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anko2153 家族百景

人間グロあき(黒あき)です
目印程度に黒あきを名乗ってましたが、スレ上ではやっぱり人間グロあきの方が定着しているようなので。
無記名時代含めて多分8作目です

            ※※※はじめに※※※
一部言葉遣いが悪いです
胴付き、HENTAI成分が苦手な方
人間が必要以上に傷つくのがアウトな方
人間に近い思考力を持ったゆっくりの存在がダメな方はお控えください。


家族百景

-1-

「・・・このこを・・おねがいします・・・。」


そういい残すと、親れいむは永遠にゆっくりした。

体の大半が四散し、本当に最後の力を振り絞って発したであろう末期の言葉は、奇跡的に無傷であった人間の握り拳大の子れいむの行く末を案じて途絶えた。

よくある事故だ。男が運転する車が左折した際、側溝脇にたむろしていたゆっくり家族-計18匹の大所帯をひとつとて漏らすことなく悉く跳ね散らかした。

年代の新しい車であればボンネットは前部に向かって角のない丸みを帯びたデザインとなっているが、男の車は彼の父から譲って貰った車検が毎年必要な代物で、

縁が非常に角ばったデザインをしており、しかも座位が低く極めて視認性が悪い。所謂初期型ハードトップセダンという種別の、バブル景気の負の遺産だ。
 
これまでも飛び出してきた子供や、飼い主より先行する犬などと幾度となく接触しそうになっていたが、お互いのギリギリの注意義務により最悪の事態は回避できていた。

しかし今回は運悪く、相手はゆっくりだった。

せめて成体のまりさ種でも混じっていれば、とんがり帽子で気づくこともあったかもしれないが、さらに運の悪いことにこの被害家族の構成は全てれいむ種だったため、発見が遅れてしまったのだ。

「ゆ、ゆっくりー!ゆっくりー!」

アスファルトと民家の外塀、それに愛車の前半部に飛び散った匂い立つ甘味の、予期される清掃の困難さに呆然とする男の足元で、生き残った子れいむが気が触れたかのように絶叫している。

「ゆっくりぃ!!ゆっ、ゆゆゆゆっくりぃ!!!」

もはや個体を判別することなど不可能な餡と皮の破片に、それでも子れいむは残骸の多少大きな欠片ひとつひとつに涙を流しながら声を掛けていくが、当然反応はない。
 
その子れいむを男に託した親れいむは、タイヤとタイヤハウスの隙間に、千切れかけた無様な死体を晒している。


「このごみくずくそばかのうなしあほにんげん!にんげん!にんげん!!れいむのかぞくをぜんぶかえしてね!!」

一通り家族の遺骸に声を掛け続けた子れいむは、男を見上げると悲しみを湛えた顔を瞬時に烈火のごとく怒りの表情に変化させ、あらん限りの知っている言葉で罵倒をはじめた。

「ごめんな、れいむ。俺の不注意で君の家族を死なせてしまったよ。許してくれとは言わないが、出来る限りの償いはするよ。」

男は子れいむの形相と怒号に、野生動物が時折見せる人間への敵意とだぶらせ、やや臆しながらも丁寧に謝罪の言葉を発する。

「むずかしいことばでごまかそうとしてもだめだよ!あんこがたりないにんげんはしね!はやくしね!とにかくしね!さっさとしね!いますぐしね!しねしねしねしねしねしねしねしね!!!!」

