anko2223 まちかどで

まちかどで 8KB
考証 愛情 不運 飾り 日常模様 子ゆ 現代 思いつき小ネタです
「ゆーゆーゆ~」
まりさはおとうさんです。
「おちびちゃんも、おおきくなっておもたくなってきたね、ゆーしょ、ゆーしょ!」
まりさは自分のおちびちゃんをお帽子に乗せて、今日も街を練り歩いていました。
「ふぅ、まりさつかれちゃったよ、きょうはここでゆっくりしようね」
まりさはおちびちゃんが生まれてからすぐに死んでしまったれいむの代わりに、一匹で子育てをしてきました。
たくさん生まれた他のおちびちゃんも、一匹また一匹とずっとゆっくりしてしまったけれど。
一番素直で優しいまりさとそっくりのおちびちゃんが、一匹でも残ってくれて、まりさは幸せでした。
子育てをしながら、この都会を生き抜いていくのは大変だけど、まりさはそれでも、
おちびちゃんと一緒ならがんばれる、そう思っていました。

「ねぇ、おちびちゃん、おちびちゃんはいま、ゆっくりできてる?」
ギラギラと照りつける太陽、公園のベンチの下の影の中に二匹頬を寄せ合いながら、まりさはおちびちゃんに尋ねます。
おちびちゃんは、お返事はしませんでしたけど、とってもゆっくりした表情をしていました。
「ゆゆ~ん、おちびちゃんがゆっくりできて、まりさとってもうれしいよぅ」
まりさもそれをみて、目を細めます。
おちびちゃんといつまでもゆっくり。

近頃街の野良ゆっくり駆除がどんどん厳しくなっていっています。
それはまりさにもはっきりとわかりました。
おちびちゃんには悪いけれど、ここ数日何も食べていません。
けれどおちびちゃんは文句を言うことなく、まりさを罵倒することもありません。
だからまりさも弱音を吐かず、来る日も来る日もおちびちゃんを帽子に乗せて、食べ物を探しました。
だけどどこにも食べ物は落ちていませんでした、前はたくさん食べ物があったゴミ置き場も、
今は綺麗な箱が一つあるだけで、ゴミ袋さんはありません。



「ゆぅ…もう…げんっかいっだよぉ…」
次の日も、そして次の日も食べ物は見つかりませんでした。
まりさはすっかり疲弊して、少しづつ身体もやつれ、これ以上食べ物を食べなければ死んでしまうかもしれません。
コンクリートを駆けずり回ったせいであんよもぼろぼろ、
お帽子に乗せて運んでいるおちびちゃんも今は前よりもずっとずしりと重く感じます。
「ゆひゅー…ゆひゅー…」
数メートルすすんでは、息も絶え絶えに道路の脇で休みます。
栄養不足でぼんやりとした視界の端に、人間さんが歩いているのが移りました。
人間さんは怖い、まりさたちゆっくりを簡単に殺してしまう。
まりさはそれがわかっていました、けれどもうまりさも限界です、最後の希望にすがる思いで、力いっぱい声を出しました。
「にんげんさんっ!!」
「あ?」
まりさの声に気づいた人間さんが、ゆっくりとこちらを振り返ります。
「おでがいじばず!まりさはいいんでず!おちびちゃんを、おちびちゃんをかいゆっくりにしてあげてください!!!」
まりさは感きわまって目に涙をいっぱいためて、心からお願いします。
「…は?」
しかし人間さんは、まりさの言っている意味がまるでわからないという顔をしてしまいます。
「おでがいじばず!おでがいじばずぅぅう!!」
地面に頭をこすりつけながら頼み込むまりさには、その表情は見えませんでした。
「え…と、おちびちゃんて、まさかこれ?」
まりさの頭の上に乗っている重みが、突然なくなります。
まりさが顔を上げると、人間さんの手のひらの上に、まりさのおちびちゃんがのっていました。
「ありがどうございばずぅうう!!」
すっかり早とちりをして、人間さんがおちびちゃんを買ってくれると思いこんだまりさは、さらに涙をだばだばと流して喜びました。
「おぢびじゃん!!にんげんさんにめいわくかけちゃだめだよっ!まりさのぶんまで、いっぱいいっぱいゆっくりしてね!!!」
まりさは、人間さんの手のひらの上にのっているおちびちゃんの背中に、最後の言葉を気持ちをこめてかけました。
もうきっと二度と会えないけれど、まりさはおちびちゃんが幸せになってくれるなら、それでいいと、心から思うことができました。
「あー…なんか感動してるとこ悪いけど、おまえ、なにいってんの?」
「ゆっ…?」
人間さんがまりさの目の前に、おちびちゃんの乗っている手をもってきました。
「これの、どこが”おちびちゃん”なわけ?」
その言葉とともに、人間さんはひょいとおちびちゃんのお帽子を持ち上げます。
「えっ…?」

