anko1853 存亡を賭けた戦い(中篇)

『存亡を賭けた戦い(中篇)』
   
    D.O




「ゆぁ、ゆぁぁああああ!!みんな、にげでぇぇえええ!!」

宙に浮かぶれみりゃ以外の、全てが凍りついた世界から最初に抜けだしたのは、一匹の成体まりさであった。
ピクニックに来たゆっくり家族達の護衛として同行してきた、群れでも将来を嘱望されている若まりさ。
まりさだって恐怖で目がくらむばかりだったが、責任感に支えられて素早く立ち直ることが出来たのだ。

まりさは、お帽子から木の棒を取り出して剣のように構えると、周囲のゆっくり達に向かって大声で叫んだ。

「まりさがじかんをかせ『べしゃんっ!』びぇ・・・」
「うーっ!!」

そしてその頭上に、れみりゃは勢いよく着地した。

その一撃はまりさをぺちゃんこに潰し、餡子を周囲のゆっくりの顔面や頭上にばら撒く。
広場で凍りついたように動かないゆっくり達は、まだ生暖かい餡子を浴び、その臭いをかぐことで、
ついに恐怖を爆発させたのであった。

「うっうー!!あまあまー!!」
「「「ゆ・・・ゆびゃぁぁあああああ!?れみりゃぁあああああ!?」」」

広場にいた成体ゆっくり達は錯乱しながら、とにかくれみりゃのいない方向へと散り散りに逃げた。

・・・いまだ恐怖に凍りついたままのおちびちゃん達を残して。



成体ゆっくりのいなくなった広場には、最初の犠牲者となったまりさのフィアンセである、若く美しいありすと、
両親に置き去りにされた赤ゆっくり十数匹だけが残された。

「や・・めちぇ・・・きょわいよぉ・・・」
「ゆっくちしちぇ・・・ゆっくちぃ・・・」
「ゆぁーん、みゃみゃ~。」

れみりゃは、その恐怖に染まった赤ゆっくり達の顔を見て、満足そうに微笑んだ。
その姿は、今日の晩ご飯のおかずを品定めしているかのようであった。
だが、その場に残っていた美ありすに視線を移して、少々不満げな表情になる。

「どうぢで・・・どうぢでまりさを・・・まだ、ふぁーすとちゅっちゅも、じでながっだのよぉぉ・・・」

美ありすの表情には恐怖は無く、ただれみりゃへの怒り、憎悪だけが浮かぶ。
ゆっくりの餡子が、怯え苦しむほど味がよくなることを知っているれみりゃにとって、それは多少不満な結果であった。

そして、まりさの形見である木の棒を口に咥えて構える美ありすと、れみりゃは真正面から向かい合った・・・

「いながものぉ。ごろぢでやる・・・ごろぢでやるぅぅううう!!」
「うー。」

・・・・・・ぶちっ。



それから10分ほど経って、れみりゃ来襲の知らせを聞いた長ぱちゅりーと護衛ゆっくり達が広場に到着した時、
そこには想像を超えた惨状が広がっていた。

「ごろ・・・ぢで・・・」

広場全体に餡子の臭いが立ちこめる中、
群れでもその美貌で人気者だった美ありすが、カスタードまみれで打ち捨てられていたのだ。

「む、むきゅ。あ、ありす、しっかりして・・・むきゅっ!?」
「ごろぢで・・・ごろぢでぐだざい・・・」

長ぱちゅりーは、その姿を見て絶句する。

美ありすは、
かつて青空の美しさにたとえられた両目を抉り取られ、
慎ましくもしっとりと濡れていたまむまむには、まりさの形見であった木の棒を突き刺されていた。
そして、その頭を飾っていた絹のような金髪と紅いカチューシャは毟り取られて打ち捨てられ、
代わりに死んだまりさのモノであった、死臭を放つお帽子をかぶせられている。

かつて美ありすだったゆっくりは、婚約者を殺された怒りすら剥ぎ取られ、
恐怖と苦痛に表情を歪ませながら、死を懇願するだけの汚い饅頭に成り下がっていたのであった。



「うーっ!!」
「む、むきゅぅぅううう!?」

その姿に呆然となった長ぱちゅりー達を正気にもどしたのは、上空からかけられた嬉しそうな声。
そしてその後に続いた、引き裂かれるような甲高い泣き声であった。

「ゆぴゃーん!たしゅけちぇー!!」
「ゆっくちおろしちぇー。きょわいよー!!」
「おしょら・・・おしょらとんでるみちゃーい!!」

れみりゃが、地面に転がる美ありすの残骸、その真上に浮かんでいる。
そしてその口には、髪の毛を咥えられ連れ去られようとしている、5匹のおちびちゃん達の姿があった。

「む、むきゃぁぁああ!!まって、れみりゃ!!おちびちゃんたちをもっていかないでぇぇええ!!」
「うーっ!うーっ!」
「「「ゆんやぁぁー!?おとーしゃーん、おきゃーしゃーん・・・」」」

その長ぱちゅりーの顔を見て、大変満足そうに微笑んだれみりゃは、
地面を這うゆっくり達を置き去りにするように後ろに振り向くと、そのまま振り返りもせずに飛び去っていった。



「・・・おちびちゃ・・・どうぢで・・・」
「ごべんでぇ・・れいむが、おいていっぢゃっだがらぁ・・・」
「むきゅぅぅ。みんなはわるくないわ・・・あいては、あのれみりゃなんだから。」

長ぱちゅりーの周囲では、おちびちゃん達を連れ去られた、あるいはこの場で食い尽くされた両親達が、
子供を置いて逃げてしまった自分達を責め続けていた。
長ぱちゅりーと群れのゆっくり達は、その両親達を必死になぐさめる。
これまでろくに脅威を体験したこともない両親達が、恐怖に駆られて逃げてしまったとしても、どうして責められるだろう。



それに実のところ、長ぱちゅりーや幹部達は、泣いたり、身内を責めたりしている余裕など全くなかったのである。

「たいへんなことになったわ・・・。れみりゃは、またくるわ。むきゅ。」

そう、この出来事は、喰う者と喰われる者の、戦いの始まりを意味していたのだから。



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群れのゆっくり達が悲嘆にくれている頃、れみりゃのおうちでは・・・