子れいむが理解できる範囲の言葉では、男は謝ったと判断したため、さらに増長して男を責めたてる。

「ゆっ!おしょらっ!!」

一方的にまくし立てていた子れいむを、音もなく背後から近づいてきたモヒカン頭に鋲付きレザー上下を着込んだ痩せぎすな男が乱暴に掴み上げた。

モヒカンの背後では、アメリカンなバイクが低音のアイドル音を響かせている。

「えーっと、自分は電波がピンときたので駆けつけたJAFの地区担当者、リングネーム フリッツといいます、以後お見知りおきを。こいつ自分の鉄の爪で潰していいすか?」

JAFとは、『Junk-Anko-Freaks』の略称で、その無茶苦茶な名称から分かるとおり、ちょっとおつむと社会性が足りないが、

見た目は世紀末救世主伝説の脇役風味の非常に気さくなバイクメンが、無償にて、海に山に町に出没するゆっくりを殲滅することに人生の全てを賭けた、

少年の心をいつまでも持ち続ける頼もしい兄貴集団である。

市井で無報酬の活動を行う彼らの姿勢に賛同する企業や個人も多く、寄付金と賛辞の声がやむ事はないが、

ゆっくりんピースを筆頭とする頭でっかちなゆっくり保護団体との、活動を巡る抗争が表に裏に激化していると昨今のニュースで頻繁に報道されていた。

「や、やめてね!れいむはわるないよ!わるいのはかぞくをころしたこいつだよ!!」

明らかな殺意を隠すことなく突き刺す視線に宿した子れいむは、モヒカンの手の中で冷や汗を大量に噴出させながら身をよじり、自らの正当性を唱えた。

「あんたたちの戯言など聞き飽きてるわぁ。。。うぃっひっひっひ、ジャンクになりなさぁい!」

なぜかおネェ言葉にて死刑を宣告するモヒカン。ご自慢の握力で子れいむのこめかみと思しき場所をゆっくりと締め上げていく。

「ゆぎゅ!ゆごっごっごっごっご・・・」

モヒカンのアイアン・クローにより、子れいむが視線を互い違いに目玉をむき出したところで、慌てて男が口を挟んだ。

「ちょっと待ってください、こいつ勘弁してやってもらえませんか?」

その言を聞くやいなや、途端に眉間に皺を寄せ不機嫌を体現した隊員は、押し黙ったまま男と数秒視線を合わせると、

不意に筋肉だけで笑顔を作り上げ、にゅうっと数センチまで顔を近づけ尋ねる。

「飼いますか?飼いませんか?」

「・・・っ、か、飼います!っていうかもう家でゆっくりを一匹飼ってるんです。」

瞬間沈黙。お互いの思考が交錯したが、先に口を開いたのはモヒカン隊員の方だった。

「愛で派ですね。兄さんの体にこびり付いた愛餡臭でわかります。ごっついのう、ごっついのう・・・。」

とても悲しそうに瞼を伏せくるりと踵を返した隊員は、バイクに戻るとお掃除セットを手に持ち引き返してくる。

「あ、掃除は俺が・・。」

「兄さん、あんた重度のゆ専だろう?」

男は隊員のゆ専という言葉に一瞬顔色をなくした。世間に隠していた事実だからだ。

「兄さんがゆっくりできない匂いをつけて帰ったら、飼いゆはどう思うかは理解できるだろう、ここは俺にまかせておけ。」

初めと比べると明らかに言葉遣いは乱暴になっているが、それでもモヒカンは自らが背負った宿命に従い、清掃をはじめる。

「非常に申し訳ない、これ、少ないですが・・・。」

男が財布から札を数枚取り出し差し出すと、モヒカンは背中を向けたまま地の底から這い上がろうとしている魔王のように低い声色で言った。

「あんたはゆっくりを愛する人だ。そして自分は憎む人間だ。お互い相反する立場で謝礼とかもらっても心地いいもんじゃないね。」

そんなつもりで金銭を出したつもりではなかったが、モヒカンはゆっくりを愛する男と関わる事で自分の思考に隙間を作りたくはない、そう突き放す。

初夏を匂わせるおだやかな風が、立ちつくす男とそれに背を向けて清掃するモヒカンの間に流れた。

 
足元では生き残ったれいむがなにやら叫んでいた。



-2-

「れいむ、今日からここがおうちだよ。」

生まれて初めて乗せられた車に子れいむは、本能的に男を警戒しつつも喜びを隠すことはできずに、引きつった笑顔を終始車内で見せていた。

男の自宅は高度経済成長期に配備された、所謂近代的文化住宅という年代物で、剥き出しのブロック塀に囲まれた平屋は

茶色く塗られた板壁を5月の陽光に鈍く反射していた。

「・・・おうち?」

「そうだよ。」

男が穏やかにれいむの言に答え、車のドアをロックすると、子れいむを抱えたまま歩みを進める。

そして玄関ポーチに差し掛かったところで、不意に内側から扉が開かれた。

「おかえりなさい、おにいさん。」

玄関先に出てきたのは、薄紫の長髪をなびかせ、宝石のような真っ赤な瞳と白い肌を持ち、頭頂部から両の耳を突き立てた美しい胴付きのうどんげだった。

子れいむも野良生活の中で遠巻きに胴付きの姿を見たことはあったが、手足がある以外自分たちと変わらない生き物―いわば仲間、身内の類だと憶測していた。

しかし、今自分の眼前に居るのは、姿こそ人間とゆっくりの中間のような形ではあるが、その仕草や落ち着いた話し方など、明らかに人間に近い。

そんなことで子れいむがぽかんとしている間に、うどんげに男が歩み寄り、少し背を屈める。それに呼応してうどんげは両腕を男の首に回し口付けする。

「ただいま。」数秒間重ねられた唇を離すと、まだ吐息の届く距離で視線を交え、優しく応えた。

抱えられたままの子れいむは、その二人を間近で眺めて、輪郭がはっきりしない感情が自分に生まれたことに気付いたが、理解には至らなかった。

「・・・この子は?」

抱えられた赤いお飾りのゆっくりに気付いたうどんげは、子れいむを覗き込みながら、美しいがか細く消え入るような声で尋ねる。

子れいむは間近で生まれて初めて見る、その飾り物のような透き通る宝石の瞳に釘付けになっていると、男が口を開いた。

「さっき、車でこの子の家族を轢き殺しちゃったんだ、それでこの子だけ生き残った。子ゆっくり一匹で街で野良生活できるほど楽じゃないだろうし、うちで引き取ろうと思ってね。」

