anko2200 けんっりょく

けんっりょく 22KB
自業自得 現代 愛護人間 虐待人間 注意書き読んでね
※ゆっくりできない人間がいるよ
※法律を破るつもりで破る人間がいるよ
※そういうのが嫌いな人も是非読んでみてください。責任とらんけど。



「ゆっくりにも人間と同じ権利を!」
「彼らは、人間以外では唯一言葉を喋ることができる生物です」
「教育をすれば文字を読むこともできます。これほど知能の高い生物は人間以外には他に
いません」
「ゆっくりに参政権を!」
「ゆう愛会でーす。よろしくお願いしまーす」
「ゆっくり参政権をちょうだいね! まりさたちがんばっておべんきょうしてるよ!」
「「「ゆっくりちょうだいね!」」」

 数人の人間と数匹の金バッチをつけたゆっくりの一団。
 既に都市部では見慣れたゆっくり愛護団体ゆう愛会による、ゆっくりに参政権を与える
よう求める街頭活動である。
 ゆっくりに参政権? 何を馬鹿なことを……。
 いくら言葉を喋るといってもゆっくりにそんなもん与えるわけにはいかないだろう。
 そう思われるかもしれないが、正にこの物語の舞台となる世界の人々もそう思っていた。
 ゆう愛会は、その極端な主張をこうやって街頭でさらしているためにそのことでは有名
で、愛護団体中での知名度は最大手のゆっくりんぴーすに次ぐ。
 で、嫌われているかといったら、そんなに嫌われてはいない。
 善良で頭のかわいそうな人たちとして扱われている。
 それというのも、いくらなんでもゆっくりに参政権などありえぬ話だからだ。どんなに
ゆっくりが好きな人間でもそれに賛成するのはゆう愛会の会員ぐらいだろう。
 そして、その会員は日本全国で十人いるかいないか、なのだから。
 それでも、会員の半数ほどが裕福なためそこから活動資金が出ていた。
 そのため、そもそも真面目な愛護団体と見られておらず金持ちの道楽のように見られて
いたのである。
 ゆっくりんぴーすのように息のかかった国会議員がいるというわけでもない。
 要するにあまりにも無力なために警戒されないし、嫌悪も買いにくいのであった。
 彼らを嫌っているのは、ゆっくりを虐待する者の中のさらにごく一握りであった。
 一方、ゆっくり愛護法案の成立を目指すゆっくりんぴーすは感情的には嫌悪していなか
ったが、運動を阻害する要因として困った存在と見ていた。
 ゆっくり愛護法案は、ゆっくりの虐待を禁じ、これに罰則を加えることなどを規定した
ものである。犬猫などの動物には既に与えられている権利をゆっくりにも、と言っている
だけであり、むしろゆっくりをただの動く饅頭扱いして生物扱いしていない現状がおかし
いのだとゆっくりんぴーすは主張している。
 だが、ゆっくりに興味の無い者は愛護法案も参政権法案も同列視してしまう。
 同列視まではしないものでも、ゆっくりんぴーすも愛護法案が通ればその後は参政権を
求め出すだろうと思ってしまう者が多い。
 ゆっくりんぴーすは、ゆう愛会への表立った批判は避けたが、自分たちの求める愛護法
案と彼らの求める参政権法案は全くの別物であり、自分たちはゆっくりに参政権まで求め
ようなどとは全く考えていないということを強く主張するにようになった。
 
 まりさは、ゆう愛会に飼われている十匹の金バッチゆっくりの中でもリーダー格のゆっ
くりだった。
 優しい会の人たちと、ゆっくりに人間と同じ権利を求める運動に生きていることにとて
も生き甲斐を感じていた。
 その日も、街頭で活動して事務所に帰り、おいしいごはんをむーしゃむーしゃしてみん
なでゆっくりと眠りについた。
 ゆう愛会の事務所として借りているビルの一室がおうちとしてあてがわれており、そこ
にはごはんはもちろん、様々な遊具もある。
 明日は月曜日、会員の人はみんな仕事や用事で来ない日なので、一日ゆっくりしていよ
うとみんな思っていた。
 このゆっくりたち、一応ある程度の教育は施されているものの、なにしろゆっくりに対
しては甘い人間ばかりのゆう愛会である。参政権などという御大層なものを求めるのなら
ばもっと高度な教育を施すべきであろうが、それはされておらず、はっきり言って見る者
によっては、ただの甘やかされた飼いゆっくりではないかと言われてもしょうがなかった。