れみりゃが赤ゆっくり達を咥えて帰っていった先は、恐らく元は鳥の巣であっただろう、
木の枝などで作られた、樹上のおうちであった。

「「「みゅーっ!!」」」
「うー、うぅーっ!」

そこでは、ぷりぷりと可愛らしい3匹の赤れみりゃが、群れを襲撃したれみりゃを迎えてくれていた。
そう、あのれみりゃは、この赤れみりゃ達の母親なのだ。

「みゅーっ、みゅーっ!」
「うーっ、すーりすーり。」
「みゅー?あみゃあみゃーっ!」
「うー・・・」

母れみりゃは、狩りの帰りでヘトヘトになった心身を癒そうと、
可愛い我が子達とすーりすーりするが、赤れみりゃ達はお構い無しにご飯をねだる。
母れみりゃは少々残念そうな表情になったが、まあ、子供というのは種を問わずわがままなものだ。
気を取り直して、さっそく夕食に取り掛かることにしたようである。

「やめちぇ・・・。あんよしゃんいちゃいぃ・・・」
「うっ!」

ぽいっ。

「「「あみゃあみゃー!!」」」
「ゆ、ゆぴぃぃいいい!?やめちぇ、かまにゃいでにぇ!あんこしゃんすわにゃいでぇぇええ!!」

母れみりゃは、食べ物をねだるひな鳥のように上を向いてお口を開ける赤れみりゃ達の中に、
狩りの成果である、あんよを噛み切り動けなくした赤れいむを放り込んだ。

「「「ちゅーぱ、ちゅーぱ、ちあわちぇー!」」」
「ゆぴ・・・もっちょ・・・っくち・・・・・・」

赤れいむに群がった赤れみりゃ達は、あっという間に赤れいむにかぶりつき、餡子を吸い尽くす。
どうやら狩りの成果は、赤れみりゃ達のお口に合った様だ。
母れみりゃも、美味しそうに赤れいむの餡子を吸う赤れみりゃ達を見て、嬉しそうに微笑む。

「ゆぴぁぁあああ!?やめちぇぇぇええ!ありしゅ、しにたくにゃいぃいいい!!」

ぽーいっ。

「「「あみゃあみゃー!!」」」
「こにゃいでぇええ!?やめちぇにぇ!・・・やめちぇぇぇええええ!!」

お次は赤ありす。こちらも口に合ったようだ。
次は赤まりさ、その次は赤みょん、赤ちぇん。
赤れみりゃ達は、あっという間に母れみりゃの狩りの成果を食べつくすと、満足げにお互いの口の周りを舐めあい、
すーやすーやと眠りについてしまった。
結局母れみりゃのすーりすーりはおあずけを食らった形になり、
母れみりゃはやはり少し残念そうな表情になったが、それでも赤れみりゃ達の可愛い寝顔を見て、幸せそうに微笑んだ。

母れみりゃは思う。
ここの狩り場は素晴らしい。
生息している標的は、反応が鈍いから狩りやすいし、丸々と太って味もよい。
特に美味な、赤ゆっくりが目移りするほどたくさんいるのだ。
これなら、おちびちゃん達もすくすくと育ってくれるだろう。



れみりゃ種は、ふらん種やるーみあ種同様に夜行性だが、別に日に当たったら灰になるというわけでもない。
なので本能を曲げて多少無理をすれば、昼間でも狩りはできるのだ。実際やるれみりゃは珍しいが。
このれみりゃの場合、子供達のために活動時間をずらしたのである。

通常のゆっくり達は昼行性なのだから、昼間に狩りをしたほうが、成果は出しやすいのだ。
そしてこれは、夕方以降はおうちに潜る、慎重なゆっくり達でも標的にできるということであった。
あの群れに、逃げ場はなかった。



翌日、れみりゃは再び翼を広げた。
愛する我が子達に、お腹一杯の愛情を与えるために・・・



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一方群れの方は、これ以上仲間を食われ続けてはたまらない。
ここ数年発動されたこともない、緊急事態対応の非常配備態勢、
通称、『ゆっくりしてちゃだめだよ宣言』が発動されていた。

「むきゅ!れみりゃはきっと、またやってくるわ!みんな、ゆっくりしないでむかえうつのよ!」
「「「ゆっくりりかいしたよ!!」」」

群れは長ぱちゅりーの指導の下、一丸となって対れみりゃ準備を開始した。

ゆっくりプレイスの居住区域周囲に、浅い堀と気休め程度の柵が張り巡らされ、
それらはトゲトゲのあるツタで補強される。

要所要所には大きな石を積み上げた見張り台が設置された。
そこには棒で武装したみょん種と、とにかく声の大きなれいむ種が2匹一組になって、
12時間弱態勢(夜はすーやすーやの時間)で見張りにつく。

おちびちゃん達は護衛数匹+世話をする母ゆっくりに連れられ、
ゆっくりプレイス中央辺りの、大小数十箇所の洞窟に避難させられた。

それ以外の戦える成体ゆっくり全員には、太めの木の枝が武器として配られ、
れみりゃを迎え撃つ態勢が整えられたのであった。

これは数年前、レイパーありすの集団に群れが襲われた時に考案された対処法だった。
その当時とられた戦法は、ゆっくりプレイス内に立てこもる持久戦法。

レイパー達は理性など捨てているので、押しまくる戦い方しか出来なかった。
だから、最初の一撃を防ぎきれば、後は食糧不足で自滅していく相手だったのである。

とは言っても、その当時を知っているゆっくりなどは一匹も生き残っておらず、
長ぱちゅりー自身も親の親あたりから伝え聞いた程度の対策であったのだが。



・・・つまりこれらの準備が、どのような相手に、
どの程度効果を発揮できるかということは、群れの誰も知らなかったのである。
とにかく、かつて外敵を撃退した手段を使えば、今回のれみりゃでも撃退できると信じていたのだった。



「むきゅ。すこししんぱいだけど、できるかぎりのことはしたわ。」
「わかるよー。これだけじゅんびしたら、れみりゃもはいってこれないねー。」
「むきゅぅ・・・じゃあ、みんなをあつめて。」
「わかるよー!」

こうして、群れで出来る限りの準備は完了した。
長ぱちゅりーは万全の準備を自分の目で確認すると、ゆっくりプレイス中央広場で、群れの戦士達全員に集合をかける。
こうして集合が完了した所で、長ぱちゅりーは広場を見下ろす大きな岩の演壇の上にのぼり、
群れのみんな、そして誰よりも自分自身の戦意を鼓舞するために演説を始めたのであった。



