今日は、近くにある神社のお祭りがあるそうだ。夕方ごろに家を出る。
お祭りに付随して、境内から参道へ、そして道端にかけて露店がたくさん出ているそうだ。
現地にたどりつくと、二列に並んだ露店の賑やかな明かりが、人々を照らしている。
たくさんの人が、神社までの道を楽しそうに行き来している。
露店にはたこやき、わたがし、焼きそばなど、様々なお店があるようだ。
自分も周りの賑わいに混じって、いろいろなお店を見てまわることにする。
しばらく楽しんでいると、露店の一番端の、暗く静かな場所にたどり着く。
ところで露店の端って、なんであんなに悲しいと感じるのだろうか。
その悲しさが嫌で、飽きるまで、何度も露店を往復する人もいるようだ。
さて、この先にはお店が一軒も無いようなので、来た道を折り返すことにする。
くるりっと、後ろを振り返ろうとしたそのとき、暗闇の先に何かが動くのを発見する。
少し気になったので、暗い足元に気をつけながらそこに近づいてみる。
30mくらい歩いただろうか。そこには、ダンボール箱がボンと置かれている。
そして、ダンボール箱の上と、その隣に何か動くものが見える。
ますます気になり、持っていた懐中電灯でダンボール箱を照らしてみる。
するとダンボール箱の横には、ボサボサで少しカールのかかった髪のゆっくりれいむが、
ダンボール箱の上には、小汚い顔の子れいむが3匹いた。
4匹ともバッジがついていないので、野良ゆっくりのようだ。
このゆっくりたちは、祭りのにぎわいに乗じて、何か恵んで欲しいと考えているのだろうか、
ダンボール箱の上を見ると、3匹の子ゆっくりといっしょに、ゴミの固まりが置かれている。
ここを通った人が、そのダンボール箱の上にゴミを置いていったのだろうか。
ゴミに目を通してみるが、ゆっくりたちが食べられそうなものはひとつもない。
みじめなこのゆっくりたちに少し同情して、
綿菓子のひとつまみでも、買い与えてやろうかと思った。
ダンボール箱の前まで来ると、ゆっくりれいむがしゃべりだす。
「ゆ!おきゃくさんだよ!おチビちゃんたち、みんなであいさつしてね!!!」
「「「ゆっくちしていっちぇね!!!」」」
子ゆっくりたちは、体全身を使って精一杯、背伸びをしている。
それにしても、このゆっくりは『客』と言ったのか?
客ということは、ここは何かサービスを提供する場所だということになる。
だが、ここには何も品物が置いていないし、ゆっくりが直接、何かサービスしてくれるという感じでもない。
「客というのは俺のことか?」
「そうだよ、おにいさんいがいここににんげんさんはいないでしょ!さあ、なにかかっていってね!!!」
「「「かっていっちぇね!!!」」」
「買うっていっても、肝心の商品がないじゃないか。何もないのに、何も買える訳がないだろ。」
「ゆ!ダンボールさんのうえにある、ゆっくりとしたものがおにいさんにはみえないの?おにいさんはおめめがわるいの?」
「目が悪いのはお前のほうだろ。ここにはゴミと、子ゆっくりしか置いてないじゃないか。
この辺に捨てられたゴミを持ち帰って、処分しろって言いたいのか?それとも子ゆっくりを売るっていうのか?
前者なら悪いが、露店を出してる人に言ってくれ。
後者なら、それはそれでおもしろいんだが・・・」
「なにいってるの!!!おチビちゃんたちはわたさないよ!!!!にんげんさんはばかなの???
それに、これはゴミさんなんかじゃないよ!!とてもゆっくりできるものなんだよ!!!
れいむは、これとあまあまさんをこうかんしてあげるっていってるんだよ!!!」
あきれた。こんなガラクタと、甘いものとを交換するというのか。
それができるなら、餓死する野良ゆっくりなんていなくなるよ。
今の時代は逆に、お金を払ってゴミを引き取ってもらう時代だ。
こんなゴミを買い取れ、って言ったところで、
せいぜい、ベロンベロンに酔っ払った、気のいいおじさんくらいしか相手にしてくれないだろう。
それか、俺みたいに物好きな人間か。
「じゃあ聞いてみるが、これはなんだ?」
「ゆう!わざわざれいむがせつめいしてあげないといけないの?おにいさんはつかえないにんげんさんだね!!!」
商品の説明をするのが店員の役目だろ。
それすら怠り、ガラクタと引き替えにあまあまをくれって言うのか?
それはまさに「こんなわがままな自分を虐めてくだざい、お願いします!」って言ってるようなもんだぞ。
人間に対してそんな対応をするようでは、命がいくらあっても足りない。
まあ、俺は心が広いから、わざわざ付き合ってやっているが。
「使い方が分からないと買えんだろ。とりあえず・・なんだ・・この、枝に葉っぱが刺さってるのは?」
「ゆう!それはゆっくりのかささんだよ!!これであめさんをさけることができるんだよ!!!
