどこ吹く風で、借金をしたゆっくりにやりたい放題、ぱちゅりーや社員はゲス行為をしたい放題である。
 ゆえに、ちょっとした噂の揺さぶりで、こうして簡単に崩壊する。
 ゲスぱちゅりーの策は別に完璧でも何でもなかった。男に言わせれば、むしろ今まで破綻しなかった方が不思議なくらいなのだ。

「いいかげんにしてね!やっぱりぱちゅりーたちが、あずけておいたしょくりょをほとんどたべちゃったってうわさはほんとうだったんだね!
 こんなとんでもないげすをしんようして、しょくりょうをあずけたれいむがばかだったよ!
 にどとこんなことがおきないようにこのげすはみんなでせいっさいするよ!」
「そうだ!そうだ!」
「かまうことないよ!やっちゃえ!」

 いつまでもまごまごと口ごもるゲスぱちゅりーを前に、とうとう殺気立ちはじめるゆっくりたち。

「むぎゃぎゃぎゃ!ま、まってねみんな!べつにぱちぇたちがしょくりょうをたべてしまったわけではないの!
 あずかったぶんのしょくりょうはちゃんとあるの!
 どれいゆっくりたちから、しょうらいてきにとりたてるぶんをこうりょにいれれば、りょうてきにはぜんぜんもんだいないわ!
 だ、だからちょっとだけまってちょうだい!そうだ!おくれたぶんは、それだけりしをつけるわ!
 ね!それでもんくないでしょ!だからきょうのところはかえってね!けんじゃのおねがいよ!むきゅ!」

 気持ち悪いウインクをしながら、必死になって取り繕うゲスぱちゅりー。
 ゲスぱちゅりーの言っていることは、まあ正しい。
 現在借金をしているゆっくりたちからの取立てを計算に入れれば、今食料を引き出しにきているゆっくりたちに返済を終えたとしても、
 なお有り余るだろう。そもそも元の貸し出しが、預けられた食料を元にしているのでそれは間違いない。
 だが所詮それは書類上の架空の食料というやつで、今のところは現実にないも同然なのである。
 そしてそんな不確かなものを引き合いに出してきた以上、この場に食料がないことを認めたも同然だった。

「ふざけないでね!あずけたしょくりょうはえいぎょうじかんないならいつでもひきだせるってけいやくでしょ!
 そっちのかってなつごうでけいやくをへんこうするき?ずいぶんむしのいいはなしじゃないの!
 たしか、けいやくをやぶったげすは、すすんでどれいになるのがあたりまえなんじゃなかった?」
 長ありすが昨日の意趣返しといった感じでゲスぱちゅりーに対して一気にたたみかける。
「あとでかえすなんて、あずかったしょくりょうをたべちゃうようなげすはしんようできないよ!」
「ゆゆ!これだけのりょうはどれいになったってかえせっこないよ!
 それよりもこいつらをせいっさいしないと、れいむのきはおさまらないよ!」
「そうだ!そうだ!みんなのしょくりょうをだましとるようなげすはせいっさいしろ!」

 ゆっくりたちの殺気は凄まじい。
 まあ人間の場合でも、銀行に預けてある全財産が、ある日突然、すいません投資で失敗してちゃったのでなくなりました、と言われたときのことを考えればその怒りも理解できようものだ。

「ゆげえ!ま、まつんだぜえ!」
 このまま制裁されてはたまらないと、一匹の社員ゆっくりであったまりさが大声で叫びだす。
「ま、まりさもひがいゆなんだぜえ!こんなことになるなんてぜんぜんしらなかったんだぜえ!
 まりさたちは、ただこのげすぱちゅりーのしじにしたがっていただけなんだぜえ!」

 出た!ゲスまりさのお家芸!裏切り行為だ!
 おそらくぱちゅりー一匹に罪をなすり付け、自分だけは助かろうという算段なのであろう。

「なにいってるのおおおおおおおおお!おまえだってよろこんできょうりょくしてたでしょおおおおおおおおお!
 くだらないこといってないで、けんじゃであるぱちぇをたすけなさいいいいいいいいいい!」