「むきゅっ!みんな、こんどのたたかいは、ゆっく」

ふわりっ。

その長ぱちゅりーの背後に、母れみりゃが音もなく舞い降りた。

「うー!がぶっ!!」
「・・・むぎゅぁあああああ!?どうぢでええぇぇ!?」

ひゅーん。

れみりゃは広場に集合した群れのゆっくり達の目の前でぱちゅりーに噛み付くと、
そのままぱちゅりーを咥えて天高く飛び去っていった。

「「「ぽかーん。」」」

戦いに向けてボルテージを上げようとしていた矢先に、目の前から長ぱちゅりーが連れ去られ、
群れのゆっくり達は状況が全く理解できず、口をあんぐりと開けたまま、長が消えていった空を見上げ続ける。



そして約10秒後。

・・・べしゃっ。

「ゆ・・・ゆ・・ゆぁぁあああ!?ぱちゅりぃぃいいいい!?」

体内のクリームが吸い尽くされてペラペラになった長ぱちゅりーが落ちてきたことで、
ようやく群れの中から叫び声があがったのであった。



「ゆびゃぁぁあああ!?れみりゃごわいぃいいいい!!」
「ごっぢごないでぇぇえええ!!」
「ゆっぐぢぃ、ゆっぐぢぃいいいい!!」

柵と堀に守られているはずなのにゆっくりプレイスのど真ん中に侵入され
(れみりゃは空を飛んでくるのだから、最初から何の対策にもなっていなかったのだが)、
しかも戦う気構えが出来る前に長を殺されたゆっくり達は、武器の棒も投げ捨てて散り散りに逃げ出した。

「うっうーっ!!」

れみりゃはその群れの情けない姿を満足そうに眺めると、
広場のそば、つまりはゆっくりプレイス中央付近のおうちに避難していた、
大量の赤ゆっくりの方へと向きを変える。

「ゆぇーん。こわかっちゃよー。」
「いりぐちをしめるよ!これでれみりゃもはいってこないからね!!」
「「「ゆっくちー!!」」」

まあ、いかに動きの鈍い赤ゆっくり達も、さすがにこの騒ぎの中では全員洞窟に逃げ込み終わっていた。
入り口も母ゆっくり達が厳重にバリケードを築き、しかも棒で武装したみょん数匹が最前列を固める。

外では絶対的な力を発揮するれみりゃも、この状態でうかつに近づくことは出来なかった。

「うー、あまあまー・・・うっうー!!」

そこで、自分の失策に気づいたれみりゃは、今後は戦法を変えることにし、その場を後にした。



それぞれの洞窟の中では母ゆっくり達が、恐怖で泣き続ける自分のおちびちゃん達に、
すーりすーりぺーろぺーろしてあげながら、れみりゃが去っていくのを待ち続けていた。

「ゆぁーん、おきゃーしゃん。まりしゃこわいのじぇー。」
「ぺーろぺーろ、あんしんしてね。ここなられみりゃもはいってこないよ。」
「おきゃーしゃん・・・れいみゅ、おとーしゃんがしんばいだよ・・・」
「ゆぅぅ・・・すーりすーり。だいじょうぶだよ、おちびちゃん。おとーさんはつよいから、れみりゃなんかにまけないよ。」
「しょ、しょーだよね!れいみゅ、ゆっくちりかいしちゃよ!!」

この母れいむは、つがいである父まりさとは2回も一緒に冬を乗り越えた、群れでも評判の仲良し夫婦であった。
その間に育て上げたおちびちゃん達は、人間5人の両手足の指の本数でも足りないほど。
今この洞窟にいるおちびちゃんだけでも、赤れいむが7匹に赤まりさが1匹と、子沢山夫婦としても知られていた。
しかし、その父まりさも群れの一員として、戦士として戦う義務を背負っている。
母れいむは、父まりさを信じて待つことしか出来なかった。

「・・・ゆびゃぁぁああああ!!」
「ゆ、ゆゆゆ・・・あ、あれはまりさのこえだよ!?まりさ、まりさぁぁああ!!」

その時、母れいむの潜む洞窟の中まで響いてきた叫び声。
それは、確かに父まりさのものであった。

「みょ、みょん、だめみょん!いりぐちにちかづくなみょん!」
「みょん、おねがいだよ!おそとをのぞくだけだから、ゆっくりいかせてね!!」

護衛みょんも、先ほどの声は聞いていた。
やむを得ずみょん達は、いざというときは母れいむごとれみりゃを突き殺す事も覚悟する旨を伝え、
一緒にバリケードの隙間から、外を覗いた。



「・・・ゆひ・・・あんよ・・おちびちゃ・・・ぢにだぐないぃ・・・」
「ま、ま、まりさぁぁああああ!?」



洞窟の入り口からほんの数メートル先に、父まりさはいた。
ただし、無事からは程遠い状態で。

「れいむぅ・・・れいむぅぅ・・・ゆっぐぢあいたいよぉぉ・・・」
「まりさ、まりさぁぁあ!!れいむはここだよぉおお!!」

赤ゆっくり達が隠れてしまった腹いせに、散々オモチャにされたのであろう。
父まりさは両目玉をくり抜かれ、まむまむとあにゃるにねじ込まれていた。
しかも持ち上げられては地面に落とされを何度も繰り返され、
あんよはほとんど砕け散っており、どう見ても助からない大怪我を負っている。

護衛みょん2匹と母れいむは、周囲にれみりゃがいないことを確認し、瀕死のまりさの元へと向かった。
洞窟に母ちぇんと母ぱちゅりー、赤ゆっくり達3家族分15匹を残して。
父まりさの悲惨な姿は、とてもおちびちゃん達に見せられるものではなかったのだった。

「まりさぁ・・・まりさぁ、ゆっくりしてぇ、ぺーろぺーろ・・・」
「れい・・・むぅ・・・おちびちゃ・・・だいじょうぶ・・・?」
「おちびちゃんたちはげんきだよ!ゆっくりしてね!」
「も、っと・・・ゆっくり・・・」

「まりさぁ・・・まりさぁぁああああ!!」

あっという間だった。
母れいむを含めて群れのみんなで必死にがんばって、ようやく戦闘準備を終えたばかりだったのに、
堀も柵も見張りも、戦闘部隊もなんら役に立たなかった。
長ぱちゅりーはなすすべなく命を落とし、夫である父まりさはボロクズにされた。

「まりさぁ・・・すーり、すーり・・・ゆぅぅ・・・」
「「みょーん・・・。」」

多くの家族が洞窟の中で泣き続ける中、母れいむはすでに息絶えた父まりさに這いより、すーりすーりし続ける。
まるでそうしていれば、いつか再びまりさが目を覚ますと信じているかのように。



