「暑さにご用心」
羽付きあき
・理不尽ものです
・ぬるいじめ?注意
・いくつかの独自設定をいれています
・・・朝、ゴミを捨てに重たいごみ袋を片手に歩いていく。
朝の内はまだ涼しい、街ゆっくり達もそこらかしこで忙しく跳ねまわっていた。
ふと目に付いた家の窓に、何やらケージが置いてあるのが見えた。
最近流行りの「ミニゆっくり」だろうか
成体サイズでもテニスボールサイズまでにしか成長しないゆっくりで、今ひそかにブームを呼んでいる。
しかし、あんな日光の当たる所に置いておくのはいただけない。いくらゆっくりが日光浴を好むと言っても今の季節では・・・
私は陽射しがだんだんと強くなるのを感じて、そのまま足早に帰路へとついた。
遥か遠くで、レシプロ飛行機が幾重もの編隊を組んで飛行していた。
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
AM 8:30 気温26度
「きょーろきょーろ!」
「ゆゆ!れいみゅのーびのーびしゅりゅよ!」
・・・ピンポン玉程のサイズの子まりさと子れいむが小麦粉の皮を縦に伸ばし、こーろこーろと大鋸屑が敷き詰められた地面を転がっている。
普通、ゆっくりならこの時間帯はまだ寝ているはずであった。その証拠に、大鋸屑に埋もれて、テニスボールほどのサイズの親れいむと親まりさは、小さいプチトマト程のサイズの赤ゆっくり2体と共に、すーやすーやを続けていた。
据え置かれたタイマーがカチリと音を立てた。
中から、小さな砂糖菓子がパラパラと落ちてくる。
その音に気付いた、親れいむと親まりさ、そして赤まりさと赤れいむが大鋸屑の中からはい出してくる。
「おちびちゃん!ゆっくりごはんだよ!みんなでいっしょにたべようね!」
「はやおきだね!おちびちゃん!」
親まりさと親れいむの後ろから、元気よくピョコピョコと跳ねて赤れいむと赤まりさが砂糖菓子に群がる。
「ゆっきゅち!ゆっきゅち!」
「だじぇ!だじぇ!」
短いピコピコを激しくふって跳ねる赤れいむ。
赤まりさも短い砂糖細工のおさげが跳ねる度に上下にぴこぴこの様に動いていた。
ゆっくり一家がグルリと円形に囲んで、一斉に声を上げる
「「「「ゆっくりいただきます!」」」」
「ゆっきゅちー!ゆっきゅち!」
「だじぇっ!だじぇっ!」
もごもごとおちょぼ口で小さな砂糖菓子を口に入れるとコリコリと音を立てて咀嚼する。
「「ぽりぽりぽり・・・しあわせー!」」
「「もごもご・・・ちあわちぇー!」」
「ゆっきゅち・・・!はふっ・・・もごっ・・・もごっ・・・」
「だじぇ!もごっ・・・ゆっきゅ・・・はふっ!はふっ!」
あっという間に砂糖菓子が無くなった、窓越しの太陽を眺めて、声を上げる親ゆっくり達。
「ゆゆ!きょうはいいてんきだよ!ぽかぽかさんもすごいきもちいいよ!」
「きょうもみんなでいっぱいあそぼうね!きょうはおかーさんとおうたをうたおうね!」
「ゆゆ!まりしゃしょのまえにぽーかぽーかしちゃいよ!」
「れいみゅははやくおうちゃがうちゃいちゃいよ!」
「だじぇっ!だじぇっ!」
「ゆっきゅち!ゆっきゅち!」
日は確かにぽかぽかとしている。
だが、確実に「照りつけていた」
AM 9:15 気温28度
「ゆ~♪ゆゆ~♪ゆっくり~♪」
「ゆっくり~♪していって~ね~♪」
「ゆっきゅち~♪ゆっきゅち~♪」
「ゆっきゅちのひ~♪」
「のじぇー!のじぇっ!」
「ゆっきゅ!ゆっきゅちー!」
