anko1893 ゆっくりできるひと、ゆっくりできないゆっくり

「「ゆっくりしていってね!」」
甘いものが欲しくなり、コンビニに寄った帰り、道端で声を掛けられた。
こんな言葉を掛けてくる生物は1つしかない。当然、ゆっくりだ。
ゆっくりまりさとゆっくりれいむ。
番なのか、単なる友人なのかは知らないが、良く見る組み合わせ。
黒ずんだ髪、ぼろぼろのリボン・帽子、薄汚れ体、典型的な野良ゆっくり。



  ゆっくりできるひと、ゆっくりできないゆっくり



「ゆっくりしていかな…」
「おにいさんはゆっくりできるひと?」
面倒臭くて否定しようとしたら、言葉を遮ってれいむが質問をぶつける。
つくづくゆっくりしてないやつらだ。そもそも、質問の意味も良く分からない。
「ゆっくり、ねぇ…どんな奴がゆっくりできる人なんだ?」
とりあえず聞き返してみる。
帰ったところで待ってるのは、寂しい部屋だけだ。なら、ここで暇を潰すのも悪くない。
「まりさたちをゆっくりさせてくれるひとだぜ!」
今度はまりさが答えてきた。
なら、それは「ゆっくりできるひと」じゃなく「ゆっくりさせてくれるひと」だろうが。
「お前たちは、どうしたらゆっくり出来るんだ?」
「あまあまをくれたらゆっくりできるんだぜ!あまあまをよこすんだぜ!」
「あまあまちょうだいね!」
あまあまってのは、甘いものってことか。そう、ゆっくりは甘いものが好物だ。
単なる質問の返答がいつの間にか、要求へと変化している。
本当に何故こいつらがゆっくりなんて名前を冠しているのか、理解に苦しむ。


「あまあまをやってもいいよ」
別に構わない。それほど小さい男でもないのだ。
「ゆゆー!ゆっくりしないではやくちょうだいね!」
「はやくまりさによこすんだぜ!あまあま、よこすんだぜ!」
だけど、ただではやりはしない。この世は等価交換が原則だ。
「その前に、お前らはゆっくりできるゆっくりか?」
初めに質問されたことを質問し返す。
「まりさはゆっくりできるゆっくりだぜ!だから、あまあまよこすんだぜ!」
「れいむはゆっくりできるよ!だから、ゆっくりしないではやくあまあまちょうだいね!」
自称、ゆっくりできるゆっくり、らしい。俺は現在進行形でゆっくりできてないけどな。
「じゃあ、俺をゆっくりさせてくれよ。そうしたら、俺もお前たちをゆっくりさせてやるよ」
等価交換だ。ゆっくりさせて欲しいなら、先に相手をゆっくりさせるってのが世の常ってもんだ。
「そんなのしらないよ!はやく、あまあまちょうだいね!れいむ、おこるよ!」
「ごちゃごちゃうるさいんだぜ!あまあまよこすんだぜ!さもないとせいっさいするんだぜ!」
はぁ…こいつらは…ゆっくりっていう生物は本当に…
「ゆっくりできないな」
「「ゆ!?」」
「お前らは全くゆっくり出来ない奴らだな…」
硬直するゆっくり。