「むきゅぁっ!?ゆべぇっ」「わがらな・・・ぎびゅ・・・」
「ゆっぴゃぁぁあああ!!おきゃーしゃぁぁああん!?」

「「「ゆ?」」」

そして、母れいむと護衛みょん達が離れ、バリケードが崩されて手薄になった洞窟に、
れみりゃが音もなく侵入した。

母ちぇん、母ぱちゅりーは一瞬で叩き潰され、おちびちゃん達は逃げる暇も与えられず捕まっていく。

「「「・・・ゆ?」」」

捕まったおちびちゃん達は、れみりゃがツタで編んだ不恰好な手さげカゴに手際良く詰め込まれていき、
母れいむと護衛みょんが呆気に取られている間に、一匹残らず捕まってしまった。

「うーっ!!」
「たしゅけちぇー!!おしょらとんでるみちゃいぃぃぃ・・・」

そして、洞窟にいたおちびちゃん達15匹は、カゴに乗せられたまま空高く連れ去られていったのであった。



「ゆ・・・?ゆぅ・・・?」

・・・母れいむには、もう冷たくなった父まりさの亡骸だけが残された。



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「「「うーっ!あみゃあみゃー!!」」」

母れみりゃは大満足であった。
なにせ大量、15匹もの赤ゆっくりを捕獲できたのだから。
クソ不味くて玩具か自分用の食事にしかならない成体ゆっくり達にも、囮という使い道があった事を学習し、
母れみりゃは、今後はもっと狩りに工夫していこうと考えていた。

「うっうー!!」
「あみゃあみゃ、あみゃあみゃー!!」
「やめちぇー!ゆっくちさせちぇー!」

ともあれ、おちびちゃん達のご飯の時間である。



母れみりゃによってカゴに乗せられて、あの母れいむのおちびちゃん達8姉妹も、為すすべなくここまで連れてこられていた。

「おにぇーしゃん・・・まりしゃ、ゆっくちしちゃいよぉ・・・」
「まりしゃ、だいじょうぶだよ。れいみゅがゆっくちまもりゅからにぇ。しゅーりしゅーり・・・。」
「しゅーりしゅーり、しゅこし、ちあわちぇ。」

末っ子まりさはこれまで、姉妹で唯一のまりさという事もあり、父まりさからも、姉達からも、愛情を一身に受けて育ってきた。
このような恐ろしい状況には、一匹であれば絶対に耐えられなかったであろう。
それでも何とか落ち着いていられたのは、姉れいむ達の献身的な慰めがあったからである。
特に長女れいむは末っ子まりさを可愛がっており、こんな状況下にありながら、
自分の命以上に末っ子まりさを心配し、すーりすーりして慰め続けていた。

「うっうー!!」
「あみゃあみゃ、あみゃあみゃー!!」

その時末っ子まりさに、母れみりゃの長い舌が伸びた。
その舌は、必死で妹を守ろうとする姉達を押しのけて、末っ子まりさをカゴの外に連れ出す。

「やめちぇにぇ!まりしゃをおろしてあげちぇにぇ!こわがっちぇるよ!」
「ゆぁーん、おにぇーしゃーん!!」

前日まで赤れみりゃに与えられていたのは、動けないようにあんよを引き裂いた赤ゆっくり達だった。
それは、まだ空も飛べず、元気に跳ねまわる赤ゆっくりでは捕えるのが困難な、赤れみりゃに配慮した処置である。
だが、もうそろそろ赤れみりゃ達も子れみりゃと呼んでいいサイズまで成長し、おうちの中を元気に動き回るようになってきた。
そんなわけで、今日から母れみりゃは、おちびちゃん達に『動けるあまあま』を与えることにする。
狩りの練習、その第一歩として。

「ゆぁーん、おろしちぇー。」

ぽいっ!べしゃ。

「ゆぴぃぃいいいい!?いちゃいぃいい!!」
「まりしゃぁあぁあ!?どうしちぇそんなことしゅるのぉぉおお!?」

末っ子まりさは、れみりゃのおうちの中央に放り捨てられた。

「ゆぅん・・・ゆぁ!?まりしゃのおぼうち、おぼうちかえしちぇぇぇええ!!」

母れみりゃの舌に、大事なお帽子を絡め取られたまま。

「うー。」
「かえしちぇにぇ!ゆっくちかえしちぇにぇ!」

末っ子まりさは先ほどまでの恐怖も忘れ、母れみりゃの口元にくわえられたお帽子めがけて、
何度も何度もジャンプし続ける。

「ゆぁぁああん!どうぢでいもうちょをゆっくちさせてくれにゃ・・・ま、まりしゃ、にげちぇぇぇええ!!」
「おぼうち!おぼう『がぶっ!』ゆ、ゆぴぃぃいいいい!?いぢゃいぃぃいい!?」

そして、その場で跳ねる事しか出来なくなっていた末っ子まりさは、いつの間にか赤れみりゃ達に囲まれていた。
姉れいむ達の目の前で、『狩り』が始まったのである。

「おぼうち『かぷっ!』ゆぴぃ!?かえしちぇぇ『がぢっ!』ゆぴゃぁ!!『がぶりっ!!』いちゃぁああい!!」
「やめちぇぇぇえええ!やめてあげちぇにぇ!いたがっちぇるよぉおおお!!」
「「「うーっ!うーっ!」」」

末っ子まりさは赤れみりゃに噛まれても、なおも帽子めがけてジャンプし続ける。
命とお飾り、それはゆっくりにとって、同じくらい大切なモノなのだから。
もちろん、赤れみりゃ達はお構いなしだった。
おうちの真ん中で、末っ子まりさは3匹の赤れみりゃに弄ばれ続ける。
これは、れみりゃ種が本能に従って行う遊びであり、狩りの練習の基礎の基礎でもあった。
こうしてゆっくりをいじり回し、弄ぶ中で、より効率のよい力加減、距離の取り方などを学んでいくのである。

・・・やられる方は、たまったものでは無かったが。

そして数分の間遊び続け、末っ子まりさはようやく解放されたのだった。

「「「うー、あみゃあみゃ。かぷっ、ちゅるちゅる・・・」」」

生の苦しみから。

「ぴ・・・ぃぃ、あんこしゃ、しゅわにゃいでぇ・・・」

すっかり動けなくなった所で、末っ子まりさの玩具としての役目は終わる。
赤れみりゃ3匹に噛みつかれ、末っ子まりさはじっくりと餡子を吸われ、苦しみ続けて息を引き取った。