・・・小麦粉の皮をくっつけて、くーねくーねと揺れ動きながら歌を歌うゆっくり一家。
赤れいむと赤まりさは、歌ともいえない声ではあるが、ピョコピョコと小刻みに跳ねながらマネをしているようだった。
そう、暖か過ぎる陽射しの中で。
「ゆゆ・・・れいみゅおみじゅしゃんがのみちゃくなっちゃよ!」
「まりしゃも!」
「だじぇ!」
「ゆっくち!」
当初の異変が起きたのは子ゆっくり達であった。
頻繁に据え置かれた水を飲みに行っている。
容器の水面に口をつけ、くぴくぴと水を飲み干していく。
・・・既に水は半分以下にまで減っていた。
「れいむものむよ!」
「まりさもちょっとだけのむよ!」
親ゆっくりの方も水の入った容器の方へと向かう。
・・・赤ゆっくりや子ゆっくり以上に水を飲むと、すでに水の殆どが無くなっていた。
太陽は、さらに高く昇っている。
AM 10:20 気温 31度
「ゆゆ・・・おみずしゃんがもうにゃいよ・・・」
「ぽかぽかしゃん!あちゅいよ!ゆっきゅりしちぇいっていぇね!」
「のじぇ・・・」
「ゆっきゅ・・・ゆっくち・・・」
気温が急上昇を始めた。
子まりさと子れいむが異変を口にし始める。
赤まりさと赤れいむの方は深刻だ。常にあれだけ小刻みに跳ねまわったので体力を消耗してしまっている。
既に跳ねる事はやめ、ぴこぴことおさげだけが動き続けていた。
窓越しに強い日差しが照りつける。
「ゆゆ・・・!しょうがないよ・・・!きょうはあついからゆっくりおうちにいこうね!」
「ゆぅぅ・・・」
親れいむと親まりさが、大鋸屑の中に埋もれ始めた。
子ゆっくり達も、それに続く。
「ゆぅぅ~ちょっちぇもしゅじゅしいよ!」
「かいってきっじゃよ!」
「のじぇ!のじぇ!」
「ゆっきゅち!ゆっきゅち!」
・・・大鋸屑の中が「涼しく感じる」程に既に気温は右肩上がりを続けていた。
気温は、30度の壁をとっくに突破している。
「ゆゆ!おちびちゃんたち!ゆっくりよかったね!」
「きょうはおうちのなかでゆっくりすずもうね!」
親ゆっくり達にも余裕が出てきたようだ。
だが本質的には、変わらない。ゆっくり一家達が、小麦粉の皮をくっつけっている限り、大鋸屑の中の温度も上がり続けるのだ。
AM 10:50 気温32度
「ゆはっ!ゆはぁっ・・・!ゆはぁっ・・・!うめっ!くうきめっちゃうめっ!」
「ゆすはぁー!ゆすはぁー!す、すずしいよ・・・!」
「あちゅいよぉぉ・・・!ゆ!お、おそとさんのほうがしゅじゅしいよ!」
「ゆひゅー・・・ゆひゅー・・・!しゅじゅしいんだじぇぇぇ・・・!」
「だじぇ・・・!だじぇ!」
「ゆっくち・・・!ゆっくちちちぇぇ・・・!」
大鋸屑の中からズボリと飛び出したゆっくり一家達。
大鋸屑の中に熱がこもったのだ。
今度は外側が涼しいと感じるが、それも一瞬であった。
窓越しの直射日光が、気温を上げ続けている。
容赦なくゆっくり一家に照りつけていた。
「あちゅいよぉぉ・・・!」
「ぽかぽかしゃんいじわりゅしにゃいぢぇね・・・!」
「ゆっきゅ・・・ゆひゅー・・・!ゆっきゅ・・・」
「のじぇ・・・ひゅー・・・ひゅー・・・」
赤まりさと赤れいむの呼気が浅く早くなり始める。
息をするのも苦しい程に、熱波が辺りを覆っていた。
「おちびちゃんたち・・・!れいむのかげにはいってね・・・!」
「ちっちゃいおちびちゃんたちはまりさのおぼうしさんのなかにはいってね!」