 突然のまりさの裏切り行為に激昂するゲスぱちゅりー。
 だがそれにかまわずまりさの発言は続く。

「うるさいんだぜ!このげす!むのうゆっくり!
 もとはといえば、おまえがまりささまたちにあきすをしじたのがすべてのはじまりなんだぜえ!
 あれのせいであとにはひけなくなってしまったんだぜえ!」
「なっ!いったいそうれはどういうことなの!」
 まりさの口から出た聞き捨てならない台詞に思わず質問する長ありす。
「ことばのとおりなんだぜえ!このげすは、まりささまたちに、ひるまだれもいないおうちをおしえて、あきすをしじしたんだぜえ!
 そのあと、いうことをきかないと、このことをばらすってまりささまをおどしたんだぜえ!」
「いいかげんにしろおおおおおおおおお!じぶんがなにをいってるのかわかってるのかこのばかゆっくりいいいいいいいい!」

 まりさの告白に顔を歪めて絶叫するゲスぱちゅりー。
 まりさは気づいていない。自らの告白がゲスぱちゅりーはおろか、自分自身さえも窮地に追い込んでいるということに。
 だがもうなにもかもが遅い。
 
「なんてことなの!ひとむかしまえのあきすさわぎもこいつらのしわざだったなんて!」
「わかるよー!それでじぶんのぎんっこうにあずけるようにしむけたんだねー!」
「こんなげすみたことないよ!」
「ゆう!それじゃにども!にどもれいむのしょくりょうをうばったってことに!このげすめえええええええ!」

 ゆっくりたちの怒りのボルテージはもはや最大にまで上がりきっていた。

「ゆゆ!そうなのぜ!ぜんぶこのげすぱちゅりーがわるいのぜ!
 だからまりさはわるくないのぜ!みんなまりさといっしょにこのげすをせいっさいするのぜ!」
「そ、そうなんだみょん!みょんたちはりようされてただけだみょん!」
「そうだよー!ちぇんたちもひがいゆなんだよー!わかってねー!」
 まりさにならって、次々にゲスぱちゅりーを裏切る社員ゆっくりたち。
「お、おまえら!このばかどもがああああああああ!ゆっがっは!えれえれえれ!」
 あまりの怒りに興奮しすぎたせいか、急に顔色を悪くして口から少量のクリームを吐き、えれえれとやりだすげすぱちゅりー。

 次の瞬間、この混乱した事態に収拾をつけるべく長ありすの号令が周囲に響き渡った。
「みんな!もうまようことはないわ!むれをみだすこのげすどもをつかまえて、せいっさいすることにするわ!」
「「「「ゆっくりりかいしたよ!」」」」

 長ありすの号令を受けて、一斉にゲスどもに飛び掛る群れのゆっくりたち。

「なんでなんだぜえええええ!」
「わからないよおおおおおお!」
「ゆっげ…えれえれえれえれ!」

 混乱するゲスぱちゅりー一味をよそに、容赦のない攻撃を仕掛ける群れのゆっくりたち。
「よくもれいむたちがいっしょうけんめいあつめたしょくりょをうばってくれたなああああああ!」
 ドン!と勢いよくまりさに体当たりするれいむ。
「ゆぎゃは!いだいいいいいいいいい!」
 しばらく狩りをせずになまっていたまりさは、あっさりと吹っ飛ばされ苦悶の声を上げる。

「あずかったしょくりょうをかってにもちだすなんてしんじられないよ!」
 高く飛び上がってベチンとみょんを思い切り踏みつけるまりさ。
「みょおおおおおん!やべでええええええ!つぶれれるううううううううううう!」
 上からの圧力に、歪に潰れながら悲鳴をあげるみょん。

「このいなかものがあ!」
 ありすは、ちぇんのしっぽに噛み付いたかと思うと、勢いよいよくそれを引きちぎった。
「いぎゃあああああああ!ちぇんのしっぽがああああああああ!わがらないよおおおおおおおおお!」
 自慢のしっぽを引きちぎられ、金切り声をあげるちぇん。