「・・・おにぇ、ちゃ・・・・・・たしゅけ・・・」
「まりしゃぁぁあああ!!ゆんやぁぁああああ!!」

末っ子まりさの瞳は最後まで、カゴに押し込まれ、母れみりゃに翼で押さえつけられていた長女れいむの方を見つめ、
助けが来る事を疑うことなく信じ続けていた。
そしてそれは、長女れいむにとって、呪いをかけられたに等しい苦しみを与えたのであった。

「ゆぁぁああああああ!!まりしゃ、まりしゃぁぁあああああ!!」
「うーっ!」
「ゆぁぁぁあああ・・・?ゆ、ゆぴぃいいい!?れいみゅのおりぼんしゃん、かえしちぇぇぇええええ!!」

だが、そんな苦しみもすぐに終わる。

「「「うー!!」」」

「ゆ・・・ゆぴゃぁぁああああああ!!?」

次は長女れいむに順番が回ってきたのだから。



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翌週。

群れでは早くも、新しい長ぱちゅりーが就任していた。
普段ならばもう少し選挙に時間をかける所だったが、対れみりゃ防衛戦には、優れたリーダーが緊急に必要だったのだ。
群れのゆっくり達に、争ったり、悲嘆にくれている時間はない。

「むきゅぅ・・・みんな、ぱちぇがかんがえた『しんへいき』は、せっちできたみたいね。」
「「「「「わかるよー!!」」」」」
「まえは、まもりにはいってしまったから、おしきられたのよ・・・
でも、こんどのは、れみりゃを『たおす』ためのぶきよ!
だから、こんどこそぜったいにまけないわ!!むっきゅん!!」

『しんへいき』・・・対れみりゃ用に長ぱちゅりーが考案した数々の兵器とは、『罠』。
いわゆるブービートラップであった。



この作業に先立って、れみりゃによる襲撃後に間もなく行われた作戦会議では、
長に就任したばかりのぱちゅりーが会議をリードした。

「むきゅっ!あいてはれいぱーじゃなく、れみりゃよ!
まもりつづけて、あいてがつかれるのをまっていたら、それよりさきにみんながたべられちゃうわ!」

前回の戦いは、群れに重要な教訓を残していた。
それは、『れみりゃ相手に守り勝つことはできない』と言う事。

かつてレイパーの猛攻を防ぎきった守りは、まるで通用しなかった。
それはつまり、壁を挟んでにらみ合う、などという状況には持ち込めないということなのだ。

ならば、れみりゃの脅威から解放される方法は、一つしかない。
・・・れみりゃの息の根を確実に止めることだ。

「わかるよー。でも、ちぇんたちじゃ、れみりゃにかてないよー。」

その一方で、この幹部ちぇんが言ったことも正論であった。
なにせ前回、れみりゃ襲来と同時に成体ゆっくり達は恐怖にかられて逃げ回り、
結局たった一匹のれみりゃ相手に傷一つつけることが出来なかったのだから。
しかし怖いものは怖く、勝てないものは勝てない以上、ただ逃げるなと言うのも酷な話ではあった。

「・・・むきゅ。ならばぱちぇが、かてるぶきをかんがえるわ!」
「「「!!?」」」

こうして、群れの運命は長ぱちゅりーの頭脳に託されたのである。

「・・・むきゅ、ごせんぞさま・・・ぱちぇにちからをかしてね。むきゅぅぅ・・・」

長ぱちゅりーの祖母は、群れに『ぶらんこ』『しーそー』『すべりだい』等、
数々の発明品を残してくれた天才発明ゆっくり、ゆっくりにとり。
若き長ぱちゅりーは、その知力と創造力を色濃く受け継いでいると言われていた。



この日の午後から、ゆっくりプレイス全域で、
群れを総動員した大工事が開始された。

「むきゅ!れみりゃをとおさないために、いろんなばしょに『あみ』をはるのよ!」
「ゆっくりりかいしたのぜ!!」

木々の間には、トゲのあるツタで編んだネットを設置し、れみりゃがこっそり侵入するのを防ぐ。


「おにぇーしゃん。このろーぷしゃん、なんなにょ?」
「むきゅ。そのろーぷさんは、ひっぱっちゃだめ・・・」
「しゅーりしゅーり、ちあわ」

びゅんっ!!ぐしゃっ!

「お、おちびちゃぁぁああん!どうぢでつぶれてるのぉおおお!?」
「このいりょく・・・いけるわ。むきゅ。」

石や木材を束ねた固まりを、ツタで木の枝にぶら下げていき、ところどころに吊り石や吊り丸太を仕掛ける。
いかにれみりゃでも、落下してくる石や、振り子のように横や背後から襲ってくる丸太を食らっては、
ただでは済まないはずだった。


「むきゅ、そことそこにも、あなをほるのよ。なかには、とがったきのえださんをしかけてね。」
「おちたらいたそうだみょん。」
「おちるのはれみりゃよ。むきゅ!」

そして、それらの罠の隙間には落とし穴を掘る。
前回の堀とは違い、中には鋭く尖った木の枝を仕掛けてあるので、
今回は落ちただけでも無傷では済まないだろう。


他にも、触れればトゲが飛び出す罠、踏むと正面から石が飛んでくるシーソー、
通行を邪魔する水たまりなど、長ぱちゅりーが考案した数々の罠が、
ゆっくりプレイス外周を敷き詰めるようにして仕掛けられたのであった。



こうして、対れみりゃ準備第二弾が完了した。
今回は、前回のようにゆっくりプレイスへの侵入を防ぐためのものではない。
れみりゃが、罠のどれか一つにでもかかれば、その強力な殺傷能力でれみりゃを、少なくとも行動不能にはしてくれるだろう。

「さすが、ぱちゅりーなのぜ!これなら、れみりゃもたおせるのぜ!!」
「そうね。あとは、れみりゃが『わな』でよわったところで、みんながとどめをさすのよ!」

ここまで入念な準備がなされた上での作戦は、実にシンプルなものだった。
武装した戦士達は物陰に潜み、れみりゃが罠にかかったところで袋叩きにする、それだけである。
だが、シンプルなだけに、失敗は少なそうに感じられた。