これは、みんなにあまあまさんをひとつずつくれたら、こうかんしてあげるよ!!!」
かさだと?こいつは何を言ってるんだ?ただ、葉っぱに小枝を刺してあるだけじゃないか。
こんなもん、葉っぱがあったら1秒で作れるぞ。
それに、葉っぱと小枝の隙間に穴が空いてるから、そのまま使っていれば、隙間から水が垂れてくるのは必至だ。
葉っぱも小枝も見た感じ弱そうだし、こんなものが人間の役に立つ訳がない。
いや、ゆっくりにとっても、全く役にたたないガラクタだ。
まだ、ハツカネズミをハムスターと偽って売るほうが、はるかに良心的だ。
だって、ハツカネズミには価値があるけど、れいむが売ろうとしているものには、一銭の価値も無いんだから。
こんなものを買わされるんなら、このゆっくりをグーで殴っていい、というくらいの特典がついてないとおかしい。
というか、ゆっくりを殴るのが有料で、このガラクタが参加賞、っていう形ならまだ納得できる。
参加賞を帰り道でぶち壊して、余韻に浸る楽しみもできるしな。
いっそのこと、殴られ屋として店を出せば結構いけるんじゃないか?
その方が、たくさんあまあまももらえると思うんだが。ただ、命の保証は無いけどな。
「それはいらんよ。てか、ゆっくりの傘っていうくらいなんだから、俺には使えんだろ。
で、それはなんだ?ただの雑草にしか見えないんだが」
その草と同じ雑草が、周りのあぜ道にいっぱい生えている。どうせ、そのあたりからとってきたんだろう。
「ゆ!これはとるのにくろうしたくささんなんだよ!!とるのにてまのかかるくささんは、
きっとえいようまんてんなんだよ!!!これはあまあまさんふたつとこうかんなんだよ!!!」
「そうか。じゃあ、ちょっと食べてみてくれないか?旨いんなら、いくつか買ってやるよ」
「ゆう!おかいあげだよ!!おチビちゃんたち、おかいあげのおうたをうたってあげてね!!!」
「「「ゆう!ゆゆゆおきゃいあげ~~~♪ゆゆゆおきゃいあげ~~~♪」」」
「まだ買うとは言ってないだろ。早くこの草を食べてみろよ。」
「わかったよ!!ゆっくりたべるよ!!むしゃむしゃっ・・・・
ゆ、ゆぎぃいいにがぃいいいい!!!このくささんにがいよぉおおおお~!!!」
そんなに苦い草を、俺に売りつけようとしていたのか。ひどい話だ
「れいむはおこったよ!!!おわびにおにいさんは、れいむにあまあまさんをもってきてね!!!」
お詫び?何のお詫びだ?自分が採ってきた訳の分からない草を食べて、勝手に自滅しただけだろ?
そんな失態を見せつけられて、お詫びをしてもらうのはこっちのほうだ。
あいかわらず子ゆっくりたちは、お買い上げの唄とかいうものを歌っている。まだ何も買ってないのになぁ。
「あまあまは、ものを売って手に入れればいいだろ。これはビー玉か?」
「ゆ!それはとてもゆっくりできるいしさんなんだよ!!
これをかったにんげんさんは、まいにちれいむたちにあまあまさんをくれないとだめなんだよ!!!」
「「「だみぇなんだよ!!!」」」
ダメなのは、こいつらのあんこの中身だ。完全に腐ってやがる。
「それもいらんなぁ」
「ゆ!おにいさんは、これをかわないとだめなんだよ!かわないおにいさんはゲスなんだよ!!!」
「「「ゲシュだよ!!!」」」
何故これを買わないとだめなのか、何故これを買わないとゲスになるのか、その説明は全く無い。
俺を脅して、無理にでも買わせようとするつもりなのか。新聞の押し売りよりもはるかにひどい。
これは絶対に価値があるんだよ、っていう自信満々な顔をしてるのも、無性に腹が立つ。
「だからいらんって。ところで、この割り箸の片割れはなんだ?ゴミにしか見えないんだが。」
「ゆ!にんげんさんはそれをつかってむしゃむしゃするんだよ!!おにいさんはそんなこともしらないの?
