『存亡を賭けた戦い(前篇)』
D.O
ここは、とある山奥の森の中。
人間など影一つなく、かと言って大型動物なども生息していない。
木々ばかりが豊かに生い茂り、豊かな草花と安定した気候が、
多くの小動物や虫達に対して十分すぎるほどの恵みを与えていた。
「ゆゆ~ん。ゆっくりしてるね~。」
「ゆっくりできるね~。」
「ゆぅ~ん!ゆっくり~。」
その恵みの恩恵は無論、脆弱饅頭生物であるゆっくりも例外なく受けている。
いや、むしろこの森は、ゆっくりのために存在するのではないかと言うほど、
ゆっくり向けの条件がそろっていたと言っていいだろう。
「ゆゆっ!おちびちゃん、とってもすてきなあなだよ!」
「ゆぁーい!ゆっくちー。」
「ここは、れいむたちのおうちだよ!!ゆっくりしていってね!!」
「ゆっくちしちぇっちぇにぇ!!」
ゆっくりのおうちにちょうど良い、中が空洞になった古木や倒木は、山ほどある。
サイズさえこだわらなければ、洞窟や岩の隙間、灌木の茂みの奥まで、
全ての家族が別荘を2~3か所づつ作ってもなお、住み家に困るゆっくりがいないほどだ。
「まりさ!ありすね、きょうはみずくささんがたべたいわ!」
「まかせるのぜ!」
まりさ種は森の池に帽子で浮かび、水草や虫を捕まえ、
「ちぇーん!ばったさん、そっちにいったよー!」
「わかるよーっ!!ぱくりっ!!」
ちぇん種は素早い動きで陸の虫を狩り、
「みょーん。くだものさん!たくさんおちてみょーん。」
みょんは巧みに棒を使って、木の実や果物を落とし、
「ぷーちぷーち。ありしゅ、こんなにくさしゃんあつめちゃよ!」
「あら、すごいわ~。さすがありすのおちびちゃん、とってもとかいはね。」
あまり狩りの得意でないありす種は、近場で柔らかい雑草や花を集める。
その代わり、ゆっくりプレイス内の広場などを維持管理するのもありす種の役割だ。
「むきゅ!おちびちゃんたち、きょうはひとりすっきりーのしかたをおしえるわね。」
「ゆっくちりかいしゅるよ!!」×300くらい
「むきゅ、じゃあ、やわらかいはっぱさんのすみっこに、ぺにぺにを・・・」
そして記憶力の良いぱちゅりーは、群れの長や幹部を務めたり、
あるいはおちびちゃん達の教師として、次代の主役達を育てる役割をになっている。
もちろん、体の弱いまりさ種もいれば足の速いありす種もいるので、その辺は融通を利かせて対応しているのだが、
とにかくここの群れのゆっくり達は、みんなで仲良く協力し、支え合い、楽しくゆっくりしていた。
まあ、ゆっくりという生物の性質上、たまにはワガママを言ったり、集団生活が苦手な者も現れることはある。
だが、その結果問題を起こしたゆっくり達も、酷い制裁を受けることはなく、
短期間の禁固刑や、病気ゆっくりへの奉仕活動等をさせられる程度で許された。
そもそも問題と言っても、せいぜい食料の横取りとか、ケンカで手加減し損ねたくらいのもの。
衣食足りて礼節を知る、というものかもしれないが、この豊かな森で暮らしていては、
悪質なゲス行為を考える必要もないのかもしれない。
ここは、楽園とまでは言わないまでも、限りなく理想に近い『ゆっくりぷれいす』であった・・・あの日までは。
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ぽかぽかと暖かい陽気のある日。
群れの居住地域から少し離れた、木々の切れ目に出来た小さな広場で、
何組かのゆっくり一家がピクニックを楽しんでいた。
「ぽーかぽーかだねぇ~。」
「しゅーやしゅーや・・・ゆっくち~。」
いかに理想的なゆっくりプレイスとは言え、野生である以上『働かざる者食うべからず』の原則は免れない。
父ゆっくりは、家族と群れのために毎日狩りに出かけ、