「むきゅ!みんな!けんとうをいのるわ!!」
「「「えい、えい、ゆー!!」」」

群れの戦士達は、各々が棒で武装し、茂みなどに身を隠してれみりゃを待った。
今度こそ群れの未来を切り開くために・・・



そして数時間が経過した頃、敵は姿を現した。

「うー!うー!」
「(むきゅ、きたわ。みんな、うごいちゃだめよ。)」
「「「(ゆっくりりかいしてるよ!)」」」

そしてれみりゃは、満面の笑みを浮かべたまま、罠が張り巡らされた範囲に侵入し



「「「ゆぅ?」」」



・・・そのまま落とし穴やネット、数々の罠の遥か上を飛び越えていった。



「「「ど、どど、どうぢでひっかからないのぉぉおおお!?」」」


群れのゆっくり達は気づかなかったが、れみりゃが罠にかからないのは当然だ。

空を飛んでいるのだから。

「うー?」

そして、
この時群れゆっくり達があげた悲痛な叫びだけは、れみりゃにしっかりと届いたのであった。

「「「・・・どうぢで、れみりゃにきづかれてるのぉぉおおお!?」」」
「うー!うー!」

あとは前回同様、戦士達は情けなく怯え、散り散りに逃げ出すばかり。
群れのみんながれみりゃの恐怖に耐えていられたのは、罠という武器に対する信頼があったからこそだ。
作戦が完全に崩壊した以上、この場に踏みとどまれるゆっくりなどほとんど居なかった。

「「「ゆびゃぁぁああああ!!れみりゃごわいぃぃいいいいい!!」」」

ただし、今回は、前回と一つだけ異なる点があった。



ゆっくり達の逃げ道を見透かすように配置された罠の数々が、その牙をむき出しにして襲いかかってきたのである。

「ゆわぁぁあ!ゆっぐぢにげ『ずぼっ!ぐさぐさぐさっ!!』ゆびぃぃいいいい!?どうぢであながあるのぉぉおお!?」

あるまりさは、逃げる途中で落とし穴に落ち、あんよどころか全身を穴だらけにされ、
ゆっくりと命の餡子を失っていった。

「わ、わからないよー!!わか、わかー・・・・「ばさっ!!」わぎゃらないよぉおおお!?」

あるちぇんは、前も見ずに走っていた結果、トゲだらけのネットに顔面から突っ込み、両目を失明した。

「みょ、みょぉん。ここまでくれば、あんぜんみょ『びぃんっ・・・びゅっ、べしょんっ!』・・・」

それらをくぐり抜けたみょんも、茂みに隠された罠を作動させ、
振り子のように襲いかかってくる吊り丸太によって、全身の7割を吹き飛ばされ命を失った。

「ゆべぇっ!?」
「いぢゃぃぃいいい!!」
「たずげでぇぇ・・・」

「うー?」

他のゆっくり達も、同様であった。
茂みに隠れてれみりゃを待ち伏せしていたゆっくりは、一匹残らず自分達の仕掛けた罠にはまり、
れみりゃが手を下すまでもなく全滅したのである。

「む、むきゅぅぅううう!?れ、れみりゃ・・・この、ひきょうものぉおおお!!」
「うー?・・・うーっ!」

今や、れみりゃの前に立ちふさがるのは、長ぱちゅりー一匹のみ。
長ぱちゅりーは、恐怖に震えが止まらない。

「うっうー!!」

しかし・・・長ぱちゅりーは逃げなかった。
それは今立っている場所、とある大木の根元に近い、×印が地面に描かれたその場所こそが、
他の罠や群れのみんなが打ち破られた現在、長ぱちゅりーの最後の罠が仕掛けられている場所だからである。

「うー・・・」
「(むきゅぅ。さあ、きなさい。・・・しぬのはあなたよ!!)」

その罠は、『つりてんじょう』とぱちゅりーが名付けた大仕掛けの罠だった。

いくつもの木材と石をツタで縛り上げ、ロープで木の枝にぶら下げたものであり、
れみりゃが下を通った時に頭上から落とす仕組みである。
それ自体は森の他の場所に仕掛けられている罠の多くと同じ仕組みだった。
ただ、長ぱちゅりーが切り札として作っただけあり、その直径は成体ゆっくり3匹分を軽く越える。

ぱちゅりーがもみ上げで掴んでいる仕掛けロープを引っ張った瞬間、その罠が頭上から襲い掛かるのだ。

仕掛けられている場所は、ぱちゅりーが立つ場所のすぐ目の前。
そう。長ぱちゅりーは、自分の命を餌にしてれみりゃを罠に誘い込み、必殺の一撃でれみりゃを倒すつもりだった。

「うー・・・」
「さあ、はやくきなさい!むきゅっ!!」

れみりゃは、その長ぱちゅりーの周りをぐるーりとまわりながら少しづつ近づく。

「うー。」
「むきゅう?」

そして、『つりてんじょう』を見てにっこり微笑むと、それを避けるように長ぱちゅりーの横に回り込み

「むきゅ?」

かぷっ

「むきゅぅ!?おそら・・・・・・」
「うーっ!」

長ぱちゅりーを優しく咥え、そのまま上空へと連れ去っていったのだった。



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それから少し後の、ゆっくりプレイス中心部の避難所。
そのさらに中心に、避難所として使われている中でも、特に快適なように作られた洞窟があった。

入り口はバリケードで固められ、そのすぐ内側に護衛みょんが木の枝で武装し待機しているのは、
他の避難所と同じであるが、その奥が他と異なる。

地面は小石一つ無くキレイにならされ、壁もデコボコすら無い。
その滑らかで広い洞窟内には、さらにフカフカの干草がこんもりと盛られていた。
それは、この洞窟に避難しているゆっくり達のために作られた、特別製のふかふかベッドであった。

「すーやすーや・・・」
「おちびちゃん、ゆっくりしてね。」
「ゆっくり~のひ~、まったり~のひ~。」

そのベッドにゆったりと身を横たえているのは、3匹の成体れいむ。
3匹ともお腹がぽってりと膨らみ、もうすぐ母になろうとしている者特有の、暖かな表情を浮かべている。
この妊婦れいむ達は、ごく最近になって動物型妊娠をした新婚ゆっくり達であった。

動物型妊娠をして飛んだり跳ねたりすると、腹の中にいるおちびちゃんが潰れてしまい、母子ともに命にかかわる。
つまり一度妊娠してしまえば、ロクに歩く事も出来なくなるのだ。
群れのおかれた状況を考えると、何をやっているのやら、と思われるかもしれないが、
それでもこのれいむ達がすっきりーして妊娠したのは、ちゃんとした理由があった。