「ゆぅ……ゆぅ……ゆ!」
 まりさは目覚めた。
「ゆっくりおはよう!」
 他のみんなは先に起きていたようだ。
「ゆ、ま、まりさ……」
 不安そうな顔で言ったのはれいむ。
「ゆ? どうしたの?」
 だが、見れば他のみんなも同じような顔をしている。
「ゆ? ここ、どこ?」
 まりさが言った。そして、みんなの不安の原因はこれだと理解した。
 部屋が、寝る前までいたはずの部屋と違うのだ。
「ゆゆゆゆゆ!?」
「ゆゆぅ、おねえさん、おねえさん、どこにいるのー!?」
「むきゅぅ……いったいどうなっているのかしら」
「わからないよー、わからないよー、ここがどこだかわからないよー」
 その時、部屋のドアが開いて一人の男が入ってきた。
「やあ! ゆっくりしていってね!」
「「「ゆっくりしていってね!」」」
 ゆっくりできる挨拶を返してゆっくりするゆっくりたち。
「ゆぅ、おじさん、だれ? いつものかいいんの人たちは?」
「うむ、当然の疑問だな。実は私はゆう愛会支部の者だ」
「しぶ?」
「ああ、しばらく君たちを預かることになったんだよ。実は……とうとうゆっくりに参政
権を与える話が本格的に動き出してね」
「「「ゆゆゆ!?」」」
「それで、細かいことを定めるために相談したいということで、本部の人たち……君たち
がいつも一緒にいた会員の人たちは政府に呼ばれて大忙しなんだ。それで、我々支部が君
たちを預かったというわけ」
 男は色々と説明したが、ゆっくりたちにとってはそんなことはどうでもよかった。念願
のゆっくり参政権が実現する。その衝撃的かつ感動的な事実の前には他は全て瑣末なこと
であったのだ。
「さて、それじゃ私は行くよ。すぐに別の者がごはんを持ってくるからね」
「ゆ! ごはん!」
「そういえばおなかぺーこぺーこだよ!」
 男が出て行くと、言っていた通り、すぐに別の男が最高級のゆっくりフードを持ってや
ってきた。
「「「むーしゃむーしゃ、しあわせー!」」」
 ごはんを食べて叫びながら、本当の幸せは参政権が実現することだと誰もが思っていた。
「ゆっくりできるよ! これで、ゆっくりできるよ! ゆっくりは人間さんにいじめられ
たりしないようになるよ!」
「ゆっくりできるね!」
「ゆっくりしていってね!」
 ごはんを持ってきた男は、それを冷ややかな目で一瞥すると、部屋を出て行った。

「おい! 参政権法案が可決されたぞ!」
 三日後、男が部屋に駆け込んできて言った。
 もちろん、ゆっくりたちは大喜びだ。
 はしゃぎまくるゆっくりたちに、男は今度の選挙に出るようにと言った。
「ゆ! ま、まりさたち、りっこーほするんだね!」
「そうだ。あとで選挙用のポスターの写真を撮るからね。それと本部の人たちはやっぱり
大忙しでね、選挙のことも我々支部がやることになったからよろしくね」
「「「ゆっくりよろしくね!」」」

 そして投票日――
 見事、十匹のゆっくりたちは参政権を得たゆっくりたちの圧倒的支持を受けて全員が当
選し、議員となった。
 金バッチの隣に、輝く議員バッチをつけてもらい、まりさたちは感無量であった。