そう口にすると、子れいむをうどんげにそっと手渡す。子れいむはまだうどんげの瞳に見入ったままで、「ゆわぁ、きらきらさんだぁ・・」などとぼんやりした口調で呟く。

「れいむちゃん、これからよろしくね」

「ゆっ!?れれれれいむはまだごみくずあほにんげんを ゆるしたわけじゃないよ!!れいむのかぞくをみなごろしにしたつみは、うみよりもふかく やまよりもたかいよ!!」

うどんげの胸に抱かれ、死んでしまった姉に頬ずりした時と似た安らぎを少し覚えながらも、男とこの人間に近い胴付きうさぎをまだ警戒していた。



-3-
一通り家の中を案内された子れいむは、時折憎まれ口を叩きながらもその瞳は輝き、男とうどんげに悟られぬように背を向けたまま満面の笑みを浮かべた。

それも無理はなく、世に生まれ落ちてから先刻まで過酷な街の野良生活をしていたのだ。飼われる事で窮屈な思いをしたとしても、身の安全と比べるまでもない。

時々捨てられた元飼いゆっくりから聞いていた、憧れの生活がここにはあり、これから自分はその憧れを享受する事ができる。小さいながらも部屋も与えられた。

そう思うと自然に口の端だけでなく、顔面全体がほころぶのを押さえる事ができなかった。

「ふん、おもったよりは  たいしたせいかつじゃなさそうだね!くそどれいはさっさとあまあまもってこい!!」

心の内を悟られぬよう、背を向けたままで要求したが、子れいむは自分でも声が上ずってしまった事に気付いていた。

「飼いゆっくりはみんなでご飯を食べるんだ。まずはお風呂に入れてもらえ。」


「はい、れいむちゃん まずは体を洗いましょう。」

うどんげは子れいむがお飾りを外す事に抵抗すると考えていたが、それは全くの杞憂で思いの他素直にうどんげに身を委ねていた。

口にはしないが、飼いゆっくりになれた奇跡から、心変わりしたのかもしれない。多少安易な考えかもしれないが。

洗いながらそんな事を思考していると、子れいむが口を開いた。

「うどんげさん。」

「なーに?」

「・・・あのにんげ・・おにーさんはゆっくりできるひと?」

「そうね、とってもゆっくりできるひとよ?」

「そうだね、うどんげさんもゆっくりしてるしね。でも れいむのかぞくをころしたはんにんなのは かわらないけどね!」

「・・・・・。」

うどんげは押し黙った。自分の飼い主である男が、この子れいむの家族を殺した事は間違いないからだ。

口に出してあれは事故だと擁護しても、その場に居なかった自分が言葉にしたところで子れいむは余計に心を閉じてしまうだろう。

ならば、時間を掛けてでも子れいむがお兄さんを許すその日まで、自分は触れないで置こう。いつか子れいむとお兄さんがお互いに信頼し合えれば、それは素敵な事だ。


「お、れいむ綺麗になったな。」

入浴中にお飾りを手洗いし乾燥まで終わらせていた男が、脱衣場の洗濯機の上で子れいむに装着しなおし呟いた。

「ゆわぁ・・・」

手鏡を見せられた子れいむは、十分に美しくなった自分を隅々まで確かめようとぐにぐにと体をくねらせ、まるで小躍りのような動作をする。

しかし、急激に顔色をなくすと、嗚咽し始めた。

「どうしたの?」

心配してうどんげが背中をさすり顔を覗き込む。察知した男は、ばつが悪そうに居間へと戻っていった。

「ゆぐっゆぐっ、れいむがきれいになったのを、みせるかぞくがいないよぅ・・・」

そう告げた後、大声で泣き崩れる子れいむ。野良生活で多少達観した部分があるとはいえ、まだ十分に幼いのだ。

そんな子れいむの背中を、うどんげは黙ったままぽんぽんと叩き、まるで我が子をあやすようにいつまでも続けた。



-4-
その日の晩、臭くない、まずくない、虫が集っていない初めての豪華な食事をスプーンとフォークに悪戦苦闘しながら食い散らかした後、

生まれてはじめての歯磨きをしてもらい、そして男が用意したバスケットに布をめぐらせた寝床でうとうとしていた。

正直、悪くない。いや、最高だ。たった半日の飼いゆっくり生活で、家族を殺された憎しみを男に持ちながら、同じ男に感謝の気持ちが芽生えている事を素直に認めていた。

しかし、男、うどんげ、自分というこの三人の関係に、微妙な違和感を覚えていた。

知己ではない者だから?いや違う、うどんげに玄関先で迎えてもらった時に、はっきりしない何かを覚えたはずだ。

まだ心を開くには早いものの、やさしい男とうどんげに家族として迎えられたことの気恥ずかしさ?

これも違う、自分の感情なのか、男とうどんげと自分を含む俯瞰的わだかまりなのか、わからないなにか。


夜中に目を覚ました。

子れいむは自分でも良く分からない事を考えていて、いつの間にか眠りに落ちていたようだ。

街での生活は深夜といえども身に危険が及ぶ為、寝ていても自然と気が張り詰めていた。

「・・・きけんはないね、あさまですーやすーやしよう・・・」

周囲を窺い部屋には自分しかいない事を確認すると。再び瞳を閉じ寝入ろうとした。

その時

何か感じる。なんだろう、人間の家なら危険はないはずだ。子れいむは野生的な直感で聞き耳を立て、正体を確かめようとする。

「・・はっ・・もう・・・・て・・・。」

聞き覚えのあるか細く消え入る声、うどんげの声だ。さっきまでの落ち着いた声とはまた違う喋り方だが、きっと隣の部屋でお兄さんとなにか話し込んでいるんだろう、そう理解すると再び眠りに落ちた。


「ゆ?ゆゆゆ??」

夜中に眼を覚まし危険がない事を確認したからか、はたまた寝心地が良かったためか、子れいむが起きたのは日が昇ってから随分時間が経っていた。

野良生活の中では大失態に近い行動であったが、ここは危険のない人間の家だと自分を納得させる。

まだぼんやりした足取りで居間に向かうと、そこには既に朝食が準備されていた。

「おはようれいむ、俺は仕事に行って来るからな。」

男がネクタイを締めながら挨拶を告げると、視線を落として黙ったままの赤れいむに微笑みながら頭を撫で、慌しく玄関に向かう。

その男の後をカバンを持ったうどんげが追いかけ、靴を履き終えた男と昨日帰宅した時と同じように少しの時間二人が重なった。

その光景を黙って見ていた子れいむは、背筋にぞわり、と違和感を覚え、今まで浸っていた心地よい眠気が吹き飛んだ。

そうだ、これだ!昨日の形にならない感情はこれだ、この男とうどんげの関係は飼い主と飼いゆっくりの関係ではない。時々公園で見かける人間のつがい、そのものだ!