れいむに出来た陰に移動する子ゆっくり達。
赤ゆっくり達の方は、まりさに舌で持ち上げられ、帽子の中へと入っていった。
気温は、まだ上がり続けている。
AM 11:32 気温 35度
「ゆはっ・・・ゆはっ・・・おちびちゃん・・・れいむのかげからでないでね・・・!」
「ゆっきゅりわかっちゃよ・・・ゆひゅー・・・ゆひゅー・・・」
「ゆはぁっ・・・ゆはぁっ・・・あちゅいよぉぉ・・・」
親ゆっくり達にも異変が訪れ始めていた。
子ゆっくり達の影を作るために直射日光を浴び続けているのだ。当り前と言えば当たり前だろう。
「おぢびぢゃああああん!?」
親まりさが声を上げる。
そこには、帽子からはい出してきて、大鋸屑の地面にポトリと落ちた赤まりさと赤れいむの姿であった。
「ひゅー・・・!ひゅー・・・!ゆ・・・きゅ・・・!」
「だ・・・じぇ・・・!ひゅっ・・・!ひゅっ・・・!」
親まりさは知らなかった。帽子の中が密閉されたサウナ状態になっていたと言う事を。
既にカピカピになりかけている赤ゆっくり達は、油の切れかけた様な動きで鈍重にくーねくーねを続けている。
「おぢびぢゃんゆっぐりよぐなっでね!ぺーろぺーろ!」
「おぢびぢゃん!ゆっぐり!ゆっぐりじでいっでね!」
「ひゅー・・・ひゅー・・・」
「だじぇ・・・ゆひっ・・・ゆひゅー・・・」
・・・小刻みに震えていた赤ゆっくり達だが、徐々にその動きが小さくなって、すぐに物言わぬ饅頭へとなり果ててしまった。
「でいぶのおぢびぢゃんがああああああ!!」
「どぼじでえええええええ!!」
・・・親れいむよ親まりさの叫びが響く。
気温は、留まるところを知らない。
AM 12:00 気温 39度
「ゆふっ・・・!ゆふっ・・・!お・・・ぢび・・・ぢゃん・・・ゆっぐり・・・!ゆっぐりかげにばいっでで・・・ね・・・!」
「ゆはぁっ・・・ゆはぁっ・・・おきゃあしゃん・・・しゅっぎょきゅきゅるししょうじゃよ・・・!」
「おきゃあ・・・しゃん・・・ゆひゅー・・・ゆひゅー・・・ゆきゅりよくなっちぇね・・・!」
弱弱しくすーりすーりを繰り返す子ゆっくり達。
「ゆはっ・・・!ゆふっ・・・!おがあ・・・ざん・・・は・・・べい・・・ぎ・・・だよ・・・!ゆっぐり・・・かげに・・・はいっでで・・・ね・・・!」
気丈にもそう答えるれいむだが、既に直射日光と、それにより籠った熱気がゆっくり一家全体を覆い尽くしていら。
何とか母性で持たせているれいむであったが、親まりさの方は完全に気が抜けて弱り始めたようだ。
横にボテンと倒れて帽子を投げ出したまま、弱弱しく呼気を繰り返している。
「ゆひゅー・・・!ゆひゅー・・・!ゆ”・・・!ゆ”・・・!あ・・・づい・・・よぉぉ・・・!」
気温はあと少しで、40度の大台に乗る所だ。
窓越しの直射日光と締め切られた部屋が気温を大きく上げて行っている。
息をするのも憚られる熱気が、ゆっくり一家に容赦なく襲いかかっていた。
カチリと音がして砂糖菓子がポロポロと落ちてくる。
だが今のゆっくり一家がそれに気付く訳も無く、そのまま放置されている。
AM 12:30 気温 42度
とうとう最高気温をマークした。
温度自体はここで打ち止めとなる。
しかしこの気温があと二時間は維持され続けるのだ。
親まりさは、完全に横に倒れたまま、口をあんぐりと開けて舌を投げ出し、寒天の白目をむいて痙攣を繰り返しながら弱弱しく呼吸している。
