小型の旅客船が港にたどりついた。
この船は10台くらいの車と、100人以上の人間を輸送できるフェリーである。
半径2kmの小さな島に渡るフェリーで、島内は車がなくても不便を感じないので、
だいたいの人は徒歩か、自転車を積んでフェリー乗る。
たまに、足の不自由な人やお年寄りを乗せた車、輸送用のトラックが乗るくらいで、
車を使って島内を散策する人は滅多にいない。
車をフェリーに乗せるとかなりお金を取られるので、そういう理由からも車で乗船する人は少ない。
そんな中、一人のおばさんが車に乗って、一番最初にフェリーに乗り込む。
島内でバカンスを楽しもうと考えているようだ。
おばさんは車から降りてから、助手席や後ろのシートにいる大量のゆっくりを降ろす。
全部で10匹のゆっくりが車から降りてきた。
「何してるの!!船員は客の手伝いをするのが普通でしょ!!そこのあんたら、早くきなさいよ!!!
ここにいるゆっくりちゃんたちを客室に連れていってよ!!!」
「そこのげぼくたち!!れいむをていねいにはこんでいってね!!!」
口やかましい感じのおばさんだ。
横にいるゆっくりれいむも調子に乗った発言をしている。
客室乗務員は、乗客が大きな荷物を持っている場合、荷物を運ぶ手伝いをするよう指示されているが、
ペットなどを運ぶ指示はされていない。
それに加え、おばさんの態度は高圧的だ。
喜んで荷物を運ぼうとする乗務員はいない。
しぶしぶゆっくりたちを運ぶが、
ゆっくりたちを運び終わっても、おばさんから感謝の一言ももらえなかった。
それどころか、運ぶのが遅いだとかフェリーがゆれてゆっくりちゃんがかわいそうだとか、文句ばかり聞かされている。
乗務員の一人は、持ち運んでいたゆっくりにしーしーをかけられたようだ。
「ゆ?なにかもんくでもあるの?もんくがあるならおばさんにちょくせついってね!!!」
「お客さん、ゆっくりにしょうべんをかけられたんですけどねぇ。しつけのほうはどうなってるんですか?」
ゆっくりたち全員に銀バッジがつけられている。
しかしこの銀バッジ、購入前にすでに取得されていたもので、
このおばさんがゆっくりをしつけた訳ではない。
このおばさんにヌクヌクと温室育ちをさせてもらうようになったゆっくりたちは、
徐々に性格が悪くなり、下品で贅沢で傲慢なゆっくりになってしまった。
甘やかされて、後から腐っていったゆっくりたちのようだ。
「何か文句あるの?そこに銀バッジがついてるでしょ!!
これは、ちゃんとしつけができてるっていう証拠なのよ!!
そんなゆっくりちゃんが、おしぃしぃをもらしちゃうなんて、そんなことあるわけないでしょ!!!」
「そういわれても、手にしょうべんがついてますし・・・それにそんな言い方されたらブツブツ」
「ゆう?おにいさん、なにかもんくでもあるの?れいむがおもらししたっていうの?れいむがそんなことするわけないでしょ!!
おもらししたようにみせかけて、おにいさんはれいむをはめようとしてるんだよ!!!」
「れいむちゃんもこういってるのよ!!!これは名誉毀損だわ!!!後で訴えるから覚悟しておきなさい!!!」
名誉毀損もなにも、ゆっくりには人権がないので訴えられるわけが無い。
このおばさんが傷つけられたというなら話は別だが、別にそういうわけではないし、
どちらかというと、乗務員のおにいさんのほうが被害者なのだ。
客という立場と威圧的な態度によって、自分たちのほうが正しいと、このおばさんは言い張っているのだ。
乗務員のおにいさんは心の中で、このおばさんを『ゆっくりおばさん』と命名した。
客室にたどりつくと、ゆっくりおばさんはゆっくりたちを乗客用の椅子に、一つずつ間隔をあけて座らせていく。
そのせいで、20人座れる椅子はゆっくりたちですべて埋まってしまった。
こうなるとほかの乗客は、ほかの余った椅子に座らなければならないし、
椅子の無い人は地べたに座らなければならない。
あとからきた乗客がこの様子を見て驚き、おばさんに声をかける。
「あの、せめてゆっくりたちを詰めて座らせてくれませんか?ほかの人も座りたい訳ですし・・・」
「なにを言ってるの?それじゃ、ゆっくりちゃんたちがゆっくりできなくなるでしょ!!!