まだ幼い自分にも理解できる、不自然だ。


「あら、ごはんたべないのかしら?きらいなものでもあったかな?」

男を見送ったうどんげが居間に戻ってきた。子れいむはこのうさぎと男の関係に胸のむかつきを覚えていたが、

結局空腹の方が勝っていた為、またスプーンとフォークに悪戦苦闘しながらも完食した。

食事の後、子れいむはうどんげの行動を観察していた。

男の服を水の出る箱に入れて音を鳴らし、男とうどんげの匂いがする布団を干し、台の上に乗って食器を洗う。そんな姿を見ていた。


一通り作業が終わると、うどんげは紙パックのジュースを二人分コップに入れてテーブルの上に置いた。れいむは食事の時と同じく座敷用ゆっくり椅子に乗せられた。

「どうかな?いちにちすんでみて」

「ししししあわせぇぇぇぇ!?ぶぇ??あ、わ、わるくないよっ!でもくずばかごみおにーさんはゆるさないよっ!!」

「きのうのよる、おにーさんもいってたわ れいむちゃんがゆるしてくれるとはかんがえてないけど、しあわせにはしてあげたいって。」

一日で判断するのは早計だ、しかし街で生活していた以上身につけている人物眼が、あの男は危険ではない、確かにそう判断していた。

「・・・ゆぅ、ちょっとじかんがほしいよ」

「うん、それはわたしもおにーさんもわかってるから、ゆっくりしていってね!」

「ゆっくりしていってね!」

子れいむは男に対して憎しみと、同じ位大きい感謝の念を同時に持ってしまい、不安定になっている事を自覚していた。

「ゆ、そういえばきのうのよるおそく、おにーさんとなにをはなしてたの?」

「・・・!」

昨晩自分が眼を覚ました時に聞こえたうどんげの少し違う声色、虐待の声では無いと思うが、なんとなく気がかりだったのだ。

しかしその質問をした瞬間、うどんげの光る宝石のような両目を、瞼をやや伏せて視線をそらした。

「ん・・なんでもないよ?れいむちゃんはしんぱいしないでねっ。」

明らかに何かをはらんでいると簡単に察知できる所作、触れてはいけない事だと察知したれいむは、黙ってジュースの残りを飲み干したが、もう何の味か分からなかった。



-5-
あれから夏が過ぎ、秋が終わり、冬が来た。

季節の経過は子れいむを緑の黒髪が美しいふっくらとした体躯の成体ゆっくりへと変貌させていた。

夏にはゆっくり専用プールにも連れて行ってもらったり、キャンプで魚釣りも体験した。

秋にはかねてからの勉強の成果もあり、銀バッヂを獲得し、どこに連れて行ってもらってもはずかしくない飼いゆっくりになれた。

れいむは家族を殺した男を許すわけにはいかないが、今の自分があるのは全て飼い主のおかげであることから、

いつしか感謝の気持ちを持つことになんの迷いも持たなくなっていた。

だが声に出して気持ちを伝える事にはまだ迷っていた。何回か言い掛けたことはある。しかし、都度憎まれ口を叩いてしまう。

バッヂ取得で表面上は教育されているが、本質の部分はなかなか変えられない。憎い、でも、優しい。

そんなこんなで、なんだかんだと穏やかな生活を満喫していた。


最近になってやっと分かってきたことがある。お兄さんは優しいが、家事全般をうどんげに丸投げしている事。

はじめは胴付きと飼い主の関係とはそういうものだと考えていた。特にこの仲の良い二人ならば。

しかし、テレビなどで人間の習慣やゆっくり関連の番組を見るうち、違っている事に気付いた。

お兄さんはずぼらなのだ。食べたお菓子の袋を片すところを見た事はないし、靴も脱ぎっぱなし。脱いだ靴下は丸まったまま。

それらの片付け全てを、うどんげは嫌がることなく微笑みながらこなしていた。先にれいむが気付いた時はれいむがする時もあるけど。

そしてうどんげ。

こちらは底抜けに優しいが、時折れいむが粗相をすると、気迫は感じられないが優しく怒る。

そして虫が大嫌い。一度お兄さんが不在の時にゴキブリが家に進入してきたときは、眼を回して倒れてしまった。

また、ちょっと忘れっぽい。洗濯機のスイッチを押し忘れたり、お風呂の水を出しっぱなしにしたり。その都度れいむの方が先に気付き教えるのだ。

上手く表現できないが、お嬢様というやつだろう。お兄さんに公園に連れて行ってもらうと、うどんげと同じように穏やかでおっとりしていて、ちょっとおっちょこちょいなゆっくりが多かったから。


これまでのゆん生を振り返ると、れいむは感謝の気持ちだけではなく、いつの間にか二人の事が大好きになっていた自分に気付いた。



-6-
「お前ら、最近シティ・シェパードって無頼漢が街でゆっくりを無差別に殺してるらしいから気をつけとけよ。」

シティ・シェパードとは、男がれいむの家族を事故で死なせてしまった時現われた『Junk-Anko-Freaks』通称JAFから、

より過激な活動に重点を置く者たちが除名された後に新たに作り上げた組織であった。

このグループは非合法活動も難なくやってのけ、散歩中の飼いゆっくりを飼い主の目の前で血祭りにあげるのは当たり前であり、

人家の軒先で飼われているゆっくりには不法侵入の末虐殺に至るなど、正直もう終わっちゃってる人たちである。

「こわいね、わたしたちもなるべくいえからでないようにしますね。」

「そうだね、れいむも。」

「まぁここの庭は表通りから見えないし、隣の老夫婦もちぇんを飼ってるから密告とか大丈夫だろうけど、これからは電話はれいむの手にも届くよう床においておくよ。」


その日の晩、怖い話を耳にしたからか、久しぶりに悪夢にうなされ れいむは夜中に眼を覚ました。

「ゆぅぅ、おとーさんおかーさん・・・」

寝ている間にうわ言でも叫んでいたのか、それとも少し前まで点けていた暖房のせいか、喉が渇いたれいむは洗面所に向かった。

「ごーくごーく」洗面所に常備されているペットボトルを逆さにした給水機で喉の渇きを潤すと、ガラス戸の向こう側、お兄さんとうどんげの寝室から消灯された室内にチラチラとテレビの光。

音は小さいものの、テレビからは出演者の笑い声が聞こえ、それと同時に床から伝わる小さいうねりのような微振動。

「・・・はっ・・・はぁ・・・・。」

吐息交じりの声、うどんげの声だ。れいむはいぶかしげにガラス戸を見つめる。


「・・って・・・もう・・・めてください・・・。」

うどんげの泣き声?ちょっと違う気もするが・・・。

「・・・まだだ、まだ終わらんよ。」

今度ははっきりと聞こえた。うどんげがなにか懇願し、それをお兄さんが拒絶した声だ。

お兄さんの声がいつもと違ってゆっくりしていない、うどんげを虐めているのか?そういえばこの家に来たばかりの頃、夜中の話し声をうどんげは誤魔化した。

れいむを優しい家族に迎えてくれたのではないのか?それは家族を殺した事から罪悪感を払拭し、贖罪による上辺だけの自己満足だったのか?

怒り、というより失望感に支配されたれいむは、歯を食いしばったまま涙でくすんだ視界で、ガラス戸の向こうで耳をゆらしながら上下に跳ねているうどんげのシルエットを眺めていた。

「「・・・・っ!!」」

お兄さんの声にならない獣じみた咆哮、そしてうどんげの細く緒を引くか細い声が同時に起こり、シルエットのうどんげはゆらり、と倒れこんだ。

「・・はっ、うどんげがあぶないよ!!」

様々な感情が入り乱れ、忘我に陥っていたれいむは我に返り、ガラス戸を力いっぱい開く。

「おにーさん!!うどんげをいじ・・める・・あれ?」

自己の危険を顧みず、虐待が行われているであろう現場に踏み込んだれいむは、目の前の光景を理解できなかった。

虐げられていたであろううどんげは、裸のお兄さんの上で同じく裸で重なり、ちゅっちゅしていたからだ。一瞬だけ垂れる前髪から覗けたうどんげの顔は、明らかに嬉々としていた。

「いやぁだ、みないでぇ!」

うどんげは突然開け放たれた扉の前にれいむを見止めると、その白い肌を瞳と同じ色に紅潮させて慌てて毛布に包まる。

「ゆ?ゆゆ??ゆゆゆ???」

テレビの光だけが灯る暗がりの部屋で、三人は呆然としていた。



-7-
「まったく、しんじられないよっ!」

ナイフとフォークで器用に朝食のベーコンエッグを捌きながら、れいむは昨晩目撃した出来事に愚痴をもらした。

うどんげはいつもと同じようにお兄さんを玄関先で見送ると、今は流しで調理に使ったフライパンをたわしで擦りながら、恥ずかしそうに俯きれいむの言葉を背中で受け止めている。