「……完全に信じてますね。ホントにアホなんだな、こいつら」
 男が、一連の映像を見て言った。
 映像は、まりさたちの部屋を隠し撮りしたものだ。
 疑いもせずに、自分たちが国会議員になったと思っているまりさたちを見て、その部屋
にいる人間は一人の例外もなく嘲笑していた。
「こんなアホ饅頭にホントに参政権与えたらえらいことなるよなあ」
 さて、既におわかりであろうが……
 このゆう愛会支部における一連の出来事は、全てこのゆう愛会支部を騙る人間によるお
芝居である。
 そもそも、会員の数が少ないゆう愛会に支部なんてないのだ。
 彼らは、ゆっくり嫌いの虐待派の中でも特に過激な分子であった。
 他人の飼いゆっくりでもゲスと見なせば遠慮なく制裁するような連中で、逮捕者も出て
いる。
 彼らはゆう愛会へのアンチという意味で自ら「ゆう虐会」と名乗っていた。
 ゆっくりに参政権を! と主張するゆう愛会を心底憎んでいる人間たちだ。
 ゆっくりに参政権て、そんなアホな、と笑っている人たちから見れば、こいつらも十分
アホなのだが、本人たちは真剣であった。
 当初は、ゆう愛会の飼っている参政権運動のマスコットのような金バッチゆっくりを拉
致して虐待しようという話だった。
 だが、そこはアホ集団といえどもさすがに異論が出た。それではゆう愛会に同情が集ま
るばかりである。
 そして、結局このような手のこんだことになっているわけである。
 ゆっくりたちを拉致して、お芝居で参政権が与えられ、自分たちが議員になったと思わ
せる。
 それで、本当に参政権など与えたらどういうことになるかというのを実演しようという
のである。

「総理が解散した。また選挙があるよ」
「ゆゆゆ!? また!?」
「ああ、まったく税金の無駄遣いだよ」
 男は愚痴りながら、総理に物凄いスキャンダルが発覚し、解散に追い込まれたことを説
明した。
「ゆゆぅ……それならしょうがないね」
「うん、でも、我々にとってはチャンスだよ! 前は最初の選挙ということもあって自分
たちに参政権が与えられたこと自体を知らないゆっくりが多かったんだけど、あれから啓
蒙活動の効果があって、今やそのことを知らないゆっくりはいないからね」
「ゆ! それなら、まりさたちの仲間が増えるね!」
「ああ、それどころか、もしかしたらゆっくりだけで過半数がとれるかもしれない」
「ゆゆ! かはんすう、って」
「それだけとれればゆっくりのための法律が作れるようになるんだよ」
「それはゆっくりできそうだね!」
「ゆっくり!」