1分ほどしてプルプルと震えだした。
「れいむはゆっくりできるんだよ!じじいのほうこそゆっくりできないよ!ぷくー!」
「まりさはゆっくりできるんだぜ!ふざけるじゃないぜ!せいっさいしてやるんだぜぇ!!」
2匹とも、顔を真っ赤にして、怒り、吼え始めた。
れいむは顔を一回り大きく膨らませ、こちらを睨みつける。
まりさは、「しね!しね!」と吼えながら、足に体当たりを繰り返す。
というか、体当たりと呼んでいいのか。この虫程度にしかダメージを与えれそうにない攻撃は。
「まぁまぁ、聞けよ」
「ぷくー!!」
「ゆっくりできないじじいは、さっさとしねぇぇぇ!!」
ゆっくりできない、って言葉は、こいつらにとって、それほど許せない言葉なのか。真実なのに。
「お前らは、自分をゆっくりさせてくれる相手をゆっくりできる人って言ったじゃないか」
「だったら…ぜぇぜぇ…なん…なんだぜ!じじいは…ゆっ…ゆっくりできないじじいなん…だぜ!」
まりさは、どうやらお疲れの様子である。れいむのほうはと言うと、膨れたままだ。
「俺は、ゆっくりさせてもらえなかった。だから、俺はお前らをゆっくりできないゆっくりだと考える」
「ぷっくぅぅぅぅぅぅ!!」
れいむは今の言葉が気に入らなかったようで、更に一回り大きく膨れた。
どうなってんだ、あれは。
「ばり…ざがなんで…じじいをゆっぐり…ざぜないといけない…だぜ…ぜぇぜぇ」
まりさは疲労が限界を超えたらしく、攻撃が終了している。
いや、足に引っ付いたまま、ぶるぶる震えているのを見ると、攻撃してるつもりなのかも知れない。
「別にさせてくれなくてもいいさ。ただ、ゆっくりさせてもらえなかったから、ゆっくりできないと思っただけさ」
「ぶざけるんじゃないんだぜ…ばりざはゆっくりできるんだぜ」
どうにも気に入らないらしい。れいむは未だ膨れたままだ。
ああ、面倒になってきた。
理は通ってると思うんだが、理解出来ないのか、認めたくないだけなのか。
「じゃあ、もう1度聞くぞ?自分をゆっくりさせてくれる相手はゆっくりできる、それはいいな?」
「そうなんだぜ!はやくゆっくりさせるんだぜ!さもないと、せいっさいするんだぜ!」
まりさ全回復。疲れと一緒に、さっき制裁出来ずに疲れ切ったことも吹き飛んでしまった様子。
「だから、じじいはゆっくりできないよ!ゆっくりしね!」
対して、れいむは膨張終了の様子。
「うんうん、俺はお前らをゆっくりさせてない。だから、俺はゆっくりできない。ってことだな?」
「そうだよ!じじいはゆっくりできないよ!」
もう聞いたよ、それは。大事なことだから2回言ったのかもな。
「うんうん、じゃあ、考えてみてくれ。お前らは俺をゆっくりさせてない。だからお前らはゆっくり出来ない」
"俺"と"お前ら"を入れ替えただけだ。
「ゆ…?ゆゆ!?れいむたちはじじいをゆっくさせてない…?」
「ゆー?だから、まりさたちはゆっくりできない…?」
お、通じたのか?通じたんだよな?
「そうそう、相手をゆっくりさせないやつは、ゆっくり出来ないやつ。俺もれいむもまりさもゆっくり出来ない」
「「ゆ…」」
どうやら、通じたようだ。
また「なんで、じじいをゆっくりさせないといけないんだぜ!」って言い出したら、もう帰るしかなかった。
「さぁ…」
息を吸い込む。
「ゆっくり出来ない奴はゆっくり死ね!」
「「ゆゆ!?」」
驚いた顔でこちらを見つめてくる。そうだよ、お前らが言ったんだよ。
「ゆっくり出来ないじじいは死ねって言ったよな?ゆっくり出来ない奴は死ねってことだろ?
 だからお前たちも死ねよ。死ぬべきだ。そうだろ?」
「い、いやだ…いやだぁぁぁ!でいぶじにだぐないぃぃぃ!!」
「ばでぃざはじにだぐないんだぜぇぇぇ!!」
口と目からダラダラと、液体を垂れ流して、雄叫びを上げる2匹。
そもそも、その液体は一体なんなんだ。どこから分泌されてるんだよ。
「「じびばぐばぃぃぃぃぃぃ!!」」
ただ、汚いってことは分かる。
「さて、このままじゃ、俺も死なないといけないな」
「「ゆ…!」」
一瞬で雄叫びが止まった。どういうことなの。
「しね!しね!じじいはしね!」
「じじいはしねぇぇぇ!!」
まりさ、2度目の攻撃開始。当然、体当たりと呼ぶのもおこがましい体当たり。
こいつら、自分も死ななくちゃいけないこと、忘れてんじゃないだろうな。
それとも、俺が死ねば、自分たちは死ななくてもいいとか思ってるんだろうか。
「じねぇぇぇ!!じじいはじゅべぇっ!」
話が進まないから、蹴り返す。
「俺は死にたくないから、お前らをゆっくりさせてやるよ」
「「ゆゆ!?ゆっくり!?」」
ころころ表情が変わるやつらだ。
ただ、どんな表情でもどこかイラっとさせられるから、ある意味凄い。
「ほら、あまあまだ」
コンビニの袋からシュークリームを取り出す。
「あまあまちょうだいね!れいむにあまあまちょうだいね!」
「あまあま、よこすんだぜぇ!!」
「慌てんな、ほらよ」
袋を開けて、目の前に落としてやると、凄い勢いでシュークリームに飛び付いた。
「うめ!これ、めっちゃうめ!!」
「れいむのすーぱーむーしゃむーしゃたいむだよ!」
「「し、しあわせ~!」」
食いながら叫ぶから、シュークリームが飛び散るが、そんなことお構いなしに貪る2匹。
何をやっても汚い奴らだ。


「「ゆっくり~!」」
とりあえず食い終えた2匹は口の周りに付いたクリームを舐めながら、ゆっくりしている。
「お前ら、ゆっくり出来たか?」
「ゆっくりできたんだぜ!」
「おにいさんはゆっくりできるひとだね!」
凄い掌返し、当然だろう。
個人や市がゆっくり対策を施すようになった今、野良が食べれるものなんて雑草くらいしかない。
そこに甘いシュークリームだ。
「だったら、俺は死ななくていいな。じゃあ、お前らは死のうか」
「「ゆ?…ゆぅぅぅ!!」」
凄い焦り様、当然だろう。
死ななくてはいけないんだから。
「ゆっくり出来る俺は死なないけど、ゆっくり出来ないお前たちは死なないとな。そうだろ?」
「い、いやなんだぜぇ!ば、ばでぃざはじにだぐないだぜぇ!にげるんでびゅべえっ!」
逃げようとしたまりさを右足で踏みつける。
「ゆびぇ…や、やべっ…ごべ…なざ…」
力を込めていくと、再び、正体不明の液体を垂れ流し始める。
肌がひび割れ始め、餡子が漏れ出す。連動するように口から餡子が流れ出す。
「ぶびぇ…ばびざびびだげぞい…ぼでんばざび…」
何を言ってるのか分からない。というか、これでまだ生きてるのか。もう原型を留めていないのに。
「ゆっくりできないまりさは…」
足を上げてみるが、もう形は戻らないようだ。
「ゆゆ…ゆ…もっと、ゆっく…」
「死ね」
「ぶぇ!」
思い切り足を下ろすと、短い断末魔を上げて、まりさは弾けた。
噴出した餡子が足に降りかかる。死んでもゆっくりできない奴だ。