この数日前。

「れいむ!まりさとすっきりーしてね!!いますぐでいいよ!」
「ゆぅ!?な、なにいってるの?いまは、れみりゃがきてるんだよ!すっきりーはゆっくりできな・・・」

と、つがいのまりさに対して反論しようとしたところで、れいむは言葉を切った
まりさの隣には長ぱちゅりーも立っていたからだ。

「むきゅ、れいむ。まりさとすっきりーするのよ。」
「おさ・・・どういうことなの?」

長ぱちゅりーとまりさの表情は、真剣そのものだった。

「むきゅ。まりさは、むれでもとくにゆうしゅうなゆっくりよ。いつか、むれのかんぶになってもらうかもしれないわ。」
「ゆ、ゆぅ?」
「でも、れみりゃとたたかうなら、まりさもいのちをかけてもらうことになるわ・・・むきゅ。」
「ゆぅぅ、そんなのいやだよぉ。」

「だから!れいむには、まりさのゆうしゅうなおちびちゃんを、むれのためにうんでもらいたいのよ!むきゅん!」
「ゆゆっ!?ゆ、ゆっくり、ゆっくりりかいしたよ!!」

こうして、群れの中でも特に優秀な若手ゆっくり達の餡子を次の世代に残すため、
この洞窟にいるれいむ達は子供を身ごもったのである。
より強く、賢く、ゆっくりしたおちびちゃんを産むために、あえて動物型妊娠を選んでまで。

多くの幹部達が命を落としたとしても、群れの活力が失われないように。
群れの光り輝く未来を守り抜くために。



「ゆぅ。でも、おさたちはだいじょうぶかな・・・」
「ゆぅん。きっとおさも、れいむのまりさも、ちぇんも、みょんも、れみりゃをやっつけてかえってくるよ!」
「そうだよ。だから、おちびちゃんをゆっくりさせてあげようね。ゆぅ~ん、ゆゆ~。」

れいむ達は信じていた。
自分達のつがいが、そして群れのみんながれみりゃを倒し、
これから産まれてくるおちびちゃん達を、ゆっくりと祝福してくれることを。

がしゃっ!『みょ!?』ぐしゃっ!べしゃっ・・・

「・・・・・・。」

洞窟の入り口のバリケードを崩し、一匹のゆっくりが中に入ってくるまでは。



「ゆぅ?おさ。どうしたの?」

入り口の方からのっそりと入ってきたのは、長ぱちゅりーだった。

「おさ・・・?ゆゆっ!れみりゃをやっつけたんだね!」
「ゆ、ゆーんっ!!これでまた、ゆっくりできるんだね!ゆっくりー!!」

「・・・・・・。」

長ぱちゅりーは、一言も返してこなかった。

そう言えば、長ぱちゅりーの様子は、入ってきた時からずっとおかしかった。
なぜ、一言も話さないのか。
なぜ、外から声をかけずに、バリケードをムリヤリ壊して入ってきたのか。
なぜ、入り口を守っていた護衛みょんは奥に入ってこないのか。

そして、てっきりれみりゃを倒した時についたと思っていた、ゆっくりの死臭。
長ぱちゅりーの全身から漂うその死臭が、先ほどからどんどん強くなっていた。



べしゃ。

その時、長ぱちゅりーのお帽子が、頭から落ちた。
・・・顔面の皮ごと。



「うー!!」
「「「ゆぁぁあああああ!?どうぢでおさのなかに、れみりゃがはいってくるのぉぉおおお!?」」」

その下から、れみりゃのお帽子と、クリームだらけになったれみりゃの顔が現れた。

れみりゃは、長ぱちゅりーのお帽子と、顔面の皮をかぶって洞窟に入ってきたのである。
死臭が出てくるのを遅らせるために、長ぱちゅりーをわざわざ生きたまま洞窟入り口まで運び、
その場で中身のクリームと目玉を取り除いて皮をかぶっていたのだ。

それは、洞窟入り口を守っていた護衛みょんを油断させるため、れみりゃがとっさに思いついたカモフラージュだった。
ちなみにその護衛みょんは、洞窟入り口で20個以上のパーツに解体されて命を失っている。
れいむ達と、そのお腹の中のおちびちゃん達をれみりゃから守るモノは、もはや何も存在しない。

「ゆぴぃぃいい!!やべでぇ!ごないでぇぇえええ!!」

妊婦ゆっくりであるれいむ達に、抵抗の術は残されていない。
その命運は、今まさに尽きようとしていた。

「うー?・・・うー!」

だがその時、れみりゃの様子が変化した。



「うー。すーりすーり。うー!」
「ゆ、ゆぅ?ゆ、ゆっくりしていってね。おなかには、おちびちゃんがいるんだよ。」
「うー・・・すーりすーり!うっうー!」

れみりゃは、妊婦れいむ達のお腹の膨らみに気づいたようなそぶりを見せると、
れいむ達の内一匹にゆっくりと近づき、そのお腹にすーりすーりし始めたのである。

その表情は、子供を持つゆっくり特有の、母性溢れる暖かさに包まれていた。

「ゆぅ。そ、そうだよ。おちびちゃんは、ゆっくりできるんだよ。れみりゃもゆっくりしてね!」
「うー・・・うー・・・」
「「ゆっくりしていってね!!」」

れいむ達も、れみりゃの変化に気づき始める。
そうだ。れみりゃだって生きて、産み、育てる、同じゆっくりだったのだ。
不幸にも食う側と食われる側に分かれているとは言え、母の気持ち、おちびちゃんへの愛情、
そう言ったモノは共有できるのかもしれない。

れいむ達の間には安堵する気持が生まれ、そして洞窟の中は暖かい空気に包まれていった・・・



がぶりっ、ぶちっ・・・



れみりゃがれいむのお腹を喰いちぎるまで。

「ゆびぃぃいいいいい!!いぢゃいぃぃいいいいい!?」
「あまあまぁああ!!『ぶちっ!』うぅうー!!『ぶちんっ!』うぁーっ!!」
「「ゆぁああああ!?どうぢで、ゆっぐぢ、ゆっぐぢぢでだのにぃいいいい!?」」

れみりゃの表情は、先ほどまでと変わらない。
母としての愛情に溢れ、暖かで、ニコニコとした笑顔で、そして、口元からは大量の唾液があふれ続けている。

ぐちっ!ぶちぶちぶち、びりっ!がっがっ!