母ゆっくりはおうちでおちびちゃん達の世話をしながら、食料備蓄やお布団用の枯れ草の管理もしなければならない。
意外と、何も考えずに家族団らんを楽しむ機会は少ないのだ。
「おとーしゃーん、れいみゅとしゅーりしゅーりしちぇにぇ。しゅーりしゅーり、ちあわちぇー!」
「うふふ、おちびちゃん。すーりすーり。」
「おとーしゃーん。まりしゃ、たかいたかーいしちゃーい。」
「ゆぅん。じゃあ、おとーさんのおぼうしにのってね。」
「ゆわーい!おしょらとんでるみちゃーい!」
だから赤ゆっくり達は、ここぞとばかりに両親に甘える。
「わきゃるよー。おしょらが、きりぇいだにぇー。」
「むきゅん!おはなしゃんが、いっぱいありゅわね!」
「ときゃいはなちょうちょさん、まっちぇにぇ!まっちぇ~。」
それに幼い赤ゆっくり達は普段、万が一ということもあるので、遠出どころかめったに外出もさせてもらえない。
このピクニックは、赤ゆっくり達にとっては胸がワクワクときめく大冒険でもあるのだ。
「ごーくごーく、ゆっくちー。」
「おちびちゃん。みずあびですっきりーして、とかいはになりましょう。」
「ときゃいはー!きれいきれいは、ゆっくちできりゅわ!」
だから群れで、休暇とピクニックが許可された赤ゆっくり達は、この機会に目いっぱいゆっくりする。
水浴びをして、両親に甘え、外の空気を吸い、日向ぼっこを楽しむ。
その姿に両親もゆっくりして、また明日以降のための英気を養うのである。
当然ながら普通の野生ゆっくりならばそんな余裕は無く、食べ物を求めて働き通しなので、
これもゆっくりプレイスで産まれたからこその贅沢であっただろう。
よく遊び、お弁当を食べ、水浴びを終えたゆっくり一家達数十匹は、広場のど真ん中に仰向けに寝転び、
太陽の光を浴びながら、ゆっくりと昼寝を楽しんでいた。
・・・キラッ!
「?」
ふとその時、日の光に一瞬影が差した。
「ゆぅ?」
その影は、最初は勘の良い赤れいむが一匹気づいた程度だったが、
・・・キラッ!キラッ!
「「「?」」」
徐々に、周りでゴロリと昼寝をしているゆっくり達も異変に気付き始める。
・・・太陽の中に何かいる・・・
それは、目の錯覚では無かった。
最初こそ太陽の光がチラつく程度だったが、やがてその影は、ハッキリとした輪郭を持ってれいむ達に近づいてきた。
それは、ゆっくりに近いまん丸のシルエットであった。
やがて影は、ぱちゅりーのようなお帽子も形作り始め、
そして、ゆうかりんのようにウェーブがかった髪の毛も見え始める。
最後に見えてきたモノは・・・コウモリのような羽のシルエット。
「「「ゆぅ・・・ゆ?」」」
そしてそれが、色と表情まで見えるほど近づいた時、ついに群れのゆっくり達から、
引き裂くような叫び声が上がったのである。
「れ、れ・・・れみりゃだぁぁああああああ!!?」
「うー!」
それは、一匹の捕食種、れみりゃであった。
「うー!うー!」
その笑顔は、彼女が背負う太陽のように明るく、
その鳴き声は、『一緒に遊ぼう!』とでも言うかのように楽しげで、
人間であれば、思わずつられて笑顔になってしまうほど愛らしい姿であった。
「ゆぁぁああああ!?どうぢでれみりゃがいるのぉおおおお!?」
だが、群れのゆっくり達は、その邪悪さを欠片も感じさせない姿を見ていながら、
恐怖で身動きすら取れないほどに怯え、激しく叫び続ける。
「うー・・・あまあまー。」
そう、見た目こそ群れのゆっくり達同様、無力な饅頭そのものであるれみりゃだが、
彼女は『捕食種』・・・ゆっくりを狩り、餡子を吸い、喰らう存在。
地を這う脆弱な普通のゆっくり達にとって、この世界のあらゆる災害、生物を超越した、恐怖の象徴であった。
そして・・・惨劇が始まる。
最終更新:2010年10月13日 11:09