「ちょっときいてるの?れいむたちはゆっくりなんだよっ!」

押し黙ったままのうどんげに苛立ちを隠せず、思わず大きな声を出してしまってから、れいむは少し後悔した。

これまでかなりの時間を三人で過ごしてきたが、安定した飼いゆっくり生活の中で、一度は気付きかけたお兄さんとうどんげの関係を見過ごしてきた事に対し、自分が情けなくもあった。

お兄さんとうどんげが人間のカップルに近い付き合い方をしていたのは、以前にも気付いていたが昨晩のあれは行き過ぎだ。

「・・・でもね、おにーさんは わたしがいないとだめだから。」

振り返り返事をするうどんげ。その照れながらも憂いを全て取り払ったような晴れやかな表情に、れいむはうどんげをゆっくりとしてではなく、

バッヂ取得教育の中で学んだりお泊り保育で体験した優しい人間の女性と同じ面影を見つける。

「・・・・。」

うどんげ本人はどう思っているのか、れいむは尋ねかけたが口ごもってしまった。うどんげは優しく芯の通ったゆっくりだ、優しいお兄さんを嫌いなわけがない。お似合いじゃないか。

でも、お兄さんとうどんげが種の枠を超えたところで繋がっているのだとしたら、自分の立場はどうなんだろう。れいむは二人にとってペット?それとも望んでも叶わない子供の代役?

「ゆ、もういいよ、れいむがおこることじゃないしね。」

れいむは考える事を止めた。思考の果てにたどり着く結論が正しくても間違っていても、二人が答えを出す問題だ。自分が詮索する事自体が二人の為じゃない。

自分にできる事は、これまで通り出来る範囲で二人をゆっくりさせる事、自分がゆっくりする事。今この瞬間の自分は決してゆっくりしていない。

二人の自分に対する反応がどう変わっていったとしても、受け止めよう。有り難く享受しよう。自分はれいむ。飼いゆっくりれいむなのだから。



-8-
冬の日の良く晴れた午後の光を浴びて、居間でうどんげとれいむはまどろんでいた。

暖房をつけなくても暖かいこういう日は、お昼ご飯を済ませた後、家事が片付き人心地付いたうどんげに抱かれ、絨毯の上で昼寝をする。

最近は物騒になってきたので、以前のように自転車に乗せられて、うどんげと二人商店街に夕食の買出しに出かける事もなくなったのだ。

うどんげは母親と同じ温もりをもち、姉のように優しく怒り、時々妹のような無邪気さでれいむに世話を焼かれる。

幸せだ、本当の家族の事を忘れた訳ではないけれど、この作り物のような不思議な家族との生活に、幸せを見出していた。

その時、不意にれいむに戦慄が走った。瞬時に体が震え、寒気が走る。

「・・・どうしたの?ぐあいわるいの?」

腕の中で震えるれいむの異常に気付き、うどんげも眼を覚まし心配の声を上げた。

「しっ!ちょっとまって。」

小刻みに震えるれいむが沈黙を促す。これは・・・なんだ?いつしか忘れていた感覚、無意識に中枢餡に刻み込まれた恐怖。

心配そうにれいむを見つめる宝石の瞳と視線は交錯しながらも、しかしれいむの焦点が赤色に定まる事はなく、過去の記憶の糸を辿っていた。

「・・・・!!」

そしてついにその正体を見つけ出した。お兄さんと初めて会った日の、あのモヒカン男のバイクの音―。

「うどんげ、よくきいてね、このばいくさんの―」

低音で特徴的な排気音が止まった、この家の前だ。

「あら?だれかきたのかしら?」

うどんげもエンジン音が自宅前で停止したのを察知し、宅配便が訪ねてきたかのように玄関に向かおうとする。

「ゆっ、だめだよ!」

居間とキッチンを仕切るガラス戸の前に素早く回りこみ、行く手をれいむが遮った。

「さっきのおとは、むかしれいむをころそうとした にんげんさんのばいくのおとだよっ」

静かに押し殺した声で、汚い言葉を使いそうになりながらもゆっくりとうどんげに伝える。

その鬼気迫る表情から、うどんげはやっと先日お兄さんから聞いたばかりの危険を察知するが、れいむを抱き上げおろおろするばかりで要領を得ない。

生来の飼いゆっくりであるうどんげに、危機管理能力は恐ろしく欠落していたのだ。

ピンポーン

「・・・!!」

来た。確実にこの家のインターホンを押した。聞いた。ドアの向こうにあのモヒカンが立っている。殺される!!