そんなおにいさんには、とくべつにあまあまさん2つとこうかんしてあげるんだよ!もってけどろぼうさんなんだよ!!!」
泥棒はお前だ。人間の物を勝手に自分たちの物にしやがって。
それに、ちょっと覚えたから使ってみたよ!賢いでしょ!的な言葉をいちいち使ってくる。
何度も何度もゆっくりを叩き潰したい、という衝動がこみ上げてくる。
置いてある物についても、つっこみどころは多い。
この割り箸を売るにしても、土でドロドロに汚れているし、おまけに片側しかないので箸として使えない。
これをあまあま2つと交換だ、と言うんだから、
その根性というか、図太さだけは、人間をはるかに凌駕していると言える。
さすがに、ゆっくりを相手にするのは疲れてきたので、そろそろ帰ることにする。
ガラクタに並んで、3匹の子ゆっくりたちが、ダンボール箱の上をころころと転がって遊んでいる。
全く、物を売る者の対応ではない。
転がっている子ゆっくりのうち、1匹を手で押さえ、軽くデコピンをする。
ピチン、という良い音がした。続けて、残りの2匹にもデコピンをかます。
ちょっと、ゾクゾクしてきた。
「ゆぎぃいい!!!いちゃいよぉおおおお!!!!」
「やめてね!!!おチビちゃんたちがいたがってるよ!!やめないと、れいむはプクーするよ!!!」
「「「プキューしゅるよ!」」」
だが止めない。子ゆっくりたちの悲鳴を聞き、ますますゾクゾクしてきた。
さらに親れいむにもデコピンをかます。そしてゆっくりたち全員に、繰り返しデコピンをかましていく。
「いちゃいよぉおおおお~~!!!たすけちぇおきゃ~しゃん!!!!!」
「ゆぎぃいいい!!!いだいよぉおおお!!!!!!なんでにんげんさんはやめてくれないの?
れいむはもうかんかんだよ!もっとプクーするよ!!!」
「「「プキューしゅるよ!!!」」」
デコピンをする手が緩まないので、ゆっくりたちのプクーにも力が入る。
かまわずデコピンを続けていると、ゆっくりたちの顔がみるみるうちに赤くなっていく。
ちょうど良い色になったところで、一匹の子ゆっくりを持ち上げ、下から一気に割り箸で突き刺す。
見事、赤く艶やかなゆっくりんご飴ができた!
「ゆぎゃぁあああああああ!!!!!!!!いぢゃいいいいいいいいいい!!!!!!!!」
「ゆぁあああああああああああ!!!!れいむのおチビちゃんがぁああああああ!!!!!」
かまわず他の2匹も、その辺に落ちている割り箸に刺していく。
子ゆっくりたちは力いっぱいに悲鳴をあげるが、横の親ゆっくりはただ泣き叫ぶだけだ。
これはヤバイ、癖になりそうだ。体全身がゾクゾクしてくる。
割り箸に突き刺さった子ゆっくりたちは、体をふるふると動かして逃れようとするが、割り箸が抜けそうな気配は全くない。
はたから見ているだけの親ゆっくりは、赤かった顔を真っ青にしている。
「にんげんさん、はやくとってあげてね!!このままじゃおチビちゃんがゆっくりできないよ!!!
れいむはどうなってもいいから、おチビちゃんをたすけてあげてね!!!」
そう言われたので、親ゆっくりにも割り箸を突き刺す
「ゆぎゃぁあああ!!!!いじゃいよぉおおおおおおおおお!!!!!!!はや゛ぐどっでよ゛ぉおおおおおお!!!!!
お゛ヂビぢゃんはどう゛なっでもい゛いがら゛でい゛む゛をばや゛ぐだずげてね゛!!!」
これで、青ゆっくりんご飴の完成だ!
それをガラクタと一緒に、ダンボールの上に突き刺して並べてやる。
この商品だったら、誰か通りかかった人が買ってくれるかもしれないな。
あぁ、いいことをしたら腹が減ってきた。
もう、リンゴ飴は食べる気がしないから、たこ焼きでも食べて帰ろうか。
露店を再びまわってみると、ほかの暗い場所でも、自分の店を出しているゆっくりがたくさんいた。
全員、集めたガラクタを売ろうとしているようだ。
先ほどの場所で、ガサガサとダンボールの揺れる音と、ゆっくりの悲鳴がわずかに聞こえる。
だがその音は、人のにぎわう音によってかき消されていく。
人通りの少ないこの場所で、割り箸に突き刺さっているゆっくりたちに気がつく人は少ないだろう。
ゆっくりんご飴に気がついた人も、フッと鼻で笑ってみんな素通りしていく。
翌日、屋台の片付けをする人が、昨日のゆっくりたちをゴミ袋に詰めていた。
ゴミ袋の中には、同じようなゆっくりんご飴が30個ほど入っていた。
置いてあるものを真似して、誰かが作ったのかもしれない。
露店は、多くの参拝客を寄せ付けるのと同時に、多くのゆっくりたちを寄せ付ける魅力があるようだ。
しかし、その恩恵にあずかることができるゆっくりは、ほとんどいない。
鉄籠あき
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最終更新:2010年10月13日 11:08