「ひゅー・・・!ひゅー・・・!ゅ”・・・!ゅ”・・・!」
親れいむの方も深刻だった。
モチモチの小麦粉の皮がカピカピになって熱気を帯びており、口腔もからからに干からびている。
「ゆ”・・・ゆ”・・・おぢび・・・ぢゃん・・・だぢ・・・ゆっぐり・・・ぎいでね・・・!」
「ゆ”・・・ゆ”・・・おぎゃあ・・・じゃん・・・どぼじ・・・じゃの・・・」
「ゆっぎゅり・・・あぢゅいよぉぉ・・・」
最早これまでと悟った親れいむが、最後の言葉を紡ぎだす。
「れいぶ・・・は・・・もう・・・だべ・・・だよ・・・おぢびぢゃんだぢ・・・は・・・でいぶが・・・ゆっぐ・・・り・・・でぎなぐなっだ・・・ら・・・おどう・・・ざん・・・のぼうじ・・・のなが・・・に・・・ばいっでね・・・」
「おぎゃあじゃん・・・!ゆっぎゅぢぢぢぇぇぇ・・・!」
「おぎゃあじゃん・・・!どぼじでぞんなごどいうのぉぉ・・・!」
むせ返る熱気の中で、親れいむが呼気を繰り返しながら言った。
「おどう・・・ざん・・・の・・・おぼうじ・・・ざん・・・の・・・なが・・・が・・・いぢばん・・・あんぜん・・・だよ・・・おぢびぢゃん・・・ばやぐ・・・ばやぐばいっでね・・・!」
「「ゆ、ゆっきゅりわかっちゃよ・・・!」」
力を振り絞り、投げ出されて横に倒れた帽子の中にモソモソともぐりこむ子ゆっくり達。
親れいむは、最後の力を振り絞り、帽子を立てた。
「ゆふっ・・・ひゅ・・・ひゅー・・・お・・・ぢび・・・ぢゃ・・・・・・ゆっぐ・・・り・・・じだ・・・づよ・・・い・・・ごに・・・ぞだ・・・で・・・ね・・・」
そう言うと呼吸が浅くなり、そして徐々に、徐々に止まっていった。
・・・親まりさの方は、寒天の白目をむいて、完全にカピカピの饅頭になり果ててしまっている。
AM 12:45 帽子内気温 44度
・・・親れいむの目論見は外れた。
ゆっくりにとって「帽子の中」と言うのはとてもゆっくりできると言う先入観が、子ゆっくり達には致命的となった。
帽子内部の気温は、外よりさらに高くなるのである。
さらに空気がこもり、まさにサウナ状態であった。
当然、子ゆっくり達も、それに気付き、帽子から脱出しようとするが、カリカリと内側の白い布を押すだけで、一向に脱出できなかった。
もう力が残されていないのだ。
「ゆはぁっ・・・!ゆはぁっ・・・!おぼうじ・・・ざん・・・!いぢ・・・わる・・・じない・・・で・・・どい・・・で・・・ね・・・!」
「ゆひゅー・・・!ゆひゅー・・・!おぼうじ・・・ざん・・・どいで・・・ね・・・!」
何度もこじ開けようとするが既に力が入らない。
やがて、前のめりに倒れこむと弱弱しく呼気をするだけであった。
「ひゅー・・・ひゅー・・・ぼう・・・だ・・・べ・・・」
「ゅ”・・・ゅ”・・・ひゅ・・・ひゅ・・・あ・・・づ・・・い・・・よ・・・」
それだけ言うと帽子の内側で突っ伏して力尽きる。
気温は、徐々にだが下がり始める兆しを見せていた。
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私はクーラーのかかった部屋で雑誌を読みながら、涼んでいた。
音を立てて冷風を送るクーラーを見上げて、雑誌の一文を呟く。
「"暑さにご用心"か」
そう言えばあの窓際に置かれていたゆっくり達はどうなったのであろうか?
・・・クーラーの音が辺りには響いている。
最終更新:2010年10月12日 16:10