「ゆ・・・びぇ・・どう、ぢで・・・。」

そして、れみりゃに引き裂かれ、餡子を深く掘られたれいむのお腹から、
小さな、肌色の球体が顔を出した。

それは、ようやくピンポン玉程度の大きさにまで成長していた、可愛い3匹の胎児ゆっくりだった。

「ゆぴぃ・・・・ゆぅ・・・」
「しゅーや・・・ゆっくち・・・」

可愛らしい寝息を立てるおちびちゃん達の表情は、愛情に満ちた世界に産まれる日の事を夢を見ているのだろう、
どこまでもゆっくりとした寝顔であった。
本来であれば、これからさらに10日以上は母の餡子に守られてゆっくりと育ち、
テニスボールほどの大きさにまで育った頃、ようやく産まれるはずのおちびちゃん達。

ばくんっ『ユピッ!?ピキィッ・・・』・・・もぐもぐ。ごくんっ。

だが、その明るい未来は永久にやってくる事は無かった。

「うー!あまあまー!!」
「・・・お、ぢびぢゃ?れいむとまりさの・・・どうぢでぇ・・・どうぢで・・・」
「「ゆぁあああん!!どうぢでおぢびぢゃん、だべぢゃうのぉおおお!!」」



れみりゃは妊婦れいむ達を見て、確かに自分のおちびちゃんの、可愛い笑顔を思い浮かべてはいた。
ただしそれは、れいむ達の姿を自分の家族に重ね合わせたからではない。
・・・胎児ゆっくりは、捕食種にとってめったに手に入らない、最高のゴチソウだったからだ。



「うー!うっうー!」
「「やべでぇ・・・ごないでぇ・・・ゆぁぁ・・・ぁ・・・」」

口に残る上質な餡子の美味に、れみりゃの唾液は滝のようにあふれ続けていた。
しかしれみりゃは、『うっ?うー!』と、大事な事を思い出したという表情になり、いかんいかんと首をブンブン振り、
おびえ続ける妊婦れいむ達に向きなおす。
大好物過ぎて、初めの一匹分はついつい自分で食べてしまった。マズイマズイ、と言ったところであった。

れみりゃは自分に『残りはおちびちゃんの分だよ。』と言い聞かせ、鼻歌交じりに残り2匹の妊婦れいむに近づくと、

「うーっ!」

ブチブチブチ・・・

「「ゆびぇ、ゆぎぃぃいいい、ゆびゃぁぁあああああ!!」」

その白く輝く牙を見せびらかすように、ゆっくりと彼女達のお腹を引き裂いていった・・・。



その日の夜。

「あみゃあみゃー!」
「うーっ!!」

母れいりゃは、おちびちゃん達に今日の狩りの成果を見せた。

「「「・・・あみゃあみゃー?」」」

れみりゃ自作のカゴには、餡子の固まりが二つ。
確かにあまあまの香りがするが、子れみりゃ達にはそれが何なのか、パッとはわからなかった。
普段は新鮮で活きのいい赤ゆっくりを捕えて来てくれるのに、
今日はこんな、表面が乾燥しかけている古餡子かと、子れみりゃは不満げな表情を一瞬浮かべる。
だが、その疑問もすぐに溶ける。

「うー。」

ばさっ、ばさっ。

「ゆ・・・ぴゅ・・・」
「ゆぴぃ・・・すぅ・・・」

その餡子の固まりを崩すと、中からすーやすーやと寝息をたてる、小さな胎児ゆっくりが顔を出したからだ。

「「「あ、あみゃあみゃーっ!!」」」

子れみりゃ達も、小さな黒い帽子をかぶり寝息を立てるソレが、
これまで食べてきたあまあま達より、ずっと貴重なごちそうである事を、本能的に理解したのだった。

れみりゃが胎児ゆっくり達を、母体の餡子ごとくりぬいて持ってきたのは、
胎児ゆっくりが母体の餡子の外では、長く生きられない事を知っていたからである。
だからこうして母体の餡子ごと運んで、最高のごちそうを、最高に新鮮な状態でおちびちゃん達に持ってきたのだ。

「ゆぅ・・・すぅ・・・」

餡子の中から掘り出された、小さな黒いお帽子をかぶった胎児まりさ。
その表情は、母体から離れつつある今でもまだ、この上なくゆっくりしたものであった。

「すぅ・・・ゆ・・・?」

だが、母の餡子の中でひたすらゆっくりと眠り、育ち続けるのが仕事である胎児まりさも、
外界のあらゆる非ゆっくりから守られているはずなのに、なぜか肌寒い空気にさらされている事で、
その眠りから目覚めさせられる。

「ゆ・・・ぴぃ・・・?」

そうだ、きっと自分はもうすぐ産まれるんだ。
そう気づかされた胎児まりさは、希望に満ちた表情で、キラキラと輝く瞳をゆっくりと開いた。

・・・その目の前には、月の光で青白く輝く、鋭い牙が向けられていた。



妊婦れいむ達のいた洞窟に群れのゆっくり達がやってきたのは、
れみりゃの『狩り』が終わってから半日ほど経った頃だった。

「・・・びゅ・・・ぅ・・・」
「お・・・びぢゃ・・・」

その現場は、入り口だけは、バラバラに解体されたみょんの破片で汚れていたが、
惨劇があったにしては不自然なほど、餡子の飛び散った跡も、抵抗した後も見られないキレイなままの姿であった。
いや、抵抗すらできなかった、と言うべきだろうか。

ただ、そこに隠れていた3匹の妊婦れいむ達は、お腹の中に在った新しい命を、自分達の餡子ごとそっくり奪われていた。
しかも、それでも未だ死ぬ事も出来ず、苦しみ続けていたのである。

「「「・・・・・・。」」」

だが、もはや誰もれいむ達に声を掛けようとすらしない。
傷の大きさを見れば助からないのは確実であったし、あまりに悲惨なその姿に、声を出す事も出来なかったこともあったろう。
しかし何より、れいむ達のつがい、そしてれいむ達の両親、姉妹達までが、
れみりゃによって既に一匹残らず殺し尽くされていたから、声をかけるべきゆっくりが一匹も存在しなかったのである。



腹を引き裂かれた母達の悲惨な姿は、れみりゃの恐怖を理解していたつもりだった群れのゆっくり達にも、
衝撃を与えずには済まさなかったのだった。

群れのゆっくり達は、本来の、野生動物としては絶望的なほど楽観的な気性すらどこかへ消えてしまったかのようであった。
お互いに『ゆっくりしていってね』という挨拶すら交わせないほどに消沈し、
ほとんど全員が、逃げ場のない絶望感に押しつぶされようとしていた。



ほとんどのゆっくり達には、群れは、もはや滅びを待つ他ないかのように思われた・・・。
最終更新:2010年10月13日 11:10
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