「さて」
足を振って餡子を振り解く。ボタっと餡子が落ちるが、全て取れたわけではない。
「次はお前だな」
「ゆ…ゆう…や、やべでね…でいぶ、じにだぐない…」
れいむに近づいていく。
まりさと同じように目と口からの垂れ流しが開始されていた。
にしても、いくらなんでも垂れ流れ過ぎじゃないか?足元(?)濡れすぎだろ。
「や…やべ…ごべんなざ…」
近付くと謎は解けた。口の下からも垂れ流してるのだ。これは尿に相当するのだろうか。
1歩近付く度にプシャっと、そこから液体が噴射される。
「俺をゆっくりさせてくれよ、あいつみたいになりたくないのなら」
親指を立てて、ひさしゃげたまりさを指す。また、プシャっと噴出した。
「ゆ…ゆゆぅぅぅ…ゆっぐりじでね…ゆっぐじじべべぇぇぇ!」
苦肉の策がそれか。
「ダメ、全然ゆっくり出来ない」
そんなのでゆっくり出来るのなら、世界はさぞかし平和なことだろう。
「ゆぅぅぅ…どうじだらゆっぐじべぎるんでずかぁぁぁ!!」
お、自分勝手なゆっくりにしては上等な判断だ。分からないなら、相手に聞く。
何も不思議ではないが、ゆっくりが土壇場で良く閃いたものだ。火事場の馬鹿力みたいなものか。
「自分で考えろ」と言って殺すのは、簡単だが、それはあんまりだ。
こっちもどうすればゆっくり出来るのか聞いたことだし。
「そうだなぁ…」
ゆっくりが出来ることなんてたかが、知れている。そうだ。
きちんとした教育を受けたゆっくり、もしくは希少種でもない限り、人をゆっくりさせることなんて出来はしないのだ。
初めから、野良ゆっくり如きが、人をゆっくりさせることなんて出来はしないのだ。
「うーん…」
思い付かない。
もういいや。「お前が死ねばゆっくり出来る」とでも言って、殺してしまおう。
「俺は、お前が死ねば…お」
右足を上げた時に、思い付いた。もうこれでいいや。
上がった右足が自分の頭上に降り注ぐことに怯え、れいむは目を閉じて震えている。
そんなれいむの目の前に右足を下ろした。
「ゆ?」
「あのゆっくり出来ないまりさの餡子が靴に付いた。舐めて綺麗にしろ」
そう言うと、れいむは靴に目をやり、続いて潰れたまりさに目をやる。
「そうすれば、俺はゆっくり出来る。やらないなら、死ね」
「なべばず!でいぶがぎれいにじまずぅぅぅ!!」
そう叫んで、必死に靴に付いた餡子を舐め始めるれいむ。
「ばでぃざのあんござん、ぎれいになっでね」
れいむは、涙を流し続けながら、一心不乱に舐め続けた。
「ばでぃざは、でいぶのながでいぎでいぐんだよ」
なんだ、それは。


「ばでぃざ…ゆっくり…ばでぃざ…ゆっくり…」
「もういいぞ」
ボソボソ呟きながら舐め続けていたれいむから右足を離した。
枯れること知らない涙を流し続けるれいむは、男を見上げる。
「まぁ、ゆっくり出来たよ、まりさよりはな」
れいむは、焦点の定まらない目でまりさを見て、小さく「ばでぃさ」と呟いた。
「じゃあな」
踵を返して、帰路に着く。振り返る必要もない。


俺は、あまあま、シュークリームを与えて、れいむとまりさをゆっくりさせた。
まりさは、俺をゆっくりさせなかったので、死んだ。
れいむは、俺の靴に付いた餡子を舐め取って俺をゆっくりさせた。
はっきり言って、ところどころ破綻しているゆっくり出来る・出来ない理論だが、もう別にいい。
残ったのは、やっぱり何か分からない液体でヌメヌメとしてる俺の靴だけだったが。



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初投稿です
ここまで読んでくれた方が存在してくれるものか分かりませんが…
SSって難しい…もう何を書けばいいのか分からなくなる
こうしたいって構想はあっても形になってくれない
1番破綻してるのは、この文章だよ!
お目汚し、失礼しました
最終更新:2010年10月12日 16:15
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