それに先に座ってたんだから、その席をどうするかはゆっくりちゃんたちの勝手でしょ!!」
「そうだよ!!ゆっくりできないにんげんさんはどっかいってね!!」
「ゆっくりじゃまだよ!!!」
乗客の男性は、これにはピキッときた。
近くにいる乗務員を呼びに行く。
ゆっくりたちはそんなことお構い無しに、椅子の上でペロペロキャンディーを食べている。
後から来た人は座ることができず、立ち往生している。
ヒソヒソと影でおばさんの悪口を言うが、おばさんはそんなことお構い無しに、せんべいをばりばりと食べ始めている。
ゆっくりたちが食べている飴のカスとよだれ、おばさんが食べているせんべいのカスと唾液が、座席の上に散らかっていく。
おばさんがそれを綺麗にしようとする気配は全く無い。
すると、一人の男性がゆっくりおばさんに歩み寄っていく。フェリーの責任者のようだ。
「失礼いたします。少々お話がありますので、ここでお話させていただいても構いませんでしょうか?」
「なんなの話って!!何も聞くことなんかないわ!!!
それより、ゆっくりちゃんたちになにか飲み物を持ってきて!!
一匹づつ好みが違うから、それぞれの注文を正しく覚えなさい!!!」
「ゆ!!まりさはオレンジさんがいいんだぜ!!!」
「ありすはとかいはなこうちゃよ!!」
「れいむはあまあまさんだよ!!」
「それは叶いません。お話を聞いていただけないようでしたら、力づくでもこの船から下船していただきます。」
「なによその態度は!!こっちは客なのよ?客の要望に答えるのがそっちの仕事でしょ?」
「一部は賛同いたします。ですが、お客様がご乗船される際のご注意をお守りいただけない場合は、その限りではございません。」
「注意って何よ?口から出任せ言って、そんなものは無いんでしょ?」
「そうだよ!!このにんげんさんはうそをついてるんだぜ!!!」
「ゆうう、ゆっくりたちをおいだそうというこんたんだね!!そうはいかないよ!!!
ゆっくりはおきゃくさんなんだよ!!!おきゃくさんはだいじにしないといけないんだよ!!!」
「いえ、違います。ゆっくりはお客様ではありません。分類上、ペットとして扱われます。
それに関しては、切符売り場にてご確認していただいたはずですが・・・・
仕方がありませんね。ご乗船の際のご注意を、再度ご確認していただきましょうか。」
「そんなもの知るわけないでしょ!それに確認なんてする必要ないわ!!!」
「ゆ!ゆっくりはペットじゃないよ!!!ゆっくりはおきゃくさんなんだよ!!!」
場が騒然とする。ギャーギャー言うおばさんとゆっくりたちに対し、責任者はあくまで冷静な対応をしている。
別の乗務員はほかの乗客に対して、お騒がせして申し訳ないと謝罪しているようだ。
だが、乗務員に対して怒っている乗客は一人もいない。みんな、ゆっくりおばさんに目を向けているようだ。
「ご確認していただけないようでしたら、強制的に下船していただきます。
その上で、フェリー運行上の妨害行為として、こちらから警察の方に通報させていただきますが・・・・」
「なによ!!!!なによ・・・・わかったわよ、聞けばいいんでしょ聞けば!!!」
「ご同意していただきありがとうございます。
まず、ペットの乗船に関してですが、同伴者の手の届くところから離れてしまうような場合、
ペットをお車のほうで待機させていただくか、指定の場所にお連れしていただくことになります。」
「なによ!ゆっくりちゃんたちが、私の見えるところに座ってるんだからいいじゃない!!」
「申し上げることは他にもあります。
ペットは基本的に、そのままでは客室に入れないことになっております。
お連れになられる場合、ケージ等に入れていただければ、
お荷物として扱っていただくことができます。
そしてお座席に関することですが、ご利用になられるお席につきましては、
原則的に、お客様お一人につき一席とさせていただいております。
お座席が空いているようでしたら、そこにお荷物を置いていただくこともできますが、
他のお客様がおられる場合、お席をお譲りしていただくようお願いしております。」
「なんなのそれ!!それじゃゆっくりちゃんたちが可愛そうじゃない!!」
「ゆっくりはにもつさんじゃないよ!!!それじゃゆっくりできないよ!!!」
「そう言われますが、他のお客様はどういうお立場でしょうか?そのへんをご理解いただきたく思います。」