恐怖と混乱でれいむは小刻みだった震えが激しくなり泣きだしそうになるが、身の危険はうどんげも同じ。

このお嬢様のような心優しい胴付きのうさぎさんを危険に晒してはいけない。

「どどどどどうしよう?どうしたい?どうする??」

うどんげはれいむを抱いたまま完全に狼狽している。自分がしっかりしなくては―

ピンポーン

再度の訪問を告げる電子音。元より白い肌色をさらに真っ白に変質し、美しかった桃色の唇は薄い青紫に変色し震えていた。

「・・げ・・んげ、うどんげ!」

小さく、静かにうどんげを呼びかけるれいむ。はっと我に返った透き通る赤色の瞳と視線が合う。

「ゆっくりかくれるよっ、べっどさんのしたがいいよっ。」

普段から世界を低い所から眺めているれいむの、野良時代に培った身の危険を感じたときの行動だった。

二人はベッドの隙間に入り込み、息を潜めた。

かちゃ    

二人をさらに追い詰める乾いた音―モヒカンがドアポストを開き、中を覗き込んでいる事は容易に想像できた。

ぱたん

閉められた音で安堵する。それでも押し黙ったまましばらく息を潜めていたら、先ほどのエンジン音がした後、一度だけ勢い良く吹かして遠ざかって行った。


「・・・いったかな?」

「いったみたいだねっ。」

ベッドの下から這い出ると、二人は抱き合って泣いた。

「こわかったよぅ!」

「こわかったねっ!」

モヒカン男襲来の恐怖も冷めやらないまま、れいむは非常時にはお兄さんに電話をする様教えられていた事を思い出す。

「・・・まだわからないよっ、いまのうちにでんわをしようねっ。」

まだ震えたままのうどんげはアテにならないだろうと、れいむは壁に貼られたお兄さんの携帯電話の番号をプッシュする。

「・・・あれ?」

「どうしたの?」

震えるか細い声でれいむの異変に気付くうどんげ。電話が繋がらないのだ。

「でんわがおかし・・い・・よ?」

うどんげに電話機の異常を伝えようと振り返ったれいむの視線の先には、庭に続くサッシのガラス越しに、逆光の中大きな人の影が映った。

うどんげもれいむの視線にあわせて振り返ると、大男が何か持ち上げて部屋の中に向かって投げ下ろす様が瞳に入ってきた。

「・・・・!!」

ゆっくりの二人には世界が終わったかのような錯覚を覚えるほどのガラスの割れる大きな音、そして居間にはコンクリートブロックが絨毯に転がり、ガラスが四散した。

破壊が終わった後、瞬間の静寂。

それを打ち破ったのは肩より長いウェーブパーマの髪と、額に幾重にも刻み込まれた傷跡を残し、真冬にタンクトップ姿の大男の笑い声だった。

「ぎゃは、ぎゃは、ぎゃははははははは!!!」

「きゃ、きゃああああーーーー!!」

常軌を逸した大男の叫び声に、うどんげが恐怖心から目を閉じ小さく屈みこみ、こめかみの辺りを押さえて叫び声を上げる。

一通り笑い終えた大男は、サッシの鍵を外から開けると土足のまま侵入し、事態が呑み込めず呆然とするれいむと、蹲り泣きながら震えるうどんげにゆっくり向かって来た。

「くくくくく、くるなああああ!!」

うどんげは動けない。れいむは手を引きうどんげを逃がす事も出来ないもどかしさと、自らの恐怖心を払う為にも、可能な限り大声で制止をかけた。

しかしゆっくりとは無力な生物である事をほとんどの人間は熟知している。

力のないれいむの願いなど届くはずもなく、涎を垂れ流し興奮の為に上気した声を発しながら大男は巨大な二の腕をうどんげに伸ばす。

「くさぁい くさい餡子さんみーつけたぁ・・・ぎゃはははははは!!!」

巨大な二の腕が掴んだ先は、うどんげの白く細い首だった。

そして膝を突いた姿勢でうどんげの首を掴みあげ、大事な宝物を手に入れて天に掲げるかのごとく腕を伸ばし突き上げた。

「ややや、やめろぉぉぉぉ!!」

れいむは果敢に大男の足に体当たりを試みるが、自分でも全く効果がないのは分かっている。無力というもどかしさに泣いた。

そうこうしているうちに、うどんげの顔色は紅潮しはじめ、無抵抗のままどことも定まらぬ視線を彷徨わせていた。

宙で両手両足が力なく漂う。

「きゅっと締めてぽーん!がいいかい?うひっ、それともギュギューッ、ぶしゅっがいいかぁい??あひゅ、うふぇふぇふぇ・・・饅頭殺すのに罪悪感はいらないよねぇ・・?」


「・・・めてください。」

「ん?何か言ったか?ゴミ饅頭。」

「やめてください!うどんげはれいむのかぞくなんです!!れいむをえいえんにゆっくりさせてもいいから、うどんげはゆるしてください!!」

大声で泣き喚きながら大男に懇願するれいむ。野良時代にも、命乞いの果てに紙くずのように扱われるゆっくりの姿を遠巻きに見ていた。

理不尽な死は見慣れている。その頃は自分だって家族の事だって、いつその身に降り掛かるかしれない災難への覚悟は出来ていた。

しかし、安定した飼いゆっくりの生活の中で、いつしか忘れていた感覚だった。

自分の家族が死んだときは悲しかったが、あれは事故だ!お兄さんが悪いなられいむとれいむの家族も悪いんだ!

そしてお兄さんは自分を飼いゆっくりにしてくれた。贖罪?そんな理由はどうだっていい、今はお兄さんとうどんげと自分で三人で家族だ。

でも、うどんげが居なくなったらこの家族ごっこもおしまいだ。そんなの嫌だ!

この惨状に関係有ること、関係ない事、様々な思考と感情が一瞬で沸き起こり、れいむは自分でも分からないほどにいきり立っていた。


涙を流しつつも、臆することなく睨み付けて来るれいむを大男は見据えると、うどんげから手を離す。

「けほっ、けほっ!」


涙を流しながら苦しそうに咳き込むうどんげをれいむは見つめ、声を掛けた。

「うどんげ、れいむのことはいいからにげてね。」

四つん這いで咳き込みながら、れいむと視線が交錯したその時、大男が素手でれいむを打ち据えるべく振りかぶる。

「うぉぉぉぉぉぉ!!」

大男の怒声に死を覚悟したれいむは瞳を閉じたが、自分でもどうしてか理解できないが微笑んでいることに気付く。

「・・・・?」

「やめるゲラ!!」

不意に聞きなれないうどんげの口調を聞き、れいむは瞼を開いた。

そこには、れいむの知らない真剣な怒りを露にしたうどんげが、振りかぶった腕に巻きついていた光景があった。

「このこはわたしとおにーさんのだいじなかぞくゲラ!おまえなんかにおもちゃにさせないゲラ!!」

歯を食いしばり、真っ赤な瞳を吊り上げて力の限り制止を試みるうどんげ。しかし、人間の前には胴付きであったとしても無力だった。

「・・・そういうの、いいから。」

急に冷めた口調になった大男に簡単に振りほどかれ、うどんげは庭を通り越し、隣家の境の板塀に思い切り打ち付けられた。

「うどんげ!」

なぜ自分を放っておいて逃げないのか、一瞬うどんげの行動を責めそうになったが、同時にれいむは気付いていた。

うどんげも自分をペットではなく、信頼しあえる家族だと思ってくれていたのだ。

こんな突然の最期の時に、れいむは本当に素敵な家族に迎え入れられていた事に気付き、先ほどまでとは違う心地よい震えに身を委ねた。


「はぁ、調子狂っちゃうね、本当に。」

大男は先ほどまでとは違い、抑揚のない声色で呟きながられいむに両腕を伸ばす。

眼前に迫る巨大な掌を、真っ直ぐに見据える。掴まれ、凄まじい握力で体を絞めつけられ苦しみに身を捩りながらも、まだ凛としていた。

自分が殺されている間にうどんげは逃げ果せるだろうか?それだけが気がかりだったれいむは、まだ自由が利く眼を動かし、うどんげが投げつけられた方、庭に視線をやる。

そこには、大男とはまた違う男が立っていた。

モヒカン頭に鋲付きレザー上下を着込んだ痩せぎすな男―忘れもしない、先ほど訪問してきたバイクの持ち主で、野良時代最後の日に自分を殺そうとした男。

見張りでもしてたのだろうか、二人目の出現にうどんげは大丈夫だろうか?