 数日後、選挙があり、ゆっくり議員が大幅に増えて、もはやゆっくり議員だけで過半数
を得る勢いであることがまりさたちに伝えられた。
 その頃から、ゆう虐会の人間たちは徐々に、まりさたちが傲慢になるようにそそのかし
ていった。
 まずは、ゆっくり議員たちが参政権運動に参加していたまりさたち十匹の功績を高く評
価して、まりさを総理大臣に、他の九匹を閣僚に推していると言い、自尊心をくすぐった。
「ゆっ! まりさそーりだいじんだよ!」
「総理大臣は、日本で一番偉いんだよ。もう全部まりさの思うがままだよ。ゆっくりでき
るね」
「ゆっ、ゆっくりえらいんだね、そーりだいじんは!」
「れいむたちはかくりょーだよ!」
「うん、かくりょーはそーりだいじんの次に偉いんだ」
「れいむ、ゆっくりえらくなったよ!」
 そーりだいじん、と言っても仕事らしい仕事はしていない。時々、秘書……ということ
になっているゆう虐会の人間が持ってくる案件に採決をくだすだけである。
 これが総理大臣の仕事であり、それは大切なことなのだ、と教え込まれていたまりさた
ちは、一日中おいしいごはんをむーしゃむーしゃして遊んでゆっくりして寝ているだけで
あった。
 それを繰り返しているうちに、まりさたちは当初のどんなくだらない(どうせ嘘なので
本当にくだらない)案件でも真剣に悩み、皆で話し合って決めていたのだが、そのうちに
適当になってきた。
「「「そーりがきめといてよ、そーりなんだから」」」
 かくりょーたちは、頭を使うこと自体が面倒になってきてまりさに丸投げし出した。
 まりさは、一応そーりとしての責任を果たそうとか考えたりはしたようなのだが、結局
どんなに悩んで決めても適当に決めても、国民は圧倒的に自分を支持しているので、段々
と適当になっていった。
 国民の支持というのも、もちろん嘘の新聞の記事や支持率調査を見せられてそう思わさ
れていただけである。
 すっかりまりさ内閣の面々が堕落しきったと見ると、ゆう虐会は少しずつ案件に重要な
ものを混ぜていった。
 その際に「これは本当に重要です」と付け加えた。
 それも真剣に考えたのは最初だけで、そのうちに適当になっていった。
 結局、支持率は下がらないのだ。
「総理、ゆっくりから参政権を剥奪しろと主張している者がいます」
 だが、さすがにそう言われると、まりさ総理は驚いて真剣に話を聞いた。
 かくりょーたちはどいつもこいつもどうでもよさそうにしていたが、秘書から、参政権
剥奪が実現したら、まりさたちは議員資格を失ってしまうと聞かされて、ようやく事態の
重大さを理解した。
「ゆ! でも、そんなのこっかいで通るわけないよ。ゆっくりでかはんすうなんだから」
 やがて、まりさ総理はそれに気付いた。そうなのである。
「ゆーん、それじゃむししてればいいね」
「むししてゆっくりしてようね」
 怠惰な様子でそう言ったかくりょーたちだが、実は、それで正解であった。
 多少の異論などは無視する。
 それでよいのだ。
 しかし、ゆう虐会としてはそれでは面白くない。
 それから連日、その参政権剥奪論者の主張とやらが伝えられた。内容は要するにゆっく
りという存在そのものへの否定罵倒であった。
 紙に書かれた文字を秘書が読み上げるだけでは効果が薄いと見て、剥奪論者がテレビに
出た時のものと称してやらせ映像も作られた。
「「「ゆっくりできないにんげんはゆっくりしね!」」」
 それを見たゆっくりたちが声を揃えて言った時、それを聞いてゆう虐会の会員たちはに
たりと笑った。
「どうしましょう? 民主主義の原則から言いますと、このようにゆっくりできない意見
でも主張すること自体を止めさせるわけには……」
「そんなのかんけーないよ! こんなゆっくりできない人間は死刑だよ!」
 かくりょーのれいむ、食っちゃ寝生活ですっかり肥えてでいぶっぽくなったれいむが叫
んだ。
 他のかくりょーも同じ意見であり、それはまりさ総理と言えど違いなかった。結局全員
頭の程度も思考法も同程度なのだ。
 ゆう虐会にしてみれば、わかりきった、望んだ結果だ。
 もはや過半数を得たゆっくり議員の頂点に立つそーりとかくりょーである自分たちに、
人間は逆らえないことをまりさたちはよく知っている。
 それにゆっくりは自らのゆっくりを優先する。
 民主主義の原則とかいう他者の異なる意見の尊重などとは、そもそも相容れにくい考え
がゆっくりにはある。
「ゆん! このゆっくりできない人間を死刑にしてね!」
 まりさ総理が言うのに、秘書役の男は諌めてみせた。はねつけられるのを期待してのこ
とだ。
「ですが総理、死刑というのはさすがに……」
「うるさいよ! 文句をいうなら、お前も死刑だよ!」
「ええっ!」
 秘書役の男は驚いた声を上げた。演技……ではない、いくらなんでもこんな脅迫をして
くるとは思っていなかったのだ。
 こめかみをビキィとさせつつも、いや、これは思っていたよりも自分たちによるこいつ
らの傲慢化が上手くいっているのだと思い直した。
「わかりました。それでは、あの男を死刑にするよう国会にはかります……」
「ゆん! きっとみんな賛成してくれるよ」
 少し時間を置いて、ゆっくり議員が全員賛成したことにより死刑が決定したことを伝え
ると、まりさたちは満足そうにゆっくりと笑った。