「ふん!なんでみんなこっちを見るの!!こんな人ら、別にどうなってもいいでしょ!!」
「そうですか、それでは。」
「まって!!なにするの!放しなさいよ!!!」
「ゆっくりはなしていってね!!ゆっくりできないよ!!!」
責任者と乗務員一同によって、ゆっくりおばさんとゆっくりたちは客室から追い出されていく。
船はまだ出港していないので、そのまま船を降りてもらう予定だ。
「分かったわよ!!!言うこと聞けばいいんでしょ!!!ったく。」
「そうですか、それではゆっくりたちを指定の場所に連れて行きますので、そのように。」
「ふん!」
「このにんげんさんはひどいよ!!ゆっくりたちをゆっくりさせてくれないよ!!!」
ゆっくりおばさん一同は、客室外の指定の場所に連れて行かれる。
そこには白い柵があり、ゆっくりたちはその中に入れられる。
「この柵の中でしたら、ゆっくりたちを放しておいてもかまいません。
ほかのお客様のご迷惑にならない範囲で、ごゆっくりおくつろぎください。」
「こんな地べたでゆっくりさせられて、かわいそうだねゆっくりちゃん。」
「ゆう、ゆっくりはかわいそうなんだよ!!!」
涙目になるゆっくりおばさんとゆっくりたち。
船長は、こうしてやっとフェリーを出航させることができる。
幸いにも、ゆっくりおばさんが一番最初に入って来て、トラブルが早期に発生していたので、
責任者が素早く対応でき、フェリーの時刻を遅延させずに済んだのである。
悪意を持ってフェリーの時刻を遅らせると、罰金を科せられる可能性もある。
ゆっくりおばさん、乗務員、乗客みんな何事も無く、無事にフェリーは出航した。
しばらくすると、数匹のゆっくりが異変に気づく。
「ゆゆ!!ここはなんだかくしゃいよ!!!ここはゆっくりできないよ!!!」
それもそのはず、そこはトイレのすぐ近くなのだ。
乗客をトイレの近くに座らせるわけにもいかないので、
トイレの近くを、ペットなどを入れておけるスペースにしているのである。
これにはゆっくりおばさんもカンカンである。
おばさんは近くの乗務員に食ってかかるが、乗務員は軽くあしらう。
責任者から、毅然とした対応を取るように言われているのだ。
その場でおばさんは憤慨していたが、しばらくすると、柵の中のゆっくりがしーしーやうんうんをもらす。
「ゆう、しーしーでたよ。」
「まりさはうんうんだぜ。」
「ゆううう、ここはくちゃいよ!!!ぜんぜんゆっくりできないよ!!!」
「なんてこと!ゆっくりちゃんたちが全然ゆっくりしてないわ!!!」
乗務員は話すら聞かないので、ゆっくりおばさんは先ほどの責任者に食ってかかり始める。
「ゆっくりちゃんがゆっくりできてないわ!!!これは動物の何か法律で問題になるんじゃないの??」
「それはありません。現在、ゆっくりの快適に関して適応される法律は施行されていません。
それよりも今回の場合は、ペットの管理責任に関しての法律が適応されます。
ペットの行った行為により被害を・・・・」
「法律だなんだは良く分からないわ!!つまりなにがいいたいの???」
「そちらのゆっくりが出した排泄物、これを取り除いていただく義務が、飼い主にはあります。
つまり今回の場合はお客様ですね。
このような柵を便宜上、設置してはおりますが、この中でのペットの管理はお客様にしていただくことになります。」
「客の面倒を見るのは乗務員の仕事でしょ!!」
「ゆっくりはペットじゃないよ!!!」
「ペットの管理に関しましては、私どもの方では関与いたしません。
この場合は乗務員とお客様という関係ではなく、船の所有者と一般人という関係になります。
もし、ゆっくりたちの排泄物を取り除いていただけない場合、
我々の側が被害を被ることになりますので、それに関しても裁判で・・・」
「わかったわよ!!やればいいんでしょやれば!!!ったく、法律がどうとか、本当に石頭なんだから!!」
「ゆう?おばさんごめんなさい。ゆっくりがしーしーしたばっかりにおこられて。」
「ゆっくりちゃんたちはなにも悪くないのよ!!わるいのは、わたしたちを足蹴にする人たちのほうなんだから。」
「ゆ!それをきいてあんしんしたよ!!おばさんはゆっくりしていってね!!」
「まあゆっくりちゃんったら。こんなに可愛いゆっくりちゃんを、みんなどうして虐めるのかしらねぇ。」
ゆっくりおばさんの取り柄が一つある。ゆっくりを溺愛し、大事にしているところだ。