「この!この!なにがけんじゃだこのげすめ!ただみんなにめいわくかけただけじゃないの!このしゃかいのごみめ!」
 集団で四方から細い木の枝で突かれるげすぱちゅりー
「ゆぎゃあああああああああ!もうやめてええええええええ!ぷすぷすしないでえええええええ!
 ぱちぇはけんじゃよおおおおおお!えれえれえれえれ!」
「おらおらこんなもんじゃないよ!もっといためつけてやる!」
「ゆゆ!むれのひろばにつれていって、さらしもんにするよ!しゃっきんをしているゆっくりたちもうらみがあるだろうからね!」


 ……こうしてゲスぱちゅりーの完璧(笑)な計画であるぱちゅりー銀行は、男が群れにやってきてから一日と持たずしてそれはそれはあっけなく崩壊した。






 群れの広場の中心にて、長い木の棒によって丸い物体が貫かれたいくつかの奇妙なオブジェが立っている。
 ぱちゅりー率いる銀行の一味の成れの果ての姿だった。
 その身体にはまるでサボテンのように大量の細い木の枝が身体中に突き刺さっており、今も凄まじい苦痛を与えていることだろう。
 そして何よりも不幸なことは、これだけやられてもまだしばらくは生き続けることだろう。
簡単に死なないように急所は上手く外してあるのだ。これから毎日長い間、群れのゆっくりたちに痛めつけられ続けることとなる。
 
「やれやれ、小悪党の成れの果てとはいえ、無残なもんだね」
「むきゅ、そうね」

 広場を通りかかった男はそう感想をもらす。群れのゆっくりの数の確認も終わり、もう引き上げるところだった。
 
「に、にんげんさん…」
 と、男が通りかかったのに気づいたのか、ブルブルと苦痛に耐えながら、必死に言葉をつむぐゲスぱちゅりー。
「た、たすけって…ぱ、ぱちぇは…けん、じゃよ、きっとにんげんさん…のやくにたつわ…」

 男に見当違いな助けを求めるゲスぱちゅりー。
 あるいは男がぱちゅりーを連れているので、もしかしたらという期待があったのかもしれない。

「どうしてオレがお前を助けなきゃいけないのやら理由が一つでもあれば教えてもらいたいもんだ。
 とは言え理由があってもだめだけどね。オレはお前に対して何もしないと昨日約束しちまったからな」
「そん…なの…」
「自分に有利な約束は守るように強要しておいて、自分に不利な約束は知らんってのはちょっと虫がよすぎるよな。
 結局お前さんがこういう目にあっているのもそれが原因だしね。
 お前さん攻撃はそこそこだったけど防御がダメダメだったわけだ。まあほんとどうでもいいけど。
 それじゃあな。せいぜい早く死ねるように祈っといてやるよ。当分無理だろうけどさ」
 
 それだけ言うと、あっさりと踵を返す男。それに続く連れのぱちゅりー。

「ゆ…うううう!どうして…けんじゃが、こんなめに…」

 痛みに苦しみながら呆然と呟くゲスぱちゅりー。
 これから続く長い苦しみのゆん生の中で、ゲスぱちゅりーが男の言ったことを意味を理解することはなかった。

                                     
                                         おしまい





 以下全然読む必要のない後書き。

 こんな拙い文章を最後までよんでくださってありがとうございました。
 ここのところゆっくりってレベルじゃねーほど忙しかったせいで、だいぶ期間が空いてしまいました。
 そのせいで今回のコンペは結局不参加に。一応ネタは考えていたんですが、まあしかたないですね。

 えーと、それと、前回の話を書いたとき、感想掲示板のほうで、名前について質問してくださった方がいましたが、
 一応ナナシが名前です。名乗るほどの者じゃない的な意味で。
 まあもうしばらくしたら、前回考えてもらった名前を使わせてもらうなり何なりして新しく名乗るかもしれませんが、
 正直あまり頻繁に投稿しているわけでもないし、沢山書いたわけでもないので、しばらくはナナシでいいかなぁと思ってたりします。

 と、まあそんなわけで、また次の機会があったときはよろしくお願いします。
 ナナシ。
 



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  anko1919 とってもゆっくりできるはずの群れ
最終更新:2010年10月12日 16:06
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