「おい、思ってた以上だな」
「ああ、これならもっとどんどん行けるな」
 ゆう虐会の人間たちは、予想よりも遙かに早くまりさたちが暴走し始めているのを見て
ほくそ笑んでいた。
 元々、ゆっくりのことを嫌い、あんなゴミには参政権を与えるどころか愛護法案などで
保護してやる必要もない、と思っている人間たちであるから、醜悪なゆっくりを見ること
は自分たちの思想の正しさが証明されることに思え、喜ばしいことであった。

 死刑判決を受けた剥奪論者が、引き出されてきて命乞いをするのに、まりさたちは軽蔑
をあらわに罵った。
 最後まで泣いて命乞いをしていた男は、まりさの命令によって死刑場に引っ立てられて
いった。
 一時間後、死刑執行を伝えられたまりさたちは、にやりと笑った。その笑顔は、もちろ
ん隠し撮りされている。

「どーだ、新作は」
「すごい反応ですよ。九割方、あのゆっくりどもぶち殺してえ! って感想です」
 一連の映像を編集したものを、ゆう虐会は「ゆっくりに参政権を与えたらこうなる!」
というタイトルで動画投稿サイトにUPしていた。
 ぼちぼち評判になっていたのだが、人間を死刑にし、さらに命乞いを冷然と拒否し、さ
らに死刑執行を聞いてにやにやと笑うまりさたちを映した第五回目のインパクトは強く、
色々なサイトで紹介されてそれまでとは桁違いのアクセス数を稼いだ。
 そして、そのことがゆう虐会の……後にはゆう愛会の命取りとなった。
 あまりにも有名になったので、それまでそういうものを見ないゆう愛会の会員がそれを
見てしまったのだ。
 会で飼っていた十匹のゆっくりたちが行方不明になってから、彼らはその行方を求めて
いた。そのために、僅かなお飾りや顔の特徴にも敏感になっていた。
 最初に見た会員が疑問に思い、他の会員にも動画を見せた。
 最終的に、あのまりさたちは間違いなく自分たちのところで飼っていたゆっくりたちだ
と断定し、通報した。
 ゆう虐会に警察が踏み込んだ時、ちょうどまりさ総理が秘書に向かって「ゆっくりでき
ない人間はみんな死刑なのぜ! けーさつに捕まえさせるのぜ!」と叫んでいたところで
あった。
 ゆう虐会の会員は器物損壊罪で逮捕された。
 警官は、まりさたちを保護しようとしたが、そこで一悶着起こった。
 警官が自分たちに何か危害を加えようとしていると勘違いしたまりさたちが、居丈高に
警官たちを恫喝したのだ。
「けーかんふぜいがそーりにさわるんじゃないのぜ!」
「れいむたちのどれいのひしょに何するの! ゆっくりしてないね!」
 それに苦い顔をした警官に向かって、
「ゆぁぁぁぁぁん、なんなのその目はあ!? 死刑にするよ!」
「そうだよ! れいむたちが死刑にするっていえばみんな死刑だよ!」
「ゆっくり議員はかはんすうをとってるんだよ! 人間はゆっくりに逆らえないんだよ!」
 などなどと吐く始末。
「へへへぇ、こいつら、こういう奴らなんすよぉ」
 と警官隊の指揮をとっていた者に手錠をかけられたゆう虐会の会員が言った。
 言われた方は、苦い顔で「保護しろ。言ってることは無視してかまわん」と部下に命令
するしかなかった。