このおばさんに飼われるゆっくりたちは、ゆうゆうと贅沢な日々を過ごすことができる。
そんなゆっくりたちは、このおばさんにとても感謝しているのだ。
どんなに性格の悪いゆっくりでも、このおばさんの手にかかれば、
おばさんの言うことだけは素直に聞くゆっくりになるのだ。
その代わり、おばさん以外に対してはゲスな対応をとるようになってしまうが・・・
下船する際、乗務員がしぶしぶゆっくりたちを運ぶ。
これでゆっくりおばさんともおさらばだ。
乗務員のおにいさんは、ふと肩の荷が降りたようだ。
手の上でしょうべんをされたお返しに、運んでいるゆっくりれいむの髪を数本ずつ引き抜いてやる。
ゆぎっと、手の上にいるゆっくりれいむは反応するが、何が起きたのか分かっていない様子だ。
運び終わるまでに、100本くらいの髪を引き抜いてやった。
足元に降ろす頃には、髪を抜かれたゆっくりれいむは涙目になっている。
だが外見に変わりはないので、いくら自分が痛い思いをしたと訴えても、誰にも相手にされないだろう。
ゆっくりおばさんの一件もあったことだし。
おばさんの車の前に置かれたゆっくりたちに、下船する乗客の足があたっていく。
「おっと。おい、あんまりフラフラするなよ!!」
「ゆ!!!にんげんさんはちゃんとあやまってね!!ゆっくりはいたかったんだよ!!!ゆぎっ!!」
別の人の足がゆっくりにあたる。
ゆっくりおばさんは何か言いたそうだが、
乗客みんなのシラっとした目に圧倒され、黙らざるを得なかった。
もしここで叫びでもしたら、周りの乗客に殺されかねない。
被害妄想の強いゆっくりおばさんはそう思ったようだ。
下船したゆっくりおばさんは、そのまま港の中に車を止める。
そして、ゆっくり全員をつれて再びフェリーに近づいていく。
すると、桟橋につけていたフェリーに対して、ゆっくりたちみんなが体当たりを始める。
ゆっくりおばさんも、フェリーの船体に張り手を食らわせている。
「私は怒ったよ!!!もう二度とこんな船に乗らないからね!!!」
「ゆっくりもおこったよ!!!ゆっくりできないふねさんは、とっととしずんでね!!!」
「こんないなかもののふねさんにはのりたくないわ!!!」
「まりさのスパークをおみまいしてやるんだぜ!!!」
目的地の島にたどりついてしまった以上、帰るにもこのフェリーを使わなければならない。
前言を撤回してこのフェリーに乗らなければ、ゆっくりおばさんたちは家に帰ることができないのだ。
しかし、そんなことには気がつかず、フェリーの船体に傷を負わせようとしている。
一匹のゆっくりは、フェリーの船体にうんうんをなすりつけている。
ほかのゆっくりたちも、しーしーやうんうんをそこらじゅうに散らかしている。
ゆっくりたちは少し場所を変え、再び船体に体当たりを始める。
それを発見した作業員が「危ないから離れてください!!落ちますよ!!」と言うが、全く聞く耳を持たない。
ゆっくりたちが何度目かの体当たりをしたその時、わずかにフェリーが動いた。
フェリーに体当たりを繰り返していた10匹のゆっくり全員が、
空中でフェリーの船体にぶつかり、フェリーと桟橋の隙間に落ちていった。
ボチャンという音が10個重なって聞こえた後、おばさんの悲鳴が聞こえてくる。
海に落ちたゆっくりたち全員が、再び桟橋に寄ってきた船体に潰され、ゆぎゃぁああああと断末魔をあげて死んでいった。
ゆっくりおばさんは海に落ちなかったので無事だったようだ。
悲しみと怒りで、ゆっくりおばさんはおかしくなったようだ。
作業員のほうに向かって、鬼の形相で走っていく。
手には、バックから取り出したゆっくり用の散髪はさみを持っているようだ。
作業員があたふたとしていると、
船から責任者がパッと飛び降りてきた。
ゆっくりおばさんの持っているはさみを蹴り落とし、おばさんの腕を捕まえて確保する。
「これ以上何かするようなら、傷害未遂で訴えますがよろしいですか?」
ニコっと笑う責任者、だがその目は笑っていない。
「分かったわ、訴えるのだけは辞めて!でもこっちの言い分も聞きなさいよ!!」
「どうしました?」
「どうしたも、ゆっくりちゃんたちが海に落ちてフェリーに潰されちゃたのよ!!どうしてくれるのよ!!」
「私が見ていた限り、ゆっくりたちはフェリーに体当たりをしていて、あなたは船体を叩いていましたよね?