絞め付けられ遠のく意識の中で、モヒカン男が手にしていた角材を振り下ろすのが見えた。




-9-
「がああああああああああ!!!!」

低く鈍い打撃音の一拍後に叫び声が部屋中に響き渡る。

大男の仲間だと思っていたモヒカンが、手にしていた角材で大男を殴りつけたのだ。

その角材は真っ二つに割れ、れいむの頭越しにキッチンのガラス窓を突き破った。

何が起こったのか理解できないれいむは、ぽかんと口を開けてこの惨状を見つめていた。


「やっぱりお前か、『人間山脈』ぅ・・・。」

「・・・久しぶりだっていうのに随分じゃねぇか、『フリッツ』よぅ?」

ガラスの四散する部屋の中央で、大男とモヒカンが睨み合う。モヒカンとお兄さんは同じくらいの身長だが、大男は天上に頭がつきそうなほど巨大だと初めて気付く。

「おい、クソ饅頭、今のうちに逃げな。」

他人の家に土足で上がりこみ、いきなり自分とうどんげを殺そうとした大男が現われたかと思えば、今度はモヒカン男の来襲、

しかもこいつはゆっくりをゆっくりさせない男のはずなのに逃げろという。

しかしこれは好機であることに変わりはなく、睨み合う男二人の脇を、そろりそろりとガラス片に気をつけながら庭へ向かう。

「逃げるな!」

大男がれいむを逃がすまいとモヒカンから視線を逸らした瞬間、モヒカン男のアイアンクローが電光石火でこめかみを捉えた。

「っぎゃあああああああ!!」

大男の叫び声を背に、庭に飛び出したれいむは、倒れたままのうどんげに駆け寄る。

「だいじょうぶ?うどんげ!うどんげ!!」

「うーん・・・」

意識がはっきりしないうどんげを、胴無しゆっくりの自分が逃がす事は不可能だ。しかし、ここからなら隣のちぇんを飼っている老夫婦に声が届くだろうと、大きく息を吸った。


「だれかたすけてください!!れいむとうどんげをたすけてください!!」


しかし、その声に反応したのは隣家の老夫婦ではなく、お兄さんだった。

「おい、お前ら何してるんだ?」

「おおおおおにーさん!!」

いつもより早く帰宅したお兄さんにれいむは顔がほころぶ。しかし、今の家の中の惨状はお兄さんにも危険が及ぶはずだ。

倒れたままのうどんげと、家の中から聞こえる怒鳴り声と破壊音に異変を感じたお兄さんは、急いでうどんげとれいむの元に駆け寄る。

その時、一際大きな叫び声が家の中から上がった。

尋常ではない事態を伝える叫び声―モヒカンの絶叫だ。

れいむが部屋の中を覗くと、こめかみかに空いた傷口から大量出血した、この世の人とは思えぬ形相の

タンクトップを血に染めた大男が怒涛の勢いで庭に飛び降りてくるところだった。

モヒカン男を倒したのか、うどんげとれいむを追いかけてきたのだ。

お兄さんはいきなり自宅から出てきた血まみれの大男に驚きを隠さなかったが、大男とうどんげ、れいむが近接している為注意を引き付けようと吼えた。

「おおお、お前誰だ!俺の家で何してる!!」

モヒカン男よりもか弱い怒声。それでも一家の主であるお兄さんが大男に怯まず制止しようとした事がれいむには嬉しかった。

しかし事態は好転していない。大男が手にしているもの、落陽を反射するそれは刃渡りの長いナイフだ。モヒカンのものなのか握る手と刃から血が滴っている。

「めんどくせぇ、めんどくせぇ・・・」

お兄さんの叫び声などまるでなかったかのように、大男はナイフを握り、迷うことなくうどんげに近寄ると、長髪を鷲掴みに引っ張り上げる。

「・・・っ。」

うどんげが痛みに意識を取り戻し、声にならない声を上げた。

その首元に、大男が手にするナイフの切っ先が向かう。

「やめろおおおおおお!!」

「やめてね!やめてね!!」

お兄さんが鬼の形相で大男に向かう。初めて見せる怒りに身を任せた姿だ。

大男は予期してなかったのか、本当に先ほどのお兄さんの怒声が耳に届いてなかったのか、

いま初めて気付いたかのごとく驚きの表情をお兄さんに向けると、うどんげから手を離し、反射的に持っていたナイフを向けた。



この場の全員が、スローモーションの渦中に居た。

大男は突然走り寄って来たお兄さんに驚き、ナイフの切っ先を合わせた。

お兄さんはその切っ先に怯むことなく、家族を守る為に死地に飛び込んだ。

うどんげは大男のナイフを持つ腕に掴みかかった。

モヒカン男は腹から出血しながらも、冬の浅い西日をバックに飛び蹴りを叩き込むべく宙を飛んでいた。

れいむはお兄さんと大男に割って入った。


男3人とゆっくり2匹、計5体がほぼ同時にひとつの塊になった後、砕けた。


「よーしそこまでだ!頭の後ろに両手を回して地面に伏せろ!!」

交錯した時にどこかで打ったのか、後頭部が痛むお兄さんの視線の先には制服の警官が1人拳銃をつき付け構えていた。その後ろにも新手の警官が3人視界に入った。



-10-
「ぎゃは!ぎゃはは!!ぎゃはははははははは!!!」

後ろ手に手錠を掛けられ連行される大男。逮捕の際抵抗した為、警官全員から執拗にスタンピングを浴びさせられ、

もはや元の形が分からないほどに顔を変形させて、全て折れた前歯を隠しもせず笑い続けた。

モヒカン男は抵抗こそしなかったものの、手錠を掛けられ縁側に寝そべり、腹部の出血を年老いた警官が止血できないか苦闘していた。


大男の持つナイフとお兄さんの間に割って入ったれいむは、瀕死の重傷を負っていた。

刃渡りの長いナイフが深々と突き刺さり、中枢餡まで達していた。

「れいむちゃん、だいじょうぶ、だいじょうぶだよ。」

うどんげは宝石の両目をこれまでに見せた事がない真紅に染め上げ、大量の涙を流しながらも笑顔に努めてれいむの頭を撫でる。

「いまゆっくり病院に連れてってやるからな。」

お兄さんはれいむを抱いたままぼろぼろになったスーツのポケットを弄り、車のキーを探す。

「ゆっ、れいむはもうだめだよっ・・・あんこさんのだいじなぶぶんがばらばらになっていくのがわかるよ・・・」