 この逮捕は、大ニュースになった。
 そもそも、投稿されていた動画が、凄まじいアクセス数を稼いでいる評判の「実験的動
画」であるとしてマスコミの注目を集めていたところに、それが実験は実験でもその素材
に使われていたのが、ゆっくり参政権を求めていたゆう愛会が飼っていた金バッチのゆっ
くりだったというのだから。
 それまで、あのゆっくりたちはその辺から拾ってきた野良か、或いは安価で買い求めた
ゆっくりに偽物の金バッチをつけているか、そもそも、金バッチゆっくりたちが演技をし
ているのであろうと見られていたのだが、そうではなかったのだ。
 反応は、はじめはゆう虐会への非難がほとんどであった。
 法律を犯しているのだからそれも当然である。
 しかし、それが落ち着くと、あの動画の内容についてあれこれと取り沙汰されるように
なった。
 様々な意見があり、ゆっくりたちへの擁護もあったことはあったのだが、大勢は、ゆっ
くりに対してのイメージが劇的に悪化したというのが事実であった。
 あのゆっくりたちは巧みに誘導されたのだ、という擁護も結局は、誘導されればゆっく
りはあのようになるのだ、という反論の前に圧倒されていった。
 参政権云々はもはや主題ではなかった。そんなものはそもそも実現するわけがないのは
わかっている。
 問題は、ゆう愛会のような愛護団体が飼育していた金バッチゆっくりでさえ、ああなる
のだ、ということであった。
 そこから、ゆっくりんぴーすなどが求めている愛護法案も、結局はゆっくりをあのよう
に増長させるだけなのではないかという声が巻き起こり、ゆっくりんぴーすが頭を抱える
ことになった。

 ゆう愛会は、当初はむろん、完全無欠の被害者として振舞っていたが、そのような流れ
でゆっくり愛護法案に重大な支障を与えてしまったということになり、いわばその界隈に
おいて肩身が狭くなった。
 さらには、ゆっくりは善良であるという思い込みが運動の原動力になっていた会員も多
く、それらはまりさたちが死刑と叫んでにやにやしている様子を見て幻滅し、脱会してい
った。
 その中に、最大の資金提供を行っていた会員がおり、とうとう事務所を借り続けること
ができなくなってしまった。
 保護されたゆっくりたちは、それぞれの会員の元に引き取られたが、事態を理解し、自
分たちがまんまと虐待派に利用されてしまったのだと理解し反省したものは、慎ましく、
二度と人前に出ないで暮らしたが、元に戻れないものもいた。

「ゆっくりできない人間は死刑だよ!」
 かくりょーだったれいむがそうだった。
 引き取られた会員の家で少しでも気に食わないことがあると死刑死刑と叫び散らした。
 会員は宥めて注意していたが、れいむはそれにも死刑だと怒鳴った。
 それを見ていた会員の子供たちは、ある日、親の不在時にれいむが騒ぎ出したのに我慢
の限界を迎えた。
「やべろぉぉぉ! れいぶは、れいぶはかくりょーなんだよぉぉぉぉ!」
 れいむは、二人の兄弟によって蹴られまくった。
「死刑! 死刑! 死刑だぁぁぁぁぁ!」
「うるせえ、お前が死刑だ!」
「やっちゃえ!」
 れいむは散々蹴られ、目玉をえぐられ、遂にこのままでは殺されると悟るとみじめに命
乞いをしたが、拒否された。
「お前、人間が同じこと言っても死刑だ、って言ってたじゃないか!」
「そうだそうだ!」
 その子供たちは、友達に例の動画を見せてもらっていたのだ。

 一方、別のありすの例は、相手が人間の子供ではなく、同じゆっくりだったためにより
悲劇的なことになった。
 引き取った家では、既にゆっくりを飼っていた。数日前に、両親を失ったみなしごの子
まりさが玄関前で死にかけていたのを拾って飼っていたのだ。
 まだバッチの登録申請が済んでおらず、銅バッチすらもつけていなかった。
 そのため、ありすは子まりさを侮蔑した。
 それは子まりさにも伝わり、子まりさはありすに近付こうとはしなかったが、その家の
子供に貰ったスーパーボールで遊んでいるときに事件は起こった。
 てんてんと跳ねるボールを嬉しそうに追いかける子まりさのぷりんぷりんと揺れる尻に
浴場したありすが襲い掛かったのだ。
「んっほおおおお、銅バッチもつけてないクズのくせにいい尻してるわぁぁぁ!」
「ゆひゃああああ、たちゅげでえええええ!」
「うるさいわね! ありすは議員さまなのよ!」
「ゆ゛……ゆ゛……や、め……ぢぇ……」
 子まりさは犯し殺された。
 家の者が帰ってきて、頭から茎を生やして黒ずんで死んでいる子まりさを発見して大騒
ぎになった。
 ありすを問い詰めると……いや問い詰めるまでもなく、ありすはあったことをそのまま
話した。
 悪いことだと思っていないからだ。
 そのため、当然のことながら反省の欠片も無かった。
 家族全員――ゆう愛会の会員であった母親ですらありすに対する嫌悪が顔に出るのを隠
そうとはしなかった。
 その後、短い家族会議の後に、事情を話した上でこのありすを返すこと、どうしても引
き取り先が無いのならばこちらで保健所に連れていくこと、そして母親が会を脱会するこ
とが決定された。
 