するとどうでしょう、まりさの目に映っていたおちびちゃんは瞬時に消え去り、
人間さんの手の上にのっていたのは、小さなまんまるの石ころでした。

「どう…して…?」
まりさは、まりさの目の前で起こっていることがとても信じられませんでした。
「だって、いままで…ずっと…」
「お前らって、もしかしてお飾りしか見てないわけ?」
人間さんがもう一度ひょいと石ころにおちびちゃんのお帽子を載せます。
するとどうでしょう、まりさの目の前に再びまりさの大切なおちびちゃんが現れたではありませんか。
「ほらっ!やっぱりおちびちゃんだよ!ゆっくりしていってね!」
おちびちゃんはまりさの声にこたえてはくれませんでしたが、
まりさの目にははっきりと、柔らかく微笑むおちびちゃんが映っていました。
「なんていうか、ご愁傷様だな…」
人間さんはまりさの目の前におちびちゃんを置いて、その場を去ってしまいました。
「おちびちゃんは、まりさのおちびちゃんだよね…?」
おちびちゃんはまりさの声にこたえません、ただゆっくりとほほ笑んでいるだけです。
「れいむから生まれて、ずっとずっとまりさといっしょにくらしてきたもんね…」
まりさはおちびちゃんに必死に声をかけます、けれどやはり、おちびちゃんはまりさの声には反応しませんでした。
「ねぇ、おちびちゃん……なんとかいってよ……」
まりさは舌をのばして、おちびちゃんのほほをぺーろぺーろします。
まりさは今まで気がつかなかったけれど、今まりさの舌に伝わってくる感触は、どこか無機質で、冷たいものでした。
そして、まりさの舌で押されたお帽子が、音もなくおちびちゃんの頭から滑り落ちました。
「おちび…ちゃ…」

まりさは目の前に置かれた石ころを、ぺーろぺーろと何度も舐めました。
けれど石ころはただただ動くこともなく、まりさに微笑みかけることもありませんでした。


いつ入れ替わったのか、まりさには全く分かりませんでした。
確かに生まれた時は、活発に動き回り、声も発していたおちびちゃん。
だけどいつの間にか、あまり動かなくなって、声も出さなくなって。
けれどまりさは、それはご飯さんが食べれないから元気がないだけで
健気なおちびちゃんは文句ひとつ言わない、とってもいいおちびちゃんだ、とずっとそう思っていました。
けれど違っていたのです、いつの間にかおちびちゃんはお帽子をかぶったただの石ころになっていて、
まりさはそれをずっとおちびちゃんだと思い、今まで一緒に過ごしてきたのです。



もうまりさは一歩もそこから動きませんでした。
おちびちゃんのお帽子を乗せた石ころと、ずっと一緒に、道路の脇でゆっくりとした時間を過ごします。
けれどまりさは幸せでした。
お帽子を乗せている限り、石ころはまりさの大好きなおちびちゃんだったからです。

ずっと食べ物も食べず、ただそこで何日もじっとゆっくりしているまりさに、ある日突然ぽつりぽつりと雨粒が降りかかりました。
「ゆ…おちび…ちゃんが…ぬれ…ちゃうよ…」
まりさはおちびちゃんに寄せた体を、さらにくっつけて、おちびちゃんをまりさのお帽子の下に隠します。
今までずっとくっついていたおかげでしょうか、まりさの体温がうつった石ころは、たしかにほんのりと暖かくなっていました。
「おちび…ちゃ…いつまでも、ずっと…いっしょ…だから……ね……」
もうまりさに、雨がかからない場所まで避難する体力はありませんでした。
そのまま雨足はどんどん強くなっていき、まりさのお帽子がはじくことのできる限界を軽々と越えてしまいます。
冷たい水が、まりさの体を少しずつとかしていきました。

けれどまりさはちっとも怖くありませんでした。
おちびちゃんを守ってあげれてるんだ、ずっとずっと一緒なんだ。
まりさはそれだけで、ただそれだけで、幸せでした。






「なんだあれ」
人間さんが、道端に転がっている黒い塊を見て、ぽつりとつぶやきます。
それは街角の、何でもない道路のはじっこ。
誰にも知られることもなく、幸せな親の愛情に包まれた石ころが、ぽつりと一個、転がっていました。





おしまい


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ずいぶんと投稿に間が空いてしまいました、というかコンペさん以来作品をアップしていませんね…
ちょっとリアルが忙しくって、モチベが下がりっぱなしになってしまっていました
少しずつでも以前の勢いを取り戻していきたいところですが…
がんまります
今回のテーマは、作中でもありましたが
『ゆっくりってお飾りで認識してるっていうけど、じゃあお飾りが丸っこい別の何かにくっついてたら…?』
相変わらず思いつき書きなぐりなので、表現不足誤字脱字多々あるやもしれません、ご容赦ください
今まで書いた作品の続きものとかの構想も練れているので、ゆっくり投下していければいいなぁ
ん~、がんばりますがんばります!

ばや汁でした



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餡小話では消されてしまった作品も多数ありますので、過去作を読みたいなと思っていただけた方は

ふたば ゆっくりいじめSS保管庫ミラー
http://www26.atwiki.jp/ankoss/

をご活用ください。
最終更新:2010年10月13日 11:11
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