震える小さな声で、しかし相手が聞き取りやすいよう教育された通りのゆっくりした話し方で答えた。

「れいむ、喋るな!」

お兄さんも泣きながら車のキーを探すがなかなか見つからない。

「ううん、いいんだよおにいさん。さいごにれいむのはなしをきいてほしいよ・・・。」

れいむの傷が致命傷である事は、悲しい事にお兄さんとうどんげにも理解できていた。

お兄さんは知らず知らずのうちに、慌てる事で気を紛らわせようとしていた自分を律し、口を開いた。

「なんだ、言って見ろ。」

「・・・れいむは、おにいさんとうどんげにあえてしあわせだったよ、いちどもいえなかったけど、ふたりはれいむのかぞくだよ。」

うどんげは涙をながしながらも最期の瞬間まで眼を離すまいとれいむの泳ぐ視線を追いかけた。

「ああ、れいむとうどんげと俺で家族だ、いつでも、いつまでも。」

「・・・ゆふふ、おとーさん、おかーさん、ぎゅーってしてほしいよ。」

冷え込み始めた空気に溶け込みそうな小さい声、お兄さんとうどんげは二人で包み込むようにれいむを抱いた。

「れいむちゃん、れいむちゃんはわたしとおにーさんのだいじなこどもだよ。」

「れいむ、お前は俺たちの自慢の子だよ。」

家族の中で一番のしっかり者のれいむが初めて甘えた。お兄さんもうどんげも、それに優しく答えた。

「・・・あったかいよ・・・」

これがれいむの発した、最期の言葉だった。

最期に二人に甘えたくて、ついに自分の本当の家族の事をお兄さんに謝罪する事ができなかった。でも、きっとお兄さんは分かってくれるだろう。

本当に大事な事は、言葉にしなくても伝わるだろう。お兄さんとうどんげとれいむ、三人で家族。作り物でもおままごとでも心の繋がった家族なんだから。


完全に夜を迎えた住宅街に、お兄さんとうどんげの絶叫が響き渡った。



-11-
俺とうどんげかられいむを奪ったあの事件から2週間が過ぎ、警察の聴取も一通り終わった。

二人を襲った『人間山脈』は、やはり最近世間を騒がせていた非合法集団シティ・シェパードの一員であり、

かつて所属していたJunk-Anko-Freaks通称JAFの生ぬるいやり方に反発して除名されていた。

この地区のゆっくり登録情報を元に家宅侵入や器物損壊を繰り返しており、余罪は数え切れない程だそうだ。

そんな元構成員の蛮行を止めるべく、モヒカン男『フリッツ』は、シティ・シェパードが参考にしているであろう登録情報を元に、この地域を警戒していたそうで、

供述通り一回目の訪問時にドアポストに挟んだ警戒情報のチラシが発見された為、不起訴となる可能性が高いそうだ。



「うどんげ、そろそろ閉めないと冷えるぞ?」

厳冬の冷え込みは、日中といえども縁側に腰掛けたうどんげの体温を容赦なく奪っていく。

うどんげの二つの赤色の先には、れいむの墓がある。とりあえず手作りの粗末な作りだが、墓標には違いない。

返事をせず、その場から動こうとしないうどんげを、そっと後ろから温もりが包み込んだ。うどんげはその正体を確かめることなく、体を預け赤色を潤ませた。

その時、聞き覚えの有るバイクの排気音が近づき、玄関前で止まった。

うどんげは一瞬びくり、としたが、再びれいむの墓に視線を落とすと涙を滲ませた。


「こんにちは。」

玄関を叩く事もなく庭先まで姿を現したのはフリッツだった。真冬だというのに相変わらず素肌の上に鋲付きの革ジャンを背負っている。

剥き出しの腹部に覗く厚巻きの包帯が、黒のジャンパーとモノクロのコントラストを描いていた。

「何しに来た。」

うどんげを後ろから包み込むお兄さんは、モヒカンに視線を合わせることもなくぶっきら棒に突き放す。

「この度は、本当に申し訳ありませんでした。」

深々と頭を下げるモヒカン。お兄さんが視線をやると、生まれて初めて見るモヒカンヘッドの頭頂部に思わず噴き出した。

れいむが居なくなってから、初めての笑いだったかもしれない。

そのれいむの命を奪ったのは、他ならぬこのモヒカンの元同僚であるが、うどんげにまで事が及ばなかったのがこの男の活躍である事も事実だ。

形は違うが、れいむが自分に対しかつて持っていたであろう矛盾と似通っているな。そう思うと、不謹慎と思いつつも、今は笑おう。

「なんて頭してるんだよ、まったく。」

「すいません、生まれつきの頭なんでご容赦ください。」

これは頂けないな、と苦笑いを浮かべ、うどんげを見やるとまだぼんやりとれいむの墓標を眺めていた。

「これをお持ちしました。」

モヒカンが手にしていた木箱を開けると、中から子ゆっくり大のれいむの石像が姿を現した。

本物のれいむより、やや挑発的な面持ちをしているが、悪態をつく時に見せた顔に良く似ている。

うどんげが座ったまま手を伸ばし、モヒカンかられいむ像を受け取ると、しばらくじっと見つめた後、にっこり微笑んで胸に抱きしめた。

「気に入ってもらえて何よりです。」

モヒカンが口の端をにへらと吊り上げ、申し訳なさそうな顔と嬉しさが入り混じる不思議な表情で笑った。

「あとこれ、少ないですが・・・。」

モヒカンが結構な厚みの銀行の封筒を手渡そうとするが、お兄さんは何か懐かしい記憶に包まれ、少し嬉しくなった。

「あんたはゆっくりを憎む人だ。そして自分は愛する人間だ。お互い相反する立場で謝礼とかもらっても心地いいもんじゃないね。」

謝礼の言葉を使う場面じゃないけど、いいよな?れいむ。


おしまい


            ※※※おわりに※※※
随分前に書き終わってたんですが、見返すのが怖くて放置してました。
見返したら見返したでやっぱり支離滅裂ですね、すいません。
こんなだらだら長く続く文章を読んでくださった方、小ネタを下さったとっしーに感謝です。
最終更新:2010年10月13日 11:14
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