 そーりだいじんだったまりさは、会員のお姉さんに引き取られた。
 まりさは、自分たちが調子に乗ったせいで人間のゆっくりに対するイメージが救い難い
ほどに悪化したことを理解し、深く反省し、大きな罪の意識を感じていた。
 それを感じさせぬよう気遣う優しいお姉さんとの生活でまりさはゆっくりしていた。
 だが、その配慮は裏目に出てしまった。
 まりさは、すっかり忘れかけていた。
 そのため、それに対する免疫というか、精神的な抵抗力、耐久力が著しく下がっていた。
「それじゃ、おふろはいってくるね」
 ある日の夜、お姉さんが風呂に入った時のことだった。
 まりさは退屈だったので、お姉さんの真似をしてリモコンのボタンを口にくわえたボー
ルペンで押してみた。
 テレビがついたのを見て、まりさは喜んだ。
 自分でテレビをつけられるよ、と言えばお姉さんは誉めてくれるだろう。そのことを思
ってゆっくりしているまりさにテレビの音が聞こえてくる。
 番組はニュースだった。
「ええ、それでは先ほど行われたゆっくりんぴーすの会見の模様です」
 ゆっくりんぴーす、という言葉にまりさは反応した。
 ゆう愛会とは違うが、同じゆっくり愛護団体だと聞いている。これはゆっくりできる話
が聞けそうだとまりさは目をキラキラさせながらテレビに見入った。
「例の一件により、ゆっくりに対する印象が悪化しています」
 ゆっくりへの印象が悪化。
 その言葉を聞いた瞬間、まりさのゆっくりとしていた笑顔が凍りつく。
 ゆっくりんぴーすの広報担当が言葉を繋いでいく。
 下手に賢いまりさは、例の一件、というのが自分たちがゆう虐会に騙されて撮影された
映像が流布したことであると理解してしまった。
「そもそも、あのゆっくりたちは金バッチこそ取得していますが、あまりよいゆっくりで
はなかったようです」
 聞きたくない。
 聞きたくない、のに、まりさは動けない。
「全ての金バッチがああだと思わないでください」
 ゆっくりんぴーすとしても苦肉の策であった。もはやゆう愛会が同じ愛護団体だからな
どと言っていられなくなっていたのだ。
 あの映像に出ていたゆっくりたちに問題があったのだ、ということにしようとしていた。
 それからも、そのゆっくりたち――つまりは、まりさたちへの非難が続いた。
「今回のことで、我々の目指すゆっくり愛護法案も大きな誤解を受けており、大変に迷惑
しています」
 まりさの中で、何かが爆発したかのように口から餡子が――。

 風呂から出てきたお姉さんが見たのは、大量の餡子を吐き、それでもなお、
「ごべん、なざい……ばりざだぢの、せい、で……ごべん……なざい……ゆる、じで……
ゆる、じ……で……」
 と、誰に言うともなく言い続けるまりさであった。
 お姉さんは、急いで冷蔵庫に向かいオレンジジュースを取り出した。
 それをかけようとした時には、まりさは死んでいた。

                                  終わり



 書いたのは、実は飼いゆっくり虐待とか全然平気なのるまあき。
 飼い主の人間が、っていっても、そんなの気にしないなあ。創作の中の人間だから。
 


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最終更新:2010年10月12日 16:10
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