そのような行為をしている最中、ゆっくりたちは誤って海に転落してしまった・・・
その後フェリーに潰されたんだから、責任はこちらにあるのではないかと、そう言いたいんですね?」
「そうよ!あんたたちの責任よ!!どうしてくれるのよ!!!」
「残念ながら、我々は責任を負う必要がありません。
我々に過失が無かったか、つまり我々が事故を未然に防ぐ行動をとっていたかどうかが今回の問題になりますが、
あなた方が行われている行為を見て、作業員もちゃんと注意したそうじゃないですか。
船に体当たりするという行為も、誰から見ても明らかに危険な行動ですし、
飼い主であるあなた本人が、ゆっくりたちの行いを止めなかったことが問題になってきます。
今回の場合、ゆっくりたちが転落死したことは完全にあなたの過失であると言えます。
別に訴えを出してもいいですが、不起訴になる可能性が高いですし、
そのような対応を取った場合、我々は、あなた方が船体に危害を加え、
航行を妨害しようとしていた行為に対して、訴えを提出するつもりです。」
「なんですって!!!客になんてことを!!!!」
「あなたは今、お客様ではありません。すでに下船されているんですから。
それに、なんでもかんでも『客』という虎の威を借りて・・・・
まぁそれ以上は言いません。
今、あなたはフェリーに危害を加えようとする者、私はそれを注意する者です。
どちらが正しいことをしているか、分かりますね?」
この人間には力でも口でも勝てない、ゆっくりおばさんはそう考えたようだ。
これ以上しゃべると殺されると思い、
その場にヘナヘナと倒れこみ、ごめんなさい、ごめんなさいと繰り返す。
「分かっていただけましたか。では一つアドバイスを。
もし、ゆっくりたちがフェリーに危害を加えていたという証拠が残っていれば、これは裁判沙汰になります。
さらに、潰れたゆっくりたちがフェリーのスクリューにでも絡まり、
フェリーが動かなくなってしまった場合、その責任はあなたにあると考えられます。
その場合はあなたに罰金が科せられ、我々も多額の賠償金を請求することになりますが・・・・」
「そんな・・・・・」
「ですがこうすれば、万事がうまくいきます。
『あなたは最初からゆっくりなんて飼っていなかった』と。
そうすれば、あなたが責任を負うことはありませんし、
我々としても話がスムーズにいきます。
ゆっくりたちが死んでしまったことについては、私も心を痛めております。
ですがこれ以上、精神的にも物理的にもあなたを苦しめたくはないのです。
さて、ここまでの話を理解していただけましたか?」
「分かったわ。私はゆっくりなんて飼っていなかった・・・」
この一言で、ゆっくりたちの存在が無かったことになる。
「そうですか。では、私はこれで。」
助走をつけてフェリーに飛び込む責任者。
その姿を見てゆっくりおばさんは、この人は人間じゃなくて鬼だ、と思った。
責任者に対して、手を合わせてお経を唱え始めるゆっくりおばさん。
皮肉にもそのお経は、死んだゆっくりたちを成仏させるお経となったようだ。
この一件でゆっくりおばさんは、ゆっくりをもう二度と飼うまい、と心に決めたようだ。
ちなみにこの責任者、緊急時にはフェリーを操縦しても良い、という許可が与えられているそうだ
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Qこの責任者、何者?
A乗務員のおにいさんが尊敬する上司です。
理路整然としない発言をするゆっくりが大嫌いなようです。
それにしてもこの責任者、まるで・・・いやなんでもないですw
※法律に関しては素人なので、おかしな点があるようでしたら、ご指摘していただけると幸いです。
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最終更新:2010年10月13日 11:33