anko1899 まりさ一家のおうち宣言成功

桜が咲き始めようとする頃、男は感慨深く部屋に佇んでいた。1つ深呼吸して、呟いた。
「じゃあ、行くか」
男が手荷物を持ち玄関を開けて、1歩踏み出したその時だった。
「「ゆううううう!!」」
何かが足元を通り過ぎて、侵入してきた。
「ここはまりさたちのおうちなんだぜ!」
「じじいはでてけー!」
「「ぷきゅううう!」」
不可思議饅頭生命体、ゆっくり。家族なのだろう、まりさとれいむに2匹の似た子ゆっくりが1匹ずつだ。
おうち宣言と同時に男を精一杯威嚇する。

「あっそ」
少し目を遣っただけで、男は玄関を閉めて外に出た。
せっかくの気分を邪魔されたのは心外だが、相手にするともっとイラつくだけだ。
男は1度だけアパートを見上げると、駅に向かって歩き出した。


「ここはまりさのおうちだよ!」
「ここはれいむのおうちだよ!」
「ここはれいみゅのおうちだよ!」
「ここはまりしゃのおうちだよ!」
まりさ達は再び、おうち宣言を高々と宣言した。
「やったね!まりさ!」
「まりさのかんがえにまちがいはないんだぜ!」
「おちょーしゃん、かっきょいー!!」
人間のお家は、外と違って雨風防げる。しかも、人間はあまあまを独り占めしているのだ。
そんな人間のお家を自分のものにしてしまえば、しあわせー!以外の何物でもない。
だが、人間のお家は堅く閉ざされており、ゆっくりでは侵入すること不可能。
そこでまりさは、人間が出て行く瞬間に、侵入し、おうち宣言する。それがまりさの作戦だった。

ゆっくり…ゆっくりできるんだぜ

野良ゆっくりのまりさ達の生活は苦労の連続だった。ご飯集めもままならず、寒さに震える日々。
人間、猫、犬、カラス、外敵も沢山いた。同じゆっくりだと言っても安心出来はしなかった。
ご飯やおうちを横取りするゲス、自分は可愛そうだから寄越せを喚くしんぐるまざー、無差別に襲い命を奪うれいぱー。
そんな生活の中でおちびちゃんも何人か死んでしまった。全くゆっくり出来なかった。
だが、人間のお家を手に入れた今は違う。まりさはこれからのゆっくりした生活に想いを馳せ、震えた。
ここがまりさたちのゆっくりぷれいすなのだ。


「まりしゃ、おにゃかしゅいたー!」
「れいみゅ、あみゃあみゃ、むーしゃむーしゃしたいー!」
「ゆ!そうだね、あまあまさん、むーしゃむーしゃしよーね!」
人間が扉を開く瞬間を狙って隠れていたため、食事をしていなかった子ゆっくりは空腹を告げる。
成功すれば、あまあまが食べられる、と言って我慢させていたのだ。
「あまあまをさがして、むーしゃむーしゃするんだぜ!!」
このゆっくりぷれいすには、あまあまだってあるのだ。


「「なんで、あまあまないのー!!」」
いくら探してもあまあまはなかった。それどころ、食べ物1粒たりとも存在しなった。
「あまあま、でてくるんだぜー!!」
まりさは雄叫びを上げ、家を這いずり回る。子ゆっくりは、我慢出来ずに泣き喚いている。
「あまあま、できてきてね!れいむたちにたべられてね!」
そんな叫びも空しく響くだけだった。

この家にないのは、あまあまだけではない。
イスもテーブルの机もテレビも棚も、ティッシュや洋服も本も、何も無かった。


家を出た男は、電車の中でこれからの生活に想いを馳せた。もう少し経てば、自分も新社会人だ。
窓越しに4年間住んだ街を見つめた。
さっきのゆっくりのことなどもう頭の中になかった。


入ることが出来ないように出ることもゆっくりには、出来ない。
誰かが新しく入居するまで、まりさ達はここで過ごすしかないのだ。
何もないこの部屋で。

外より少しばかり暖かいということを差し引いても、何もないここは、まりさの想い描いたゆっくりぷれいすとは、かけ離れていた。





※部屋の片付け中にふと思い付いた
 ちなみにお隣さんももう出て行ってるので叫んでも大丈夫!
 僕も就職決めたい…
最終更新:2010年10月12日 16:16
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